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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog
ラベル Radiocarbon の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
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2014年10月8日水曜日

Intcal13の前バージョンからの変更点

考古学・古気候学・古海洋学・炭素循環研究などで大変重要な放射性炭素年代測定。

放射性炭素年代を暦年代に較正する必要性については前回の記事「Intcalのお話」で述べました。

今回は最近公表された(といっても去年だけど)、Intcal13較正曲線の前バージョンからのアップデートについてまとめておきます。

参考にしているのは以下の論文
IntCal13 and Marine13 Radiocarbon Age Calibration Curves 0–50,000 Years cal BP
Paula J Reimer
Radiocarbon 55, 1869-1887 (2013).


2014年3月31日月曜日

新着論文(Elsevier, Radiocarbon)

Earth and Planetary Science Letters
Holocene glacial discharge fluctuations and recent instability in East Antarctica
Julien Crespin , Ruth Yam , Xavier Crosta , Guillaume Massé , Sabine Schmidt , Philippine Campagne , Aldo Shemesh
東南極氷床のAdélie LandとGeorge V Landの沖から得られた堆積物コア中の珪藻の酸素同位体(δ18Odiatom)をもとに過去11kaの氷河の変動を復元。数百年の周期で変動していることが確認された。最近では1.7kaとAD1980に大きな後退が起きていた。

Assessing influences on speleothem dead carbon variability over the Holocene: Implications for speleothem-based radiocarbon calibration
Alexandra L. Noronha , Kathleen R. Johnson , Chaoyong Hu , Jiaoyang Ruan , John R. Southon , Julie E. Ferguson
中国Heshang洞窟にて採取された鍾乳石の14C・U/Th年代測定から過去10kaのdead carbonの寄与(DCP)の変動を復元し、δ18Oから得られている過去の降水量の記録と比較。完新世中期(5.5–7.1 ka)には気候が湿潤な状態になったことで炭酸塩の溶解がより閉鎖系となっており、DCPは増加していた。逆に8.2kaの乾燥化イベントの際にはDCPは減少していた。

Geochimica et Cosmochimica Acta
A first transect of 236U in the North Atlantic Ocean
N. Casacuberta , M. Christl , J. Lachner , M. Rutgers van der Loeff , P. Masqué , H.-A. Synal
NADWの形成ルートに沿って深層水中の236Uを測定。核実験由来のものが大多数を占めていることから、循環の下流に行くにつれて値が減少。236U/238Uは北大西洋を起源とする水塊のマーカーになるかもしれない(NADWとAAIW/AABWとの区別など)。
※3Lの海水を使用し、AMSで測定する。メソッドの詳細は以下の論文に。
Christl M., Lachner J., Vockenhuber C., Lechtenfeld O., Stimac I., van der Loeff M. R. and Synal H.-A. (2012) A depth profile of uranium-236 in the Atlantic Ocean. Geochim. Cosmochim. Ac. 77, 98–107.

Quaternary Science Reviews
Retreat of the West Antarctic Ice Sheet from the western Amundsen Sea shelf at a pre- or early LGM stage
J.P. Klages , G. Kuhn , C.-D. Hillenbrand , A.G.C. Graham , J.A. Smith , R.D. Larter , K. Gohl , L. Wacker
西南極氷床のHobbs Coast沖の海洋地震波探査からLGMにおける氷床縁辺の安定性や時間変動を議論。もっとも拡大していたのは20.88ka以前であったと考えられ、LGM(23-19 ka)においてもすでに後退が始まっていたことを示唆している。また近傍のサイトでも整合的な結果が得られている。これらの知見は、「西南極氷床の後退(deglaciation)が19kaに同時に始まった」とする仮説に反するものである。

Quaternary Research
A late Holocene paleoenvironmental reconstruction from Agua Caliente, southern Belize, linked to regional climate variability and cultural change at the Maya polity of Uxbenká
Megan K. Walsh , Keith M. Prufer , Brendan J. Culleton , Douglas J. Kennett
カリブ海Belizeのラグーンから得られた堆積物コアから過去3kaの環境変動とマヤ文明との関係性を議論。

