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2018年4月20日金曜日

サンゴに未来はあるか?3

前回の記事からまたしばらく時間が経ったのと、グレートバリアリーフのサンゴ礁が白化現象に伴い壊滅的な被害にあっているという記事・論文を見たのとを受けて、またアップデートしておきます。
サンゴに未来はあるか?2
サンゴに未来はあるか?

今回目に留まったのはNatureに掲載された以下のもの。
Great Barrier Reef saw huge losses from 2016 heatwave
Nature NEWS (18 APRIL 2018)


Global warming transforms coral reef assemblages
Terry P. Hughes et al.
Nature (2018), doi:10.1038/s41586-018-0041-2

ちなみに、同じ作者が筆頭著者でグレートバリアリーフのサンゴ礁の被害について立て続けに論文書いています。
Global warming and recurrent mass bleaching of corals
Terry P. hughes et al.
Nature 543, 373–377 (16 March 2017)

Spatial and temporal patterns of mass bleaching of corals in the Anthropocene
Terry P. Hughes et al.
Science 359, 80–83 (05 Jan 2018)

これまで全球的な規模の白化現象は1998年と2002年に起きており、2015年と2016年には2年続けて起きたことでこれほど大きな被害になったのだと思われます。
白化現象を免れたサンゴの範囲は1998年は45%、2002年は42%でしたが、2016年はたったの9%であったことも分かっています。

グレートバリアリーフ、今年の白化現象は「過去最大規模」
CNN news (2016.11.30)

白化の要因を解析したところ、漁業圧や水質ではなく、水温、特に水温が通常より高い状態が何日間か続くことが重要であることが見出されました。エルニーニョが極端に高水温の海水をもたらしたためと考えられます。
被害の分布を見ると、より熱帯寄り(北側)のサイトほど白化の被害が大きいことが分かります。

大規模白化でサンゴ被覆が失われた程度(Nature NEWS


生物やその複合体である生態系には本来擾乱に対する適応の作用が備わっています。そのため、一度壊滅的な被害を被っても回復し、むしろ新たに形成された生態系には全体として耐性が身につく可能性が指摘されています。
しかしながら、少なくとも1998年と2002年の大規模白化によって2016年の大規模白化現象が緩和されるといったことは起きなかったことが今回明らかになりました。

今回の白化の直後と半年後に行われた航空観測・潜水調査によれば、今回被害を大きく受けていたのはテーブル状やツノ状の、比較的早く成長する、かつ複雑な構造を作り小型生物に住処・隠れ家を提供するタイプの造礁サンゴであることも分かりました。それらが白化後死滅し、変わってより成長の遅い、より簡素な形のサンゴ(ハマサンゴなど?)へと置き換わりつつあることも分かりました。

「サンゴが異なるサンゴに変わるのだからサンゴ礁生態系としては維持されているではないか」と思う人もいるかもしれません。
サンゴが置き変わることで三次元的な構造が変化すれば、当然生物多様性にも変化が生じます。特に小型生物がいなくなれば多様性は減じることになるでしょう。

暑すぎてサンゴの多様性が減るという事例は、完新世よりも温暖だった最終間氷期(約12万年前)のサンゴの多様性を調べた研究からも見てとれます。
Equatorial decline of reef corals during the last Pleistocene interglacial
Wolfgang Kiessling, Carl Simpson, Brian Beck, Heike Mewis, and John M. Pandolfi
PNAS 109 (26 December 2012)
当時は自然状態(人間活動なし)で温暖な状態が実現していましたが、赤道域があまりにサンゴにとって暑く、多様性が減じていたことが指摘されています。

また石灰化速度が低下すれば、礁形成速度も低下しますので、より侵食(生物・化学・物理)を被り礁そのものの存在が危ぶまれます(新しく作られるものと失われるもののバランスが崩れる)。
特にサンゴ礁は嵐による波などから沿岸部を守る役割も負っています。今後礁の侵食量が大きくなれば、沿岸域がより海水準上昇や高波などの被害に晒されやすくなることになります。

これまで、温暖化に伴う白化や、海洋酸性化によってサンゴ礁そのものが消滅して藻場やソフトコーラル群集に置き換わるといった可能性も指摘されていました。
ただ、私自身の考えとしては、中にはそうした劇的な変化を被る場所もあるかもしれないけれど、サンゴの中でも環境耐性が大きいものは将来生き残れる可能性が高いので、サンゴ礁としての機能は残る可能性は十分にあります。
また現在サンゴは北上(南半球では南下)中で、より生育に適した場へを求めて広がりつつあります(ただし、温帯域のサンゴは礁を形成するほどの石灰化速度がないことに注意)。まさに過去に起きたような、熱帯域のサンゴは多様性が減じて、中緯度域は増加するという、最終間氷期に起きた事象が見られつつあるという状況にあります。
人間もまた耐性が大きいサンゴを移植するなど、環境に手を加えていくことになるかと思います。
もちろんここで言いたいのは、単にサンゴ礁が残るということで、産業革命以前の生物の豊かなサンゴ礁に戻るということではないです。また温暖化の結果、海水準も上昇しており、石灰化速度が十分でなければ一部のサンゴ礁は水没する可能性もあります。

今後、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を減らさない限り、エルニーニョに伴う熱波の発生頻度は上昇すると予想されており、海洋酸性化も確実に進行するため、サンゴ礁はますます環境からのストレスに晒されることになります。
論文の著者へのインタビューの中では、「サンゴ礁のレジームシフトは我々の想像よりも早く進んでいて、もう取り返しのつかないところまで来ている」とも言われています。

世界最大の生物が作る構造物であるグレートバリアリーフの未来は決して明るいものではありません。
その中で、少しでもグレートバリアリーフを未来に残せるように私たちにできる最善策は、温室効果ガスの排出削減に向けて取り組みをいっそう強化することに他なりません。

2018年4月13日金曜日

IPCC第6次報告書の執筆者

IPCC第6次報告書の執筆者が公表されました(→Selection of Authors for IPCC Sixth Assessment Report)。
以下の方々はWG1に名を連ねる、私が名前を知っている方々(敬称略)。気候モデラーについては日本人が多いのではなく、単に名前を存じ上げているのが日本人というだけです。

古気候関係者
Kim Cobb
サンゴ骨格を用いた赤道太平洋域の古環境復元

Samuel Jaccord
古気候プロキシのコンパイル

Alan Mix
海底堆積物コアを用いた古環境復元

Jinho Ahn
アイスコアを用いた過去の大気CO2濃度復元と炭素循環

気候・水循環モデラー
Shayne Mcgregor
Yu Kosaka(東大地惑・小坂 優)
Seita Emori(国立環境研・江守 正多)
Masahide Kimoto(東大大気海洋研・木本 昌秀)
Masahiro Watanabe(東大大気海洋研・渡部 雅浩)
Masaki Satoh(東大大気海洋研・佐藤 正樹)

海洋酸性化モニタリング
Richard Feely
Masao Ishii(気象研・石井雅男)