石 弘之
岩波新書、1988年(¥780)
地球環境報告Ⅱ
石 弘之
岩波新書、1998年(¥740)
地球環境は疲弊している。
それがこれら2冊の本を読んで感じる素直な感想である。
環境は地球上のすべての生物の生活基盤を提供するだけでなく、ヒトの誕生以降、人々の暮らしを支えてきた。環境なくしてはヒトは生活できない。
しかし、近年の産業の活発化、人口増加、エネルギー・食料需要増などの影響をもろに受ける形で、環境は悪化の一途をたどっている。
1980年代には環境問題の関心は土壌流出、酸性雨、砂漠化、各種環境汚染・破壊物質(フロンガス・PCB・環境ホルモン)であった。
1990年代以降、環境問題の関心は地球温暖化、生物多様性の消失、水資源の過剰利用・不均質な配分などへと移ってきた。
それらにはローカル(局所的)なものから、グローバル(全球的)なものまで様々ある。
地球上でいったいどういった環境問題が起き、そしてそれは何がきっかけで起きているのか。
本書は世界各地を訪れた経験をもとにたいへん多くの事例を紹介しており、それぞれの環境問題の原因について深く考察を行っている。
いくつか例を挙げよう。
砂漠化の原因は、人口増による薪需要の増加と木の伐採に伴う土壌流出に負うところが多い。人為的気候変化は地中海沿岸部を砂漠気候へと変えると考えられている。
途上国における森林・マングローブ破壊の原因は、先進国の巨大資本による伐採、牛の放牧場建設、エビの養殖場建設、パーム油・コーヒー・バナナのプランテーション栽培のための焼き畑などである。
水資源の枯渇は、人類による非計画的な水利用(かんがい設備の整備など)、森林破壊に伴う土地の水分保持力低下などが原因であり、人為的気候変化は氷河の後退・水循環の変化・地下水の塩分汚染にまで影響を及ぼしはじめている。
ヒト同士の暴力もまた、環境の悪化、人口増、大都市周辺のスラムの増加、貧富の差の拡大、社会不安の増加などがきっかけになっている。
今後、ますます人口が増える世界で、人と環境の関係はどう変わっていくのか?
食料生産は本当に世界の人口を養えるほどに増強可能なのか?
ますます不均質になる食料・水などの生活に欠かせない資源を巡って、争いは増すのか?
手つかずの自然と生物多様性はどこまで失われるのか?
国家内・国家間の富の不均衡、飢餓率は改善するのか?
全球規模で生じる人為起源気候変化の結果、世界各地でどういった現象が生じ、それはどういったヒトの行動を誘引するのか?(環境難民の発生と他国への流入、資源を巡る争い、新資源獲得競争、作物適地・生態系のシフトに伴う生活様式の変化など)
あらゆる将来への不安が頭を巡るが、危機感を想起させることこそが本書の狙いである。
本書でも地球環境の現実に執拗にこだわったのは、危機感の欠如が対策への怠慢を生み出していると信じているからだ。(中略)現状を直視しないでいたずらに解決策を語っても、語ることが解決になるような錯覚に陥るだけであろう。
日本人は環境問題に対して、特に人為的気候変化に対して、あまりに無関心であり、恥ずべきことである。
それには、多くの政治家・一般市民が目先のことばかりを考えて行動し、より長い視点で物事を考えないことが原因であるように思う。
2020年の東京オリンピック、老後の年金生活、子供の将来のことには頭がいくが、一方で自国が抱える膨大な国債、温室効果ガス削減目標、エネルギー問題、あまりに低い食料自給率、自国が招いている他国の環境汚染、子孫のそのまた子孫のための環境の保持といった、自分には直接利害がなさそうな問題については考えを巡らす余裕がない。
それは筆者が指摘するように、
誰もが本気で取り組もうとしないためであろう。現実の環境の危機に対する逼迫した緊張感がないために、安心して先伸ばししているとしか思えない。のである。
日本人を含む先進国の人々のいまの暮らしぶりを、全世界の人が追い求めるようなことがあっては地球は到底持たない。
できあがった理想の生活様式を捨て去ることは難しい。
一家に一台以上ある車・エアコン・テレビ、24時間営業のコンビニが生活を便利に、豊かにすることは間違いない。
ビニールで個別に包装される野菜はより衛生的かもしれない。
ミネラルウォーターは水道水に比べて多少味がよく、健康に良いかもしれない。
宅配便を使えば全国各地からいとも簡単に特産品をお取り寄せすることが可能だ。
混んだ公共交通機関を利用するよりはエアコンの効いた自家用車の方が移動は快適に違いない。
古着・リサイクル品よりも新品のほうが流行に近いかもしれない。
海外産の牛肉・豚肉・鶏肉を使った肉料理は、国産の魚料理よりも手軽だし、子供が喜ぶかもしれない。
ファストフード店やコンビニの弁当で食事を済ませれば、料理の手間が大幅に省ける。
しかし、本当にそれで良いのか?
そんな生活がいつまでも続くと本当に思っているのか?
ヒトと地球との関係を考え直す上で、是非読んでもらいたい書籍である。