Main contents

☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年1月31日木曜日

気になった一文集(日本語 ver. No.4)


…「採れなかった」「発見できなかった」はネガティブ・データと呼びます。しかし、論文になかなかしづらくても、科学の世界ではネガティブ・データをきちんと収集することが大切です。(pp. 103)

「研究は趣味としてやるのが一番」とはいいますが、一方で、給料をいただく以上、プロフェッショナルでなくてはなりません。プロの研究者の仕事は、研究をして、その結果出てきた成果を論文の形で公表すること。論文が世に出て初めて、一連の研究に一区切りがつくのです。(pp. 281)

「世界で一番詳しいウナギの話」:塚本勝巳 著
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 最後にひとこと言いたい。東日本大震災を契機に、脱原発への方針転換は、エネルギー需要の観点から天然ガスなどの化石燃料の消費の増加を容認している。もし、二酸化炭素(CO2)の増加で地球が将来的に灼熱地獄になるということを本気で主張するならば、脱温暖化の支持者はそれを食い止める主張を今こそ声高に言うべきではないか。
 しかし、実際は脱温暖化の主張は完全にトーンダウンしてしまっている。かつて「温暖化の議論は終わった」「ただちに行動に移さなければ地球環境は取り返しのつかないことになる」といった扇情的な温暖化地獄を論じる主張が多くみられたが、科学者は信念を持って主張し続けるべきである。今こそ責任ある科学者としての行動が問われている。

田中 博(筑波大学教授) 「北極振動と地球温暖化の関係」日経サイエンス2013年2月号 pp. 56

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このことこそが、ハンセンが孫に顔向けができず、彼らのために活動するのを禁じ得ない理由だ。「気候システムをコントロール不能のものにして次の世代の若者たちに引き継ぐなど許されることではない」。

John Carey「気候変動 想定外の加速」日経サイエンス2013年2月号 pp. 63

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多くの学者が現状の学会誌のシステムに満足していないことは明らかです。高い掲載料金を求められ、査読プロセスに多大な時間がかかり(執筆時から半年〜1年というタイムラグは一般的)、論文の著作権を学会誌に譲渡するということが一般的である学会システムは今後、大きな変革を求められることになるでしょう。

出版コストが高く、かつアクセスコストも高いことは、大多数の研究者の研究が一般人には発見しづらく、研究者同士のシナジーやインタラクションも阻害される要因となっているといえます。また学会誌のスキームでは、商業書籍と異なり、著者である研究者には印税が入らないことも当然の常識となっていますが、果たして本当にそれでいいのか再考にあたるのではないでしょうか。

知の最前線である学術界がほかの社会領域に先駆けてオープン化を促進し、持続可能なビジネスモデルを追求すること、それは現代のように劇的な情報革命の時代を生きる学究の徒に求められる一種の倫理である


ドミニク・チェン特別寄稿:天才A・シュワルツの死が知らしめた、ある問題について」WIRED (Jan 30 2013)

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カラスが増えたから殺します
さらに猿が増えたから減らします
でもパンダは減ったから増やします
けど人類は増えても増やします

僕らはいつでも神様に
願って拝んでても いつしか
そうさ僕ら人類が 神様に
気付いたらなってたの 何様なのさ

「おしゃかしゃま」RADWIMPS(野田洋次郎 作詞)

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楽しい時だけが仲間じゃないだろ オレ達は
ともに悔しがり 共に励まし合い 行きてゆく笑顔の日々を

忘れるな 俺ら友であり ライバル
薄っぺらな関係ではないはず
だが本当きつけりゃ支えとなる
俺だけじゃない仲間 体を張る

「仲間」ケツメイシ

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トリケラトプスに触りたい ふたご座でのんびり地球が見たい
貰った時間で出来るかな 長いのかな 短いのかな

「宇宙飛行士の手紙」Bump of Chicken(藤原基央 作詞)

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科学の本に書いてあった 作り方の他にアレンジ
実在しない穴を開けて 恥ずかしい名前付けた

実在しない星を 探す心が プラネタリウム

「プラネタリウム」Bump of Chicken(藤原基央 作詞)

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膨大な知識があればいい 大人になって願う事
心は強くならないまま 守らなきゃいけないから

消えない悲しみがあるなら 生き続ける意味だってあるだろう
どうせいつか終わる旅を 僕と一緒に歌おう

「HAPPY」Bump of Chicken(藤原基央 作詞)

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夕焼け空 きれいだと思う心を どうか殺さないで
そんな心 馬鹿正直に 話すことを馬鹿にしないで

「真っ赤な空を見ただろうか」Bump of Chicken(藤原基央 作詞)

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実は飛べるんだ その気になれば そりゃもう遠くへ!
放り投げるんだ その外したばっかりの
エラい頑丈に造っちまった 自前の手錠をさ

「グロリアスレボリューション」Bump of Chicken(藤原基央 作詞)

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燃えるのか これ燃えるのか
燃えなさそうでも 燃えるのか
燃えますよ 灰に出来ますよ
あなたがそうしたくないだけなのでは

出来るのか 処理出来るのか
そんなすぐ片付く ゴミなのか
ゴミなのか これゴミなのか
認めたくないけど違うのか

「分別奮闘記」Bump of Chicken(藤原基央 作詞)

新着論文(Nature#7434)

Nature
Volume 493 Number 7434 pp577-714 (31 January 2013)

EDITORIALS
Change for good
利益のための変化
アメリカ合衆国は気候の議論に目を向けさせるために、大いに力を注ぐべきだ。
'the administration should issue strong regulations for power plants and send a message to the coal industry: clean up or fade away.'
'the administration should face down critics of the project, ensure that environmental standards are met and then approve it.'

Inflatable friends
膨らむ友達
研究用の気球を用いて大気を研究することは可能だが、宇宙までは届かない。
先日NASAがこれまでで最も長く(46日間)、南極の39km上空に気球を上げ続けて記録を更新したことを受けて。国際宇宙ステーションまで気球を上げて物資を運ぶという計画も持ち上がっているという。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Trapping water from desert fog
砂漠の霧から水を捕獲する
Adv. Mater. http://dx.doi.org / 10.1002/adma.201204278 (2013)
ある高分子でコーティングされた綿の繊維は室温ではスポンジ状になっており、自身の3倍の重さの水を大気中から吸収でき、熱することで再度放出することが可能である。砂漠の大気から水分を抽出する技術などに応用が可能かもしれない。
(※程度によっては国際問題になりそうな印象)

Milky Way shows beetles the light
天の川が甲虫に光を示す
Curr. Biol. http://dx.doi.org/ 10.1016/j.cub.2012.12.034 (2013)
人間や鳥がそうするように、フンコロガシもまた天の川の星の光を頼りに方角を判断しているらしい。星空が広がっているとフンコロガシはまっすぐ進むが、上を見上げる目を覆うとあまりまっすぐ進めなくなる。プラネタリウムで同じように実験を行うと、天の川を頼りに進む方向を決めることが分かった。昆虫が星の光に導かれるのがこの研究で初めて明らかになったが、他の昆虫でも同様の行動を取っているものがいるだろうと推測されている。

Predicting storms in East Asia
東アジアで嵐を予測する
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1214626110 (2013)
モンスーンと熱帯低気圧を予測するのは困難であるが、東アジアに到達するものであればある程度可能かもしれない。西部太平洋を覆う亜熱帯高気圧は夏のモンスーン性の雨や熱帯低気圧の活動度などと相関が良く、モデルシミュレーションを通しても「高気圧の規模・位置」と「太平洋中央部とインド洋の温度」の間に相関が見られた。
>問題の論文
Subtropical High predictability establishes a promising way for monsoon and tropical storm predictions
Bin Wang, Baoqiang Xiang, and June-Yi Lee

Old age, bad sleep, poor memory
年をとるほど、睡眠が妨げられ、記憶力が低下する
Nature Neurosci. http://dx.doi. org/10.1038/nn.3324 (2013)
脳の外皮の細胞数が加齢とともに減少することで、睡眠の質が低下し(深い眠りが阻害される)、長期記憶力が低下することが分かった。この知見から記憶力を増強するための手段が改善するかもしれない。

Turtle arrested development
カメは発達を遅らせる
Am. Nat. http://dx.doi. org/10.1086/668827 (2013)
は虫類の中には元気な子供を産むものがいるが、カメはそうなるようには進化していない。卵管の酸素濃度が低いことが、発達を遅らせている可能性があるという。地上に産みつけるまで卵管に卵を保管しておける能力の説明になるかもしれない。

SEVEN DAYS
※今回は省略

NEWS IN FOCUS
Obama rekindles climate hopes
オバマが気候の希望を再燃させる
Jeff Tollefson

FEATURES
Caught in the act
現場を取り押さえられる
Maggie McKee
もっとも輝かしい年代の、最も際立った太陽系の惑星を我々は見ているのかもしれない。「土星の輪」「エンセラダス」「イオ」「タイタン」について。

A big fight over little fish
少ない魚をめぐる大きな戦い
Brendan Borrell
数十年間にわたって漁業においてサイズの制限が資源管理の一環として行われてきたが、それがかえって状況を悪くしていると考えるものもいる。北極海のタラの例など。

COMMENT
After Einstein: Scientific genius is extinct
アインシュタインののち、科学の天才は絶滅した
「多くの研究グループが新たな科学原理を作る代わりに、知識をうまく処理しているだけなので、自然科学における驚くほどの独創性はもはや過去の遺物になってしまった」とDean Keithは懸念している。

CORRESPONDENCE
how would they survive?
彼らはどうやって生き残る?
Diogo Veríssimo & Laure Cugnière
絶滅した生物を生き返らせても、彼らがどのように生活するか、生態系にどのような影響を及ぼすかが分かっていなければ意味がない。

where will they live?
どこに彼らは住むの?
J. Grant C. Hopcraft, Markus Borner & Daniel T. Haydon
絶滅とは生態系ネットワークの不安定化であり、生物は単に遺伝子の総合ではない。
'Biotechnology has a role in conservation, but it is not the solution to extinction. Instead, we must protect the integrity of ecosystems and their inherent dynamics.'

Concern over US nuclear stewardship
アメリカの原子力管理をめぐる関心
David Sharp & Merri Wood-Schultz

Mauritius threatens its own biodiversity
モーリシャスが自国の生物多様性を脅かす
F. B. Vincent Florens

Sustain the future by doing more with less
なるべく少ない労力で多くの成果を出すことで未来を持続させる
Brian G. Fitzgerald

OBITUARY
Carl Woese (1928–2012)
Harry Noller
生命の第3の界(アーキア;古細菌)の発見者

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RESEARCH
BRIEF COMMUNICATIONS ARISING
Does consumption rate scale superlinearly?
消費速度は線形関係にスケーリングできるだろうか?
Henrique C. Giacomini, Brian J. Shuter, Derrick T. de Kerckhove & Peter A. Abrams
Pawar et al.の食物連鎖のモデル化に対する、観測事実との相違点の指摘。

Pawar et al. reply
Pawar et al.の返答
Samraat Pawar, Anthony I. Dell & Van M. Savage

NEWS & VIEWS
The planetary hypothesis revived
惑星仮説が復活した
Paul Charbonneau
太陽の磁場活動は約11年の周期で周期的に変動している。より長期間の間接指標を用いた復元研究から、天体運動が振幅に影響する可能性に対するヒントが得られるかもしれない。従来太陽内部の物理メカニズムに焦点が当てられてきたが、「太陽の周期を回る惑星の重力トルクが太陽活動の11年周期に影響を及ぼしているという仮説:’planetary hypothesis’」がAbreu et al. (2002)によって再燃した。

The depths of nitrogen cycling
窒素循環の深さ
Maren Voss & Susanna Hietanen
溶存有機窒素の分解は海洋表層の微生物が担っていると考えられてきた。そうした微生物の発見は窒素プールの再評価をする必要性を訴えるほどではない。

ARTICLES
特になし

LETTERS
An old disk still capable of forming a planetary system
古い円盤も依然として惑星系を作ることは可能
Edwin A. Bergin et al.

