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2013年5月11日土曜日

「石油神話」(藤和彦、2001年)

石油神話
藤 和彦
文春新書(2001年1月)
¥660-

時代は石油から天然ガスへ…

石油の時代はいまや黄昏れ時にあり、日本は出遅れているが、世界の先進国はすでにより安全・より低価格・より環境にクリーンな天然ガスの時代の黎明期を迎えている。

書かれたのが2001年と今からするともう12年(!)も前になってしまうため、今とは全く違う状況であるのは間違いない。最近では2011年の東北大震災が日本をはじめとする世界各国のエネルギー政策にも大きな変革をもたらしたからだ。



海底掘削サイトの石油流出事故が招いた種々の環境汚染アラスカ沖のShellの事故メキシコ湾のBPの事故’Deep water Horizon’

新技術'fracking'を用いたシェールガス開発がもたらした人工の大地震に淡水生態系・飲料水への悪影響に、大気中へのメタン・CO2流出

天然ガスはメリットも多い反面、そのデメリットが頻繁に科学ニュースを賑わしてもいる
最近では日本が海底下からメタンハイドレートの掘削に成功し、大きな話題と期待を呼んだ。

天然ガスをめぐる僕個人の考えは別の記事にまとめるとして、この本を通して学んだのは、

・石油の埋蔵量は単に地質構造帯に貯蔵されている量を指すのではなく、対象とする時代における技術や需要に応じて変化し続けるということ

・天然ガスのパイプラインの敷設が普及には重要であること

・多くの石油系大企業は単に石油だけでなく、同時に生じる天然ガスや、その下流の石油精製、石油系製品の精製も一手に手がけているという点で日本の企業とは一線を画すこと

・石油危機や石油価格の高騰は中東国よりもむしろ消費国の心理が招いた結果であること

など。最近の動向も気になるので、機会があれば他の本も読んでみたい。

以下はピックアップした文言集。

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21世紀のエネルギー問題は、「安定供給」というこれまで唯一無二の大命題が、「①安全保障、②地球環境、③コスト」の三本柱となることは確実であり、この意味から、天然ガスは否が応でもその重要性を増すと考えられている。(pp. 17)

つまり石油は、世界的に実質的に統合された国際市場で取引され、全世界であまねく消費されているのに、リアルタイムで利用可能な、在庫・消費・生産等いわゆる実需給に関する情報がほとんど手に入らないのである。(pp. 53)

ここで注意しなければならないのは、確かに地中にある石油は掘れば一方的に無くなるだけであるが、しかしながら、これまで人類は、地下に眠る世界全体で一体どれくらいあるかを把握したことは、まったくないということである。(pp. 74)

大油田地帯の形成は、産油地域のカントリー・リスク、産油国の優遇政策、技術革新の動向、大消費地との近接性、パイプライン等既存のインフラの整備状況など、地質的な意味における石油の埋蔵ポテンシャルとは違う要素で決まる場合が多いのである。(pp. 79)

環境問題は、「非在来型石油資源」に限らず石油一般にとって、今後アキレス腱になる可能性がある。例えば「環境税」など、これまで以上に多額の税金をかけられて経済的価値が減じてしまえば、石油も石炭と同じ運命を辿ってしまう。そして、産油国政府はこのことを一番恐れている…。(pp. 101)

大手石油会社は、石油・天然ガス・発電を有機的に組み合わせた企業に脱皮しつつあり、「メジャー」と同様、「石油会社」という呼称が時代遅れになる日は遠くない。(pp. 142)

石油系資源の枯渇は、少なくとも21世紀前半まで、それほど問題にならない可能性が高いことはすでに述べた。しかしながら、21世紀のエネルギーは、安定した供給力だけで良しとはならない。経済性や利便性に加えて、消費に伴う環境負担の少なさなど総合的な視点から、何が主要エネルギーになるかが決まっていくことになるのは間違いない。(pp. 144)

