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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年3月28日木曜日

新着論文(Nature#7442)

Nature
Volume 495 Number 7442 pp409-544 (28 March 2013)

EDITORIALS
Push the boat out
船を漕ぎ出す
アメリカでは研究機関が船を使って研究をできる期間は非常に限られており、予算削減の関係で縮小しつつある。そうした事情のもと、建造された非営利団体Schmidt Ocean Instituteの研究船Falkorは無料で(!)研究船を研究者に貸し出している(Googleの元社長Eric Schmidtが資金援助している。ただし乗船時や下船後の研究などの補助はなし)。ただしあくまでGoogleの船であるため、研究者の自由にならない部分も多く、研究計画の認可にもバイアスがかかる可能性があるなど、懸念も多い。
また、映画監督のJams Cameronも自ら開発した有人潜水艇DEEPSEA CHALLENGERをウッズホール海洋研究所に寄付することを今週宣言したらしい(!)。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Trilobite fossil spotted
斑点のある三葉虫の化石
Geology http://dx.doi. org/10.1130/G34158.1 (2013)
ニューヨーク州で発見された390Maの三葉虫(Eldredgeops rana)の化石には、外骨格の表面に規則正しく並ぶ数多くの斑点が確認されている。斑点の化学組成は外骨格のそれと同じであることから、埋没後にできたものではないと考えられている。無脊椎動物にカムフラージュするためのものではないかと考えられている。

Primates hunting leaves forest scar
霊長類ハンティングが森に傷を残す
Proc. R. Soc. B 280, 20130246 (2013)
ナイジェリアにおける野外調査から、霊長類の狩りが行われている森とそうでない森とを比較した場合、後者の方が3倍ほど霊長類の種数が多く、さらに3倍ほど実のなる木が出芽しやすいことが分かった。多くの霊長類がいたほうが種が拡散されやすいことが原因と考えられる。逆に霊長類がいないと死にゆく木は子孫を残しにくくななり、さらに霊長類が餌を探しにくくなるという悪循環に陥るのかもしれない。。

Long DNA-like chains assemble
長いDNA状の鎖状の集合体
J. Am. Chem. Soc. 135, 2447−2450 (2013)
2つのヌクレオ塩基から成る化学物質から自発的に長鎖構造ができることが実験によって確認された。水素結合やモノマーの連続など、DNAやRNAに見られる構造に類似しており、生命が生まれた際の自発的化学進化に対して新たな知見が得られた。

Migrating planets sped up collisions
移動する惑星が衝突を加速する
Nature Geosci. http://dx.doi. org/10.1038/ngeo1769 (2013)
木星や土星などの巨大ガス惑星の軌道は41億年前に現在の位置に移動したと考えられている。「この時に生じた大きな重力変化が太陽系の小惑星の軌道を大きく変え、その結果衝突が盛んになり、惑星の化学組成にも変化が生じた」という仮説がSimone Marchiにより提唱された。この仮説は何故Vestaが41-34億年前に頻繁に衝突を経験したかを説明するという。さらにモデルシミュレーションから、こうした状況は従来考えられていたよりもはるかに隕石を加速させ、衝突が頻繁な期間も数億年継続した可能性を示唆している。

SEVEN DAYS
Apollo engines rise from the deep
アポロのエンジンが深海から引き上げられる
アポロを月へと届けたSaturn Vロケットのエンジンの一部がJeff Bezos率いるチームによって大西洋から引き上げられた。Jeff Bezosはアマゾンの創始者である。

Solar bankruptcy
太陽の倒産
世界最大の太陽光発電パネルの生産を手がける中国の会社の子会社(Suntech Power Holdings)が倒産した。

JAPAN’S FOSSIL-FUEL RELIANCE
日本の化石燃料依存
原子力発電所の停止を受けて、2012年の日本の化石燃料に対する依存度は21%増加し、全体の発電量の90%を占めていた。3.11以降稼働している原発は2基のみで、日本は海外から液体天然ガスを輸入して、ほぼ火力発電だけで(水力発電が5%ほど)国内の電力需要を賄っている。

NEWS IN FOCUS
Planck snaps infant Universe
Planckが初期宇宙を捉える
Mark Peplow

Private research ship makes waves
私的な研究船が波を作り出す
Alexandra Witze
Googleの資金を用いた海洋研究の新たな構想を研究船Falkorが練っている。

FEATURES
The future of publishing: A new page
出版の未来:新たなページ
先日アメリカ政府が「公的資金がもとになってなされた研究の論文は1年以内に無料で公開しなければならない」と宣言し、さらに4/1からはイギリスでも同様に政府の資金援助を受けた論文のオープン・アクセスが開始する。Natureでは特集号を組み、オープン・アクセスの利点・欠点や出版資金・特許に関する問題など、専門家に意見を伺いながら問題を掘り下げる。

以下は引用
Science itself is changing rapidly; the means by which it is shared must keep up.