Quaternary International
Potential of pollen and non-pollen palynomorph records from Tso Moriri (Trans-Himalaya, NW India) for reconstructing Holocene limnology and human–environmental interactions
Christian Leipe , Dieter Demske , Pavel E. Tarasov , Bernd Wünnemann , Frank Riedel
インド北西部のTso Moriri湖から得られた堆積物コアの花粉分析から過去12kaの環境変動(自然変動+人間の生活の影響)を復元。11.5-4.5kaには淡水の流入量が増加しており、Sutlej川を通じて下流のインダス文明にも大量の水を供給していたと思われる。4.5-1.8kaには淡水の流入量が最低の値を示し(乾燥化)、流れ出しは著しく減少したか、或いは停止していたかもしれない。こうした水循環の変化がインダス文明の盛衰と関連していた可能性がある。

Radiocarbon
Use of 10Be to Predict Atmospheric 14C Variations during the Laschamp Excursion: High Sensitivity to Cosmogenic Isotope Production Calculations
Alexandre Cauquoin, Grant Raisbeck, Jean Jouzel, Didier Paillard
NGRIP-GRIPから得られている10Be記録からLaschamp excursion時(45-38 ka)のΔ14Cを推定。10Beから宇宙線量を推定し、宇宙線量からΔ14Cを推定する。ただし、計算の仕方によって復元されるΔ14Cに大きな食い違いが見られている。

Decadal Variations in Oceanic Properties of the Arabian Sea Water Column since GEOSECS
Ravi Bhushan, Koushik Dutta, Rajesh Agnihotri, R Rengarajan, Satinder Pal Singh
AD1977-1978年にGEOSECSが測定したアラビア海〜インド洋の観測地を1994-1998年に再度訪れ、その間の地球化学的特性(溶存酸素、栄養塩濃度、DIC、Δ14Cなど)の変化を報告。表層400mのSSSに大きな変化が見られ、蒸発-降水のバランスが変化したものと思われる。DICは1,200m深全体で平均して8 μmol/Kg増加していた。表層のΔ14Cは徐々に減少する一方で、亜表層のΔ14Cは徐々に増加していた(核実験由来の14Cの拡散)。

2013年9月15日日曜日

新着論文(JC, EPSL, CG, Radiocarbon)

◎Journal of Climate
Decadal freshening of the Antarctic Bottom Water exported from the Weddell Sea
Jullion, L., A. Naveira Garabato, M. Meredith, P. Holland, P. Courtois, and B. King
人為起源の気候変化に伴い、南極周回流が南極の氷を融解させていると考えられているが、その観測的な証拠はほとんど得られていない。南極半島の東部において、南極底層水(AABW)がより低塩分化していることが確認された。

If anthropogenic CO2 emissions cease, will atmospheric CO2 concentration continue to increase?
MacDougall, A., M. Eby, and A. Weaver
急激にCO2排出がゼロになったら何が起きるかを、最近永久凍土の炭素も組み込まれた地球システムモデル(UVic ESCM)を用いて評価。CO2排出が止まっても、CO2以外の温室効果ガスによる放射強制力、陸上生物圏からのCO2排出、海洋のCO2吸収が釣り合って、大気中のCO2濃度が少なくとも100年間は一定となることが示された。CO2以外の温室効果ガスによる放射強制力が大きい場合には、大気中のCO2濃度は増え続けることから、これらのガスの削減なしには永久凍土の正のフィードバックによって温暖化が進行し続けると思われる。

Drake Passage oceanic pCO2: Evaluating CMIP5 Coupled Carbon/Climate Models using in-situ observations
Jiang, C., S. Gille, J. Sprintall, and C. Sweeney
ドレーク海峡において観測されているpCO2変動がCMIP5の地球システムモデルで再現できているかどうかを評価。年平均はうまく再現できているが、季節変動の幅は大きく異なった。


◎Earth and Planetary Science Letters
Reconciling discrepancies between Uk37 and Mg/Ca reconstructions of Holocene marine temperature variability
Thomas Laepple , Peter Huybers
堆積物コアを用いた古水温復元で多用される円石藻アルケノンと浮遊性有孔虫Mg/Caの食い違いは、それぞれの生物種の生息環境を反映しているというよりは、プロキシ特有のものである可能性がある。補正の方法を提案。

The influence of kinetics on the oxygen isotope composition of calcium carbonate
James M. Watkins , Laura C. Nielsen , Frederick J. Ryerson , Donald J. DePaolo
炭酸塩のδ18Oは水のδ18Oと必ずしも平衡にない。無機カルサイト沈殿実験から、炭酸脱水酵素(CA)のもとでは各炭酸系構成イオン間の同位体非平衡が抑制されることが示された。天然状態ではこうした非平衡は稀であると思われる。

