Main contents

☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog
ラベル JC の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル JC の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2013年9月15日日曜日

新着論文(JC, EPSL, CG, Radiocarbon)

◎Journal of Climate
Decadal freshening of the Antarctic Bottom Water exported from the Weddell Sea
Jullion, L., A. Naveira Garabato, M. Meredith, P. Holland, P. Courtois, and B. King
人為起源の気候変化に伴い、南極周回流が南極の氷を融解させていると考えられているが、その観測的な証拠はほとんど得られていない。南極半島の東部において、南極底層水(AABW)がより低塩分化していることが確認された。

If anthropogenic CO2 emissions cease, will atmospheric CO2 concentration continue to increase?
MacDougall, A., M. Eby, and A. Weaver
急激にCO2排出がゼロになったら何が起きるかを、最近永久凍土の炭素も組み込まれた地球システムモデル(UVic ESCM)を用いて評価。CO2排出が止まっても、CO2以外の温室効果ガスによる放射強制力、陸上生物圏からのCO2排出、海洋のCO2吸収が釣り合って、大気中のCO2濃度が少なくとも100年間は一定となることが示された。CO2以外の温室効果ガスによる放射強制力が大きい場合には、大気中のCO2濃度は増え続けることから、これらのガスの削減なしには永久凍土の正のフィードバックによって温暖化が進行し続けると思われる。

Drake Passage oceanic pCO2: Evaluating CMIP5 Coupled Carbon/Climate Models using in-situ observations
Jiang, C., S. Gille, J. Sprintall, and C. Sweeney
ドレーク海峡において観測されているpCO2変動がCMIP5の地球システムモデルで再現できているかどうかを評価。年平均はうまく再現できているが、季節変動の幅は大きく異なった。


◎Earth and Planetary Science Letters
Reconciling discrepancies between Uk37 and Mg/Ca reconstructions of Holocene marine temperature variability
Thomas Laepple , Peter Huybers
堆積物コアを用いた古水温復元で多用される円石藻アルケノンと浮遊性有孔虫Mg/Caの食い違いは、それぞれの生物種の生息環境を反映しているというよりは、プロキシ特有のものである可能性がある。補正の方法を提案。

The influence of kinetics on the oxygen isotope composition of calcium carbonate
James M. Watkins , Laura C. Nielsen , Frederick J. Ryerson , Donald J. DePaolo
炭酸塩のδ18Oは水のδ18Oと必ずしも平衡にない。無機カルサイト沈殿実験から、炭酸脱水酵素(CA)のもとでは各炭酸系構成イオン間の同位体非平衡が抑制されることが示された。天然状態ではこうした非平衡は稀であると思われる。

Cosmogenic nuclide enhancement via deposition from long-period comets as a test of the Younger Dryas impact hypothesis
Andrew C. Overholt , Adrian L. Melott
地球への隕石の飛来量の増加が、大気上層における銀河線フラックスと宇宙線生成核種(14C・10Be・26Al)の生成量を増加させる可能性がある。またその量はアイスコアなどから得られているYDにおける14Cや10Beの増加を説明できるかもしれず、YDが隕石衝突によって起きたとする説を検証できるかもしれない。

Glacial deep ocean sequestration of CO2 driven by the eastern equatorial Pacific biologic pump
Whitney Doss , Thomas M. Marchitto
パナマ海盆から得られた堆積物コア中の底性有孔虫(Cibicidoides wuellerstorfi)のB/Caを用いて過去50kaの東赤道太平洋の底層水(2.2 - 3.6 km)のカルサイト飽和状態を推定。完新世と比較して氷期にはΩが低下しており、鉄やシリカの濃度が変化したことによって、より生物ポンプが活発化していた可能性がある。またδ13Cも軽い値を示し、解釈を支持している。しかし、期待に反して、Globorotalia menardii殻の破砕度は逆に氷期に増加しており、底層水の化学と生物遺骸埋没フラックスの関係が単純でないことを物語っている。

The influence of water mass mixing on the dissolved Si isotope composition in the Eastern Equatorial Pacific
Patricia Grasse , Claudia Ehlert , Martin Frank
世界でも有数の酸素極小層(OMZ)が発達する海域である、東赤道太平洋〜ペルー沿岸部の水柱のケイ素の同位体(δ30Si)を測定。最も南の観測点でδ30Siが最小となり、また濃度も0.2μmol/Kgと小さいことから、生物によって活発に利用されていることを反映していると思われる。中層水のδ30Siは水塊混合・生物源オパールの溶解などによって複雑な挙動を示す。深層水のδ30Siは複数の端成分(NPDWやLCDWなど)の混合で説明できそう。


◎Chemical Geology
Structural limitations in deriving accurate U-series ages from calcitic cold-water corals contrasts with robust coral radiocarbon and Mg/Ca systematics
Marcus Gutjahr, Derek Vance, Dirk L. Hoffmann, Claus-Dieter Hillenbrand, Gavin L. Foster, James W.B. Rae, Gerhard Kuhn
南極Amundsen海から採取された深海サンゴ(Coralliidae spp.、カルサイトの骨格)のLi/Ca・B/Ca・Mg/Ca・Sr/Ca・Ba/CaをLA-ICPMSで測定。Mg/Caは水温計として使えるかもしれない。
また14CやU/Th年代なども併せて測定。14C年代は海水のΔ14Cを反映しているものの、U/Th年代はばらつきが大きく解釈が難しい。αリコイルによってサンゴ骨格内での拡散が起き、閉鎖系が保たれていないことが原因と思われる。従って、カルサイトの骨格を作る深海サンゴはU/Th年代には適さないと思われる。

