Nature Climate Change
July 2012
Snapshot
Arctic ice turns to the dark side
北極の氷がダークサイドに落ちる
Nicola Jones
1979年以降、夏の北極の海氷範囲は10年間に10%の割合で低下していることは良く知られているが、厚い多年氷はもっと早く(10年間で15%)融けていることはあまり知られていない。多年氷は日射に対するアルベドや物理特性の点で季節氷とは一線を画す。雲に覆われている時期は衛星観測もままならないため、現地にて直接観測を行う必要が出てくるらしい。
Interview
Underwater aquarium
水中水族館
6年間に及ぶデザイニングとテストののち、2011年にカリフォルニアのモントレー・ベイ水族館が深海生物に対する野外CO2添加実験を実行した。海洋化学者のPeter BrewerがNCCに計画についてのインタビューに答える。
Research Highlights
Flourishing seaweed
繁殖する海草
Glob. Change Biol. http://doi.org/hxz (2012)
地中海とパプアニューギニアに存在する火山性のCO2が酸性化を招いている海域で、海草の分布を調査したところ、CO2濃度が高いほど(酸性化しているほど)石灰質の藻類(Padina)の石灰化量が低下していることが分かった。一方でPadina spp.の数そのものは増加した。原因としてはウニなどの補食圧が低下したことと、光合成が活性化したことなどが考えられる。
Interaction benefits
相互作用の恩恵
Science 336, 1028–1030 (2012)
気候変動に対して生態系が応答する際には、生物同士の相互作用が個々の生物への影響を増幅/減衰させることが考えられる。イギリスの研究グループはチョウの一種(Aricia agestisover)が過去30年間に79kmほど北上したことを突き止めた。これまでこのチョウはある一定の植物にのみ宿っていたが、温暖化に伴ってより多くの植物に宿れるようになったことが北上の原因と考えられている。
Catchment interactions
集水域の相互作用
Wat. Resour. Res. http://doi.org/hx2 (2012)
気候変動の結果、分水界の水循環や水質が変化することで生態系に大きな影響が出ると予想されるが、その相互作用を理解するのは大変である。物質循環を組み込んだモデルシミュレーションによってアメリカのHubbard Brook実験森林の21世紀の変化を予想したところ、冠雪や雪解けの時期が変化し、植物による蒸発散量が変化することが示された。また温暖化によって土壌中の窒素固定が活性化し、土壌の酸性化や土壌水・地下水の水質悪化が起きることが示された。一方でCO2の施肥効果により森林からの窒素流出は抑えられることも示された。
Australia’s carbon farming
オーストラリアの炭素牧場
Land Use Policy 30, 496–506 (2012)
森林を切り開いてできた農耕地に植林することで排出量削減に対してどれほど経済的に元が取れるかはよく分かっていない。オーストラリアで3つのモデルケースで試算を行ったところ、二酸化炭素1トンあたり18豪ドルは見込め、生産性の少ない土地への投資が現実的であることが示された。雨が多い土地に植林することでより収益が見込めるという。
Adding value with biofuels
バイオ燃料で価値を付加する
Food Policy 37, 439–451 (2012)
バイオ燃料の生産量(2009年時点でエタノールが6,660万トン、ディーゼルが1,350万トン)は増加しているが、同時に作物価格も高騰しており、議論が巻き起こっている。モデルを用いてアメリカ・EU・ブラジルなどの作物の価格とバイオ燃料の需要などを計算したところ、「エネルギー価格が下がればバイオ燃料の需要も低下すること」、「バイオ燃料の生産は発展途上国における食糧と食糧以外の商品の両方の値段を高くすること」が分かった。しかし「全球スケールでは土地所有者や労働者などの農業部門に対する恩恵が大きいこと」も分かった。
Permafrost ponds
永久凍土の沼
Glob. Biogeochem. Cycles http://doi.org/ hx4 (2012)
永久凍土には大量の炭素が眠っており、それが融解して大気にもたらされると温暖化の正のフィードバックとして寄与する。永久凍土地域の沼からの炭素放出が報告されているが、人工衛星から見えないような小さい沼からの放出量については推定がなされていなかった。シベリア北東部のSamoylov Islandにおいて沼や河口からの排出量を定量化したところ、島全体の排出量のうち28-43%は沼から、27-46%は湖からのものであることが分かった。モデルシミュレーションのなかにこうした沼は組み込まれていないが、筆者らは将来の推定には組み込む必要があると指摘している。
Asian aerosol influence
アジアのエアロゾルの影響
Geophys. Res. Lett. 39, L11703 (2012)
アジア地域から排出されるブラックカーボンのエアロゾルはゆく数年間は増加し続けると見込まれており、地域的な空気の質や全球の気候変動・大気循環に影響すると考えられる。気候モデルを用いて2005-2024年にアメリカの気温にどのような影響が出るかを求めたところ、エアロゾル量が6倍と10倍に増えたと想定した場合、「東海岸の冬」と「アメリカ全土の夏の気温」が約0.4℃上昇することが示された。
