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2014年10月15日水曜日

海底の引っ搔き傷から氷期の北米氷床から流出した氷山がどう流れるかを推定(Hill & Condron, 2014, Ngeo)

Subtropical iceberg scours and meltwater routing in the deglacial western North Atlantic
Jenna C. Hill & Alan Condron
Nature Geoscience, AOP (2014)

個人的に非常に面白く、そして大変重要だと感じた論文。

氷期や最終退氷期における北米大陸氷床からの氷山流出とその融水放出(ハインリッヒ・イベント、8.2 kaイベントなど)が大西洋子午面循環だけでなく、全球の気候に大きな影響を与えたことが世界中の様々な記録から示唆されている(中国・インドネシア・ブラジルの鍾乳石、北半球中・高緯度の堆積物コアなど)。

ただし、これまでの知見からは(そして僕の抱いていたイメージからは)、氷山流出の範囲というものは亜寒帯循環に捕われた形で終結しており、あまり南方までは運ばれることはなかったというのが通説であった。



この論文が出るまでは、サウスカロライナ沖(32.5°N)、バミューダ海膨(32°N)などが南限と考えられていた。

しかしながら、海底地形の詳細な画像化によって明らかになったのは、遠くフロリダ半島南部(24.5°N)にまで氷山が到達していたという事実であった。
彼らは海底に残された氷山の引っ搔き傷(海底下の接地部:kiel)の方向や密度分布、深さなどをもとにどれほどの大きさの氷山がどこまで到達したのかを明らかにしている。

氷山の深さは海底の深さ・当時の海水準・引っ搔き傷の深さから推定することができる。
※ただし、正確な引っ搔き傷の年代は得られていないので、当時の海水準の制約が難しく、氷山の大きさの推定には不確実性が大きいと思われる。

氷山がどういったルートでフロリダ半島まで到達したかを知るために、海洋大循環モデルを によるモデリングを行っている。条件は最終氷期極相の気候条件(海水準が130mほど低下)で、ハドソン湾から様々なシナリオの氷山流出を想定し、評価を行っている。
それによると、北米大陸の東岸に沿う形で氷山が南へと運搬される姿が明らかになった。その後、35°N付近で東向きの流れとより南に向かう流れに分岐し、大西洋中緯度に氷山がばらまかれる。
氷山は常に暖かい海水によって下から溶けているため、冷たく、塩分の低い融水の流れを伴っている。例えば5Sv氷山を流出させたシナリオでは、表層から150mは-1.5℃、4.5 psu、幅100kmほどと推定されている。
そうした淡水+氷がフロリダ半島まで及ぶのに必要な氷山流出はハドソン湾において2.5Sv以上はあったと推定され、おおよそ4ヶ月で5,000kmもの距離を移動することが分かった。

フロリダ半島の南沖には暖流であるメキシコ湾流が流れているため、それよりも南に氷山が流れたとは考えにくいが、この知見は北大西洋全体の海洋循環にも大きな影響を与えたと考えられている。というのも、おそらくこの融水がメキシコ湾流の暖かく・高塩分の水と混ざったと考えられるためである。

筆者らはバミューダ海膨やイベリア半島沖で見られる堆積物の堆積相・塩分変化は、東岸境界流によってもたらされた低密度水のメキシコ湾流への混合もまた影響していたのではないかと推測している。
またいわゆる北大西洋への融水イベントというものが従来考えられていたよりも複雑な過程であることも示している。


残された課題としては、そうした氷山流出のタイミング・フラックスのさらなる制約と 、北太平洋の堆積物コアに残されたIRDとの対比によるさらなる氷山流出メカニズムの考察ということになるだろう。