Main contents

☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年7月20日金曜日

新着論文(Nature#7407)


Nature
Volume 487 Number 7407 pp271-400 (19 July 2012)

World View
Wildfires ignite debate on global warming
野火が地球温暖化に関する議論に火をつける
温暖化が進むとともに、森林や家は焼け、メディアと人々は気候変動の現実に直面せざるを得ないだろう、とMax A. Moritzは言う。

Research Highlights
Lucy’s relatives walked upright
Lucyの親戚はまっすぐ立って歩いていた
J. Hum. Evol. http://dx.doi.org/ 10.1016/j.jhevol.2011.11.012 (2012)
人類の祖先’Lucy’(320万年前)の親戚である猿人類の骨を分析したところ、従来考えられていたよりもより人間に近い存在であることが分かった。エチオピアから発掘されたAustralopithecus afarensisの骨を分析したところ、骨は3-3.4Maのものであることが分かり、足の骨は弓状で、脊椎は特に背骨が人類に類似した特徴を有している。直立二足歩行の証拠と言える。

Dark galaxies revealed
暗い銀河が明らかになった
Mon. Not. R. Astron. Soc. http:// dx.doi.org/10.1111/j.1365- 2966.2012.21529.x (2012)
暗い銀河は星を持たず、光学望遠鏡では観測できない。隣接する明るい光を出す銀河(quasers)から放出される放射を利用することで、暗い銀河からかすかな蛍光が検出されたらしい。大量の水素(太陽の10億倍の量に相当)が見つかり、これらが星の素となっているものと想像される。

Trout nose yields magnetic cells
ニジマスの鼻は磁性細胞を作る
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1205653109 (2012)
動物の中には磁気を感じて移動を行うものがいるが、磁性細胞を特定することに成功したらしい。ニジマスの鼻の表皮細胞を採取し、比較的強力な磁場の下で顕微鏡観察を行ったところ、特定の周期で回転した。高解像度のイメージングを行ったところ、鉄に富んだ結晶が細胞脂質に結合しているのが観察された。これらが磁性細胞が磁場の下で整列する原因となっているようだ。

Extinctions still to come
まだ見ぬ絶滅
Science 337, 228–232 (2012)
アマゾンの熱帯雨林において90%の絶滅はまだ起きていないことがモデル研究から分かった。1978-2008年に得られたデータに基づき、「生息域が失われても直ちには絶滅しない」という過程のもとで熱帯雨林に生息する脊椎動物の絶滅のタイミングと生息域の減少をモデル化している。すでに生息域の減少は進行しているものの未だ絶滅に達したものは少なく(絶滅の’負債’)、2050年までに絶滅する種は全体の60-70%という予測がなされた。

Seven days
Telescope club full
望遠鏡は目一杯結束する
南半球の宇宙を詳細に観測するためにチリに設置されるLarge Synoptic Survey Telescope (LSST)はNSFの計画に対する援助を受けることが決まった。2022年から運用が開始されるとのこと。

Pluto’s fifth moon
冥王星の5番目の月
ハッブル宇宙望遠鏡は冥王星の新たな月(P5)を発見した。これらの月は冥王星に比べてはるかに小さく、また最近発見されたばかり。P5、P4、Nix、Hydra、Charonの5つ。

Atmospheric lab
大気の研究所
ニュージーランドは科学者の削減と世界最高レベルの大気観測の研究を中止しようとしているらしく、国際社会の関心が寄せられている。特に南島において51年間に渡って稼働しているLauder Atmospheric Research Stationは大気中のフロン、紫外線、温室効果ガスをモニタリングしている。Lauderの研究員は全員がクビになると施設を管理するNational Institute of Water and Atmospheric Researchから勧告されているらしい。

CHINA’S RARE-EARTH DOMINANCE
中国のレアアース独占
日本とベトナムは先月、中国のレアアース市場の独占を食い止めるべく、joint Rare Earth Research and Technology Transfer Centreをベトナムのハノイに設立した。世界中の鉱山から得られた鉱物中からのレアアースの分離と濃縮の技術開発を目指す。
レアアースの現在の生産量(左)と各国の備蓄量(右)。現在レアアースは中国の独占状態にあり、中国の輸出規制によって価格も高騰している。