Interlaboratory comparison of boron isotope analyses of boric acid, seawater and marine CaCO3 by MC-ICPMS and NTIMS
Gavin L. Foster , Bärbel Hönisch , Guillaume Paris , Gary S. Dwyer , James W.B. Rae , Tim Elliott , Jérôme Gaillardet , N. Gary Hemming , Pascale Louvat , Avner Vengosh
4つの異なる研究機関による様々な炭酸塩・海水試料に対するδ11Bの測定値を比較(N-TIMSとMC-ICPMS)。マトリックスがない綺麗な標準試料や海水については、報告されている誤差を大きく外れたような差異は認められなかった。一方でマトリックスの大きい炭酸塩試料については1.46‰(2σ)もの差異が確認され、サンプルサイズとB/Ca比の違いが原因かもしれない。従って、δ11Bの絶対値よりも、相対比のほうが信頼度が大きいと思われる。

Seasonal variability of rainfall recorded in growth bands of the Giant African Land Snail Lissachatina fulica (Bowdich) from India
Ravi Rangarajan , Prosenjit Ghosh , Fred Naggs
インドにおいて得られたカタツムリ(Giant African Land Snail)の殻δ18Oが降水量の指標になるかを検証。週〜月レベルで降水量を反映している可能性があり、観測のギャップを埋めることが可能かもしれない。

High resolution coral Cd measurements using LA-ICP-MS and ID-ICP-MS: Calibration and interpretation
Andréa G. Grottoli , Kathryn A. Matthews , James E. Palardy , William F. McDonough
パナマ湾で採取されたPorites lobataPavona giganteaPavona clavusの3種のサンゴのCdをLA-ICPMSで測定し、湧昇の指標になるかどうかを評価。同位体希釈法のデータと比較したところ、希釈法はCdを低く見積もっていたことが示された。LA-ICPMSの測定値の変動は大きいが、平均値は概ね海水の値を反映していると思われる。
P. clavusについては、湧昇のピークと骨格中のCdのピークには1ヶ月のラグがあり、おそらくCdは生体によって速やかに取り込まれるため、それが抑えられた時に海水のCd濃度が上昇するのかもしれない。P. clavusのCdは海水のCd変動の良い指標になりそうであるが、少なくとも3つのコロニーについて、最低3測線は測定する必要がありそう。

◎Radiocarbon
The Ocean Bomb Radiocarbon Inventory Revisited
Anne Mouchet
海洋の核実験由来14Cの取り込み量は観測とモデルとで大きく食い違っており、その理由はCO2のピストン速度の再現にあるかもしれない。

SHCal13 Southern Hemisphere Calibration, 0–50,000 Years cal BP
Alan G Hogg, Quan Hua, Paul G Blackwell, Mu Niu, Caitlin E Buck, Thomas P Guilderson, Timothy J Heaton, Jonathan G Palmer, Paula J Reimer, Ron W Reimer, Christian S M Turney, Susan R H Zimmerman
南半球の放射性炭素較正曲線(SHCAL)にYDのHuon Pineのデータを追加し、SHCAL13として公表。北半球と南半球の14C年代の違いは「43 ± 23年」と推定される。

2013年7月9日火曜日

新着論文(JC, DSR2)

Journal of Climate
Southern Ocean Sector Centennial Climate Variability and Recent Decadal Trends
Mojib Latif, Torge Martin, and Wonsun Park
近年の南大洋における温暖化があまり顕著にみられないのは、百年スケールの長期的な気候変動が原因と思われる。Kiel大の気候モデルを用いた研究から、おそらくWeddel海の深層水形成過程が大きな役割を負っていると推定される。20世紀・21世紀の気候変化を復元・予測する上で南大洋の百年スケールの自然変動を正しく理解する必要がある。

Temperature change on the Antarctic Peninsula linked to the tropical Pacific
Qinghua Ding and Eric J. Steig
>関連した記事(Nature Climate Change; June 2013 "Research Highlights")
Tropical connections
熱帯域とのつながり
過去50年間、南極半島は世界で最も早く温暖化してきた。その原因としては南極を周回する偏西風が人為的に強化されたことが考えられている。特に南半球の秋には海氷量が著しく後退していることが分かった。南極半島における1979-2009年における気温の観測記録と熱帯域のSST記録とを比較したところ、大気循環を介して海水温偏差が南極気温に影響していることが示された。

Linearity of Climate Response to Increases in Black Carbon Aerosols
Salil Mahajan, Katherine J. Evans, and James J. Hack
モデルを用いてブラック・カーボンが直接的に・間接的に放射強制力に与える影響を評価。BCが増加するほど正の放射強制力が見られる。BCの増加とともに全球平均降水量が低下することが示された。またBCの南北半球の不均質性が赤道を通過する熱輸送量を変化させ、ITCZが北上することが示された。

Influence of the Southern Annular Mode on projected weakening of the Atlantic Meridional Overturning Circulation
Peter T. Spooner, Helen L. Johnson, and Tim J. Woollings
モデル間のばらつきは大きいものの、ほとんどの大循環モデルがAMOCが温暖化とともに弱化することを予想している。またそれとともにSouthern Annular Mode (SAM)が増加することが予想されており、AMOCとの関連性が指摘されている。将来のSAMの強化が、エクマン輸送や南極周辺の湧昇の変化を通じて、今後100年間に予想されるAMOCの弱化を3分の1ほど減少させるように寄与すると思われる。ただし、モデルが気候変化の影響を過小評価している可能性は否めない。

Deep Sea Research Part II
Iron fertilization and the structure of planktonic communities in high nutrient regions of the Southern Ocean
Bernard Quéguiner
南大洋における人口の鉄散布実験および自然変動によるプランクトン・コミュニティーの変化とその変動要因をレビュー。支配的な珪藻は2種に大別できる。
 春〜夏の成長期にはグループ1の、早く成長・広く分布する珪藻種が優先し、効果的にシリカポンプを機能させ、表層水のケイ酸を消費している。しかし有機物は微生物によって混合層内でリサイクルされており、鉛直輸送は小さい。
 一方のグループ2はケイ酸塩の殻がしっかりしており、補食(grazing)にも強い。連続して成長するものの、その速度は遅いという特徴がある。秋に栄養塩や光の供給が制限された時に優先し、年間の生物ポンプの大部分を担う。

