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2013年3月10日日曜日

気になった一文集(日本語 ver. No. 9)

グリーン経済最前線
井田徹治、末吉竹二郎
岩波新書、2012年5月発行
¥760-


福島原発事故のきっかけの一つとなった送配電設備の倒壊による外部電源の喪失は、地震だけでなく暴風雨や山崩れなどの気象災害でも起こりうることを考えれば、温暖化の進行が原発にとって大きなリスクとなることは容易に想像できる。(pp. ⅱ)

逆に原子力のリスクが、化石燃料のリスクを拡大させることもある。原発へ過度に依存し続け、再生可能エネルギーの開発や省エネルギーをおろそかにしてきた日本の場合、原発の停止によって引き起こされる電力の供給不足をカバーするには、化石燃料に依存するしかない。その結果、二酸化炭素排出量は増加し、かつ化石燃料価格の高騰のために海外に大量の「国富」が流出することになる。(pp. ⅲ)

脱原発の可否、電力不足解消のために停止中の原発を再稼働させるか否かなど、事故後に起こったさまざまな議論の中でともすれば忘れられがちだった重要な論点は、現在の経済や社会の姿を根本的に改変しないかぎり、この二つのリスクを同時に低減させることはできないという点であるように思う。(pp. ⅳ)

化石燃料に代表される天然資源を大量に消費し、二酸化炭素を含めて大量の廃棄物を環境中に廃棄する経済、農林水産業を犠牲にし、エネルギー多消費型の工業の効率化を追求する経済、エネルギー消費の拡大によってしか人間の幸福の向上はありえないという経済や社会を根本的に改めることなしに、原子力事故とエネルギー不足という二つのリスクをともに低減させることは困難だ。(pp. ⅳ)

日本にいるとなかなか気づきにくいのだが、グリーン経済の実現に向けた歩みはすでにさまざまな国で本格化し、国連や多くの国際会議の主要テーマとされるまでになってきた。(pp. ⅵ)

米軍が脱化石燃料技術の開発に熱心なのは、海外の石油依存からの脱却が国家の安全保障にとって重要だとの判断に基づくもので、その結果もたらされる二酸化炭素排出削減は副次的なものでしかない。(pp. 4)

資源管理や環境保全に配慮せずに漁獲された魚は、配慮して漁獲された魚に比べて安い価格で市場に流通する。こうして世界各地で規制を無視した漁業が進んだ結果、世界の漁業資源の枯渇は「危機的」と言われるまでに進んでしまった。(pp. 7)

エコ認証が広がる背景にあるのは、森林破壊や漁業資源の乱獲問題を重視し、それに加担する企業を厳しく批判する環境保護団体の活動と、自らの消費行動が地球環境に与える影響に関心をもち、それを可能なかぎり少なくしていこうとする「グリーンな消費者」がヨーロッパを中心に急増しているという状況だ。(pp. 9)

地球温暖化が提起するのは、「正義」や「公正」「地域間の公平」、さらには「世代間の公平」という問題である。(pp. 22)

地球温暖化は国土の消失や異常気象、土地の劣化、水資源不足の原因となり、大量の「環境難民」を生み出すと心配されている。(pp. 25)

生物の「大絶滅時代」は地球の歴史の中で過去5回あったというが、現在は史上6回目の大量絶滅時代だと言われている。だが、第6の大絶滅は、それが人間というたった一種の動物の活動によって地球規模で引き起こされていること、その速度が自然で起こる絶滅の100〜1000倍と速いことなどの点において、過去5回の大絶滅とは大きく異なり、深刻度はさらに高いとされている。(pp. 28)

経済の規模が大きくなるとともに、その負の影響も大きくなり、それが経済成長自体を脅かすまでになってきたのが21世紀の姿である。(pp. 30)

世界の人々の暮らしを支えるのに地球一個ではすでに足りなくなり、1.3個分が必要なレベルにまで人間活動による環境影響は大きくなっている。(pp. 31)

