Feely et al., 1999
Nature vol. 398, 597-601 (15 April 1999)
Seasonal and interannual variability of CO2 in the equatrial Pacific
Feely et al., 2002
Deep Sea Research Ⅱ vol. 49, 2443-2469
Decadal variability of the sea-air CO2 fluxes in the equatorial Pacific Ocean
Feely et al., 2006
Journal of Geophysical Research vol. 111, C08S90
より。赤道太平洋の海洋表層における二酸化炭素放出に関する論文3本のまとめ。
特に赤道太平洋は世界最大の炭素放出場で、その量は年間1PgCという大量の炭素に相当する。
二酸化炭素放出の原因としては海洋循環と生物活動が大きく関係している。
赤道には湧昇帯と呼ばれる、深層水が表層にもたらされる海域が存在するが、これらの深層水は一般に冷たく、栄養塩・炭素に富むという特徴がある。
現在の深層水は主に北大西洋と南大洋の大西洋セクターの2カ所で形成され、熱塩循環によって世界の海に運ばれるが、深層水が年を経るごとに上から降ってくる有機物や炭酸塩(いわゆるマリンスノー)を分解することで栄養塩と炭素を蓄積する。
特に太平洋の深層には世界で最も古い深層水が存在する(14C年代でおよそ1500年程度)。
赤道太平洋の湧昇帯からもたらされる深層水は比較的浅い部分からもたらされているらしい。
湧昇水の起源は南太平洋西部の深層水(300m以深)で、赤道低層流(Equatrial undercurrent; EUC; 70-100m深)によって太平洋を東に流れ、赤道東太平洋(Eastern Equatrial Pacific; EEP)から湧昇する。
一部は湧昇後、亜熱帯で再び中層に沈み込み、湧昇水に再利用されているらしい。
大気中の二酸化炭素のフガシティーをfCO2(atm)、海洋表層の二酸化炭素のフガシティーをfCO2(w)とすると、それらの差(ΔfCO2)に応じて二酸化炭素がどちらに移動するかが決まる。
フガシティーとは大まかには分圧に等しく(理想気体では完全に同一)、気体の’逃散能’とも呼ばれる圧力の単位を持った物理量である。
flux = k*s*(fCO2(w) - fCO2(atm)) = k*s*ΔfCO2
where ΔfCO2 = fCO2(w) - fCO2(atm)
ここでkはガス輸送関数(風速の関数)、sは二酸化炭素の溶解定数である(温度、塩分の関数)。
つまり、基本的にはフガシティーの差(分圧差)が二酸化炭素の移動の方向を決めている。
また風が強いほど二酸化炭素の移動は盛んになる。
現在は大気中の二酸化炭素濃度が年間2ppmという速度で上昇しているが、モデル計算からはいずれ赤道太平洋の海洋表層のfCO2(w)の上昇速度が追いつかず、ΔfCO2がゼロに近づくことが予想されている。
湧昇水は中層水を起源とするため、大気と二酸化炭素に関して平衡に達するのに時間がかかるためである。
現在はほとんど大気と同じ速度で海洋表層のfCO2(w)が上昇しており、大気-海洋の二酸化炭素の交換が効率よく起こっていることが示唆される。
赤道太平洋の二酸化炭素フラックスはENSOやPDOなどの数年〜数十年の周期で変動する海洋の気候モードと密接に関わっている。
ENSOは赤道の混合層の深さ、貿易風の強弱、表層水温が連動して変動することが知られているが、特にEl Ninoの時には東部の混合層が深くなり、冷たい深層水の湧昇が抑制される。結果として表層水温が数℃上昇し、南米において干ばつを招いたりする。
逆にLa ninaの時には東部の混合層が浅くなり、湧昇が強化される。結果として栄養塩・炭素に富む湧昇水が表層にもたらされることで、表層水温は低下し、二酸化炭素が盛んに放出され、生物一次生産が向上する。
また海洋の変動はウォーカー循環を介して大気の変動とも密接に関わっており、それらはSOI(Southern Oscilation Index; 南方振動指数)の変動にも現れる。
