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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年5月31日金曜日

新着論文(Science#6136)

Science
VOL 340, ISSUE 6136, PAGES 1005-1132 (31 MAY 2013)

Editors' Choice
A New River in the Sky
空に新たな川
Astrophys. J. 769, L23 (2013).
我々の銀河の端には星の川があるが、天の川とは別に、Alpheusと名付けられた6,200光年離れた川が見つかった。

Mysterious Rise
謎めいた上昇
Paleoceanography 10.1002/palo.20026 (2013).
最終氷期から完新世にかけて大気中のCO2濃度は180ppmから280ppmへと増加した。アイスコアや海洋堆積物の記録から広く言われているのは、南大洋の深層に古く、CO2に富んだ水があり、それが最終退氷期に大気と気体交換したことがCO2濃度上昇の原因と考えられている。ブラジル沖で採取された堆積物コアから、CO2濃度が30ppm上昇した17-16kaにかけて、底層水のDICのδ13Cが急激に減少していることが示された。単純な2つの深層水(NADW v.s. AABW)の混合では説明できず、13Cに枯渇した深層水の混合などが可能性として考えられる。
>問題の論文
Isotopically depleted carbon in the mid-depth South Atlantic during the last deglaciation
A. C. Tessin, D. C. Lund
ブラジル沖で採取された堆積物コア中の底性有孔虫殻のδ13Cから、最終退氷期における炭素循環を考察。HS1に大気のδ13Cよりも大きな低下が見られた。大西洋南北の水塊混合だけでは説明できず、南東部から深層水が急速にもたらされた可能性がある。HS1には大西洋の中層水のδ13Cはほぼ均質だが、一方でδ18Oは違いが見られ、一つの水塊では覆われていなかったと推測される。むしろδ13Cは保存量としては振る舞っておらず、別の13Cに枯渇した水塊が混入した可能性を示している。
※自分の研究とも深く関連しているのですが、氷期-間氷期スケールの炭素循環研究にとって非常に重要な記録です。

News of the Week
Earliest Birdie?
最も初期の鳥さん?
鳥が恐竜から進化したことは多くの同意を得ているが、その進化的な変遷プロセスについてはよく分かっていない。というのも、鳥となったのは羽の生えた恐竜で、そのどちらが飛べたのかが不明瞭だからである。中国のLiaoningで発掘された170Maの保存状態の良い化石(Aurornis xuiと名付けられた)は、最も初期の鳥のものである可能性がある。もしそれが本当なら、有名な始祖鳥(Archaeopteryx)を巡る最近の議論に終止符を打つことができるかもしれない。

News & Analysis
Radiation Will Make Astronauts' Trip to Mars Even Riskier
放射が宇宙飛行士が火星に旅するのをより一層危険にするだろう
Richard A. Kerr
将来、火星へと送り出される宇宙飛行士は、深部宇宙の放射という予想以上の困難に直面するだろう。

News Focus
Science for All
すべての人のための科学
Pallava Bagla and Richard Stone
4億人もの人が一日に1.25ドル以下しか稼ぐことができない。特にインドには世界の貧困層の3分の1が暮らしている。貧困を解決するために科学者がもっとできることはあるだろうか?

A Role for Science in Poverty Alleviation?
貧困の軽減における科学の役割
Pallava Bagla and Richard Stone
貧困の軽減における科学の役割について、Science誌と地域発展の代表のJairam Rameshが対談した。

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Research
Perspectives
What Are Climate Models Missing?
気候モデルは何を見落としているのだろうか?
Bjorn Stevens and Sandrine Bony
Joseph Smagorinskyが先駆けとなった流体力学・熱力学の細かい方程式に基づく大循環モデル(General Circulation Model; GCM)から、よりシンプルな全球気候モデル(Global Climate Models)やさらに栄養塩循環・生物圏などを組み込んだ地球システムモデル(Earth System Models)などが派生した。GCMは雲形成や水蒸気輸送などといった素過程を多く含むが、その素過程がモデル内でどのように組み込まれているかが大きな不確実性を生む原因となっている。GCMの出力結果の比較から、特に熱帯域の降水や雲の再現に大きな食い違いが確認されている。
[以下は引用文]
A deeper understanding and better representation of the coupling between water and circulation, rather than a more expansive representation of the Earth System, is thus necessary to reduce the uncertainty in estimates of the climate sensitivity and to guide adaptation to climate change at the regional level. This knowledge should help focus efforts and lead to progress in reducing the imprecision of climate models in the next 50 years.
より開放的な地球システムの再現というよりは、水と循環(雲形成・水蒸気輸送プロセスなど)をより深く理解し、より良く再現することが、気候感度推定の不確実性を軽減し、地域レベルでの気候変化への適応の道筋を与える上で必要だと考えられる。この知識が、努力が集中する助けとなり、将来50年間の気候モデルの(予測結果の)不正確さを軽減する上での改善へと繋がるだろう。

Pebbles on Mars
火星に小石
Douglas J. Jerolmack
火星の礫岩の観察から、’古代の河川の存在’に対するこれまでに得られている中で最も確たる証拠が得られた。

Research Articles
Martian Fluvial Conglomerates at Gale Crater
ゲール・クレーターにおける火星の河川性礫岩
R. M. E. Williams, J. P. Grotzinger, W. E. Dietrich, S. Gupta, D. Y. Sumner, R. C. Wiens, N. Mangold, M. C. Malin, K. S. Edgett, S. Maurice, O. Forni, O. Gasnault, A. Ollila, H. E. Newsom, G. Dromart, M. C. Palucis, R. A. Yingst, R. B. Anderson, K. E. Herkenhoff, S. Le Mouélic, W. Goetz, M. B. Madsen, A. Koefoed, J. K. Jensen, J. C. Bridges, S. P. Schwenzer, K. W. Lewis, K. M. Stack, D. Rubin, L. C. Kah, J. F. Bell III, J. D. Farmer, R. Sullivan, T. Van Beek, D. L. Blaney, O. Pariser, R. G. Deen, and MSL Science Team
Mastcamを用いた観察から、ゲール・クレーターにおいて河川性の礫堆積物の存在が明らかに。円摩された小石が砂粒とともに礫堆積物に含まれていることは河川水による摩耗が起きていたことを示唆している。スペクトル分析から、堆積物は長石を多く含み、水による変質はあまり被っていないと思われる。小石の運搬には閾値(水深 0.03 - 0.9 m、流速 0.20 - 0.75 m/s)を超えていた必要があったと推測される。当時の火星は、現在の冷たく乾燥した状態とは異なり、数kmにわたって河川が流れていたような気候状態であったと思われる。

Reports
Measurements of Energetic Particle Radiation in Transit to Mars on the Mars Science Laboratory
Mars Science Laboratoryによる火星への輸送における高エネルギー粒子の放射測定
C. Zeitlin, D. M. Hassler, F. A. Cucinotta, B. Ehresmann, R. F. Wimmer-Schweingruber, D. E. Brinza, S. Kang, G. Weigle, S. Böttcher, E. Böhm, S. Burmeister, J. Guo, J. Köhler, C. Martin, A. Posner, S. Rafkin, and G. Reitz
キュリオシティーを火星へと送り届けた輸送船(Mars Science Laboratory spacecraft)は放射検出器を搭載していたが、それは今後火星へ宇宙飛行士を送り出す際に想定される被爆に対する新たな知見を与えてくれる。データを解析したところ、現在の推進力システムとシールドの性能では、最短の火星周回で浴びると思われる放射線量は0.66 ± 0.12 Svに相当すると考えられる。

Functional Extinction of Birds Drives Rapid Evolutionary Changes in Seed Size
鳥の機能的な絶滅が種のサイズの急速な進化的変化をもたらす
Mauro Galetti, Roger Guevara, Marina C. Côrtes, Rodrigo Fadini, Sandro Von Matter, Abraão B. Leite, Fábio Labecca, Thiago Ribeiro, Carolina S. Carvalho, Rosane G. Collevatti, Mathias M. Pires, Paulo R. Guimarães Jr., Pedro H. Brancalion, Milton C. Ribeiro, and Pedro Jordano
ある生物種の絶滅によってそれが連鎖反応的に生態系に大きな影響を与えることが考えられるが、人類が招いた絶滅がどのような進化的変化をもたらすかはよく分かっていない。ブラジルの森林に生息する、植物の種をばらまく鳥の絶滅が、キーストーン種であるヤシの種のサイズの低下を招いていることが分かった。おそらく種のサイズの低下は過去100年間に起きていると思われる。大型脊椎動物の絶滅は熱帯雨林生態系全体に波及効果があると考えられる。

Macのちょっとした裏技集

Macの作業効率を上げるちょっとした裏技をご紹介。

1、デスクトップの画面を増やす


Exposéの画面で、右上にカーソルを持っていくと…「+」ボタンが出現。

押すとデスクトップを増やせます。

僕の場合、デュアル・ディスプレイにしているので、合計4つの画面で作業をしています。

Magic Mouseがあれば指二本を左右にスワイプするだけで画面が切り替わるので、とても便利!


2、ボタン一つでスクリーン・ショットを撮る

もともとMacには「Grab(グラブ)」というアプリが備わっていますが、(アプリケーション>ユーティリティー>グラブ.app)
このアプリには選択した場所のスクリーン・ショットを撮る機能があります。

僕は発表スライドを作成する時や、ブログ作成時によくスクリーン・ショットを利用するのですが、実はキーボード設定画面でショートカット・ボタンを設定できます。



設定>キーボード>スクリーンショット
で自由にコマンドを設定できます。僕は「⌘+G」と設定しています。

蛇足ですが、


この辺もいじくり回すと画面の切り替えがより簡単になります。


3、パソコンからWifiを飛ばす

あまり実用的ではないかもしれませんが、パソコンからWifi飛ばせます。

ただし、Wifiにネット接続されたパソコンからはWifiを飛ばすことはできません。
Ethernetやfirewireでネット接続されたパソコンのみ可能な機能です。

Wifiの名前やパスパードは自由に設定できます。

設定>共有>インターネット共有




是非Macユーザーの方は試してみてください☆

2013年5月30日木曜日

新着論文(Nature#7451)

Nature
Volume 497 Number 7451 pp535-658 (30 May 2013)

EDITORIALS
Still less equal
まだあまり平等でない
日本政府は女性のキャリアを成功させる手助けをするという約束を守らなければならない。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Gemstones from the deep
深部からの宝石
Geology http://dx.doi.org/10.1130/G34204.1 (2013)
翡翠の一種である硬玉石(jadetite)はプレートの沈み込み帯で形成される。地下深部で海洋地殻のスラブから放出される流体が濃縮されることで形成されている。また一方でルビーは東南アジアのような、アルミニウムに富んだ大陸地殻同士が衝突するような場で形成されている。これらの宝石類は美しいだけでなく、プレートテクトニクスの起きていた場所を特定するのにも使える可能性があるという。
>問題の論文
Plate tectonic gemstones
プレートテクトニクスの宝石
Robert J. Stern, Tatsuki Tsujimori, George Harlow and Lee A. Groat

Footprints reveal hominin size
足跡がヒト族の大きさを明らかに
J. Hum. Evol. 64, 556–568 (2013)
化石の足跡はヒト族が1.52Maには既に現代人と同程度に大きかったことを物語っている。古い時代の保存の良い骨格は稀にしか見つからず、ヒトの大きさや歩行速度を推定することは難しい。ケニアの北部で発見された7人のヒト族(Homo erectusParanthropus boisei)の足跡のサイズと歩行間隔の測定結果と、現代のケニア人の成人男性の裸足の歩行法とを比較することで、古代人が現代人と同程度の大きさであったことが示唆されている。

Fossil arthropod with scissor hands
ハサミの手をもった化石の節足動物
J. Paleontol. 87, 493–501 (2013)
カナダのKootenay国立公園で発掘されたこと、ジョニー・デップが映画「シザー・ハンズ」内で演じたEdward Scissorhandsにちなんで、Kootenichela deppiと名付けられた505Maの節足動物は3又の長い爪を持っていたらしい。

