Main contents

☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年1月4日金曜日

新着論文(Science#6115)

Science
VOL 339, ISSUE 6115, PAGES 1-112 (4 JANUARY 2013)

Editors' Choice
Bacterial Breeze
バクテリアの風
Appl. Environ. Microbiol. 10.1128/AEM.03029-12 (2012).
オレゴンのBachelor山には毎年~64Tgものエアロゾルがアジアからもたらされるが、2011年の4月と5月に発生した大規模なエアロゾルイベントの際のサンプル中の2,800種ものバクテリア(Gram-positive organism)を採取し、培養することができた。海洋の古細菌も含まれたが、特に胞子を作ることができ、極限環境でも生き残れる種が支配的であった。バクテリアが雲核として降水現象へ寄与している可能性や空気汚染源として寄与している可能性が指摘されている。

Feeling the Pressure
圧力を感じる
Geology 10.1130/G33419.1 (2012).
火山は気候・炭素循環・地形形成など様々な現象と関連しており、その過去の発達史を研究することは重要である。火山は地表の圧力状態の変化(例えば氷床の拡大・縮小、海水準変動など)とも関連しているため、ミランコビッチ周期でも変化していたと考えられる。Kutterolf et al. (2012, Geology)は太平洋全体で得られた堆積物コア中の火山灰の年代から、環太平洋造山帯における火山活動が41ka周期(obliquity period)で起きていることを示した。火山活動は氷床の変化にわずかに遅れており(4.0 ± 3.6 kyr)、地表の圧力変化が火山活動を誘発しているという考えと整合的である。
>問題の論文
A detection of Milankovitch frequencies in global volcanic activity
Steffen Kutterolf, Marion Jegen, Jerry X. Mitrovica, Tom Kwasnitschka, Armin Freundt, and Peter J. Huybers

News of the Week
Curiosity’s Big Year
キュリオシティーの大きな年
2012年は火星探査機Curiosityが我々を多いにわかせた。今年も火星の歴史を紐解くためにCuriosityは活躍することが期待されているが、反面プレッシャーも大きい。
「火星にかつていた生命の痕跡である有機物は見つかるか?」
「生物活動の証拠とも言えるメタンは現在も火星の地下から漏れ出しているか?」

Gauging the Global Greenhouse
全球の温室効果ガスを推定する
IPCCは次の第5次報告書を9月に公表する予定である。しかし温室効果ガス削減は全く達成できておらず、異常気象や海水準上昇などは避けられないかもしれない。これまでの報告書で「2100年に悲惨な状況に繋がりかねないほどに気候は温室効果ガスに対して敏感であり、地球は既に温暖化しつつある」と分かっていながら…である。

News & Analysis
Space Solar Cells With A Down-to-Earth Cost
現実的な値段の宇宙太陽電池
Robert F. Service
通常人工衛星などの太陽光発電に使われる高価なガリウム-ヒ素(GaAs)半導体が、ミシガン大の研究チームによってより安価なものに生まれ変わるかもしれない。従来その製造過程は非常に手間で、再利用が難しいものであったためにコストが高かった。新たな手法ではインジウム-リン(InP)で基盤をサンドイッチすることで改善を施しているらしい。しかし、「アイデアは優れているが、大量生産には依然としてコスト高かもしれない」という指摘もある。この技術はまだ開発途上であるが、やがて通常の太陽電池によるエネルギー生産コストに肩を並べ、さらに化石燃料のエネルギー生産コストよりも安くなることに期待が寄せられている。