Divergent global precipitation changes induced by natural versus anthropogenic forcing
自然と人為的なフォーシングによって引き起こされる一致しない全球の降水変化
Jian Liu, Bin Wang, Mark A. Cane, So-Young Yim & June-Yi Lee
気候変動の結果、極域と熱帯域の降水は増し、亜熱帯域の乾燥の度合いは増すと考えられている。しかしその具体的な規模や地域ごとの予測については依然として議論が続いている。古気候記録からは過去の温暖期には太平洋の東西の温度傾度は強化されていたことが示されているが、将来は逆に弱化すると考えられており、食い違っている。
 気候モデルを用いたシミュレーションから、温暖化が日射量によって起きている場合には傾度は増加し、温室効果ガスによって起きている場合には逆に減少することが示された。降水やエネルギーバランスへの影響が異なるため、温暖化が何によって引き起こされるかが気候の特性を決める。

Deep instability of deforested tropical peatlands revealed by fluvial organic carbon fluxes
河川からの有機炭素フラックスから明らかになる破壊された熱帯の泥炭地の深い不安定性
Sam Moore, Chris D. Evans, Susan E. Page, Mark H. Garnett, Tim G. Jones, Chris Freeman, Aljosja Hooijer, Andrew J. Wiltshire, Suwido H. Limin & Vincent Gauci
熱帯の泥炭地には大量の炭素が眠っており(89 PgC)、そのうち65%はインドネシアに存在するが、近年熱帯雨林の開発や焼き畑によって泥炭地から炭素が大気へと放出されている。「手つかずの泥炭地」と「一度擾乱を受けた泥炭地」では、後者の方が50%多く炭素を多く放出することが分かった。DICの放射性炭素年代測定から前者はごく最近の炭素を流出しているが、後者は数百〜数千年ほど古い炭素を放出していることも分かった。1990年以降、東南アジアにおける炭素流出の22%を後者からの炭素放出が担っていることが示され、森林破壊の影響を推定する際には河川からの炭素放出を定量的に評価する必要があることが強調される。

2013年1月30日水曜日

新着論文(EPSLほか)

※論文アラートより

◎EPSL
A 130 ka reconstruction of rainfall on the Bolivian Altiplano
C.J. Placzek, J. Quade, P.J. Patchett
Boliviaのアルティプラーノの湖から得られた沿岸部の地質と堆積物コアから過去130kaの環境復元。ハインリッヒ・イベントやYDが水位変動に記録されている。必ずしもすべてのハインリッヒ・イベントが記録されてはいなかった。

Western Pacific thermocline structure and the Pacific marine Intertropical Convergence Zone during the Last Glacial Maximum
Peter J. Leech, Jean Lynch-Stieglitz, Rong Zhang
古気候記録から、北半球が寒冷化する時に(例えばYD、ハインリッヒ・イベントなど)ITCZが南下することが示唆されてきたが、縁辺部と異なり、赤道太平洋におけるITCZの変動についてはよく分かっていない。赤道西太平洋で得られた堆積物コアの2種類の浮遊性有孔虫(一つは表層、一つは温度躍層に生息)のδ18Oを用いてLGMの温度躍層の深さや、その上の大気循環を復元。LGMには北半球のITCZと温度躍層は現在と同じ位置にあった一方、南半球の温度躍層は現在よりも浅くなっていたことが示唆される。

◎QSR
Palaeoenvironmental change in tropical Australasia over the last 30,000 years – a synthesis by the OZ-INTIMATE group
Jessica M. Reeves, Helen C. Bostock, Linda K. Ayliffe, Timothy T. Barrows, Patrick De Deckker, Laurent S. Devriendt, Gavin B. Dunbar, Russell N. Drysdale, Kathryn E. Fitzsimmons, Michael K. Gagan, Michael L. Griffiths, Simon G. Haberle, John D. Jansen, Claire Krause, Stephen Lewis, Helen V. McGregor, Scott D. Mooney, Patrick Moss, Gerald C. Nanson, Anthony Purcell, Sander van der Kaars
過去30kaのオーストラリアの熱帯域の古気候記録(堆積物コア、サンゴ、鍾乳石など)のまとめ。
MIS3にはITCZが大きく南下しており、湿潤だった。
LGMには寒く乾燥していた。
最終退氷期にはACRとSunda shelfの氾濫で一度温暖化が妨げられていた。
完新世初期が最も温暖であった。
完新世を通してENSOなどとともに、千年スケールの気候変動が起きていた。

◎その他
Oxygen Isotope - Salinity Relationships of discrete oceanic regions from India to Antarctica vis-à-vis Surface Hydrological Processes
Manish Tiwari, Siddhesh S. Nagoji, Thammisetti Kartik, G. Drishya, R.K. Parvathy, Sivaramakrishnan Rajan
Journal of Marine Systems, Available online 25 January 2013, Pages 
2010年の夏にインド洋から南大洋にかけての表層水のδ18OとSSSを測定し、表層の水循環プロセスを評価。水塊ごとのδ18O-SSS関係式を作成。

2013年1月28日月曜日

新着論文(PNAS)

Proceedings of the National Academy of Sciences
22 January 2013; Vol. 110, No. 4

Earth, Atmospheric, and Planetary Sciences
Relationship between sea level and climate forcing by CO2 on geological timescales
Gavin L. Foster and Eelco J. Rohling
Ka-Maスケールの海水準上昇変動は主として大陸の氷床量によって決定されている。過去40Maの重要な時期における海水準変動と大気中CO2の変動との間には明確な関係があり(S字状)、地質学時代においてもCO2が地球の気候を決定しており、海洋循環や地形はその次の変動要因であったことを物語っている。CO2と海水準上昇との間の関係から、将来CO2濃度が400 - 450 ppmになった場合、海水準は9 m上昇することが予想される。従って、CO2濃度を産業革命以前の値に戻すことが海水準の急上昇を防ぐためには必要である。

Midlatitude cooling caused by geomagnetic field minimum during polarity reversal
Ikuko Kitaba, Masayuki Hyodo, Shigehiro Katoh, David L. Dettman, and Hiroshi Sato
地磁気の変化に伴い、銀河宇宙線の地球への飛来量が変化することで、地球の気候に影響するかどうかが議論を呼んでいる。大阪湾で得られた堆積物コアのMIS19とMIS31には間氷期で高い海水準でありながら異常に寒かったことが示されている。ちょうどこの時期に地磁気逆転イベントが起きており、地磁気逆転が気候に影響していたことが示唆される。地磁気が40%ほど弱化すると、銀河宇宙線量も40%低下し、寒冷化が起きると推測される。

Evolution
Genomic basis for coral resilience to climate change
Daniel J. Barshis, Jason T. Ladner, Thomas A. Oliver, François O. Seneca, Nikki Traylor-Knowles, and Stephen R. Palumbi
異なるサンゴは環境ストレスに対し異なる生理学的な弱さを持っていると考えられるが、その背後にある分子メカニズムはよく分かっていない。熱ストレスに強いサンゴと弱いサンゴで遺伝子発現の違いを評価したところ、constitutive frontloading(?)が環境ストレスに対する耐性を維持させていることが示された。気候変動の時代に耐えることができる生物の細胞プロセスについての新たな知見が得られた。

2013年1月26日土曜日

最終間氷期の温暖期のグリーンランド氷床の気温と高度

Eemian interglacial reconstructed from a Greenland folded ice core
グリーンランドの折り畳まれたアイスコアから復元されたEemian間氷期
NEEM community members
Nature 493, 489-494 (2013)

より。

’最終間氷期(MIS5e, Eemian interglacial, ~125ka)’は現在の間氷期よりも暖かく、海水準も6〜8メートル高かったと考えられています。
将来の温暖化の過去のアナログとしては最も近い地質時代(完新世の温暖期を除くと)に相当します。

この論文では、NEEM (North Greenland Eemian Ice Drilling)’計画によって得られたグリーンランド氷床アイスコアの最終間氷期に相当する部分から復元された、気候が現在よりも温暖だった時のグリーンランドの気温と高度(つまり氷床の厚さ)の復元結果について報告しています。

2013年1月25日金曜日

新着論文(Science#6118)

Science
VOL 339, ISSUE 6118, PAGES 365-480 (25 JANUARY 2013)

Editors' Choice
Flat Weathering
平地の風化
Geology 10.1130/G33918.1 (2013).
風化はCO2を吸収する働きがあるが、これまで山地帯の風化にばかり焦点が当てられてきたが、世界の1,000もの川の傾斜と10Beを組み合わせた研究から、低地が全球の風化の収支を支配していることが示された。

Don’t Throw It in the Bin!
瓶ゴミに捨てないで!
Environ. Sci. Tech. 10.1021/es302886m (2012).
CFLやLEDなどの照明器具はエネルギー効率を飛躍的に向上させたが、金属類を多く含むため例えばカリフォルニアの廃棄ゴミの基準から鉛・銅・亜鉛などの濃度が上回っている。また使用されている一部の金属資源は量が限られているため、適切な処理を行うこと・使用量を減らすこと・照明の寿命を伸ばすためのさらなる技術開発などが必要とされている。

News of the Week
※今回は省略

News & Analysis
Soot Is Warming the World Even More Than Thought
ススは従来考えられてきたよりも世界を暖めている
Richard A. Kerr
 ディーゼルエンジンや料理、船舶、石油プラントなどから出てくるスス(ブラック・カーボン)は健康に害をなすだけでなく、従来考えられていたよりも2倍温暖化に寄与しているらしい。International Global Atmospheric Chemistry Projectの一環として行われたこの研究では31名の各分野の研究者が参加し、20人ものピア・レビューを経て、JGR-atmosphereに公表された(232ページ!)。ススそのものが太陽光を吸収する効果だけでなく、雲粒を小さくしたり(より光を反射させる)、雪や氷を汚して融けやすくしたりする効果によって、総合的に「1.1 W/m2」の放射強制力を持っていると推定されている。これはCO2の温室効果による放射強制力(1.6 W/m2)に次ぐ、温暖化の2番目の原因とされている。
 ただし、ススの排出を直ちに失くせば温暖化が緩和されるわけではないらしい。エアロゾルが気候に与えている影響そのものがまだよく分かっていない。さらに、石炭を燃やすことでススが出るが、同時に硫黄も放出しており、硫黄は地球を寒冷化させる効果を大気上層で発揮している。森林火災もまたススを出すが、同時に出る’有機炭素’には雲への影響を通じて地球を寒冷化させる効果が知られている。
>問題の論文
Bounding the role of black carbon in the climate system: A scientific assessment
T. C. Bond et al.

Foreigners Run Afoul of China's Tightening Secrecy Rules
外国人が中国の徐々にきつくなる秘密ルールと衝突する
Mara Hvistendahl
中国政府は外国人研究者が中国国内でフィールドワークを行う権限を削減しようとしている。

News Focus
Eating Was Tough For Early Tetrapods
初期の四肢動物にとって食べることは大変なことだった
Elizabeth Pennisi
海から陸へと進出した四肢動物は最初どうやって食べ物を飲み込んだのだろうか?

Nervous System May Have Evolved Twice
神経システムは2度進化したかもしれない
Elizabeth Pennisi
クシクラゲ類(comb jelly)のゲノム解読から、「生命の歴史上神経系の進化は1度しか起きなかった」とする従来の考えが覆されようとしている。

Snapshots From the Meeting
会合からのスナップショット
Elizabeth Pennisi
研究者たちは「薄暗い中、蛾はどうやって花を見つけるのか」、「強い波の中、石灰藻はどうやって生き残るのか」を不思議に思っている。

Letters
Accidental Island Voyagers
偶然の島への旅人
Graeme D. Ruxton and David Mark Wilkinson
「従来考えられていたよりも早く地中海の島々に古代人類が到達していたこと」についてのコメント。
>問題の記事(Perspectives, Science 336, 895-897)
Mediterranean Island Voyages
Alan Simmons
Accidental Island Voyagers—Response
「偶然の島への旅人」に対する返答
Alan Simmons et al.

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Research
Perspectives
特になし

Review
Can We Name Earth's Species Before They Go Extinct?
我々は地球上の生物が絶滅する前に彼らに名前を与えることができるだろうか?
Mark J. Costello, Robert M. May, and Nigel E. Stork
「ほとんどの生物は発見される前に絶滅してしまうだろう」と悲観的に考える人がいるが、それはまだ記載されていない生物が大量に残っていると想定しているからである。現在地球上には500 ± 300万種類の生物が存在し、そのうち150万種が記載されている。新たなデータベースによれば、分類学者の数はますます増え続けており、その増加速度は論文に記載される種数の増加速度よりも大きいらしい。

Research Articles
特になし

Reports
Identification of the Long-Sought Common-Envelope Events
N. Ivanova et al.

Synchronous X-ray and Radio Mode Switches: A Rapid Global Transformation of the Pulsar Magnetosphere
W. Hermsen et al.

To Favor Survival Under Food Shortage, the Brain Disables Costly Memory
Pierre-Yves Plaçais and Thomas Preat
満腹状態と空腹状態とで記憶力にどのような影響が出るかがショウジョウバエで調べられ、「空腹ほど記憶力が向上すること」が示された。

Fasting Launches CRTC to Facilitate Long-Term Memory Formation in Drosophila
Yukinori Hirano et al.
満腹状態と空腹状態とで記憶力にどのような影響が出るかがショウジョウバエで調べられ、「空腹ほど記憶力が向上すること」が示された。
>プレスリリース
Yahoo News日経新聞時事ドットコム

Comparative Analysis of Bat Genomes Provides Insight into the Evolution of Flight and Immunity
コウモリのゲノムの比較研究が飛行と免疫の進化に対する新たな知見を与える
Guojie Zhang et al.

Technical Comments
Comment on "Radiative Absorption Enhancements Due to the Mixing State of Atmospheric Black Carbon"
’大気中のブラックカーボンの混合による放射吸収の促進’に対するコメント
Mark Z. Jacobson

Response to Comment on "Radiative Absorption Enhancements Due to the Mixing State of Atmospheric Black Carbon"
コメントに対する返答
Christopher D. Cappa et al.

