Nature Climate Change
April 2013
Editorials
Mitigating circumstances
状況を軽減する
南アフリカ諸国が温室効果ガスを削減するためには、克服しなければならない多くの問題がある。
Climate consensus
気候のコンセンサス
人々が地球温暖化を受け入れられるかどうかは、多くのフィルター(行動規範や信念、科学的素養、マスコミ、政治家の姿勢など)によって影響される。
Commentary
Limits to adaptation
適応への限界
Kirstin Dow, Frans Berkhout, Benjamin L. Preston, Richard J. T. Klein, Guy Midgley & M. Rebecca Shaw
Market Watch
Power player
パワー・プレイヤー
「南アフリカはその経済をよりグリーンなものにしようと努力している。しかし、目標を達成し、厳しい外交に身をさらすには多くの努力が必要である」と、Anna Petherickは述べている。
Research Highlights
Caribbean renewable energy
カリブ海の再生可能エネルギー
Energy Policy http://doi.org/kq6 (2013)
多くの島嶼国が輸入した石油を用いて発電を行っている。カリブ海のBarbados島、Grenadaはカリブ海でもっとも電気代が高価であることで知られている。こうした島嶼国においていかに再生可能エネルギー(太陽熱・風力など)を根付かせるかが課題となっている。
Soil microbes find shelter
土壌微生物がシェルターを見つける
Soil Sci. Soc. Am. J. http://doi.org/kqg (2013)
アメリカの大豆畑における、CO2濃度を上昇させ、さらに降水量を減らした野外実験(free air CO2 enrichment; FACE)によって、土壌中の微生物による炭素循環がどのように変化するかを評価したところ、CO2の量はほとんど炭素・窒素量や微生物の量には影響しないが、一方で降水の影響が大きいことが分かった。生成される物質から、微生物の量が増加している可能性が指摘されている。
Arctic marine access
北極圏の海運
The Cryosphere 7, 321-332 (2013)
北極の海氷の後退とともに北極横断航路への期待が高まっている。安全に航行するためにも、地域レベルでの海氷の短期予測が必要とされている。13のモデルを用いたシミュレーションから、海氷の季節性を予測する上で必要な要因が評価された。また将来予測から、2100年には航行可能な時期が1~3ヶ月増えることが予想された。
Short-term impacts
短期間の影響
Atmos. Chem. Phys. 13, 2471-2485 (2013)
大気中の汚染物質は30年以内という短期間に気候に影響を与えるが、その影響は排出場所ごとに異なる。3つのエアロゾルと4つのオゾン前駆体を用いたシミュレーションから、前者の影響は小さいが、特に南アジアからの排出が盛んな後者の影響は大きいことが示された。また南アジアからのブラック・カーボンが北極の温暖化に与える影響が大きいことも示された。
Depleting aquifers
低下しつつある水資源
Wat. Resour. Res. http://doi.org/kq5 (2013)
中東の水資源量の低下は水管理と気候変化の2つが原因で生じている。国際河川であるチグリス・ユーフラテス川などは管理が難しい河川の一つである。GRACEによる重力変化から地下の水資源量の変化を推定したところ、2003〜2009年の間に年間27.2 ± 0.6 mmの割合で失われていることが分かった。こうしたモニタリングが観測が乏しい地域の水資源管理に有用であると思われる。
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Research
News and Views
Quantifying uncertainty on thin ice
薄い氷に対する不確実性を定量化する
R. M. Cooke
氷床が海水準の上昇に与える影響の評価はまだ不確実性が大きく、定量化されていない。J. L. Bamber et al.の解説記事。
Seeing is believing
百聞は一見に如かず
Elke U. Weber
個人的な経験の有無がアメリカ人の気候変化に対する姿勢に大きく影響していることが分かった。Teresa A. Myers et al.の解説記事。
Perspective
Global insights into water resources, climate change and governance
水資源、気候変化、管理方式の全球的な洞察
R. Quentin Grafton et al.
コロラド川・マレー川・オレンジ川・黄河の流量低下は過度な揚水が原因と考えられている。河川の健康度を維持するためにも、現在と将来の気候変化を見据えて、管理方式を迅速に変えることが必要とされている。
Review
Ground water and climate change
地下水と気候変化
Richard G. Taylor et al.