Open access: The true cost of science publishing
オープン・アクセス:科学的な出版の新のコスト
Richard Van Noorden
安いオープン・アクセスの科学雑誌が出版社が与える付加価値に関する疑問を浮上させている。

Publishing frontiers: The library reboot
出版の最前線:図書館の再起動
Richard Monastersky
科学論文の出版がオープン化されるという動きに、司書や研究者も追いつこうとしている。

Investigating journals: The dark side of publishing
雑誌を調査する:出版のダークサイド
Declan Butler
オープン・アクセス型の雑誌の急増が怪しい出版元をさらに増やしている。

COMMENT
How to hasten open access
どうやってオープン・アクセス化を急ぐか
オープン・アクセス化に賛同する3人(Alma Swan、Matthew Cockerill、Douglas Sipp@RIKEN)に、今後の流れを押し進める方法、見つけやすさの問題、翻訳の必要性(非英語圏の日本人にとっての英語で書かれた科学雑誌のオープン化とは、など)などについて意見を述べてもらう。

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RESEARCH
BRIEF COMMUNICATIONS ARISING
Is the ocean food provision index biased?
海洋食料供給指数はバイアスがかかっている?
Trevor A. Branch, Daniel J. Hively & Ray Hilborn

Halpern et al. reply
Branchほかの意見に対するHalpernほかによる返答
Benjamin S. Halpern, Steven D. Gaines, Kristin Kleisner, Catherine Longo, Daniel Pauly, Andrew A. Rosenberg, Jameal F. Samhouri & Dirk Zeller

NEWS & VIEWS
How the ocean exhales
どのようにして海は息を吐くのか
Elisabeth Sikes

Tubular worms from the Burgess Shale
バージェス頁岩から発見されたチューブワーム
Henry Gee

LETTERS
Carbon monoxide in clouds at low metallicity in the dwarf irregular galaxy WLM
小型の不規則銀河WLMの低金属量ガス雲における一酸化炭素
Bruce G. Elmegreen, Monica Rubio, Deidre A. Hunter, Celia Verdugo, Elias Brinks & Andreas Schruba

Deglacial pulses of deep-ocean silicate into the subtropical North Atlantic Ocean
最終退氷期北大西洋亜熱帯域への深層からのケイ素のパルス状の注入
A. N. Meckler, D. M. Sigman, K. A. Gibson, R. François, A. Martínez-García, S. L. Jaccard, U. Röhl, L. C. Peterson, R. Tiedemann & G. H. Haug
 氷期の大気中CO2濃度の低下は南大洋で深層水に隔離された溶存炭素の蓄積によって起きたという仮説の証拠がどんどん増えている。最終退氷期の初期にはAMOCが弱化し、それがCO2放出の原因と考えられているが、それがどのように南大洋とテレコネクションしたのかについてはよく分かっていない。
 アフリカ北西部から得られた堆積物コア中の生物源オパールの分析から、そのフラックスが過去550kaの6度のターミネーションのときに極大となることが分かった。氷期のNAIW(氷期には現在のNADWがより浅く沈み込んでいたと考えられているので、深層水;Deep Waterではなく、中層水;Intermediate Waterになっていたと考えられている)の弱化時期に相当し、ケイ酸に富んだ深層水との混合がより活発になっていたことを物語っている。しかしターミネーション時には南大洋における低ケイ酸濃度で特徴付けられるSAMW/AAIWの形成も強まっていた可能性が指摘されているが、大西洋の温度躍層水に希釈の効果は見られていないため、CO2放出には何か別のメカニズムが存在するのかもしれない。GNAIWの低下が深層混合を活発化させたとすると、低密度の表層水が深層にもたらされたことになり、AMOCをより不安定化させ、それがCO2を大気に放出した?
※コメント
この新たな仮説についてはにわかには信じがたいですが、詳細に読んでみたいと思います。ちなみに先日Scienceにも同じ研究グループから似たテーマを扱う論文が公表されています。
>問題の論文
Two Modes of Change in Southern Ocean Productivity Over the Past Million Years
過去数百万年間の南大洋の生物生産性の変化の2つのモード
S. L. Jaccard, C. T. Hayes, A. Martínez-García, D. A. Hodell, R. F. Anderson, D. M. Sigman, and G. H. Haug
氷期には南大洋のAntarctic Zoneの有機物輸送量は低下しており、大気中のCO2濃度の低下期に一致していた。逆にSubantarctic Zoneの粒子状有機物量は氷期へと向かう際に増加しており、ダストフラックスが増加する時期と一致しており、鉄肥沃が起きていた可能性が示唆される。南大洋の高時間解像度の堆積物コアを新たにまとめたところ、南大洋におけるこれら2つのモードが大気中のCO2濃度の変動を決定していたことが示唆される。

Electrical image of passive mantle upwelling beneath the northern East Pacific Rise
東太平洋海膨北部の地下の受動的なマントル上昇の電気的画像
Kerry Key, Steven Constable, Lijun Liu & Anne Pommier
東太平洋海台北部の海底におけるマグネトテルリック探査から、深さ20-90kmに対称形の高い電気伝導度を持った三角構造が見つかった。受動的な流れの予測と一致し、海嶺へのメルトの集中が、リソスフェアの底ではなく空隙のある融解した領域で起きていることを示唆している。

Tubicolous enteropneusts from the Cambrian period
カンブリア紀に見つかったチューブ状の腸鰓類
Jean-Bernard Caron, Simon Conway Morris & Christopher B. Cameron
カンブリア紀のバージェス頁岩から発見された腸鰓類のSpartobranchus tenuisの詳細な調査から、現在チューブの中に生息する翼鰓類との類似点が確認された。

Preservation of ovarian follicles reveals early evolution of avian reproductive behaviour
卵包の保存から明らかになる鳥類の生殖行動の初期進化
Xiaoting Zheng, Jingmai O’Connor, Fritz Huchzermeyer, Xiaoli Wang, Yan Wang, Min Wang & Zhonghe Zhou
中国から発掘された初期の鳥の化石から、機能していた卵巣は一つだけであったことが示された。現生鳥類と比べて代謝速度が低かったために原始的形態を保持していたことを示している。