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Research
News and Views
Plankton in an acidified ocean
酸性化した海のプランクトン
Allen J. Milligan
今世紀末には海水のpHは0.3低下すると考えられている。自然の変動の中に置いて植物プランクトンは大きなpH変動を経験しているものの、細胞表面の近くではpH変動がさらに大きくなる可能性が指摘されている。
Perspectives
A decade of weather extremes
異常気象の10年間
Dim Coumou & Stefan Rahmstorf
近年の異常気象と温暖化との関係が広く議論されてきた。これまでの証拠のレビューから、特定のイベント(熱波や異常降水など)やその頻度の増加は確信を持って人間活動が原因であることが示された。巨大低気圧などのイベントについてはまだ決定的な証拠は得られていないものの、観測されている傾向と物理的な予測からは増加することが見込まれる。
Biodiversity co-benefits of policies to reduce forest-carbon emissions
森林からの炭素排出を減らす政策が生物多様性にも恩恵を与える
Jacob Phelps, Edward L. Webb & William M. Adams
森林破壊(deforestation and degradation; REDD+)を減らすことは気候変動の緩和と生態系の保護の2つの点で重要である。異なる政策に基づいたアプローチをレビューする。
Harnessing nature to help people adapt to climate change
人々が気候変動に適応するのを助けるのに自然の力を利用する
Holly P. Jones, David G. Hole & Erika S. Zavaleta
気候に関連した災害を減らすための適応戦略の主たる焦点は巨大構造物(堤防・灌漑施設・ダムなど)に当てられてきた。柔軟で・低コストで・生態系的に許容可能な適応の方策にメリットがあることを主張しながら、適応には様々なオプションがあるということを早急に認識することが必要とされている。
Letters
Changes in pH at the exterior surface of plankton with ocean acidification
海洋酸性化に対するプランクトンの周囲のpHの変化
Kevin J. Flynn, Jerry C. Blackford, Mark E. Baird, John A. Raven, Darren R. Clark, John Beardall, Colin Brownlee, Heiner Fabian & Glen L. Wheeler
2100年までに海洋のpHは0.3低下すると考えられている。しかしながら海水のpH低下や炭酸系の変化がプランクトンの生理にどのような影響をもたらすかについてはよく分かっていない。
特にブルーミングなどの際には周囲の海水と異なる微環境が形成されるため、種ごとに異なる「代謝活動」「体長」「成長量」に応じて、海洋生物の周囲のpH変動は海水のpH変動とはかけ離れることが示された。生態系の応答を正しく予測するにはこうした違いを理解することが重要である。
Response of corn markets to climate volatility under alternative energy futures
代替エネルギーの未来における気候の変わりやすさに対するトウモロコシ市場の応答
Noah S. Diffenbaugh, Thomas W. Hertel, Martin Scherer & Monika Verma
様々な要因が気候変動の影響を増加あるいは緩和させることで、作物価格の変わりやすさ(volatility)に影響する。アメリカのトウモロコシ価格はエネルギー政策や農業-エネルギー市場の統合などよりも、近未来の気候変動により敏感であることが示された。バイオ燃料を強制することで、気候変動に対する価格の感度が50%以上増加することが示された。
Rising CO2 and increased light exposure synergistically reduce marine primary productivity
CO2の増加と光暴露量の増加とが相乗的に海洋の一次生産を低下させる
Kunshan Gao, Juntian Xu, Guang Gao, Yahe Li, David A. Hutchins, Bangqin Huang, Lei Wang, Ying Zheng, Peng Jin, Xiaoni Cai, Donat-Peter Häder, Wei Li, Kai Xu, Nana Liu & Ulf Riebesell
十分な光があれば、将来のCO2の増加は海洋一次生産を促進すると期待されてきた。南シナ海における野外実験から、光暴露量とCO2がともに増加した場合、光合成が阻害され、一次生産者の生長量が低下することが明らかになった。また珪藻のCO2暴露実験からもある閾値を超えると光阻害が生じることが示された。将来混合層が浅くなることで植物プランクトンがより強い光にさらされることになれば、海洋一次生産が減少し、種組成のシフト(珪藻から、より生態レベルが上位で・深海への炭素輸送量の多い種へ変化)が起きる可能性がある。
