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2013年3月4日月曜日

海洋内部の炭素量から人為起源のCO2の吸収の仕方を見積もる〜シミュレーションで時間を戻す〜(Gruber et al., 2009, GBC)

Oceanic sources, sinks, and transport of atmospheric CO2
大気中のCO2の海洋の放出源・吸収源・輸送
Nicolas Gruber, Manuel Gloor, Sara E. Mikaloff Fletcher, Scott C. Doney, Stephanie Dutkiewicz, Michael J. Follows, Markus Gerber, Andrew R. Jacobson, Fortunat Joos, Keith Lindsay, Dimitris Menemenlis, Anne Mouchet, Simon A. Mu ̈ller, Jorge L. Sarmiento, and Taro Takahashi
Global Biogeochemical Dynamics 23, doi:10.1029/2008GB003349 (2009)

モデルシミュレーションを用いて、人為起源のCO2がどのように海に吸収されたか、現在の海洋表層で自然のCO2が本来どのように変動しているのかを分けて評価した研究です。

関連する論文のまとめはこちら(拙ブログ記事)
全球の海洋表層の二酸化炭素の収支(放出vs吸収)(Takahashi et al., 2009, DSR)
全球の海洋表層水のpCO2のここ20年間の傾向〜大規模データベースからの計算〜(Lenton et al., 2011, GBC)

全球の海洋で放出・吸収を評価した研究にはTakahashi et al. (2009, DSR)がありますが、これらの研究は主に海洋表層のpCO2の測定から大気・海洋のフラックスを推定しています。

しかしながら、大気と海洋のpCO2の差がそのままフラックスに焼き直せるわけではなく、風や薄膜モデルなど種々の推定がフラックス推定に大きな誤差を生む要因となります。

例えば、以下はTakahashi et al. (2009, DSR)より抜粋したもの。

Flux = k * s * (pCO2 (seawater) - pCO2 (atm))
k = 0.585 * Sc - 0.5 * U2
ここで、kは二酸化炭素の輸送速度、Scはシュミット数と呼ばれる定数、Uは海表面から10mの高さの風速である。当然これらの変数も温度・圧力・塩分などに影響されて季節変動を示すので、結果的に二酸化炭素の収支も複雑な変動パターンを示す。
さらに、計算値には以下に示す多くの誤差が伴う。
ΔpCO2測定(大気+海洋)自体の誤差 → ± 13 %
薄膜モデルでのガス輸送の変数(k, s)に関する誤差 → ± 30 %
全球の風速の観測値に関する誤差 → ± 20 %
2000年の規格化に用いた1.5μatm/yrという見積もりに関する誤差 → ± 35 %
以上の誤差が独立に作用するとして、合計で「± 53 %」もの誤差が伴う。

フラックスを見積もる方法としてpCO2測定に頼らない別の手段が、「モデルシミュレーションによる逆解析(inversion)」です。

前者は'bottom up'的なアプローチ、後者は'top down'的なアプローチと呼称されています。

Gruber et al. (2009)では、10の海洋大循環モデルを用いて、海洋内部に既に取り込まれた人為起源の炭素の測定結果(90年代のGLODAPの際に得られた研究成果; Key et al., 2004, GBC)をもとに、それを’染料(dye)’として捉えて、大気から海洋へと染み込んでいく過程を評価するという手法をとっています。

著者自身が挙げる問題点としては、誤差はpCO2による方法よりも小さくなるものの、
  • GLODAPのデータベースの誤差に影響される
  • モデル自体のバイアスに強く依存する(例えばほとんどのモデルでNADWの形成がうまく再現できないなど)
  • 河川からもたらされるDICの影響を見積もることが難しい
などが挙げられています。

Gruber et al. (2009)を改変。
太平洋・大西洋・インド洋の海洋深層循環の模式図と、自然・人為起源CO2の輸送。
左が人為、右が自然。

モデルの結果は非常に興味深い事実を浮き彫りにしています。

一つは、「南太平洋(44 ºS - 18 ºS)」におけるフラックスが、Takahashi et al. (2009)では弱い吸収源とされていたのに対し、Gruber et al. (2009)ではより強い吸収源となったことです。

原因としては、pCO2の観測データそのものがこの海域で不足していたことが指摘されています。

次に、南太平洋の亜熱帯域は世界最大の人為起源CO2の吸収源となっていること。

原因としては面積が圧倒的に大きいことが挙げられます。

さらに、南大洋では自然のCO2放出(CDWの湧昇が原因)と人為起源CO2の吸収とが打ち消し合う形で、正味としては吸収源となっていること。
全体の4割が南大洋で吸収されているとの報告もなされています。一方でまもなく吸収できなくなると危惧する研究も。


Gruber et al. (2009)を改変。
各海洋ごとのCO2フラックスの推定値。
(a)はこれまでの方法ごとの見積もりの比較。南太平洋を除いては、基本的にはよく合っている。熱帯域を除いて、すべて吸収源として寄与していることが見て取れる。
(b)はフラックスの内訳。赤が人為起源、緑が自然起源、薄い青が河川、濃い青が総合したもの。南大洋と熱帯域では人為と自然が打ち消し合う方向に作用している。

特に3つ目の観測事実について補足します。

南大洋は全球の炭素循環・生物地球化学循環を大きく支配しています

というのも、世界の海に栄養・DICを送り込む(SAMWとAAIWの形成)という役割を担っているからです。
氷期-間氷期サイクルの炭素循環・気候変動にも南大洋が非常に大きな役割を担っていたことが最近になって分かってきています。

特にCO2の吸収とそれに伴う海洋酸性化が注目を浴びており、以下のような重要な研究例が報告されています。

Saturation of the Southern Ocean CO2 sink due to recent climate change
近年の気候変動による南大洋のCO2吸収の飽和
Le Quere et al., 2007, Science
→主に偏西風が変化したことで南大洋のCO2吸収効率が近年低下し、近いうちに吸収できなくなるという報告。
南半球の海洋での人為起源CO2の地域的な沈み込み
Sallée et al., 2012, Nature Geoscience
→風・海流・渦などの物理プロセスが複雑に絡み合って南大洋の沈み込みが起きていることを報告。

Extensive dissolution of live pteropods in the Southern Ocean
南大洋の生きた翼足類の大規模な溶解

Bednaršek et al., 2012, Nature Geoscience
→海洋酸性化が南大洋に住む翼足類の殻を既に溶かしていることを報告。

Recent Changes in the Ventilation of the Southern Oceans
南大洋のガス交換の近年の変化

Waugh et al., 2013, Science
→温暖化と成層圏オゾンの変化により、南半球の偏西風が変化し、さらに南大洋のガス交換が変化していることを報告。

とても多くて枚挙に暇がありませんが、要するに「分かっていないことがまだ多く、とても重要なんだ」ということです。