VOL 337, ISSUE 6092, PAGES 257-380 (20 July 2012)
Editor's Choice
Half Truths
半分の真実
「だまし」という行為はその効果を認識することとそれを実行することの両方を必要とする複雑な行為である。頭足類(イカ・タコなど)は環境に化けたり、他の生物に化けることで補食を避ける生物として有名である。コウイカ(Sepia plangon)のオスは求愛中メスを誘惑するために身体の色を変えてアピールするが、そのままではメスを争うオスも引きつけてしまうため、身体の半分はメスの求愛用の色を見せ、もう一方ではメスの体表を真似ている。この行動は頭足類が社会的な認識行動を行うのに大きく機能しているものと思われる。
Diversity Persists
多様性は持続する
海洋の生物多様性は熱帯域で高く、極域で低い。つまり温度と多様性は正相関している。安原盛明(香港大准教授)らは北大西洋で採取された堆積物コアから過去300万年間の動物プランクトンの多様性を分析し、mid-Pliocene(鮮新世中期)にもっとも高い生物多様性を確認した。温度の変化に耐性があまりない種はその後の寒冷化と氷河化の際に絶滅したと考えられる。
>香港大のプレスリリース
News of the Week
Conservation in the Desert
砂漠における保全
オーストラリア政府はTanami砂漠の北部1000万ヘクタールを保護地域に指定した。有袋類の一種であるbilby(ミミナガバンディクート)や穴を掘ってシステマティックな巣を作るgreat desert skink(オオトカゲ)などが生息しているが、捕食者の猫や狐、野火や放牧によってともに絶滅の危機にさらされている。
Scientists Protest Canada’s Budget Cuts as Antiscience
科学者は反科学だとしてカナダの予算削減に抗議する
カナダ政府の科学に対する予算削減に対して2,000人の科学者がカナダの議会前にて抗議デモを行った。カナダ政府はオンタリオの北西にある実験湖を閉鎖し、極域大気研究所も閉鎖することを検討しており、それを受けてオタワ大の学生たちは’証拠の死’集会を行った。カナダ政府はより実用的な科学分野に予算を分配するとしている。
Fertilized Blooms Deposit Carbon To Deep Sea
施肥されたブルームが深海に炭素を堆積させる
鉄散布による植物プランクトン(珪藻類)のブルームを利用した、大気中の二酸化炭素を深海底に輸送する実験の直接的な結果が初めて得られた。鉄は多くの海域で欠乏しており、生物生産を制限している。鉄散布によって大気中の二酸化炭素を固定できる可能性が先行研究によって示されていたが、生成された炭素が大気に戻ることなく深海底に輸送されるかどうかは不確かであった。2004 European Iron Fertilization Experimentの一環で南大洋において行われた実験では、沈降粒子を追跡することでおよそ半分の炭素が1,000mの深さに輸送されることを突き止めた。
Global Warming Punched Up Some 2011 Extremes
地球温暖化が2011年のいくつかの異常気象を活気づけた
人為起源の温暖化が異常気象と関係しているかを突き止めることは難しい。テキサスの熱波・干ばつとイギリスの異常に暖かかった冬は温暖化が原因かもしれないが、去年タイを襲った大洪水は温暖化とは全く関係がなかったらしい。NOAAとイギリス気象庁は様々な方法(モデルや観測記録)から異常気象と大気中の温室効果ガスとの関係について研究している。
News & Analysis
The Metatron: Experimental Ecology Gets Connected
メタトロン:実験生態学が結びついた
4ヘクタールの広い敷地にまたがるそれぞれが繋がった白テント群から成る、全く新しいタイプの生態研究施設が設立され、どのように生物が広がっていくかの研究がなされる。
News Focus
Taking the Measure of Madidi
Madidiの手段をとる
Jean Friedman-Rudovsky
地球の植物の将来を予測するために、世界で最も生物が多様な地域の一つであるボリビアのMadidi保護区域に科学者が入った。
Probing Diversity's Complexity
生物多様性の複雑さを証明する
Jean Friedman-Rudovsky
海抜180mの地域で6,000mの山の斜面に沿って生息する植物相を研究することで、研究者たちは地球の生物多様性の真の複雑さをモデル化することを目標としている。
The Ingredients for a 4000-Year-Old Proto-Curry
4,000年前の最初のカレーのレシピ
Andrew Lawler
学会にて最近発表された研究はインドの食事(スパイス、豆、穀物、バナナなど)が驚くほど多様であることを示した。
Diving Into the Indian Ocean's Past
インド洋の過去に潜る
Andrew Lawler
インド洋に沈んでいる最古の沈船を調べることで、過去の理解がいっそう深まると科学者たちは確信している。
Persians Made the Afghan Desert Bloom
ペルシャがアフガン砂漠の最盛期を作った
Andrew Lawler
アフガニスタンの中部〜北部の調査から見事な水系を作った巨大都市は2,500年前までその歴史が遡ることが分かった。
Books et al.
