最終退氷期の大気中のCO2濃度と南極気温との同時変化
F. Parrenin, V. Masson-Delmotte, P. Köhler, D. Raynaud, D. Paillard, J. Schwander, C. Barbante, A. Landais, A. Wegner, and J. Jouzel
Science 339 (1 March 2013)
とその解説記事
Leads and Lags at the End of the Last Ice Age
最終氷期の終わりのリードとラグ
Edward J. Brook
より。
最終退氷期に「南極の気温上昇と大気中CO2濃度上昇の間の時間的なラグがあるかどうか」の問題について。
最終退氷期には南極の気温指標であるδDと大気中CO2濃度とが’ほぼ同時に’変動していたことが知られています。
共にアイスコアから得られた指標であるものの、2つの指標の持つ年代が異なることが両者の関係性を不透明なものとしています。
アイスコアの年代モデル構築の難しさについては以前触れたので、今回は省略させていただきますが、
>拙ブログ記事
アイスコアの年代モデルとpCO2上昇のタイミング
ハインリッヒイベント時の大気中CO2上昇の謎〜アイスコアからのアプローチ
例えば、Pedro et al. (2012, CP)ではCO2が気温に'400年遅れ'ていることが示唆されていました。
>論文
J. B. Pedro, S. O. Rasmussen, and T. D. van Ommen
Clim. Past, 8, 1213–1221, 2012
今回、ParreninらはPedro et al. (2012, CP)とは全く異なるガス年代モデルを構築し、リード・ラグ関係の再検討を行いました。
年代モデル構築時の問題点とその解決策については以下のように記述されています。
(1)氷の間隙のガス捕獲は50 - 120 mほどの深さ(フィルンの最下部)で起き、それは場所ごとに異なる
→δ15Nと氷床モデリングを組み合わせることで解決
(2)1本のアイスコアからだけでは気温を正確に復元することは難しい
→5本のアイスコアをスタックすることでより信頼性の高い指標に
それらを仮定してもなお立ちふさがる問題が、Convective Zoneと呼ばれる、雪の中で自由に空気が混合する層の存在です。
Taylor Domeでは存在しないことが現在は確認されているものの、過去においてもそうであったかの仮定が大きな不確実性を生んでしまうわけです。
例えば、風が強く、降雪量が小さい地域ではConvective Zoneは20 mもの厚さを持つことが知られているそう。
それを解決するために、以下の2通りの方法でさらに年代モデルを制約しています。
(1)他のアイスコアとメタンでガス年代を繋ぎ(YD, B/A, early Holoceneの急激な変動を利用)、火山灰で氷年代を繋ぐ
(2)バイ・ポーラー・シーソー(南北量半球の熱分配)に時間的なラグがないことを仮定して、グリーンランドと南極のアイスコアの気温指標を繋ぐ
それにより、δ15Nがガス年代モデルの構築に有効であることを確認しています。
(※何故δ15Nが使えるかの詳細は不勉強のため不明)
こうして得られた年代モデルをもとに気温指標とCO2との比較を行ってみると、極めて相関が良い(R2=0.993)ことが示されました。
さらに重要な気候変動が起きていた時期に着目し、詳細な比較を行っています。
- 最終退氷期の始まり(CO2が10 ± 160年先行)
- B/Aの始まり(気温が260 ± 130年先行)
- YDの始まり(CO2が60 ± 120年先行)
- Holoceneの始まり(気温が500 ± 90年先行)
B/AとHoloceneの始まりでは気温が先行していることが示唆されたものの、この時期大気中のCO2濃度が急速に変化しており、拡散のせいでアイスコアに保存されている記録が現実の変化を捕えられていない可能性が指摘されています(例えば、Kohler et al., 2011)。
>論文
Abrupt rise in atmospheric CO2 at the onset of the Bølling/Allerød: in-situ ice core data versus true atmospheric signals
P. Kohler, G. Knorr, D. Buiron, A. Lourantou, and J. Chappellaz
Clim. Past, 7, 473–486, 2011
P. Kohler, G. Knorr, D. Buiron, A. Lourantou, and J. Chappellaz
Clim. Past, 7, 473–486, 2011
それを考慮すると、それぞれ気温が「10 ± 130」、「130 ± 90」年先行と数字が見直され、有意に先行していないことになります。
つまり、統計的には’同時’と見なされることになります。
他のターミネーション(特にⅡとⅢ)とも比較したいところですが、年代モデル構築に依然として不確実性が大きく、詳細な比較はまだできていないようです。
アイスコアの年代モデルが変わるだけで、その他の多くの古気候研究に大きな影響を及ぼします。
僕自身ほとんど詳しくはありませんが、注視しなければならない話題の一つと言えます。