Modern Tasman Sea surface reservoir ages from deep-sea black corals
Aimée F. Komugabe , Stewart J. Fallon , Ronald E. Thresher , Stephen M. Eggins
タスマン海のNorfolk Ridgeで得られた深海サンゴblack coralのΔ14CとU同位体測定。リザーバー年代を求めたところ、AD1790-1900にかけてほぼ一定値(~330年)を示すのに対し、その後急激に減少することが示された。これはGBR近傍で得られている他の記録とも整合的で、この期間に海洋循環が劇的に変化したことを物語っている。

The geochemistry of deep-sea coral skeletons: A review of vital effects and applications for palaeoceanography
Laura F. Robinson , Jess F Adkins , Norbert Frank , C Alexander , Nancy Prouty , E. Brendan Roark , Tina van de Flierdt
深海サンゴは広く分布し、U/Thで正確な年代決定も可能であるため、優秀な深層水のアーカイブである。過去の深海を探るツールとしての深海サンゴの地球化学分析の最先端をレビュー。温度復元にはMg/LiとClumped isotope、炭素循環復元にはδ11BとΔ14C、深層循環にはNdとΔ14C、栄養塩循環にはδ15N、P/Ca。Ba/Caが有用であることが分かっている。

Temporal and spatial distributions of cold-water corals in the Drake Passage: Insights from the last 35,000 years
Andrew R. Margolin , Laura F. Robinson , Andrea Burke , Rhian G. Waller , Kathryn M. Scanlon , Mark L. Roberts , Maureen E. Auro , Tina van de Flierdt
造礁サンゴは熱帯の浅い海から南大洋の深い海まで広く分布しており、それぞれの種の環境変化に対する耐性は様々である。気候変化に対する耐性を調べる上では成長速度の変化がいい指標になると思われる。Drake海峡から得られた過去10万年を超す様々な種(Desmophyllum dianthus, Gardineria antarctica, Balanophyllia malouinensis, Caryophyllia spp., Flabellum spp.)の深海サンゴの分布を用いて古環境の変化を推定。それぞれの種の時空間変動は、表層の生物生産・酸素濃度・炭酸塩飽和度などを反映していると思われる。

2013年6月23日日曜日

新着論文(GRL, GPC, GBC, EPSL, DSR1, JC)

GRL
A new constraint on global air-sea CO2 fluxes using bottle carbon data
Tristan P. Sasse, Ben I. McNeil, Gab Abramowitz
WOCEとCLIVARが集めた海洋の混合層のボトル海水のpCO2データ17,800点を用いて、各海域の大気海洋間のCO2フラックスを推定。南半球は北半球に比べて5倍ものCO2を吸収していることが分かった。海洋のCO2の吸収量は1.55 ± 0.32 PgC/yrと推定される。

Aragonite Saturation State Dynamics in a Coastal Upwelling Zone
Katherine E. Harris, Michael D. DeGrandpre, Burke Hales
沿岸湧昇域は湧昇する低いΩを持った海水の影響もあわさって、海洋酸性化の影響を特に受ける海域である。Oregon大陸棚に設置された自動観測器によって得られた2007〜20011年にかけてのpH、pCO2データを解析。表層水のΩargは0.66〜3.9まで変動していた。春や秋には生物活動もあわさってΩargは1.0〜4.0と変動。春には淡水流入の影響でΩargはさらに低下した。冬はわりと単純に水塊の混合だけで説明されると思われる。

Recent warming at Summit, Greenland: Global context and implications
Daniel McGrath, William Colgan, Nicolas Bayou, Atsuhiro Muto, Konrad Steffen
グリーンランド頂上部の気温は1982-2011年にかけて年間0.09 ± 0.01 ℃で上昇しており、世界平均の6倍の速度である。平衡線の高度(elevation of the equilibrium line)と乾燥雪線(dry snow line)はそれぞれ44、35 m/yrで上昇した。2025年までに50%の確率で乾燥雪線が水が染み出る地帯(percolation facies)へと変化すると予想される。

Abyssal connections of Antarctic Bottom Water in a Southern Ocean State Estimate
Erik Sebille, Paul Spence, Matthew R. Mazloff, Matthew H. England, Stephen R. Rintoul, Oleg A. Saenko
南極底層水(AABW)は南極周辺の限られた海域で生成されるが、それぞれに異なった温度塩分を持つ。AABWはその後亜熱帯域の海底へと広がってゆくが、それぞれのAABWが31ºSに達する前に合併すると考えられる。その際にAABWの70%は南極を少なくとも一周することから、南極周回流が重要な役割を持っていると思われる。従ってその十年〜百年規模の変動はAABWの輸送に大きく影響すると思われる。

Sensitivity of the oceanic carbon reservoir to tropical surface wind stress variations
N. N. Ridder, K. J. Meissner, M. H. England
熱帯域のウォーカー循環が海洋炭素循環に与える影響をモデルシミュレーションから評価。貿易風を10%、20%、30%増加/弱化させたところ、赤道偏東風が強いときには全球の海洋の炭素吸収量が減少した。逆に貿易風が弱いときには吸収量は増加した。非線形関係には生物ポンプの変化が重要な役割を負っている。

Rapid loss of firn pore space accelerates 21st century Greenland mass loss
J. H. van Angelen, J. T. M. Lenaerts, M. R. van den Broeke, X. Fettweis, E. Meijgaard
南極氷床における近年の質量損失の大半は氷河流出量の増大が担っている。一方でグリーンランド氷床のそれの55%は表面融解が担っていると思われる。しかし表面で融解した水の40%は再び凝結すると考えられている。モデルシミュレーションから、RCP4.5シナリオの下では、21世紀末にはフィルンの間隙が減少することで、再凝結の緩衝作用が減少することが示された。その結果、グリーンランド氷床の融解量が増大し、21世紀末における海水準上昇への寄与は現在の4倍になると推定される(年間1.7 ± 0.5 mm)。

