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2013年1月19日土曜日

サンゴに未来はあるか?

→続編「サンゴに未来はあるか?2(2014年9月15日)」

徐々に海洋酸性化が日本でも浸透しつつあります。
ただし海外(特にアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア)に比べるとまだまだ社会的な認知も足りておらず、研究数も海外には敵わないのが実情です。

今回は海洋酸性化が悪影響を及ぼすと考えられているサンゴに焦点を当てます。
サンゴ礁は世界の熱帯域に広がり、海洋生態系の大部分はサンゴ礁に支えられていると考えられています。

サンゴに悪影響をもたらすのは「海洋酸性化」だけに留まらず、「温暖化」「富栄養化」「オニヒトデの被害」「赤土・火山灰による被覆」「人間・漁具・台風による物理的破壊」など、様々あります。

そのため場所ごとに場所固有の環境悪化の原因があると考える必要があります。

しかし、全球的にほぼ均質に影響をもたらすのが「海洋酸性化」と「温暖化」だと言えそうです。

種々のモデルシミュレーションを用いた将来のサンゴ礁の予測はこれら2つは考慮していますが、それ以外の要因の将来予測については不確実性が大きく、モデルに組み込むのが難しいのが現状です。

今回、サンゴ礁の現状と未来予測に関して最近出された論文等をもとに、特に海洋酸性化、温暖化によってサンゴ礁がどういった影響を被っており、今後どのようになると予想されているかを簡単にまとめてみたいと思います。

以前書いた「海洋酸性化のレビュー」はこちら
以前書いた「海洋酸性化に対するサンゴ礁生態系への影響のレビュー」はこちら


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◎オーストラリアのサンゴ礁の今
生態系のホットスポットとしても知られるオーストラリアの3つの地域についてまとめます。

1、西海岸

 実は、西オーストラリアに棲息するハマサンゴは温暖化によって成長が促進しているという報告があります。

Growth of Western Australian Corals in the Anthropocene
人類の時代における西オーストラリアのサンゴの成長
Timothy F. Cooper, Rebecca A. O’Leary and Janice M. Lough
Science 335, 593-596 (2012).

Scienceにて公表されたこの研究では、オーストラリア西部の異なる緯度で複数のハマサンゴをコアリングし、その成長縞(1年に1枚の縞を作る)の幅をもとに、過去の成長量を推定しました。
すると、どの地点でも似たような成長量の’増大’が確認されました。
従来、オーストラリア東海岸の研究などから「酸性化とともに石灰化量が低下し、成長量が減少するだろう」と予想されていたため、この研究によってサンゴの石灰化が単純に炭酸系の化学だけに支配されないことが明らかになりました。

ただし筆者らも、「いまは温暖化で成長は増大しているものの、いずれは酸性化の影響が顕在化してきて逆転するだろう」と予想しています。



 2010-2011年には西オーストラリアで大規模な異常昇温が確認されました。
「10週間以上にわたって通常よりも2〜4℃温度が上昇した」ことが報告されています。

それによってサンゴをはじめとする生態系に大きな影響が出ました。

例)例を見ないサンゴの白化現象

Unprecedented Mass Bleaching and Loss of Coral across 12° of Latitude in Western Australia in 2010–11.
2010-2011年の西オーストラリアの緯度12ºをまたぐ前例にない白化現象とサンゴの消失
Moore Jay et al.
PLoS ONE 7: e51807, doi:10.1371/journal.pone.0051807 (2012).


例)海草に支えられていた温帯の生態系が熱帯型の生態系へと激変

An extreme climatic event alters marine ecosystem structure in a global biodiversity hotspot
異常な気候イベントが世界的な生物多様性のホットスポットの海洋生態系の構造を変える
Thomas Wernberg et al.
Nature Climate Change 3, 78–82 (2013)

 こうした出来事から、生態系モデルを見直すべきだという声も出ました。
というのも、現在のモデルでは’徐々に’上昇する水温に基づいて生態系の応答の予測がなされていますが、今回確認されたような’急激な気候イベント’が生物多様性のパターンを決定することが明らかになったからです。


2、東海岸

オーストラリアは巨大な大陸のため、東海岸と西海岸でも全く異なる生態系が存在し、その環境擾乱に対する応答も異なります。

やや温帯域のサンゴの種の構成をモニタリングしていた研究からは、「ここ50年間で全球の海水温は約0.35℃上昇し、サンゴ礁の生物がより極側(熱帯→温帯)に移動しつつあること」が示されました。

Pole-ward range expansion of Acropora spp. along the east coast of Australia
オーストラリア東海岸に沿ったミドリイシサンゴの極側への生息域の拡大
A. H. Baird, B. Sommer and J. S. Madin
Coral Reefs (2012)

