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2013年5月6日月曜日

「地球の水が危ない」(高橋裕、2003年)

地球の水が危ない
高橋 裕
岩波新書(2003年2月)

著者は東大名誉教授の高橋 裕(ひろし)氏。

水問題は気候変化問題とも密接に関連するため、興味を持っている分野の一つ。

筆者が指摘するように、水なくしては生命存在そのものが不可能になるため、当然ヒトにとっても水は大切なものである。しかし、当然ながら水は地球上にまんべんなく存在しているわけではなく、大きく偏っている。
本来生命に必要不可欠なものを売買することは適切ではないが、現在は水さえもビジネス・投資の対象となっている。

バーチャル・ウォーター(仮想水)という概念があるが、日本をはじめとする先進国は、他国からも大量の仮想水を輸入している。
牛肉をはじめとする家畜製品、穀物、木材、さらには日本人が大量消費するエビ類の養殖にも大量の水が使われ、さらにはそれが環境に様々な負荷を与えている(温室効果ガス排出、富栄養化、マングローブ破壊など)。

本書の内容の半分ほどは、「国際河川を巡る争いやその解決策などをめぐる議論」と「日本における治水の歴史・近年の異常洪水の原因の考察」などに割かれている。

今後、地球温暖化とともに地球の水循環は大きく変化すると考えられている。それが’戦争’のさらなるきっかけにもなるのではないかと危惧する人も多い。

様々な環境問題を経験をし、解決に苦心してきた先進国として、これから工業化する新興国へと日本がいかに技術支援・資金援助するかが、世界の南北問題の緩和、ひいては世界平和へと繋がるのかもしれない。

中東や東南アジア、アフリカをはじめとするこれからますます人口増加する貧困国が、武装蜂起するような事態を招かないためにも、地球人として自律性のある水生活を目指す必要がある。

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序 地球の水が危ない

「20世紀には、石油争奪が原因で戦争が勃発したが、来る21世紀には水獲得問題が原因となって戦争が発生する可能性が高い」(pp. 3)
1995年、世界銀行のイスマエル・セラゲルディン副総裁の記者会見での発言。

水は石油以上に人間にとって必須の資源であることはいうまでもない。(pp. 4)

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1 地球環境と水の危機

20世紀における水需要の激増の原因は人口増加だけでなく、食糧の消費拡大と言った水を大量に使うような生活水準の向上による。(pp. 10)

世界人口の約半数の30億人は屋内にトイレを持たず、最寄りの川や池、湖、沼、凹地、藪の中で用を足している。(pp. 16)

地下水は地球にとって人の血液にも匹敵するほど重要である。(pp. 20)

インド、中国、アメリカ、パキスタンの4カ国で世界の灌漑面積の過半を占め、これら四カ国を含む世界の上位10カ国で、世界の総灌漑面積の約3分の2に達する。(pp. 27)

特に深刻なバングラデシュの場合は人口増加に伴う水需要増への対策で井戸掘り合戦となり、井戸は次々と深くなってゆく。その結果、深い地下水層に潜んでいた砒素に出会ってしまった。従来、砒素は人間の手が届かなかった自然界に存在しているのであり、まさに寝た子を起こしてしまったことになる。(pp. 28)
※東南アジアで話題になっているヒ素の問題は広く認識されているものの、その濃度上昇のメカニズムについてはまだよく分かっていないようです。
Postma et al.
Nature Geosciences, Vol. 5 (September 2012)

河川開発は、上下流の流量関係、土砂移動、そして水質、生態系も含め、全流域管理の観点から考えねばならないことをアラル海の悲劇は痛烈に教えてくれる。湖のみならず、今後どの地域の計画であろうとも、アラル海の惨状を教訓とできるか否か、人類の英知が問われている。(pp. 33)

地域を限定した開発は、短期的にはその地域に多大な利益をもたらしても、その地域を含む広範囲の関連地域には、災害可能性を増加させることがしばしばである。(pp. 35)

あらゆる自然災害の中でも、最近は洪水災害が被災者数でも被害額でも最も多い。(中略)洪水の方は世界的規模でみると地域的にも発生箇所が多く頻度もはるかに多いからである。(pp. 38)

たしかに、それぞれの水害はまれにみる豪雨が直接の原因であるが、1990年代以降の大水害頻発と被害額の飛躍的増大は単に異常気象的要因によるばかりではなく、より社会構造的要因が潜むことが考えられる。途上国の場合は、人口急増とともに急激に進んだ都市化と大都市のスラム化の進行、開発ブームによる土地利用の急変が、災害を重大化させた要因と考えられる。先進国の場合は、20世紀後半の急速な開発の後遺症とでもいうべき、社会的・経済的基盤そして生態系が、災害に対して脆弱になっているからと推察される。(pp. 42)

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Ⅱ 紛争の絶えない国際河川・国際湖

日本人は国際河川問題に無関心であり、ひいては河川や水の問題への国際的関心も低いように思われる。(pp. 44)

水需要が停滞している先進国と、水需要がさらに著しく伸びる途上国とを同一には論じられない。(pp. 63)

先進国で良しとする方法、あるべき方向を、他の国々にそのままおしつけてはならないだろう。一般に今後も何らかの水資源開発を必要とする国々は、財政的余裕がない場合が多い。水資源問題も、他の地球環境問題と同じく南北問題に帰着する。先進国は財務援助も必要であるが、むしろ技術援助、自らの開発史の教訓をこそ途上国へ伝えるべきである。(pp. 64)

