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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年3月3日日曜日

新着論文(Ngeo#March 2013)

Nature Geosciences
March 2013, Volume 6 No 3 pp153-240

Editorial
Up and down
上がったり下がったり
大気上層は公の関心をあまり集めないが、人間による影響がはるか上空で起きており、それが地球表層にも影響を与えていることが徐々に明らかになりつつある。例えば対流圏から成層圏へ注入される種々の化学物質は温暖化とともに増加することが示され、成層圏の循環はAMOCにも影響し、オゾンホールは南大洋の風や海洋循環にも影響を与えている。さらに熱圏でも温暖化のシグナルが検出されるようになってきた。これまでオゾンホールと温暖化とは別物として説明されてきたが、実際には複雑に相互作用している。

Correspondence
Biodiversity from mountain building
山脈形成が原因の生物多様性
Carina Hoorn, Volker Mosbrugger, Andreas Mulch & Alexandre Antonelli
これまで長期間安定した環境が高い生物多様性を育むと考えられてきたが、地質学的に劇的に変化してきた地域ほど多様性が高いことが分かってきた。プレートテクトニクスや火山による山脈形成が地理や気候に影響し、その土地の生態系や生物進化に大きく影響していることを主張する。

Commentary
Abandoned frontier
放置されたフロンティア
過去50年間にわたって、NASAは太陽系の探査を推進してきた。研究資金の低下とロボットを用いた探査は惑星探査を打ち切り、若手科学者を立ち往生させるかもしれない。

In the press
Black cloud with a silver lining
銀メダリストのブラック・カーボン
Nicola Jones
従来考えられていたよりもブラック・カーボン(スス)の温暖化に対する寄与が大きいことが最近になって示され(IPCC AR4の推定値の2倍)、迅速な対策に拍車がかかっている。大気中にCO2は数100年、メタンは数十年留まるが、ブラック・カーボンはせいぜい数日から数週間ほどである。そのため温暖化対策(及び呼吸器疾患対策)としてブラック・カーボンの削減は迅速に対応ができる。ただし中には同時に地球を寒冷化させる効果をもつエアロゾルを同時に放出している排出源もあるため、対策は慎重に行う必要があると警告されている。

Research Highlights
Conduit complications
水路の複雑さ
Geology http://doi.org/khj(2013)
ロシアの間欠泉の噴出のメカニズムについて。

Miocene carbon
中新世の炭素
Paleoceanography http://dx.doi.org/10.1002/ palo.20015 (2013)
1,400万年前のMioceneの地球の寒冷かはpCO2の低下と炭素埋没量の増加が主な原因であったことが堆積物コアの地球化学分析より明らかになった。
>問題の論文
CO2 drawdown following the middle Miocene expansion of the Antarctic Ice Sheet
Marcus P.S. Badger, Caroline H. Lear, Richard D. Pancost, Gavin L. Foster, Trevor R. Bailey, Melanie J. Leng & Hemmo A. Abels
1,400万年前のMioceneの中頃には東南極に氷床が発達し始め、温室状態から寒冷状態へのシフトが起きたことが知られている。特にCM6と名付けられた炭素同位体の正のシフトはpCO2の変動などと関連があることが示唆されている。CM6をまたぐ期間の大気中pCO2をδ11Bとアルケノンのδ13Cから復元したところ、現在よりかなり暖かかったにも関わらず、pCO2は~300ppm程度であったことが示唆される。’炭素埋没フィードバック仮説’と整合的な結果が得られた。

Earth bombarded
爆撃された地球
Earth Planet. Sci. Lett. 364, 1–11 (2013)
39億年前の後期重爆撃期(LHB)の隕石孔は月には残っているが、地球にはほとんど残っていない。西オーストラリアの40-36億年前の岩石中のジルコンの分析から、およそ39億年前の岩石は非常に高温に曝されていたことが分かった。LHBは地球の地殻を広く加熱したと考えられる。

Northern warming
北の温暖化
J. Climate http://doi.org /khk (2013)
過去数十年間にわたって、北半球は南半球よりも早く温暖化している。モデル研究から、それは温室効果ガス濃度が両半球で異なることが原因であることが示された。1970年代までは両半球の気温の差はそれほど顕著には見られなかった(エアロゾルが原因と考えられている)が、1980年以降差が強化されている。気温差は今世紀を通して強化されると考えられ、ハドレー循環は北半球で弱化、南半球で強化されると考えられる。また熱帯域の降水帯も北にシフトする可能性が指摘されている。
>問題の論文
Interhemispheric temperature asymmetry over the 20th century and in future projections
Friedman, A., Y. Hwang, J. Chiang, and D. Frierson
温暖化によると考えられる南北半球の近年の気温のコントラストを観測データとCMIP3と5のモデル結果から評価。1980年以降コントラストは強化されており(~0.8℃)、21世紀を通してさらに強化されることが示された。原因としては温室効果ガスが排出される場所が北半球に偏っていること、北極増幅や北半球の陸域が広大であることが考えられる。またハドレー循環も南北で強さが異なる。

