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2014年10月8日水曜日

Intcal13の前バージョンからの変更点

考古学・古気候学・古海洋学・炭素循環研究などで大変重要な放射性炭素年代測定。

放射性炭素年代を暦年代に較正する必要性については前回の記事「Intcalのお話」で述べました。

今回は最近公表された(といっても去年だけど)、Intcal13較正曲線の前バージョンからのアップデートについてまとめておきます。

参考にしているのは以下の論文
IntCal13 and Marine13 Radiocarbon Age Calibration Curves 0–50,000 Years cal BP
Paula J Reimer
Radiocarbon 55, 1869-1887 (2013).


1、木の年輪
Intcal04・09と年輪年代学を利用して繋いでいた現在(西暦1950年)から12,550年前までの記録が少しだけ延伸され、新たに「12,580 - 13,900 年前」の”宙に浮いていた(floating)”記録が追加された。
繋ぐ際にはウイグル・マッチングが採用されているとのこと。
また、スイスの木の一部の記録(Ollon 505)に誤りが見つかったということで除外されている。
基本的には前のものとほとんど変わっておらず、食い違いも少ないが、今後1年という極めて高い解像度の記録が追加されてゆくことが期待されている。

2、水月湖の植物化石記録
年縞で知られる水月湖(前回の記事「湖の堆積物から大気の放射性炭素を復元することの意義」)の記録が大量に追加された(n = 510)。
かつてのSG93プロジェクトの際に掘削されたコアも新たに掘削されたコア(SG06)との対比によって、新たな年代軸が得られた。それにより放射性炭素の測定値も復活できた。
前回のコアはコアのセクションごとのつなぎ目が失われていたりと、年代軸の構築の点に問題があったが、SG06では複数本コアを採取することで、コアの欠損が解消された。
木の年輪記録が密ということで、水月湖の記録のうち、「10,200 - 13,900 年前」の部分については採用されていない。
古い時代の水月湖の記録はばらつきが大きいことが指摘されている。これは、炭素循環が氷期に変動しやすかったというよりは、放射性炭素年代測定に使用している植物片の試料量が少ないことなどが原因として挙げられている。

3、鍾乳石
DCF(詳しくは「Intcalのお話」を参照)が一定という仮定のもと、中国Hulu洞窟とバハマの洞窟にて採取された鍾乳石記録も採用された。
鍾乳石はU/Th年代測定による高精度の暦年代が得られているため、大変重要な記録である(※水月湖の年代モデルも実は鍾乳石の 記録との比較によって制約されている)。
特にHulu洞窟の記録は27,000年前までの連続した良質な記録を提供している。
バハマ鍾乳石の記録の一部は14Cブランクに問題があるとのことで不採用となっている。

4、海の記録
イベリア沖の堆積物は前のIntcal曲線にも加わっていたが、パキスタン沖で得られた堆積物記録も今回新たに採用された。
有孔虫δ18Oや堆積物のバルクδ15N・TOC記録と、中国Hulu洞窟鍾乳石のδ18Oとの対比によって年代モデルが構築されている。

タヒチの化石サンゴ礁掘削(IODP Exp. 310)の記録も大幅に追加された(n = 65)。

カリアコ海盆の堆積物記録・バルバドスの化石サンゴ記録はこれまでのIntcalで中心的な役割を果たしていたが、ヤンガー・ドリアス(YD)とハインリッヒ・イベント1(HS1)の際の、他の記録との食い違いが報告されていた。その原因はハインリッヒ・イベントに伴う北大西洋への氷山流出と大西洋子午面循環への影響と考えられている。YDとHS1以外のハインリッヒ・イベント時には明瞭な違いが確認されていないため、これらのイベントの一部を成す「12,550 - 12,900 年前」と「14,600 - 17,600 年前」の2期間についてのみ、記録は除外されている。

全て海の記録なので14Cリザーバー年代(詳しくは「Intcalのお話」を参照)が問題となる。Intcal09では14Cリザーバー年代が低く見積もられていたため、Intcal13では誤差幅を拡大し、「± 200 14C年」を採用している。

最終的に得られるMarine13較正曲線は、0 - 13,900年前は大気・海洋のボックスモデルを採用して計算により求めている。一方、14,200 - 50,000 年前 は海のデータが乏しいため、シンプルに大気の記録(Intcal13)から405 14C年分を差し引くことで作成している。間の13,900 - 14,200年前は両者の平均を取っている。

5、年代較正の際の注意点
Intcal13・Marine13ともに現在手元にある試料をもとに作成されたものであり、特にデータが不足しており、異なる記録間の 対応も悪い時代の年代較正には気をつけなければならない(~1,000年ほどのずれもあり得る)。
将来データの追加とともに較正曲線が改善される可能性も頭の片隅に入れておかなければならない。

例えば、34,000 - 39,000 年前頃には水月湖とカリアコ海盆の記録との間に1,000年もの食い違いが見られている。原因として
・どちらかの年代モデルが間違っている
・海洋14Cリザーバー年代・DCFが過去に変動していた
14C測定の系統誤差
などが考えられるものの、まだ分かっていない。少なくとも完全に独立した年代モデル(GICC05)に基づいたグリーンランド・アイスコアの10Be記録(14Cと同じく大気上層で宇宙線との相互作用で生成される宇宙線生成核種)とIntcal13のΔ14Cの対応は良いので、暦年代の誤差は小さいように思われる。

また多くの記録をまとめているので、木の年輪に基づいた過去13,900年以前の記録はなめされたものになってしまっている。現実には100〜1,000年スケールの変動があった可能性があるが、まだはっきりと検出するには至っていない(大気中CO2濃度変動と炭素循環の変化、14C生成率を変えるイベントなど)。