北極圏のサイエンス〜オーロラ、地球温暖化の謎にせまる
赤祖父 俊一
誠文堂 新光社 2006年12月
著者はアラスカ大学名誉教授の赤祖父俊一 氏。
オーロラの専門家で、地球温暖化をはじめとする環境問題は日頃耳にしていたような事実をもとに記述している感が否めない。
人名を検索した際に、温暖化懐疑派として名を連ねていて驚いた。読んでみて納得。
北極圏ほど、地球温暖化が増幅され、顕著に見られる地域である。それは’アイス・アルベド・フィードバック’によるところが大きい。
著者が現役だった頃、アラスカでは顕著な温暖化は確認されていなかった。
さらにマスコミ等でさかんに氷河の後退・崩壊など、馴染み深い地域の科学が歪められて取り上げられていたことに強い反感を抱いたのだろう。地球温暖化問題は統計的にも、物理的にもまだ十分な確証が得られていなかったため、一貫して懐疑的な立場を取っていたようだ(というよりはエセ科学全般に対して)。
温度上昇が単に氷河を融解させるという理解は危険であり、あまりに短絡的だと指摘している。
その姿勢自体、なんら間違っていないし、僕ら若手もその姿勢から学ばなければならない。
もしかすると地球を分かった気でいる気候学者こそが間違っていることがいつの日か示される可能性だってある。
結局そのときにならなければ結果が分からないことが多いのが地球科学である。
時代背景は人の考え方に大きく影響する。
僕らはまさに気候変動の最中にいて、日々気候変動に関するニュースを目にする(マスコミが取り上げることはなくても、インターネットを探せば腐る程出てくる)。
一方、1980年代頃にはまだ温暖化が顕在化しておらず、自然変動と区別することが難しい段階にあった。
現在、温暖化に懐疑的な立場の論文が気候変動関連の話題を扱う科学雑誌に載ることは非常に稀だ。ある意味でそれは偏りが大きく危険なことであると、常に肝に銘じる必要がありそうだ。。
温暖化よりも寒冷化のほうが重大だという指摘は基本的には正しい。生物の代謝は往々にして温度が高いほど活発化する。植物・植物プランクトンの中には高いCO2濃度を好むものもいる。
筆者に一つ欠落している視点があれるとすれば、それは’変化の速度’に対する視点だろう。背景が地質学でないので、進化・淘汰・絶滅・適応といった生態系における時間的概念をあまりに軽視していると考えられる。
さらに、ヒトは300万年前に誕生して以来、何度も氷期-間氷期を体験してきたし…という記述も見られる。原始人と現代人にとっての気候変動の意味を同等に考えることは適切ではない。
また温暖化により北極圏の航路やこれまで手の届かなかった資源が出てくるのは事実だ。これを受けて筆者は温暖化にあまりに悲観的になるべきでないと指摘するが、これは新たな国際問題の種になる感が否めない。
また、いずれ次の氷期が来るのだから…という記述も目立つ。おおよそ政策決定者や現在地上に暮らす人にとっての関心は、せいぜい100年ほど先までに限定されると考えたほうが良い。あまりに先のことを心配するのは科学者かSF作家くらいである。
本は高校生以下を主たる対象にしており、しかも1冊の本のために執筆したのではなく、これまでにコラムなどに掲載した記事をコンパイルしたような物になっているため、繰り返される文章が多く、やや冗長に感じる。
しかしその分、平易な文章で「北極圏の暮らし」や「北極圏の一般的な気候」、「これまでの北極探検史」などが記述されているため、教科書としてでなく、軽い読み物として推奨する。
気になった文言等はこちらにまとめた。