News Focus
Death of a Star
星の死
Yudhijit Bhattacharjee

Policy Forum
Threats from India's Himalaya Dams
インドによるヒマラヤ・ダムの脅威
R. Edward Grumbine and Maharaj K. Pandit
計画と影響評価がお粗末であるため、ダム建設の結果として生態系への脅威と住民が移動を余儀なくされる可能性が迫りつつある。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Research
Perspectives
How Was Early Earth Kept Warm?
どのようにして初期の地球は暖かく保たれていたのか?
James F. Kasting
Wordsworth & Pierrehumbertの解説記事。
太陽系の初期の段階では太陽は約25%弱まっていたと考えられていたにもかかわらず、地球は凍り付いていなかった(’暗い太陽のパラドクス’)。そのため地球を暖めるメカニズムがあったはずである。Wordsworth & Pierrehumbertは初期地球大気に水素が10%含まれていれば、その温室効果によって地表温度を10〜15℃に維持することができることを示した。CO2もまた重要な温室効果ガスであるが、初期地球においてはその濃度は低かった可能性が様々な記録から示唆されている(例えば、海洋底の風化速度・古土壌・縞状鉄鉱床など)。他にもメタン濃度や気圧の変化、アルベド・フィードバックなど、様々なメカニズムが提唱されているが、CO2の温室効果に比べるとどれも小さいと見積もられている。水素と窒素の濃度が現在よりも高かったとすれば、CO2の濃度が現在と大差ない程度であったとしても、十分な温室効果が期待されるという。通常水素はメタン菌によって速やかに消費されてしまうが、初期地球においては栄養塩利用効率の低下によって一次生産が抑えられていたと推測されている。

Reports
A Stringent Limit on a Drifting Proton-to-Electron Mass Ratio from Alcohol in the Early Universe
Julija Bagdonaite, Paul Jansen, Christian Henkel, Hendrick L. Bethlem, Karl M. Menten, and Wim Ubachs

Alignment of Magnetized Accretion Disks and Relativistic Jets with Spinning Black Holes
Jonathan C. McKinney, Alexander Tchekhovskoy, and Roger D. Blandford

Hydrogen-Nitrogen Greenhouse Warming in Earth's Early Atmosphere
地球の初期の大気における水素-窒素の温室効果
Robin Wordsworth and Raymond Pierrehumbert
太陽の光度は過去においては現在よりも低かったため、なぜ地球史を通して液体の水が存在し得たのかは謎のままである(’暗い太陽のパラドクス’)。「窒素質量が現在よりも2〜3倍大きく、水素が10%大気に含まれていれば」、CO2濃度が現在よりも2〜25倍と少なかったとしても、温室効果によって地表温度を0℃以上に維持できた可能性があることが分かった。メタン菌の登場とその広がりは水素のCO2やメタンへの変換を通して地球を寒冷化させたと考えられる。

Highly Variable El Niño–Southern Oscillation Throughout the Holocene
完新世を通して大きく変動していたエルニーニョ・南方振動
Kim M. Cobb, Niko Westphal, Hussein R. Sayani, Jordan T. Watson, Emanuele Di Lorenzo, H. Cheng, R. L. Edwards, and Christopher D. Charles
将来ENSOがどう変化するかが注目を集めている。赤道太平洋中央部のChristmas島とFanning島から得られた化石サンゴのδ18Oの周期解析から、過去7,000年間にENSOの活動度が大きく変化していたことが分かった。またその変化の傾向には系統的なトレンドは確認されなかった。この結果は日射量フォーシングに対するENSOの応答を示していたモデル研究の結果とは食い違っている。21世紀のENSOの変動は化石記録と比較すると大きいが、例外的なほどではない。自然のENSOの変動の大きさを考えると、それが自然起源であれ人為起源であれ、違いを浮き彫りにするのは難しいかもしれない。

An Update of Wallace’s Zoogeographic Regions of the World
Wallaceの世界の動物地理学のアップデート
Ben G. Holt

The End of History Illusion
人生の終わりという幻想
Jordi Quoidbach, Daniel T. Gilbert, and Timothy D. Wilson
19,000人の18 - 68歳の男女に対して「過去数十年間に自分がどれほど変わったか、そして今後どれくらい変わるか」を聞いたところ、若い人も、中年も、年配の人も、揃って「過去には大きく変わったが、今後は大きく変わらない(既に臨界点に達した)」と答えた。この勘違いとも呼ぶべき、’end of histoly illusion’は、人々が現在の思考に合わせて将来の投資を行いすぎている可能性を指摘している。