Summer Reading
夏の読書
夏に読みたい英語の本の紹介。
Finding Their Place In the World
世界の中で彼らの位置を発見する
Nature’s Compass: The Mystery of Animal Navigation.
James L. Gould and Carol Grant Gould. Princeton University Press, Princeton, NJ, 2012. 310 pp. $29.95, £19.95. ISBN 9780691140452.
プリンストン大のJames Gouldと科学雑誌の記者のCarol Grant Gouldが動物の空間把握能力(正確な位置を飛行する鳥など)について議論する。
Evolution and Robots
進化とロボット
Darwin’s Devices: What Evolving Robots Can Teach Us About the History of Life and the Future of Technology. John Long. Basic Books, New York, 2012. 281 pp. $26.99, C$30, £17.99. ISBN 9780465021413.
魚ロボットを使った脊椎動物の生体メカニズムと進化についての議論。
Life from a Rooted Perspective
根っこに焦点を当てた生命
What a Plant Knows: A Field Guide to the Senses.
Daniel Chamovitz. Scientific American/Farrar, Straus and Giroux, New York, 2012. 187 pp. $23. ISBN 9780374288730.
植物の感覚と周囲への反応に関する本。
Hot Seat in Our Warming World
我々の温暖化した世界の熱い椅子
The Hockey Stick and the Climate Wars: Dispatches from the Front Lines.
Michael E. Mann. Columbia University Press, New York, 2012. 413 pp. $28.95, £19.95. ISBN 9780231152549.
Michael E. Mannによる、気候変動科学に対する手厳しい攻撃についての個人の経験を語る。タバコの害をタバコ業界が認めなかったように、化石燃料産業界は当初温暖化は人為起源かどうか怪しいというキャンペーン等を行っていた。現在では科学界では温暖化は人類の活動が原因だというコンセンサスを得ている。Climate Gate事件やその他のキャンペーンの詳細について詳細に述懐する。
From the Belly of a Whale
クジラの腹から
Floating Gold: A Natural (and Unnatural) History of Ambergris.
Christopher Kemp. University of Chicago Press, Chicago, 2012. 209 pp. $22.50, £14.50. ISBN 9780226430362.
科学、歴史、旅行記を織り交ぜて語られるマッコウクジラ(Sperm whale)から採取される香料’竜涎香’を巡る物語。竜涎香は深海に潜行することで有名なマッコウクジラが補食した消化されないイカの尖った嘴などが腸を刺激することがきっかけとなり、嘴が鉱物で覆われる。その後糞便とともに排出された竜涎香の前駆体は海を漂い、数ヶ月から数年の時をかけて匂いを変化させ(初めは糞便の強烈な匂いらしい)、やがてさほど不快でもない強烈な香りのする竜涎香が出来上がる。偶然浜辺に打上った竜涎香は降水、薬、スパイスへと様々な用途に用いられ、その価値は金に匹敵するほどのものであったらしい。
MANIACal Roots
MANICA Calのルーツ
Turing’s Cathedral: The Origins of the Digital Universe. George Dyson.
Pantheon, New York, 2012. 443 pp. $29.95, C$34. ISBN 9780375422775. Allen Lane, London. £25. ISBN 9780713997507.