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Ⅲ 世界の水問題と日本人

水は国際河川とは無関係に、貿易によって国境を越えて大量に移動している。各国間の貿易が盛んになればなるほど、貿易品を通して水は大量に国境を越えて移動してくる。(pp. 107)

その水は河川の流れのようには人々の目には触れないので、輸入している食糧の農産物や畜産物を生産するのに、輸入先の国で大量の水を使っているという事実に一般の人はなかなか気づかない。日本はまた大量の木材を輸入している。その樹木生育のためにも莫大な水が使われている。(pp. 107)

日本の食糧自給率がなお下がり続けているのはかなり異常な事態である。(pp. 108)

日本が大量の食糧や木材を輸入することによって、世界中の水が牛肉などに姿を変えて、毎日、多くの家庭の食卓に届けられている。(pp. 108)

牛は生育期間が長く、消費飼料量も多く、しかも飼料に水消費原単位の大きい小麦を多く使うからである。(pp. 109)

アメリカ産やオーストラリア産の牛肉を食べるごとに、両国の水を間接的に身体に入れているのである。(pp. 110)
※世界の人口が牛肉の消費量を抑えるだけでかなりの排出削減に繋がると言います。
Lifting livestock's long shadow」Nature Climate Change, Vol. 3 (January 2013)
もうちょっといい記事があったように思うのですが、出典を忘れてしまいました…。

日本には牛肉やとうもろこし、小麦、大豆の大量輸入に伴い、きわめて大量の水が間接的に輸入されている。(中略)貿易の拡大に伴い、大量の水が国際河川とは無関係に国境を越えている。(中略)この点でも水の国際化は急速に進行しつつあり、間接水利用を通しても地球の運命共同化が明らかである。(pp. 111)

牛肉とか小麦のように間接的ではなく、もっと直接に日本の水輸入量そのものも激増している。それはミネラル・ウォーターのボトル水である。(pp. 111)

水が自然界を循環していることは自明の理であって、少しも疑う余地はない。(中略)ところが、高度経済成長期に日本人の生活水準が飛躍的に向上し、われわれの暮らしが物質的に豊かになった反面で、日本の自然は短期間に傷つけられ、特に大都市において、自然との調和と協調をこよなく重んずる日本の特性は失われ、自然を織り込んだ都市景観は全くと言っていいほど消え失せた。(pp. 137)

かつて水の使用量が文明のバロメーターといわれた時代は終わった。水がかけがえのない貴重な資源となった今日、水をいかに無駄遣いしないかが、その国の水意識の高さを示す時代となってきた。もはや、自国の都合だけでエネルギー、水などの資源を使える時代は去りつつある。(pp. 166-167)

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Ⅳ アジアの水問題と日本

この地球サミットは地球環境問題の重大さの全世界への周知には役立ち、特に地球温暖化対策と二酸化炭素の問題はのちの京都議定書への伏線となった点でも意義深い。また、生物多様性、沙漠化などにも世界の関心を集めた効果は大きい。それに引き換え、水問題はアジェンダ21には書きこまれているとはいえ、事の重大性を決して十分には訴えられなかった。(pp. 180)

アジアはまた、アフリカとともに水危機の中心的存在でもあることを認識してもらう必要性に迫られている。(pp. 188)

貧富の差は広がる一方であり、貧困者の数は増えるばかりである。総人口の約5分の1の富裕者が世界の総所得の約85パーセントを得ている一方で、世界の貧困層の約半分がアジアに住んでいる。(pp. 189)

このモンスーン・アジアにおいて、日本が唯一の先進国であり、地球環境問題における最大の難問である南北問題の「北」を代表している点である。南北問題解決への方策は、まず日本がモンスーン・アジアの「南」の国々に提出し実行する国際的義務がある。(pp. 191)

モンスーン・アジアにおける水田耕作は、この地域の雨に始まる自然の水循環の特性によく適合したシステムであった。(pp. 192)

地球環境問題の出現は近代合理主義の矛盾の現れであり、その方向転換が求められている。モンスーン・アジアは近代合理主義の矛盾をかかえたまま、それに倣って近代化の道をまっしぐらに進もうとしている。(pp. 194)

いまや人類を襲っている地球環境の危機への基礎研究という自覚の前には、自分の属する国益とか、個々の専門分野の学問レベルの向上を最終目的とすることが何の意味をもつであろうか。(pp. 203)
※気候変化問題についても同じことが言えるでしょうか。

地球人として自律性のある水生活を目指す必要がある。地球環境問題も地球の水危機もわれわれの生活に対する意識革命を求めている。(pp. 207)
※補足するならば、これからも変化し続ける状況に柔軟に・冷静に対処する必要もあるのではないか、と思います。

日本人のエビの突出した大量消費によっても、東南アジアのマングローブが激減して、その生態系を破壊し高潮の危険度が増している。地球人の自覚とは、毎日毎日の食卓が、地球の水危機と関係が深い事実を知ることである。(pp. 208)
※一般の人に最も知ってもらいたいことはこの事実かな、と思います。

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あとがき

水問題はもとより、すべての地球環境に関する課題への対応がうまくゆくかどうかは、つまるところ、われわれ人類が自然、そして自然と人間の関係についても確固たる哲学をもって、いかに深くそれを理解し、それに基づいた行動をとれるか否かにかかっている。(pp. 215)