Sea and sky comes at a cost
海と空がコスト高になった
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1304838110 (2013)
海と空で翼を使うことのエネルギーコストが大きかったことがペンギンが空を飛ぶことを諦めた原因だったのかもしれない。41羽のハシブトウミガラス(thickbilled murres; Uria lomvia)と22羽のヒメウ(pelagic cormorants; Phalacrocorax pelagicus)に対してレコーダーを取り付けて潜水深度や飛行時間などを測定し、さらに同位体でラベリングした水で泳がせることで代謝速度を見積もったところ、ともに飛行のエネルギーコストが知られている脊椎動物の中では最大で、潜水のエネルギーコストはペンギンよりも大きいことが示された。これは潜水への適応が飛行の弱点を補うように働いており、羽が潜水に最適化するように発達したことでもはや飛ぶことができなくなったことを物語っている。
>関連する記事
Flight of the Penguin
ペンギンの飛行
Science 340, 893-1004 (24 MAY 2013) "News of the Week"
ウミガラス(murres)は飛行も潜水もする海鳥である。中でも北極圏に生息するハシブトウミガラス(Uria lomvia)は非常に飛ぶのが下手で、休息時の31倍ものエネルギーを消費していることが示され、鳥類の中では最大値となった。潜水中は比較的省エネルギーで済んでいるらしい。70Maまではペンギンの祖先は空を飛んでいたと考えられるため、ペンギンは飛行を諦めてより効率の良い潜水に特化して進化したと考えられる。

Nuclear power saves lives
原子力が命を救う
Environ. Sci. Technol. 47, 4889−4895 (2013)
先日NASAを引退し、気候変化に関する活動家として余生を捧げているJames HansenとNASAのPushker Kharechaは過去40年間に原子力発電所の放射能漏れや事故などで命を落とした人の数を分析したところ、火力発電所による空気汚染によって命を落とした人の数(184万人)に比べて原子力発電が370倍も安全であることを報告している。さらに原子力発電によって削減されたCO2排出の量は64Gtと推計されている。

SEVEN DAYS
Eye of the storm
嵐の目
NOAAが5/23に発表した大きなハリケーンのスパコンを用いた予測によると、7/1-11/30にかけて、7割の確率で7〜11回(うち3〜6回は巨大)のハリケーンの襲来が予想されるらしい。

Deep shocks
深い振動
カムチャッカ半島において5/24にM8.3の地震が起きた。震源域は地下610kmと推定されている。太平洋プレートの断層が破壊されたことが原因と考えられている。
>より詳細な記事
Quake off eastern Russia may be biggest-ever deep temblor
Alexandra Witze

Making waves
波を作る
世界最大の波力発電がスコットランドのLewis海岸の北西で計画されている。Aquamarine Powerは40-50基を設置し、発電量は2017年には早くも40MWに達するだろうと期待されている。

Arctic break-up
北極圏の崩壊
気象観測や汚染をモニタリングしている北極のロシアの観測所が、海氷が割れつつあることを受けて撤退を余儀なくされている。

WIDER ACCESS TO CLEAN ENERGY NEEDED
必要とされるクリーンなエネルギーへのより広いアクセス
国連は2030年までにすべての人が電気を利用できるように、さらにより汚染の少ない調理用の燃料を使用するように、目標を設定している。さらにエネルギー消費に締める再生可能エネルギーの割合も広げようとしている。しかし5/28に公表された報告書では、目標を達成するのはかなり難しそうな様相を呈している。改善を人口増加と経済成長とが打ち消している形となっている

NEWS IN FOCUS
Japan aims high for growth
日本は成長の高みを目指している
David Cyranoski
科学における革新が経済を活性化させる政府の計画の中核となっている。

FEATURES
Galaxy formation: Cosmic dawn
銀河形成:宇宙の夜明け
Ron Cowen
ハッブル宇宙望遠鏡を用いて、宇宙の最初の、荒々しい銀河形成時代の姿を天文学者は垣間みている。

COMMENT
Sustainability: A green light for efficiency
持続可能性:効率を考えた緑信号
「道路信号の効率を改良する努力は経済的・環境的なコストを削減するめったにない機会だ」、とKevin Gastonは主張する。

CORRESPONDENCE
Ecology: Getting the word out on biosphere crisis
生態系:生物圏の危機を口に出す
Elizabeth A. Hadly

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Planetary science: Evolutionary dichotomy for rocky planets
惑星科学:岩石惑星の進化的な分岐
Linda T. Elkins-Tanton
Hamano et al.の解説記事。
単純なモデルによって、恒星に近い岩石惑星は惑星が固化する際に水を早く失い、逆に離れた惑星は早く固化することで水を取り戻すことが明らかに。

Palaeoanthropology: Hesitation on hominin history
古人類学:ヒト族の歴史の口ごもり
William H. Kimbel
アウストラロピテクス・セディバ(Australopithecus sediba)の骨格記録の集中的な研究から、その解剖学的な詳細が明らかに。しかしその現生人類への進化学的な道筋についてはまだ確たることは分かっていない。

Astrophysics: A glimpse inside a magnetar
天文学:マグネターの内部が垣間見えた
Robert C. Duncan
Archibald et al.の解説記事。
多くの中性子星が'異常放電(glitch)'を起こすが、それは内部に高密度超流体が存在し、さらに内殻の超流動体が外殻よりも早く回転することを示唆している。強く磁性を帯びた星であるマグネターが驚くことに、'間違った'方向に異常放電することが明らかに。

LETTERS
An anti-glitch in a magnetar
マグネターにおける反・異常放電
R. F. Archibald, V. M. Kaspi, C. -Y. Ng, K. N. Gourgouliatos, D. Tsang, P. Scholz, A. P. Beardmore, N. Gehrels & J. A. Kennea
マグネターは時折不思議な'異常放電(glitch)'を起こす。その際には星の内部と内部地殻の間で角運動量が伝播する。X線計時観測から'反・異常放電'の存在が明らかに。こうした挙動はモデルからは予測されておらず、理論を再考する必要があるかもしれないという。

Persistent export of 231Pa from the deep central Arctic Ocean over the past 35,000 years
過去35,000年間にわたる中央大西洋深層水の231Paの継続した運搬
Sharon S. Hoffmann, Jerry F. McManus, William B. Curry & L. Susan Brown-Leger
 北極海は海氷形成・輸送などの表層プロセスや深層水形成によって熱塩循環をコントロールするなどの過程を通して地球の気候にとって重要である。
 北極海から得られた7本の堆積物コア中の231Paと230Thを分析したところ、230Thの埋没は海水中の生成率とバランスしているが、一方で231Paは水平方向の輸送がなければ説明できないことが示された。現在231Paを鉛直方向に早く輸送する仕組みは北極海には見つかっていないため、Fram海流を通して過去35Kaに一貫して深層水の交換が起きていたことが示唆される。
>参考:以前書いたコラム「231Pa/230Thが何故AMOC強弱の間接指標になるのか

Emergence of two types of terrestrial planet on solidification of magma ocean
マグマオーシャンの固結時の岩石型惑星の2つのタイプの出現
Keiko Hamano, Yutaka Abe & Hidenori Genda
※濱野景子さんは東大・地球惑星科学専攻のポスドク。
 太陽系内の岩石型惑星の多様性を理解することは地球惑星科学の根本的な目標の一つである。金星は地球と同程度のサイズで大まかな組成は同じであるものの、’水’が枯渇している。
 モデルシミュレーションから、岩石型惑星はマグマオーシャンから固化する進化の歴史に基づいて、2つの際立ったタイプに分類できる可能性を示す。1つ目のタイプ(地球など)は数百万年以内に固化しその水のほとんどは初期の海を形成するもの、2つ目のタイプ(おそらく金星など)はある閾値的な距離の内部で形成され、1億年ほどの歳月をかけてゆっくりと固化し、流体力学的な水の散逸によって乾燥化するものである。

Palaeontological evidence for an Oligocene divergence between Old World monkeys and apes
古い世界の猿とサルとの漸新世の分岐に対する古生物学的な証拠
Nancy J. Stevens, Erik R. Seiffert, Patrick M. O’Connor, Eric M. Roberts, Mark D. Schmitz, Cornelia Krause, Eric Gorscak, Sifa Ngasala, Tobin L. Hieronymus & Joseph Temu
分子生物学的にはヒト上科(hominoids)とオナガザル科(cercopithecoids)とが分岐したのは30-25Maの間であったと推測されていたが、20Maよりも古いクラウングループの狭鼻猿類(crown-group catarrhines)の化石証拠はこれまで得られていなかった。それらの共通祖先のものと考えられる、正確に25.2Maという年代決定がなされた化石記録がそのギャップを埋めるかもしれない。
>関連する記事
New Fossils Provide Earliest Glimpse of Ape Origins
新たな化石がサルの起源の最も初期のわずかな知見を与える
Science 340, 777-892 (17 MAY 2013) "News of the Week"
サルがいつ・どのように進化し、いまの多様性になったかを理解することは、霊長類の進化だけでなくヒトのそのものの進化を理解することにも繋がる。従来30-25Maに分岐したことが分子時計から言われていたが、その証拠となる化石はこれまで見つかっていなかった。アフリカ地溝体のタンザニアにおいて、Rukwapithecus fleagleiNsungwepithecus gunnelliと名付けられた猿の祖先のアゴの骨と歯が見つかった。新たな年代測定から、それが25.2Maであることが判明し、これまで得られている中で最古のものとなった。つまり漸新世(Oligocene)まで遡ることになる。

Long-term warming restructures Arctic tundra without changing net soil carbon storage
長期間の温暖化が土壌の炭素貯蔵量を全体としては変えずに北極圏のツンドラを再構築した
Seeta A. Sistla, John C. Moore, Rodney T. Simpson, Laura Gough, Gaius R. Shaver & Joshua P. Schimel
 高緯度地域には全球の土壌炭素の半分が存在し、地球温暖化に対する応答が関心を集めている。低温であることが有機物分解や窒素放出を抑制することを通して生物活動を抑制している。温暖化によって分解が加速すると、窒素利用が活性化し、木や植物の一次生産が活発になると考えられている。
 アラスカのツンドラ地帯における20年間にわたる夏の温暖化実験から、温暖化は植物バイオマス量や木の割合を増加させ、冬の土壌温度を間接的に上昇させ、土壌の食物網を均質化させ、土壌表層の有機物分解者の活動を抑制することが示された。しかしながら、全体としての土壌炭素・窒素の蓄積量には変化がなく、従って全体としては炭素の蓄積量は増加した。

2013年5月29日水曜日

新着論文(Ncom, PNAS)

Nature Communications
14 May 2013
A European population in Minoan Bronze Age Crete
Jeffery R. Hughey, Peristera Paschou, Petros Drineas, Donald Mastropaolo, Dimitra M. Lotakis, Patrick A. Navas, Manolis Michalodimitrakis, John A. Stamatoyannopoulos and George Stamatoyannopoulos
5,000年前にクレタ島に文明を築いたミノア人の出自について。アフリカ人よりもヨーロッパ人との遺伝的な類似性が確認された。

The genomics of selection in dogs and the parallel evolution between dogs and humans
Guo-dong Wang, Weiwei Zhai, He-chuan Yang, Ruo-xi Fan, Xue Cao, Li Zhong, Lu Wang, Fei Liu, Hong Wu, Lu-guang Cheng, Andrei D. Poyarkov, Nikolai A. Poyarkov JR, Shu-sheng Tang, Wen-ming Zhao, Yun Gao, Xue-mei Lv, David M. Irwin, Peter Savolainen, Chung-i Wu and Ya-ping Zhang
イヌが家畜化されたのは、これまで考えられていたよりもかなり早い時期であり、もしかすると最初はヒトと一緒に食料をあさっていたことがきっかけだったのかもしれない。

21 May 2013
Crocodylian diversity peak and extinction in the late Cenozoic of the northern Neotropics
T. M. Scheyer, O. A. Aguilera, M. Delfino, D. C. Fortier, A. A. Carlini, R. Sánchez, J. D. Carrillo-Briceño, L. Quiroz and M. R. Sánchez-Villagra
現在ワニの多様性は小さく、同じ地域に複数種が生息することは稀である。新たな研究から、中新世(Miocene)の南米においてワニの多様性がピークを迎えていたことが分かった。