他にも、
  • オーストラリア東岸では冬の最低水温が上昇した結果、これまで熱帯にしか生息できなかった熱帯魚が温帯でも生息できるようになっている。
  • 2011年12月に、これまでオーストラリアのSolitary Islandsで確認されていなかったサンゴの種が初めて確認された。
  • 同地では冬の平均水温は1975年以来0.5℃上昇している。
などの一連の報告から、温暖化によってオーストラリア東岸全体でサンゴの生息域の南下(極側への移動)が起きている可能性が指摘されています。


3、グレートバリアリーフ

僕が2012年に最も衝撃を受けたのが、PNASにて発表されたこの論文でした。

The 27–year decline of coral cover on the Great Barrier Reef and its causes
グレートバリアリーフにおけるサンゴ被覆の27年間の減少とその原因
Glenn De’ath, Katharina E. Fabricius, Hugh Sweatman, and Marji Puotinen
PNAS 109 (2012).


とその紹介記事

Iconic coral reef degraded despite substantial protection
アイコン的なサンゴ礁が相当な保護政策にも関わらず衰退した
Nancy KnowltonPNAS 10917734–17735 (2012).

27年間もの長期間にわたってグレートバリアリーフのサンゴ被覆をモニタリングしていたこの研究では、サンゴ被覆が「28.0%」から「13.8%」まで激減していることを明らかにしました。

その原因としては「台風」「オニヒトデの被害」「温暖化による白化現象」がそれぞれ原因の「48%」「42%」「10%」とされました。

台風の軌道・規模・頻度などは温暖化によって変化しつつあり、またオニヒトデの大量発生は温暖化や富栄養化などと関係があります。
少なくともオニヒトデの異常発生に関しては人間活動によって河川などから栄養に富んだ水が流入していることが一部の原因を担っているので、迅速に対応すればある程度抑えることが可能だと指摘されています。

 迅速な行動なしにはGBRの未来は危ういという言葉で論文は締めくくられています。
以下は引用文
原文:
In conclusion, coral cover on the GBR is consistently declining, and without intervention, it will likely fall to 5–10% within the next 10 y. Mitigation of global warming and ocean acidification is essential for the future of the GBR. Given that such mitigation is unlikely in the short term, there is a strong case for direct action to reduce COTS populations and further loss of corals. Without intervention, the GBR may lose the biodiversity and ecological integrity for which it was listed as a World Heritage Area.
※GBR = Great Barrier Reef(グレートバリアリーフ)※COTS = crown-of-thorns starfish(オニヒトデ)
和訳:
結論として、GBRのサンゴ被覆は一貫して減少しつつあり、人間の介入なしにはあと10年間で5-10%にまで減少しそうである。GBRの未来のためには地球温暖化と海洋酸性化の緩和が必要不可欠である。そうした緩和策が短期的には実現できないことを考えると、オニヒトデの個体数とさらなるサンゴの減少を食い止めるための直接的な行動が必要だという実情がある。人間の介入なしにはGBRは、それらがあるからこそ世界遺産に登録されているのだが、生物多様性と手つかずの生態系を失うだろう。


西海岸の例と異なり、グレートバリアリーフ全体に分布する328個体のハマサンゴの骨格成長量を復元した研究からは、1990年以降、成長率が急激に低下しており、過去400年間で例がない規模であることも示唆されています。

Declining Coral Calcification on the Great Barrier Reef
グレートバリアリーフにおけるサンゴ石灰化を紐解く
De’ath, G., Lough, J. M., Fabricius, K. E.
Science 323, 116–119 (2009).

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◎サンゴ礁の将来予測

1、日本の例

 モデル研究を用いた研究で温暖化と海洋酸性化を再現し、将来日本周辺のサンゴがどうなるかを予測した研究では、その予測結果に衝撃を受けました。

ただし、上述のようにモデル研究では取り入られていない種々の過程が存在するので、予測が本当に現実になるかについては不確実性が大きいということを指摘しておきます。「サンゴが適応する可能性」や「サンゴが早く移動できる可能性」などをモデルは考慮していないことを筆者らは自ら述べています。

Ocean acidification limits temperature-induced poleward expansion of coral habitats around Japan
海洋酸性化が温度上昇によって引き起こされる日本周辺のサンゴ生息域の極域への拡大を制限する
Y. Yara, M. Vogt, M. Fujii, H. Yamano, C. Hauri, M. Steinacher, N. Gruber, and Y. Yamanaka
Biogeosciences
  • IPCCのbusiness as usual排出シナリオ(現在のペースでどんどんCO2を出すシナリオ)では、2100年にはサンゴは数百キロ北上する。
  • 温暖化による白化現象と海洋酸性化による炭酸塩の飽和度低下によって日本周辺でサンゴの生息できる環境は2020年〜2030年には半分ほどになり、2030-2040年には消失する。