Human-induced global ocean warming on multidecadal timescales
数十年の時間スケールでの人為起源の全球的な海洋の温暖化
P. J. Gleckler, B. D. Santer, C. M. Domingues, D. W. Pierce, T. P. Barnett, J. A. Church, K. E. Taylor, K. M. AchutaRao, T. P. Boyer, M. Ishii & P. M. Caldwell
海洋上層の温暖化が明らかになっている。海洋の温暖化によって漁業や海洋酸性化、海水準上昇や熱帯低気圧の規模と頻度の変化など、様々な懸念が広がっている。モデルシミュレーションを用いて現実に観測された温暖化を再現することができ、人為起源の温暖化を特定することができた。
Equatorial refuge amid tropical warming
熱帯域の温暖化における赤道の避難所
Kristopher B. Karnauskas & Anne L. Cohen
大気循環が弱化することで、将来赤道太平洋の湧昇が弱化することが予測されている。それによってより温暖化が進行しやすくなるため、熱帯域の海洋生態系に対して避難所を提供しないと考えられてきた。衛星観測とモデルシミュレーションを組み合わせることで、赤道中層流(equatorial undercurrent)が強化されることで一部の地域で湧昇が強化され、低温の水が表層にもたらされることで避難所ができることが示された。Gilbert島では今世紀末の温暖化は25 ± 9 %ほど緩和されると考えられる。
Equivalence of greenhouse-gas emissions for peak temperature limits
温度上昇の最高値の制限に相当する温室効果ガスの排出
Stephen M. Smith, Jason A. Lowe, Niel H. A. Bowerman, Laila K. Gohar, Chris Huntingford & Myles R. Allen
気候政策の中には種々の温室効果ガス(GHG)の削減が含まれている。各GHGがCO2に換算して100年間で温暖化にどれほど寄与するかの指数(GWP100)が提案されたものの、具体的に何℃温暖化するかの尺度を与えないこと、積算のCO2を制限する必要性を明確に訴えないことなどの理由から批判を浴びている。滞留時間が長いGHG(CO2 やN2Oなど)、短いGHG(CH4など)を分けて温暖化にどれほど寄与するかを見積もることで、将来の温暖化のピークにより寄与するのは長寿命の温室効果ガスのほうであることが示された。温暖化を2℃以内に抑えるには長寿命のGHGの積算量に上限を設ける必要がある。
Impacts of wind farms on land surface temperature
風力発電所が地表温度に与える影響
Liming Zhou, Yuhong Tian, Somnath Baidya Roy, Chris Thorncroft, Lance F. Bosart & Yuanlong Hu
アメリカにおける風力発電が急速に拡大しており、その傾向は将来も続くと思われる。風の運動エネルギーを電気エネルギーへと変換する過程で、タービンによって地表と大気とのエネルギー・湿度交換などが修正される。そうした擾乱が大規模なものになれば、地域的な気候に充分に影響を及ぼし得るものになる。2003-2011年の人工衛星による観測記録から、世界最大の風力発電所があるテキサスにおいて、10年間で0.72℃もの温暖化が(特に夜間に)生じていることが分かった。近隣の風力発電所がない地域には見られない傾向であるため、発電所が原因と考えられる。
Spatially and temporally consistent prediction of heavy precipitation from mean values
時空間的に均質な平均状態と比較して多い降水の予測
R. E. Benestad, D. Nychka & L. O. Mearns
異常降水は洪水などを招き、生態系にも破壊的な影響を及ぼす。気候変動によって生じる異常降水や大雨を正確に予測することは難しいものの、気候変動緩和のコストや恩恵を評価する上で知識を向上することが必要である。世界の32,857地域の日々の雨量計のデータから、降水の時間的な頻度分布などのユニバーサルな経験式を構築した。
Article
Assessing the costs of photovoltaic and wind power in six developing countries
6つの発展途上国において太陽光発電と風力発電のコストを評価する
Tobias S. Schmidt, Robin Born & Malte Schneider
2010年のカンクン同意の際に、発展途上国が今後温室効果ガス削減を行うためのGreen Climate Fundが設立された。しかしながら国ごとの財政的なニーズは時としてトップダウン的に決定されてしまう。ボトムアップ的な公平なアプローチの仕方を提案。
Beyond Boundaries
Water and bioenergy
水と生物エネルギー
水管理の専門家であるArjen Hoekstraと環境科学やエネルギーの専門家が、世界的な水資源需要の増加を受けて、水の輸送に用いられるバイオ燃料の使用量の増加が与える影響を評価した。