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2014年6月22日日曜日

論文が受理されるまで

遅ればせながら先日、ようやく1本目となる学術論文が受理され、公表されました。

データ取得から受理までに要した時間は実に2年半

「とにかく時間がかかった」という苦労話を周囲の研究者には伝えますが、だいたい返って来る答えは「そんなものだよ」

たった1本論文を仕上げるのにこんなに多くの時間を消費し、労力を割く必要があるのであれば、論文をなかなか書かない研究者がいるのも決して理解できなくはないかな。でも、論文を書くのは科学者としての責務なので、決して避けてはいけません。

後輩の参考になるかどうかはよく分かりませんが、今回は、「論文を仕上げるには実に長い時間がかかる」という点について綴っておきたいと思います。



いったい何が障壁になるのか?



最初の頃は図を作るのも、日本語を英語に直すのも、引用文献のリストを仕上げるのも、それなりに労力を要するし、慣れていない分、時間がかかるかもしれません。

それよりももっと時間を要するのは、第一稿を書き上げてから、共著者とやり取りする時間です。
また投稿後も、編集部や査読者とのこれまた長いやり取りが待っています


僕の経験を例に出すと、自分の今の頭からはこれ以上のものは出てこない!というレベルにまで原稿を仕上げ、それをもって第一稿とします。

それを共著者の方に「目を通していただけますか?」とメール添付し、内容を見ていただきます。共著に加わるためには論文の内容に通じていることが不可欠なため、このプロセスは絶対に必要です。
しかし必ずしもすぐにコメントいただけるわけではありません。


それは何故か?



論文を書くのが仕事である研究者といえど、
・共著論文のチェックに割ける時間はふんだんにはない(別の仕事が山積み)
・他にもチェック・レビューすべき論文・書類などがあり、どうしても優先度を設けなくてはならない
・自分自身、筆頭で論文を執筆しなければならない

などといった諸事情があるためです。


共著者が複数いる場合、「誰から順にチェックをお願いするのか」など、時間配分についても考える必要があります。
共著者それぞれに都合があり、忙しさや事情も時期によってマチマチです。

なので、もっとも効率的なのは、複数のプロジェクトに関与して、同時進行で複数の論文を書き、共著者とやり取りすることです。そうすれば、作業効率は倍増!
…とはいうものの、現実にはそううまくは行かず、新たなデータを追加するたびにこれまでの解釈が正しいのかと頭を抱えたり、未処理のデータと論文の草稿が積み上がるだけといった窮地に追い込まれることもしばしば。
データを取得したらさっさと論文を書いてしまうのが一番です。草稿を殴り書きするだけでもかなり頭の中がすっきりして、論文化するにはあと何が足りないのか、などが見えて来ることもあります。

私の専門分野は地球化学なので、データが手元にあれば、学術雑誌のレベルを問わなければ論文1本にはなります。
だからこそ、一度データを取得したら、とりあえずそれをどこかに投稿するまで次のプロジェクトには着手しない、といった戦略を取ってきました。
学生のうちはあまり手を広げても計画がうまくいかないので、それくらいの心持ちでいいと思います。




さて、論文投稿後にはどういったやり取りがあるでしょうか?

投稿後、雑誌の編集部から書式・英語に対するコメントがくることがしばしばあります。

書式についてはすべて雑誌のHPに書いているので(英語なので解読するのは難しいのですが)、自分の不注意としかいいようがありません。

僕が受けた指摘の例
・各ページにページ番号を入れよ
・行数は表示するな
・acknowledgement(謝辞)のスペルがおかしい
・表は原稿には含めるな
・タイトルは◯◯字以内に納めよ

英文に関しては僕も経験が浅いのであまり多くは語れませんが、英語ネイティブがチェックした原稿にも割とよくケチがつくといいます。


日本人が犯しやすい間違いとしては、
・「a」と「the」の混同
・可算・不可算名詞の混同
・関係ない場所での接続語「However」「Therefore」の乱発
・「We ~~~」「This study ~~~」「Our Studies ~~~」「In this study, ~~~」といった話者の立場が統一されていないこと
・「-」と「–」の使い分けができていない
などがあるかと思います。

編集部によっては、英語がおかしいだけで次の査読プロセスに回さない(即リジェクト)、といったこともあると聞くので、投稿前にやはり英文校正サービスを利用するのが安全かと思います。

英文校正は数万円かかりますが、数日もすれば返ってきます。
ただし、英文校正も、必ずしもその分野の専門家が担当するわけではないので、カッコイイ言い回しで論文が仕上がるというよりは、万人に通じる文法が保証される、といった認識でいるのが無難かなと思います。
(※加筆、英文校閲サービスを利用しているにもかかわらず、だいたいレビュアーには英語の直しが必要というコメントがつきます)