GPC
Has the Northern Hemisphere been warming or cooling during the boreal winter of the last few decades?
Juan C. Jiménez-Muñoz, José A. Sobrino, Cristian Mattar
IPCCの報告書によると北半球の冬の気温は上昇していると言われるが、実際には広い範囲でここ最近の寒冷化が報告されたりもしている。いくつかのデータセットを用いて過去30年間北半球の冬の温度変化を再評価したところ、ほぼ平衡〜弱い温暖化の傾向が見られた。グリーンランドだけは例外的に広範囲で有為な温暖化が確認された。

GBC
Winners and losers: Ecological and biogeochemical changes in a warming ocean
S. Dutkiewicz, J. R. Scott, M. J. Follows
生態系モデルと地球システムモデルを組み合わせて、将来の温暖化が光合成植物プランクトンコミュニティーに与える影響を評価。直接効果(温度変化が代謝に与える影響)と間接効果(微量栄養塩の供給・光環境の変化)のバランスによって決まると思われる。全球平均的には釣り合っているものの、地域的には複雑に両者の強弱が生物生産を制御している。植物プランクトンの中でも勝者と敗者が生まれると思われる。温暖化した世界で何が起きるかの中で最も確実な予測は、植物プランクトンの組成の変化が起きるということである。

EPSL
The “MIS 11 paradox” and ocean circulation: Role of millennial scale events
Natalia Vázquez Riveiros, Claire Waelbroeck, Luke Skinner, Jean-Claude Duplessy, Jerry F. McManus, Evgenia S. Kandiano, Henning A. Bauch
氷期から間氷期へと移行するターミネーション(ⅠとⅤに着目)の際の氷床の最後の挙動を北・南大西洋の堆積物コア中のIRDから復元。ターミネーションⅤ(MIS11への移行期)には最終退氷期のHS1よりも強く・長く続くハインリッヒ・イベントがあり、さらにバイポーラー・シーソーも確認された。大きなハインリッヒ・イベントはより多くの氷床崩壊によって、より長い継続期間はAMOCがより長く停滞していたことが原因と思われる。その後のAMOCのオーバーシュートがMIS11が現在の間氷期よりも温暖であったことの説明になるかもしれない。

Riverine silicon isotope variations in glaciated basaltic terrains: Implications for the Si delivery to the ocean over glacial–interglacial intervals
S. Opfergelt, K.W. Burton, P.A.E. Pogge von Strandmann, S.R. Gislason, A.N. Halliday
海洋一次生産は主に珪藻が担っており、それは河川からのケイ素の供給量によってコントロールされている。河川水のδ30Si測定から、玄武岩の集水域を流れる河川と直接氷河から海へと流れ込む河川とでSiの量とδ30Siの値が異なることが示された。南大洋の堆積物コアのδ30Siを再評価してみたところ、もし氷期-間氷期スケールで海水のδ30Siが変化していたとすると、少なからず影響していたと思われる。δ30Siからより厳密なケイ酸の利用効率の復元を行う際には考慮すべきである。

DSR1
From circumpolar deep water to the glacial meltwater plume on the eastern Amundsen Shelf
Y. Nakayama, M. Schröder, H.H. Hellmer
Pine Island棚氷からの淡水フラックスは1990年代以降増加しており、氷床力学・海水準・周辺の水塊特性に影響している。融解の原因は下から暖かい水(CDW)が谷底を通って貫入していることと考えられている。2010年の航海データをもとに、CDWが貫入する経路・棚氷の融解量・融水のその後を調査した。2010年の融解量は30mと推定され、先行研究の報告値とも整合的である。2000年の記録と比較すると、CDWがより暖かく、より厚くなっており、より貫入が強化されていると思われる。

Journal of Climate
Twentieth-Century Oceanic Carbon Uptake and Storage in CESM1(BGC)
Matthew C. Long, Keith Lindsay, Synte Peacock, J. Keith Moore, Scott C. Doney
地球システムモデル(CESM1)を用いて海洋のCO2フラックスをシミュレーションしたところ、観測との非常に良い対応が確認された。しかし南大洋のものは大きな食い違いが見られ、特に亜南極帯と海氷帯で顕著だった。人為起源CO2の取り込みは南半球における水塊形成に大きく支配されているが、それがモデルでうまく再現できていないことでCantとCFCの大きなバイアスが特に中層水で生まれている。

2013年6月11日火曜日

新着論文(GRL, GBC, JC)

GRL
Tropical coral reef habitat in a geoengineered, high-CO2 world
E. Couce, P. J. Irvine, L. J. Gregorie, A. Ridgwell, E. J. Hendy
太陽放射を制限する(Solar Radiation Management; SRM)ことで地球温暖化を食い止めるという手段が考案されているが、人為起源のCO2放出が止まらない限り海洋酸性化やその他の問題は残ると思われる。モデルシミュレーションを用いてインド・太平洋のサンゴ礁とSST上昇、海洋酸性化との関係を評価したところ、放射強制力が3W/m2を超すと将来大きなサンゴ礁の悪影響が生じること、SRMによって熱帯域が過度に冷却する可能性を考慮すると理想的には1.5W/2程度に抑えることが望ましいことが示された。

Reduced carbon uptake during the 2010 Northern Hemisphere summer from GOSAT
S. Guerlet, S. Basu, A. Butz, M. Krol, P. Hahne, S. Houweling, O. P. Hasekamp, I. Aben
温室効果ガスを観測する人工衛星(Greenhouse Gases Observing Satellite; GOSAT)による観測記録から、2009年〜2010年における北半球の炭素吸収量を推定したところ、2010年の吸収量は2009年に比べて北米とユーラシア大陸でそれぞれ2.4ppm、3.0ppm減少していることが示された。主として夏の熱波が原因と考えられる。地上観測記録とも併せて考察したところ、地上観測だけでは過小評価している可能性があり、人工衛星観測の重要さが浮き彫りになった。