Cosmogenic nuclide enhancement via deposition from long-period comets as a test of the Younger Dryas impact hypothesis
Andrew C. Overholt , Adrian L. Melott
地球への隕石の飛来量の増加が、大気上層における銀河線フラックスと宇宙線生成核種(14C・10Be・26Al)の生成量を増加させる可能性がある。またその量はアイスコアなどから得られているYDにおける14Cや10Beの増加を説明できるかもしれず、YDが隕石衝突によって起きたとする説を検証できるかもしれない。

Glacial deep ocean sequestration of CO2 driven by the eastern equatorial Pacific biologic pump
Whitney Doss , Thomas M. Marchitto
パナマ海盆から得られた堆積物コア中の底性有孔虫(Cibicidoides wuellerstorfi)のB/Caを用いて過去50kaの東赤道太平洋の底層水(2.2 - 3.6 km)のカルサイト飽和状態を推定。完新世と比較して氷期にはΩが低下しており、鉄やシリカの濃度が変化したことによって、より生物ポンプが活発化していた可能性がある。またδ13Cも軽い値を示し、解釈を支持している。しかし、期待に反して、Globorotalia menardii殻の破砕度は逆に氷期に増加しており、底層水の化学と生物遺骸埋没フラックスの関係が単純でないことを物語っている。

The influence of water mass mixing on the dissolved Si isotope composition in the Eastern Equatorial Pacific
Patricia Grasse , Claudia Ehlert , Martin Frank
世界でも有数の酸素極小層(OMZ)が発達する海域である、東赤道太平洋〜ペルー沿岸部の水柱のケイ素の同位体(δ30Si)を測定。最も南の観測点でδ30Siが最小となり、また濃度も0.2μmol/Kgと小さいことから、生物によって活発に利用されていることを反映していると思われる。中層水のδ30Siは水塊混合・生物源オパールの溶解などによって複雑な挙動を示す。深層水のδ30Siは複数の端成分(NPDWやLCDWなど)の混合で説明できそう。


◎Chemical Geology
Structural limitations in deriving accurate U-series ages from calcitic cold-water corals contrasts with robust coral radiocarbon and Mg/Ca systematics
Marcus Gutjahr, Derek Vance, Dirk L. Hoffmann, Claus-Dieter Hillenbrand, Gavin L. Foster, James W.B. Rae, Gerhard Kuhn
南極Amundsen海から採取された深海サンゴ(Coralliidae spp.、カルサイトの骨格)のLi/Ca・B/Ca・Mg/Ca・Sr/Ca・Ba/CaをLA-ICPMSで測定。Mg/Caは水温計として使えるかもしれない。
また14CやU/Th年代なども併せて測定。14C年代は海水のΔ14Cを反映しているものの、U/Th年代はばらつきが大きく解釈が難しい。αリコイルによってサンゴ骨格内での拡散が起き、閉鎖系が保たれていないことが原因と思われる。従って、カルサイトの骨格を作る深海サンゴはU/Th年代には適さないと思われる。

Interlaboratory comparison of boron isotope analyses of boric acid, seawater and marine CaCO3 by MC-ICPMS and NTIMS
Gavin L. Foster , Bärbel Hönisch , Guillaume Paris , Gary S. Dwyer , James W.B. Rae , Tim Elliott , Jérôme Gaillardet , N. Gary Hemming , Pascale Louvat , Avner Vengosh
4つの異なる研究機関による様々な炭酸塩・海水試料に対するδ11Bの測定値を比較(N-TIMSとMC-ICPMS)。マトリックスがない綺麗な標準試料や海水については、報告されている誤差を大きく外れたような差異は認められなかった。一方でマトリックスの大きい炭酸塩試料については1.46‰(2σ)もの差異が確認され、サンプルサイズとB/Ca比の違いが原因かもしれない。従って、δ11Bの絶対値よりも、相対比のほうが信頼度が大きいと思われる。

Seasonal variability of rainfall recorded in growth bands of the Giant African Land Snail Lissachatina fulica (Bowdich) from India
Ravi Rangarajan , Prosenjit Ghosh , Fred Naggs
インドにおいて得られたカタツムリ(Giant African Land Snail)の殻δ18Oが降水量の指標になるかを検証。週〜月レベルで降水量を反映している可能性があり、観測のギャップを埋めることが可能かもしれない。

