Nature
Volume 497 Number 7451 pp535-658 (30 May 2013)
EDITORIALS
Still less equal
まだあまり平等でない
日本政府は女性のキャリアを成功させる手助けをするという約束を守らなければならない。
RESEARCH HIGHLIGHTS
Gemstones from the deep
深部からの宝石
Geology http://dx.doi.org/10.1130/G34204.1 (2013)
翡翠の一種である硬玉石(jadetite)はプレートの沈み込み帯で形成される。地下深部で海洋地殻のスラブから放出される流体が濃縮されることで形成されている。また一方でルビーは東南アジアのような、アルミニウムに富んだ大陸地殻同士が衝突するような場で形成されている。これらの宝石類は美しいだけでなく、プレートテクトニクスの起きていた場所を特定するのにも使える可能性があるという。
>問題の論文
Plate tectonic gemstones
プレートテクトニクスの宝石
Robert J. Stern, Tatsuki Tsujimori, George Harlow and Lee A. Groat
Footprints reveal hominin size
足跡がヒト族の大きさを明らかに
J. Hum. Evol. 64, 556–568 (2013)
化石の足跡はヒト族が1.52Maには既に現代人と同程度に大きかったことを物語っている。古い時代の保存の良い骨格は稀にしか見つからず、ヒトの大きさや歩行速度を推定することは難しい。ケニアの北部で発見された7人のヒト族(Homo erectusかParanthropus boisei)の足跡のサイズと歩行間隔の測定結果と、現代のケニア人の成人男性の裸足の歩行法とを比較することで、古代人が現代人と同程度の大きさであったことが示唆されている。
Fossil arthropod with scissor hands
ハサミの手をもった化石の節足動物
J. Paleontol. 87, 493–501 (2013)
カナダのKootenay国立公園で発掘されたこと、ジョニー・デップが映画「シザー・ハンズ」内で演じたEdward Scissorhandsにちなんで、Kootenichela deppiと名付けられた505Maの節足動物は3又の長い爪を持っていたらしい。
Sea and sky comes at a cost
海と空がコスト高になった
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1304838110 (2013)
海と空で翼を使うことのエネルギーコストが大きかったことがペンギンが空を飛ぶことを諦めた原因だったのかもしれない。41羽のハシブトウミガラス(thickbilled murres; Uria lomvia)と22羽のヒメウ(pelagic cormorants; Phalacrocorax pelagicus)に対してレコーダーを取り付けて潜水深度や飛行時間などを測定し、さらに同位体でラベリングした水で泳がせることで代謝速度を見積もったところ、ともに飛行のエネルギーコストが知られている脊椎動物の中では最大で、潜水のエネルギーコストはペンギンよりも大きいことが示された。これは潜水への適応が飛行の弱点を補うように働いており、羽が潜水に最適化するように発達したことでもはや飛ぶことができなくなったことを物語っている。
>関連する記事
Flight of the Penguin
ペンギンの飛行
Science 340, 893-1004 (24 MAY 2013) "News of the Week"
ウミガラス(murres)は飛行も潜水もする海鳥である。中でも北極圏に生息するハシブトウミガラス(Uria lomvia)は非常に飛ぶのが下手で、休息時の31倍ものエネルギーを消費していることが示され、鳥類の中では最大値となった。潜水中は比較的省エネルギーで済んでいるらしい。70Maまではペンギンの祖先は空を飛んでいたと考えられるため、ペンギンは飛行を諦めてより効率の良い潜水に特化して進化したと考えられる。
Nuclear power saves lives
原子力が命を救う
Environ. Sci. Technol. 47, 4889−4895 (2013)
先日NASAを引退し、気候変化に関する活動家として余生を捧げているJames HansenとNASAのPushker Kharechaは過去40年間に原子力発電所の放射能漏れや事故などで命を落とした人の数を分析したところ、火力発電所による空気汚染によって命を落とした人の数(184万人)に比べて原子力発電が370倍も安全であることを報告している。さらに原子力発電によって削減されたCO2排出の量は64Gtと推計されている。
SEVEN DAYS
Eye of the storm
嵐の目
NOAAが5/23に発表した大きなハリケーンのスパコンを用いた予測によると、7/1-11/30にかけて、7割の確率で7〜11回(うち3〜6回は巨大)のハリケーンの襲来が予想されるらしい。
Deep shocks
