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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English

2012年7月28日土曜日

新着論文(Science#6093)

Science
VOL 337, ISSUE 6093, PAGES 381-496 (27 July 2012)

Editor's Choice
Cryptic N2 Fixation
秘密の窒素固定
Nat. Geosci. 5, 459 (2012).
コケに覆われた建造物や岩、木などは地球上にありふれており、時間が十分にあればほとんどの地表はコケ類で覆われてしまうという。これらの生物が地球の窒素固定と炭素固定に大きく寄与していることが最近分かった。’cryptogamic cover’と呼ばれる生物コミュニティーによる炭素固定はヨーロッパで最大(一次生産の10%)で、アフリカで最小(一次生産の4%)。一方で窒素固定は非常に大きく、ヨーロッパや南アフリカで30%、アジアや北米で80%もの量を占めているらしい。現在の窒素循環モデルはこれらの寄与を含める必要があり、また他の地域の未発見の窒素循環も見落としている可能性がある。

Refuges for Corals
サンゴの難民
Nat. Clim. Change 2, 530 (2012).
地球温暖化は水温上昇によるサンゴの白化現象を促進するため、サンゴ礁を危機にさらしている。例えば、21世紀末には太平洋中央部の表層水温は3℃上昇すると予測されており、この水温上昇は生物にとって破壊的なものになると予想される。しかし、気候システムは非常に複雑であるため、こうした温暖化の影響が顕著に表れない海域も存在するかもしれない。最近のモデル研究によると太平洋赤道域の一部の地域では将来風が強まり、それによって赤道下層流(equatorial undercurrent)が湧昇し、冷たい水がより表層にもたらされやすくなる可能性がある。どのサンゴ礁が生き残るのかを知ることで、サンゴ礁の保全活動の計画にも役立つかもしれない。

News of the week
European Commission Proposes Deep-Sea Protections
ヨーロッパ議会は深海の保全を提案している
ヨーロッパの議会は深海漁業の規制を強化しようとしている。大西洋北東部で行われる底引き網漁では深海サメなどの不要な魚が網にかかるのがほとんどであり、またこの漁法は脆弱な深海生態系に破壊的なダメージを与えることから、議会は底引き網漁業を禁止する予定である。現在法案はレビューされている段階であるが、通れば2年後には完全に禁止される予定であるという。

U.S. Science Board Green-Lights Telescope
アメリカの科学委員会は望遠鏡に緑信号を出した
NSFの政策決定機関であるNSBはチリにおけるLarge Synoptic Survey Telescope (LSST)の建設を承認した。総工費6億6500万ドルのうち、70%はNSFが負担するという(他にエネルギー庁が24%負担、残り6%は私的な献金)。この望遠鏡は8.36mの大きさで、週に2回、30億ピクセルのカメラを用いて銀河の画像を撮影する予定である。繰り返し観測することで、星や銀河の観察だけでなく、ダークマター・ダークエナジーの検出や超新星爆発の時間変動なども捉えられると期待されている。議会が出資を認めれば、5年間で建造は終わり、2022年から観測がスタートする見込み。

Police Close Climategate Investigation
警察はクライメートゲートの調査をやめた
2009年11月に発覚した’クライメートゲート事件’の調査をイギリスの地元警察は終了した。East Anglia大の気候研究グループの何千通ものe-mailが流出し、気候変動を疑う人々によってIPCCに出された気候データの改ざんの疑いや科学倫理の問題が取り上げられ、問題となった。調査の中には科学者が間違った行いをしていたと指摘するものもあった。

Scientists Spar Over Fukushima Radiation Effects
福島の放射線の影響を巡って科学者が議論している
福島第一原発の事故によって放出された放射性物質が招いた死が調査されているが、Stanford大の研究チームのモデリングの結果(いかなる放射性物質もがんのリスクを高めるとしているモデル)からは、拡散した放射性物質によって15-1100人ががんで亡くなったという試算が得られた。しかし一方で東京大学理学系研究科教授の早野龍五は、低い放射線量に対してはこのモデルを適用すべきでないと指摘している。またノーベル賞受賞者のBurton Richterは石炭発電所(124,000年)や天然ガス発電所(3,8000年)による汚染や事故によるlost years of life(寿命の縮まり?)に比べると、福島第一原発の事故によるlost years of lifeははるかに短い(26,800年)と指摘している。

Genetic Code Reveals Hunter-Gatherer Diversity
遺伝子が狩猟採集の多様性を明らかにする
人類はアフリカからアジア・ヨーロッパに広がっていく過程で、主に環境の変化に刺激されて多様な遺伝子を獲得してきた。タンザニア・カメルーンの3つの異なる部族に属する原住民5人の遺伝子を解読したところ、過去においてネアンデルタール人に相当するような未確認のアフリカの類人猿との交配があったことが分かった。

By the numbers '34 billion'
’340億トン’という数字から
2011年における全世界の二酸化炭素の排出量。前年比で3%増加したことがヨーロッパの委員会から報告されている。

News & Analysis
Needed Antarctic Upgrades Would Trim Science Budget
南極の施設改良の必要性が科学にかかる費用を減らすかもしれない
Carolyn Gramling
老朽化した南極の科学施設は修理や改良を必要としており、短期的に科学にかかる費用を削減して改修費用に充てる必要性に迫られている。