High resolution coral Cd measurements using LA-ICP-MS and ID-ICP-MS: Calibration and interpretation
Andréa G. Grottoli , Kathryn A. Matthews , James E. Palardy , William F. McDonough
パナマ湾で採取されたPorites lobataPavona giganteaPavona clavusの3種のサンゴのCdをLA-ICPMSで測定し、湧昇の指標になるかどうかを評価。同位体希釈法のデータと比較したところ、希釈法はCdを低く見積もっていたことが示された。LA-ICPMSの測定値の変動は大きいが、平均値は概ね海水の値を反映していると思われる。
P. clavusについては、湧昇のピークと骨格中のCdのピークには1ヶ月のラグがあり、おそらくCdは生体によって速やかに取り込まれるため、それが抑えられた時に海水のCd濃度が上昇するのかもしれない。P. clavusのCdは海水のCd変動の良い指標になりそうであるが、少なくとも3つのコロニーについて、最低3測線は測定する必要がありそう。

◎Radiocarbon
The Ocean Bomb Radiocarbon Inventory Revisited
Anne Mouchet
海洋の核実験由来14Cの取り込み量は観測とモデルとで大きく食い違っており、その理由はCO2のピストン速度の再現にあるかもしれない。

SHCal13 Southern Hemisphere Calibration, 0–50,000 Years cal BP
Alan G Hogg, Quan Hua, Paul G Blackwell, Mu Niu, Caitlin E Buck, Thomas P Guilderson, Timothy J Heaton, Jonathan G Palmer, Paula J Reimer, Ron W Reimer, Christian S M Turney, Susan R H Zimmerman
南半球の放射性炭素較正曲線(SHCAL)にYDのHuon Pineのデータを追加し、SHCAL13として公表。北半球と南半球の14C年代の違いは「43 ± 23年」と推定される。

2013年7月10日水曜日

新着論文(Radiocarbon, PO, CG)

Radiocarbon
Allocation of Terrestrial Carbon Sources Using 14CO2: Methods, Measurement, and Modeling
Scott J Lehman, John B Miller, Chad Wolak, John Southon, Pieter P Tans, Stephen A Montzka, Colm Sweeney, Arlyn Andrews, Brian LaFranchi, Thomas P Guilderson, Jocelyn C Turnbull
大気中のCO2中のΔ14Cの測定によって、人為起源の化石燃料燃焼由来の炭素や陸上生物圏と大気との炭素交換量を推定することができる。NOAAでは大気Δ14CO2の測定ネットワークを展開している。測定精度と境界層バイアスが不確実性のもととなっている。
Lehman et al.を改変。
大気中のΔ14CO2の変化。色の違いは場所の違い。

Early Bomb Radiocarbon Detected in Palau Archipelago Corals
Danielle Glynn, Ellen Druffel, Sheila Griffin, Robert Dunbar, Michael Osborne, Joan Albert Sanchez-Cabeza
パラオから採取されたハマサンゴのAD1945-2008年のΔ14C記録について(AD1953-57のみは季節レベル)。AD1954のはじめ頃から上昇し始め、AD1976に最大値に達する(途中、1955にも小さなピークが見られる)。最初のピークは大気と海とのCO2の交換(ENSOなど)では説明できないため、マーシャル諸島で行われた核実験によって放出されたbomb-14CがNECやNECCによって輸送されたことを示唆している。
Glynn et al.を改変。
bomb-peakの立ち上がりに2つのピークが確認できる。

Measuring 14C Concentration in Wine to Monitor Global Distribution of 14C
Hirohisa Sakurai, Saori Namai, Emiko Inui, Fuyuki Tokanai, Kazuhiro Kato, Yui Takahashi, Taichi Sato, Satoshi Kikuchi, Yumi Arai, Kimiaki Masuda, Katsumasa Shibata, Yasunao Kuriyama
世界中の7カ国のワイナリーで作られたワインのΔ14Cを測定。南北両半球で有為な差が見られた。しかし混合ぶどうの場合、収穫の時期が醸造年よりも7-12年古いことが示された。つまりワインから大気の14C濃度を推定するのは難しいということになる。

