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2014年10月25日土曜日

ハマサンゴは海洋酸性化に対して強い?

成長速度が早く(年間1-2cm)、場合によっては数百年生きることから、古気候研究において広く使用されているハマサンゴ。
長寿命であることや分布範囲が広いことから、環境ストレスに強いことが想像されるが、こと海洋酸性化に対してはどうだろうか?

野外調査や飼育実験を通してこれまでに分かっている知見をまとめてみたい。おそらく下に挙げるもの以外にもあるため、実際にはもっと複雑なのかもしれない。


野外からの知見
Green et al. (2008)ではカリブ海における野外調査から、ハマサンゴの一種(Porites asteroides)が環境変化に強く、適応性が他のサンゴに比べて高いことを見出している。そのため、産業革命以降も全種数に占める割合は増加しており、今後も増加する可能性が高いことを指摘している(ただし被覆率は低下しつつある)。
こうした世代時間が短く、環境適応度が高いサンゴを雑草的(weedy)と表現している。

同じくカリブ海・バージン諸島のセント・ジョン島における調査からは、やはりP. asteroidesの全種数に占める割合が1999年から2007年にかけて増加していることが分かった(Edmunds, 2010)。今後100年間で他のサンゴが減退する中、この種は継続的に繁栄するとされる。

一方、メキシコ湾・ユカタン半島の低Ωサイトからはそれに疑問を投げかける結果が得られている(Crook et al., 2013, 2011)。
アラゴナイトに対する飽和度が通常状態(Ω = ~4.0)から酸性化状態(Ω < ~2.0)にかけて採取されたP. asteroidesの骨格密度・石灰化量は明瞭な低下を示していた。
興味深いのは骨格成長量は一定状態を維持しているため、ある程度追加のエネルギーを消費して、スカスカの骨格を形成していることを意味している(stretch modulation)。
また酸性化状態ほど穿孔生物による生物侵食も激しいことがCTスキャンを用いた解析から示され、骨格密度の低下が原因として挙げられている。
この研究で重要なのは、長く酸性化海水に晒され、環境に順応(acclimation)しているはずの生物が、実は周囲の健全な海ほどの石灰化を行っていないことを明らかにした点である。>その他の記事

続いては、オーストラリア大陸のしかも塊状のハマサンゴ(Porites spp.)に関する知見。
巨大な大陸オーストラリアでは東西で全く異なる報告がある。

北東部に位置するグレートバリアリーフにおける野外調査からは一貫したサンゴの被覆率・成長量の低下が報告されている。(Death et al., 2012, 2009; Cooper et al., 2008
特にDeath et al. (2009)とCooper et al. (2008)では塊状ハマサンゴ(massive Porites spp.)の過去400年間にわたる石灰化量・骨格密度・成長速度を復元しており、それによると1960年以降(特に1990年以降)石灰化量が急速に減少していることが確認された。原因は特定されていないものの、海洋酸性化と温暖化が原因と推察されている。

西オーストラリアの17°Sから28°Sまでに生息する塊状ハマサンゴ(massive Porites spp.)の調査からは、高緯度ほど石灰化量が近年増加傾向にあることが確認され、グレートバリアリーフの結果とは全く異なる結果になった(Cooper et al., 2012)。原因として、温暖化によるプラスの効果が酸性化によるマイナスの効果を打ち消している可能性が挙げられている。


飼育実験からの知見
Comeau et al. (2014)では、モーレア・ハワイ・沖縄の3カ所においてほぼ同時に行われた塊状ハマサンゴ(massive Porites spp.)酸性化実験の結果を報告しているが、1,000 ppmというもっとも悲観的なCO2排出シナリオで今世紀末に訪れると予測されている状態でも、有意な石灰化量の低下は確認されなかった。
彼らは、塊状ハマサンゴで石灰化量の低下を報告している研究に対し、実験系の設定が悪いと指摘している(海水流量や光量など)。
また石灰化量に変化が見られないのは、昼間ふんだんに存在する重炭酸イオン(HCO3-)を石灰化に利用し、それが夜間の溶解を打ち消しているのだと考察している。
もちろんすべてのサンゴがこのように酸性化に強いわけではないので、勝者と敗者に分かれ、勝者が繁栄すると予測している。

モーレアにおいて塊状ハマサンゴ幼生を対象にした別の酸性化実験では、やはり石灰化量に変化は見られず、pH低下で上昇する重炭酸イオンの正の影響が原因とされている(Wall & Edmunds, 2013)。
またサンゴは独立栄養であると同時に従属栄養でもある。1ヶ月間にわたって行われた酸性化実験からは、塊状ハマサンゴがバイオマス量と動物プランクトンの摂食量を増加させることで、石灰化速度を維持する機能を備えていることも示されている(Edmunds, 2011)。

一方、瀬底実験場のAICAL装置を用いて行われた飼育実験からは相反する結果が得られている。
ハマサンゴ(P. australiensis)を酸性化海水で飼育したところ、石灰化量だけでなく、光合成活性の低下も確認され、海洋酸性化が褐虫藻の光合成にも影響していることが示された。群体間の違いも見られたものの、酸性化への影響は3群体すべて負であった(Iguchi et al., 2012)。
同じハマサンゴを対象にした別の酸性化実験では、産業革命以前の大気(CO2 = 280 ppm)も再現され、評価が行われた(Iguchi et al., in press)。それによると、一貫してCO2濃度の上昇が石灰化量の低下に繋がっていることが示された。現在の大気下(CO2 = 400 ppm)でも既に石灰化量の低下が生じており、将来も負の影響が生じるであろうことが予測された。

de Putron et al. (2011)ではバミューダにおける実験施設において、ハマサンゴの一種(Porites asteroides)のポリプを対象にして酸性化実験を行ったところ、酸性化による負の影響が見られた。その際の応答の様式は線形的ではなく、Ω = 2.5を下回ったあたりから急激な減少が見られた。

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まとめてみて分かったこと。
同じハマサンゴ科でも種ごと・場所ごとに酸性化に対する応答が異なる可能性があり、その原因はまだ解明されていないようだ。

ちなみに、僕自身が用いている小笠原のハマサンゴのホウ素同位体記録は、過去100年間に明瞭に石灰化への影響が生じていることを物語っている。僕自身はすでに影響が出ており、おそらく負の影響が今後も生じるだろうと予測している。ただし、研究対象として扱ったハマサンゴの1群体について、であるが。

参考文献
Comeau et al., 2014, ProsB
Cooper et al., 2008, Global Change Biology
Cooper et al., 2012, Science
Crook et al., 2011, Coral Reefs
Crook et al., 2013, PNAS
Death et al., 2009, Science
Death et al., 2012, PNAS
Edmund, 2010, MEPS
Edmunds, 2011, Limnology and Oceanography
Green et al., 2008, MEPS
Iguchi et al. in press, Marine Pollution Bulletin
Iguchi et al., 2012, Marine Environmental Research
Wall & Edmunds, 2013, Biological Bulletin
de Putron et al. 2011, Coral Reefs