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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年5月12日日曜日

新着論文(Ngeo#May 2013)


Nature Geoscience
May 2013 - Vol 6 No 5

※下で挙げられているもの以外にも、四川地震やマントル・ダイナミクス、火山の記事などいろいろありました。

In the press
Wastewater injection cracks open quake concerns
廃液を割れ目に注入することが地震の関心を呼ぶ
Nicola Jones
オクラホマにおいて2011年に生じたM5.7の地震は、石油・ガス掘削のサイトに廃液を注入したことが原因として報告され話題を呼んでいる。廃液注入サイトから200mも離れていないところで断層が滑り、M5.7の地震およびその後の数千回の余震を誘発したと考えられている。似たような例は1966年にもロッキー山脈で確認されており、当時はM4.8の地震を誘発していたという。
>問題の論文
Potentially induced earthquakes in Oklahoma, USA: Links between wastewater injection and the 2011 Mw 5.7 earthquake sequence
引き起こされた可能性のあるアメリカ・オクラホマの地震:廃液注入と2011年のM5.7の連続地震との関連
Katie M. Keranen, Heather M. Savage, Geoffrey A. Abers and Elizabeth S. Cochran

Research Highlights
Future land-carbon loss
将来の陸上炭素の損失
J.Clim.http://doi.org/k8m(2013)
人類はすでに陸上の3分の1〜2分の1を改変したと考えられているが、それは(特に高地の)気候にも影響を与えている。CMIP5の気候モデルを用いたシミュレーションから21世紀の土地改変が気候に与える影響を評価したところ、全球スケールでの影響は小さいが、地域的には年平均気温に変化が見られる地域があることが分かった。特に表面の蒸発散やアルベドの変化が関係していると思われる。さらに熱帯域の炭素の吸収源が減少することが示唆される。

Current variations
海流の変動
Paleoceanography http://doi.org/k8n (2013)
北大西洋では西岸境界潜流(Western Boundary Undercurrent)が極域で形成された深層水を亜熱帯に運搬する役割を担っている。Blake Outer Ridgeで採取されたODPの6本の堆積物コアの「粒度」や「有孔虫の殻の壊れ方の程度」の定量分析から過去90kaの潜流の振る舞いを復元したところ、最終間氷期の終わり頃において数千年スケールの変動が見られた。その後、氷期に向かうにつれて現在とは全く異なる浅い(深さ~2km)流れとなり、北半球の氷床の成長がそうした変化の原因となったと考えられている。
>問題の論文
Abrupt changes in deep Atlantic circulation during the transition to full glacial conditions
David J.R. Thornalley, Stephen Barker, Julia Becker, Gregor Knorr, Ian R. Hall

Long-term storage
長期間の貯蔵
Nature 496, 490–493 (2013)
Cook諸島のMangaiaは20Maに形成されたが、その溶岩の硫黄同位体を分析したところ、それが少なくとも2.45Baよりも古い時代の大気においてしか生成されないはずの非質量依存同位体分別を経験していることが示された。これはマントル・プルームが古代の地殻の名残を引きずって地表にもたらした可能性を物語っている。従って、地殻はマントルの中で数億年間生き残っていることになる。
>問題の論文
Anomalous sulphur isotopes in plume lavas reveal deep mantle storage of Archaean crust
上昇する溶岩の異常な硫黄同位体がマントル深部に始生代の近くが保存されていることを示している
Rita A. Cabral, Matthew G. Jackson, Estelle F. Rose-Koga, Kenneth T. Koga, Martin J. Whitehouse, Michael A. Antonelli, James Farquhar, James M. D. Day & Erik H. Hauri
Cook諸島における玄武岩の硫黄同位体の非質量依存同位体分別(MIF)は、始生代(24億5千万年前以前)に沈み込んだ海洋地殻とリソスフェアが、ホットスポット火山の下にまだ残っていることを示唆している。「海洋地殻がリサイクルされる時間」や「マントル対流の時間スケール」を推定するのにも新たな知見が得られる可能性がある。

Snow storms on Mars
火星の雪嵐
Geophys.Res.Lett.http://dx.doi.org/10.1002/grl.50326(2013)
火星の冬には大気中の二酸化炭素が凍って雲や雪となる。東北大学の研究グループは、モデルシミュレーションによって雲の形成に惑星波動の存在が重要であることを示した。高度20kmで降る雪は極域の氷冠(ice cap)の形成にも重要であると考えられる。

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Research
News and Views
Arctic snowpack bromine release
北極の積雪の臭素放出
Jon Abbatt
雪と氷は極域の気候と大気化学に影響する。アラスカにおける野外調査から、オゾン減少イベントには地表の雪が重要であることが示唆されている。Pratt et al. の解説記事。