Data Dispute Revives Exoplanet Claim
データに関する論争が系外惑星存在の主張を再び蘇らせた
Yudhijit Bhattacharjee
生命が存在する可能性がある系外惑星として初めて発見された’Gliese 581g’を発見した研究チームは、確かにこの星は存在すると結論づけた。

Using Radiocarbon to Go Beyond Good Faith in Measuring CO2 Emissions
二酸化炭素排出量を測るのに放射性炭素を使う
Michael Balter
研究者は二酸化炭素排出量を推定するのに空気中の二酸化炭素の放射性炭素を測定することが有効であることを見つけた。
※コメント
この手法自体は新しいわけではありませんが、測定精度の向上と排出量の増加から可能になったのかもしれません。化石燃料排出起源の二酸化炭素は放射性炭素が欠乏している(石油・石炭ともに数億年前にできたものであるため)という特徴があります。記事を読んだらそのうち解説します。

News Focus
Planetary Science Is Busting Budgets
惑星科学が予算を破壊している
Richard A. Kerr
ますます増大する火星探査の見通しが限られた科学予算と衝突している。火星に関する科学は宇宙飛行士の武器となりつつある。

For China and Kazakhstan, No Meeting of the Minds on Water
中国とカザフスタンにとって、水に関する意識は一致しない
Richard Stone
カザフスタンの科学者は中国からの河川流量の低下が農業や水生生態系に悪影響を及ぼすとしている。中国側は話を聞く姿勢を示さない。

JOINT CONGRESS ON EVOLUTIONARY BIOLOGY
Elizabeth Pennisi
Insulin May Guarantee the Honesty of Beetle's Massive Horn
インスリンがカブトムシの力強い角を保証するかもしれない

Texas Wildflower's Red Keeps It a Species
テキサスの野生の花の赤色がそれが種として存在するのを支えている

By the Skin of Their Teeth
彼らの歯の肌によって
エクアドルの洞窟の地下の流れに生息するナマズは、周囲の水の流れを感じるのに自らの歯を使っている。体から突き出た歯はセンサーとしての役割を負っているらしい。

Letters
Pollution in the Yangtze
揚子江の汚染
揚子江で建設されるダムが魚や鯨類に与える影響について。揚子江の水質汚染が絶滅を加速させている。そのひとつの例がヒレナシネズミイルカ(finless porpoise; Neopho- caena phocaenoides)であり、ここ20年間で年間5%以上の割合で個体数が低下してきた。急速な工業・農業の発展に伴い、種々の有機・無機の汚染物質(重金属、農薬など)が揚子江に流入していることが原因のひとつ。またダムによって水をせき止めることでダムの底への堆積物の沈殿やダム中の富栄養化、酸素欠乏などが発生する。Three Gorges Reservoirを例にとると、鉛・銅・カドミウムの濃度は深さが増すごとに25%以上増加する。中でも有毒なメチル水銀が貧酸素下では堆積物から放出されやすくなるため注目されており、懸濁粒子中の水銀量は既にEUが定める環境基準に比べて10,000倍の濃度に達している。政府の浄化キャンペーンの効果もむなしく、汚染された土地が沈んでいることと人間活動が拡大することが汚染を押し上げている。揚子江は汚染がひどい世界の河川のトップ10に入るが、すでに数多くの絶滅危惧種を破滅へと押しやっている。短期的にはダム建設を止めることが重要であるが、それ以上に汚染を減らすことが河川管理政策には重要である。そうした努力がなされなければ、最近絶滅した中国カワイルカ(Lipotes vexillifer) 以上に、さらなる種の絶滅を招くだろう。

Reports
Binary Interaction Dominates the Evolution of Massive Stars
H. Sana, S. E. de Mink, A. de Koter, N. Langer, C. J. Evans, M. Gieles, E. Gosset, R. G. Izzard, J.-B. Le Bouquin, and F. R. N. Schneider
従来考えられていたよりも、我々の銀河に含まれる星は近隣の星と質量の交換などの相互作用をしていることが分かった。全体の70%以上の星がそうした質量交換を行っているという。binary interactonが星の進化、星の数、超新星爆発などを支配しているかもしれない。

The Tides of Titan
Luciano Iess, Robert A. Jacobson, Marco Ducci, David J. Stevenson, Jonathan I. Lunine, John W. Armstrong, Sami W. Asmar, Paolo Racioppa, Nicole J. Rappaport, and Paolo Tortora
カッシーニ土星探査機の2006年から2011年にかけて行われたフライバイから得られた観測データから、土星の衛星のひとつであるタイタンの潮汐を分析したところ、観察された重力場はタイタン内部が軌道の時間スケールで変形可能でなければならないことを示唆している。つまり内部海の存在を示唆している。

Isotropic Events Observed with a Borehole Array in the Chelungpu Fault Zone, Taiwan
Kuo-Fong Ma, Yen-Yu Lin, Shiann-Jong Lee, Jim Mori, and Emily E. Brodsky
低応力の台湾のChelungpu断層帯の掘削孔から得られたデータから、1999年のM7.6の地震の際に滑った不透水層の下にある流体に富んだ透水層において小さい地震(l-typeイベント)が観測された。等方性の、応力以外の起源のメカニズムが関与している可能性がある。また周囲の岩石にしばしば観察される割れ目や他の流体構造の形成を伴っており、人工的なhydraulic fracturingの特徴に類似している。