Science
VOL 340, ISSUE 6134, PAGES 777-892 (17 MAY 2013)
EDITORIAL:
Impact Factor Distortions
インパクト・ファクターの歪曲
Bruce Alberts
細胞生物学の研究集会にて採択された、The San Francisco Declaration on Research Assessment (DORA)は「研究者の業績を投稿論文が掲載された雑誌のインパクト・ファクターで評価しない」声明を出した。インパクト・ファクターは本来雑誌の価値を計るものであるはずなのに、今や研究者そのものの価値の判断に使われたりしている。インパクト・ファクターに固執することは非建設的であり、その価値は引用されやすい分野ほど有利に働くため、専門ごとに本来の価値は違うはずである。そうではなく、たとえ投稿論文が簡単に出せない長期的な計画からも際立った成果が出る可能性はあるため、まだ人気のない・新たな分野を若手研究者が切り拓くのにもそうした固定観念を失くすことが重要である。
[以下は引用文]
For this reason, I have seen curricula vitae in which a scientist annotates each of his or her publications with its journal impact factor listed to three significant decimal places (for example, 11.345). And in some nations, publication in a journal with an impact factor below 5.0 is officially of zero value. As frequently pointed out by leading scientists, this impact factor mania makes no sense.
こうした理由から、私は研究者が彼または彼女の投稿論文が掲載された雑誌のインパクト・ファクターが小数点3桁まで注釈付きで書かれている履歴を見てきた(例えば、11.345など)。国によっては、インパクト・ファクターが5.0を下回る雑誌に掲載された論文は公式にはゼロと見なされることもある。一流の研究者がしばしば指摘するように、インパクト・ファクターへの執着は理にかなっていない。
...it wastes the time of scientists by overloading highly cited journals such as Science with inappropriate submissions from researchers who are desperate to gain points from their evaluators.
評価者からポイントを得るのにやっきになっている研究者が、サイエンス誌のように多く引用される科学雑誌に対して不適切な投稿をすることは時間を無駄にすることに他ならない。
Any evaluation system in which the mere number of a researcher’s publications increases his or her score creates a strong disincentive to pursue risky and potentially groundbreaking work, because it takes years to create a new approach in a new experimental context, during which no publications should be expected.
その間一つも投稿論文が期待できないような、新たな実験において新たなアプローチを生み出すには何年も費やすため、研究者の投稿論文数の数だけで彼または彼女のスコアが上がるような評価システムではリスクが高く、革新的な結果を生む可能性のある仕事を選ぶインセンティブが著しく失われる。
The DORA recommendations are critical for keeping science healthy.
DORAの推奨は科学を健全に保つために必要不可欠である。
Editors' Choice
Hawaii’s Deep Plumbing System
ハワイの深い配管システム
Geophys. Res. Lett. 40, 10.1002/grl.50470 (2013).
ハワイのマウナロアとキラウエア火山は現在世界で最も活発な火山の2つである。2つは約30kmしか離れていないが、それらが相互作用しているかどうかはよく分かっていない。2006年〜2008年にかけてマントル物質が多く供給された際、2つの火山は同時に膨張していたことが人工衛星観測から示された。それ以外は独立した火山活動が起きていたらしい。
>問題の論文
Coupling of Hawaiian volcanoes only during overpressure condition
Manoochehr Shirzaei, Thomas R. Walter, Roland Bürgmann
News of the Week
Call to Abandon Journal Impact Factors
雑誌のインパクト・ファクターを失くすという要請
150人の一流の科学者と75の研究機関によって’インパクト・ファクター’を失くす行動声明がなされた。本来それは図書館が購入する科学雑誌を参考にするために出版社のトムソン・ロイター社が発行する、一つの論文が引用される回数を数値化したものであるが、いまや科学者の評価基準に組み込まれている。
>より詳細な記事
In 'Insurrection,' Scientists, Editors Call for Abandoning Journal Impact Factors
Jocelyn Kaiser
New Fossils Provide Earliest Glimpse of Ape Origins
新たな化石がサルの起源の最も初期のわずかな知見を与える