繰り返しになりますが、やや大げさに見積もられている可能性があります。

2、熱帯・亜熱帯の例

 過去からも多くのことを学ぶことができます。例えば、最終間氷期(MIS5e, 12.5万年前)は現在の間氷期に似ているものの、やや温暖化していたことが知られています。
そうした時代は将来のアナログとして考えることができます。

Equatorial decline of reef corals during the last Pleistocene interglacial
後期更新世の間氷期における赤道域の造礁サンゴの衰退
Wolfgang Kiessling, Carl Simpson, Brian Beck, Heike Mewis, and John M. Pandolfi
PNAS 26 December 2012; Vol. 109, No. 52 (2012)


この研究では、当時の生物多様性は亜熱帯域が最も大きく、赤道域はやや多様性が小さかったことが示されました。
その原因として、赤道域の温度が高すぎたことが考えられています。

サンゴは高温ストレスを避けて極側へと移動しつつありますが、徐々に赤道域のサンゴ礁が衰退することが予想されました。


モデルシミュレーションを用いて、より全体的なサンゴ礁の未来を予測する研究も多数あります。

例)2100年にはサンゴ礁はなくなるという予測

Coral Reefs Could Be Decimated by 2100
サンゴ礁は2100年には死滅するかもしれない
Eli Kintisch
ScienceNOW (20 December 2012)


例)2030年頃から白化現象が頻繁になるかもしれないという予測

Large-scale stress factors affecting coral reefs: open ocean sea surface temperature and surface seawater aragonite saturation over the next 400 years
サンゴ礁に影響する大規模なストレス要因:ゆく400年間の外洋の海洋表層水と表層水のアラゴナイト飽和度
K. J. Meissner, T. Lippmann and A. Sen Gupta
Coral Reefs (2012)
  • RCP 4.5と8.5というシナリオではアラゴナイト飽和度が閾値(~3.3)を下回るのは2050年ころ。
  • 2030年までには66-85%のサンゴ礁で10年に1回の頻度で白化現象が起きる。
  • 2050年までにはすべてのシナリオにおいて温度の閾値を超える。

温暖化と海洋酸性化はともに人間がこの先CO2をどの程度、どれほど早く出すかに依存するのでそれ自体予測が難しいのが実情です。
一説には温暖化よりも海洋酸性化の影響が先に現れるのではないか、とも言われています。



また、温暖化の副作用でサンゴの避難所が運良くできるかもしれないという報告も。

Equatorial refuge amid tropical warming
熱帯の温暖化の中の赤道域の避難所
Kristopher B. Karnauskas & Anne L. Cohen
Nature Climate Change (July 2012)


温暖化によって強化される表面下の海流(赤道潜流;Equatorial Undercurrent;EUC)が強化されることで、一部の海洋島・環礁付近で湧昇が強化され、冷たい亜表層水が沸き上がることで温暖化を打ち消す働きがあるという報告です。
人工衛星とモデルシミュレーションを組み合わせることで、「Gilbert諸島では今世紀末の温暖化は25 ± 9 %ほど緩和される」と試算されています。



また先日、サンゴの中には温度ストレスにも強いものがいるという報告もなされ、サンゴの未来にわずかな明るい光が射しました。

A Glimmer of Hope for Coral Reefs
サンゴ礁に対する希望の光
Science NOW (7 January 2013)

 スタンフォード大の研究グループがサモアで行った研究では、
「夏に水温が34℃まで上昇する水温変動が大きい環境」と「水温がそれほど変動しない環境」に生息するクシハダミドリイシ(Acropora hyacinthus)の遺伝子を調べた結果、このサンゴが熱ストレスに強い遺伝子を持っていることが明らかになりました。

また温度を上げるほど遺伝子の発現が強くなることも分かりました。

他のサンゴが同じように熱耐性を持っているのかどうかはまだよく分かっていません。

しかし過去を鑑みると、最終間氷期には熱帯域のサンゴは温度ストレスを受けて衰退していたことが示されています。

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生物が将来変わりゆく環境にどう適応するかの予測は難しいですが、それと同時に人間がどのように環境を変えてゆくかの予測も難しいものがあります。

いずれにせよ、世界は変わりつつあり、将来激変するということだけは避けられないことであり、それは自然変動ではなく人間が引き起こしているものです。

まさにAnthropocene(人類の時代)に我々はいるわけです。

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より深く勉強したい方へ

Coral Reefs Under Rapid Climate Change and Ocean Acidification
O. Hoegh-Guldberg et al.
Science 318, 173–175 (2007).

Projecting Coral Reef Futures Under Global Warming and Ocean Acidification
John M. Pandolfi et al.
Science 333, 418–422 (22 July 2011).

Coral Reefs and Ocean Acidification
Kleypas, J. A. & Yates, K. K.
Oceanography 22, 108–117 (2009).

Why Corals Care About – Ocean Acidification Uncovering the Mechanism
Cohen, A. L. & Holcomb, M.
Oceanography 22, 118–127 (2009).