地下水は水・食料の安全性、生態系維持の観点で必要不可欠なものである。気候変化が地下水とその他の気候フィードバックに与える影響のレビュー。
Letters
Changing social contracts in climate-change adaptation
気候変化への適応における社会的な制約の変化
W. Neil Adger, Tara Quinn, Irene Lorenzoni, Conor Murphy & John Sweeney
イギリスにおいて起きた大洪水を受けてなされた調査から、「気候変化に対する個人の責任の認識」や「将来のリスク認識」が特定の社会的・政策的な背景に依存することが示された。変化し続ける気候に対して長い時間をかけて適応をするためには、「州が気候から人々を守ってくれることに対する期待」が重要であるらしい。
Your opinion on climate change might not be as common as you think
気候変化に対するあなたの意見はあなたが考えているほど常識ではないかもしれない
Z. Leviston, I. Walker & S. Morwinski
気候変化やその原因を巡る政策決定者・メディアの議論は、大多数の市民が何を考えているかを頼りにすることがよくある。新たな研究から、「人々が自分の意見が常識であると誤って考えていること」、「自らの考えをあまり変えるつもりが無いこと」が示された。また多くの人が気候変化を否定する人の数を多く見積もっていることも分かった。
Stock dynamics and emission pathways of the global aluminium cycle
全球のアルミニウム循環の在庫の動力学と排出過程
Gang Liu, Colton E. Bangs & Daniel B. Müller
「物質の需要」と「リサイクルの機会」はその物質が用いられる製品の在庫の動力学に依存する。アルミニウムの場合、ボーキサイトからのアルミ生産における新技術が排出を抑えるように働くが、在庫が生産に追いつかない場合、ゴミからのアルミ・リサイクルへと向かうことで排出が抑えられることが示された。
The relationship between personal experience and belief in the reality of global warming
地球温暖化の真実に対する信念と個人の経験との関係性
Teresa A. Myers, Edward W. Maibach, Connie Roser-Renouf, Karen Akerlof & Anthony A. Leiserowitz
2008年と2011年にアメリカにおいてなされた調査で、「気候変化を信用するかどうか」と「現実に起きている気候変化の認識」との関係性が評価された。気候変化の影響が観測されていることが人の地球温暖化に対する信用度を増し、さらに個人的な経験の有無が認識に影響することが示された。前者のプロセスは気候変動問題に直接関係していない人にほど顕著であること、後者のプロセスは気候変化の影響をある程度認識している人にほど顕著であることが示された。
Patterns in household-level engagement with climate change in Indonesia
インドネシアにおける気候変化に対する家庭レベルでの関与のパターン
Erin L. Bohensky, Alex Smajgl & Tom Brewer
発展途上国において気候変化に対する適応を達成する際には、気候変化に対する一般市民の関与は非常に重要である。インドネシアにおける研究から、「ほとんどの人々が認識していない」とする従来の推定に反して、「国民のほぼ3分の1に相当する人が気候変化のリスクを実際に観察し、認識していること」が示された。しかしながら、その課題に取り組む直接的な行動はまだ取られていない。
Global perceptions of local temperature change
地域的な気候変化の全球的な認識
Peter D. Howe, Ezra M. Markowitz, Tien Ming Lee, Chia-Ying Ko & Anthony Leiserowitz
89の国を対象にした研究から、平均気温が上昇しつつある地域に住む人々ほど、地域的な温暖化をよく認識していることが示された。また気候変化の影響に対する個人的な経験が地球温暖化の事実に対する社会の意見をシフトさせることも示された。
Assessment of the first consensus prediction on climate change
気候変化の予測に対する最初のコンセンサスの評価
David J. Frame & Dáithí A. Stone
1990年にIPCCの最初の報告書が提出され、その際になされた1990-2030年の予測の前半部分はおおむね観測された全球平均気温の変化と一致している。それは重要な外部強制力を除外するとハインドキャストにおいてうまく見られる。この研究は温室効果ガスによる温暖化が他の強制力を圧倒していると結論づけている。
Spectral biases in tree-ring climate proxies
木の年輪の気候プロキシにおけるスペクトル的なバイアス
Jörg Franke, David Frank, Christoph C. Raible, Jan Esper & Stefan Brönnimann
よりよく将来の気候変化を予測するためにもシームレスに過去と現在の気候変動を定量化する必要がある。木の年輪に大きく依存した最近の気候変動プロキシが本当に現実の気候変動を再現しているかを評価したところ、こうした記録に基づいた検出や評価が有効であるかどうかに疑問を投げかける結果となった。特に古気候プロキシには低周期のシグナルが過大評価される傾向が見られる。一方で大循環モデルはうまく再現できているという。