炭素と水素のそれぞれの発熱量は、炭素7800、水素3万4000であり、水素量の多い炭化水素燃料ほど発熱量が多い。また、水素比率の高い燃料ほど同じ発熱量での二酸化炭素発生量が少ない。(pp. 145)
※参考:総合エネルギー統計の解説(経済産業研究所)

天然ガスを利用した小型分散型発電は、理論的には、同じ最終エネルギー需要に対して、従来型石炭発電所の4分の1しか二酸化炭素を出さないことになる。また、天然ガスは、SOx・NOxなど二酸化炭素以外の環境汚染物質についても、化石燃料の中で圧倒的に排出量が小さい。(pp. 147)

もともと石油と天然ガスは成因がほぼ共通しており、石油しか取れない油田、ガスしか取れないガス田というのはまれで、ほとんどの鉱床は石油とガスの両方を産出する。どちらが多いかによって油田と言ったり、ガス田と呼んだりしているに過ぎない。例えば米国などではガスが比較的多く取れることから、石油事業は「Oil & Gas Business」と言って、常にガス事業とセットでくくられている。(pp. 157)

日本の場合特に、天然ガスの利用が欧米地域に比べて遅れている。欧米では、「当面は大きな技術革新を期待しなくても、すぐに大規模な利用が可能な天然ガスで環境問題に対応しよう」というのが常識になっているというのに。(pp. 163)
※最近になってようやく海底下メタンハイドレートの最高に日本が世界で初めて成功し、話題を呼びました。これから商用化に向けて技術開発や開発の低コスト化が進んでいくことになります。ただし、決して忘れてはいけないのは、CCSなどでどこかに貯留しない限り(世界のどこにもまだ完璧な候補地は見つかっていませんが)、石油や石炭に比べて量が少ないにせよ、天然ガスはCO2を出すということです。

現在は、気体のままパイプラインで輸送する方法が世界の天然ガス輸送の96%を占め、残り4%がLNGタンカーによるものである。そしてLNGの4%のうち過半数が日本向けであり、韓国・台湾を含めると、その4分の3を占めることになる。つまり、日本を中心とする東アジア地域では輸送パイプラインの装備がほとんどなく、大部分がLNGという形で供給されてきたわけである。(pp. 164)
※2000年当時のことなので、今ではかなり現状が変わっていると思います(震災後の原発停止のこともあって)。筆者はそれこそが日本の天然ガス開発への着手が遅れた原因であるとしますが、果たして安定大陸と違ってテクトニクス的に不安定な島嶼国日本で、パイプラインを張り巡らせることは可能なのでしょうか?断層を避けて敷く?海底下のパイプラインの場合、技術的に・安全性的に実現可能?

地球温暖化問題を考える際に、人口12億を擁する世界最大国・中国の動向は、将来にわたって極めて重要である。このまま中国が石油依存を続けた状態で経済成長をしてゆくと、世界は掛け値なしに大変なことになる。中国政府は、21世紀に入ってもエネルギー使用の7割以上を石炭が占めるのは変わらないとしており、米国に次ぎ世界第二位の二酸化炭素排出国である中国は、近い将来、米国を抜いて第一位になる勢いである。(pp. 169)

エネルギー問題には、考慮すべき3つの「E」がある。すなわち、Environment(環境負荷軽減)、Efficeincy(コスト低下)、Energy-Security(供給安全保障)の三条件である。天然ガスが低コストで供給され、分散型のコジェネレーション・システムが普及すれば、この3Eの同時達成が容易になるのである。(pp. 172)

一般的に言って、経済に関する長期的な予測が困難なのは、特定の分野の要素をいくら精緻に分析してみても、その分野の外部で起こる変化が予想もつかない形で影響を及ぼしてくることと、その分野内部の要素間の緊密な相互作用が、時に予想もできない構造変化をもたらすためである。(pp. 179)