出版社:国書刊行会
出版年:平成21年(2009年)
経済アナリストの書いた、地球温暖化問題に対する世界各国の今の取り組み(京都議定書、スターン報告書、IPCC第4次報告書など)をまとめた上で問題点を指摘し、いま何をすべきかを社会に向けて提言するという調の本。
温暖化した世界で何が起きるか、についてはあまり科学的な知見に基づいた記述はされておらず、かなり大げさな(極端な)表現が目につくというのが第一印象。
「灼熱地獄、阿鼻叫喚地獄」
「生きとし生けるものすべてが死滅する」
「地球は金星のような星になる by Stephan W Hawking」
などなど。
温暖化するのはまず間違いないと思うが、果たしてそれが何度上がるのかについては残念ながら今の知見を総動員してもきちっとした答えが出せないのが現状だ。
2100年までに二酸化炭素濃度が1000ppm上昇したとしてIPCC第4次報告書では最悪4.5℃地球の平均気温が上昇すると見積もっているが、最近Scienceに出たモデルの結果[Schmittner et al., 2011]では2.3℃の上昇が最もあり得そうと見直された。もちろんこれはたった1例に過ぎないので、世界各国で独立に開発した各モデル結果のまとめは次のIPCC第5次報告書でなされるだろう。
温暖化した世界では地球の平均気温が上昇するだけでなく、
- 嵐の頻度が上昇する
- 水循環が極端になる(豪雨、干ばつの強化)
- 生態系が激変する
- 高緯度の氷床・氷河・ツンドラが融解する
- 海水準が上昇する
- 熱帯の疫病が北上する
- 食料問題が発生する
- 世界で暴動が起きる(?)
など様々なことが起きると考えられている(一部は既に起き始めている)。
が、生態系は今のものは破壊尽くされるだろうが、また新たな環境に合わせて新しい生態系が形成されるだろうし(温度耐性のある動植物だけの、多様性が失われた味気ない世界かもしれないが)、著者が述べるようにすべての生物が絶滅するとは思わない。
金星があのような状態にあるのは単に温室効果ガスの濃度だけの問題ではなく、「熱容量の大きな水が存在しない」「地球よりも太陽に近い」「アルベドが低い」などのファクターも関係している。
また「positive feedback」や「二酸化炭素、メタン以外の温室効果ガスの寄与」などの理解が不足している気がする。
科学的な側面に目をつむれば、この本を通して非常に多くのことを学ばせてもらった。
例えば、
- 一次エネルギー資源(石油、石炭、天然ガス、ウラン)の枯渇とそれに変わる代替エネルギー(太陽、風力、バイオ燃料)の利点・欠点
- IPCCを管理するのは国連の下部の下部組織にすぎないため、それに代わる新たな「環境国際連合」などを立ち上げる必要があること
- 日本のエコ技術を他国のエネルギー生産の効率化に役立てるべく、世界の先陣を切るべきこと
- 今後注目すべきは中国・インドの貧困層
- 低炭素社会と経済発展は矛盾せず、相互に発展することが可能
などなど。
特に著者が力を入れているのがバイオ燃料の開発で、実際に中国に大規模なプランテーションを開発している途中で、それが「地球の救世主になる」とまで言い切っている。
「ジャトロファ」という植物の実に含まれる油分がバイオ燃料の原料になるらしい。落葉低木の一種で、干ばつや害虫にも強く、1年ほどで実を付けるのが特徴。遺伝子組み換えによって生産効率を上昇させているらしい。
「実が燃える際に発生する二酸化炭素の3倍以上の二酸化炭素を吸収する(二酸化炭素を食べて成長する)」
ということらしいが、では落ち葉や燃料として不要になる実はどうなるのか??
自然中ではそれらは土壌において微生物の働きによって腐食し分解され、二酸化炭素やメタンとして再び大気中に放出される。
どこかに貯留でもする予定なのか?それとも新たな資源になる見込みがあるとか?
作ったバイオ燃料も燃焼によってエネルギーを取り出すと、新たな技術で炭素貯留をしない限り再び大気中に放出される。
正味で大気中の二酸化炭素の固定に効くのはジャトロファ自体が身体を支えるためのセルロースとして固定される分。
ジャトロファは50年間枯れないということで、少なくとも50年はセルロースは分解されず、二酸化炭素の固定をし続けることは期待される。
また食料ではないので、穀物(サトウキビ、トウモロコシなど)と違い物価にも影響を与えないという大きなメリットがある。
一応、二酸化炭素の放出源にはならないので、’環境に優しい’エネルギー源と言える?
僕はバイオ燃料には注目はしているものの懐疑的な立場だ。
バイオ燃料を製造するすべての過程で本当に二酸化炭素に関して放出となっていないか、或いは温暖化に寄与する他の影響はないのか(ブラックカーボンの生成、焼き畑による森林の消失など)ということを考えてしまう。
バイオ燃料についての知識がまだまだ不足しているため、今後もっと勉強しなければと思った。