Role of mode and intermediate waters in future ocean acidification: analysis of CMIP5 models
L. Resplandy, L. Bopp, J. C. Orr, J. P. Dunne
海洋酸性化はモード水・中層水で顕著に起きると考えられている。7つの地球システムモデルを用いたシミュレーションから、亜表層水の酸性化は主として大気中のCO2濃度の上昇によって起きており、物理・生物的なフィードバックは全体の10%程度であることが分かった。亜表層水のCO2取り込み量は表層水の5~10倍と推定され、そうしたpHの低い水が輸送されることで湧昇域の表層水のpHに数十年というラグをもって大きく影響すると思われる。

Independent Confirmation of Global Land Warming without the Use of Station Temperatures
Gilbert P. Compo, Prashant D. Sardeshmukh, Jeffrey S. Whitaker, Philip Brohan, Philip D. Jones, Chesley McColl
人為起源の地球温暖化の確実性、気温観測所に関連する様々な不確実性(土地被覆の変化、観測機器の変更、ヒートアイランドなど)によって歪められてしまう。そうした影響が最小限に抑えられていると思われる、気圧計・海水温・海氷量などの物理データのみを使用して再解析を行ったところ、温度の年変動や100年スケールの変化傾向が見られ、地球温暖化が確かに生じていることの厳密性が実証された。

GBC
Atmospheric Δ14C reduction in simulations of Atlantic overturning circulation shutdown
Katsumi Matsumoto, Yusuke Yokoyama
最終退氷期の特にHS1とYDにおけるCO2濃度の上昇と、Δ14C減少のメカニズムは分かっていない。中でもAMOCの弱化のタイミングとの一致から、深層水と大気の炭素交換に影響があったと考えられている。しかし、AMOCが減少することで深層への炭素輸送が抑制され、Δ14Cは逆に’増加’すると思われ、観測事実とは食い違いが見られる。モデルシミュレーションを用いて、大西洋のバイポーラーシーソーによって、南大洋における気体交換の強化によって、観測されているΔ14Cの’減少’が説明できることを示す。南大洋の過程が北大西洋の過程よりも勝っていることが必要と思われる。北大西洋への擾乱が海を介してテレコネクションしたのか、或いは大気を介してテレコネクションしたのかについてはまだ不明瞭なままである。

Humic substances may control dissolved iron distributions in the global ocean: Implications from numerical simulations
Kazuhiro Misumi, Keith Lindsay, J. Keith Moore, Scott C. Doney, Daisuke Tsumune, Yoshikatsu Yoshida
モデルシミュレーションを用いて海水中の、特に深層水中の鉄と結合した配位子(iron-binding ligand)が鉄の物質循環に与える影響を評価。配位子が全球的に不均質に分布していることを考慮することで、観測されている鉄の分布をうまく表現できることが示され、鉄循環において腐植物質(humic substances)が重要であることを物語っている。

Journal of Climate
Projection of global wave climate change towards the end of the 21st century
Semedo, A., R. Weisse, A. Behrens, A. Sterl, L. Bengtsson, and H. Günther
A1B排出シナリオに基づいて将来の風波の変化の予測を行った。21世紀末には波の高さは小さくなるか控えめになると予想され、中緯度帯の年平均波高や最大波高はより極側へとシフトすると思われる。
>関連した論文
Projected changes in wave climate from a multi-model ensemble
複数モデルのアンサンブルによって予想される波気候の変化
Mark A. Hemer, Yalin Fan, Nobuhito Mori, Alvaro Semedo & Xiaolan L. Wang
Nature Climate Change (May 2013)
風波による沿岸部の変化は海水準の影響を打ち消すか、或いはさらに悪化させる可能性を秘めている。しかしながら波の変化はほとんど関心を寄せられていない。気候モデルを用いたアンサンブル・シミュレーションから、全球の波の高さが25.8%低下することが示された。両半球の冬季には波は高くなることが予測され、特に南大洋を起源とするうねりが原因と考えられる。予測の不確実性はモデル内のダウンスケール法によるところが大きい。

Paleoclimate data- model comparison and the role of climate forcings over the past 1500 years
Phipps, S., H. McGregor, J. Gergis, A. Gallant, R. Neukom, S. Stevenson, D. Ackerley, J. Brown, M. Fischer, and T. van Ommen
過去1,500年間の古気候記録とモデルシミュレーション結果との比較検証を行った。産業革命以降は人為起源の放射強制力が卓越していること、火山噴火によるフォーシングは南半球では顕著だが、北半球にはあまり顕著には見られないことが示された。産業革命以前の寒冷化の傾向はプロキシが代表する季節や地理的なバイアスによって、過大評価されている可能性がある。またサンゴδ18Oとモデルシミュレーションの結果から、中部赤道太平洋では温室効果ガス・太陽活動・火山噴火のフォーシングのすべての影響が確認され、ENSOに対する系統的な影響は確認されなかった。しかし、プロキシを解釈する上での「安定状態の仮定」が成り立たないことも示され、古気候記録-モデルシミュレーション結果の比較研究は重要なアプローチであるものの、現在の技術の限界が浮き彫りになり、別の手段を考案する必要があると言える。

Control of decadal and bidecadal climate variability in the tropical Pacific by the off- equatorial South Pacific Ocean
Tatebe, H., Y. Imada, M. Mori, M. Kimoto, and H. Hasumi
モデルシミュレーションを用いて、赤道太平洋のNINO3.4地域の20年周期のSST変動が熱帯域の外の、特に南太平洋の東亜熱帯モード水(Eastern Subtropical Mode Water)の亜表層水の温度偏差によって支配されていることが示された。10年周期の変動は南太平洋の風応力カールによって駆動される波調整(wave adjustment)が原因と思われる。