Development of Middle Stone Age innovation linked to rapid climate change
Martin Ziegler, Margit H. Simon, Ian R. Hall, Stephen Barker, Chris Stringer and Rainer Zahn
南アフリカの考古学記録から人類の知能はかなり前から発達していた可能性が指摘されている。しかしながら何が文化・技術を飛躍的に向上させたのかについては謎のままである。アフリカ南端の河口付近で採取された堆積物コアを用いて過去100kaにわたる古気候を復元し(Fe/K比が湿潤/乾燥の指標になるらしい)、周辺の遺跡から分かる人類の文明史と比較したところ、主要な技術革新がパルス的に起きた時期は南アフリカが湿潤な時期に相当していることが分かった。特に千年スケールの気候変動(ハインリッヒイベントやD/Oサイクル)とAMOCを介した大西洋のバイポーラー・シーソーが重要だったと考えられる。

A new Late Triasssic phytogeographical scenario in westernmost Gondwana
Silvia N. Césari and Carina E. Colombi
ゴンドワナ大陸上の植物の交配を巡る論文。

28 May 2013
特になし

Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)
14 May 2013; Vol. 110, No. 20
Commentaries
Fe-carbonyl is a key player in planetary magmas
Marc M. Hirschmann

Weather and anomalous heat flow occurring near absolute zero
Joseph J. Niemela

Limits to upward movement of subalpine forests in a warming climate
Daniel C. Donato

Perspective
Used planet: A global history
Erle C. Ellis, Jed O. Kaplan, Dorian Q. Fuller, Steve Vavrus, Kees Klein Goldewijk, and Peter H. Verburg
人類は土地の変化を介して陸域の生態系に大きな影響をもたらしてきた。3,000年前から既にそうした人類の影響が生態系に広くそして重大な影響をもたらしてきたことを示す。

Earth, Atmospheric, and Planetary Sciences
Degassing of reduced carbon from planetary basalts
Diane T. Wetzel, Malcolm J. Rutherford, Steven D. Jacobsen, Erik H. Hauri, and Alberto E. Saal
惑星形成時の脱ガスプロセスとマントル・大気進化について。

Nanoscale analysis of pyritized microfossils reveals differential heterotrophic consumption in the ∼1.9-Ga Gunflint chert
David Wacey, Nicola McLoughlin, Matt R. Kilburn, Martin Saunders, John B. Cliff, Charlie Kong, Mark E. Barley, and Martin D. Brasier

Environmental Sciences
Ash from the Toba supereruption in Lake Malawi shows no volcanic winter in East Africa at 75 ka
Malawi湖のTobaの超噴火起源の火山灰は東アフリカにおいて75kaに火山の冬がなかったことを物語っている
Christine S. Lane, Ben T. Chorn, and Thomas C. Johnson
75kaにおけるTobaの超噴火はインド洋・インドア大陸・南シナ海にまで影響を及ぼし、さらにはグリーンランド・アイスコアにも全球的な寒冷化が起きた可能性が記録されている。それはアフリカの初期人類にも影響し、絶滅間近にまで追い込んだという仮説が存在する(火山の冬 'volcanic winter')。
 Malawi湖の堆積物中のテフラ層の前後には大きな温度変動がなかったことが、堆積物の構成成分から示唆される。従って、噴火に伴う気候変化が人類の遺伝的ボトルネックの原因でなかったことを物語っている。
>関連する記事
Will ‘Volcanic Winter’ Debate Now Cool Down?
'火山の冬'の議論は終息するのだろうか?
Science "News of the Week" (3 May 2013)
75kaにインドネシアのToba火山が過去2Maに例を見ない大噴火を起こした。それはアジアだけではなくアフリカにも影響を及ぼし、研究者の中にはアフリカにいたホモ・サピエンスを絶滅間近にまで追い込んだと主張するものもおり、'火山の冬'仮説は大きな話題を呼んだ。
 Toba火山から7,000km西に位置するアフリカのMalawi湖の堆積物から、火山性のガラスの欠片が特定されたものの、初期人類に脅威をもたらすほどの規模ではなかった可能性が新たに示された。堆積物中の藻類の組成や有機物から復元された火山噴火前後の環境は、特に温度などに大きな変化が起きていなかったことを示唆している。
>関連する論文
Astronomically calibrated 40Ar/39Ar age for the Toba supereruption and global synchronization of late Quaternary records
Michael Storey, Richard G. Roberts, and Mokhtar Saidin
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 10.1073/pnas.1208178109 (2012)
スマトラ島のTobaの火山噴火は過去1,000万年間で最も大規模のものであったと考えられており、その噴火によって30×100 kmもの大きさの湖ができた。噴火の際のシグナルは南極やグリーンランドの氷床にさえも記録されていると考えられている。その噴火は初期人類の進化にも影響を与えたと考えられているものの、その年代決定は不確かなままである。マレーシアから新たに得られた40/39Ar法による年代測定結果はそれが「73.88 ± 0.32 ka」であったことを示しており、グリーンランドにおける10℃もの温度低下に対してわずかに先行している。

Ecology
Warming-induced upslope advance of subalpine forest is severely limited by geomorphic processes
Marc Macias-Fauria and Edward A. Johnson
温暖化に伴い森林はより高地へ移動すると予想されており、それは土地被覆を変化させ、高地の生息環境を分裂させると考えられている。しかしながら、景観規模での温度制限についてはよく分かっていない。ロッキー山脈におけるケーススタディから、温度だけでは不均質に分布する森林を説明できないことが分かった。より長い時間スケール(100-1,000年)での地形変化プロセスも考慮しなければならない。

Diversity, host switching and evolution of Plasmodium vivax infecting African great apes
Franck Prugnolle, Virginie Rougeron, Pierre Becquart, Antoine Berry, Boris Makanga, Nil Rahola, Céline Arnathau, Barthélémy Ngoubangoye, Sandie Menard, Eric Willaume, Francisco J. Ayala, Didier Fontenille, Benjamin Ollomo, Patrick Durand, Christophe Paupy, and François Renaud

Provincialization of terrestrial faunas following the end-Permian mass extinction
Christian A. Sidor, Daril A. Vilhena, Kenneth D. Angielczyk, Adam K. Huttenlocker, Sterling J. Nesbitt, Brandon R. Peecook, J. Sébastien Steyer, Roger M. H. Smith, and Linda A. Tsuji

21 May 2013; Vol. 110, No. 21
Letters (Online Only)
The oceanic cadmium cycle: Biological mistake or utilization?
François M. M. Morel
Horner et al. (2013, PNAS)は海洋におけるCdが栄養塩に似た分布をするのは、植物プランクトンが誤ってCdを体内に取り込んでしまうからであると、Escherichia coliを用いた実験から結論づけた。しかしCdを海洋微生物が利用していることは多くの報告がなされている。

Reply to Morel: Cadmium as a micronutrient and macrotoxin in the oceans
Tristan J. Horner, Renee B. Y. Lee, Gideon M. Henderson, and Rosalind E. M. Rickaby

>問題の論文
Nonspecific uptake and homeostasis drive the oceanic cadmium cycle
Tristan J. Horner, Renee B. Y. Lee, Gideon M. Henderson, and Rosalind E. M. Rickaby
海水中のCd濃度とリン酸濃度との相関は非常に良いため、生命に対する毒性よりも微栄養(micro-nutrient)として重要であると考えられている。しかしながら生物のCd利用についてはよく分かっていない。最近可能になったCd同位体を用いて生理学的なプロセスを考察。Cd/Zn炭酸塩脱水酵素(carbonic anhydrase)は同位体に影響しないが、細胞の脂質膜で大きく同位体分別を受けることが分かった。

Commentaries
Sinuous rivers
Victor R. Baker
波状の河川の形成メカニズムについて。

More mixotrophy in the marine microbial mix
Lisa R. Moore
海洋のエネルギー輸送・炭素循環・栄養塩循環を担う微生物の多様性について。

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"Agricultural Innovation To Protect The Environment Special Feature"特集
Introduction
Agricultural innovation to protect the environment
Jeffrey Sayer and Kenneth G. Cassman

他にも多数。
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Earth, Atmospheric, and Planetary Sciences
Sulfur isotopes in coal constrain the evolution of the Phanerozoic sulfur cycle
Donald E. Canfield

Persistence and origin of the lunar core dynamo
Clément Suavet, Benjamin P. Weiss, William S. Cassata, David L. Shuster, Jérôme Gattacceca, Lindsey Chan, Ian Garrick-Bethell, James W. Head, Timothy L. Grove, and Michael D. Fuller

Ecology
Consumers mediate the effects of experimental ocean acidification and warming on primary producers
Christian Alsterberg, Johan S. Eklöf, Lars Gamfeldt, Jonathan N. Havenhand, and Kristina Sundbäck
海洋酸性化が生態系に悪影響をもたらすことは広く認識されているが、それが直接的・間接的に温暖化や補食圧の減少などの他の環境要因と相互作用するかはよく分かっていない。海草生態系におけるメソコスモ海洋酸性化・温暖化実験から無脊椎動物が草を食むことが底性の小型藻類に与える影響を評価。草食無脊椎動物がいない場合、堆積物に付着する別の小型藻類が草を食むことや、大型藻類の被覆が増加することなどの間接効果によって、負の影響を被ることが示された。これまであまり考慮されていなかった’間接効果’の重要性が示され、特に草食動物が直接効果・間接効果に影響することが示された。

Environmental Sciences
Evolution of the plankton paleome in the Black Sea from the Deglacial to Anthropocene
Marco J. L. Coolen, William D. Orsi, Cherel Balkema, Christopher Quince, Keith Harris, Sean P. Sylva, Mariana Filipova-Marinova, and Liviu Giosan
黒海は最終氷期から現在にかけて気候変動と海水準変動の両方に支配されてその塩分を変化させてきた。しかしそれが生態系にどのような影響を与えたかはよく分かっていない。rRNAシーケンサーを用いて過去11.4kaの黒海のプランクトン群集を復元。おおまかに4つの時代に区分できることが分かった。

28 May 2013; Vol. 110, No. 22
Commentaries
Effect of active water movement on energy and nutrient acquisition in coral reef-associated benthic organisms
Christian Wild and Malik S. Naumann

Perspective
Climate change frames debate over the extinction of megafauna in Sahul (Pleistocene Australia-New Guinea)
Stephen Wroe, Judith H. Field, Michael Archer, Donald K. Grayson, Gilbert J. Price, Julien Louys, J. Tyler Faith, Gregory E. Webb, Iain Davidson, and Scott D. Mooney
サフル大陸においては、88種もの大型脊椎動物が更新世において絶滅したが、そのうちの大部分(54種)は400ka以降に絶滅した。気候変動と人類活動の両方に原因があると考えられる。これまでの知見をレビューしたところ、人類の到達(50-45ka)よりも早くに絶滅が起きていた証拠が多数存在することが分かった。

Earth, Atmospheric, and Planetary Sciences
High regional climate sensitivity over continental China constrained by glacial-recent changes in temperature and the hydrological cycle
Robert A. Eagle, Camille Risi, Jonathan L. Mitchell, John M. Eiler, Ulrike Seibt, J. David Neelin, Gaojun Li, and Aradhna K. Tripati

182Hf–182W age dating of a 26Al-poor inclusion and implications for the origin of short-lived radioisotopes in the early Solar System
Jesper C. Holst, Mia B. Olsen, Chad Paton, Kazuhide Nagashima, Martin Schiller, Daniel Wielandt, Kirsten K. Larsen, James N. Connelly, Jes K. Jørgensen, Alexander N. Krot, Åke Nordlund, and Martin Bizzarro

Environmental Sciences
Millennial-scale isotope records from a wide-ranging predator show evidence of recent human impact to oceanic food webs
Anne E. Wiley, Peggy H. Ostrom, Andreanna J. Welch, Robert C. Fleischer, Hasand Gandhi, John R. Southon, Thomas W. Stafford, Jr., Jay F. Penniman, Darcy Hu, Fern P. Duvall, and Helen F. James
人類が外洋域の生態系に影響を及ぼし始めたのはごく最近のことであるが、技術が進展した今となってもその影響についてはよく分かっていない。ハワイのウミツバメの骨の放射性炭素および窒素同位体分析から、過去3,000年間の食物網の変化を復元。過去100年間にδ15Nが1.8‰減少していることが示され、漁業によって食物網が減少したことが可能性として考えられる。補食行動にも変化が見られることから、太平洋北東部の海洋食物網が急速に変化している可能性がある。獲物の生息域が大きく変化することを防ぐことが、海鳥といった捕食者の保全に繋がると考えられる。