2013年1月24日木曜日

新着論文(Nature#7433)

Nature
Volume 493 Number 7433 pp451-570 (24 January 2013)

RESEARCH HIGHLIGHTS
Black carbon a warming culprit
ブラック・カーボン:温暖化の原因の疑い
J. Geophys. Res. http://dx.doi. org/10.1002/jgrd.50171 (2013)
NASAによるエアロゾル観測と人工衛星観測から、スス(ブラック・カーボン)が温暖化に寄与している割合は従来の想定値の2倍ほどある可能性が指摘されている。二酸化炭素の次にリストアップされることになる。ブラック・カーボンを減らすことは温暖化の緩和に有効かもしれないが、エアロゾルが気候にどのような影響を与えているかについてはまだ不確かな部分が多い。
[より詳細な記事]
Soot a major contributor to climate change
ススが気候変動の主たる要因
Jeff Tollefson

Irrigation brings more rain
灌漑がより多くの雨をもたらす
Geophys. Res. Lett. http://dx.doi.org/10.1002/grl.50108 (2013)
農業用の灌漑によってカリフォルニアにおける降水量が増加している。気候モデルを用いて検証を行ったところ、夏の降水が15%増加すること、それに伴いコロラド川の流量が28%増加することが示された。

Arctic rain brings animal pain
北極圏の雨が動物を痛める
Science 339, 313–315 (2013)
北極圏の冬はめったに雨が降らないが、異常な冬の降水イベントがあると、ノルウェー・スバルバード島のトナカイ(Svalbard reindeer; Rangifer tarandus platyrhynchus)、ライチョウ(rock ptarmigan; Lagopus muta hyperborea)、げっ歯類の一種(sibling voles; Microtus levis)の個体数が減少することが示された。地面を覆う氷が餌へのアクセスを妨げることが原因と考えられる。またその結果、上位捕食者のキツネ(Arctic fox; Vulpes lagopus)の個体数にも影響を与える。気候変動の影響が起きる可能性が指摘されている。

SEVEN DAYS
※今回は省略

NEWS IN FOCUS
Greenland defied ancient warming
グリーンランドは古代の温暖化を拒む
Quirin Schiermeier
 Dorthe Dahl-Jensenを中心とするNorth Greenland Eemian Ice Drilling (NEEM) 計画によってEemian最終間氷期の気候温暖期(130 - 115 ka)の記録を有するアイスコアがグリーンランド北西部から採取された。酸素と窒素同位体から、最終間氷期の開始から6,000年後にグリーンランドの気温は現在よりも8℃高かったことが示された。しかしこうした極端な温暖化にも関わらず、グリーンランド氷床はわずかしか融けていなかったことが示された(それでも2mは海水準を上昇させたと推定されている)。最終間氷期には海水準が現在よりも6〜8mほど高かったと考えられており、その半分程度にグリーンランド氷床の融解が寄与していたと推定されていた。現在南極氷床よりもグリーンランド氷床が急速に縮小しているが、NEEMの得た結果から、グリーンランド氷床が思っていたよりも安定で、逆に南極氷床が温暖化に脆弱である可能性が示唆された
 グリーンランド氷床と南極氷床は現在の海水準上昇に併せて年間0.6mmの割合で寄与していると考えられており、科学者の中には今世紀末には0.5 - 1.2 m海水準が上昇すると考えるものもいる。また最終間氷期の海水準上昇はゆっくり起きたというよりは急速に進行した様相を呈している。

Researchers debate oil-spill remedy
研究者が石油流出の回復法を議論する
Mark Schrope
石油流出のブローアウトに対抗するには溶剤を注入することをルーチンにすべきだと石油業界は主張する。

Fresh bid to see exo-Earths
太陽系外の地球を見る新たな手法
Ron Cowen
明るく輝く恒星の周りを周回する惑星を検出するのは燃え盛る火の周りにおいてあるランタンを10km先から見るのが難しいのと同じくらい困難である。改良された機器類と望遠鏡が系外惑星の生命を探索するのに役に立つ可能性がある。

Japan’s stimulus package showers science with cash
日本の刺激的な抱き合わせが科学に現金を浴びせる
David Cyranoski
新たな日本のリーダーの寛大さによって、早く商業的な利益が出ることへの見込みが広がる。

COMMENT
The rebound effect is overplayed
リバウンド効果が誇張される
エネルギー効率が上がることで排出量は抑えられるはずだが、気の緩みが裏目に出る可能性が指摘されている。

CORRESPONDENCE
特になし

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Biofuel production on the margins
道草からのバイオ燃料の生産
Klaus Butterbach-Bahl & Ralf Kiese
作物を育てるには適さない土地に自生する野生の植物を用いて燃料を製造することが、アメリカにおけるバイオ燃料の生産目標を達成するのにかなり寄与するかもしれない。

Towards ever smaller length scales
従来よりももっと小さな長さスケールへ
Peter Cargill
太陽コロナの真のスケールを決定することは空間解像度が限られているため難しい。新たな高空間解像度の撮像から150kmスケールのコロナの力学構造が観測可能になった。

Gritting their teeth
歯を食いしばる
Bernard Wood
植物源のシリカや砂漠の砂が歯のエナメルの摩耗にどのような影響を与えるかを評価した研究から、人類祖先の歯の極端な摩耗は食べ物が原因ではないことが示された。この知見が人類祖先の食事に関する知見を変えるかもしれない

ARTICLES
Eemian interglacial reconstructed from a Greenland folded ice core
グリーンランドの折り畳まれたアイスコアから復元されたEemean間氷期
NEEM community members
グリーンランドから最終間氷期に相当するアイスコアを完璧に採取することはこれまで実現しておらず、現在よりも暖かかったEemian最終間氷期のグリーンランド氷床の応答については不確かなままである。North Greenland Eemian Ice Drilling (NEEM) 計画の際に得られたアイスコアを用いて最終間氷期の気温と当時の氷床の標高を求めたとこ、12.6kaの最温暖期に気温は現在と比較して8 ± 4 ℃高かったものの、標高は現在と比較して130 ± 300 m低いだけであった。強烈な温暖化に対してもグリーンランド氷床がそれほど応答しなかったことを示している。

LETTERS
Energy release in the solar corona from spatially resolved magnetic braids
空間的に解像された時期的なbraidから示された太陽コロナ中のエネルギー放出
J. W. Cirtain, L. Golub, A. R. Winebarger, B. De Pontieu, K. Kobayashi, R. L. Moore, R. W. Walsh, K. E. Korreck, M. Weber, P. McCauley, A. Title, S. Kuzin & C. E. DeForest

Sustainable bioenergy production from marginal lands in the US Midwest
アメリカ中西部の辺境地からの持続可能なバイオエネルギー生産
Ilya Gelfand, Ritvik Sahajpal, Xuesong Zhang, R. César Izaurralde, Katherine L. Gross & G. Philip Robertson
20年間にわたる6つの作物生産システムの比較研究から、辺境地に自生する植物からうまくバイオ燃料を生産する設備が整えば、気候変動緩和を目的として育てられた作物に匹敵するほどの削減効果があることが示された。

Earliest evidence for cheese making in the sixth millennium bc in northern Europe
ヨーロッパ北部で6,000年前に作られた最古のチーズの証拠
Mélanie Salque, Peter I. Bogucki, Joanna Pyzel, Iwona Sobkowiak-Tabaka, Ryszard Grygiel, Marzena Szmyt & Richard P. Evershed
ヨーロッパの遺跡から発掘された陶器に付着した脂肪分の残渣のバイオマーカーと同位体分析から、これらの陶器がチーズを作るのに用いられていたことが分かった。こうした加工によって先史時代初期の農耕民は、腐敗せず輸送可能な形で乳製品を保存できただけでなく、乳をより消化しやすい形(低乳糖製品)にできたと考えられる。

2013年1月21日月曜日

新着論文(PO, PALAEO3)

◎Paleoceanography
El Niño–Southern Oscillation extrema in the Holocene and Last Glacial Maximum
Athanasios Koutavas and Stephan Joanides
ENSOは全球のヒートエンジンとして役割を負っているが、過去の復元と将来予測はともに不足している。東赤道太平洋で得られた堆積物コアの個々の浮遊性有孔虫のδ18Oをもとに完新世とLGMのENSOを復元。LGMには東西の傾斜がゆるく、中期完新世は逆に強化されていたと考えられる。軌道要素の変化(特に歳差)がスイッチとなって2つの状態を変化してきたと考えられる。

Early mid-Holocene SST variability and surface-ocean water balance in the southwest Pacific
N. Duprey, C. E. Lazareth, T. Corrège, F. Le Cornec, C. Maes, N. Pujol, M. Madeng-Yogo, S. Caquineau, C. Soares Derome, G. Cabioch
Vanuatuで得られたハマサンゴとオオジャコガイのSr/Caとδ18Oから中期完新世(6.7-6.0ka)の北西太平洋の古環境を復元。ともに現在と同じSSTを示し、WPWPがこの時期には既に現在のようになっていたことを示唆している。一方で塩分には変動が見られ、原因として(1)SPCZの位置の変化か(2)熱帯の外からハドレー循環によって運ばれる水蒸気輸送が変化したことが考えられる。またこの頃ENSOは20-30%弱まっていたと考えられる。

Deep time foraminifera Mg/Ca paleothermometry: Nonlinear correction for secular change in seawater Mg/Ca
David Evans, Wolfgang Müller
浮遊性有孔虫殻のMg/CaがSST指標として広く用いられるようになったが、新生代を通して海水のMg/Caも変動したため、解釈には注意が必要である。そうした補正の仕方について新たな(正しい)方法を示す。過去の復元例も注意して見なければならないが、短い時間スケール(~1Ma)の変動については信頼できると言える。

Deglacial development of (sub) sea surface temperature and salinity in the subarctic northwest Pacific: Implications for upper-ocean stratification
Jan-Rainer Riethdorf, Lars Max, Dirk Nürnberg, Lester Lembke-Jene, Ralf Tiedemann
モデル研究とプロキシ記録から最終退氷期には北太平洋の塩分による成層化が弱まっており、それが大気中CO2の上昇に寄与した可能性が指摘されている。堆積物コアのN. Pacyderma (sin.)のMg/Caとδ18Oから、HS1とYDに成層化が崩れており、海氷形成に伴うbrine除去とアラスカ海流による低塩分水の輸送が起きていたと考えられる。一方B/A時には成層化は強化され、海氷が溶け、アラスカ海流が弱まったと考えられる。


◎PALAEO3
Evaluation of the effect of diagenetic cements on element/Ca ratios in aragonitic Early Miocene (~ 16 Ma) Caribbean corals: Implications for ‘deep-time’ palaeo-environmental reconstructions
Naomi Griffiths, Wolfgang Müller, Kenneth G. Johnson, Orangel A. Aguilera
バミューダの現生サンゴ(Siderastrea radians)とベネズエラの化石サンゴ(Siderastrea conferta, Montastraea limbata)を用いてアラゴナイト・カルサイトのセメントが元素/Ca比プロキシに与える影響を評価。化石サンゴの年代はSr同位体からMicene初期(~16.5Ma)に相当。現生・化石ともにセメントが確認され、しかも骨格中に不均質に存在している。LA-ICPMSで種々のプロキシが深度方向に変化することも示された。特にセメントのSr/CaとMg/Caはセメントの方がアラゴナイト骨格よりもそれぞれ増加・減少していた。またB/Caはともにセメントの方が低い値を示した。アラゴナイト/カルサイト・セメントが1%混入するだけで古水温復元がSr/Caの場合でも-1.2℃/+1.7℃変化し得ることが示された。またBa/Caも変化するため、河川流量や湧昇の解釈には注意が必要。

Atmospheric CO2 from the late Oligocene to early Miocene based on photosynthesis data and fossil leaf characteristics
Michaela Grein, Christoph Oehm, Wilfried Konrad, Torsten Utescher, Lutz Kunzmann, Anita Roth-Nebelsick
ヨーロッパの6種類の被子植物の葉の化石の気孔指数(stomatal index)を用いてOligocene/Eoceneの大気中CO2濃度を復元。クスノキ(Lauraceae)以外の指数はどれもOligocene/Eoceneを通して400ppmほどを示し、他の独立した指標とも整合的である。

Coupled CO2-climate response during the Early Eocene Climatic Optimum
Ethan G. Hyland, Nathan D. Sheldon
The Early Eocene Climatic Optimum (EECO)は大気中のCO2濃度の増加と長引いた温暖期で特徴付けられる時代の一つである。アメリカのGreen Riverの堆積物からEECOにおける気候変動・環境変動を復元。古土壌のδ13C分析から過去のpCO2はおよそ1,700ppm(※過去の降水量・土壌呼吸量・大気δ13CO2などの種々の推定を含む)であったと推測される。また有孔虫のδ13Cと古土壌のδ13Cがよく一致することから、海洋を起源とするCO2が大気にもたらされたことが示唆される。

Vegetation and climate changes during the last 22,000 yr from a marine core near Taitao Peninsula, southern Chile
Vincent Montade, Nathalie Combourieu Nebout, Catherine Kissel, Simon G. Haberle, Giuseppe Siani, Elisabeth Michel
チリ沖で取られた堆積物コアを用いて過去22kaの古環境を復元。17.6ka頃からこの地域の氷が融け始めた。ACRの際に一度温暖化が停止し、降水が増加したことが花粉分析から明らかになった。その原因としては南半球の偏西風の強化が考えられる。その後12.8kaから温暖化が再開。5ka以降に現在と同じような状態になった。最終退氷期には南半球の偏西風の位置がCO2濃度の変化ともに変動していたと考えられる。

2013年1月20日日曜日

カレイダグラフがうまくインストールできない

自宅のMacBook Airに入っていたカレイダグラフ(Kaleida Graph)v. 4.1.2の不具合が色々と出ていたので、v. 4.1.4へとアップグレードしようとしたときのこと。

HuLinksのサポートページを見てみると、今回はアップグレードではなく、再インストールしてくださいとのことだったので、指示に従い、前回のバージョンをアンインストールしたところ、エラーメッセージが。


「一部のファイルを削除することができませんでした」



エラーを無視し、新たなv.4.1.4をダウンロードするも、何故かアプリケーションが壊れていて開くことができない


オリジナルのCD-ROMからv.4.1.2を再インストールしようとしても、やはりアプリケーションが壊れている…





もしやと思い、アンインストールのエラーメッセージが表示された後、Finder>アプリケーションのところを確認してみると…まだフォルダごとアプリケーションが残っている!

