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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
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2012年7月28日土曜日

新着論文(Nature#7408)

Nature
Volume 487 Number 7408 pp405-524 (26 July 2012)

Research Highlights
Engineered ‘jellyfish’
作られた’クラゲ’
Nature Biotechnol. http://dx.doi.org/10.1038/nbt.2269 (2012)
ラットの細胞とシリコンを合成することでクラゲの動きを模した装置が作られた。

Squid ‘fly’ faster than they swim
イカは泳ぐよりも飛ぶときの方が’速い’
Deep-Sea Res. Pt II http://dx.doi. org/10.1016/j.dsr2.2012.07.002 (2012)
4種類のイカについて調べたところ、イカは泳ぐときよりも空を飛ぶときの方が3倍速く飛べる体型をしていることが分かった。イカは従来考えられていたよりも空を飛ぶ能力が高く、長い距離の移動にもエネルギーコストを抑える上で効果的であると考えられる。

Greenland’s ancient impact
グリーンランドの過去の隕石衝突
Earth Planet. Sci. Lett. http:// dx.doi.org/10.1016/ j.epsl.2012.04.026 (2012)
グリーンランドの南西部には直径100kmの隕石孔がある。30億年前の隕石衝突で、25km深に衝突時の特徴が刻まれているらしい。地球の歴史上、隕石衝突は普遍的であるが、気候とテクトニクスの作用で浸食され、その証拠があまり残らない。Maniitsoq構造と名付けられた隕石孔は記録上最も古く、大きいものであるらしい。

Toxins for cane-toad control
キビガエルを抑えるための毒
Proc. R. Soc. B http://dx.doi.org/10.1098/rspb.2012.0821 (2012)
外来種であるキビガエルの侵入がオーストラリアの熱帯雨林を脅かしている。しかしこのカエルそのものが生産する毒がその個体数を制御するのに効果的らしい。このカエルは食料競争を軽減するために同種のカエルの卵を食べるらしく、この性質を利用して卵の成分をもつ囮を仕掛けたところ、成体のカエルが多数捕獲されたという。この成分は固有種のカエルには効果がないらしい。

Seven days
Climategate closed
クライメートゲートが閉じた
地元警察は’climate gate’のきっかけとなったe-mailの発信源であるEast Anglia大の気候研究グループ(Climatic Research Unit; CRU)の捜査を終えた。e-mailが暴露されたのはインターネット経由の攻撃が原因で、犯人特定の見込みがないという。大学内部の関係者の疑いはないという。

Arctic iceberg
北極海の氷山
7/16にグリーンランドの巨大な氷山が崩壊した。マンハッタンの2倍のサイズであるが、2010年夏に崩壊した別の氷山に比べると半分以下のサイズだという。

Fukushima work
福島の作業
7/18に福島第一原発の4号機から使用済み核燃料が別の建物に移された。腐食のチェックが厳密に行われたという。保管施設が近日建設される予定で、来年から精力的に移動作業が行われるという。

CHINA’S EMISSIONS RISE
中国の排出量の増加
これまで中国は一人当たりの二酸化炭素排出量は他の先進国よりも少ないと計算されていたが、European Commission’s Joint Research CentreとPBL Netherlands Environmental Assessment Agencyによって7/18に出された新しい報告書によると、間違っていることが分かった。一人当たりの排出量は今やEU諸国に匹敵する程である。総合計では2011年に3%増加し、約340億トンとなった。
中国の一人当たりの二酸化炭素排出量の変化。中国は急速に成長しており、2011年にEUのレベルに達した。
End of an age for Aquarius
Aquariusの時代の終焉
Mark Schrope
海中の研究拠点の代表格であったAquariusは今年を最後に気密部の入り口を閉鎖することとなった。

The time machine
タイムマシン
Scott Andersonによって開発された装置は宇宙空間において現場で採取した岩石試料のRb-Sr法による年代測定が可能であるらしい。月や火星の年代決定に期待が寄せられる。