Paleoceanography
Comparison of organic (UK’37, TEXH86, LDI) and faunal proxies (foraminiferal assemblages) for reconstruction of late Quaternary sea-surface temperature variability from offshore southeastern Australia
Raquel A. Lopes dos Santos, Michelle I. Spooner, Timothy T. Barrows, Patrick De Deckker, Jaap S. Sinninghe Damsté, Stefan Schouten
オーストラリア南東部で得られた堆積物コアを用いて過去135kaのSSTを復元。TEX86・アルケノン・有孔虫群集組成を組み合わせてより確度の高い推定を行った。間氷期に高く、氷期に低いという傾向はすべてのプロキシで一致したが、絶対値に大きな食い違いが見られた。TEX86は冬期のSSTを記録していると思われ、退氷期には冬の温暖化が顕著で、Leeuwin Currentが強化されたことが原因かもしれない。或いはTEX86を生成するThaumarchaeotaの棲息時期が変化したのかもしれない。

Impact of sea ice variability on the oxygen isotope content of seawater under glacial and interglacial conditions
C. E. Brennan, K. J. Meissner, M. Eby, C. Hillaire-Marcel, A. J. Weaver
海洋堆積物中の底性有孔虫δ18Oの解釈は氷床と深層水の温度の2つだけが考慮され、その他の変動要因は一般に無視されている。海氷の形成が深層水δ18Owに与える影響をモデルで評価したところ、氷期-間氷期の海氷変動が深層水・底層水のδ18Oに与える影響は少ないことが示された。ラブラドル海などの表層海水では変動が見られた。

Chemical Geology
Stable Sr-isotope, Sr/Ca, Mg/Ca, Li/Ca and Mg/Li ratios in the scleractinian cold-water coral Lophelia pertusa
J. Raddatz , V. Liebetrau , A. Rüggeberg , E. Hathorne , A. Krabbenhöft , A. Eisenhauer , F. Böhm , H. Vollstaedt , J. Fietzke , M. López Correa , A. Freiwald , W.-Chr. Dullo
深海サンゴLophelia pertusa88/86Sr・Sr/Ca・Mg/Ca・Li/Ca・Mg/Liが中層水の指標として使えるかどうかを評価。δ88/86Srは温度指標になると報告されていたが、むしろ海水のSr同位体組成を反映していると思われる。Sr/Caは温度指標になるものの、誤差が大きい。Li/CaとMg/Caは温度以外の要因によっても変動していると思われる。しかし、Li/Mgはその要因を打ち消し、いい温度指標になることが示された。現在の測定精度を考えると、2SDで1.5℃よりも大きい温度変化しか捉えることができないと思われる。

Growth-rate induced disequilibrium of oxygen isotopes in aragonite: An in situ study
Rinat I. Gabitov
生物・非生物源の炭酸塩のδ18Oが海と陸の温度指標として使われているが、非平衡の同位体分別による温度以外の変動要因が存在することも分かっている。aragoniteの沈殿実験を通して、結晶と溶液を時々刻々と同位体分析した。溶液にREEを添加し、結晶への取り込み過程をモニタリングした(成長速度が求まる)。晶出した結晶はSIMSでδ18Oを測定した。結晶の晶出(成長)速度と同位体分別係数の間に負の相関が見られた。

2013年5月25日土曜日

新着論文(GRL, JGR, GBC, Radiocarbon)

GRL
The influence of sea level rise and changes in fringing reef morphology on gradients in alongshore sediment transport
A.E. Grady, L.J. Moore, C.D. Storlazzi, E. Elias, M.A. Reidenbach
海水準上昇とサンゴ礁の悪化がローカルな地形に与える影響をハワイのMolokaiをモデルケースにして評価。岸に沿った方向に広がったサンゴ礁ほど影響を被りやすいことがモデルから示された。

Variability in the width of the tropics and the annular modes
J. Kidston, C. W. Cairns, P. Paga
ハドレーセルの縁と偏西風の関係をGCMで評価。

Can natural variability explain observed Antarctic sea ice trends? New modeling evidence from CMIP5
Lorenzo M. Polvani, Karen L. Smith
近年南極周辺の海氷範囲は’拡大’しており、温暖化によって海氷が融けるという予想に反する。さらに悪いことに、気候モデルは「温室効果ガスの増加と成層圏のオゾンの減少は海氷を後退させる」と予想している。4つのモデルを用いて食い違いの原因を検証。現在見られている南極の海氷の変動は自然変動の範疇にあり、人為起源と結論づけることは難しい。

