Science
VOL 339, ISSUE 6127, PAGES 1477-1648 (29 MARCH 2013)
Editors' Choice
Explaining Rapid Climate Fluctuations
急激な気候の振動を説明する
Paleoceanography 10.1029/2012PA002364 (2013)
氷期に起きたダンシュガード・オシュガー・サイクルはおおよそ1,000年間継続した急激な気候の温暖化(亜氷期;interstadialと表現される)を指す。しかしそのメカニズムについてはいくつか仮説が提唱されているものの、完全には理解されていない。そのノコギリ状の気候変動(急激な温暖化と、その後の緩やかな戻り)を説明する新たな仮説として、「北極海の海氷と棚氷の相互作用」が提唱された。薄い海氷は急速に応答するが、一方棚氷はゆっくりと応答する、という知見に基づいている。
>問題の論文
A new mechanism for Dansgaard-Oeschger cycles
S. V. Petersen, D. P. Schrag, P. U. Clark
北半球高緯度域で顕著に確認されるDOサイクル(氷期に急速な温暖化とゆるやかな寒冷化が何度も繰り返されたこと)を説明する新たな仮説を提唱。棚氷と海氷の変動がDOサイクルの遅い・早い変動において重要であると考えられる。この仮説は北大西洋とNordic Seaの間接指標によって支持される。
Fine-Tuning a Tart Grape
すっぱいブドウを良く調整する
Plant J. 73, 1006 (2013).
ワインは様々な香りが複雑にブレンドされたものであるが、その中にはブドウの酸味に起因する香りもある。ブドウの酸味はカリウムの濃度に依存し、ブドウが熟れ、糖度が増すとともにカリウムの濃度も増す。しかし、ブドウにおけるカリウムの挙動はよく分かっていない。カリウム・チャネルにはVvK1.2と呼ばれる遺伝子が大きく関与しており、「ブドウの熟成」や「乾燥化ストレス下」においてこの遺伝子がよく発現することが示された。カリウム濃度やVvK1.2をうまくコントロールすることがいいブドウ作りの鍵になる?
News of the Week
German Scientists Pull Out Of Oil Sands Project
ドイツの科学者が石油砂プロジェクトから手を引く
Albertaの石油砂の採掘によって引き起こされる環境への影響を最低限にしようという目的で、カナダとの共同研究からドイツは手を引いた。その背景にはEU内で汚染が大きい石油の使用を禁じる動きがある。ドイツはイギリスとともにこれまで反対を押し切ってきたが、近年ますますAlbertaの石油を輸入することに対して反感が高まっている。
>より詳細な記事(OPEN)
German Researchers Withdraw From Canadian Oil Sands Project
ドイツの研究者がカナダの石油砂プロジェクトから手を引く
Jennifer Carpenter and Gretchen Vogel
Japan Reports Rare Find Of Rare Earths
日本がレアアースの珍しい発見を報告
日本は先週、南鳥島の近くの深海底堆積物に高濃度のレアアースが含まれていることを公表した。レアアースは多くの電子製品において重要な原料となっており、現在世界生産の95%は中国が握っており、他の先進国は新たな資源を追い求めている。その濃度は6,500ppmと中国の陸地や他の太平洋地域のものと比べるとはるかに高濃度だが、5,800mもの深海に存在するため、経済的に採掘可能かどうかが今後の焦点となる。
News & Analysis
A Midcourse Correction For U.S. Missile Defense System
アメリカのミサイル防衛システムの中間軌道修正
Eliot Marshall
アメリカ国防省は国内のミサイル防衛システムをさらに強化し、議論を呼んでいる迎撃機計画を事実上終わらせる、という驚くべき公表を行った。
Universe's High-Def Baby Picture Confirms Standard Theory
宇宙の子供の高解像度画像が基本的な理論を確証する
Adrian Cho
宇宙がどのように生まれ、そしてそれは何でできていたのか、についての理論的な基本モデルがデータによって裏付けられた。しかし、未だ多くの謎が残されている。
News Focus
Decade of the Monster
モンスターの10周年記念
Ron Cowen
重力降下するガス雲の存在と新たなプローブから、天の川銀河の中心に存在する超巨大ブラックホールが近くお披露目されそうである。
As Threats to Corals Grow, Hints of Resilience Emerge
サンゴの成長の脅威とともに、耐性へのヒントが現れる
Charles Schmidt
サンゴ礁の中にはダメージを耐えたり、回復したりするのに驚くべき能力を発揮するものもいる。そうした耐性は急速に変化する海洋環境においてサンゴが生き残る手助けとなるだろうか?