Antarctic response
南極の応答
Tas van Ommen
南極の気候はここ数十年の間に大きな変動を経験しているが、それが自然変動なのか、異常な長期的変化なのかはよく分かっていない。過去2,000年間をカバーするアイスコア記録から、変動の一部は近年に特徴的であることが示された。Steig et al.とAbram et al.の解説記事。

Future rise in rain inequality
雨の不均一性の将来の増加
Michela Biasutti
将来の地球温暖化とともに雨の不均質性が増加すると考えられている。モデルシミュレーションから、湿潤な地域や季節はより湿潤に、熱帯域がより温暖化するとより湿潤になることが示された。Huang et al.の解説記事。

Progress Article
Continental-scale temperature variability during the past two millennia
過去2,000年間の大陸スケールの温度変動
PAGES 2k Consortium
過去2,000年間の各大陸において得られた古気候記録をコンパイルし、それぞれの過去の気温を復元した。全体的に顕著なのは長期的な寒冷化の傾向で、それは19世紀末に終わった。数十年〜数百年という時間スケールで各大陸ごとに様々な変動が見られ、各半球では比較的一致した。数十年スケールで全球的に同期して変動する気候変動(小氷期や中世気候変調期など)は確認されなかったが、AD1580-1880は概して寒冷であったようである。AD1971-2000の近年の温暖化は長期的な寒冷化を打ち消すように寄与しており、平均気温は過去1,400年間で最も高くなっている。
[論文概説「過去2,000年間の地表気温と地球温暖化(PAGES 2k Network, 2013, Ngeo)」]


Letters
Photochemical production of molecular bromine in Arctic surface snowpacks
北極の積雪表面における臭素分子の光化学的生成
Kerri A. Pratt, Kyle D. Custard, Paul B. Shepson, Thomas A. Douglas, Denis Pöhler, Stephan General, Johannes Zielcke, William R. Simpson, Ulrich Platt, David J. Tanner, L. Gregory Huey, Mark Carlsen & Brian H. Stirm
春の訪れで北極に日が射すと、対流圏下部のオゾン濃度は劇的にほぼゼロとなる。アラスカにおける雪と海氷の観測から、雪の表面における光化学反応が反応性の大きい臭素の生成源となっており、オゾン濃度の減少に寄与していることが示唆される。

Patterns of the seasonal response of tropical rainfall to global warming
地球温暖化に対する熱帯域の降水の季節応答のパターン
Ping Huang, Shang-Ping Xie, Kaiming Hu, Gang Huang & Ronghui Huang
地球温暖化に対する熱帯域の降水の変化予測は不確実性が大きい。現在2つの観点が存在する。一つは「湿潤な地域がより湿潤になる」、もう一つは「暖かい地域がより湿潤になる」である。CMIP5に使用されている気候モデルを用いて、両方のパターンが見られることを示す。

Caribbean coral growth influenced by anthropogenic aerosol emissions
人為起源のエアロゾル排出によって影響されるカリブ海のサンゴの成長
Lester Kwiatkowski, Peter M. Cox, Theo Economou, Paul R. Halloran, Peter J. Mumby, Ben B. B. Booth, Jessica Carilli & Hector M. Guzman
サンゴの成長率は日射量や海水温によって大きく支配されるが、過去120年間にわたるカリブ海のサンゴの成長率は海水温、すなわち火山噴火や大気中のエアロゾル量によっても支配されていることが、数値モデルから示された。カリブ海の一部の地域のサンゴの成長率は温暖化でも海洋酸性化でも説明できない数十年変動を示し、火山・エアロゾルが原因と考えられる。

Influence of persistent wind scour on the surface mass balance of Antarctica
南極の表面の質量収支に対する卓越風の傷の影響
Indrani Das, Robin E. Bell, Ted A. Scambos, Michael Wolovick, Timothy T. Creyts, Michael Studinger, Nicholas Frearson, Julien P. Nicolas, Jan T. M. Lenaerts & Michiel R. van den Broeke
 南極の雪の蓄積を定量化することは、氷床の質量収支の推定やアイスコア記録の解釈にとって非常に重要である。南極全体で吹くカタバ風が傾斜をきつくし、表面の雪を削る役割を果たしている。測点は限られており、また気候モデルは空間解像度の荒いため、こうした風が与える影響はよく分かっていない。
 東南極のDome Aにおけるレーダーおよびレーザー・レーダー観測から、風の傷が多い地域を特定した。基盤岩の地形によって大きく影響されていることが分かった。また東南極に偏在していることがモデルシミュレーションから予測された。全体の2.7-6.6%が卓越風によって質量を損失していると考えられる。