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Research
News and Views
Traces of ancient lunar water
古代の月の水の痕跡
Erik H. Hauri
月の高地から採取された古代の火山岩は月が形成史の初期段階で既に水を持っていたことを示唆しており、ジャイアント・インパクト仮説に更なる課題を投げかけている。

Coastal oceanic nitrogen loss
海洋沿岸部の窒素の消失
Bo Thamdrup
低緯度の海の東岸部には酸素極小層が発達している。南太平洋の東岸は嫌気性アンモニア酸化により窒素が消失するホットスポットとなっている。

Antarctica's lost landscape
南極の失われた景観
Darrel A. Swift
東南極氷床の下にある世界最大の秘境の進化史についてはよく分かっていない。沿岸部の堆積物から、古代の地形を残しつつも早く流れる氷河が谷を深く削っていることが示された。

Tropical carbon constraint
熱帯の炭素の制約
Anna Armstrong
温暖化やその他の要因とともに将来熱帯雨林の炭素がどのように振る舞うか。

Plankton in a greenhouse world
温室状態の世界のプランクトン
Gerald Langer
PETM(~56Ma)には温暖化と海洋酸性化が同時に起きたと考えられている。環境変化に対して同じ円石藻でも異なる種は異なる応答を示していたことが実験と化石から明らかに。

Calling card of a ghost continent
幽霊大陸の名刺
Conall Mac Niocaill
大陸が分裂するところに新たな海ができる。火山島(モーリシャス)の上に載った古代の大陸の鉱物(ジルコン)の発見から、インド洋の海洋底の下には古代に失われた大陸の欠片が眠っていることが示唆されている。

Replenishing the abyss
深層を再び満たす
Michael P. Meredith
AABWは南極大陸に沿って沈み込み、世界の深層水の大部分を形成している。係留観測と海生ほ乳類のロギングを用いた分析から、Amery棚氷の西のDarnley岬で予想外の深層水形成が起きていることが示唆される。

Review
Physical processes in the tropical tropopause layer and their roles in a changing climate
熱帯の対流圏界面の物理プロセスと変わりつつある気候におけるそれらの役割
William J. Randel & Eric J. Jensen
熱帯の気候と成層圏の大気組成は対流圏界面によって影響を受けている。また対流圏界面における(オゾン・水蒸気などの種々の物質)輸送・混合はアジアモンスーンや他の熱帯循環システムとも関連しており、気候変動(対流や雲の変化など)によっても影響が生じることが示されている。

Letters
Water in lunar anorthosites and evidence for a wet early Moon
月のアノーサイト中の水と湿った初期の月の証拠
Hejiu Hui, Anne H. Peslier, Youxue Zhang & Clive R. Neal
月の表面で検出された水は隕石衝突や太陽風によってもたらされたものだと考えられてきた。アポロ計画の際に採取された月のアノーサイトの赤外分析から、水の大部分はもともと月に存在していたものであることが示唆されている。
>Scienceによる紹介記事
The Moon’s Indigenous Water
月に固有の水
従来月は乾燥していると考えられてきたが、アポロ計画の際に採取された月の石の分析や、最近の衛星観測などから、月に水が存在することが明らかになりつつある。一部は太陽風や隕石によってもたらされたものであるが、一部はもともと月にあったものであるらしい。月の石の赤外線分析から、月が形成された頃に固化した地殻に既に水が含まれていたことが分かった。

Strong increase in convective precipitation in response to higher temperatures
高温に応答する対流性の降水の急増
Peter Berg, Christopher Moseley & Jan O. Haerter
ドイツにおける雲と降水の観測から、前線型の降水はクラウジウス・クラペイロンの理論に基づいた降水をしているが、一方対流型の降水の量は理論を超えた速度で増加していることが分かった。従って、温暖化によって後者のタイプの降水がより敏感に応答すると考えられ、異常な降水において支配的になると考えられる。
>Natureによる紹介記事
Harder rains in a hotter climate
より暖かい気候におけるより激しい雨
温暖化が進むことで激しい雨が増えることが予想されているが、どのような種類の雨が降りやすくなるかについてはよく分かっていない。ドイツにおける数ヶ月間の雨と雲の観測記録から、これまでの予想通り、暖かくなればなるほど雨が強くなることが示された。しかし「大気が保有できると考えられる水の量の増加の早さ」以上に「急に降る雨の量が早く増加している」ことも示された。従って温暖化した世界では気まぐれな降水のパターンが支配的になるかもしれない