サルがいつ・どのように進化し、いまの多様性になったかを理解することは、霊長類の進化だけでなくヒトのそのものの進化を理解することにも繋がる。従来30-25Maに分岐したことが分子時計から言われていたが、その証拠となる化石はこれまで見つかっていなかった。アフリカ地溝体のタンザニアにおいて、Rukwapithecus fleagleiとNsungwepithecus gunnelliと名付けられた猿の祖先のアゴの骨と歯が見つかった。新たな年代測定から、それが25.2Maであることが判明し、これまで得られている中で最古のものとなった。つまり漸新世(Oligocene)まで遡ることになる。
>問題の論文
Palaeontological evidence for an Oligocene divergence between Old World monkeys and apes
古世界の猿と類人猿の漸新世の分岐の古生物学的な証拠
Nancy J. Stevens, Erik R. Seiffert, Patrick M. O’Connor, Eric M. Roberts, Mark D. Schmitz, Cornelia Krause, Eric Gorscak, Sifa Ngasala, Tobin L. Hieronymus & Joseph Temu
Nature (2013) doi:10.1038/nature12161
U.S. East Coast Not So Passive
アメリカの東海岸はそんなに受動的ではない
「火山活動や地震がないような大陸棚縁辺は、河川や海による堆積場で、海水準変動のいい指標になる」というのが従来の地質学の常識となっていたが、アメリカ東海岸は実はそうではないらしい。非常にゆっくりとした深部のマントル対流が東海岸の地形形成にとって重要であることが新たな研究から示されている。さらに北米で伸縮を繰り返した更新世の氷床の存在もまた話を複雑にしているらしい。過去の海水準変動を正しく理解するには、全球的なマントル対流や氷床変動まで理解する必要があると研究者らは語る。
>問題の論文
Dynamic Topography Change of the Eastern United States Since 3 Million Years Ago
300万年前以降のアメリカ東海岸のダイナミックな地形変化
David B. Rowley, Alessandro M. Forte, Robert Moucha, Jerry X. Mitrovica, Nathan A. Simmons, Stephen P. Grand
Science DOI: 10.1126/science.1229180
Eating Bugs Could Save the World
昆虫を食うことをが世界を救うかもしれない
人口爆発と地球温暖化の中で食の安全を考えた時に、食糧安全の専門家達は’昆虫’が持続的で・環境に優しいタンパク源だと考えている。国連のFood and Agriculture Organization(FAO)の推計によると、アジア・アフリカ・ラテンアメリカでは現在20億人が1900種の昆虫を日々食しており、中には食べられすぎて絶滅の危機に瀕しているものもいる(例えばタランチュラの一種(Thai Zebra Tarantula; Haplopelma albostriatum)など)。単に食糧としてだけでなく、発展途上国における収入源や家畜の飼料として持続可能な生産の可能性があるという。
>関連した記事(ナショナル・ジオグラフィック)
国連が昆虫食を推奨、人気の8種とは?
News & Analysis
Melting Glaciers, Not Just Ice Sheets, Stoking Sea-Level Rise
単に氷床だけでなく、氷河の融解もまた海水準上昇をあおっている
Richard A. Kerr
雪氷学者が何十年も歩き続けて得た地上のデータと、かなり最近になって得られるようになった人工衛星観測のデータ(重力と高度変化)とを組み合わせて、世界中の19の主要な氷河地域において氷河の後退とそれに伴う海水準上昇の寄与に対する新たな推定値が得られた。それは氷床の後退とほぼ同程度の量で全球の氷河が一貫して質量を失っており、海水準を年間0.7mmずつ押し上げていることを物語っている。Gardner et al.の紹介記事。
[以下は引用文]
The world’s glaciers have been shrinking frighteningly fast, so fast that their melting was pushing up sea level far faster than the shrinking ice sheets of Greenland and Antarctica. But then 21st century monitoring from space began to show a much smaller role for glacial ice loss in sea-level rise. Which to believe?
世界の氷河は恐ろしい早さで後退しており、グリーンランドや南極の氷床の後退よりもかなり早く海水準を押し上げている。しかし一方で21世紀の宇宙からのモニタリングは世界の氷河の後退が海水準上昇に与える寄与はかなり小さいと示している。どちらを信じればいいのだろうか?
Water supply problems—farmers losing meltwater in streams and rivers in the hot, dry summer months—will only get worse. And glaciers will be helping drive up sea level through the end of the century and a bit beyond. But with all glacierized regions losing ice in the present climate and more warming expected, Gardner says, all but the most resilient glaciers are likely to disappear within the millennium. Some glaciers in the Arctic and Antarctic might last that long, but particularly vulnerable regions like the Alps will likely see most of their glaciers disappear by the end of the century.