そこでアプリケーションを直接ゴミ箱に移し、ゴミ箱を空にしてから再度インストールを行ってみると…解決☆



以前、MacBook ProからAirに設定を移すときに「移行アプリ」なるものを使ってみたのですが、一部のアプリケーションが勝手に移されていました。

もしかしたらこれが原因だったのかな〜と、ぼんやり考えていますが、正直よく分かりませんw



まあ無事アップデートできたので、良かったです。



「作ったグラフが印刷できない」などの不具合は解消しました☆

気になった一文集(English ver. No. 8)

Physical climate science has moved beyond merely describing human influences on climate; the physical basis of climate change is sufficiently well developed to investigate whether particular events such as droughts, heatwaves and floods are attributable to human influences.

Canadian climate aberration」Nature Geoscience (Jan 2013) Gordon Bonan著
カナダにおいて虫の大量発生によって生じた森林の変化が地域的な温暖化を引き起こした。気候変動→生態系の擾乱→気候変動というフィードバック。

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Humans are changing the planet in so many ways that it’s hard to say how it all will influence climate in the end.
人間は非常に多くの方法で地球を変えているため、何が気候に結果的に影響するかを言うのは難しい。

What Dust May Have To Do With Earth’s Rapidly Warming Poles」LDEO News & Events、Gisela Winckler著
ダストが極域の気候増幅(polar amplification)に果たす役割。

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They're all about where people come from. The only thing that's important is where somebody's going
人は来た道ばかり気にするが、どこへ向かうかが大切だ。


ジョン・デリンジャー(John Herbert Dillinger Jr)(映画パブリック・エネミーズより)

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“If we did everything we could to reduce these emissions,” said co-author Piers Forster of the University of Leeds in the United Kingdom in a statement, “we could buy ourselves up to half a degree (Celsius) less warming—or a couple of decades of respite.”

Soot Is Warming the World, A Lot」ScienceNOW Richard A. Kerr著
スス(Black carbon)がCO2の次に温室効果を発揮しているが、その推定値が従来考えられていたよりも大きいかもしれない。CO2と違ってススの排出削減はすぐに効果を発揮する(ただし、寒冷化に効いているエアロゾルも存在することに注意)。

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Under the present illustrative assumptions, the 1.5°C target expires after 2028, and the 2°C target vanishes after 2044. These times would be later if a period of stabilized emissions preceded the GMS. The more likely situation, however, is that a specific climate target becomes unreachable much earlier, because there are upper limits on sustained emissions reduction rates imposed by what the countries’ economies can realize collectively given the present state of technology and infrastructure.

Both delay and insufficient mitigation efforts close the door on limiting global mean warming permanently.

The Closing Door of Climate Targets」(Science記事 vol. 339, 280-282)Thomas F. Stocker著
将来の温暖化緩和の目標を達成するための時間が徐々に縮まっており、ただちに行動を開始しなければならないことを警告。

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Overall, our study shows that the CCS joins the Arctic and Southern oceans as one of only a few known ocean regions presently approaching the dual threshold of widespread and near-permanent undersaturation with respect to aragonite and a departure from its variability envelope. In these regions, organisms may be forced to rapidly adjust to conditions that are both inherently chemically challenging and also substantially different from past conditions.
全体として、我々の研究は「CCSが北極海と南大洋のようなあまりよく分かっていない海域と同じ状態になりつつあること(アラゴナイトに関して不飽和な状態が広範囲かつほぼ絶えず起きつつある)」と、「自然変動の範囲から逸脱していること」を示している。これらの海域では、化学的に攻撃的であり過去の状態とは大きく異なる海水に対して、生物は早く適応することを余儀なくされるかもしれない。

Spatiotemporal variability and long-term trends of ocean acidification in the California Current System」(Hauri et al., 2013, Biogeosciences)
カリフォルニア海流系の海洋酸性化の将来予測。

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Modern and paleo OA events are accompanied by shifts in temperature, stratification, and dissolved oxygen. The impacts of OA can depend on values of interacting stressors such as temperature and oxygen, and pH may in turn alter tolerance to these stressors, with major consequences for organism function.

太平洋の様々な海域の海洋表層水のpHの日周変動のモニタリング。海洋酸性化単体ではなく、温暖化や貧酸素などが一緒に生物にストレスを与えるということ。

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This latter effect may prove significant for biological carbon sequestration too, because plant growth is often limited by the availability of fixed nitrogen.

Coastal communities such as mangroves, salt marshes and seagrass meadows had been recognised as a valuable carbon store that is — from a climate perspective — worthy of preservation.

That cryptogamic coatings and seagrass meadows have only now been found to play such a significant role in the global carbon cycle should spur further efforts to look more closely at hitherto neglected ecosystems.


Beyond forest carbon」Nature geoscience記事 (July 2012)
地衣類が陸上の炭素・窒素循環に多大な貢献をしていることが最近分かってきた。

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And indeed, global warming is a deeply ethical issue: actions that we take today are likely to affect the well-being of others in the future, and not just that of our own kith and kin. Modifying our own behaviour to limit the impact of climate change can be seen as being truly altruistic if it means making individual sacrifices now to benefit future generations or people in those parts of the world already being affected by climate change. Of course, some live only for the present, caring little about what will happen to our planet once they are dead and gone. However, many of us do want to make a difference and do feel guilty when our actions are not in kilter with our lofty ideals.

This is a fraught area where it is difficult not to sound sanctimonious or even open to the charge of hypocrisy — and scientific editors are not immune.

Scientists, as well as editors, naturally feel torn by the dilemma, and many have started seriously to question whether the extent of travel to international conferences is defensible.

If we were all to change our behaviour, the results would be significant.


Guilt trip」Nature Climate Change記事 (May 2012)
気候変動に対する一般の人の感情、科学者・雑誌編集者の心構え。

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The climate envelope approach ignores a core truth of ecology: Species interact with each other in ways that deeply affect their viability.

climate change may have especially strong effects on top-consumer extinctions and range shifts.


Biotic Multipliers of Climate Change」Science記事(Perspectives, Vol. 336 no. 6088 pp. 1516-1518 )
気候変動と生態系の応答は複雑。

新着論文(PNAS、BG)

Proceedings of the National Academy of Sciences
☆8 January 2013; Vol. 110, No. 2
特になし

☆15 January 2013; Vol. 110, No. 3
Environmental Sciences
Recurrent jellyfish blooms are a consequence of global oscillations 
Robert H. Condon et al.
定性的にクラゲの個体数の増加は海の環境悪化と捉えられることが多い。長期間にわたる沿岸部のモニタリングの結果からはクラゲの個体数が全球的に増加しているという傾向は認められない。一方でおよそ20年の周期で個体数が変動していることが認められた。長期傾向についてはまだ何も言えないが、数十年に一度訪れるクラゲの被害(漁業・観光・人への被害など)に対して対策を講じる必要がある

☆early edition
Impact of seawater acidification on pH at the tissue–skeleton interface and calcification in reef corals
Alexander A. Venn, Eric Tambutté Michael Holcomb, Julien Laurent, Denis Allemand, and Sylvie Tambutté
海洋酸性化によって骨格と組織の間にある石灰化が起きる場所(subcalicoblastic medium; SCM)のpHが低下することで石灰化が阻害されることが予想されている。ショウガサンゴ(Stylophora pistillata)のpCO2を変化させた飼育実験から、SCMのpH低下が確認されたが、海水のpH低下よりもゆるやかな低下であることが分かった(ΔpHが大きくなっていく)。石灰化速度の低下はpHが7.16まで大きく低下した場合のみ確認された。サンゴは体内のpHを一定に保つ(homeostasis)ことで、海水のpHの変化に対してある程度耐性があると考えられる。

Marine Biology
Effects of feeding and light intensity on the response of the coral Porites rus to ocean acidification
Steeve Comeau, Robert C. Carpenter, Peter J. Edmunds
最近、サンゴの中には海洋酸性化に対しても耐性が強いものがいることが報告されている。パラオハマサンゴ(Porites rus)に対して温度一定で光量とpCO2を変えた海水で飼育実験を行った。3週間実験を行ってもpCO2による石灰化の阻害は確認されず、この種は短期間の高pCO2暴露には強いことが示された。

Biogeosciences
Spatiotemporal variability and long-term trends of ocean acidification in the California Current System
Hauri, C., Gruber, N., Vogt, M., Doney, S. C., Feely, R. A., Lachkar, Z., Leinweber, A., McDonnell, A. M. P., Munnich, M., and Plattner, G.-K.
モデルシミュレーション(Regional Oceanic Modeling System: ROMS)を用いてカリフォルニア海流系(California Current System: CCS)の1995-2050年と産業革命以降の海洋酸性化を再現。物理・生物学的な側面からCCSのpH変動は大きく、季節性も0.14ほどの(Ωだと0.2程度)変動幅を持っている。現在のpHとΩは既に産業革命前の自然変動から逸脱したレベルに達しており(ただし±1σ)、2030年代後半〜2040年中頃にはさらに現在の変動からも逸脱したレベルになることが示された。沿岸部ではもう少し早く起きると予想される。モデルはΩを大きく見積もる傾向があるため、実際にはもっと逸脱するのは早いかもしれない。

(以下はabstractからの引用文)
Overall, our study shows that the CCS joins the Arctic and Southern oceans as one of only a few known ocean regions presently approaching the dual threshold of widespread and near-permanent undersaturation with respect to aragonite and a departure from its variability envelope. In these regions, organisms may be forced to rapidly adjust to conditions that are both inherently chemically challenging and also substantially different from past conditions.

全体として、我々の研究は「CCSが北極海と南大洋のようなあまりよく分かっていない海域と同じ状態になりつつあること(アラゴナイトに関して不飽和な状態が広範囲かつほぼ絶えず起きつつある)」と、「自然変動の範囲から逸脱していること」を示している。これらの海域では、化学的に攻撃的であり過去の状態とは大きく異なる海水に対して、生物は早く適応することを余儀なくされるかもしれない。

2013年1月19日土曜日

サンゴに未来はあるか?

→続編「サンゴに未来はあるか?2(2014年9月15日)」

徐々に海洋酸性化が日本でも浸透しつつあります。
ただし海外(特にアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア)に比べるとまだまだ社会的な認知も足りておらず、研究数も海外には敵わないのが実情です。

今回は海洋酸性化が悪影響を及ぼすと考えられているサンゴに焦点を当てます。
サンゴ礁は世界の熱帯域に広がり、海洋生態系の大部分はサンゴ礁に支えられていると考えられています。

サンゴに悪影響をもたらすのは「海洋酸性化」だけに留まらず、「温暖化」「富栄養化」「オニヒトデの被害」「赤土・火山灰による被覆」「人間・漁具・台風による物理的破壊」など、様々あります。

そのため場所ごとに場所固有の環境悪化の原因があると考える必要があります。

しかし、全球的にほぼ均質に影響をもたらすのが「海洋酸性化」と「温暖化」だと言えそうです。

種々のモデルシミュレーションを用いた将来のサンゴ礁の予測はこれら2つは考慮していますが、それ以外の要因の将来予測については不確実性が大きく、モデルに組み込むのが難しいのが現状です。

今回、サンゴ礁の現状と未来予測に関して最近出された論文等をもとに、特に海洋酸性化、温暖化によってサンゴ礁がどういった影響を被っており、今後どのようになると予想されているかを簡単にまとめてみたいと思います。

以前書いた「海洋酸性化のレビュー」はこちら
以前書いた「海洋酸性化に対するサンゴ礁生態系への影響のレビュー」はこちら

2013年1月18日金曜日

新着論文(Science#6117)

Science
VOL 339, ISSUE 6117, PAGES 245-364 (18 JANUARY 2013)

Editors' Choice
Pulsing Populations of Jellies
パルス状に変動するクラゲの個体数
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 10.1073/pnas.1210920110 (2012).
海の健康状態の悪化はクラゲの大量発生などで特徴付けられることがある。しかし、クラゲの全球的な個体数についてはよく分かっていない。過去のデータは最近のものに集中しており、空間的にも北大西洋に集中しているが、分析から1790-2011年の個体数に20年の強い周期を持った変動があることが分かり、また1970年以降個体数が上昇傾向にあることも分かった。