無事論文が査読に回ると、今度はレビュアーとの飽くなき闘いが幕を開けます。
査読過程のピアレビューという制度は、”仲間の”チェックを経ることで、論文をより客観的で良いものに仕上げる過程ですが、実際には”敵対する科学者”に論文が回されると、徹底的に批判されてリジェクトされることも多々あります。

査読後の論文掲載の判断は編集者に権限があるため、査読者がいくら掲載の可否やその他コメントを寄せても、最終判断は編集者に委ねられます。
しかしながら、結局どの査読者に論文が回されるかも運次第です。それでもってアクセプト(受理)・リジェクト(掲載拒否)の命運が分かれることもあります。

雑誌によってはこうした事情を考慮し、「レビューしてくれそうな可能性のある科学者のリスト」のみならず、「レビューに回してほしくない科学者のリスト」を添付することを要請するところもあります。
しかしそういった事情を考慮するかどうかも、結局は編集者の裁量に任されます。
すなわち、編集者選びというのも、一つ重要になってきます。雑誌によっては複数人の編集者がおり、誰に編集をお願いするかを選ぶこともできます。

つまり、査読という一見公平なプロセスは、実際には研究者のパワー・ゲームが繰り広げられる場でもあるわけです。
科学という営みに公平な基準を持ち込み、科学を進展させるためにピアレビューは進化した。だが、しょせんは人間がつくった制度である。過信は禁物だし、例外を認めることも忘れてはならない。(中略)とにかく、この世の人間関係はすべて力学である。論文掲載をめぐるパワーゲームは、実力派の科学者、ネイチャーとサイエンス、そして他の科学専門誌も交えて、日々、進行中なのだ。
「科学嫌いが日本を滅ぼす〜ネイチャー・サイエンスに何を学ぶか」(竹内薫、2011年)

最近ではダブル・ブラインド方式という、査読者にも誰が書いた論文なのか分からないようにする方法も取られますが、引用の仕方や手法などを見ればどこの研究室が書いた論文かはだいたい想像がつきますよね。

私は幸い、レビューが早い(リジェクトが早い)雑誌に出すことが多かったので、レビューが返ってくるまでの時間にあまりやきもきしませんでしたが、周囲の経験談を聞いていると、半年〜数年といった長期間放置されることもあり、メールで「レビューはどうなった?」と編集者をつついてようやくレビューに回してくれたり、実は済んでいてすぐに返されたりといったこともあるようです。

レビュアーからは実に様々な注文や批判が付けられます。
だいたいは建設的なコメントをいただけますが、たいして原稿に目を通していないのに感情的に痛烈な批判を浴びせるレビュアーもいます。


論文を出すには自分が原稿を仕上げる以上に、その後の共著者・編集者・査読者とのやり取りが実は大変だということを、書き綴っておきたいと思いました。
もちろん、時間はかかりますが、共著者や査読者とのやり取りを経てこそ、論文がより客観的で・より幅広い知識を取り入れた良いものに仕上がることは間違いありません。
だからこそピア・レビューの制度は生き残ってきたのだとも思います。

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最後に自分の経験を書いておきます。


幻の1本目(2本目になる予定)の論文
2010年1月:学部4年時にデータを取得
2010年7月:修士1年の夏に論文を執筆
(指導教官に論文のインパクト不足を指摘され、しばらくお蔵入り)
2013年10月:博士2年の秋にデータを追加取得
2013年12月:論文の第一稿が完成
2014年1〜5月:共著者6名のチェック+原稿修正
2014年5月:投稿
2014年6月:英語にケチがついて返され、英文校正待ち
2014年7月:再投稿

1本目の論文(先日受理された、1本目の論文)
2011年11月:修士2年時にデータを取得
2012年:ひたすら勉強+考察
2013年1月:博士課程1年の終わりころ、論文の第一稿が完成
2013年1月〜8月:ひたすら共著者4名のチェック+議論+原稿修正
2013年9月:投稿
2013年9〜2014年4月:リジェクト→原稿修正→再投稿を4回繰り返す
2014年4月:Major Revisionで原稿が返って来る
2014年5月:Revisionを2回繰り返し、ようやく受理
2014年6月:論文がWeb上で公開

3本目(予定)の論文
2013年11月-2014年2月:データ取得
2014年3-6月:ひたすら勉強+考察(現在)
2014年7 or 8月:投稿(目標)

こうやって過去の経験を振り返ると、3本目の論文も目標通りいくか、かなり不安になってきますね…
なんとか今年の夏までに投稿まで漕ぎ着けて、次のデータ取得をし、博士論文執筆に取りかかるのが今のところの目標です。
あと、後輩と書いている共著論文も7月末が締切なので、自分が苦しんだ分、後輩にはできるだけ気持ちよく書いてもらおうとサポートに力を入れているところです。