一方PDOは10年または70年の周期で太平洋全体の気候状態や生態系が大きくシフトする現象を指す。最近のレジームシフトは1976-1977年, 1988-1989年, 1997-1998年に起こったことが知られている。
海洋表層水の二酸化炭素分圧のモニタリングが1981年から始まっており、これら3つの論文はすべて一環してEl Nino時の赤道太平洋のfCO2(w)の変化を議論している。
風速や水温は主に別の観測(例えば人工衛星を用いた観測記録など)から得られた記録を用いている。上述の式を用いることで炭素フラックスを計算することができる。
El Nino時には貿易風の弱化とそれに伴う湧昇の抑制によって平年よりも二酸化炭素分圧が大きく低下する。
また1997-1998年のレジームシフトの後には二酸化炭素分圧が上昇した。その理由としては風速の強化が考えられる。
また1990年を境にfCO2(w)の上昇率が増加した。
さらに、fCO2(w)と水温の間に逆相関が見られたが、その回帰直線の傾きは季節変動・経年変動が見られた。
El Ninoの時には大気中の二酸化炭素濃度が変動することが知られているが、赤道太平洋の変動が3割ほど寄与しているらしい。
※コメント
現在の赤道太平洋の炭素循環をより良く理解するために読んだ論文。
実際に僕が知りたいのはpHの変動であるが、pHとpCO2はほぼ一対一の変動パターンを示すをするので、非常に参考になった。
pHを求めるためには直接pHを測定するか、「アルカリ度」「全炭酸」「二酸化炭素の分圧またはフガシティー」のうち2つの測定値から炭酸系の計算によって求める必要がある。
アルカリ度が産業革命以降変化していないという仮定が成り立つならば計算することが可能であるが果たして…?
やはり海洋観測のデータは予算や時間的に航海ができるかどうかにかかっているので、データの欠損が多いのが残念。しかし大変貴重なデータであることは間違いない。
もしpHの直接測定データ、炭酸系の計算によって求めたpHのデータを完全に同一のものとして扱うことができるなら(pHにして0.02ほどの精度で)、わりと1980年以降のpHの時系列変化はカバーできるかもしれない。
赤道太平洋における1990年の二酸化炭素フラックス。1990年はEl NinoでもLa Ninaでもない年であることが知られている。
(a) 1990年の1年平均の二酸化炭素フラックス。特に赤道の湧昇帯に正のフラックスが見られる。
(b) 1990年5月及び11月の二酸化炭素フラックス。季節変動が見られる。
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赤道には湧昇帯と呼ばれる、深層水が表層にもたらされる海域が存在するが、これらの深層水は一般に冷たく、栄養塩・炭素に富むという特徴がある。
現在の深層水は主に北大西洋と南大洋の大西洋セクターの2カ所で形成され、熱塩循環によって世界の海に運ばれるが、深層水が年を経るごとに上から降ってくる有機物や炭酸塩(いわゆるマリンスノー)を分解することで栄養塩と炭素を蓄積する。
特に太平洋の深層には世界で最も古い深層水が存在する(14C年代でおよそ1500年程度)。
赤道太平洋の湧昇帯からもたらされる深層水は比較的浅い部分からもたらされているらしい。
湧昇水の起源は南太平洋西部の深層水(300m以深)で、赤道低層流(Equatrial undercurrent; EUC; 70-100m深)によって太平洋を東に流れ、赤道東太平洋(Eastern Equatrial Pacific; EEP)から湧昇する。
一部は湧昇後、亜熱帯で再び中層に沈み込み、湧昇水に再利用されているらしい。
大気中の二酸化炭素のフガシティーをfCO2(atm)、海洋表層の二酸化炭素のフガシティーをfCO2(w)とすると、それらの差(ΔfCO2)に応じて二酸化炭素がどちらに移動するかが決まる。
フガシティーとは大まかには分圧に等しく(理想気体では完全に同一)、気体の’逃散能’とも呼ばれる圧力の単位を持った物理量である。
flux = k*s*(fCO2(w) - fCO2(atm)) = k*s*ΔfCO2
where ΔfCO2 = fCO2(w) - fCO2(atm)
ここでkはガス輸送関数(風速の関数)、sは二酸化炭素の溶解定数である(温度、塩分の関数)。