水供給問題(牧場主は夏の乾燥した暑い時期に使える、小川や河川を流れる雪解け水を失いつつある)は悪化する一方だろう。そして氷河は海水準が今世紀末までか、或いはもうちょっと先まで上昇し続ける手助けをするだろう。しかし「現在の気候と将来の更なる温暖化で氷を失いつつあるすべての氷河地域は、もっとも強い氷河を除いては、1,000年以内に消滅しそうだ」と、Gardnerは言う。北極圏や南極の氷河の中にはそれくらい長く持ちこたえるものもあるかもしれないが、アルプスといった特に弱い地域においては今世紀末にもほとんどの氷河が消滅するかもしれない。
More Genomes From Denisova Cave Show Mixing of Early Human Groups
Denisova洞窟からのより多くの遺伝子が初期人類の混合を示している
Elizabeth Pennisi
パワフルな新手法を用いた化石試料分析によって、異なる古代人類グループが混ぜ合わさった様が明らかに。
News Focus
Troubled Waters for Ancient Shipwrecks
古代の難破船の水難
Heather Pringle
考古学者は難破船から貴重なデータを引き出すための新しい手法を見つけたが、利益目的で難破船をサルベージしている人たちと対峙している。
From Quarry to Temple
石切り場から寺へ
Heather Pringle
Kizilburunが沈没してから2,000年後、それを発掘した考古学者がそれがどこから来て、どこに・何故向かっていたのかを突き止めた。
Following the Flavor
香りに誘われて
Kai Kupferschmidt
なぜ我々に食べ物の好き嫌いがあるのかが次第に明らかになりつつあるが、思っていたよりは複雑であるらしい。
A Floating Lab Explores the Fringes of Science and Gastronomy
浮いた実験施設が科学と料理術の周辺を探索している
Kevin Krajick
Ben Readeとthe Nordic Food Labは1990年代に始まった分子料理術の動きの一つであり、それは食材が料理の際にどのように変換するのかを理解しようとしている。
Letters
China's "Love Canal" Moment?
Chunmiao Zheng and Jie Liu
The True Challenge of Giant Marine Reserves
巨大海洋保護区の真の課題
David M. Kaplan et al.
The True Challenge of Giant Marine Reserves—Response
巨大海洋保護区の真の課題に対する返答
Christopher Pala
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Research
Perspectives
Immunity and Invasive Success
免疫と侵入の成功
Stuart E. Reynolds
アジアのナミテントウはそれが運ぶ病原菌のおかげで世界中の生態系に侵入することができたらしい。Vilcinskas et al.の解説記事。
Review
Impact of Shale Gas Development on Regional Water Quality
シェールガスの発展が地域の水質に与える影響
R. D. Vidic, S. L. Brantley, J. M. Vandenbossche, D. Yoxtheimer, and J. D. Abad
Background: 背景
・従来型の石油・石炭から天然ガスへの転換は比較的クリーンな化石燃料使用へと繋がり、エネルギーを輸入に頼る国々にとって依存性を軽減する上でも重要である。また発電所から出される汚染物質や水銀も低減される。
・水平掘削や水圧fracturingといった新技術がシェールガスという非在来型の天然ガス採掘を可能にした。しかし地域的な水質汚染・ガス漏れ・コンタミ・汚染水排出・事故によるガス流出などの危険が報告されている。
Advances:進展
・最も一般的な問題は地下水への漏れ出しである。掘削が行われている場所で地下水中のメタン検出が報告され、それが自然によるものか人工によるものかが議論を呼んでいる。
・ガス抽出に用いられる水の再利用もまた表層に汚染物質を大量にもたらしていると考えられ、新たな管理戦略が必要とされており、それは今後も強化されると思われる。
Outlook:見込み
・汚染物質の長期モニタリングとデータ統合が水質汚染が招くリスクを軽減させると考えられる。
・法的な調査の秘密性・資金援助が限られていること・発展の速度が速いことなどが環境影響評価研究を妨げている。
Reports
A Reconciled Estimate of Glacier Contributions to Sea Level Rise: 2003 to 2009
2003年から2009年にかけての氷河の海水準上昇への寄与の調整された推定値
Alex S. Gardner, Geir Moholdt, J. Graham Cogley, Bert Wouters, Anthony A. Arendt, John Wahr, Etienne Berthier, Regine Hock, W. Tad Pfeffer, Georg Kaser, Stefan R. M. Ligtenberg, Tobias Bolch, Martin J. Sharp, Jon Ove Hagen, Michiel R. van den Broeke, and Frank Paul
グリーンランドと南極の氷床と異なり、氷河の後退による海水準上昇の寄与の推定は研究ごとに食い違っておりよく分かっていない。人工衛星による質量・高度観測と地上の観測記録から、新たな推定のコンセンサスを得た。多くの地域で地上観測は人工衛星観測よりも大きな流出を物語っている。2003年から2009年にかけてすべての地域で質量が失われており、特に北極圏カナダ・アラスカ・グリーンランド沿岸部・アンデス山脈南部・アジア高原で顕著である。一方、南極では顕著ではない。年間「-259 ± 28 Gt」の速度で質量を失っていると考えられ、両極の氷床縮小とそれによる海水準上昇への寄与のうち、「29 ± 13 %」に相当すると推定される。
Invasive Harlequin Ladybird Carries Biological Weapons Against Native Competitors
外来種のナミテントウが土着の競合者に対する生物兵器を運ぶ
Andreas Vilcinskas, Kilian Stoecker, Henrike Schmidtberg, Christian R. Röhrich, and Heiko Vogel
アジアへの外来種であるナミテントウは、その身体の中に微胞子虫(microsporidia)がおり、それが耐性のない甲虫類を殺すことで土着の競合者の個体数を減らすのに寄与していたらしい。