No Stellar Explosion Needed
星の爆発は必要ない
Earth Planet. Sci. Lett. 359-360, 248 (2012).
我々の太陽系を形成する物質が何を起源とするかを調べるのに放射性の60Feが役に立つ。なぜなら60Feは星の爆発の際にしか生成されず、半減期も262万年と長いからである。60Feの崩壊によって生成する60Niを調べればだいたいの生成年代が分かることになるが、我々の太陽系の天体はどれも60Feの濃度が低いことが分かり、近傍の星が爆発したことで物質がもたらされたというよりは、もとから星間にある物質が素になってできていることが分かった。

Bombs Below
地下の爆発
Geophys. Res. Lett. 10.1029/2012GL053885 (2012).
内密に行われる核爆弾の地下実験は時として重大な事態を起こす。そのため、いつ実験が行われたのかを明らかにすることは重要である。核実験のトレーサーとして放射性キセノン(Xe)が役に立つが、1992年3月26にネバダ州で行われた地下核実験については検出することは難しいという。

News of the Week
Russian Team Retrieves First Sample From Lake Vostok
ロシアのチームがVostok湖のサンプルを初めて得た
およそ2000万年前から存在する南極氷床の4,000m下に存在する湖、Vostok湖の掘削にロシアの研究グループが成功した。昨年2月に掘削がスタートし、コンタミを防ぐために湖の直上で掘削を停止し、圧力によって吹き上がる湖の水を採取する予定であったが、沸き上がった水によって掘削孔が塞がってしまった。今年1月(南極の夏)に再び同地を訪れ、掘削に成功した。湖の水の中に住む生命の証拠がこれから明らかにされる予定。

NOAA: 2012 Hottest Year On Record for U.S.
アメリカによっては2012年は観測史上最も暖かかった
NOAAが先週報告したところによると、昨年は観測史上アメリカは最も暖かかったらしい。20世紀の平均値と比較しても1.8℃高かった。1/11に提出された4年ごとのU.S. Global Change Research ProgramによるNational Climate Assessment on the impact of global warmingによれば、人間活動の結果として気候が急速に変化しつつあり、作物や淡水供給に対する将来の影響がますます大きくなるとの予測を行っている。

Denizen of the Deep, Caught on Film
フィルムに収められた深海の居住者
2004年にはダイオウイカの連続写真が世界を驚かせたが、今年ついに動画が撮影された。国立博物館の動物学者である窪寺恒己を中心とする研究チームの成果で、撮影にはDiscovery ChannelやNHKが携わっている。研究者らは化学物質や生体発光などで誘い、ダイオウイカがやってくるのを小笠原諸島の900m深でひたすら待った。そしてついに2012年6月におよそ3メートルほどのダイオウイカが現れたところを動画に収めた。
[NHKの特集ページ]

Rethinking Barnacle Reproduction
フジツボの繁殖を見直す
フジツボのペニスは体長の8倍もの大きさがあり、それが動くことのできない固着性の生物の繁殖を助けていると考えられていたが、太平洋に生息する少なくとも1種(Pollicipes polymerus)は非常に短いペニスを持っていることが分かった。彼らは隣人にペニスを直接伸ばす代わりに、途中で精子を放出し、メスのもとに精子がたどり着くのを運に任せるという手段を取っていることが分かり、科学者を大いに驚かせている。

News & Analysis
Performance of Nanowire Solar Cells on the Rise
ナノワイヤ太陽電池の効率が上昇しつつある
Robert F. Service
ナノワイヤ太陽電池の開発が大きく前進し、効率の点で他の数十年の歴史を有する古い手法を追い越した。

News Focus
特になし

Letters
Exploitation in Northeast India
北東インドの開発
Shashank Dalvi, Ramki Sreenivasan, and Trevor Price

Sharing Future Conservation Costs
将来の生態保全のコストをシェアする
Douglas Sheil et al.

Sharing Future Conservation Costs—Response
将来の生態保全のコストをシェアするに対する返答
Stuart H. M et al.

Policy Forum
Essential Biodiversity Variables
必要不可欠な生物多様性の変数
H. M. Pereira et al.

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Research
Perspectives
The Closing Door of Climate Targets
気候変動緩和目標に対する閉じつつあるドア
Thomas F. Stocker
 炭素排出量の蓄積と全球の温度上昇との間に線形関係が見られることは、排出量削減が遅れるにつれて、気候変動緩和目標が実行不可能なものになることを暗示している。
 種々の地球システムモデルによってこの線形関係(温度上昇=β×蓄積炭素量)が示されたが、実際に将来どれほど温暖化するかは主として3つの要因によって支配される。「現在の排出速度」「国際的な削減目標の開始時期」「排出削減の速度」である。
<政治的な側面>開始時期が遅れれば遅れるほど、将来の温暖化は大きくなり、温度上昇を本当に低く保つつもりなら非常にアグレッシブな削減を直ちに開始しなければならない。例えば温度上昇を2℃に抑えるには2010年までにCO2排出量を3.2%抑えなければならない。開始時期が2032年まで先延ばしになれば必要な削減量は2倍の6.4%になる。しかしながら現実にはまだ削減目標は開始されていないので、温度上昇を低く保つという未来は既に閉ざされている
<科学的な側面>温度上昇を決める’β’は依然として誤差が大きく、それは気候感度や炭素循環フィードバックの理解がまだ不足していることによる。
 いずれにせよ、削減目標の開始時期の遅れ、不十分な削減目標(CO2排出量が十分に低下しないこと)の両方が全球の温暖化を安定化させる未来を閉ざしてしまうのである。(Both delay and insufficient mitigation efforts close the door on limiting global mean warming permanently.

A Wet and Volatile Mercury
湿った、揮発性の水星
Paul G. Lucey
MESSENGERによる観測から、水星の大気の詳細が明らかに。

Reports
Evidence for Water Ice Near Mercury’s North Pole from MESSENGER Neutron Spectrometer Measurements
MESSENGERの中性子スペクトル観測から明らかにされた水星の北極の近くの氷の証拠
David J. Lawrence et al.
探査機MESSENGERによる観測とモデル研究から、水星の北極に氷と揮発性の有機物があることが分かった。

Bright and Dark Polar Deposits on Mercury: Evidence for Surface Volatiles
水星の上の明暗をもった堆積物:表面の揮発性物質の証拠
Gregory A. Neumann et al.
探査機MESSENGERによる観測とモデル研究から、水星の北極に氷と揮発性の有機物があることが分かった。

Thermal Stability of Volatiles in the North Polar Region of Mercury
水星の北極域における揮発性物質の熱的な安定性
David A. Paige et al.
探査機MESSENGERによる観測とモデル研究から、水星の北極に氷と揮発性の有機物があることが分かった。

Climate Events Synchronize the Dynamics of a Resident Vertebrate Community in the High Arctic
北極高緯度域における脊椎動物コミュニティーの力学と同期した気候イベント
Brage B. Hansen, Vidar Grøtan, Ronny Aanes, Bernt-Erik Sæther, Audun Stien, Eva Fuglei, Rolf A. Ims, Nigel G. Yoccoz, and Åshild Ø. Pedersen
Svalbardにおけるトナカイ・ライチョウ・ハタネズミ・キツネの個体数は異常気象と一緒に変動していることが分かった。

Invasive Plants Have Scale-Dependent Effects on Diversity by Altering Species-Area Relationships
外来植物は種-範囲関係を変えることでスケールに依存した影響を生物多様性に与える
Kristin I. Powell, Jonathan M. Chase, and Tiffany M. Knight
外来植物が珍しい種よりもむしろ一般的な種の個体数を減少させることが3つの種について明らかになった。

Technical Comments
Comment on "Extinction Debt and Windows of Conservation Opportunity in the Brazilian Amazon"
John M. Halley, Yoh Iwasa, and Despoina Vokou

Response to Comment on "Extinction Debt and Windows of Conservation Opportunity in the Brazilian Amazon"
Oliver R. Wearn, Daniel C. Reuman, and Robert M. Ewers

2013年1月17日木曜日

新着論文(Nature#7432)

Nature
Volume 493 Number 7432 pp271-446 (17 January 2013)

EDITORIALS
Troubling thoughts
厄介な考え
フクシマの避難者の精神治療を安定的に実行することが未来の自然災害を生き伸びた人の手助けとなるかもしれない。

WORLD VIEW
China has the capacity to lead in carbon trading
中国は炭素トレーディングをリードする能力を有する

RESEARCH HIGHLIGHTS
Migration from India to Australia
インドからオーストラリアへの移動
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1211927110 (2013)
アボリジニーやインド・東南アジアに住む人々の遺伝子分析から、36,000年前と4,000年前に人類がインドからオーストラリアへと移ったことが示唆されている。これは18世紀後半までオーストラリアが外界との接触を断っていたという従来の考えと反している。特に4,000年前の移動の際には技術が大きく進展したことが知られている。
>問題の論文
Genome-wide data substantiate Holocene gene flow from India to Australia
Irina Pugach, Frederick Delfin, Ellen Gunnarsdóttir, Manfred Kayser, and Mark Stoneking

Cicadas emerge when predators decline
セミは捕食者の数が減ったときに現れる
Am. Nat. 181, 145–149 (2013)
セミが何故13-17年もの間地中で生活するのかが謎とされている。アメリカのウェスト・バージニア州において1966年から2010年にかけての15種の鳥の個体数の変動からセミに対する補食圧を求めたところ、鳥の補食圧が減少するときに合わせてセミが地上に出てきていることが分かった。

Mothers call for parenting help
母親が子育ての手助けを要求する
Nature Commun. 4, 1346 (2013)
オスのマウスは積極的に子育てを手伝わないが、メスが鳴き声とフェロモンでオスに対して手助けを要求するとオスもメスのように子供の世話をすることが分かった。オスの聴覚と嗅覚をブロックすると、そうした行動は見られなくなったという。

Wasp parasites keep hosts clean
ハチの寄生幼虫は宿主をきれいに保つ
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1213384110 (2013)
ハチの一種(emerald cockroach wasp; Ampulex compressa)は、アメリカゴキブリ(American cockroach; Periplaneta americana)に卵を産みつけるが、生まれた幼虫はゴキブリの内蔵を食べることができる一方、体内のバクテリアに対処する必要がある。ハチの幼虫が口から透明の液体を出していることが観察から分かり、それはバクテリアの成長を阻害する物質であることが分かった。

Warming matches predictions
温暖化が予測に合う
Environ. Res. Lett . 7, 044035 (2012)
1990年以降の観測と、IPCC TAR(2001年)とAR4(2007年)によって予測された温暖化の予測とは火山噴火や経年変動などのノイズを除去すると良く合うことが示された。しかし一方で海水準上昇は予想よりも60%早く進行している。2100年までの海水準上昇予測はIPCC AR4によれば最大で60cmであるが、それも上回る可能性がある
>問題の論文
Comparing climate projections to observations up to 2011
Stefan Rahmstorf, Grant Foster and Anny Cazenave
Rahmstorf et al. (2012)を改変。赤が観測、影のついた青線が予測。

SEVEN DAYS
Antarctic lakes
南極の湖
イギリス主導で西南極氷床の800m下に存在するWhillans湖の掘削が予定されている。一方でロシアの科学者たちは南極最大の湖であるVostok湖の掘削に昨年2月に成功した。しかし今年1月になって湖の水が掘削孔を上昇し、ドリルビットを凍らせてしまった。

US climate audit
アメリカの気候の検査
アメリカの気候アセスメントのアドバイス委員会は1/11に「温暖化が国内に与えている影響の範囲とその将来予測に関する報告書」の草案をまとめた。文書は4/12まで一般に公開され、最終版は年末か来年の初めに発表される予定。
>より詳細な記事
Draft US climate assessment released for review
Jeff Tollefson

Warmest year
最も暖かかった年
昨年アメリカは観測史上最も暖かかった年であった(それまでは1998年が最も暖かかった)。平均気温は「12.9℃」で、21世紀の平均よりも1.8℃高かった。全球の観測記録はまだ出そろっていないが、NOAAによれば2012年1-11月は観測史上8番目に暖かかったという。

Japanese windfall
日本の棚ぼた
昨年12月に政権を奪取した自民党の予算編成の結果、日本の科学者たちは10.3兆円を手にする。文部科学省が要求する5700億円のうち、大学などが技術移転を行うために1800億円、iPS細胞研究に2000億円が分配される予定。
>より詳細な記事
Japan’s new leadership to boost science
David Cyranoski

Red–Dead link
紅海と死海のリンク
イスラエル・ヨルダン・パレスチナは2005年に世界銀行に「180kmのパイプで紅海と死海を繋ぐ」計画を持ちかけ、それは実行の見込みがあるという。紅海から死海へと海水を輸送し、徐々に淡水化・縮小する死海を救済するとともに、水力発電で塩分除去プラントを動かし、淡水を確保するという計画。
>より詳細な記事
$10 billion pipeline linking Red Sea to Dead Sea is ‘feasible’, says World Bank
Richard Van Noorden

