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2012年3月29日木曜日

全球の海洋表層の二酸化炭素の収支(放出vs吸収)

Climatological mean and decadal change in surface ocean pCO2, and net seas-air CO2 flux over the global oceans
T. Takahashi, R. A. Feely,  M. Ishii, et al.
Deep-Sea Reserch Part Ⅱ, vol. 56, (2009) pp. 554-577
より。
Takahashi et al. (1993, 1995, 1997, 2002)に続く、全球の海洋表層の海水の二酸化炭素分圧(pCO2)と二酸化炭素の収支(海が二酸化炭素を吸収しているか⇄放出しているか)をこれまでの40年間にわたる海洋観測で得られた測定値から計算。



観測の継続の結果、今ではデータ数が300万になっているらしい(ただしEl Nino時のデータを除外している)。
ただしデータは主に北半球の中緯度域に集中していて、主に南半球のデータは各月のデータが得られていない場合がほとんどである。例外的にDrake Passageにおいては長期モニタリングが行われている。

データは基本的にpCO2を直接測定したものに限られ、全炭酸・アルカリ度から計算によって求めたpCO2は用いていない。
測定方法は以下の2通り
  1. turbulent water-air equilibration method
  2. membrane-equiribrator method
どちらもキャリアとなるガスを海水試料に流し、二酸化炭素に関して気液平衡になった状態のキャリアガスを赤外分光またはガスクロマトグラフにて測定し、以下の式に従ってpCO2を求める。

pCO2 (SW) = XCO2 (Peq - Pw)

ここで、XCO2 は測定した二酸化炭素のキャリアガス中のモル率、Peqはチャンバー内の圧力、Pwは気液平衡時の温度・塩分における水蒸気の飽和蒸気圧である。

また実際にはpCO2測定時の温度から現場の(海水の)温度におけるpCO2を求める必要があるので、Takahashi et al. (1993)によって求められた温度の換算式を用て変換を行う。
pCO2には強い温度依存性があるため、現場の温度をどう取るかも非常に重要である。

例えば、大気と海水の二酸化炭素の交換は海面で行われるが、このとき海面(500μmほどの薄膜モデル)の温度は必ずしもバルクの(表層30mほどの)海水温とは一致しない。
例えば風が強い(例えば、6m/s以上)海域では海表面は冷却されてしまう。大西洋の例だと0.17℃ほどの冷却が観測されている。
逆に風がほとんど吹かない熱帯の海では、特に昼の日射量が最大となる時において海表面は2℃ほど上昇することも観測されている。

しかしながら、ここでは海洋を緯度4º、経度5ºごとに分割してそれぞれのボックスごとに海水のpCO2と二酸化炭素の収支の計算を行うので、こうした海表面での冷却・加熱効果は日変動・季節変動・塩分の変化・風速の変化・海流の変化・生物活動の寄与などによってキャンセルされるとして考える。
しかしながら今後見積もり値のエラーを小さくするためには、細かく分類して考える必要がある。

観測の行われた期間において温度・圧力・塩分はほとんど変化していないが、大気中の二酸化炭素濃度は上昇し続けているので(30年間で45μatm)、海水のpCO2も変化し続けている。
また各海域の観測も様々な年、季節に渡っていて、そのままでは直接比較することが難しい。
従って2000年の海水の状態を基準として各年代の測定値を補正した。
(例えば、2004年の12月のデータと1993年の12月のデータをそれぞれ補正して2000年の12月のデータとして扱う。このとき大気中の二酸化炭素濃度の増加率である1.5μatm/yrを用いてすべての測定データを2000年を基準に規格化した。)

こうして規格化をした後、各ボックスごとの平均的なpCO2と二酸化炭素の収支を計算した。

二酸化炭素の収支の計算は以下の式に従って行った。

Flux = k*s*(pCO(SW@2000)-pCO(atm@2000))
k = 0.585*(Sc)-0.5*(U@10m)2

ここで、kは二酸化炭素の輸送速度、Scはシュミット数と呼ばれる定数、Uは海表面から10mの高さの風速である。当然これらの変数も温度・圧力・塩分などに影響されて季節変動を示すので、結果的に二酸化炭素の収支も複雑な変動パターンを示す。