Ecosystem photosynthesis inferred from measurements of carbonyl sulphide flux
硫化カルボニルフラックスの測定から推測される生態系の光合成
David Asaf, Eyal Rotenberg, Fyodor Tatarinov, Uri Dicken, Stephen A. Montzka & Dan Yakir
 陸上では植物は光合成によって炭素を吸収し、呼吸によって放出するため、炭素が放出・吸収されているのかを見積もることは難しい。
 植物は光合成の際に硫化カルボニルを取り込むため、CO2の取り込み量の間接指標になり得る。イスラエルにおける硫化カルボニルとCO2のフラックスの野外直接観測から、硫化カルボニルが生態系の光合成量の間接的な指標となることが示された。2つの方法による誤差は±15%ほどで、陸上植物の総一次生産量などを見積もる際に有効である。

Predator-induced reduction of freshwater carbon dioxide emissions
捕食者によって引き起こされる淡水からの炭素放出の減少
Trisha B. Atwood, Edd Hammill, Hamish S. Greig, Pavel Kratina, Jonathan B. Shurin, Diane S. Srivastava & John S. Richardson
 捕食者は有機物分解や一次生産などへの影響を通して生態系内・大気とのCO2交換に影響すると考えられる。
 カナダとコスタリカの淡水生態系で魚や無脊椎動物のような上位捕食者の数を操作する実験を行ったところ、捕食者がいるほど淡水からのCO2放出量が減少することが示された(さらに餌となるバイオマスが減少し、藻類・岩屑性のバイオマスが増加)。

Evolution of the subglacial drainage system beneath the Greenland Ice Sheet revealed by tracers
トレーサーによって明らかになったグリーンランド氷床の下の氷底河川の進化
D. M. Chandler, J. L. Wadham, G. P. Lis, T. Cowton, A. Sole, I. Bartholomew, J. Telling, P. Nienow, E. B. Bagshaw, D. Mair, S. Vinen & A. Hubbard
夏に早く流れるグリーンランド氷床の氷河は、氷の下を流れる融水が夏に増加することが原因と考えられてきた。そうした融水を地球化学的なトレーサー(ローダミンとSF6)を添加して追跡したところ、夏の訪れとともに効果的な河川流出システムが出来上がることが示された。結果はこれまでの解釈と整合的であり、氷床表面の流速・流量観測をすることで氷の下のプロセスを評価できることが示された。

Glacial discharge along the west Antarctic Peninsula during the Holocene
完新世における南極半島の西に沿った氷河流出
Jennifer Pike, George E. A. Swann, Melanie J. Leng & Andrea M. Snelling
南極半島の西(Palmer Deep)から採取された堆積物コア中の珪藻のδ18O分析から、完新世における氷河流出量を復元。さらに珪藻の種組成を組み合わせることで、大気と海洋の影響を分離して考察。海の影響(湧昇や風成循環)よりはENSOと夏の日射量の影響が強かったと考えられる。
>関連する論文
Seasonally resolved diatom δ18O records from the West Antarctica Peninsula over the last deglaciation
George E.A. Swann, Jennifer Pike, Andrea M. Snelling, Melanie J. Leng, Maria C. Williams
EPSL 364, 12 -23 (2013)
南極半島の近くから得られた堆積物コア中の個々の珪藻δ18Oから季節ごと(特に夏と春)の環境復元。最終退氷期に季節差が大きくなる時期があることが分かり、氷河からの融水の流出増大と関連?

The contribution of glacial erosion to shaping the hidden landscape of East Antarctica
東南極氷床の隠された景観を形作る氷河浸食の寄与
Stuart N. Thomson, Peter W. Reiners, Sidney R. Hemming & George E. Gehrels
東南極氷床の地下構造は空からの観測によって調査されているものの、その浸食史は空からは分からない。沿岸部の堆積物コアの年代決定から、ペルム紀以降、115Maの温暖化の短期間を除き、一般に浸食量が小さかったことが示された。~34Ma頃に始まる新生代の氷河化とともに特定の氷河で地域的な浸食が強化され、初期の氷床がダイナミックに変動していた可能性が示唆される。

Estimated strength of the Atlantic overturning circulation during the last deglaciation
最終退氷期の推定される大西洋子午面循環の強度
Stefan P. Ritz, Thomas F. Stocker, Joan O. Grimalt, Laurie Menviel & Axel Timmermann
モデルシミュレーションを用いて最終退氷期のHS1とYDにおけるAMOCの弱化を再現。HS1に14Sv、YDに12Svの弱化が再現され、231Pa/230Thによる間接指標と非常に整合的な結果が得られた。さらにLGMとHoloceneのAMOCの強度にはほとんど違いがなかったことが示唆される。