深い振動
カムチャッカ半島において5/24にM8.3の地震が起きた。震源域は地下610kmと推定されている。太平洋プレートの断層が破壊されたことが原因と考えられている。
>より詳細な記事
Quake off eastern Russia may be biggest-ever deep temblor
Alexandra Witze
Making waves
波を作る
世界最大の波力発電がスコットランドのLewis海岸の北西で計画されている。Aquamarine Powerは40-50基を設置し、発電量は2017年には早くも40MWに達するだろうと期待されている。
Arctic break-up
北極圏の崩壊
気象観測や汚染をモニタリングしている北極のロシアの観測所が、海氷が割れつつあることを受けて撤退を余儀なくされている。
WIDER ACCESS TO CLEAN ENERGY NEEDED
必要とされるクリーンなエネルギーへのより広いアクセス
国連は2030年までにすべての人が電気を利用できるように、さらにより汚染の少ない調理用の燃料を使用するように、目標を設定している。さらにエネルギー消費に締める再生可能エネルギーの割合も広げようとしている。しかし5/28に公表された報告書では、目標を達成するのはかなり難しそうな様相を呈している。改善を人口増加と経済成長とが打ち消している形となっている
NEWS IN FOCUS
Japan aims high for growth
日本は成長の高みを目指している
David Cyranoski
科学における革新が経済を活性化させる政府の計画の中核となっている。
FEATURES
Galaxy formation: Cosmic dawn
銀河形成:宇宙の夜明け
Ron Cowen
ハッブル宇宙望遠鏡を用いて、宇宙の最初の、荒々しい銀河形成時代の姿を天文学者は垣間みている。
COMMENT
Sustainability: A green light for efficiency
持続可能性:効率を考えた緑信号
「道路信号の効率を改良する努力は経済的・環境的なコストを削減するめったにない機会だ」、とKevin Gastonは主張する。
CORRESPONDENCE
Ecology: Getting the word out on biosphere crisis
生態系:生物圏の危機を口に出す
Elizabeth A. Hadly
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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Planetary science: Evolutionary dichotomy for rocky planets
惑星科学:岩石惑星の進化的な分岐
Linda T. Elkins-Tanton
Hamano et al.の解説記事。
単純なモデルによって、恒星に近い岩石惑星は惑星が固化する際に水を早く失い、逆に離れた惑星は早く固化することで水を取り戻すことが明らかに。
Palaeoanthropology: Hesitation on hominin history
古人類学:ヒト族の歴史の口ごもり
William H. Kimbel
アウストラロピテクス・セディバ(Australopithecus sediba)の骨格記録の集中的な研究から、その解剖学的な詳細が明らかに。しかしその現生人類への進化学的な道筋についてはまだ確たることは分かっていない。
Astrophysics: A glimpse inside a magnetar
天文学:マグネターの内部が垣間見えた
Robert C. Duncan
Archibald et al.の解説記事。
多くの中性子星が'異常放電(glitch)'を起こすが、それは内部に高密度超流体が存在し、さらに内殻の超流動体が外殻よりも早く回転することを示唆している。強く磁性を帯びた星であるマグネターが驚くことに、'間違った'方向に異常放電することが明らかに。
LETTERS
An anti-glitch in a magnetar
マグネターにおける反・異常放電
R. F. Archibald, V. M. Kaspi, C. -Y. Ng, K. N. Gourgouliatos, D. Tsang, P. Scholz, A. P. Beardmore, N. Gehrels & J. A. Kennea
マグネターは時折不思議な'異常放電(glitch)'を起こす。その際には星の内部と内部地殻の間で角運動量が伝播する。X線計時観測から'反・異常放電'の存在が明らかに。こうした挙動はモデルからは予測されておらず、理論を再考する必要があるかもしれないという。
Persistent export of 231Pa from the deep central Arctic Ocean over the past 35,000 years
過去35,000年間にわたる中央大西洋深層水の231Paの継続した運搬
Sharon S. Hoffmann, Jerry F. McManus, William B. Curry & L. Susan Brown-Leger