Letters
Misuse of Scientific Data in Wolf Policy
オオカミ保護政策における科学データの濫用
Guillaume Chapron, José Vicente López-Bao, Petter Kjellander, and Jens Karlsson
科学的な知見は必ずしも生物多様性の保全・保護の役に立たない。スウェーデンのオオカミの例の紹介。
Biodiversity Depends on Logging Recovery Time
生物多様性は木の伐採から回復する時間に依存する
Fernanda Michalski and Carlos A. Peres
「適切な管理の下では木の伐採によっても生物多様性はもとと同じほど維持される」とするD. P. EdwardsとW. F. Lauranceの主張は、「森林が伐採後、長い時間をかけて元のレベルに戻るかどうか」という問題を低く評価している。
>問題になっている記事
Biodiversity Despite Selective Logging
選択的な伐採にも負けない生物多様性
David P. Edwards and William F. Laurance
熱帯雨林は生物多様性を育む場所であるが、急速にその範囲が縮小しつつある。それに伴って生じる切り開かれた森林(logged forest)は短期的には手つかずの熱帯雨林と同程度の炭素保有力や生物多様性があるため、保護政策の対象として認識すべきである。ただし、それらは砂漠化や森林火災の誘因にもなるため、さらなる拡大は当然ながら防ぐべきである。
Comment on “Nuclear Genomic Sequences Reveal that Polar Bears Are an Old and Distinct Bear Lineage”
”シロクマは遠くはなれた熊の親戚であることを核遺伝子シーケンスが明らかにする”に対するコメント
Shigeki Nakagome, Shuhei Mano, Masami Hasegawa
Response to Comment on “Nuclear Genomic Sequences Reveal that Polar Bears Are an Old and Distinct Bear Lineage”
Frank Hailer, Verena E. Kutschera, Björn M. Hallström, Steven R. Fain, Jennifer A. Leonard, Ulfur Arnason, Axel Janke
コメントに対する応答
Policy Forum
Measuring China's Circular Economy
中国の循環的な経済を推し量る
Yong Geng, Joseph Sarkis, Sergio Ulgiati, and Pan Zhang
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Research
Perspectives
Fungal Carbon Sequestration
真菌類の炭素蓄積
Kathleen K. Treseder and Sandra R. Holden
植物の根につく菌根菌が土壌中の炭素貯蔵に寄与しているかもしれない。
The Global Plight of Pollinators
全球的な花粉運搬者の窮状
Jason M. Tylianakis
全球的に花粉運搬者が減少しつつある。そしてミツバチを管理してもその減少に歯止めがかからない。
Toward a Green Internet
グリーン・インターネットに向けて
Diego Reforgiato Recupero
増加し続けるインターネット利用需要に応えるためにも、エネルギーを効果的に節約する方法が必要とされている。
Research Articles
Dust and Biological Aerosols from the Sahara and Asia Influence Precipitation in the Western U.S.
サハラとアジアのダストと生物源エアロゾルがアメリカ西部の降水に影響する
Jessie M. Creamean, Kaitlyn J. Suski, Daniel Rosenfeld, Alberto Cazorla, Paul J. DeMott, Ryan C. Sullivan, Allen B. White, F. Martin Ralph, Patrick Minnis, Jennifer M. Comstock, Jason M. Tomlinson, and Kimberly A. Prather
カリフォルニア州シエラネバダにおいては冬の低気圧が山岳地帯に雪を降らせ、その雪解け水が年間の水資源をまかなっているため、この地域の降水メカニズムは何十年も研究されてきた。アジアから飛来するダストが雲の形成と降水に重要であることは示唆されていたが、新たに遠く離れたサハラを起源とするような生物源エアロゾルも凝結核として重要であることが示された。
Reports
Direct Observations of the Evolution of Polar Cap Ionization Patches
Qing-He Zhang, Bei-Chen Zhang, Michael Lockwood, Hong-Qiao Hu, Jøran Moen, J. Michael Ruohoniemi, Evan G. Thomas, Shun-Rong Zhang, Hui-Gen Yang, Rui-Yuan Liu, Kathryn A. McWilliams, and Joseph B. H. Baker
太陽バーストの際には磁気嵐の引き起こす電波障害により高周波コミュニケーションやレーダー、人工衛星ナビゲーションシステムに悪影響が起きる。しかしその電離圏への擾乱メカニズムについてはよく分かっていない。磁気嵐の際に確認されるパッチの時間進化を直接観測し、そのメカニズムを考察。
Wild Pollinators Enhance Fruit Set of Crops Regardless of Honey Bee Abundance
野生の受粉者がミツバチの豊富さ抜きに作物の実の成りを強化する
Lucas A. Garibaldi et al.
世界中の41の作物の調査から、野生の昆虫が花を訪れることで実の生産が強化されていることが示された。そのうちミツバチの影響はわずか14%にすぎず、副次的なものであることが示された。将来野生動物・ミツバチの管理を適切に行うことで、作物生産性が向上するものと期待される。
Plant-Pollinator Interactions over 120 Years: Loss of Species, Co-Occurrence, and Function
過去120年間の植物-受粉者の相互作用:種の損失、共存、そして機能
Laura A. Burkle et al.
120年間にわたる北米イリノイ州の温帯林における長期記録から、全球的な環境変化によって植物-受粉者の相互ネットワークが大きく減少していることが示されている。植物と受粉者の季節学的な変化、種の選択的な絶滅、土地改変による共存状態の変化などが原因として考えられる。将来のさらなる変化に対してもより脆弱である可能性がある。
Roots and Associated Fungi Drive Long-Term Carbon Sequestration in Boreal Forest
植物の根とそれにつく菌が北半球の森林における長期的な炭素貯留を引き起こす
K. E. Clemmensen, A. Bahr, O. Ovaskainen, A. Dahlberg, A. Ekblad, H. Wallander, J. Stenlid, R. D. Finlay, D. A. Wardle, and B. D. Lindahl
北半球の森林の土壌は全球的な炭素循環において吸収源として寄与していると考えられている。核実験由来の14Cを利用した研究から、土壌に固定されている有機物の50-70%が植物の根や根につく微生物からもたらされていることが示された。中でも菌根菌の存在が極めて重要であるらしい。
Technical Comments
Comment on “Nuclear Genomic Sequences Reveal that Polar Bears Are an Old and Distinct Bear Lineage”
”シロクマは遠くはなれた熊の親戚であることを核遺伝子シーケンスが明らかにする”に対するコメント
Shigeki Nakagome, Shuhei Mano, and Masami Hasegawa
Response to Comment on “Nuclear Genomic Sequences Reveal that Polar Bears Are an Old and Distinct Bear Lineage”
コメントに対する返答
Frank Hailer, Verena E. Kutschera, Björn M. Hallström, Steven R. Fain, Jennifer A. Leonard, Ulfur Arnason, and Axel Janke