Open-access tribute
オープン・アクセス税
オープン・アクセスへの活動家でプログラマーのAaron Swartzが自宅で首つり自殺をした。享年26歳。彼は非営利団体のJSOTR(MITが管理する学術文献アーカイブ)から400万部の記事をダウンロードした罪に問われ裁判にかけられていた。結果として彼は「35年の実刑と100万ドルの賠償金」を命じられていた。それが自殺の原因とも考えられている。
>他の記事
Tech Crunch
Lifehacking

POOR HEALTH IN THE UNITED STATES
アメリカ合衆国の悪い健康
ほかの先進国と比べて、アメリカの死亡率は悪い。特に乳児の死亡率と肥満症に関連した死亡が多いという。

NEWS IN FOCUS
特になし

FEATURES
Fallout of fear
恐怖のフォールアウト
Geoff Brumfiel
フクシマ原子力発電所事故のあと、日本政府は放射からは物理的に住民を守ったが、精神的には守れていない。

COMMENT
Time to model all life on Earth
地球上のすべての生命をモデル化するとき
生物圏の理解を深めるためにも、生態学者は(気候学者のように)生態系全体をシミュレーションすべきだと、Drew Purvesほかは訴える。

CORRESPONDENCE
Toe-clipping vital to amphibian research
両生類研究に必要不可欠なToe-clipping
Décio T. Corrêa
両生類の個体数が全球的にますます減少しつつあるが、ブラジル政府は両生類にタグを付ける’toe-clipping’を科学目的だけに制限しており、世界でも有数の両生類の多様性を有するブラジルの両生類研究・保全活動は遅れている。両生類学では一般的な方法らしく、個体数をモニタリングするのに有効な方法であるという。

Tie carbon emissions to consumers
炭素放出と炭素消費者とを結ぶ
Zhu Liu, Fengming Xi & Dabo Guan
20年間削減目標が謳われたにも拘らず、全球の炭素放出量は1990年に227億トンであったものが、昨年は339億トンと増加した。国家間の気候変動緩和に関する交渉が行き詰まっている証拠であり、新たなアプローチが必要とされている。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
A history of give and take
ギブ&テイクの歴史
Steven M. Holland
過去170Maにわたる堆積物コアの浮遊性有孔虫を用いた研究から、絶滅は環境が原因で起きているが、一方で種分化(origination)は主として生物間の相互作用の結果として起きていることが示された。

Plumbing nickel from the core
コアから突き上がるニッケル
Michael J. Walter
地上に噴き出すマグマの研究から、ニッケルに富み、始源的なヘリウムの同位体を有するマントルは、非常に深い場所からもたらされたものであることを物語っている。

ARTICLES
特になし

LETTERS
Pulsed accretion in a variable protostar
変動する原始星のパルス状の降着
James Muzerolle, Elise Furlan, Kevin Flaherty, Zoltan Balog & Robert Gutermuth

Planetary system disruption by Galactic perturbations to wide binary stars
広い連星に対する銀河摂動による惑星系の分裂
Nathan A. Kaib, Sean N. Raymond & Martin Duncan

Multidecadal variability in East African hydroclimate controlled by the Indian Ocean
インド洋によってコントロールされる東アフリカの水文気候の数十年変動
Jessica E. Tierney, Jason E. Smerdon, Kevin J. Anchukaitis & Richard Seager
 ここ数十年間東アフリカの降水量は低下しており、そうした数十年変動はインド洋や太平洋の水温変動と関係していると示唆されていたが、観測記録の短さからその物理メカニズムはよく分かっていない。
 湖の堆積物記録などから得られた過去の水蒸気量のプロキシと気候モデルとを組み合わせて過去700年間の物理メカニズムを考察。太平洋のSST変動はほとんど影響を与えておらず、インド洋が地域的なウォーカー循環を変えることで降水に影響していることが示された。1680年から1765年にかけて降水量が大きかった時期はインド洋のSSTが過去700年間に最大であった時期と一致している。より長い時間スケールでも、東アフリカの降水はインド洋によって駆動されている可能性がある。

Nickel and helium evidence for melt above the core–mantle boundary
核・マントル境界上部のメルトに対するニッケルとヘリウムの証拠
Claude Herzberg, Paul D. Asimow, Dmitri A. Ionov, Chris Vidito, Matthew G. Jackson & Dennis Geist

Oceanographic controls on the diversity and extinction of planktonic foraminifera
浮遊性有孔虫の多様性と絶滅に対する海洋的なコントロール
Shanan E. Peters, Daniel C. Kelly & Andrew J. Fraass
 地球史上の大気-海洋システム、プレートテクトニクスと生物進化の繋がりを理解することは地球科学の重要課題の一つである。生物進化には様々な環境要因が関係しているとされるが、絶滅速度と種分化における「物理的な環境要因」と「生物的な相互作用」とが相対的にどれほど重要であったかはよく分かっていない。
 太平洋から得られた堆積物コア中の浮遊性有孔虫の化石を用いた研究から、ジュラ紀以降の生物の絶滅と多様性の変化が海洋循環・海洋化学とプレートテクトニクスと密接に関わっていることが分かった。一方で新たな生物種の出現(origination)の速度は環境要因と生物要因との複雑な相互作用の結果として決定されていることが分かった。

2013年1月15日火曜日

新着論文(最近のELSEVIER色々)

◎Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology
The Suess effect in Fiji coral δ13C and its potential as a tracer of anthropogenic CO2 uptake
Emilie P. Dassié, Gavin M. Lemley, Braddock K. Linsley
大気中CO2が海水のDICに溶け込むことでδ13Cが変化するが、特に人為起源のCO2(化石燃料由来は軽いδ13Cを持つ)がDICのδ13Cをより軽くする効果(Suess効果)が知られている。フィジーで得られたハマサンゴを用いてSuess効果を復元。季節変動は日射量の変化が原因として考えられるが、100年スケールの変動は日射量では説明できない。可能性として深度の変化がδ13Cに影響している可能性が考えられ、本来の大気のδ13Cのシグナルが減衰している可能性がある。また大気のδ13CO2に比べて、サンゴ骨格のδ13C変動は10年程度遅れており、DICの大気CO2の同位体平衡の従来のモデルとも整合的である。

Calcareous plankton and geochemistry from the ODP site 1209B in the NW Pacific Ocean (Shatsky Rise): New data to interpret calcite dissolution and paleoproductivity changes of the last 450 ka
Manuela Bordiga, Luc Beaufort, Miriam Cobianchi, Claudia Lupi, Nicoletta Mancin, Valeria Luciani, Nicola Pelosi, Mario Sprovieri
北西太平洋(日本の東部)のシャツキー海台(Shatsky Rise)で得られた堆積物コア(ODP1209B)を用いて過去450kaの石灰質化石の溶解の度合いや一時生産量を推定。Marino et al. (2009)によって得られた指標(NDI)が最もよく溶解を保存していると考えられる。それによると退氷期に最も良く保存状態が良いことが示された。逆に保存状態が悪いのは氷期の入りと暖かい間氷期に起きていた。保存状態を決定しているのは海洋化学の氷期-間氷期スケールの変動であると考えられる。

◎Earth and Planetary Science Letters
Growth-rate influences on coral climate proxies tested by a multiple colony culture experiment
Erika Hayashi, Atsushi Suzuki, Takashi Nakamura, Akihiro Iwase, Toyoho Ishimura, Akira Iguchi, Kazuhiko Sakai, Takashi Okai, Mayuri Inoue, Daisuke Araoka, Shohei Murayama, Hodaka Kawahata
Porites australiensisの長期間にわたる飼育実験から、いわゆる生体効果や成長量などがδ18O、δ13C、Se/Caに与える影響を評価。成長率が2 - 10 mm/yrと変化してもδ18Oの最低値(つまり夏の高水温)の個体間変動は見られなかったが、一方で群体の健康状態(ストレスなど)に応じてδ18O変動が存在することが確認された。Sr/Caにはその影響が小さく、より確かな水温指標になることが示唆される。またδ13Cは成長率が小さいサンゴ個体ほど正にシフトしており、石灰化における速度論的同位体効果として捉えることができる。

◎Geochimica et Cosmochimica Acta
Micron-scale intrashell oxygen isotope variation in cultured planktic foraminifers
Lael Vetter, Reinhard Kozdon, Claudia I. Mora, Stephen M. Eggins, John W. Valley, Bärbel Hönisch, Howard J. Spero
温度一定で飼育した浮遊性有孔虫(Orbulina universa)の殻δ18Oを12時間の時間解像度でSIMSで現場測定。さらに同じ殻をLA-ICPMSでもδ18Oを測定したところ、測定手法間の差異はほとんど見られなかった。

Fluoride in non-symbiotic coral associated with seawater carbonate
Kentaro Tanaka, Tomonori Ono, Yoshimi Fujioka, Shigeru Ohde
日本の土佐湾の深さ185-350mから採取された扇状のサンゴ(Flabellum coral)のF/Caは水深とともに増加する。F/Caは[CO32-]の指標として使える可能性がある。

Exploring the usability of isotopically anomalous oxygen in bones and teeth as paleo-CO2-barometer
Andreas Pack, Alexander Gehler, Annette Süssenberger
陸上ほ乳類の骨格アパタイト(歯のエナメルなど)中の3つの酸素同位体が過去のpCO2のプロキシになるかを評価。EoceneからMioceneにかけて復元を行ったところ、既存の他の復元結果やモデルとも整合的。新たなプロキシの不確実性の大部分は生理学的な要素。

◎Deep Sea Research Part II
Interannual variability in sea surface temperature and fCOchanges in the Cariaco Basin
Y.M. Astor, L. Lorenzoni, R. Thunell, R. Varela, F. Muller-Karger, L. Troccoli, G.T. Taylor, M.I. Scranton, E. Tappa, D. Rueda
カリアコ海盆(ベネズエラ沖)における1996年から2008年にかけてのSST・fCO2の長期モニタリングの成果。季節変動は深層水の湧昇によってもたらされている。また長期的にはSSTが13年間で「1.13 ℃」上昇しており、一方でfCO2も「1.77 ± 0.43 μatm/yr」の割合で上昇している。fCO2の温度依存性を考慮すると、カリアコ海盆におけるfCO2の上昇の72%は温度上昇によって起きていると推定される。一方カリアコ海盆では湧昇の弱化によって植物プランクトン種が変化しつつある。

Global and Planetary Change
Ocean's Response to Changing Climate: Clues from Variations in Carbonate Mineralogy Across the Permian–Triassic Boundary of the Shareza Section, Iran
Ezat Heydari, Nasser Arzani, Mohammad Safaei, Jamshid Hassanzadeh
イランのP/T境界の地層の調査から、当時の海洋炭酸系の変化を復元。ペルム紀の終わりには炭酸塩の形成が停止し、その後三畳紀の始めに再開していた。海水の化学変化は3つの段階に分けて考えることができる。

2013年1月13日日曜日

新着論文(JGR, CP, BG, JC)

JGR-Oceans
Global teleconnections in the oceanic 1 phosphorus cycle: patterns, paths, and 2 timescales
Mark Holzer, François W. Primeau
シンプルな気候モデルを用いて南大洋の栄養塩(特にリン)サイクルが全球の海洋のリン濃度や生物生産に与える影響を評価。南大洋の栄養塩サイクルの影響が遠くは北大西洋まで及ぶ(南大洋のリン消費→深層水による輸送増大→北大西洋の生物生産減少)。

Oxygen decreases and variability in the eastern equatorial Pacific
Rena Czeschel, Lothar Stramma and Gregory C. Johnson
東赤道太平洋の酸素極小層(OMZ)が拡大しつつある。これまでに得られた記録とフロートを用いた記録を用いて、ここ34年間に200m と700mのOMZにおける酸素濃度が「年間 0.50 と 0.83 μmol/kgの割合」で低下していることを示す。大きな減少トレンドはPDOによるものであり、季節変動やENSOによるより短周期の変動はそれほど大きくないことが分かった。

Sensitivity of Nd isotopic composition in seawater to changes in Nd sources and paleoceanographic implications
J. Rempfer, Thomas F. Stocker, Fortunat Joos and Jean-Claude Dutay
εNdを子午面循環の強弱のプロキシとして使用する際には過去のεNdのソースとして可能性がある海域を特定する必要がある。モデルシミュレーションを通してソースの海域のεNdのフラックスや同位体比そのものを変化させることで全球の深層水のεNdにどのように影響するかを評価。深層水形成場の河川・ダスト源のεNdの変化は全球に影響を及ぼすが、それ以外の海域では浅い部分にしか影響しないことが示された。氷期-間氷期スケールの大きな変動を生むにはソースの影響は小さいが、より小さな変動を解釈する際には注意が必要である。

Climate of the Past
Stalagmite water content as a proxy for drip water supply in tropical and subtropical areas
N. Vogel, Y. Scheidegger, M. S. Brennwald, D. Fleitmann, S. Figura, R. Wieler, and R. Kipfer
イエメン(Yemen)から得られた2本の完新世の石筍と最終間氷期の1本の石筍の単位質量あたりの水分量がδ18Oとの相関が良く、降水量のプロキシになる可能性があることを示す。δ18Oの低下と滴下水の低下は陸上の降水量の低下と関係していると考えられる。逆に滴下水の増加は密なカルサイトを形成するため、水が入り込む余地を減らすと考えられる。特に乾燥地域では差が顕著になるため、プロキシになるかも?

