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2013年3月10日日曜日

「グリーン経済最前線」(井田徹治&末吉竹二郎、2012年)

グリーン経済最前線
井田徹治、末吉竹二郎
岩波新書、2012年5月発行
¥760-

著者は共同通信社編集委員の井田徹治 氏と国連環境計画金融イニシアチブ特別顧問の末吉竹二郎 氏。

世界各地の「グリーン経済」に向けての取り組みの紹介と、日本の低炭素社会実現に向けての取り組みがあまりに遅れていることが国際的な立場をも危うくしていることを警告。

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世界はグリーン経済に向けて既に動き始めている。日本は国際的な潮流の中で大幅な後れを取っている。

日本にいるとなかなか気づきにくいのだが、グリーン経済の実現に向けた歩みはすでにさまざまな国で本格化し、国連や多くの国際会議の主要テーマとされるまでになってきた。(pp. ⅵ)

CO2を多く排出する発展途上国である中国・インドですら、その裏では低炭素社会・持続可能な社会の構築に向けた試みが急速に進行しているという(風力・太陽光発電の促進など)。
※ただし、依然として世界のエネルギー生産の大部分は化石燃料の燃焼によって賄われており、結果生じたCO2は大気中へと自由に放出されている。
さらに炭素捕獲・貯留技術が応用されている火力発電所は一基もないという現実がある。
>Nature Climate Change (Dec 2012)のPerspective
Last chance for carbon capture and storage
炭素捕獲・貯留の最後のチャンス

Vivian Scott, Stuart Gilfillan, Nils Markusson, Hannah Chalmers & R. Stuart Haszeldine

世界各地のグリーン経済への進展の紹介は、世界が着実に環境志向の、より持続性のある社会へ向けて歩みだしていることを実感させてくれるとともに、
逆に日本の取り組みの遅さ、足りなさ、排出削減外交における発言力の無さ・無知さ・支離滅裂さをも浮き彫りにしている。

福島第一原発の事故が様々な問題を提起したことは間違いない。
放射能の危険性ばかりが取り上げられがちであるが、その背後には小資源国日本のエネルギー問題気候変動緩和問題今後の経済発展の方向性に関する問題までも潜んでいることを忘れてはならない。

僕自身は福島第一原発の事故とともに全国に広がった原発に対する反対運動に対して苦言を呈する気はないし、それが長期間持続可能であるとも思っていない(核燃料も枯渇性の資源のため)。
原発の立地が問題になること、数万年間にわたって負担となる廃棄物の問題があることなど、かねてからあった問題が事故で改めて浮き彫りになっただけにすぎないと考えている。
(地震・断層・津波大国の島弧・日本に長期間安定した土地などもとより存在しない。それは炭素捕獲・貯留の候補地についても同じことがいえる。海底を除いては。)

筆者らが主張するように、

化石燃料に代表される天然資源を大量に消費し、二酸化炭素を含めて大量の廃棄物を環境中に廃棄する経済、農林水産業を犠牲にし、エネルギー多消費型の工業の効率化を追求する経済、エネルギー消費の拡大によってしか人間の幸福の向上はありえないという経済や社会を根本的に改めることなしに、原子力事故とエネルギー不足という二つのリスクをともに低減させることは困難だ。(pp. ⅳ)

そうした方向へ人々の目が向くことが理想であるのは間違いない。

しかし、実際には、
事故を受けて慌てふためいて原発を矢継ぎ早に停止し、結果として強制的な節電を強いられた夏を経験し、
原発停止を受けて火力発電のウエイトをますます増やし、一方で再生可能エネルギーの開発にはたいした成果を上げておらず、
京都議定書で宣言した温室効果ガス削減目標もいつの間には破り捨て、さも存在しなかったかのように振る舞い、
採算が取れるかどうかも怪しいメタンハイドレートやシェールガス(より’クリーン’な化石燃料)の国内採掘に過度な期待を寄せて、相変わらずの化石燃料の大量燃焼に支えられた経済(’ブラウン経済’)が今後も続くと勘違いしているのが日本の本来の姿だ。

特に温暖化をはじめとする種々の気候変動問題に対する日本人の意識の低さは世界においても群を抜いていると思う。
一つには日本におけるそれが他国のそれに比べて今のところ大きくないことが原因であるかもしれない。何か具体的な痛い目を見るまで、日本人の心は変わらないかもしれない。

ただ、多くの人が指摘するように、視点を少し長期化するだけでまったく違う描像が見えてくるはずである。
将来のリスクに備えて初期投資を行うのが適切なリスクマネージメントであるはず。

地球温暖化・海洋酸性化をはじめとする国際的な環境問題・福島第一原発の事故・熱帯雨林の破壊・漁業資源の枯渇・生物多様性の消失など、
さまざまな問題に共通するのは、

「短期的な見通しに立った持続不可能な経済発展の方法の矛盾点を浮き彫りにしたこと」

「より持続性のある社会・経済の構築が必要不可欠だということ」
だ。

日本も、低炭素社会の実現に向けて歩みを早めなければ、国際的な立場も危うくなるだけでなく、国民の腹も満足に満たせぬほどの貧乏国へと落ち込んでしまう可能性だって十分にある。

いま、日本は分水嶺に立っている。道を踏み誤れば深い谷底に落ち込み、再び世界に名を成すことはなくなるかもしれない。しかし賢明な一歩を踏み出せば、21世紀の国家モデルになる可能性も残っている。(pp. 212)

もちろん日本が方針を変えたからといってすぐに地球温暖化・海洋酸性化が止まることはない。
先進国だけでなく、これから経済発展を遂げる途上国・新興国が重要であることは言うまでもない。

一つ重要なのは、世界が足並みを揃えて行動しないことには、この人類史上もっとも大きな地球環境問題は準安定状態へと向かうことはなく、暴走温暖化状態(或いは別の気候シフト)へ向かうということである。