Antarctic Bottom Water warming and freshening: Contributions to sea level rise, ocean freshwater budgets, and global heat gain
Purkey, S., and G. Johnson
南極底層水(Antarctic Bottom Water; AABW)は南極周辺で沈み込み、世界の深層水を覆う最も冷たく、塩分の高い水塊である。近年AABWの温暖化と低塩分化が報告されており、またその形成速度も低下しており、形成域に対する融氷水の流入が原因と考えられている。そうしたAABWの水塊特性の変化はWeddel海を除くとあらゆる南極周辺の大陸棚で確認されており、南太平洋や南インド洋でも確認されている。低塩分化を招いた淡水不ラックスは73 ± 26 Gt/yrに相当し、大ざっぱに見積もると、近年西南極氷床から失われた淡水量の半分に相当する。また熱としては34 ± 3 TWがAABWに過剰に吸収されており、熱膨張によって海水準を0.37 ± 0.15mm/yr押し上げているものと推定される。

2013年1月13日日曜日

新着論文(JGR, CP, BG, JC)

JGR-Oceans
Global teleconnections in the oceanic 1 phosphorus cycle: patterns, paths, and 2 timescales
Mark Holzer, François W. Primeau
シンプルな気候モデルを用いて南大洋の栄養塩(特にリン)サイクルが全球の海洋のリン濃度や生物生産に与える影響を評価。南大洋の栄養塩サイクルの影響が遠くは北大西洋まで及ぶ(南大洋のリン消費→深層水による輸送増大→北大西洋の生物生産減少)。

Oxygen decreases and variability in the eastern equatorial Pacific
Rena Czeschel, Lothar Stramma and Gregory C. Johnson
東赤道太平洋の酸素極小層(OMZ)が拡大しつつある。これまでに得られた記録とフロートを用いた記録を用いて、ここ34年間に200m と700mのOMZにおける酸素濃度が「年間 0.50 と 0.83 μmol/kgの割合」で低下していることを示す。大きな減少トレンドはPDOによるものであり、季節変動やENSOによるより短周期の変動はそれほど大きくないことが分かった。

Sensitivity of Nd isotopic composition in seawater to changes in Nd sources and paleoceanographic implications
J. Rempfer, Thomas F. Stocker, Fortunat Joos and Jean-Claude Dutay
εNdを子午面循環の強弱のプロキシとして使用する際には過去のεNdのソースとして可能性がある海域を特定する必要がある。モデルシミュレーションを通してソースの海域のεNdのフラックスや同位体比そのものを変化させることで全球の深層水のεNdにどのように影響するかを評価。深層水形成場の河川・ダスト源のεNdの変化は全球に影響を及ぼすが、それ以外の海域では浅い部分にしか影響しないことが示された。氷期-間氷期スケールの大きな変動を生むにはソースの影響は小さいが、より小さな変動を解釈する際には注意が必要である。

Climate of the Past
Stalagmite water content as a proxy for drip water supply in tropical and subtropical areas
N. Vogel, Y. Scheidegger, M. S. Brennwald, D. Fleitmann, S. Figura, R. Wieler, and R. Kipfer
イエメン(Yemen)から得られた2本の完新世の石筍と最終間氷期の1本の石筍の単位質量あたりの水分量がδ18Oとの相関が良く、降水量のプロキシになる可能性があることを示す。δ18Oの低下と滴下水の低下は陸上の降水量の低下と関係していると考えられる。逆に滴下水の増加は密なカルサイトを形成するため、水が入り込む余地を減らすと考えられる。特に乾燥地域では差が顕著になるため、プロキシになるかも?

Influence of orbital forcing and solar activity on water isotopes in precipitation during the mid- and late Holocene
S. Dietrich, M. Werner, T. Spangehl, and G. Lohmann
ドイツの鍾乳石δ18Oをもとに中期完新世以降の軌道要素と太陽活動が降水のδ18Oに与えた影響をモデルシミュレーションを用いて評価。両方のフォーシングが気温と降水δ18Oの両方に同程度の影響を与えていることが示された。

Long-term summer sunshine/moisture stress reconstruction from tree-ring widths from Bosnia and Herzegovina
S. Poljanšek, A. Ceglar, and T. Levanič
ボスニア・ヘルツェゴビナ(Bosnia and Herzegovina)で得られた7本のblack pineの木の年輪幅データを用いて夏の日射を復元。夏の日射は水ストレスを生み、それが年輪幅に影響すると考えられる。1660年以降の記録における異常に日射が低い夏は火山噴火があった年に対応している。

Biogeosciences
Nitrogen isotopes in bulk marine sediment: linking seafloor observations with subseafloor records
J.-E. Tesdal, E. D. Galbraith, and M. Kienast
δ15Nは窒素循環を復元するのに重要なプロキシとなっているが、窒素は堆積物中で様々な状態で存在し(不均質)、続成作用なども被る。Plioceneから現在までに相当する世界各地の堆積物中のバルクδ15Nが初期のδ15Nを正しく保持しているかどうかを評価。表層5000年程度の堆積物δ15Nは周辺の堆積物との相関が良いが、一方で深部ほど続成作用によって影響を被っていることが分かった。続成作用や適さない海域・深度などをより理解することで確かなプロキシとなる。

Rates of consumption of atmospheric CO2 through the weathering of loess during the next 100 yr of climate change
Y. Goddéris, S. L. Brantley, L. M. François, J. Schott, D. Pollard, M. Déqué, and M. Dury
Peoria loessが今後100年間(700ppmまで上昇すると仮定)にどれほど風化し、CO2を吸収し得るかをモデルシミュレーション。「温度」と「河川流出量」が重要な因子であることが示された。温度上昇で土壌呼吸も増加するが、総じてケイ質岩の風化は増加することが示された。逆に(CO2をよく吸収する)ドロマイトの風化は低下することが示された。ドロマイトの風化は地下の深度によっても異なる応答を示し、場所ごとに違った挙動をする(’陸上のリソクライン’)。