つまり、基本的にはフガシティーの差(分圧差)が二酸化炭素の移動の方向を決めている。
また風が強いほど二酸化炭素の移動は盛んになる。
現在は大気中の二酸化炭素濃度が年間2ppmという速度で上昇しているが、モデル計算からはいずれ赤道太平洋の海洋表層のfCO2(w)の上昇速度が追いつかず、ΔfCO2がゼロに近づくことが予想されている。
湧昇水は中層水を起源とするため、大気と二酸化炭素に関して平衡に達するのに時間がかかるためである。
現在はほとんど大気と同じ速度で海洋表層のfCO2(w)が上昇しており、大気-海洋の二酸化炭素の交換が効率よく起こっていることが示唆される。
赤道太平洋の二酸化炭素フラックスはENSOやPDOなどの数年〜数十年の周期で変動する海洋の気候モードと密接に関わっている。
ENSOは赤道の混合層の深さ、貿易風の強弱、表層水温が連動して変動することが知られているが、特にEl Ninoの時には東部の混合層が深くなり、冷たい深層水の湧昇が抑制される。結果として表層水温が数℃上昇し、南米において干ばつを招いたりする。
逆にLa ninaの時には東部の混合層が浅くなり、湧昇が強化される。結果として栄養塩・炭素に富む湧昇水が表層にもたらされることで、表層水温は低下し、二酸化炭素が盛んに放出され、生物一次生産が向上する。
また海洋の変動はウォーカー循環を介して大気の変動とも密接に関わっており、それらはSOI(Southern Oscilation Index; 南方振動指数)の変動にも現れる。
一方PDOは10年または70年の周期で太平洋全体の気候状態や生態系が大きくシフトする現象を指す。最近のレジームシフトは1976-1977年, 1988-1989年, 1997-1998年に起こったことが知られている。
海洋表層水の二酸化炭素分圧のモニタリングが1981年から始まっており、これら3つの論文はすべて一環してEl Nino時の赤道太平洋のfCO2(w)の変化を議論している。
風速や水温は主に別の観測(例えば人工衛星を用いた観測記録など)から得られた記録を用いている。上述の式を用いることで炭素フラックスを計算することができる。
Feely et al. (2006) Fig. 8を改変。
B) fCO2(w)、ΔfCO2(w)の時系列変化。1982-1983、1986-1987、1991-1994、1997-1998、2002-2003年のEl Ninoの時に大きな低下が見られる。
C) 計算によって求めた二酸化炭素フラックス。基本的にはB図と同じ変動が見られる。
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El Nino時には貿易風の弱化とそれに伴う湧昇の抑制によって平年よりも二酸化炭素分圧が大きく低下する。
また1997-1998年のレジームシフトの後には二酸化炭素分圧が上昇した。その理由としては風速の強化が考えられる。
また1990年を境にfCO2(w)の上昇率が増加した。
Feely et al. (2006) Fig. 2を改変。1990年を境にfCO2(w)の上昇率がやや増加した。 |
El Ninoの時には大気中の二酸化炭素濃度が変動することが知られているが、赤道太平洋の変動が3割ほど寄与しているらしい。
※コメント
現在の赤道太平洋の炭素循環をより良く理解するために読んだ論文。
実際に僕が知りたいのはpHの変動であるが、pHとpCO2はほぼ一対一の変動パターンを示すをするので、非常に参考になった。
pHを求めるためには直接pHを測定するか、「アルカリ度」「全炭酸」「二酸化炭素の分圧またはフガシティー」のうち2つの測定値から炭酸系の計算によって求める必要がある。
アルカリ度が産業革命以降変化していないという仮定が成り立つならば計算することが可能であるが果たして…?
やはり海洋観測のデータは予算や時間的に航海ができるかどうかにかかっているので、データの欠損が多いのが残念。しかし大変貴重なデータであることは間違いない。
もしpHの直接測定データ、炭酸系の計算によって求めたpHのデータを完全に同一のものとして扱うことができるなら(pHにして0.02ほどの精度で)、わりと1980年以降のpHの時系列変化はカバーできるかもしれない。