Influence of orbital forcing and solar activity on water isotopes in precipitation during the mid- and late Holocene
S. Dietrich, M. Werner, T. Spangehl, and G. Lohmann
ドイツの鍾乳石δ18Oをもとに中期完新世以降の軌道要素と太陽活動が降水のδ18Oに与えた影響をモデルシミュレーションを用いて評価。両方のフォーシングが気温と降水δ18Oの両方に同程度の影響を与えていることが示された。

Long-term summer sunshine/moisture stress reconstruction from tree-ring widths from Bosnia and Herzegovina
S. Poljanšek, A. Ceglar, and T. Levanič
ボスニア・ヘルツェゴビナ(Bosnia and Herzegovina)で得られた7本のblack pineの木の年輪幅データを用いて夏の日射を復元。夏の日射は水ストレスを生み、それが年輪幅に影響すると考えられる。1660年以降の記録における異常に日射が低い夏は火山噴火があった年に対応している。

Biogeosciences
Nitrogen isotopes in bulk marine sediment: linking seafloor observations with subseafloor records
J.-E. Tesdal, E. D. Galbraith, and M. Kienast
δ15Nは窒素循環を復元するのに重要なプロキシとなっているが、窒素は堆積物中で様々な状態で存在し(不均質)、続成作用なども被る。Plioceneから現在までに相当する世界各地の堆積物中のバルクδ15Nが初期のδ15Nを正しく保持しているかどうかを評価。表層5000年程度の堆積物δ15Nは周辺の堆積物との相関が良いが、一方で深部ほど続成作用によって影響を被っていることが分かった。続成作用や適さない海域・深度などをより理解することで確かなプロキシとなる。

Rates of consumption of atmospheric CO2 through the weathering of loess during the next 100 yr of climate change
Y. Goddéris, S. L. Brantley, L. M. François, J. Schott, D. Pollard, M. Déqué, and M. Dury
Peoria loessが今後100年間(700ppmまで上昇すると仮定)にどれほど風化し、CO2を吸収し得るかをモデルシミュレーション。「温度」と「河川流出量」が重要な因子であることが示された。温度上昇で土壌呼吸も増加するが、総じてケイ質岩の風化は増加することが示された。逆に(CO2をよく吸収する)ドロマイトの風化は低下することが示された。ドロマイトの風化は地下の深度によっても異なる応答を示し、場所ごとに違った挙動をする(’陸上のリソクライン’)。

Temporal biomass dynamics of an Arctic plankton bloom in response to increasing levels of atmospheric carbon dioxide
K. G. Schulz, R. G. J. Bellerby, C. P. D. Brussaard, J. Büdenbender, J. Czerny, A. Engel, M. Fischer, S. Koch-Klavsen, S. A. Krug, S. Lischka, A. Ludwig, M. Meyerhöfer, G. Nondal, A. Silyakova, A. Stuhr, and U. Riebesell
ノルウェー沖で行われたEPOCAによる野外におけるCO2添加実験の結果について。CO2濃度を185から1420μatmまで人工的に上昇させ、プランクトンがどのように応答するかを調査。第一段階では栄養塩なしで行われ、CO2による大きな差は生まれなかった。第2段階では栄養塩が添加され、CO2濃度が高いほどバイオマスが増加することが示された。そしてその後の第3段階では傾向が逆転した。時間の経過とともに「栄養塩利用」「粒子状有機物量」「植物プランクトンの種組成」などに有為な変化が見られるようになった。様々な要因が絡み合って将来の有機物の流れや生産性を決定すると考えられる。

Effect of elevated CO2 on the dynamics of particle-attached and free-living bacterioplankton communities in an Arctic fjord
M. Sperling, J. Piontek, G. Gerdts, A. Wichels, H. Schunck, A.-S. Roy, J. La Roche, J. Gilbert, J. I. Nissimov, L. Bittner, S. Romac, U. Riebesell, and A. Engel
スバルバード(Svalbard)沖で行われたEPOCAによる野外におけるCO2添加実験の結果について。CO2濃度を185から1050μatmまで人工的に上昇させ、バクテリア・プランクトンがどのように応答するかを調査。比較的低いのCO2濃度(185 - 685μatm)の時にピコ植物プランクトンのブルーミングが崩壊し、粒子に付着する生物のband classの数が25%低下することが分かった。一方バクテリアによるタンパク質合成はCO2濃度が高いほど強化され、プラスの効果をもつことが示された。

Journal of Climate
Estimating Central Equatorial Pacific SST variability over the Past Millennium. Part 1: Methodology and Validation
Emile-Geay, J., K. Cobb, M. Mann, and A. Wittenberg
Part. 1は手法開発の話。古気候プロキシを用いて過去1,000年間のNINO3.4インデックスを復元。種々の問題はあるが、NINO3.4インデックスの低周波数の変動を捕らえることが可能であることを示す。

Estimating Central Equatorial Pacific SST variability over the Past Millennium. Part 2: Reconstructions and Implications
Emile-Geay, J., K. Cobb, M. Mann, and A. Wittenberg
Part. 2は古気候復元の話。年代モデル構築がきちんとなされた熱帯のサンゴ記録を用いてNINO3.4海域の過去1,000年間のSST変動を復元。得られた記録を他の熱帯域の古気候プロキシと比較した。十年〜数十年変動は地域ごとによく合ったが、一方で数世紀の変動はあまり良く合わない。太陽フォーシングは数世紀のSST変動に対して逆位相の関係があることが分かったが、短周期には影響していないことも示された。

Attribution of projected future changes in tropical cyclone passage frequency over the Western North Pacific
Yokoi, S., Y. Takayabu, and H. Murakami
7つのGCMを用いて西太平洋の台風が将来どのように変化するかを調査したところ、赤道域がよりEl Nino様になっていくにつれ、台風が生まれる海域が東へと移動し、軌道もより東へと変化することが示された。つまり、韓国や西日本よりも、東日本への台風の到来が増加することを意味する。

Southward Intertropical Convergence Zone shifts and implications for an atmospheric bipolar seesaw
Cvijanovic, I., P. Langen, E. Kaas, and P. Ditlevsen
シミュレーションを通して北半球の寒冷化と南半球の温暖化の両方のフォーシングが低緯度の降水などにどのように影響するかを評価したところ、前者は早く伝播し、後者は遅く伝播するという2つのフェーズの変動が確認された。特に南大洋の温暖化は低緯度のITCZの南下や北大西洋の中・高緯度の表層水温・風系にまで影響することが示された。

2013年1月11日金曜日

新着論文(Science#6116)

Science
VOL 339, ISSUE 6116, PAGES 113-244 (11 JANUARY 2013)

Editors' Choice
Acid to Acid
酸から酸へ
J. Am. Chem. Soc. 134, 20632 (2012).
大気中でSO3がH2SO4に水和されることによって酸性雨が作られ、粒子が形成される。理論に基づいた計算から、H2SO4が化学反応における触媒として重要な役割を負っていることが示された(従来は水分子だと考えられていたらしい)。また化学反応の経路を決定するのは、生成場の水とH2SO4の元々の濃度であることも分かった。

Vital Variation
命に関わる多様性
Ecol. Lett. 10.1111/ele.12035 (2012).
人間活動の結果として現在は地球史上6度目の大量絶滅の最中にあることが認識され始めている。4400種ほどの哺乳類のデータベース(panTHERIA)を用いてそれぞれの種の絶滅に対する弱さのパターンを調べたところ、およそ期待通りに、「個体数が少なく」、「繁殖の速度が遅く」、「成長が遅い」種ほど(例えば大型哺乳類など)絶滅の危険性が高いことが示された。一方で種内でも様々な特性(体長、糞の大きさなど)を持ったものほど絶滅には強いことが示された。従って、より多様性を持ったものほど変化する環境に適応できることが示された。

Shrinking Atomic Clocks
小さくなる原子時計
Appl. Phys. Lett. 101, 253518 (2012).
現在の原子時計(chip-scale atomic-clock; CSAC)はナビゲーション・システムなどの様々な局面において使用されているが、軽いが比較的電気を食い(< 150 mW)、時間が経つにつれてドリフトすることが知られている(頻繁に較正しなければならない)。今回、Ybイオンを用いた新たな原子時計が作られた。従来型の時計と同程度の重さで、しかも長期安定性も高いという。

Microbial Conversion
微生物の変換
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 10.1073/ pnas.1220608110 (2012).
ここ数十年間、アマゾンの熱帯雨林が牧草地へと急速に変化しつつある。その結果、花や植物種の多様性が失われ、土壌の豊かさも低下している。そうした変化が土壌中の微生物に与える影響はよく分かっていない。熱帯雨林と牧草地の土壌中のDNAを比較したところ、α多様性(種数)は牧草地のほうが高いが、β多様性(場所ごとの多様性)は熱帯雨林のほうが高いことが示された。

News of the Week
Clearing the Air on Particulates
大気中の粒子を綺麗にする
1/1より、74の中国の大都市において2.5μm以下の有害な粒子の濃度が測定され始めた。中国にあるアメリカ大使館の測定値と中国政府が公表する数値(および解釈)が大きく食い違っているという問題があった。環境コンサルタントのSteven Q. Andrewsによれば中国政府は汚染を軽視しているという。

Transocean Owes $1 Billion For Clean Water Act Violations
’水を綺麗にする活動’を犯した罪でTransocean社が100億ドルを科せられる
2010年にメキシコ湾で起きたDeepwater Horizon石油流出事故を受けて、掘削を請け負っていたTransocean Deepwater社が140億ドルの賠償を支払うことが決定した。賠償金の多くは環境保護活動やゆく30年間のモニタリングなどに用いられる。
>より詳細な記事「Second Oil Spill Settlement Adds to Gulf Coast Science and Restoration Funding

‘Third Kingdom’ Discoverer Dies
’第三の界’の発見者が亡くなる
微生物学者のCarl Woeseが12/30に亡くなった。彼は古細菌(アーキア;Archia)の研究を通して微生物学に革命を起こした。かつて生物学の教科書には生命の木には2つの幹(バクテリアと真核生物)しか存在しなかったが、古細菌がバクテリアとは異なる進化の道筋を辿ったことが示され、1977年に異なる遺伝子を持つことが示された。その発見は議論を呼び、一般に受け入れられるようになるにはかなりの時間を要した。ほとんどの生物学者や一部の医者は「彼の功績はノーベル賞に値する」と考えているという。

Hope for Coral Reefs
サンゴ礁に対する希望の光
温暖化によってサンゴ礁が世界的に破壊されると予想されているが、一部のサンゴは熱ストレスに対して強い遺伝子を持っていることが分かった。スタンフォード大の研究グループはサモアの異なる2つの環境において熱に強いクシハダミドリイシAcropora hyacinthus)を採取した。一つは夏に水温が34℃まで上昇する水温変動が大きい環境、もう一つは水温がそれほど変動しない環境のものである。新たに60の遺伝子が同定され、前者のほうが後者に比べて活発であることが分かった。さらに後者でも温度を上げると遺伝活発になることが示された。
>より詳細な記事「A Glimmer of Hope for Coral Reefs

BY THE NUMBERS
830 million
8億3千万トン
世界の遠距離通信インフラが年間に排出するCO2の量(世界の2%を占めるらしい)。Environmental Science & Technologyにおいて公表された研究から。

100 billion
1000億個
我々の太陽系が存在する天の川銀河の中の惑星の数。The Astrophysical Journalにおいて公表された研究から。

News & Analysis
Climate Study Highlights Wedge Issue
気候研究がくさび問題を強調する
Eli Kintisch

News Focus
特になし

Letters
Antarctic Treaty System Past Not Predictive

Sustaining China’s Water Resources
中国の水資源を維持する

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Research
Perspectives
特になし

Reports
Multiple Fitness Peaks on the Adaptive Landscape Drive Adaptive Radiation in the Wild
Christopher H. Martin and Peter C. Wainwright
バハマの湖に棲息するメダカの一種(Cyprinodon pupfish)について。

2013年1月10日木曜日

気になった一文集(English ver. No. 7)

Unless large and concerted global mitigation efforts are initiated soon, the goal of remaining below 2 °C will very soon become unachievable.

The challenge to keep global warming below 2 °C」Nature Climate Change (Jan 2013, pp. 4 - 6)
大気中CO2濃度が依然として最悪のシナリオと同じ道筋を辿っていることを受けて

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Indeed, a comparison of past greenhouse proxy data with model output may be the only validation of model climate sensitivity most of us are likely to see in our lifetimes.

A sensitivity to history」Nature Geoscience (Jan 2013, pp. 15 - 16)
古気候記録を用いて将来の温暖化の程度を推定する

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Food and military security were the key objectives for Haber. For us, global environmental sustainability must surely be the main driver for future innovation.