Anthropology
Early hominin auditory ossicles from South Africa
Rolf M. Quam, Darryl J. de Ruiter, Melchiorre Masali, Juan-Luis Arsuaga, Ignacio Martínez, and Jacopo Moggi-Cecchi

Ecology
Benefit of pulsation in soft corals
Maya Kremien, Uri Shavit, Tali Mass, and Amatzia Genin

Functional ecology of an Antarctic Dry Valley
Yuki Chan, Joy D. Van Nostrand, Jizhong Zhou, Stephen B. Pointing, and Roberta L. Farrell

Experimental evidence that evolutionarily diverse assemblages result in higher productivity
Marc W. Cadotte

2013年5月25日土曜日

新着論文(GRL, JGR, GBC, Radiocarbon)

GRL
The influence of sea level rise and changes in fringing reef morphology on gradients in alongshore sediment transport
A.E. Grady, L.J. Moore, C.D. Storlazzi, E. Elias, M.A. Reidenbach
海水準上昇とサンゴ礁の悪化がローカルな地形に与える影響をハワイのMolokaiをモデルケースにして評価。岸に沿った方向に広がったサンゴ礁ほど影響を被りやすいことがモデルから示された。

Variability in the width of the tropics and the annular modes
J. Kidston, C. W. Cairns, P. Paga
ハドレーセルの縁と偏西風の関係をGCMで評価。

Can natural variability explain observed Antarctic sea ice trends? New modeling evidence from CMIP5
Lorenzo M. Polvani, Karen L. Smith
近年南極周辺の海氷範囲は’拡大’しており、温暖化によって海氷が融けるという予想に反する。さらに悪いことに、気候モデルは「温室効果ガスの増加と成層圏のオゾンの減少は海氷を後退させる」と予想している。4つのモデルを用いて食い違いの原因を検証。現在見られている南極の海氷の変動は自然変動の範疇にあり、人為起源と結論づけることは難しい。

JGR-Oceans
Integrating satellite observations and modern climate measurements with the recent sedimentary record: An example from Southeast Alaska
Jason A. Addison, Bruce P. Finney, John M. Jaeger, Joseph S. Stoner, Richard D. Norris, Alexandra Hangsterfer
アラスカ南東部のフィヨルドで得られた堆積物コアから過去100年間の環境復元。Br/Cl比がPDOの指標になるらしい。

GBC
Processes affecting greenhouse gas production in experimental boreal reservoirs
Jason J. Venkiteswaran, Sherry L. Schiff, Vincent L. St. Louis, Cory J. D. Matthews, Natalie M. Boudreau, Elizabeth M. Joyce, Kenneth G. Beaty, R. Andrew Bodaly
陸が浸水することでCO2やCH4をはじめとする温室効果ガスを放出する。5年間にわたって行われたFlooded Upland Dynamics Experiment (FLUDEX)の結果について。

Global trends in surface ocean pCO2 from in situ data
A. R. Fay, G.A. McKinley
海洋は人為起源のCO2を吸収するため、間接的に気候変化を緩和している。1981-2010年にかけての全球スケールの海洋表層水のpCO2のトレンドを評価。熱帯・亜熱帯域の表層水pCO2は大気のpCO2上昇にほぼ並行している。赤道大西洋の場合、温暖化によって海洋表層pCO2は大気pCO2よりも早く上昇しており、吸収能力が低下している。高緯度の海はデータが著しく不足しているが、南大洋周辺の海洋表層pCO2は Southern Annular Mode(SAM)などの気候変動によって大きく影響を受けている。

JGR-Atmosphere
A model-based test of accuracy of seawater oxygen isotope ratio record derived from a coral dual proxy method at southeastern Luzon Island, the Philippines
Gang Liu, Keitaro Kojima, Kei Yoshimura, Takashi Okai, Atsushi Suzuki, Taikan Oki, Fernando P. Siringan, Minoru Yoneda, Hodaka Kawahata
フィリピン・ルソン島から得られたハマサンゴのSr/Ca・δ18Oから1979-2001年の海水δ18Oの変動を復元。1次元ボックスモデルからうまく再現することができた。一部見られる季節変動の食い違いは、サンゴの生息場所における混合層の深さや湧昇などが原因と考えられる。

Radiocarbon
Comparison of 14C and U-Th Ages in Corals from IODP #310 Cores Offshore Tahiti
Nicolas Durand, Pierre Deschamps, Edouard Bard, Bruno Hamelin, Gilbert Camoin, Alexander L Thomas, Gideon M Henderson, Yusuke Yokoyama, Hiroyuki Matsuzaki
IODP310のタヒチにおいて得られた化石サンゴからINTCAL較正曲線に多数データを追加(特にMWP-1aが起きた付近の16-14ka)。これまでタヒチの礁嶺において得られた陸上掘削よりもはるかに古いデータが得られた(例えばBard et al., 1998)。
※僕も研究に使っている試料です。

Integration of the Old and New Lake Suigetsu (Japan) Terrestrial Radiocarbon Calibration Data Sets
Richard Andrew Staff, Gordon Schlolaut, Christopher Bronk Ramsey, Fiona Brock, Charlotte L Bryant, Hiroyuki Kitagawa, Johannes van der Plicht, Michael H Marshall, Achim Brauer, Henry F Lamb, Rebecca L Payne, Pavel E Tarasov, Tsuyoshi Haraguchi, Katsuya Gotanda, Hitoshi Yonenobu, Yusuke Yokoyama, Takeshi Nakagawa, Suigetsu 2006 Project Members
水月湖において掘削された年縞堆積物コア(SG06)中の植物片から、INTCAL較正曲線に多数データを追加。ほぼ大気と同等に見なせる550点の放射性炭素のデータが新たに追加された。SG93の243点のデータも加えて、過去52.8kaの808点にわたる、リザーバー効果に影響されない放射性炭素のデータを報告。
>関連する論文
A Complete Terrestrial Radiocarbon Record for 11.2 to 52.8 kyr B.P.
11.2 - 52.8 kyrの間の完全な陸域の放射性炭素の記録

Christopher Bronk Ramsey, Richard A. Staff, Charlotte L. Bryant, Fiona Brock, Hiroyuki Kitagawa, Johannes van der Plicht, Gordon Schlolaut, Michael H. Marshall, Achim Brauer, Henry F. Lamb, Rebecca L. Payne, Pavel E. Tarasov, Tsuyoshi Haraguchi, Katsuya Gotanda, Hitoshi Yonenobu, Yusuke Yokoyama, Ryuji Tada, and Takeshi Nakagawa
Science (19 Oct 2012)
放射性炭素は過去5万年間の地質学試料・考古学試料などに年代を与えるだけでなく、炭素循環におけるトレーサーとしても重要である。しかしながら12.5kaよりも前の大気の14Cを反映する記録はこれまで不足しており、氷期に相当する試料の高精度の年代測定は限られていた。日本の水月湖から得られた年縞堆積物を用いて過去52.8kaから11.2kaの大気の14Cを高精度に復元。これによって放射性炭素年代の測定限界までの総括的な記録が完成することになる。水月湖から得られた時間スケールを用いることで他の陸上の古環境記録との直接対比も可能になり、さらに大気-海洋の海洋の放射性炭素に関する関係性(海洋のローカルなリザーバー年代など)を求めることが可能になる。
>論文概説「湖の堆積物から大気の放射性炭素を復元することの意義

Atmospheric Radiocarbon for the Period 1950–2010
Quan Hua, Mike Barbetti, Andrzej Z Rakowski
木の年輪から得られた、1950-2010年にかけての季節レベルの大気14CO2記録を報告。北半球を3つ、南半球を2つに分けている。

Decadal Changes in Bomb-Produced Radiocarbon in the Pacific Ocean from the 1990s to 2000s
Yuichiro Kumamoto, Akihiko Murata, Takeshi Kawano, Shuichi Watanabe, Masao Fukasawa
1990年代のWOCEの際に広く海洋表層水の核実験由来の14Cが測定された。その後2000年代に再度同じ測線で測定された(CLIVAR)。太平洋の7本の測線の時間変化を報告。亜寒帯・赤道域の鉛直構造には大きな変化は確認されなかった。亜熱帯域では、太平洋の北西部と南部とでは大きな違いがあり、前者はbomb-14C濃度が著しく低下しているのに対し、後者は逆に温度躍層の下部で増加していた(SAMWによる取り込み?)。温度躍層水の気体交換の時間の違いが原因と考えられる。

Simulated Last Glacial Maximum ∆14Catm and the Deep Glacial Ocean Carbon Reservoir
Véronique Mariotti, D Paillard, D M Roche, N Bouttes, L Bopp
氷期の大気中のΔ14Cは420 ± 80 ‰だと報告されている(産業革命以前は0‰)が、’大気上層の生成率’と’炭素循環による分配’がその原因を担っていると考えられている。アイスコア10Beからは磁場変動だけでは200 ± 200 ‰しか説明できないと考えられており、残り220‰が炭素循環によるものと思われる。
 一つの案としては、'南大洋の成層化の強化'だけで「大気中のCO2濃度の低下(~180ppm)」および「δ13Cの変化」を大部分説明できると考えられている。そうした深層水はΔ14Cが非常に低く、それが大気に放出された時に大気Δ14Cを低下させたと考えられている。
 大気上層の14C生成率と14Cリザーバー間の相互作用を考慮し、CLIMBER-2モデルを用いて南大洋の'鉄肥沃(iron fertilization)効果'、'brine'、'生成率'の3つの作用を評価した。brineでかなりの部分を説明することが可能で、さらにモデルで初めてpCO2、δ13C、Δ14Cのすべての変化をうまく再現することができた。
>関連する論文
Impact of brine-induced stratification on the glacial carbon cycle
N. Bouttes, D. Paillard, and D. M. Roche
Clim. Past, 6, 575-589, 2010

Last Glacial Maximum CO2 and δ13C successfully reconciled
N. Bouttes, D. Paillard, D. M. Roche, V. Brovkin, L. Bopp
Geophysical Research Letters DOI: 10.1029/2010GL044499 (2011)

Systematic study of the impact of fresh water fluxes on the glacial carbon cycle
N. Bouttes, D. M. Roche, and D. Paillard
Clim. Past, 8, 589-607, 2012

Impact of oceanic processes on the carbon cycle during the last termination
N. Bouttes, D. Paillard, D. M. Roche, C. Waelbroeck, M. Kageyama, A. Lourantou, E. Michel, and L. Bopp
Clim. Past, 8, 149-170, 2012


2013年5月24日金曜日

新着論文(Science#6135)

Science
VOL 340, ISSUE 6135, PAGES 893-1004 (24 MAY 2013)

News of the Week
Asian Nations Join Arctic Council
アジア諸国が北極評議会に参加
中国やインドを含む5つのアジア諸国が北極評議会(Arctic Council)に参加した。北極圏の資源(化石燃料から毛皮まで)や北極圏航路をめぐって議論が行われる。

Kepler’s Closing Act?
ケプラー閉鎖の行動?
これまで数多くの系外惑星探査などの実績を上げてきたケプラー宇宙望遠鏡の、姿勢を維持するための車輪装置に不具合が生じた(去年にも3つあるうちの1つが故障していた)。現在セーフモードに入っているものの、計画自体終了する可能性もある。計画は去年本来の3.5年の任期を終え、さらに3.5年の延長されていた。
>より詳細な記事
Malfunction Could Mark the End of NASA's Kepler Mission
Yudhijit Bhattacharjee

Flight of the Penguin
ペンギンの飛行
ウミガラス(murres)は飛行も潜水もする海鳥である。中でも北極圏に生息するハシブトウミガラス(Uria lomvia)は非常に飛ぶのが下手で、休息時の31倍ものエネルギーを消費していることが示され、鳥類の中では最大値となった。潜水中は比較的省エネルギーで済んでいるらしい。70Maまではペンギンの祖先は空を飛んでいたと考えられるため、ペンギンは飛行を諦めてより効率の良い潜水に特化して進化したと考えられる。

News Focus
Are Isle Royale's Wolves Chasing Extinction?
アイルロイヤルのオオカミは絶滅を追いかけている?
Christine Mlot
捕食者-被食者の関係の象徴として扱われるオオカミはもはや子をなさない。科学者は遺伝学的な救済の可否を考えているが、さもないと計画は中止となる。