日本人のフットプリントは世界平均よりもかなり大きく、もし世界中の人々が日本人と同じ暮らしをしようとすれば地球が2.3個いる。(pp. 31)

地球環境や生物多様性の視点で見れば、20世紀の経済はその成長の実現方法において、明らかに失敗したのである。環境問題の研究者や環境保護団体は、破局到来の前に一刻も早く、現在のライフスタイルの基礎となっている経済の姿を抜本的に改める必要性を強調している。グリーン経済への転換の実現は実は時間との競争でもあるのだ。(pp. 32)

産業活動の結果として出てくる二酸化炭素は単に大気中に出してしまえばそれで終わりだった。だが、いまや企業は「二酸化炭素の排出はコストである」という価値観への転換を迫られている。(pp. 37)

「中国の発展の方向は明らかに間違っていた。気がついたら環境汚染は深刻化し、中国にとって大きな負担となりつつある。経済の構造を変え、グリーンなものにすることでしか中国や世界の貧困解消は実現できない」(pp. 50)
2010年12月、沙祖康国連事務次長の発言

多くの先進国では、地域的な公害問題への対応と、オゾン層破壊や地球温暖化などへの対応を迫られた時期には数十年の時間差があった。しかし中国は、国内、各地域の汚染問題への対応と地球環境問題への対応とを同時に迫られている。(pp. 54)

石炭利用に加えて、二酸化炭素排出源となるセメント生産量でも世界最大である中国は、文句なく世界最大の二酸化炭素排出国である。(pp. 66)

中国の動向は必ずしも明確ではないが、世界最大のグリーン経済関連市場が中国に生まれようとしていること、中国のグリーン経済に向けた変革の成否が、世界のグリーン経済に向けた歩みに大きな影響を与えることは明らかだ。(pp. 69)

対照的なのが日本である。日本では人口減少の中、過去20年ほどの間、経済はほとんど成長していないのにもかかわらず、エネルギー消費量や温室効果ガスの排出量だけが増えてきた。(pp. 81)

これまでの経済と社会の姿を根本から変え、自然の力やそこから得られる利益に基づき、温室効果ガスの排出量も少ない社会と経済をつくるのだというアフリカの小さな国の姿勢は、参加各国から大きな賞賛を浴びた。(pp. 123)
自然を破壊することの損失よりも、自然から得られる利益に目を向けたルワンダ。

森林や生物多様性が豊かな場所でも、その価値がきちんと評価され、それを守った者に適切な対価が払われるという新たな経済的なメカニズムを創設しないかぎり、なかなか保護は進まない。(pp. 138)

「現在、25億の人が1日2ドル以下の収入で生活し、2050年までに世界の人口は20億人以上増える。経済を発展させ、成長させ続けなければならないことは明白だ。だがこの発展は、われわれの経済を成り立たせている陸地や海、大気という、生命を支えるシステムを犠牲にして可能になるものではない。」(pp. 156)
2011年2月、国連環境計画の事務局長アキム・シュタイナーの言葉。

将来には気候変動の影響は顕在化し、化石燃料価格は高騰、水不足も深刻化して、90億人と予想される世界人口に十分な食料を行き渡らせるとこはほぼ不可能となる。「失業や経済の不安定、貧困などの社会問題が引き続いて発生し、われわれの社会の安定を脅かすだろう」(pp. 158)

廃棄物の焼却や腐敗によって放出される二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの量は、世界の総排出量の5%を占めており、廃棄物に含まれる鉛や水銀、有害化学物質による環境汚染や健康被害も深刻化している。(pp. 171)

「グリーン経済は成長や繁栄を止めてしまうようなものではなく、心の富といえるものを築くことだ。つまり、投資を単に自然資源を掘り起こすことよりも再利用に向け、少数の人々の利益よりも多数の人々の利益を実現するのである。健全で恵みにあふれた地球をこれから生まれてくる世代に受け継ぐために、すべての国のいまの世代が責任を認識しなければならない」(pp. 176)
ドイツ銀行 パバン・スクデフ