Correspondence
More medieval clues to cosmic-ray event
中世の銀河線イベントのより多くの証拠
先日アングロサクソン族の古文書(Anglo-Saxon Chronicon)で銀河線に関連した天体現象の記述が見つかったが、他にもそれと関連する可能性がある文書が見つかっている。ドイツの修道院の年代記には「two shields burning with red colour and moving above the church itself 」という記述がAD776に見られ、またAnglo-Saxon Chroniconの中では「when the Saxons besieged the castle of Heresburch, the glory of God appeared to all, surely as two shields burning with the colour of blood and making certain motions through the air, as if at war」などの記述がAD774-775に見られる。この現象は日中ずっと観察され、非常に明るい銀河線イベントであったことを示唆している。また年代のずれはオーロラ活動が数年間活発であったことを示している可能性がある。

Political backing to save the Baltic Sea
バルト海を保護するための政治的な後援
バルト海を富栄養化から救うためには栄養塩の流入量を減らす必要がある。しかし生態モデルを用いた研究から回復には50-100年もの歳月を必要とすることが分かったため、持続的に行うためには政治的な援助が必要不可欠である。農業技術向上によって栄養塩流入量は低減できるものの、土壌中の栄養塩はなかなか減らすことはできない。BalticSea2020基金は富栄養化した地域に塩化アルミニウムを散布することで堆積物からのリン酸の溶出を抑制し、藻類の異常繁殖を防ぐ手段なども考えている。

BRIEF COMMUNICATIONS ARISING
Atmospheric oxygenation and volcanism
大気の酸化と火山活動
James F. Kasting, David C. Catling & Kevin Zahnle
「GOE(Great Oxidation Event)の原因は大陸の出現と火山地域が海底から陸上へ移ったことである」とするGaillard et al. (2011)に対する問題点の指摘。

Gaillard et al. reply
Fabrice Gaillard, Bruno Scaillet & Nicholas T. Arndt
それに対する返答。

LETTERS
Inland thinning of West Antarctic Ice Sheet steered along subglacial rifts
Robert G. Bingham, Fausto Ferraccioli, Edward C. King, Robert D. Larter, Hamish D. Pritchard, Andrew M. Smith & David G. Vaughan
現在の海水準上昇の10%は西南極氷床の融解によって説明される。氷床融解は主に氷が力学的に薄くなっていることが原因で、特に沿岸部で大気と海洋の擾乱が原因で融解が加速している。しかし基底部や地質の知識が欠乏していることで、モデル化が妨げられており、将来の西南極氷床の後退を予測するのを困難にしている。氷を貫通するレーダーと磁気、重力観測からFerrigno氷河下の海盆の存在が明らかになり、氷床後退に大きく寄与していると考えられる。海盆の起源は地溝らしい。西南極氷床縁辺を横切る地溝盆地は、海岸における擾乱を急速に内陸へと伝搬させ、氷床の不安定化を促進していると考えられる。

Reconciling the temperature dependence of respiration across timescales and ecosystem types
Gabriel Yvon-Durocher, Jane M. Caffrey, Alessandro Cescatti, Matteo Dossena, Paul del Giorgio, Josep M. Gasol, José M. Montoya, Jukka Pumpanen, Peter A. Staehr, Mark Trimmer, Guy Woodward & Andrew P. Allen
生態系呼吸(Ecosystem respiration)とは、消費者と一次生産者の両者を含む生態系内の全生物による、有機炭素の二酸化炭素への生物的変換のことである。呼吸は、細胞内および個体のレベルでは指数関数的な温度依存性を示すが、生態系のレベルでは、群集の個体数やバイオマスなど、生態系ごとに大きく異なる多くの変数によって変化する。生態系呼吸の温度依存性は気候変動に対する生物圏の反応を予測するうえで重要であるが、これが水中環境と陸上環境とで系統的に異なっているのかどうかは明らかにされていない。生態系呼吸量の大規模なデータベースの分析から、季節的な温度変化に対する生態系呼吸の感度が、湖沼、河川、河口、外洋、ならびに森林および非森林の陸上生態系を含む多様な環境できわめてよく似ていることが分かった。対照的に、年間の生態系呼吸では、幅広い地理的温度勾配にわたり、水中生態系のほうが陸上生態系よりも温度依存性が大幅に高くなっているらしい。