Letters
Shark Mislabeling Threatens Biodiversity
サメの間違ったラベリングが生物多様性を脅かす
Hugo Bornatowski, Raul Rennó Braga, and Jean Ricardo Simões Vitule

Pollination Decline in Context
文脈上の受粉の減少
Jaboury Ghazoul

Pollination Decline in Context—Response
「文脈上の受粉の減少」に対する返答
Jason M. Tylianakis

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Research
Perspectives
Culture, Genes, and the Human Revolution
文化、遺伝子、人間進化
Simon E. Fisher and Matt Ridley
現生人類の登場の際、文化的な革命が遺伝的な進化を駆動した可能性がある。

One Good Measure
一つの良い手段
M. R. Schreiber
コンパクト連星系の正確な距離を推定することが、降着円盤の進化のよりよい理解へと繋がるかもしれない。Miller-Jones et al.の解説記事。

More Power from Below
下からより多くの力を
Joseph N. Moore and Stuart F. Simmons
地熱発電量は世界中で増加しつつあるが、課題が残されている。

Research Articles
Zircon U-Pb Geochronology Links the End-Triassic Extinction with the Central Atlantic Magmatic Province
ジルコンのウラン-鉛年代が三畳紀後期の絶滅と中央大西洋マグマ分布域とを繋ぐ
Terrence J. Blackburn, Paul E. Olsen, Samuel A. Bowring, Noah M. McLean, Dennis V. Kent, John Puffer, Greg McHone, E. Troy Rasbury, and Mohammed Et-Touhami
 三畳紀後期には陸域と海洋の両方で生物多様性が激減し、その後136Maにわたって恐竜が繁栄する場を作った。絶滅のタイミングと洪水玄武岩の活動のタイミングとはおおまかに一致していたが、年代決定の精度が足りず、火山活動の速度が大きな気候擾乱を生むのに十分なほど早かったかどうかはよく分かっていなかった。
 中央大西洋マグマ分布域(Central Atlantic Magmatic Province; CAMP)のジルコンのウラン-鉛年代測定から、洪水玄武岩活動の年代と持続期間が制約された。火山活動初期と絶滅のタイミングが時間的に一致していることが分かった。60万年間に4回、パルス的にマグマが噴いたと考えられる。

Annually Resolved Ice Core Records of Tropical Climate Variability over the Past ~1800 Years
過去~1800年間に渡る熱帯域の気候変動を記録する1年スケールの解像度のアイスコア
L. G. Thompson, E. Mosley-Thompson, M. E. Davis, V. S. Zagorodnov, I. M. Howat, V. N. Mikhalenko, and P.-N. Lin
 熱帯域の高地から得られるアイスコア記録は非常にユニークな古環境記録を与えてくれるものの、採取が難しく、数も限られている。
 ペルーの高地5,670mに位置するQuelccaya氷帽から得られたアイスコアから過去1,800年間の気候変動を復元。δ18Oは東赤道太平洋の海水温とよく相関している。一方でアンモニアや硝酸濃度はITCZの変動を記録していると考えられる。この氷帽は後退し、徐々に薄くなっている。氷河の後退によって露出した湿地帯の植物の放射性炭素年代測定から、少なくとも6,000年間は氷河は縮小していなかった可能性が示唆される。
>The Ohio State University, Byrd Polar Research Center

Reports
An Accurate Geometric Distance to the Compact Binary SS Cygni Vindicates Accretion Disc Theory
コンパクト連星系SS Cygniへの正確な幾何学的距離が降着円盤理論の正当さを主張する
J. C. A. Miller-Jones, G. R. Sivakoff, C. Knigge, E. G. Körding, M. Templeton, and E. O. Waagen
SS Cygniは従来考えられていたよりも非常に近く、降着円盤理論を妨げていた課題を取り除くこととなった。

2013年5月23日木曜日

気になった一文集(English ver. No. 13)

Climate models suggest that the rate of this formation of deep water will decrease by the end of the century. That is problematic not only because deep-water formation drives the ocean circulation, but also because it carries vast amounts of carbon dioxide to the depths, sequestering it from the atmosphere.
気候モデルはこの深層水形成の速度が今世紀末には減少することを示唆している。それはただ深層水形成が海洋循環を駆動しているという点だけでなく、それが大量の二酸化炭素をより深くへと輸送し、大気から隔離しているという点でも問題である。

Most scientists regard the idea that global warming will trigger a collapse of ocean circulation — the apocalyptic scenario that inspired the 2004 action film The Day After Tomorrow — to be exceedingly unlikely. But Bryden says that the 2009 Atlantic circulation glitch is an indication of just how surprising ocean behaviour can be. “The next one,” he says, “may be twice as big.”
ほとんどの科学者は地球温暖化が海洋循環の崩壊(2004年の映画「デイ・アフター・トゥモロー」にインスピレーションを与えた、世界の終末のようなシナリオ)に繋がるというアイデアにほとんど現実味がないと思っている。しかし、2009年の大西洋循環の故障は、どれほど海洋の振る舞いが驚くべきものになり得るかを物語っていると、Harry Bryden(Southhampton大の海洋学者)は言う。"次は2倍の規模かもしれない"と彼は言う。

Oceans under surveillance」Nature (9 May 2013)

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Among the most worrying of the mooted impacts of climate change is an increase in civil conflict as people compete for diminishing resources, such as arable land and water. Recent statistical studies reporting a connection between climate and civil violence have attracted attention from the press and policy-makers, including US President Barack Obama.

気候変化が投げかける最も心配な議論の中には、耕作に適した土地や水といった失われつつある資源を巡って人類が争うことによって生じる、内戦の増加が挙げられる。統計学的に気候と市民の暴動との関係性を報告した最近の研究は報道機関、オバマ大統領を含む政策決定者の注意を引いた。

A call for peace on climate and conflict」Nature (9 May 2013)

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...it is not surprising to see a growth of work exploring individual perceptions of, and trends in public opinion about, anthropogenic climate change.

The good news for those concerned with climate communication is that there is a great deal of scientific agreement on the issue. The bad news is that climate is inherently uncertain — mainly because of the internal variability of the climate system.

Expert judgement elicitation — a tool used in medicine, engineering and natural sciences to determine the degree of scientific consensus and explore collective views on uncertainties — is gradually making its way into the climate science community.

It follows that mass communication of scientific information, and even scientific agreement on climate change, may have limited impact if political elites continue to disagree on the issue. And influencing the public in polarized contexts is surely a challenging task.


Climate consensus」Nature Climate Change 3, 303 (April 2013)
一般の人々が人為起源の気候変化を受け入れるためには数多くのハードルを超えなければならない。

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Ecologists have long known that these grazers play an important role in reef health by mowing down weedy algae and clearing attractive settling spots for young corals. Now, many believe that those tasks are essential to enabling some damaged reefs to recover from ecological stress.

The subsequent recovery of those reefs reinforced Steneck’s belief that protecting herbivorous fish is one of the most effective means of boosting reef resilience.

A better understanding of resilience could help planners develop more targeted conservation strategies that don’t threaten local livelihoods, Steneck agrees.

Even if managers are successful in injecting resilience-based measures into conservation plans, however, it is not clear that they can protect reefs from the twin long-term challenges posed by rapid climate change: rising water temperatures and ocean acidification, a pH change spurred by the sea’s absorption of atmospheric carbon dioxide.

Another sobering unknown is whether corals can keep pace with acidifying seas, which can dissolve the calcium skeletons of corals and interfere with the development of eggs and larvae. Coral calcification will no longer keep pace with physical reef erosion once atmospheric carbon dioxide levels top 450 parts per million, according to Hoegh-Guldberg. With levels now at 395 ppm, and rising at a rate of 2 ppm a year, that tipping point could be less than 30 years away, he notes.


As Threats to Corals Grow, Hints of Resilience Emerge」Science 339
サンゴの環境ストレスに対する強さや回復力を決める要因について

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Carbon emissions are a hallmark of energy use — and it is cheap and available energy that has made the modern world.
炭素排出はエネルギー使用の証明であり、それは安く、今の世界を作るのに必要であった利用可能なエネルギーであったのである。

The antagonism between protection of profit and protection of the environment will continue for as long as the two are seen as separate pursuits.
「利益の保護」と「環境保全」の間の対立は、それらが別々の追求と見なされる限り続くだろう。

The economic currency of gross domestic product, for so long used as a benchmark of a country’s performance, could be tweaked to include social indicators and how well a country respects environmental criteria, such as the concept of planetary boundaries that should not be exceeded.
国内総生産(長い間国家の出来映えの基準として使われてきた)といった経済指標は、社会的な指数を含めるように、国家が環境的な分類をどれほど尊重しているか(超えてはならない’惑星の限界’のコンセプトなど)を含めるように、微調整されるだろう。

Together we stand」Nature (16 May 2013)
経済的な発展と環境保護を両立させ、持続的な社会を構築する

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For this reason, I have seen curricula vitae in which a scientist annotates each of his or her publications with its journal impact factor listed to three significant decimal places (for example, 11.345). And in some nations, publication in a journal with an impact factor below 5.0 is officially of zero value. As frequently pointed out by leading scientists, this impact factor mania makes no sense.
こうした理由から、私は研究者が彼または彼女の投稿論文が掲載された雑誌のインパクト・ファクターが小数点3桁まで注釈付きで書かれている履歴を見てきた(例えば、11.345など)。国によっては、インパクト・ファクターが5.0を下回る雑誌に掲載された論文は公式にはゼロと見なされることもある。一流の研究者がしばしば指摘するように、インパクト・ファクターへの執着は理にかなっていない。

...it wastes the time of scientists by overloading highly cited journals such as Science with inappropriate submissions from researchers who are desperate to gain points from their evaluators.
評価者からポイントを得るのにやっきになっている研究者が、サイエンス誌のように多く引用される科学雑誌に対して不適切な投稿をすることは時間を無駄にすることに他ならない。

Any evaluation system in which the mere number of a researcher’s publications increases his or her score creates a strong disincentive to pursue risky and potentially groundbreaking work, because it takes years to create a new approach in a new experimental context, during which no publications should be expected.
その間一つも投稿論文が期待できないような、新たな実験において新たなアプローチを生み出すには何年も費やすため、研究者の投稿論文数の数だけで彼または彼女のスコアが上がるような評価システムではリスクが高く、革新的な結果を生む可能性のある仕事を選ぶインセンティブが著しく失われる。

The DORA recommendations are critical for keeping science healthy.
DORAの推奨は科学を健全に保つために必要不可欠である。

Impact Factor Distortions」Science (17 May 2013)
インパクト・ファクターを使って研究者の評価を行わない、という共同声明

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The world’s glaciers have been shrinking frighteningly fast, so fast that their melting was pushing up sea level far faster than the shrinking ice sheets of Greenland and Antarctica. But then 21st century monitoring from space began to show a much smaller role for glacial ice loss in sea-level rise. Which to believe?
世界の氷河は恐ろしい早さで後退しており、グリーンランドや南極の氷床の後退よりもかなり早く海水準を押し上げている。しかし一方で21世紀の宇宙からのモニタリングは世界の氷河の後退が海水準上昇に与える寄与はかなり小さいと示している。どちらを信じればいいのだろうか?

Water supply problems—farmers losing meltwater in streams and rivers in the hot, dry summer months—will only get worse. And glaciers will be helping drive up sea level through the end of the century and a bit beyond. But with all glacierized regions losing ice in the present climate and more warming expected, Gardner says, all but the most resilient glaciers are likely to disappear within the millennium. Some glaciers in the Arctic and Antarctic might last that long, but particularly vulnerable regions like the Alps will likely see most of their glaciers disappear by the end of the century.
水供給問題(牧場主は夏の乾燥した暑い時期に使える、小川や河川を流れる雪解け水を失いつつある)は悪化する一方だろう。そして氷河は海水準が今世紀末までか、或いはもうちょっと先まで上昇し続ける手助けをするだろう。しかし「現在の気候と将来の更なる温暖化で氷を失いつつあるすべての氷河地域は、もっとも強い氷河を除いては、1,000年以内に消滅しそうだ」と、Gardnerは言う。北極圏や南極の氷河の中にはそれくらい長く持ちこたえるものもあるかもしれないが、アルプスといった特に弱い地域においては今世紀末にもほとんどの氷河が消滅するかもしれない。

Melting Glaciers, Not Just Ice Sheets, Stoking Sea-Level Rise」Science (17 May 2013)
人工衛星観測と地上観測を併せて新たな「氷河融解の海水準上昇の寄与」の推定値が得られた。

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Clinker on the sea bed has even been mapped as a recognisable rock unit. Such
a human-made strata is one piece in the jigsaw supporting the contention that the Anthropocene should be viewed as a distinct period in time. The clinker layer also exposes the fact that human activities permanently change the landscape — on the sea floor as well as on land.