Temporal biomass dynamics of an Arctic plankton bloom in response to increasing levels of atmospheric carbon dioxide
K. G. Schulz, R. G. J. Bellerby, C. P. D. Brussaard, J. Büdenbender, J. Czerny, A. Engel, M. Fischer, S. Koch-Klavsen, S. A. Krug, S. Lischka, A. Ludwig, M. Meyerhöfer, G. Nondal, A. Silyakova, A. Stuhr, and U. Riebesell
ノルウェー沖で行われたEPOCAによる野外におけるCO2添加実験の結果について。CO2濃度を185から1420μatmまで人工的に上昇させ、プランクトンがどのように応答するかを調査。第一段階では栄養塩なしで行われ、CO2による大きな差は生まれなかった。第2段階では栄養塩が添加され、CO2濃度が高いほどバイオマスが増加することが示された。そしてその後の第3段階では傾向が逆転した。時間の経過とともに「栄養塩利用」「粒子状有機物量」「植物プランクトンの種組成」などに有為な変化が見られるようになった。様々な要因が絡み合って将来の有機物の流れや生産性を決定すると考えられる。

Effect of elevated CO2 on the dynamics of particle-attached and free-living bacterioplankton communities in an Arctic fjord
M. Sperling, J. Piontek, G. Gerdts, A. Wichels, H. Schunck, A.-S. Roy, J. La Roche, J. Gilbert, J. I. Nissimov, L. Bittner, S. Romac, U. Riebesell, and A. Engel
スバルバード(Svalbard)沖で行われたEPOCAによる野外におけるCO2添加実験の結果について。CO2濃度を185から1050μatmまで人工的に上昇させ、バクテリア・プランクトンがどのように応答するかを調査。比較的低いのCO2濃度(185 - 685μatm)の時にピコ植物プランクトンのブルーミングが崩壊し、粒子に付着する生物のband classの数が25%低下することが分かった。一方バクテリアによるタンパク質合成はCO2濃度が高いほど強化され、プラスの効果をもつことが示された。

Journal of Climate
Estimating Central Equatorial Pacific SST variability over the Past Millennium. Part 1: Methodology and Validation
Emile-Geay, J., K. Cobb, M. Mann, and A. Wittenberg
Part. 1は手法開発の話。古気候プロキシを用いて過去1,000年間のNINO3.4インデックスを復元。種々の問題はあるが、NINO3.4インデックスの低周波数の変動を捕らえることが可能であることを示す。

Estimating Central Equatorial Pacific SST variability over the Past Millennium. Part 2: Reconstructions and Implications
Emile-Geay, J., K. Cobb, M. Mann, and A. Wittenberg
Part. 2は古気候復元の話。年代モデル構築がきちんとなされた熱帯のサンゴ記録を用いてNINO3.4海域の過去1,000年間のSST変動を復元。得られた記録を他の熱帯域の古気候プロキシと比較した。十年〜数十年変動は地域ごとによく合ったが、一方で数世紀の変動はあまり良く合わない。太陽フォーシングは数世紀のSST変動に対して逆位相の関係があることが分かったが、短周期には影響していないことも示された。

Attribution of projected future changes in tropical cyclone passage frequency over the Western North Pacific
Yokoi, S., Y. Takayabu, and H. Murakami
7つのGCMを用いて西太平洋の台風が将来どのように変化するかを調査したところ、赤道域がよりEl Nino様になっていくにつれ、台風が生まれる海域が東へと移動し、軌道もより東へと変化することが示された。つまり、韓国や西日本よりも、東日本への台風の到来が増加することを意味する。

Southward Intertropical Convergence Zone shifts and implications for an atmospheric bipolar seesaw
Cvijanovic, I., P. Langen, E. Kaas, and P. Ditlevsen
シミュレーションを通して北半球の寒冷化と南半球の温暖化の両方のフォーシングが低緯度の降水などにどのように影響するかを評価したところ、前者は早く伝播し、後者は遅く伝播するという2つのフェーズの変動が確認された。特に南大洋の温暖化は低緯度のITCZの南下や北大西洋の中・高緯度の表層水温・風系にまで影響することが示された。

2013年1月9日水曜日

新着論文(Coral Reefs, GRLほか)

ちょっと前(2012年10-11月くらい?)の新着論文たちを消化。

Coral Reefs
Ocean acidification does not affect the physiology of the tropical coral Acropora digitifera during a 5-week experiment
A. Takahashi, H. Kurihara
コユビミドリイシ(Acropora digitifera)を5週間にわたってpCO2が高い状態(477, 2142 ppm)で飼育したところ、成長速度の変化は特に見られず、海洋酸性化に対して生理学的に適応していると考えられる。

GRL
Stability of the Atlantic meridional overturning circulation: A model intercomparison
Andrew J. Weaver, Jan Sedláček, Michael Eby, Kaitlin Alexander, Elisabeth Crespin, Thierry Fichefet, Gwenaëlle Philippon-Berthier, Fortunat Joos, Michio Kawamiya, Katsumi Matsumoto, Marco Steinacher, Kaoru Tachiiri, Kathy Tokos, Masakazu Yoshimori and Kirsten Zickfeld
25のAOGCMsとESMs、EMICsを用いて21世紀のAMOCの強度変化を予測。すべてのモデルでAMOCの急激な停止は予測されなかった

