G.L. Foster and P.F. Sexton
Geology doi: 10.1130/G35806.1 (October 7, 2014)
より。
ちなみにGeologyだけどオープンアクセス。
ホウ素同位体(δ11B)-pH-pCO2プロキシを用いた赤道大西洋の最終氷期以降の海洋表層pCO2復元に関する論文。
有孔虫ホウ素同位体を用いた研究グループとしては、いま一番活発なグループのボス、Gavin L. Fosterの最近の成果。
これまでのFoster (2008, EPSL)・Henehan et al. (2013, EPSL)で得られた堆積物記録・δ11B-pH-pCO2換算式を利用し、赤道大西洋の東と西のpCO2分布の違いを考察している。
浮遊性有孔虫G. ruberのδ11Bを測定しており、さらにMg/CaからSSTも同時に復元している。
塩分・アルカリ度は一定としており、δ18Oは計算には利用していない(理想的には浮遊性有孔虫δ18O・Mg/Ca測定値と標準海水準変動曲線を組み合わせてローカルな塩分変化も推定するのが望ましい)。
結果から言うと、東がΔpCO2(海水pCO2-大気pCO2)が氷期に高く、西はΔpCO2がゼロに近かった(大気と平衡)。
Mg/CaによるSST復元も整合的で、東ほど温度が冷たく、西ほど温かい(とはいえ完新世と比べると低い)。
従って、赤道湧昇が強く、亜表層からの炭素に富んだ・冷たい水がより多くもたらされていたことになる。
Fig. 3を改変。 GeoB1105が東、それ以外が西で採取された堆積物コア。MIS2と3が氷期、1が現在の間氷期(完新世)。 |
ここで気になるのは生物ポンプとの兼ね合い。
一般に氷期には大気中のダスト量が大きく、鉄などの微量元素がふんだんにもたらされた結果、世界のHNLC海域(赤道太平洋や南大洋など)で生物活動が今よりも盛んになったと考えられている(その結果、大気中のCO2濃度が間氷期よりも100ppm低下した、とも)。
しかしながら、現在の赤道大西洋はどちらかと言うとHNLC海域には属していない。その結果、現在、ΔpCO2は大気よりやや大きい値に留まっている(一方、赤道太平洋のΔpCO2は大きな正の値を示す)。
今回の結果から示された、氷期において大きなΔpCO2は、生物活動によるΔpCO2をゼロに近づける効果を打ち消すほど、湧昇が強かったことが原因だと筆者らは考察している。
海水中のδ13Cとリン酸濃度([PO42-]、栄養塩の一つ)との間には良い関係性があるため、浮遊性有孔虫δ13Cから過去のリン酸濃度を復元したところ(さらに生物生産の程度は3倍と仮定)、湧昇が現在よりも5倍ほど大きければ辻褄が合うということらしい。
湧昇した栄養塩に富んだ水はその後西へと運ばれ、生物によって利用される。そのため、東赤道大西洋のΔpCO2の増大は局所的なもので、西に行くほど緩まったと考えられる。
もう一つの疑問は、氷期には大気中のCO2濃度が低かったにもかかわらず、赤道東大西洋で大量のCO2の放出が確認されたという事実。
このことから赤道大西洋表層の炭素交換は氷期の大気中CO2濃度変動に影響は小さかったか、あるいはゼロだったという推察が成り立つ。
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僕自身の研究(Kubota et al., 2014, SR)では、赤道太平洋の最終氷期以降のΔpCO2を復元したのだが、氷期においては現在と同程度の状態だったという結果だった(ただし、記録がかなり限られているため、特に東赤道太平洋の堆積物記録が得られることを切に望んでいる)。
氷期に赤道域がエルニーニョ状だったか、ラニーニャ状だったかについてはまだ議論が分かれている(というより復元法により食い違う結果が得られている)。
本論文では議論していないが、MIS2→1の移行期にあたる最終退氷期においては赤道太平洋のΔpCO2は現在よりも正に動いていたことが分かっている。
今後、赤道大西洋においてもより時間解像度が高い記録が得られれば、詳細な対比を通して、赤道域の全球炭素循環における役割が評価できるようになるかもしれない。ちなみに、赤道インド洋についてはまだ報告がない(ハズ)。