さらに、計算値には以下に示す多くの誤差が伴う。
  1. ΔpCO2測定(大気+海洋)自体の誤差 → ±13%
  2. 薄膜モデルでのガス輸送の変数(k, s)に関する誤差 → ±30%
  3. 全球の風速の観測値に関する誤差 → ±20%
  4. 2000年の規格化に用いた1.5μatm/yrという見積もりに関する誤差 → ±35%
以上の誤差が独立に作用するとして、合計で「±53%」もの誤差が伴う


以上の手法によって得られた、各海域ごとの二酸化炭素の収支の特徴は以下の通り。
ENSOやPDO(Pacific Decadal Oscilation;太平洋10年変動)の影響は太平洋の低緯度域を除く全ての海域で顕著には確認されなかった
Takahashi et al. (2009) Fig. 15を改変。
(A)2月の二酸化炭素のフラックス (B)8月の二酸化炭素のフラックス。赤が海から大気への放出、紫が大気から海への吸収を表す。季節性が明瞭な海域と不明瞭な海域が存在するが、主に生物活動と海洋循環(深層水の混合)が原因。
○北大西洋
世界で最も大きな二酸化炭素の吸収場(-2.5 tC/month/km2)。二酸化炭素分圧が低く、風が強いことが二酸化炭素の交換率を高めている。

○南インド洋
比較的大きな二酸化炭素の吸収場(-1.1 tC/month/km2)。

○低緯度域
太平洋が最も大きな二酸化炭素の放出場(+0.8 tC/month/km2)。季節変動はあまり大きくない。
インド洋の湧昇域には世界で最もpCO2が高い水が存在するが、二酸化炭素の放出量は大西洋の湧昇域に比べると三番目(+0.5 tC/month/km2)。特に南西モンスーン期の風に駆動される北西アラビア海の湧昇による二酸化炭素の放出が顕著。

○太平洋、大西洋の中緯度域
南北両半球で同じ程度の吸収源(-0.2 ~ -0.5 tC/month/km2)。

○南大洋の海氷が張り出さない海域
夏に吸収し、冬に放出するため、結果的に収支はゼロに。

○南大洋の海氷が変動する(季節によって張り出したり後退したりする)海域
海氷が覆っている時は交換が起こらないため、収支はゼロ。海氷が後退すると植物プランクトンがブルーミングを起こし、二酸化炭素を固定するため吸収源に。しかしデータ不足。

○北極海
同じくデータ不足。

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現在の海の海洋表層は全体として二酸化炭素の吸収場(-1.6 ± 0.9 PgC/yr)。
先行研究の見積もりでは産業革命以前は海洋表層は二酸化炭素の放出場(+0.4 ± 0.2 PgC/yr)だったとされているため、産業革命以降人類が放出した二酸化炭素の吸収速度は2000年を基準として、「-2.0 ± 1.0 PgC/yr」となる。

※コメント
pCO2の測定の仕方からフラックスの計算の仕方、誤差の見積もりなど非常に参考になった。また各海域の二酸化炭素フラックスの概観も分かり非常に良かった。
海洋観測は同じ作業の繰り返し。時には荒れ狂う海にわざわざ突入してデータを取りに行くこともある。多くの研究費・人件費・労力が必要な大変な作業。
最大限に有効活用させてもらわねば。。

前に学会で東南アジアの学生が、「インドネシア多島海は二酸化炭素の吸収源で、この量は排出権取引で米ドルに直すと○○万ドル」といった話をしていた。各国の財政・経済状況はあれど、海洋の炭素の収支は基本的に地理が決めているため、それでもって金銭の支払いを先進国に求めるのは間違っていると思った。その考え方だと太平洋の低緯度の島々は多額の金銭を払わなければならなくなってしまう。