Management of trade-offs in geoengineering through optimal choice of non-uniform radiative forcing
非均質な放射強制力の最適な選択を通して地球工学におけるトレードオフを管理する
Douglas G. MacMartin, David W. Keith, Ben Kravitz & Ken Caldeira
太陽放射管理とその恩恵が地域ごとにどれほどが変化するかを大循環モデルを用いて評価。最適な緯度的な・季節的な太陽放射管理の方策が調査された。
Robustness and uncertainties in the new CMIP5 climate model projections
新しいCMIP5の気候モデル予測の厳密性と不確実性
Reto Knutti & Jan Sedláček
IPCC AR5に情報を提供する複雑な気候モデルの予測は、より詳細で確実な将来の予測を示してくれるものと期待されている。最新の気候モデルの予測(CMIP5)と以前のバージョン(IPCC AR4の予測)とを比較したところ、気温や降水の予測結果はそれほど大きくは違わないことが示された。気候システムの内部変動に起因する結果の散らばり(spread)はモデルを複雑化しコンピューターの処理性能が大幅に向上しても減少することは叶わず、不確実性の幅の減少でもってモデルの改善を判断するのには限界があると思われる。
Evidence of the dependence of groundwater resources on extreme rainfall in East Africa
東アフリカの地下水資源が異常降水に与える影響の証拠
Richard G. Taylor, Martin C. Todd, Lister Kongola, Louise Maurice, Emmanuel Nahozya, Hosea Sanga & Alan M. MacDonald
全球的な飲料水と灌漑用の水利用の結果、地下水位はより深くなりつつあるが、地下水は降水による補充によって賄われている。タンザニア中部における55年間にわたる地下水位のモニタリングから、季節的な降水が不均質に強化されることで補充がかなり間欠的に行われていることが示されている。モデルシミュレーションから、より強い月単位の降水は地下水の補充にとってプラスに働き、この地域の水資源の変化の適応はうまくいく可能性が高いことが示唆される。
Response of snow-dependent hydrologic extremes to continued global warming
進行し続ける地球温暖化に対する雪に依存した水循環異常の応答
Noah S. Diffenbaugh, Martin Scherer & Moetasim Ashfaq
北半球においては雪の蓄積が水利用において必要不可欠である。モデルシミュレーションからは雪が少なくなると予測されており、特に北米西部・ヨーロッパ北東部・ヒマラヤ高地がもっとも大きく減少すると予測されている。もし全球気温の上昇が産業革命以前に比べて2℃を上回るようなことがあれば、雪に水利用を依存した多くの地域において降雪量の低下のストレスがますます増加することが予想される。
The impact of global land-cover change on the terrestrial water cycle
陸上の水循環における全球的な土地被覆の変化の影響
Shannon M. Sterling, Agnès Ducharne & Jan Polcher
陸上の水循環に人類が干渉することで、洪水や干ばつといった災害に影響すると思われる。そのため、人類がどれほど影響しているかを評価し、理解することは重要である。「異なる土地被覆の蒸発散推定値」や「土地利用の変化のデータベース」を組み合わせた研究から、人類による陸上の水循環への影響が既に及んでいる範囲が示された。
Catchment productivity controls CO2 emissions from lakes
集水域の生物生産性が湖からのCO2排出をコントロールしている
Stephen C. Maberly, Philip A. Barker, Andy W. Stott & Mitzi M. De Ville
ほとんどの湖がCO2に関して放出源となっている。それは陸上で生成された有機物が分解されることでCO2が放出されるため、とこれまで考えられてきた。新たな研究から、湖のCO2はほとんどが流入河川からもたらされているものであることが示されている。従って、将来の湖からのCO2排出は集水域の生物生産性に強く依存する可能性が示唆される。
The temperature response of soil microbial efficiency and its feedback to climate
土壌微生物の効率に対する温度応答と気候に対するフィードバック
Serita D. Frey, Juhwan Lee, Jerry M. Melillo & Johan Six
陸上生物圏においては土壌が最大の有機炭素の貯蔵庫である。しかし土壌中の微生物コミュニティーが炭素を利用する際の効率を支配する要因や土壌-大気CO2交換への影響についてはよく分かっていない。長期的な野外実験から、温暖化がより安定な有機物質の腐食力学を変えることが示唆される。そのため、炭素貯蔵や究極的には気候にも影響が及ぶと思われる。
Articles
The pivotal role of perceived scientific consensus in acceptance of science
科学の支持における認識された科学的コンセンサスの必要不可欠な役割
Stephan Lewandowsky, Gilles E. Gignac & Samuel Vaughan
科学的なコンセンサスが増加しているにもかかわらず、人為起源の地球温暖化説に対する一般市民の関心は薄れつつある。「専門家のコンセンサスが人々の信用に繋がるかどうか」などについてはよく分かっていない。新たな研究から、科学的なコンセンサスが得られているという情報が人為起源の地球温暖化の支持を増すことが示された。