北極海は海氷形成・輸送などの表層プロセスや深層水形成によって熱塩循環をコントロールするなどの過程を通して地球の気候にとって重要である。
北極海から得られた7本の堆積物コア中の231Paと230Thを分析したところ、230Thの埋没は海水中の生成率とバランスしているが、一方で231Paは水平方向の輸送がなければ説明できないことが示された。現在231Paを鉛直方向に早く輸送する仕組みは北極海には見つかっていないため、Fram海流を通して過去35Kaに一貫して深層水の交換が起きていたことが示唆される。
>参考:以前書いたコラム「231Pa/230Thが何故AMOC強弱の間接指標になるのか」
Emergence of two types of terrestrial planet on solidification of magma ocean
マグマオーシャンの固結時の岩石型惑星の2つのタイプの出現
Keiko Hamano, Yutaka Abe & Hidenori Genda
※濱野景子さんは東大・地球惑星科学専攻のポスドク。
太陽系内の岩石型惑星の多様性を理解することは地球惑星科学の根本的な目標の一つである。金星は地球と同程度のサイズで大まかな組成は同じであるものの、’水’が枯渇している。
モデルシミュレーションから、岩石型惑星はマグマオーシャンから固化する進化の歴史に基づいて、2つの際立ったタイプに分類できる可能性を示す。1つ目のタイプ(地球など)は数百万年以内に固化しその水のほとんどは初期の海を形成するもの、2つ目のタイプ(おそらく金星など)はある閾値的な距離の内部で形成され、1億年ほどの歳月をかけてゆっくりと固化し、流体力学的な水の散逸によって乾燥化するものである。
Palaeontological evidence for an Oligocene divergence between Old World monkeys and apes
古い世界の猿とサルとの漸新世の分岐に対する古生物学的な証拠
Nancy J. Stevens, Erik R. Seiffert, Patrick M. O’Connor, Eric M. Roberts, Mark D. Schmitz, Cornelia Krause, Eric Gorscak, Sifa Ngasala, Tobin L. Hieronymus & Joseph Temu
分子生物学的にはヒト上科(hominoids)とオナガザル科(cercopithecoids)とが分岐したのは30-25Maの間であったと推測されていたが、20Maよりも古いクラウングループの狭鼻猿類(crown-group catarrhines)の化石証拠はこれまで得られていなかった。それらの共通祖先のものと考えられる、正確に25.2Maという年代決定がなされた化石記録がそのギャップを埋めるかもしれない。
>関連する記事
New Fossils Provide Earliest Glimpse of Ape Origins
新たな化石がサルの起源の最も初期のわずかな知見を与える
Science 340, 777-892 (17 MAY 2013) "News of the Week"
サルがいつ・どのように進化し、いまの多様性になったかを理解することは、霊長類の進化だけでなくヒトのそのものの進化を理解することにも繋がる。従来30-25Maに分岐したことが分子時計から言われていたが、その証拠となる化石はこれまで見つかっていなかった。アフリカ地溝体のタンザニアにおいて、Rukwapithecus fleagleiとNsungwepithecus gunnelliと名付けられた猿の祖先のアゴの骨と歯が見つかった。新たな年代測定から、それが25.2Maであることが判明し、これまで得られている中で最古のものとなった。つまり漸新世(Oligocene)まで遡ることになる。
Long-term warming restructures Arctic tundra without changing net soil carbon storage
長期間の温暖化が土壌の炭素貯蔵量を全体としては変えずに北極圏のツンドラを再構築した
Seeta A. Sistla, John C. Moore, Rodney T. Simpson, Laura Gough, Gaius R. Shaver & Joshua P. Schimel
高緯度地域には全球の土壌炭素の半分が存在し、地球温暖化に対する応答が関心を集めている。低温であることが有機物分解や窒素放出を抑制することを通して生物活動を抑制している。温暖化によって分解が加速すると、窒素利用が活性化し、木や植物の一次生産が活発になると考えられている。
アラスカのツンドラ地帯における20年間にわたる夏の温暖化実験から、温暖化は植物バイオマス量や木の割合を増加させ、冬の土壌温度を間接的に上昇させ、土壌の食物網を均質化させ、土壌表層の有機物分解者の活動を抑制することが示された。しかしながら、全体としての土壌炭素・窒素の蓄積量には変化がなく、従って全体としては炭素の蓄積量は増加した。