JGR-Oceans
Integrating satellite observations and modern climate measurements with the recent sedimentary record: An example from Southeast Alaska
Jason A. Addison, Bruce P. Finney, John M. Jaeger, Joseph S. Stoner, Richard D. Norris, Alexandra Hangsterfer
アラスカ南東部のフィヨルドで得られた堆積物コアから過去100年間の環境復元。Br/Cl比がPDOの指標になるらしい。

GBC
Processes affecting greenhouse gas production in experimental boreal reservoirs
Jason J. Venkiteswaran, Sherry L. Schiff, Vincent L. St. Louis, Cory J. D. Matthews, Natalie M. Boudreau, Elizabeth M. Joyce, Kenneth G. Beaty, R. Andrew Bodaly
陸が浸水することでCO2やCH4をはじめとする温室効果ガスを放出する。5年間にわたって行われたFlooded Upland Dynamics Experiment (FLUDEX)の結果について。

Global trends in surface ocean pCO2 from in situ data
A. R. Fay, G.A. McKinley
海洋は人為起源のCO2を吸収するため、間接的に気候変化を緩和している。1981-2010年にかけての全球スケールの海洋表層水のpCO2のトレンドを評価。熱帯・亜熱帯域の表層水pCO2は大気のpCO2上昇にほぼ並行している。赤道大西洋の場合、温暖化によって海洋表層pCO2は大気pCO2よりも早く上昇しており、吸収能力が低下している。高緯度の海はデータが著しく不足しているが、南大洋周辺の海洋表層pCO2は Southern Annular Mode(SAM)などの気候変動によって大きく影響を受けている。

JGR-Atmosphere
A model-based test of accuracy of seawater oxygen isotope ratio record derived from a coral dual proxy method at southeastern Luzon Island, the Philippines
Gang Liu, Keitaro Kojima, Kei Yoshimura, Takashi Okai, Atsushi Suzuki, Taikan Oki, Fernando P. Siringan, Minoru Yoneda, Hodaka Kawahata
フィリピン・ルソン島から得られたハマサンゴのSr/Ca・δ18Oから1979-2001年の海水δ18Oの変動を復元。1次元ボックスモデルからうまく再現することができた。一部見られる季節変動の食い違いは、サンゴの生息場所における混合層の深さや湧昇などが原因と考えられる。

Radiocarbon
Comparison of 14C and U-Th Ages in Corals from IODP #310 Cores Offshore Tahiti
Nicolas Durand, Pierre Deschamps, Edouard Bard, Bruno Hamelin, Gilbert Camoin, Alexander L Thomas, Gideon M Henderson, Yusuke Yokoyama, Hiroyuki Matsuzaki
IODP310のタヒチにおいて得られた化石サンゴからINTCAL較正曲線に多数データを追加(特にMWP-1aが起きた付近の16-14ka)。これまでタヒチの礁嶺において得られた陸上掘削よりもはるかに古いデータが得られた(例えばBard et al., 1998)。
※僕も研究に使っている試料です。

Integration of the Old and New Lake Suigetsu (Japan) Terrestrial Radiocarbon Calibration Data Sets
Richard Andrew Staff, Gordon Schlolaut, Christopher Bronk Ramsey, Fiona Brock, Charlotte L Bryant, Hiroyuki Kitagawa, Johannes van der Plicht, Michael H Marshall, Achim Brauer, Henry F Lamb, Rebecca L Payne, Pavel E Tarasov, Tsuyoshi Haraguchi, Katsuya Gotanda, Hitoshi Yonenobu, Yusuke Yokoyama, Takeshi Nakagawa, Suigetsu 2006 Project Members
水月湖において掘削された年縞堆積物コア(SG06)中の植物片から、INTCAL較正曲線に多数データを追加。ほぼ大気と同等に見なせる550点の放射性炭素のデータが新たに追加された。SG93の243点のデータも加えて、過去52.8kaの808点にわたる、リザーバー効果に影響されない放射性炭素のデータを報告。
>関連する論文
A Complete Terrestrial Radiocarbon Record for 11.2 to 52.8 kyr B.P.
11.2 - 52.8 kyrの間の完全な陸域の放射性炭素の記録