2020 emissions levels required to limit warming to below 2 °C
温暖化を2℃以下に抑えるために必要な2020年の排出レベル
Joeri Rogelj, David L. McCollum, Brian C. O’Neill & Keywan Riahi
2020年における排出量予測の幅が比較的大きいことが、長期的な温暖化を2℃以下に抑えるための方策がまとまらない原因となっている。例えば2020年の排出量を「41-55Gt CO2/yr」にすることの実現可能性は、「カギとなるエネルギー技術」や「エネルギー需要増加を抑えるための方策」などに大きく依存する。それを達成するために必要な科学的・社会政治的技術が不足した場合、実現可能性は狭まると思われる。2020年の排出を「41-47Gt CO2/yr」に抑えることで2℃の温暖化目標は、多くの推定の下という条件付きではあるが、達成可能かもしれず、長期的な不確実性のリスクを軽減する助けとなるかもしれない。
Comparing the effectiveness of monetary versus moral motives in environmental campaigning
環境キャンペーンにおける金銭的 v.s. 道徳的動機づけの効率の比較
J. W. Bolderdijk, L. Steg, E. S. Geller, P. K. Lehman & T. Postmes
環境キャンペーンはしばしば、環境というよりもむしろ経済に対するアピールを通してエネルギー消費の低減に繋がることがある。新たな研究はそうした悪知恵の信頼性が低いことを示し、時には生物圏を保護することに対する個人的な興味がより人の振る舞いを変化させる力があることを示す。
Changes in South Pacific rainfall bands in a warming climate
温暖化した気候における南太平洋の降水帯の変化
Matthew J. Widlansky, Axel Timmermann, Karl Stein, Shayne McGregor, Niklas Schneider, Matthew H. England, Matthieu Lengaigne & Wenju Cai
南太平洋収束帯(SPCZ)は南半球では最大の降水帯であるものの、その温暖化に対する応答はよく分かっていない。気候モデルを用いたシミュレーションから、熱帯域のSST上昇は大気中の水蒸気量と降水量を増加させるが、一方で温度の緯度方向の傾きが減少することでSPCZがより北にシフトする可能性が考えられる。76の温暖化実験から、熱帯域の1〜2℃の温暖化によってSPCZの降水が6%減少することが示唆される。3℃を上回るような温暖化の場合、SPCZはより湿潤になると考えられる。
>関連した論文
More extreme swings of the South Pacific convergence zone due to greenhouse warming
地球温暖化による南太平洋収束帯のより極端なスイング
Wenju Cai, Matthieu Lengaigne, Simon Borlace, Matthew Collins, Tim Cowan, Michael J. McPhaden, Axel Timmermann, Scott Power, Josephine Brown, Christophe Menkes, Arona Ngari, Emmanuel M. Vincent & Matthew J. Widlansky
Nature (16 Aug 2012)
南太平洋収束帯(SPCZ)は南半球において最も広大かつ持続性のある降雨帯であり、赤道西太平洋から南東方向に、フランス領ポリネシアまで広がっている。その降雨勾配が大きいため、SPCZの位置のわずかな変位が、水文気候条件や、その領域極端な気象現象の頻度に大きな変化をもたらす(例えば脆弱な島国における干ばつ・洪水・熱帯低気圧など)。SPCZの位置は、ENSOに伴って気候学的平均の位置から変動する。中程度のエルニーニョ現象が起きている場合は北方へ、ラニーニャ現象が起きている場合は南方へ数度移動する。しかし、強いエルニーニョ現象が起きると、SPCZは極端に揺れ動いて緯度にして最大10度赤道方向に移動し、崩れてより帯状の構造になり、気象に厳しい影響をもたらす。したがって、変化しつつある気候においてSPCZの特性がどう変化するかを解明することは、科学的にも社会経済的にも広く関心を集めている。本論文では、ENSOがどのように変化するかについて共通理解がなくても、地球温暖化に応答して、1891~1990年と、1991~2090年との間で、帯状のSPCZ現象の発生がほぼ倍増することを裏付ける気候モデルによる証拠を示す。我々は、結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP3とCMIP5)のマルチモデルデータベースの中の、SPCZのような現象を再現できる気候モデルを集めて、SPCZ現象の増加を見積もっている。この変化は、予測されている赤道太平洋の温暖化の強化によって生じ、帯状のSPCZ現象の影響を最も受けやすい太平洋の島国全体にわたって、極端な気象現象の発生頻度を増加させる可能性がある。
An expert judgement assessment of future sea level rise from the ice sheets
氷床による将来の海水準上昇の専門家の判断のアセスメント
J. L. Bamber & W. P. Aspinall
将来の氷床融解の海水準上昇に対する寄与の専門家の観点を評価した。「近年の氷床の振る舞いが長期的トレンド(温暖化が原因)なのか、それとも自然変動なのか」という重要な問題を巡っては、専門家の意見も非常に不確実でまだ決定的でないことが示された。