「皆さん、気がついていますか。地球の将来は皆さんの手の内にあることを。なぜならば、皆さんが投資方針を変えないかぎり企業は二酸化炭素を減らそうとしないからです。皆さんは企業に二酸化炭素の削減を求めないまま投資をし続けてきました。このままでは地球温暖化は進む一方です。ぜひ、その投資判断の基準を見直し、環境に取り組む企業をもっと支援して欲しいのです」(pp. 187)
国連 アナン事務総長

温室効果ガス排出削減に対する姿勢が国の国際的な信用度にまで影響を与え、国際社会での発言力にまで影響するというのが21世紀の現実である。(pp. 205)

日本が国家戦略の構築に後れを取るならば、21世紀の「負け組」になってしまうであろう。その兆しはすでに見え始めている。(pp. 206)

この10〜15年ほどの間、日本の省エネや経済の低炭素化は停滞している。特に、国家戦略として低炭素化を急速に進めているヨーロッパの一部の国とは大きな違いが生じてきている。(pp. 208)

日本人一人当たりの排出量は、1980年7.82トン、1990年8.9トン、2009年9.56トンと一貫して増え続け、2005年には9.77トンに達している。(PP. 209)

日本はこの間、経済のグリーン化を目指した国家戦略を取ることなく、原発と火力発電所を重視するというブラウン経済の延命を図るようなエネルギー政策に固執し続けた。進まない日本国内の低炭素化の実態と、COP17で日本の消極的な姿勢とを重ね合わせて見る人は少なくないはずだ。(pp. 210)

そのために何より必要なことは、低炭素・省資源のグリーン経済への構造転換の取り組みを加速させることである。二酸化炭素排出の大幅な削減、地域分散型の再生可能エネルギーシステムの拡大、森林の保護と適切な利用、乱獲が深刻な漁業の改革、低炭素な公共交通システムに支えられた新たな都市づくり、天然資源の投入量を可能なかぎり減らし、リサイクルを基礎にした生産システム、国内に大量に存在する古く、省エネ性能の悪い建築物の大幅な省エネ改修など、具体的に取り組むべき課題はこれまで述べてきた通りである。(pp. 211)

いま、日本は分水嶺に立っている。道を踏み誤れば深い谷底に落ち込み、再び世界に名を成すことはなくなるかもしれない。しかし賢明な一歩を踏み出せば、21世紀の国家モデルになる可能性も残っている。(pp. 212)

「日本の省エネ水準は世界一」「エネルギー効率がいい日本の鉄鋼生産技術を各国が導入すれば、二酸化炭素の大幅な排出削減につながる」といった空虚な言説を繰り返すうちに、日本は省エネ水準で多くのヨーロッパ諸国に抜かれ、世界的に急伸する再生可能エネルギー・ビジネスで負け組となりつつある。ついには、自国の都市での会議でキー・プレーヤーの一角としてまとめた地球温暖化防止のための京都議定書をも、いとも簡単に捨て去ってしまった。その一方で、森林をはじめとする日本の生態系の破壊や劣化が進み、適切な資源管理がなされぬまま、沿岸の漁業資源の減少も深刻化した。(pp. 213)

原発事故が日本人に教えたことは、短期的な利益の追求に必死になって巨大なリスクに目をつぶる愚かさ、社会と経済における持続可能性という規範の大切さだったはずだ。自然資本を軽視し、地球環境の限界を無視した従来通りのやり方は、もはや立ち行かないという事実をすべての人が心に刻み、痛みを伴う改革に踏み出さないかぎり、日本はグリーン経済に向けた世界の流れの中に巻き込まれ、翻弄されるだけの存在になってしまうだろう。(pp. 214)

日本を除く世界はすでに、農耕の開始、18世紀産業革命、IT革命に続く第四の革命と呼ばれる「環境革命」に突入した。その流れは3.11以降も何の変化もない。それどころか一層加速しつつある。グリーン経済への移行は待ったなしである。これは21世紀の国家覇権をかけた新しい国際競争である。(pp. 215)