プリンストン大でのコンピューター科学の基盤とモデリングに関する研究の議論。
Perspectives
The Marine Sulfur Cycle, Revisited
海洋の硫黄循環の見直し
Matthew T. Hurtgen
大気中の酸素濃度を維持するために硫黄循環が従来考えられてきたよりも重要な役割をもっていることをモデル研究が示した。
The Art of Ecological Modeling
生態モデリング技術
Ian L. Boyd
生態モデリングは予想能力が限られているが、擾乱に対して何が生態系を脆弱にするかという洞察をもたらしてくれる。
Research Article
2.8 Million Years of Arctic Climate Change from Lake El’gygytgyn, NE Russia
Martin Melles, Julie Brigham-Grette, Pavel S. Minyuk, Norbert R. Nowaczyk, Volker Wennrich, Robert M. DeConto, Patricia M. Anderson, Andrei A. Andreev, Anthony Coletti, Timothy L. Cook, Eeva Haltia-Hovi, Maaret Kukkonen, Anatoli V. Lozhkin, Peter Rosén, Pavel Tarasov, Hendrik Vogel, and Bernd Wagner
北極からの過去の環境記録がほとんど得られていないことが北極の将来予測の妨げとなっている。ロシア北東部のEl’gygytgyn湖の堆積物から過去280万年間(2.8Ma)の古環境を復元。MIS11cとMIS31に'スーパー間氷期'があったことが分かり、現在(MIS1)や最終間氷期(MIS5)と比較して夏の最高気温は4-5℃高く、降水量も300mmほど多かったらしい。こうした変化は軌道要素や温室効果ガスの濃度では説明できず、増幅フィードバックが関与している可能性を示唆している。また北極の温暖化は西南極氷床の後退ともタイミングが一致しており、両極で気候がリンクしていたことを示唆している。
Melles et al. (2012)を改変。 ICDPの一環でロシア北東部の湖において堆積物が採取された。 |
Reports
Sulfate Burial Constraints on the Phanerozoic Sulfur Cycle
Itay Halevy, Shanan E. Peters, and Woodward W. Fischer
硫黄循環は堆積物中の有機物分解に影響するため、大気や海水の酸化状態を決定する。しかし堆積物と海水間の硫黄フラックスを支配する要素の理解は不完全なままである。硫黄を含んだ蒸発岩(CaSO4)の硫黄同位体分析から顕世代(過去5億年間)の蒸発岩の埋没フラックスを推定。硫黄は半分が河川を通じて海洋にもたらされるが、もともとは蒸発岩の風化が起源である。硫黄の埋没速度は時代によって異なり、蒸発岩の形成と保存に適した海洋環境の変化と密接に繋がっている。逆に硫化鉄の埋没速度はあまり変動せず平衡状態に達している。これらの事実は硫黄循環が大気の酸素濃度を規定している重要な要素であることを示唆している。
Rapid Variability of Seawater Chemistry Over the Past 130 Million Years
Ulrich G. Wortmann and Adina Paytan
流体包有物のデータは海水の主元素濃度が地質時代とともにゆっくりと変化したことを示唆している。しかしながら高解像度の同位体記録は非常に早い変動を物語っている。そこで非安定状態のボックスモデルを用いて過去1億3千万年間の全球の硫黄循環をモデリングしたところ、観測されているδ34S記録は海洋の硫酸塩濃度の変化(蒸発岩の形成と溶解)で最も良く説明されることが分かった。基本的には均衡状態で、時折急激な変動が見られる。硫黄濃度は様々な生物地球化学的過程(炭酸塩形成、有機物分解、堆積物中でのリン酸再生成、窒素固定、硫酸エアロゾル生成)に影響する。硫黄の変化は海洋の生物生産にも影響し、全球の炭素循環や気候にも影響したと考えられる。
Diversity of Interaction Types and Ecological Community Stability
A. Mougi and M. Kondoh
生態学の理論は多くの生物種からなる複雑なコミュニティーは不安定であることを予測しているが、どういった関係性(拮抗、競争、中立など)がコミュニティーの維持に重要な要素であるかについてはまだ疑問が多い。拮抗や中立のモデルを組み込むと現実の個体数変動をよく再現できることが分かった。複雑さが増すことによってコミュニティーの安定性は’増す’ということも分かった。多様性と関係性の2つが重要である可能性がある。