Tim M. Conway & Seth G. John
Nature 511, 212–215 (10 JULY 2014).
とその解説記事
Fingerprints of a trace nutrient
Joseph A. Resing & Pamela M. Barrett
Nature 511, 164–165 (10 JULY 2014).
より。
単に「鉄」というと、まさか海水中に豊富にあるとは思わないかもしれない。
我々人類が使っている鉄は、かつて海に大量に溶け込んでいたものが、海底に沈殿・堆積したものだ。
ある地質学的時代を境に地球大気に酸素が満ちあふれたとき、海水の酸化還元状態が変化したことが原因と考えられている(cf. GOE)。
それが様々な地質活動を経て地上に産出し(いわゆる縞状鉄鉱床)、工業的に精錬されたのちに利用されている。
現在でも海水中に鉄はわずかながら溶けているが、地域的不均質性が大きいのが特徴である。
例えば、世界の海洋にはHNLCという、栄養塩は豊富にありながら、どういうわけか生物一次生産が小さい海域が存在する。
その原因となっているのが、微量に存在する”鉄”だと考えられており、様々な観測事実からも受け入れられている(マーチンの鉄仮説)。
ちなみに、鉄の重要性は氷期-間氷期スケールの炭素循環にもあてはまる。
>拙ブログ記事
氷期における”鉄肥沃”仮説を支持する堆積物記録(Martínez-García et al., 2014, Science)
氷期は一般に乾燥気候であったために(また海水準低下で陸地面積が増加していたことも相まって)、大気から海洋へともたらされるダスト(塵)の量が、間氷期の2–20倍多かったと考えられている。
海洋表層の鉄は窒素固定や光合成を刺激するため、生物一次生産を活発化させる。生成された有機物は深層へと沈降除去される(生物ポンプ)。その結果、大気中のCO2濃度を低下させるのにも一躍買っていたというのが、炭素循環研究者のコンセンサスとなっている。詳細は上のリンクを参照いただきたい。
今回の論文では、GEOTRACESの一環で観測された、北大西洋の東西断面の鉄の濃度と同位体比(δ56Fe)の鉛直分布を報告している。さらに簡単な混合モデルから、「ダスト」・「中央海嶺熱水孔」・「堆積物からの溶出」といった供給源の寄与率を推定している。
同位体は鉄の”起源”に関する情報を与えるため、濃度と組み合わせることで供給源がよりはっきりするのである。
これまで推定が不確かだったことの原因として、測定精度の問題が挙げられる。
彼らが新たに開発した手法によって、正確にδ56Feが求められるようになり、今回の成果に繋がった。測定にはMC-ICPMSを用いており、同位体スパイクを加えて測定を行う。
北大西洋への鉄の供給源推定の結果を以下にまとめておく。
ダスト起源のものが大部分を占めており(71–87%)、その起源はさらにサハラ砂漠に求められた。
実際に衛星・航空機観測などでも大量のダストが北大西洋に降り注いでいることが確認されている。
※ただし、鉄の同位体分別過程についてはまだ分からないことが多いらしい(ダストの鉄が海水に溶解する際、など)。
中央海嶺からの鉄の供給は2–6%を担っている。
中央海嶺は地球を1周するように取り囲んでおり、北大西洋以外でも大きな役割を負っていると想像される。
中央海嶺の活動の時間スケールは百万年以上に及ぶため、地質時代の鉄供給を考える上でも非常に重要である。
大陸縁辺からも、かなりの鉄が堆積物からもたらされている(北米大陸から10–19%、アフリカ大陸から1–4%)。
一般に堆積物中の酸化還元反応は複雑だが、主に酸化された堆積物からの非還元的放出によるという。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今回の論文は北大西洋の鉄の分布に関するものだが、今後、様々な海盆で採取された海水試料の測定を通じて、鉄の生物地球化学的物質循環に関する新発見が相次ぐだろう。
特に、海洋一次生産の大部分を担っている東赤道太平洋と南大洋における研究は重要である(生物一次生産⇄大気中の温室効果ガス・エアロゾル⇄炭素循環⇄気候フィードバックが存在するため)。
東赤道太平洋では赤道湧昇によって豊富な栄養が表層にもたらされているが、大気からのダスト(つまり鉄)の供給が小さいために、HNLC海域となっている。
「南米大陸西岸の堆積物」や、「西赤道太平洋の海底火山(赤道潜流が運搬する)」由来の鉄が東赤道太平洋にもたらされていると示唆されているものの、まだ解明には至っていない。
今後の発展が楽しみな分野である。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
※補足(140712)
「理科系の作文技術」で学んだ知識をもとに、少し推敲してみた。ちょっとお固いかな。
彼らが新たに開発した手法によって、正確にδ56Feが求められるようになり、今回の成果に繋がった。測定にはMC-ICPMSを用いており、同位体スパイクを加えて測定を行う。
北大西洋への鉄の供給源推定の結果を以下にまとめておく。
ダスト起源のものが大部分を占めており(71–87%)、その起源はさらにサハラ砂漠に求められた。
実際に衛星・航空機観測などでも大量のダストが北大西洋に降り注いでいることが確認されている。
※ただし、鉄の同位体分別過程についてはまだ分からないことが多いらしい(ダストの鉄が海水に溶解する際、など)。
中央海嶺からの鉄の供給は2–6%を担っている。
中央海嶺は地球を1周するように取り囲んでおり、北大西洋以外でも大きな役割を負っていると想像される。
中央海嶺の活動の時間スケールは百万年以上に及ぶため、地質時代の鉄供給を考える上でも非常に重要である。
大陸縁辺からも、かなりの鉄が堆積物からもたらされている(北米大陸から10–19%、アフリカ大陸から1–4%)。
一般に堆積物中の酸化還元反応は複雑だが、主に酸化された堆積物からの非還元的放出によるという。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今回の論文は北大西洋の鉄の分布に関するものだが、今後、様々な海盆で採取された海水試料の測定を通じて、鉄の生物地球化学的物質循環に関する新発見が相次ぐだろう。
特に、海洋一次生産の大部分を担っている東赤道太平洋と南大洋における研究は重要である(生物一次生産⇄大気中の温室効果ガス・エアロゾル⇄炭素循環⇄気候フィードバックが存在するため)。
東赤道太平洋では赤道湧昇によって豊富な栄養が表層にもたらされているが、大気からのダスト(つまり鉄)の供給が小さいために、HNLC海域となっている。
「南米大陸西岸の堆積物」や、「西赤道太平洋の海底火山(赤道潜流が運搬する)」由来の鉄が東赤道太平洋にもたらされていると示唆されているものの、まだ解明には至っていない。
今後の発展が楽しみな分野である。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
※補足(140712)
「理科系の作文技術」で学んだ知識をもとに、少し推敲してみた。ちょっとお固いかな。