Christopher Bronk Ramsey, Richard A. Staff, Charlotte L. Bryant, Fiona Brock, Hiroyuki Kitagawa, Johannes van der Plicht, Gordon Schlolaut, Michael H. Marshall, Achim Brauer, Henry F. Lamb, Rebecca L. Payne, Pavel E. Tarasov, Tsuyoshi Haraguchi, Katsuya Gotanda, Hitoshi Yonenobu, Yusuke Yokoyama, Ryuji Tada, and Takeshi Nakagawa
Science (19 Oct 2012)
放射性炭素は過去5万年間の地質学試料・考古学試料などに年代を与えるだけでなく、炭素循環におけるトレーサーとしても重要である。しかしながら12.5kaよりも前の大気の14Cを反映する記録はこれまで不足しており、氷期に相当する試料の高精度の年代測定は限られていた。日本の水月湖から得られた年縞堆積物を用いて過去52.8kaから11.2kaの大気の14Cを高精度に復元。これによって放射性炭素年代の測定限界までの総括的な記録が完成することになる。水月湖から得られた時間スケールを用いることで他の陸上の古環境記録との直接対比も可能になり、さらに大気-海洋の海洋の放射性炭素に関する関係性(海洋のローカルなリザーバー年代など)を求めることが可能になる。
>論文概説「湖の堆積物から大気の放射性炭素を復元することの意義

Atmospheric Radiocarbon for the Period 1950–2010
Quan Hua, Mike Barbetti, Andrzej Z Rakowski
木の年輪から得られた、1950-2010年にかけての季節レベルの大気14CO2記録を報告。北半球を3つ、南半球を2つに分けている。

Decadal Changes in Bomb-Produced Radiocarbon in the Pacific Ocean from the 1990s to 2000s
Yuichiro Kumamoto, Akihiko Murata, Takeshi Kawano, Shuichi Watanabe, Masao Fukasawa
1990年代のWOCEの際に広く海洋表層水の核実験由来の14Cが測定された。その後2000年代に再度同じ測線で測定された(CLIVAR)。太平洋の7本の測線の時間変化を報告。亜寒帯・赤道域の鉛直構造には大きな変化は確認されなかった。亜熱帯域では、太平洋の北西部と南部とでは大きな違いがあり、前者はbomb-14C濃度が著しく低下しているのに対し、後者は逆に温度躍層の下部で増加していた(SAMWによる取り込み?)。温度躍層水の気体交換の時間の違いが原因と考えられる。

Simulated Last Glacial Maximum ∆14Catm and the Deep Glacial Ocean Carbon Reservoir
Véronique Mariotti, D Paillard, D M Roche, N Bouttes, L Bopp
氷期の大気中のΔ14Cは420 ± 80 ‰だと報告されている(産業革命以前は0‰)が、’大気上層の生成率’と’炭素循環による分配’がその原因を担っていると考えられている。アイスコア10Beからは磁場変動だけでは200 ± 200 ‰しか説明できないと考えられており、残り220‰が炭素循環によるものと思われる。
 一つの案としては、'南大洋の成層化の強化'だけで「大気中のCO2濃度の低下(~180ppm)」および「δ13Cの変化」を大部分説明できると考えられている。そうした深層水はΔ14Cが非常に低く、それが大気に放出された時に大気Δ14Cを低下させたと考えられている。
 大気上層の14C生成率と14Cリザーバー間の相互作用を考慮し、CLIMBER-2モデルを用いて南大洋の'鉄肥沃(iron fertilization)効果'、'brine'、'生成率'の3つの作用を評価した。brineでかなりの部分を説明することが可能で、さらにモデルで初めてpCO2、δ13C、Δ14Cのすべての変化をうまく再現することができた。
>関連する論文
Impact of brine-induced stratification on the glacial carbon cycle
N. Bouttes, D. Paillard, and D. M. Roche
Clim. Past, 6, 575-589, 2010

Last Glacial Maximum CO2 and δ13C successfully reconciled
N. Bouttes, D. Paillard, D. M. Roche, V. Brovkin, L. Bopp
Geophysical Research Letters DOI: 10.1029/2010GL044499 (2011)

Systematic study of the impact of fresh water fluxes on the glacial carbon cycle
N. Bouttes, D. M. Roche, and D. Paillard
Clim. Past, 8, 589-607, 2012

Impact of oceanic processes on the carbon cycle during the last termination
N. Bouttes, D. Paillard, D. M. Roche, C. Waelbroeck, M. Kageyama, A. Lourantou, E. Michel, and L. Bopp
Clim. Past, 8, 149-170, 2012