Recent climate and ice-sheet changes in West Antarctica compared with the past 2,000 years
過去2000年間と比較した最近の西南極の気候と氷床の変化
Eric J. Steig, Qinghua Ding, James W. C. White, Marcel Küttel, Summer B. Rupper, Thomas A. Neumann, Peter D. Neff, Ailie J. E. Gallant, Paul A. Mayewski, Kendrick C. Taylor, Georg Hoffmann, Daniel A. Dixon, Spruce W. Schoenemann, Bradley R. Markle, Tyler J. Fudge, David P. Schneider, Andrew J. Schauer, Rebecca P. Teel, Bruce H. Vaughn, Landon Burgener, Jessica Williams & Elena Korotkikh
 ここ50年間の間、大気循環の変化が北からの暖かい水を南極の大陸棚にもたらしており、下からの棚氷の融解が起きつつある。さらに大気循環の変化は西南極の急速な温暖化を引き起こしており、Amundsen–Bellingshausen海の海氷の後退へと繋がっている。しかしそれが長期的なトレンドの一部かどうかははっきりと分かっていない。
 西南極で得られたアイスコアの最近2,000年間のδ18O観測から、ここ50年間の変化が顕著であり、気温の変化と整合的であることが分かった。気候モデルシミュレーションから、おそらく熱帯域の数十年変動がなんかしらの影響をもたらしていると思われる。

Important role for ocean warming and increased ice-shelf melt in Antarctic sea-ice expansion
南極の海氷拡大における海の温暖化と棚氷の融解量増加の重要な役割
R. Bintanja, G. J. van Oldenborgh, S. S. Drijfhout, B. Wouters & C. A. Katsman
 氷は高い反射率と熱に対する絶縁性をもつため、海氷の変化は気候にも大きな影響を及ぼす。北極は海氷が後退しているが、逆に南極周辺は拡大している。その原因は従来大気循環の変化であると考えられてきた。
 棚氷の融解が最も大きく寄与していることを観測から示す。特に表面を覆う融水が下層で棚氷を融かしている暖水(気温が極端に低いため、南極では表層水が冷たく、深層水が暖かい)との混合を遮断していると考えられる。このプロセスは気候モデルからも再現された。この負のフィードバックは南半球の温暖化を抑える働きがある。地域的には大気循環が重要だが、全体的には棚氷の融水が大きく寄与しているらしい。海氷拡大で南極の降雪量は低下し、海水準にも影響するかも?

Relative sea-level rise around East Antarctica during Oligocene glaciation
漸新世の氷河化の際の東南極周辺の相対的海水準上昇
Paolo Stocchi, Carlota Escutia, Alexander J. P. Houben, Bert L. A. Vermeersen, Peter K. Bijl, Henk Brinkhuis, Robert M. DeConto, Simone Galeotti, Sandra Passchier, David Pollard, Henk Brinkhuis, Carlota Escutia, Adam Klaus, Annick Fehr, Trevor Williams, James A. P. Bendle, Peter K. Bijl, Steven M. Bohaty, Stephanie A. Carr, Robert B. Dunbar, Jose Abel Flores, Jhon J. Gonzàlez, Travis G. Hayden, Masao Iwai, Francisco J. Jimenez-Espejo, Kota Katsuki, Gee Soo Kong, Robert M. McKay, Mutsumi Nakai, Matthew P. Olney, Sandra Passchier, Stephen F. Pekar, Jörg Pross, Christina Riesselman, Ursula Röhl, Toyosaburo Sakai, Prakash Kumar Shrivastava, Catherine E. Stickley, Saiko Sugisaki, Lisa Tauxe, Shouting Tuo, Tina van de Flierdt, Kevin Welsh & Masako Yamane
漸新世の中期から後期にかけて(48-34Ma)地球は寒冷化し、南極に氷床が発達し始めたことが知られている。氷床発達とともに南極大陸を中心に地殻変形と重力異常が生じ、氷床の近くでは、全球的な海水準の低下に対して(海水が淡水として陸に固定されるため)相対的に海水準が上昇した。glacial-hydro isostatic adjustmentモデルと氷床モデルから地殻の変動を定量化。

Article
Acceleration of snow melt in an Antarctic Peninsula ice core during the twentieth century
南極半島のアイスコアから復元される20世紀の雪の融解の加速
Nerilie J. Abram, Robert Mulvaney, Eric W. Wolff, Jack Triest, Sepp Kipfstuhl, Luke D. Trusel, Françoise Vimeux, Louise Fleet & Carol Arrowsmith
ここ50年間、南極半島は温暖化しており、それに伴い氷河流出と棚氷の後退・崩壊が加速している。おそらく夏の融解が原因と考えられているものの、よく分かっていない。James Ross島から得られたアイスコアから、過去1,000年間の融解の歴史と気温(δD)を復元。AD1400年代以降、急速に融解量が増えていたが、顕著な融解は20世紀中頃に入ってからであることが分かった。夏の融解は過去1,000年間で例のないものである。南極半島の氷は、小さな気温増加に大きく反応する融解量の増加に対して脆弱であると考えられる。