The extreme melt across the Greenland ice sheet in 2012
S. V. Nghiem, D. K. Hall, T. L. Mote, M. Tedesco, M. R. Albert, K. Keegan, C. A. Shuman, N. E. DiGirolamo and G. Neumann
3つの観測手法に基づいてグリーンランド氷床の2012年の大規模な融解を評価。全体の98.6%で融解が起きており、頂上付近の乾燥した場所でも観察された。アイスコアからは1889年とMWPに大きな融解が起きていたことが分かっている。

Temperature-induced marine export production during glacial period
M. O. Chikamoto, A. Abe-Ouchi, A. Oka and S. Lan Smith
モデルシミュレーションを通して、氷期へと向かう際の温度低下が一次生産性と有機炭素再結晶化の変化を通し粒子状有機物て(export production)にどのように影響したかを調査。温度低下によって粒子状有機物が増加することが示され、深海への炭素輸送量が増加することが分かった。南大洋表層で残った栄養塩はAAIWの輸送を通して低緯度域の一次生産を強化させることも示された。

Can the Last Glacial Maximum constrain climate sensitivity?
J. C. Hargreaves, J. D. Annan, M. Yoshimori and A. Abe-Ouchi
PMIP2の結果を用いてLGMにおける気候感度を推定。「2.5℃」という推定値が得られた。

Decadal time evolution of oceanic uptake of anthropogenic carbon in the Okhotsk Sea
Yutaka W. Watanabe, Jun Nishioka, Takeshi Nakatsuka
オホーツク海の1993年から2006年にかけての人為起源炭素の吸収量を見積もったところ、表層は16%増加しているのに対し、中層は14%低下していることが分かった。近年の温暖化に伴う海洋の成層化によって深層水と大気とのガス交換が抑えられていることが原因と考えられる。

Stability of the Kuroshio path with respect to glacial sea level lowering
Kyung Eun Lee, Ho Jin Lee, Jae-Hun Park, Yuan-Pin Chang, Ken Ikehara, Takuya Itaki, Hyun Kyung Kwon
LGMの海水準低下時期における東シナ海における黒潮の変化をモデルと堆積物コアから調査。氷期においても流路の大きな変化は見られず、Mg/Caに基づいた古水温と浮遊性有孔虫δ18Oも同程度の値を示した。

JGR-Oceans
Historical changes in El Niño and La Niña characteristics in an ocean reanalysis
Sulagna Ray and Benjamin S. Giese
海洋観測の再解析データから1870-2002年のENSOの持続期間、現象が伝播する方向、周期などを解析。現象間の期間は数ヶ月の場合もあれば、10年間に及ぶこともある。また持続期間も5〜27ヶ月と大きく変化していた。過去140年間の間の各ENSOイベントの際の亜表層水の変位は表層水の変位とよく相関することが示された。この期間中、温暖化によるENSOの変化は特に確認されなかった。

JGR-Atmosphere
Atmospheric carbon dioxide retrieved from the Greenhouse gases Observing SATellite (GOSAT): Comparison with ground-based TCCON observations and GEOS-Chem model calculations
A. J. Cogan, H. Boesch, R. J. Parker, L. Feng, P. I. Palmer, J.-F. L. Blavier, N. M. Deutscher, R. Macatangay, J. Notholt, C. Roehl, T. Warneke and D. Wunch
日本の人工衛星Greenhouse gases Observing SATellite (GOSAT)による地球の短波放射の後方散乱データを利用して大気中のCO2濃度を宇宙空間から推定。2年間のデータを地上の観測記録と比較較正したところ、その差はわずかに1ppm程度であることが示された。モデルシミュレーションの結果とも整合的(R2=0.61)だが、サハラや中央アジアなどでは2~3ppmの差異が確認された。

GBC
Contributions of natural and anthropogenic sources to atmospheric methane variations over western Siberia estimated from its carbon and hydrogen isotopes
Taku Umezawa, Toshinobu Machida, Shuji Aoki and Takakiyo Nakazawa
シベリア西部の地上から1-2km上空のメタンの水素・炭素同位体を2006年から2009年にかけて測定し、その起源を推定。地上に近いほど軽い同位体を示し、地上に放出源があることを示唆。季節変動が大きく、夏は湿地、冬は人為起源のメタンが大多数を占めていると考えられる。

High-resolution estimates of net community production and air-sea CO2 flux in the northeast Pacific
Deirdre Lockwood, Paul D. Quay, Maria T. Kavanaugh, Lauren W. Juranek and Richard A. Feely
2008年の8-9月における北太平洋の表層水のO2/Sr、pCO2測定値から総一次生産量とCO2フラックスを推定。亜寒帯と亜寒帯-亜熱帯変移帯では生物ポンプとCO2吸収によって効果的に炭素が深層に輸送されていると考えられる。

Journal of Climate
Critical role of northern off-equatorial sea surface temperature forcing associated with central Pacific El Niño in more frequent tropical cyclone movements toward East Asia
Jin, Chun-Sil, Chang-Hoi Ho, Joo-Hong Kim, Dong-Kyou Lee, Dong-Hyun Cha, and Sang-Wook Yeh
太平洋中央部のエルニューニョ(CP-El Niño)の際には、赤道太平洋中央部からやや離れた海域のSSTと東アジアの台風の数との間に正の相関があることが分かった。東アジアの沿岸部(中国東部、台湾、韓国、日本など)に台風が近づく傾向があるらしい。

Weakened interannual variability in the tropical Pacific Ocean since 2000
Zeng-Zhen Hu, Arun Kumar, Hong-Li Ren, Hui Wang, Michelle L'Heureux, and Fei-Fei Jin
赤道太平洋においてはここ10年間に温度躍層の傾きが急になっており、赤道西太平洋におけるSSTの正の偏差・蒸発の正の偏差(つまりラニーニャ的状態)が確認されている。これはウォーカー循環が強化されていることを示している。モデルシミュレーションから、温度躍層の傾きの強化と貿易風の強化によって、暖水が東へと伝播するのが妨げられ、ENSOの振幅が減少するというメカニズムが提唱される。