A dead sperm whale washed up on Spanish shores in 2012 was found to have a stomach full of plastics, including flower pots and plastic greenhouse covers. The litter had probably been washed into the sea from greenhouse industries located onshore and had caused gastric rupture in the whale.

It wasn’t until 1997 that this prediction was confirmed: oceanographer and boat captain Charles J. Moore was struck by the seemingly endless amounts of plastic debris he encountered on a sailing voyage across the North Pacific is region is now dubbed the Great Pacific Garbage Patch.

Just like whales swallow whole flower pots, fish and microorganisms mistake the tiny micro-plastic fragments for food. The particles thus enter the food chain, and may eventually even be incorporated into the cells of organisms.


Message in a bottle」Nature Geoscience 6, 241 (2013)
海のゴミ問題について

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Understanding of climate change is a problem for multiple generations. One generation of scientists has to make provisions for the needs of successor generations, rather than focusing solely on its own immediate scientific productivity.

Government agencies can do a reasonable job in satisfying the immediate needs of the public, e.g., in forecasting hurricane trajectories. But governments have not done well in sustaining long-term observations. For example, the iconic time series of CO2 observations at Mauna Loa, HI, was funded in 2-year increments for decades and was nearly terminated many times by shortsighted program managers.

Without confronting the problem as an intergenerational one, climate forecasts and our ability to mitigate and adapt to climate change will remain rudimentary and inadequate for the challenges that lie ahead.


Climate change as an intergenerational problem」PNAS 110, 4435-4436 (March 19, 2013)
世代を超えて、継続して気候変化研究をする必要性

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Hence, if climate change leads to an increased likelihood of wave 6–8 resonance, then certain places (and not always the same places from one year to the next) will experience negative temperature anomalies. This finding is something the public (and the “climate sceptic” community) often find hard to understand: How can global warming lead to local cooling? The point is that our climate system is not just a static thermodynamic system, it is a fluid dynamical system, and the effects of dynamics (especially on a rotating planet) can often be counterintuitive. Anyone doubting this should study the humble gyroscope, in particular how it responds to external forcing!
Climate extremes and the role of dynamics」PNAS 110, 145281-5282 (April 2, 2013)
地球の気象・気候は静的ではなく、動的な流体力学で記述されるということ

新着論文(Nature#7450)

Nature
Volume 497 Number 7450 pp409-530 (23 May 2013)

RESEARCH HIGHLIGHTS
Invasive insect’s inner weapon
外来昆虫の内部の兵器
Science 340, 862–863 (2013)
外来昆虫のナミテントウ(harlequin ladybird beetles; Harmonia axyridis)は、その身体の中に微胞子虫(microsporidia)を有しており、それが耐性のない土着の甲虫類を殺すことが(生物兵器)、競合者の個体数を減らすのに寄与していたらしい。
>より詳細な記事
Invasive ladybird has biological weapon
Ed Yong

Minoans came from Europe
ミノア人はヨーロッパから来た
Nature Commun. 4, 1871 (2013)
ギリシャのクレタ島の洞窟から得られた、4.4-3.7kaのミノア人(クレタ人)の歯と骨のミトコンドリアDNA分析から、従来エジプトから流れてきたと考えられていたが、ヨーロッパから来た人であることが示された。
>より詳細な記事
Minoan civilization was made in Europe
Ewen Callaway

‘Ghost’ reptile lived late
'幽霊'爬虫類は遅くまで生きていた
Biol. Lett. http://dx.doi.org/ 10.1098/rsbl.2013.0021 (2013)
145-66Maの白亜紀に生きていたとされる魚竜(ichthyosaurs)は多様性の低下から最終的に絶滅したと考えられているが、新たな化石記録から、白亜紀後期に逆に多様性が増加していたことが示された。

Cosmic rays show how boulders move
宇宙線がどのように巨石が動くかを示す
J. Geophys. Res. Earth Surf. 118, 184–197 (2013)
宇宙線照射年代とモデルとを組み合わせて、どのようにして巨石が洪水や土石流で浸食・運搬されるかが示された。通常巨石は地形の年代決定に用いられるため、この新たな知見は地質学的なイベントや氷河・海岸などの土地変化の理解の助けとなる可能性がある。

SEVEN DAYS
Arctic group grows
北極圏グループが成長する
北極圏の観測を行う観測ネットワークが強化された。原因としては環境的・資源的な関心の高まりが考えられる。海洋石油流出事故が起きた際の対応についても協力体制を敷くことが責任づけられている。

Impact-factor abuse
インパクト・ファクターの乱用
480人を超える研究者によって、科学雑誌のインパクト・ファクターを用いて科学者の評価を行わない、という声明がなされた。
>より詳細な記事
Scientists join journal editors to fight impact-factor abuse
Richard Van Noorden

Distant particles
遠くの粒子
地球の大気圏外からやってきたと考えられる28個のニュートリノが南極にて観測された。ブラックホールやガンマ線バーストなどの高エネルギー現象の理解に繋がる可能性があるとして期待が寄せられている。
>より詳細な記事
Antarctic neutrino observatory detects unexplained high-energy particles
John Matson

NEWS IN FOCUS
The wheels come off Kepler
車輪がケプラーから外れる
Ron Cowen

US budget cuts hit Earth monitoring
アメリカの予算削減が地球モニタリングに打撃を与える
Alexandra Witze
財産の差し押さえが西アメリカの雪や河川流量の観測記録を脅かしている。

A network to track Caribbean hazards
カリブ海の災害を追跡するためのネットワーク
Alexandra Witze
多国間の努力は科学的外交の例になる。カリブ海の地震モニタリングの例などの紹介。

FEATURES
Outward bound
限界をより遠くへ
Alexandra Witze
Ed Stoneは36年間を2機のボイジャー宇宙探査機に費やしてきた。太陽系内から、今後は星間物質の探査となる。

COMMENT
Arctic sea ice needs better forecasts
北極海はより良い予報を必要としている
「パートナーシップを育み、データをシェアすることで急速に変化する北極海の災害を軽減することができる」、とHajo Eickenは言う。

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RESEARCH
LETTERS
Shear-driven dynamo waves at high magnetic Reynolds number
高い磁気レイノルズ数におけるシアに駆動されるダイナモ波
S. M. Tobias & F. Cattaneo

Weakened stratospheric quasibiennial oscillation driven by increased tropical mean upwelling
熱帯域の平均的上昇流の増加による弱まった成層圏準2年周期振動
Yoshio Kawatani & Kevin Hamilton
熱帯域の成層圏における’準2年周期振動(quasibiennial oscillation; QBO)’とは約2年の周期で成層圏の東西風が逆転する現象を指す。ラジオゾンデを用いた観測記録から、地球温暖化の進行とともに過去60年間に振動が弱化しつつあることが示され(33%)、CMIP5のモデル予測結果とも整合的である。おそらく原因として下部成層圏の上昇流の増加が考えられる。今後も長期間にわたって強化されると思われる。

2013年5月20日月曜日

「アイスコア〜地球環境のタイムカプセル」(藤井理行ほか、2011年、成山堂書店)

アイスコア〜地球環境のタイムカプセル
藤井理行、本山秀明 編著
成山堂書店 2011年3月 ¥2,400-

アイスコアをテーマに扱ったものとしては’初’の書籍。


2013年5月19日日曜日

新着論文(NCC#May2013)

Nature Climate Change
Volume 3 Number 5 (May 2013)

Editorial
Fracking fracas
フラッキングの喧嘩
アメリカにおいてはシェールガスをめぐる政治学的なコンセンサスが得られつつあるものの、ヨーロッパにおいては依然としてそれに対する論争が続いている。

Commentaries
How national legislation can help to solve climate change
法律が気候変化を解決するのにどのように役に立つか
Terry Townshend, Sam Fankhauser, Rafael Aybar, Murray Collins, Tucker Landesman, Michal Nachmany & Carolina Pavese
気候変化緩和に関する国家間交渉が滞っている状況のもと、法制定はさらに進展し続けるだろう。そうした政策上の発展は何をもたらすだろうか?

Blood supply under threat
血液供給が危機に
Jan C. Semenza & Dragoslav Domanović
気候が温暖化するにつれて増加する感染症によって血液製品が汚染されないように、ヨーロッパは行動をとるべきだ。

News Feature
What now?
今度は何?
Anna Petherick
オバマ大統領は気候変化に対処すると宣言して1回目の任期を開始したが、気候変化緩和のための主要な議案は崩壊した。彼の第2回目の任期は何をもたらすだろうか?

Policy Watch
Climate saviour or spectre?
気候の救世主かそれとも不安材料か?
「EUのシェールガスに関する明確な政策はまだ登場しておらず、意見は未だ分断されている」、とSonja van Renssenは説明する。

Research Highlights
Warming seas
温暖化する海
Geophys. Res. Lett. http://doi.org/k5s (2013)
近年海洋表層水の温暖化が停止した(surface-warming hiatus)ことが話題を呼んでいた。1958-2009年における異なる深さの温暖化を再解析した研究から、海洋表層の温暖化は一時的に停止したものの、深層水が熱を吸収しており、過去10年間には30%を説明することが分かった。火山噴火や大きなエルニーニョも海の熱量を変える効果がある。
>問題の論文
Distinctive climate signals in reanalysis of global ocean heat content
Magdalena A. Balmaseda, Kevin E. Trenberth, Erland Källén
1958年〜2009年にかけての海水温の観測をもとに、温暖化の傾向と2004年以降の表層水の温暖化の停止(the recent upper-ocean-warming hiatus)の原因を評価。ここ10年間は700mよりも深い部分で温暖化が起きており、風の変化に伴う海洋鉛直構造の変化が原因と考えられる。

Disputing climate science
気候科学に異を唱える
Am. Behav. Sci. http://doi.org/k5r (2013)
1988年に気候変化が一般の関心を集めて以降、アメリカの化石燃料企業や保守的組織はこぞって人為起源の気候変化を否定するキャンペーンを行ってきた。その結果、書籍をはじめとする様々なものが作られた。2010年に発行されたそうした英語書籍108冊に対する調査から、うち78冊が自費出版であることが分かった。またその著者の国籍や背景を調べたところ、主としてアメリカの反対運動が他国に伝播しており、科学的なトレーニングを受けていない人による書籍がますます増え続けていることが示された。一般にピア・レビューはなされておらず、科学的に証明されていない・証明できない主張に基づいた議論に基づいて、気候変化に異を唱えている。ただし、科学的な信頼性は低いにも関わらず、そうした本はかなりの注意を引いている。

From past to future
過去から未来へ
Glob. Change Biol. http://doi.org/k5p (2013)
気候変化が生態系に与える影響を予想する際に広く用いられる手法は、過去において気候が生態系に与えた影響を将来にも直接当てはめることである。6つの草原に生える種を対象にした降水制限の実験が予想通りの結果になるかどうかを調べたところ、半数は期待通りの結果を示し、残り半分は示さなかった。過去の観測が十分になされ、再現性が確認されているかどうかも、将来の予測性に大きく影響すると考えられる。

Ice loss promotes cold
氷の損失が寒さを助長する
Environ. Res. Lett. 8, 014036 (2013)
北極圏の海氷は1年を通じてその量が減少しつつある。得られている観測記録から、秋の海氷量の減少が中緯度域の冬の気象に大きく影響していることが示された。異常寒波や大雪が増える傾向があるという。海氷が減るほど中緯度域の冬の異常気象は増えると予想される。

Pandora’s freezer?
パンドラの冷凍庫?
Climatic Change http://doi.org/k5q (2013)
北半球高緯度の永久凍土には大量の炭素が眠っており(約1,700 PgC)、それが融解し大気に放出されると将来の気候変化にも大きな影響を及ぼすと考えられる。しかしモデルの中には永久凍土の振る舞いはうまく組み込めておらず、その効果がどの程度及ぶかについてはよく分かっていない。フロリダ大学の研究者が中心となって、永久凍土の専門家の永久凍土の気候変化に対する脆弱性に対する姿勢を定量化したところ、RCP8.5シナリオのもとでは、2100年までに162-288PgCの炭素が放出されることが分かった。RCP2.6シナリオの場合、放出は3分の2に軽減できるという。いずれにせよ、化石燃料燃焼由来の炭素に比べれば少ない量である。