News in Focus
The legacy of Lonesome George
’孤独なジョージ’の伝説
カメの死がガラパゴスの保全の努力に拍車をかける
絶滅の危機にさらされているガラパゴスリクガメの個体数。現在すべての種が危機にさらされているが、個体数を正確に把握するのは難しいらしい。

Cosmic survey finds global appeal
銀河の調査が世界的な魅力を見つける
Large Synoptic Survey Telescopeの計画を支える国や機関が出そろった。

Florida abuzz over mosquito plan
蚊の計画をめぐってフロリダが騒然としている
天狗熱を媒介する蚊を遺伝子組換えによって感染率を下げるように作り変えることについて、人々の反対の声が高まっている。

Correspondence
Costa Rica pioneers ecosystem services
コスタリカが生態系サービスの最先端を行く
小国のコスタリカはPayments for Environmental Services (PES)計画のもと、グリーン化の分野で先陣を切っている。例えば、環境保全に協力的な地主はその地から恩恵を受けている地方住民から報償を得ることができる。また化石燃料や水の使用にかかる税をもとに森林保全機関が維持されている。さらに自動車からの排出を抑えるための基金に対するボランティアの寄付もある。

Sewage recycles antibiotic resistance
下水は抗生物質に対する耐性をリサイクルする
下水処理の重要な側面は抗生物質に耐性のある生物の汚染の問題にもある。下水処理槽には抗生物質に耐性のある生物の遺伝子が多数混入してくるため、そうした遺伝子が再利用・再分配される場でもある。解決策を早急に模索しなければならない。


News & Views
The great iron dump
鉄を大量に放り込む
Ken O. Buesseler
海の藻類のブルーミングによって有機炭素が深海に沈積することがわかり、施肥する(鉄を与える)ことが気候変動を軽減するための実現可能な戦略となるかどうかという疑問について、全部ではないにしろ、答えの一部が得られた。

A bone for all seasons
四季を通じて育つ骨
Kevin Padian
哺乳類の代謝速度は非常に高いので、その成長は季節的変動の影響を受けないとずっと考えられてきた。だが、哺乳類の骨に冷血動物に見られるような年輪があることが今回明らかになった。

Articles
Deep carbon export from a Southern Ocean iron-fertilized diatom bloom
Victor Smetacek, Christine Klaas, Volker H. Strass, Philipp Assmy, Marina Montresor, Boris Cisewski, Nicolas Savoye, Adrian Webb, Francesco d’Ovidio, Jesús M. Arrieta, Ulrich Bathmann, Richard Bellerby, Gry Mine Berg, Peter Croot, Santiago Gonzalez, Joachim Henjes, Gerhard J. Herndl, Linn J. Hoffmann, Harry Leach, Martin Losch, Matthew M. Mills, Craig Neill, Ilka Peeken, Rüdiger Röttgers, Oliver Sachs, Eberhard Sauter, Maike M. Schmidt, Jill Schwarz, Anja Terbrüggen & Dieter Wolf-Gladrow
鉄化合物を海洋表層に散布することで海洋の肥沃化を招き、植物プランクトン(特に珪藻類)のブルーミングを招くことが知られているが(鉄仮説)、プランクトンの成長に有機物(つまり炭素)が使用されるために、海洋表層中で二酸化炭素がかなり減少する。しかしブルーミングによって生成されたバイオマスが沈降過程においてどう変化するのかについては十分に確かめられておらず、大気からの炭素隔離の時間スケールもよく分かっていない。南極周回流のメソスケールの渦の中心において5週間にわたる鉄散布実験を行い、この期間に表層から深海底へ沈降する粒子を追跡した。珪藻類のブルーミングは、施肥後の4週目に最大になった。次いで、数種の珪藻類が大量死し、細胞と鎖状群体が絡み合って粘液質の集合体が形成され、急速に沈降した。結果をまとめると、複数の証拠(それぞれが大きな不確実性を伴っているにしろ)から、大増殖によって生じたバイオマスの少なくとも半分が1,000 m以上の深さにまで沈降し、かなりの割合が海底に達したと考えられる。したがって、鉄肥沃化による珪藻類の大増殖は、海洋底層水では数百年の時間スケールで、堆積物中ではさらに長い時間スケールで、炭素を隔離する可能性がある。