How a century of ammonia synthesis changed the world」Nature Geoscience 2008
ハーバー・ボッシュ法によるアンモニアの人工合成技術(肥料・爆薬など)がどれほど世界を変えたか

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It currently appears that a different flavour of perfect storm has occurred in 2012, but it is hard to quantify relative factors, given the dearth of Arctic observations.

More surprises may yet be in store.

But in Arctic climate science, shocking has become almost routine.


The great sea-ice dwindle」Nature Geoscience (Jan 2013, pp. 10 - 11)
北極海の海氷の量が研究者の予想を遥かに超えた速度で失われていることを受けて

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If we are about to cross such a critical threshold, the implications for climate adaptation strategies could be significant. Likewise, knowledge of thresholds would have a strong influence on mitigation policy, not least by helping to define the meaning of the term ‘dangerous climate change’.

If the models are to be used for the prediction of potential future events of abrupt change, their ability to simulate such events needs to be firmly established — science is about evidence, not belief systems.


Built for stability」Nature Geoscience (2011, pp. 414 - 416)
急激な気候変動はモデルでは再現できないこと

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…it would be valuable for economic studies to explore the ‘insurance value’ of reducing the risk of climate feedbacks.

The study’s key message reinforces previous findings and more ambitious global action is required to maintain any chance of limiting global warming to 2 °C. The clear finding that the world would be better off acting from 2015 rather than 2020 also raises sharp and serious questions about the trade-offs implicit in the current pace of global negotiations and action. The window for effective action on climate change is closing quickly, and Rogelj et al. have put a price tag on each year of delay.


All in the timing」Nature (2012, vol. 493, pp. 35-36)
気候変動緩和にかかるコストが行動開始のタイミングに強く依存すること

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Today you wasted is tomorrow loser wanted.
あなたが無駄にした今日はどれだけの人が願っても叶わなかった未来である。
ハーバード大学の図書館にある張り紙とのこと
後輩のブログより

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In December 2011, leaders from 195 countries pledged that by 2015 they would set targets for reducing emissions starting in 2020; if they stick to that course, Hatfield-Dodds calculates, there will be a 56% chance of keeping the temperature increase below 2 °C. However, delaying action until 2025 would decrease that chance to 34%. Bringing the curbs forward to 2015, by contrast, would improve the odds to 60%, all else being equal.

early action is our best bet.

Politics is biggest factor in climate uncertainty」Nature News (02 January 2013)

今の決定が将来の温暖化の規模とその削減にかかる費用を大きく決める。

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Curiosity's middle name is Patience.

The First Signs of Ancient Life on Mars?」Science NOW
キュリオシティが火星の堆積物中に有機物を検出したが、それが本当に生命由来かどうかの決定は’辛抱強く’待たなければならないということ。

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We felt that the best thing to do was to put the result out there and see if somebody can either independently confirm it or shoot it down.

If the planets exist, they orbit a star that's about twice as old as our own, so a suitable planet has had plenty of time to develop life much more advanced than Homo sapiens. That may just explain why no one from Tau Ceti has ever contacted beings as primitive as us.

Another Earth Just 12 Light-Years Away?」Science NOW
系外惑星のシグナル検出は非常に難しく、本当の意味で正しさを検証するには10年間にわたる観測の蓄積が必要な場合も。

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what we've seen from the Kyoto protocol really is that perhaps a huge multilateral agreement involving so many nations is just, its difficult and may be it doesn't really work in practice.

...adaptation is extremely diverse now. You know, it's really very location specific.

...the issue with adaptation is that it's about planning under very uncertain, you know, scenarios.

One of them is, you know, be flexible, so you know, don't lock yourself into a sort of a hard and fast plan. You know that's one really important lesson. I think the other is buoyant from the local community.

29th November 2012 edition of the weekly Nature Podcast」Olive Heffernan
気候変動緩和のための京都議定書がほとんど実効性がなかったこと、そして将来の気候変動に備えて我々がどういった態度で臨めばいいか、など。

新着論文(Nature#7431)

Nature
Volume 493 Number 7431 pp133-264 (10 January 2013)

EDITORIALS
Realities of risk
危機の現実
Natureに関連する編集者やジャーナリストが挙げる5つの最も危険な’X-factor’について。
1、「認知力を上げる薬」「記憶力を増加させる薬」などのニーズの増加と副作用。
2、地球工学の中でもとりわけ「成層圏にエアロゾルを注入する技術」それによって温暖化を打ち消し地球を寒冷化させることが可能である可能性があるが、ならず者国家や企業がリスク評価を厳密にしないで行動に移してしまう危険性。
3、医療技術の向上によってもたらされた人口増加。
4、急激な気候変動(海水準上昇など)
5、地球外生命とのコンタクト
他にも「サイバー空間における個人の攻撃」や「生態系の崩壊や感染症パンデミックの予測がほとんどできていないこと」「巨大噴火・津波・太陽フレアなどのいつかは必ず起きる破滅的な自然災害」など。

RESEARCH HIGHLIGHTS
West Antarctic warming hotspot
西南極の温暖化のホットスポット
Nature Geosci. http://dx.doi. org/10.1038/ngeo1671 (2012)
西南極は1958年から2010年の間に約2.4℃温暖化し、地球で最も早く温暖化している地域の一つとなっている。Bromwich et al.は散在する気温の観測データ(Byrd基地で得られたもの)をもとにモデリングも組み合わせて西南極の気温データを作成した。1年を通じて気温が上昇していることが分かり、融解を招いていることが予想されている。
>問題の論文
Central West Antarctica among the most rapidly warming regions on Earth
David H. Bromwich, Julien P. Nicolas, Andrew J. Monaghan, Matthew A. Lazzara, Linda M. Keller, George A. Weidner & Aaron B. Wilson
西南極中央部に位置するByrd基地における記録は、1958年から2010年にかけて同地の気温が「2.4 ± 1.2 ℃」上昇したことを示している。南半球の夏にも有意に温暖化している(特に12月から1月にかけて)ことが初めて示され、融解が起きる季節と一致している。西南極氷床の融解は海水準上昇に大きく寄与すると考えられているため、しっかりと監視しなければならず、観測をより強化する必要がある。

Bisexuality boosts attractiveness
同性愛であることが魅力を急増させる
Biol. Lett. 9, 20121038 (2013)
グッピーの近縁であるスリコギモーリー(Atlantic mollies; Poecilia mexicana)はオスがオス同士で交尾をしている場合でも、相手の性別が何であれ、メスの興味を引くことができるらしい。メスにオスの交尾ビデオ(相手はオスまたはメス)を見せたところ、交尾をしているオスに注意が引きつけられた(メスはオスを正しく認識していることが他の実験から確かめられている)。オス同士が交尾を真似ることは、メスの注意を引くために(メスに相手にされない)小型のオスが取っている適応戦略の一種と考えられている。
>他の日本語の記事(AFPBB News)

A galaxy far, far away
遠くの、遠くの銀河
Astrophys J. 762, 32 (2013)
ハッブル宇宙望遠鏡によって宇宙が誕生してからわずか4.2億年後の若い銀河が発見された。これまで見つかった中でもっとも若い(つまり遠い)銀河。

Direct images of DNA
DNAの直接撮像
Nano Lett. 12, 6453–6458 (2012)
DNAの発見から60年経って、ようやくDNAの撮影がTEMを用いて可能になった。イタリアのEnzo di Fabrizioらは約 2.7 nm 間隔で繰り返される螺旋状の構造を観測した。

SEVEN DAYS
NUMBER CRUNCH
17 bn
170億
天の川銀河に存在する地球と同程度の大きさを持ち、恒星から同程度の距離を公転する惑星の推定数。

Spill settlement
石油漏れの調停
スイスに籍を置く掘削企業のTransoceanは2010年のDeepwater Horizon石油流出事故に対する賠償として「140億米ドル」を支払うこととなった。この額は先日決定された石油会社BPに対する「450億米ドル」に次ぐ。

TREND WATCH
COUNTING CATASTROPHES
大災害を数える
昨年自然の大災害で命を落とした人は「約9,500人」と推定されている。また損害は「1600億米ドル」であった(ハリケーン・Sandyだけで3分の1を占める)。両方ともここ10年の平均よりは低い数値となっているらしい。

NEWS IN FOCUS
Europe’s untamed carbon
ヨーロッパの制御されていない炭素
Richard Van Noorden
ヨーロッパにおいては研究資金と政治とが炭素貯留技術の進展を妨げている。

Electron beams set nanostructures aglow
電子ビームがナノ構造を輝かせる
Eugenie Samuel Reich
物理学者は人工物質(メタマテリアル:metamaterial)の内部層を調べるのに地質学の古い道具を借りている。

Tough talk over mercury treaty
水銀条約をめぐる困難な議論
水銀汚染(金鉱山や石炭の燃焼から出てくる)の緩和にかかるコストを国家間でどのように負担するかの議論が難航している。

FEATURES
It could happen one night
それは一晩で起きる可能性がある
Nicola Jones
地質学時代に起きていたことが分かっており、いつ起きてもおかしくない自然の大災害について。
1. Death by volcano
火山による死
世界各地に存在する火山の中には、74kaのToba火山の噴火のように全球に影響を与える規模で大噴火を起こすようなものも存在し、それはいつ噴火してもおかしくない状況にある。
2. Death by fungus
真菌類による死
ウイルスやバクテリアよりも、真菌類の方がより多くの死を招いている。例えば1840年代のジャガイモへの感染症は耕地の75%をダメにし、100万人ものアイルランド人が死んだ。真菌類の中で特定されているものはほんのわずかで、1995年以来、新種の真菌類の感染症の報告は約10倍に膨れ上がっている。
3. Death from above
上空からの死
太陽フレアは直接的に人命を奪うとは考えにくいが、現在の電力網や人工衛星に対する被害などを通して間接的に大きな災害となると考えられる(一説には数億人とも)。また大量絶滅をもたらすほどの巨大隕石衝突もいつかはまた起きるかもしれないが、天文学者はその早期発見に目を光らせている。また起こるのは極めて稀だと考えられているが、近隣のブラックホールから発せられるγ線バーストが地球のオゾン層を破壊する可能性などが挙げられる。
4. Death by water
水による死
8,000年前には水面下の地滑りによって20mの津波がイギリスで発生していた。

CORRESPONDENCE
A shortage of fertilizer resources?
肥料資源の不足?
Tim Worstall
「リンとカリウムを原料とする肥料が不足する危険が差し迫っている」とJeremy Granthamは先日Natureにて警告を発したが、リソスフェア中のそれぞれの存在比は0.1%と2.5%で、おそらく人類の寿命や地球そのものの寿命においても使い尽くせないほどの量がある。彼は鉱山の埋蔵量に基づいて我々が使用可能な量を推定したが、それと現実に存在し、利用可能な埋蔵量とは別物である。'Resource(地球上に元素として存在する量)'と'Reserve(人類が採掘・利用可能な量)'とは全く別の代物である。

Jeremy Grantham replies:
Jeremy Granthamの返答
確かにリンは地殻中に豊富にあるが、将来の90億人の世界人口を養うには豊富にあるとは言いがたい。わずかに0.5%だけがリン酸を含む鉱物に存在する。我々はそれを採掘しているが、豊かな埋蔵量を誇る鉱山の資源量は減少しつつある。アメリカをはじめとする大量生産型の農業のせいでここ10年間で価格は4.3倍に増加している。これを変えなければ、貧しい人たちは肥料や作物を得ることができなくなってしまう。

China's new leaders offer green hope
中国の新たな指導者達はグリーンな希望を与える
Hong Yang, Roger J. Flower & Julian R. Thompson

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Older but less wise
年は取っているが賢くはない
Peter F. Sale
禁漁域に生息する魚は他と比べると年を取っており、大型で多産だが、脅威から逃れるのは遅い。
[Natureの日本語版要約]

How glaciers grow
どのように氷河が成長するか
Simon H. Brocklehurst
最新鋭の数値モデリングから、氷河の前進はその時の地形に強く依存し、将来の氷河の前進は既に起きている氷河浸食によって助けられることが示された。
[Natureの日本語版要約]

ARTICLES
Craniofacial development of hagfishes and the evolution of vertebrates
ヌタウナギの頭蓋顔面の発生と脊椎動物の進化
Yasuhiro Oisi, Kinya G. Ota, Shigehiro Kuraku, Satoko Fujimoto & Shigeru Kuratani
[Natureの日本語版要約]

LETTERS
Bright radio emission from an ultraluminous stellar-mass microquasar in M 31
M 31の超高光度の恒星質量マイクロクェーサーからの明るい電波放射
Matthew J. Middleton et al.
[Natureの日本語版要約]

Flows of gas through a protoplanetary gap
原始惑星の間隙を通過するガスの流れ
Simon Casassus et al.
[Natureの日本語版要約]

Glaciations in response to climate variations preconditioned by evolving topography
進化する地形により前もって調整された氷河の気候変動に対する応答
Vivi Kathrine Pedersen & David Lundbek Egholm
第四紀の氷河作用とも関連。
[Natureの日本語版要約]

Carbon-dioxide-rich silicate melt in the Earth’s upper mantle
地球上部マントルにおける二酸化炭素に富むケイ酸塩メルト
Rajdeep Dasgupta et al.
[Natureの日本語版要約]