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Research
News and Views
Dust may cool polar regions
塵が極域を冷やすかもしれない
Peter Knippertz
極域の気候変化は全球に比べて増幅されやすい。新たな研究はダストや他のエアロゾルがそれにどれほど寄与するかを記述している。Lambert et al.の解説記事。

Coral 'refugia' amid heating seas
暖まる海の真ん中のサンゴの’難民’
Ken Caldeira
主として化石燃料燃焼が原因となって、大気中のCO2濃度が蓄積するとともに地球温暖化が進行している。温度上昇がサンゴ礁を脅かしていることは広く認識されているが、そのリスクは果たしてどれくらい大きいのだろうか?Hooidonk et al.の解説記事。

Perspectives
Risk management and climate change
リスク管理と気候変化
Howard Kunreuther, Geoffrey Heal, Myles Allen, Ottmar Edenhofer, Christopher B. Field & Gary Yohe
気候変化研究では脆弱性や考えられる結果に関する確率密度のコンセンサスが得られることはほとんどなく、政策戦略を評価することが難しい。そうしたコンセンサスが手に入らない状況、出資者のリスクに対する耐性が異なる場合に対してデザインされた政策決定ツールの重要性を主張する。

Deliberating stratospheric aerosols for climate geoengineering and the SPICE project
気候工学として成層圏にエアロゾルを届けることとSPICE計画
Nick Pidgeon, Karen Parkhill, Adam Corner & Naomi Vaughan
「成層圏エアロゾル注入技術」や「提案されている野外実施」を受け入れられるかどうかに関する初の'公の関与(public engagement)'調査から、ほとんどの参加者が試みを前進させるべきだと考えていることが示された。しかしながら、中には成層圏エアロゾルを使用することに不快感を感じている人もわずかながらいる。

A global standard for monitoring coastal wetland vulnerability to accelerated sea-level rise
加速する海水準上昇に対する沿岸湿地の脆弱性をモニタリングするための全球的な基準
Edward L. Webb, Daniel A. Friess, Ken W. Krauss, Donald R. Cahoon, Glenn R. Guntenspergen & Jacob Phelps
湿地の水面高度に対する信頼度の高い測定が「海水準上昇が沿岸部の弱い生態系に与える影響」を理解し予測する上で、科学に裏付けられた管理・適応・緩和を考える上で、重要である。'rod surface elevation table'と呼ばれるシンプル・安価・ローテクな装置が世界中の脅威にさらされている沿岸湿地をモニタリングするのに使えるかもしれない。

Letters
Energy consumption and the unexplained winter warming over northern Asia and North America
アジア北部と北米全体でのエネルギー消費と説明されていない冬季の温暖化
Guang J. Zhang, Ming Cai & Aixue Hu
 2006年当時における世界のエネルギー消費量は498エクサ・ジュール程度で、おおよそ15.8TWの熱が密集地域の大気へと伝播している。こうした人為起源のエネルギー消費が地表気温に大きな影響をもたらしている。
 全球気候モデルを用いて、エネルギー消費をモデルに組み込むことで北米とユーラシアの高・中緯度のほぼ全域で確認されている秋・冬の1Kもの温暖化を説明できる可能性が示唆される。将来の気候変化を予測するにはこうしたエネルギー使用を考慮すべきである。

Projected changes in wave climate from a multi-model ensemble
複数モデルのアンサンブルによって予想される波気候の変化
Mark A. Hemer, Yalin Fan, Nobuhito Mori, Alvaro Semedo & Xiaolan L. Wang
風波による沿岸部の変化は海水準の影響を打ち消すか、或いはさらに悪化させる可能性を秘めている。しかしながら波の変化はほとんど関心を寄せられていない。気候モデルを用いたアンサンブル・シミュレーションから、全球の波の高さが25.8%低下することが示された。両半球の冬季には波は高くなることが予測され、特に南大洋を起源とするうねりが原因と考えられる。予測の不確実性はモデル内のダウンスケール法によるところが大きい。

Assessment of groundwater inundation as a consequence of sea-level rise
海水準上昇の結果としての地下水氾濫のアセスメント
Kolja Rotzoll & Charles H. Fletcher
海水準上昇の結果、沿岸部への海水の氾濫の危険が生まれる。一方で、海水準上昇は地下水位のバランスにも影響し、地下水の氾濫が起きる可能性も指摘されている。ハワイ・ホノルルにおける調査から、海水準が0.6m上昇することでも大きな氾濫が生じることが分かった。それは海水の氾濫にも匹敵する恐れがある。おそらく世界中の低地に適応できると思われる。

Projections of declining surface-water availability for the southwestern United States
アメリカ南西部に対する地表水の利用可能性の減少予測
Richard Seager, Mingfang Ting, Cuihua Li, Naomi Naik, Ben Cook, Jennifer Nakamura & Haibo Liu
Articles
温暖化の結果、亜熱帯域がより乾燥化し、極側に拡大すると予想されている。モデルシミュレーションから、アメリカ南西部においては、2021-2040年に地表水の利用可能性が減少し、土壌湿度と河川流量が低下するという予測がなされた。

The role of mineral-dust aerosols in polar temperature amplification
極の温度増幅における鉱物ダストエアロゾルの役割
F. Lambert, J-S. Kug, R. J. Park, N. Mahowald, G. Winckler, A. Abe-Ouchi, R. O’ishi, T. Takemura & J-H. Lee
気候モデルは過去の気候記録から復元されている極域の温度変化をうまく再現できていない。観測とモデルから、完新世とLGMにおける大気中のダスト濃度を評価したところ、極域のエアロゾルの影響が過小評価されていることが示された。この過程を取り入れることでモデルを用いた高緯度域の応答の予測精度が向上すると考えられる。

Impacts of biofuel cultivation on mortality and crop yields
バイオ燃料の耕作が致死率と作物生産に与える影響
K. Ashworth, O. Wild & C. N. Hewitt
バイオ燃料に用いられる多くの植物がオゾンの前駆物質であるイソプレンを従来型の作物よりも多く放出する。モデル研究から、ヨーロッパにおける地表付近のオゾン濃度が増加することで、人間の致死率と作物生産に大きく影響することが示唆される。バイオ燃料を巡る政策は、炭素収支以外も考慮する必要がある。

The critical role of extreme heat for maize production in the United States
アメリカにおける小麦生産に対する異常熱波の決定的な役割
David B. Lobell, Graeme L. Hammer, Greg McLean, Carlos Messina, Michael J. Roberts & Wolfram Schlenker
アメリカにおける小麦生産の統計解析から、異常な熱波に対してはかなり大きな負の応答が見られ、一方で季節的な降水量には比較的小さな応答を示すことが分かった。モデルシミュレーションから、熱波による影響は生殖器に対する熱ストレスが原因というよりはむしろ、水ストレスの原因となる’水蒸気圧不足(vapour-pressure deficit)’が原因と考えられる。

Malaria epidemics and the influence of the tropical South Atlantic on the Indian monsoon
マラリア伝染病と熱帯南大西洋がインドモンスーンに与える影響
B. A. Cash, X. Rodó, J. Ballester, M. J. Bouma, A. Baeza, R. Dhiman & M. Pascual
観測記録の解析とモデルシミュレーションから、赤道大西洋が、遠くインド北西部のモンスーン性の降水や伝染病に影響していることが分かった。マラリアの発生の4ヶ月前に変化が見られるため、初期警告システムに使える可能性がある。赤道大西洋はモンスーンとENSOを仲介しているだけでなく、時間的ラグをもって降水(+マラリアの発生)の変動を支配していると思われる。

Temporary refugia for coral reefs in a warming world
温暖化した世界におけるサンゴ礁に対する一時的な待避地
R. van Hooidonk, J. A. Maynard & S. Planes
温暖化の進行とともに、高水温が一定期間維持されることがきっかけで生じるサンゴの’白化現象’がサンゴ礁生態系をより脅かすと考えられている。しかしながら、白化現象の規模は地域ごとに異なることが予想される。IPCC AR5に用いられている気候モデルのアンサンブル予測結果を用いて、RCPの排出予測に基づいた白化現象のハザードマップを作成した。年間を通して白化現象が始まるのは大気中CO2濃度が約510ppmになるころからで、RCP8.5シナリオの場合2040年頃と予想される。中には5年間、白化現象のスタートを免れる海域も存在する(インド洋西部、タイ、GBR南部、フランス領ポリネシア中央部など)。例えばRCP8.5からRCP6.0へと削減が成功した場合、約23%のサンゴ礁で20年間、白化現象のスタートを遅らせることができ、サンゴが変化に適応する可能性が高まるかもしれない。

Articles
A global assessment of the effects of climate policy on the impacts of climate change
気候政策が気候変化の影響に与える影響の全球アセスメント
N. W. Arnell, J. A. Lowe, S. Brown, S. N. Gosling, P. Gottschalk, J. Hinkel, B. Lloyd-Hughes, R. J. Nicholls, T. J. Osborn, T. M. Osborne, G. A. Rose, P. Smith & R. F. Warren
気候変化緩和策はそれが地域的。全球的に回避することのできた気候の影響という観点で評価されることは稀である。新たな研究は、温度上昇を2℃以下に抑える可能性の50%の確率に基づいた政策は将来の気候変化の影響を2100年までに20-65%も緩和できることを示している。

Atmospheric verification of anthropogenic CO2 emission trends
人為起源のCO2排出の傾向の大気的な証拠
Roger J. Francey, Cathy M. Trudinger, Marcel van der Schoot, Rachel M. Law, Paul B. Krummel, Ray L. Langenfelds, L. Paul Steele, Colin E. Allison, Ann R. Stavert, Robert J. Andres & Christian Rödenbeck
地球温暖化と海洋酸性化を制限する国際的な努力は大気中のCO2濃度の上昇速度を遅くすることを目的としている。大気観測から2010年にアジア地域のCO2排出が急増したこと、2002-2003年には排出速度が鈍化したことを示す。

2013年5月17日金曜日

新着論文(Science#6134)

Science
VOL 340, ISSUE 6134, PAGES 777-892 (17 MAY 2013)

EDITORIAL:
Impact Factor Distortions
インパクト・ファクターの歪曲
Bruce Alberts
細胞生物学の研究集会にて採択された、The San Francisco Declaration on Research Assessment (DORA)は「研究者の業績を投稿論文が掲載された雑誌のインパクト・ファクターで評価しない」声明を出した。インパクト・ファクターは本来雑誌の価値を計るものであるはずなのに、今や研究者そのものの価値の判断に使われたりしている。インパクト・ファクターに固執することは非建設的であり、その価値は引用されやすい分野ほど有利に働くため、専門ごとに本来の価値は違うはずである。そうではなく、たとえ投稿論文が簡単に出せない長期的な計画からも際立った成果が出る可能性はあるため、まだ人気のない・新たな分野を若手研究者が切り拓くのにもそうした固定観念を失くすことが重要である。

[以下は引用文]
For this reason, I have seen curricula vitae in which a scientist annotates each of his or her publications with its journal impact factor listed to three significant decimal places (for example, 11.345). And in some nations, publication in a journal with an impact factor below 5.0 is officially of zero value. As frequently pointed out by leading scientists, this impact factor mania makes no sense.
こうした理由から、私は研究者が彼または彼女の投稿論文が掲載された雑誌のインパクト・ファクターが小数点3桁まで注釈付きで書かれている履歴を見てきた(例えば、11.345など)。国によっては、インパクト・ファクターが5.0を下回る雑誌に掲載された論文は公式にはゼロと見なされることもある。一流の研究者がしばしば指摘するように、インパクト・ファクターへの執着は理にかなっていない。

...it wastes the time of scientists by overloading highly cited journals such as Science with inappropriate submissions from researchers who are desperate to gain points from their evaluators.
評価者からポイントを得るのにやっきになっている研究者が、サイエンス誌のように多く引用される科学雑誌に対して不適切な投稿をすることは時間を無駄にすることに他ならない。