※コメント
有機物が盛んに分解される中層・底層の酸素濃度とそれが他の生物に与える影響の評価はなされていない?また隔離が上手くいく海域として南極周辺は適切か?せっかく隔離した溶存炭素や有機物粒子が湧昇によって再び表層にもたらされてしまっては意味がない。生物生産の高さから選定されているのかもしれないが…

Letters
Solid–liquid iron partitioning in Earth’s deep mantle
Denis Andrault, Sylvain Petitgirard, Giacomo Lo Nigro, Jean-Luc Devidal, Giulia Veronesi, Gaston Garbarino & Mohamed Mezouar
マントル深部の融解過程は、ハワイなどのホットスポット火山にマグマを供給していると考えられている深部由来のプリュームの起源に重要なかかわりを持っている。さらに、地球が形成されて以降、マントルが地球化学的あるいは力学的にどのように進化したかについての手がかりも与える。マントル浅部におけるメルトの生成についてはよく理解されているが、核–マントル境界近傍の深部融解については議論が続いている。深部の部分的に融解したマントルの力学的振る舞いのモデル化には、固体部分とメルト部分の密度差についての知識が必要となる。メルトの浮力は、それが正の場合でも負の場合でも、異なる地球化学的リザーバーの間に大きな化学的分離を生じさせうるが、浮力の選択次第で地球力学モデルは大きく異なる。部分的に融解した深部マントル中での液体の上昇は、地表における火山活動に、下降は深部マグマ・オーシャンの生成に寄与していると考えられる。我々は、部分的に融解したコンドライトタイプの物質の深部マントル条件下における相関係を調べた。本論文では、アルミニウムを含む(Mg,Fe)SiO 3 ペロブスカイトとメルトとの間の鉄の分配係数が0.45と0.6の間であり、鉄はこれまで報告されていたほどには深部マントル鉱物とincompatibleではないことを示す。固体とメルトとの間の密度差を計算すると、核–マントル境界で生成されたメルトは浮力があると予想され、したがって上向きに分離するはずである。初期地球において巨大隕石の衝突で生じたマグマ・オーシャンについて言えば、マグマの結晶化が液体を表面に押し上げ、深部にincompatible元素に欠乏した固体残滓が形成されることを示唆している。

Seasonal bone growth and physiology in endotherms shed light on dinosaur physiology
Meike Köhler, Nekane Marín-Moratalla, Xavier Jordana & Ronny Aanes
周期的な成長が骨組織に残す痕跡は、絶滅した脊椎動物の生理特性をめぐる議論の的となっている問題である。変温動物には、体温および代謝速度の低下と相関する成長停止の著明な年周期が認められるが、恒温動物は、体温が定常的に高く代謝速度が維持されるため、成熟するまで継続的に成長すると考えられている。このような見かけ上の二分性によって、帯状構造のある骨は変温動物様の生理特性を表すと考えられるようになり、その結果、恐竜の体温生理特性(thermophysiology)や、鳥類および哺乳類様爬虫類の恒温性の進化をめぐる議論がさらに盛んに行われるようになった。今回我々は、熱帯から極地までの環境に生息する野生の反芻動物に関する包括的な全地球規模の研究に基づき、周期的な成長が恒温動物の普遍的な形質の1つであることを明らかにする。成長に不適な季節には、体温、代謝速度、および骨成長に関与するインスリン様成長因子1の血漿中濃度の低下と同時に成長が停止し、これはエネルギーを温存するための原始的な熱代謝戦略の一環となっている。逆に、組織の成長が旺盛な期間は、適した季節の始まりに見られる最高代謝速度およびそれと相関するホルモン変化に一致しており、季節的な資源を獲得・使用する効率が上昇していることが示唆される。本研究は、恒温性内温動物が季節によって成長を停止させることを裏付けるこれまでで最も強力な証拠を示しており、これによって、成長の停止で生じた線を変温性の論拠とすることは否定される。しかし、高い成長速度は哺乳類の特徴的な形質の1つであり、このことは内因的熱生成の能力を示唆している。反芻動物の年周期は、恐竜をはじめとする絶滅した分類群の体温生理特性について推論するうえで基盤とすべき現生モデルとなる。