Links between tropical rainfall and North Atlantic climate during the last glacial period
最終氷期における熱帯の雨と北大西洋の気候とのリンク
Gaudenz Deplazes, Andreas Lückge, Larry C. Peterson, Axel Timmermann, Yvonne Hamann, Konrad A. Hughen, Ursula Röhl, Carlo Laj, Mark A. Cane, Daniel M. Sigman & Gerald H. Haug
 氷期にはダンシュガード・オシュガーサイクルおよびハインリッヒ・イベントという急激な気候変動が繰り返されたことが知られているが、その原因は未だに分かっていない。北大西洋の気候変動は遠く熱帯地域の大気循環(ITCZやモンスーン)にも影響を与えていたことが知られている。
 アラビア海とカリアコ海盆から得られた保存状態の極めていい堆積物コアの色(L*)を用いて、北大西洋と熱帯域の応答を詳細に評価したところ、ハインリッヒ・イベント時や亜氷期(stadial)時にはITCZが大きく南下し、アジアモンスーンも弱まっていたことが示された。熱帯の記録はグリーンランドの記録よりもより多くの細かな変動をとらえており、北半球全体の気温の変化に対して敏感に応答していたと考えられる。

Species-specific growth response of coccolithophores to Palaeocene–Eocene environmental change
始新世-暁新世の環境変化に対する円石藻の種ごとの成長応答
Samantha J. Gibbs, Alex J. Poulton, Paul R. Bown, Chris J. Daniels, Jason Hopkins, Jeremy R. Young, Heather L. Jones, Geoff J. Thiemann, Sarah A. O’Dea & Cherry Newsam
PETM(~56Ma)には大気中のCO2濃度が急増したことにより温暖化と海洋酸性化が起きたことが知られており、現在の気候変動の最も良いアナログになることが期待されている。PETMにおける円石藻(海洋一次生産の大部分を担う重要な植物プランクトン)の応答を海洋堆積物中の化石記録から評価した。環境の変化に対して種ごとに異なる応答を示した。現在の海ではE. huxleyiが支配的であるが、環境変化に対する応答の仕方がPETM後の進化を成功に導いたことを物語っている。

A Precambrian microcontinent in the Indian Ocean
プレカンブリアンのインド洋の小大陸
Trond H. Torsvik, Hans Amundsen, Ebbe H. Hartz, Fernando Corfu, Nick Kusznir, Carmen Gaina, Pavel V. Doubrovine, Bernhard Steinberger, Lewis D. Ashwal & Bjørn Jamtveit
インド洋の海洋底の隆起した厚い海嶺はマントルプリュームの上に載った海山だと考えられていた。しかしモーリシャスのラバのジルコンの年代決定から、海山の下に古代の小大陸が埋もれており、それが厚い地殻の原因になっている可能性が指摘されている。

Articles
Nitrogen cycling driven by organic matter export in the South Pacific oxygen minimum zone
南太平洋の酸素極小層における有機物輸送によって引き起こされる窒素循環
Tim Kalvelage, Gaute Lavik, Phyllis Lam, Sergio Contreras, Lionel Arteaga, Carolin R. Löscher, Andreas Oschlies, Aurélien Paulmier, Lothar Stramma & Marcel M. M. Kuypers
 海洋の窒素は酸素極小層(OMZ)における脱窒とアンモニア酸化で多く失われると考えられている(20-40%)。アンモニア酸化による窒素消失をコントロールする要因についてはよく分かっていない。
 東部熱帯南太平洋(ペルー沖)は世界でも有数のOMZが発達している地域であるが、同地における観測と数値実験から、沿岸部の生産性の高い地域で最もアンモニア酸化が起きており、有機物輸送量ともよく相関していることが分かった。表層からの有機物沈降と堆積物からの放出によってOMZにアンモニアが供給されていると考えられる。

Antarctic Bottom Water production by intense sea-ice formation in the Cape Darnley polynya
Darnley岬の氷湖における集中した海氷形成による南極底層水形成
Kay I. Ohshima, Yasushi Fukamachi, Guy D. Williams, Sohey Nihashi, Fabien Roquet, Yujiro Kitade, Takeshi Tamura, Daisuke Hirano, Laura Herraiz-Borreguero, Iain Field, Mark Hindell, Shigeru Aoki & Masaaki Wakatsuchi
南極底層水(AABW)は南大洋で形成されると考えられている深層水で、世界中の深層の大部分を覆っている。ゾウアザラシのロギングデータと係留観測から、海氷形成によってDarnley岬の氷湖(ポリニヤ)でもAABWの形成が起きていることが示唆される。