Any evaluation system in which the mere number of a researcher’s publications increases his or her score creates a strong disincentive to pursue risky and potentially groundbreaking work, because it takes years to create a new approach in a new experimental context, during which no publications should be expected.
その間一つも投稿論文が期待できないような、新たな実験において新たなアプローチを生み出すには何年も費やすため、研究者の投稿論文数の数だけで彼または彼女のスコアが上がるような評価システムではリスクが高く、革新的な結果を生む可能性のある仕事を選ぶインセンティブが著しく失われる。

The DORA recommendations are critical for keeping science healthy.
DORAの推奨は科学を健全に保つために必要不可欠である。

Editors' Choice
Hawaii’s Deep Plumbing System
ハワイの深い配管システム
Geophys. Res. Lett. 40, 10.1002/grl.50470 (2013).
ハワイのマウナロアとキラウエア火山は現在世界で最も活発な火山の2つである。2つは約30kmしか離れていないが、それらが相互作用しているかどうかはよく分かっていない。2006年〜2008年にかけてマントル物質が多く供給された際、2つの火山は同時に膨張していたことが人工衛星観測から示された。それ以外は独立した火山活動が起きていたらしい。
>問題の論文
Coupling of Hawaiian volcanoes only during overpressure condition
Manoochehr Shirzaei, Thomas R. Walter, Roland Bürgmann

News of the Week
Call to Abandon Journal Impact Factors
雑誌のインパクト・ファクターを失くすという要請
150人の一流の科学者と75の研究機関によって’インパクト・ファクター’を失くす行動声明がなされた。本来それは図書館が購入する科学雑誌を参考にするために出版社のトムソン・ロイター社が発行する、一つの論文が引用される回数を数値化したものであるが、いまや科学者の評価基準に組み込まれている。
>より詳細な記事
In 'Insurrection,' Scientists, Editors Call for Abandoning Journal Impact Factors
Jocelyn Kaiser

New Fossils Provide Earliest Glimpse of Ape Origins
新たな化石がサルの起源の最も初期のわずかな知見を与える
サルがいつ・どのように進化し、いまの多様性になったかを理解することは、霊長類の進化だけでなくヒトのそのものの進化を理解することにも繋がる。従来30-25Maに分岐したことが分子時計から言われていたが、その証拠となる化石はこれまで見つかっていなかった。アフリカ地溝体のタンザニアにおいて、Rukwapithecus fleagleiNsungwepithecus gunnelliと名付けられた猿の祖先のアゴの骨と歯が見つかった。新たな年代測定から、それが25.2Maであることが判明し、これまで得られている中で最古のものとなった。つまり漸新世(Oligocene)まで遡ることになる。
>問題の論文
Palaeontological evidence for an Oligocene divergence between Old World monkeys and apes
古世界の猿と類人猿の漸新世の分岐の古生物学的な証拠
Nancy J. Stevens, Erik R. Seiffert, Patrick M. O’Connor, Eric M. Roberts, Mark D. Schmitz, Cornelia Krause, Eric Gorscak, Sifa Ngasala, Tobin L. Hieronymus & Joseph Temu
Nature (2013) doi:10.1038/nature12161

U.S. East Coast Not So Passive
アメリカの東海岸はそんなに受動的ではない
「火山活動や地震がないような大陸棚縁辺は、河川や海による堆積場で、海水準変動のいい指標になる」というのが従来の地質学の常識となっていたが、アメリカ東海岸は実はそうではないらしい。非常にゆっくりとした深部のマントル対流が東海岸の地形形成にとって重要であることが新たな研究から示されている。さらに北米で伸縮を繰り返した更新世の氷床の存在もまた話を複雑にしているらしい。過去の海水準変動を正しく理解するには、全球的なマントル対流や氷床変動まで理解する必要があると研究者らは語る。
>問題の論文
Dynamic Topography Change of the Eastern United States Since 3 Million Years Ago
300万年前以降のアメリカ東海岸のダイナミックな地形変化
David B. Rowley, Alessandro M. Forte, Robert Moucha, Jerry X. Mitrovica, Nathan A. Simmons, Stephen P. Grand
Science DOI: 10.1126/science.1229180

Eating Bugs Could Save the World
昆虫を食うことをが世界を救うかもしれない
人口爆発と地球温暖化の中で食の安全を考えた時に、食糧安全の専門家達は’昆虫’が持続的で・環境に優しいタンパク源だと考えている。国連のFood and Agriculture Organization(FAO)の推計によると、アジア・アフリカ・ラテンアメリカでは現在20億人が1900種の昆虫を日々食しており、中には食べられすぎて絶滅の危機に瀕しているものもいる(例えばタランチュラの一種(Thai Zebra Tarantula; Haplopelma albostriatum)など)。単に食糧としてだけでなく、発展途上国における収入源や家畜の飼料として持続可能な生産の可能性があるという。
>関連した記事(ナショナル・ジオグラフィック)
国連が昆虫食を推奨、人気の8種とは?

News & Analysis
Melting Glaciers, Not Just Ice Sheets, Stoking Sea-Level Rise
単に氷床だけでなく、氷河の融解もまた海水準上昇をあおっている
Richard A. Kerr
雪氷学者が何十年も歩き続けて得た地上のデータと、かなり最近になって得られるようになった人工衛星観測のデータ(重力と高度変化)とを組み合わせて、世界中の19の主要な氷河地域において氷河の後退とそれに伴う海水準上昇の寄与に対する新たな推定値が得られた。それは氷床の後退とほぼ同程度の量で全球の氷河が一貫して質量を失っており、海水準を年間0.7mmずつ押し上げていることを物語っている。Gardner et al.の紹介記事。

[以下は引用文]
The world’s glaciers have been shrinking frighteningly fast, so fast that their melting was pushing up sea level far faster than the shrinking ice sheets of Greenland and Antarctica. But then 21st century monitoring from space began to show a much smaller role for glacial ice loss in sea-level rise. Which to believe?
世界の氷河は恐ろしい早さで後退しており、グリーンランドや南極の氷床の後退よりもかなり早く海水準を押し上げている。しかし一方で21世紀の宇宙からのモニタリングは世界の氷河の後退が海水準上昇に与える寄与はかなり小さいと示している。どちらを信じればいいのだろうか?

Water supply problems—farmers losing meltwater in streams and rivers in the hot, dry summer months—will only get worse. And glaciers will be helping drive up sea level through the end of the century and a bit beyond. But with all glacierized regions losing ice in the present climate and more warming expected, Gardner says, all but the most resilient glaciers are likely to disappear within the millennium. Some glaciers in the Arctic and Antarctic might last that long, but particularly vulnerable regions like the Alps will likely see most of their glaciers disappear by the end of the century.
水供給問題(牧場主は夏の乾燥した暑い時期に使える、小川や河川を流れる雪解け水を失いつつある)は悪化する一方だろう。そして氷河は海水準が今世紀末までか、或いはもうちょっと先まで上昇し続ける手助けをするだろう。しかし「現在の気候と将来の更なる温暖化で氷を失いつつあるすべての氷河地域は、もっとも強い氷河を除いては、1,000年以内に消滅しそうだ」と、Gardnerは言う。北極圏や南極の氷河の中にはそれくらい長く持ちこたえるものもあるかもしれないが、アルプスといった特に弱い地域においては今世紀末にもほとんどの氷河が消滅するかもしれない。

More Genomes From Denisova Cave Show Mixing of Early Human Groups
Denisova洞窟からのより多くの遺伝子が初期人類の混合を示している
Elizabeth Pennisi
パワフルな新手法を用いた化石試料分析によって、異なる古代人類グループが混ぜ合わさった様が明らかに。

News Focus
Troubled Waters for Ancient Shipwrecks
古代の難破船の水難
Heather Pringle
考古学者は難破船から貴重なデータを引き出すための新しい手法を見つけたが、利益目的で難破船をサルベージしている人たちと対峙している。

From Quarry to Temple
石切り場から寺へ
Heather Pringle
Kizilburunが沈没してから2,000年後、それを発掘した考古学者がそれがどこから来て、どこに・何故向かっていたのかを突き止めた。

Following the Flavor
香りに誘われて
Kai Kupferschmidt
なぜ我々に食べ物の好き嫌いがあるのかが次第に明らかになりつつあるが、思っていたよりは複雑であるらしい。

A Floating Lab Explores the Fringes of Science and Gastronomy
浮いた実験施設が科学と料理術の周辺を探索している
Kevin Krajick
Ben Readeとthe Nordic Food Labは1990年代に始まった分子料理術の動きの一つであり、それは食材が料理の際にどのように変換するのかを理解しようとしている。

Letters
China's "Love Canal" Moment?
Chunmiao Zheng and Jie Liu

The True Challenge of Giant Marine Reserves
巨大海洋保護区の真の課題
David M. Kaplan et al.

The True Challenge of Giant Marine Reserves—Response
巨大海洋保護区の真の課題に対する返答
Christopher Pala

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Research
Perspectives
Immunity and Invasive Success
免疫と侵入の成功
Stuart E. Reynolds
アジアのナミテントウはそれが運ぶ病原菌のおかげで世界中の生態系に侵入することができたらしい。Vilcinskas et al.の解説記事。

Review
Impact of Shale Gas Development on Regional Water Quality
シェールガスの発展が地域の水質に与える影響
R. D. Vidic, S. L. Brantley, J. M. Vandenbossche, D. Yoxtheimer, and J. D. Abad
Background: 背景
・従来型の石油・石炭から天然ガスへの転換は比較的クリーンな化石燃料使用へと繋がり、エネルギーを輸入に頼る国々にとって依存性を軽減する上でも重要である。また発電所から出される汚染物質や水銀も低減される。
・水平掘削や水圧fracturingといった新技術がシェールガスという非在来型の天然ガス採掘を可能にした。しかし地域的な水質汚染・ガス漏れ・コンタミ・汚染水排出・事故によるガス流出などの危険が報告されている。

Advances:進展
・最も一般的な問題は地下水への漏れ出しである。掘削が行われている場所で地下水中のメタン検出が報告され、それが自然によるものか人工によるものかが議論を呼んでいる。
・ガス抽出に用いられる水の再利用もまた表層に汚染物質を大量にもたらしていると考えられ、新たな管理戦略が必要とされており、それは今後も強化されると思われる。

Outlook:見込み
・汚染物質の長期モニタリングとデータ統合が水質汚染が招くリスクを軽減させると考えられる。
・法的な調査の秘密性・資金援助が限られていること・発展の速度が速いことなどが環境影響評価研究を妨げている。

Reports
A Reconciled Estimate of Glacier Contributions to Sea Level Rise: 2003 to 2009
2003年から2009年にかけての氷河の海水準上昇への寄与の調整された推定値
Alex S. Gardner, Geir Moholdt, J. Graham Cogley, Bert Wouters, Anthony A. Arendt, John Wahr, Etienne Berthier, Regine Hock, W. Tad Pfeffer, Georg Kaser, Stefan R. M. Ligtenberg, Tobias Bolch, Martin J. Sharp, Jon Ove Hagen, Michiel R. van den Broeke, and Frank Paul
グリーンランドと南極の氷床と異なり、氷河の後退による海水準上昇の寄与の推定は研究ごとに食い違っておりよく分かっていない。人工衛星による質量・高度観測と地上の観測記録から、新たな推定のコンセンサスを得た。多くの地域で地上観測は人工衛星観測よりも大きな流出を物語っている。2003年から2009年にかけてすべての地域で質量が失われており、特に北極圏カナダ・アラスカ・グリーンランド沿岸部・アンデス山脈南部・アジア高原で顕著である。一方、南極では顕著ではない。年間「-259 ± 28 Gt」の速度で質量を失っていると考えられ、両極の氷床縮小とそれによる海水準上昇への寄与のうち、「29 ± 13 %」に相当すると推定される。

Invasive Harlequin Ladybird Carries Biological Weapons Against Native Competitors
外来種のナミテントウが土着の競合者に対する生物兵器を運ぶ
Andreas Vilcinskas, Kilian Stoecker, Henrike Schmidtberg, Christian R. Röhrich, and Heiko Vogel
アジアへの外来種であるナミテントウは、その身体の中に微胞子虫microsporidia)がおり、それが耐性のない甲虫類を殺すことで土着の競合者の個体数を減らすのに寄与していたらしい。