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2012年3月26日月曜日

南大洋の海洋循環と全球の気候とのコネクション(Marshall & Speer, 2012, Ngeo)

Closure of the meridional overturning circulation through Southern Ocean upwelling
John Marshall & Kelvin Speer
nature geoscience vol. 5, pp. 171-180. (March 2012)
のレビュー論文より。

いわゆる子午面循環(MOC)において重要な役割を果たしているのは北大西洋における冷たく・高密度の海水の沈み込みであると考えられてきた。
しかしながら、南大洋のMOCにおける役割の大きさが認識され始めてきている
また技術の進展と観測の充実により、これまで捉えることのできていなかった深層水のゆっくりとした流れも分かるようになってきた。



南大洋では沈み込みと湧昇の両方が起きている

南大洋は南極を取り巻く南半球高緯度の冷たい海の総称である。
Marshall & Speer (2012) Fig. 2を改変。
黒の線が夏と冬の海氷の張り出す位置を表す。オレンジの線はそれぞれ極前線(PF; Polar Front)と亜南極前線(SAF; Sub-Antarcic Front)を表す。緑の→は南極周回流(ACC; Antarctic Circumpolar Front)を表す。
アフリカの南から南極に向かう測線において(上図の赤線に沿って)、南大洋の鉛直断面をとってみると、南極に向かって北大西洋を起源とする比較的高塩分の深層水(NADW; North Atlantic Down Water)が貫入してきている。それらの水は南緯50-60º付近で湧昇する。
湧昇した水は2つに分岐し、一方はより高緯度の南緯65º付近で南極大陸にそって5kmほどの深層に向かって沈み込む。これらの水は南極低層水(AABW;Antarctic Bottom Water)と呼ばれる。
もう一方は亜南極モード水(SAMW; Sub-Antarctic Mode Water)或いは南極中層水(AAIW; Antarctic Intermediate Water)と呼ばれる中層水である。

深層水・中層水の形成は海水の塩分・温度・種々の栄養塩・炭素・窒素などの交換において重要な役割を負い、またそれらの輸送にも関わっている。
例えば、氷期-間氷期という時間スケールでは大気中の二酸化炭素濃度が80-100ppm変化したことが知られているが、南大洋における海洋物理・生物地球化学的な特徴が変化したことで、南大洋の深層水炭素リザーバーの大きさが変化したことが大気中二酸化炭素濃度の変化に繋がったという説が有力である。

また現在の海では太平洋の北半球高緯度においては大きな沈み込みは起こっていないが、大気との二酸化炭素の交換は盛んに起こっている。
つまり、深層水の形成はNADWとAABWの2カ所が主要な場として挙げられる。

Sigman et al., (2010, nature) Fig. 3を改変。
右は太平洋、左は大西洋における深層水循環を表す。→の色で深層水を区別している(灰:SAMW/AAIW、青:NADW、黄:AABW、緑:NADWとAABWの混合)。
Marshall & Speer (2012) Fig. 1を改変。
MOCの概略図。実際には世界の大洋は大西洋・インド洋・太平洋に大陸によって区分されている。色分けされているのは海水中の酸素濃度。一般に古い水ほど酸素濃度が低く、新しい水ほど酸素濃度が高い。NADW、AABW、南大洋における湧昇を考えると、大まかに上のセルと下のセルに分けて深層・中層の循環を考えることができる。
以降、「南大洋における湧昇」について述べておく。

湧昇のきっかけとなっているのは南極周辺をとりまく偏西風帯の存在である。またその下には世界の海で最も最大の海流、南極周回流(ACC; Antarctic Circumpolar Current)が存在する。
これらがきっかけとなって熱塩拡散による力を必要せずに、表層における応力によって湧昇が駆動され、表層水と中層水がかきまぜられている(繋がっている)。

また湧昇水は湧昇後2つのセルに分岐する
1つはSAMW/AAIWに取り込まれ、世界の海を循環し、やがて北大西洋高緯度で沈み込む(上部のセル)。
もう1つのセルはAABWに取り込まれ、さらに深層へと運ばれる(下部のセル)。NADWの7割ほどは下部のセルに入るらしい。

上部・下部のセルを分けるのにはACCの位置と強度が大きく寄与していて、地質学時代においてはそれらが変化したことで、湧昇の位置や深層水形成も変化し、全球の気候に影響したと考えられる。

特に炭素循環においては南大洋は中核をなしていたと考えられている。

氷期-間氷期サイクルにおいて大きく変化していたもののうち、南大洋に深く関係するメカニズムは以下の通りである。

  1. 海氷の張り出し
  2. 両極シーソー(bi-polar seesaw)
  3. 南大洋の偏西風の位置の変化
  4. 水収支をきっかけとする密度バランス
1、海氷の張り出し
海氷の位置は直接に中層水と表層水の接触面を決める。一般に気温の低かった氷期には海氷の張り出しも強化していた。そのため氷期には湧昇が弱化し、湧昇水からの二酸化炭素の放出が抑制されていたというメカニズムが提唱されている。

2、両極シーソー(bi-polar seesaw)
南大洋の温度を決めていたのは、北大西洋高緯度における密度擾乱であったと考えられる。北大西洋が冷えれば南大洋は暖まる、その逆もまた起こる、という仕組みが両極シーソーである。南大洋の温度は海氷の位置や偏西風の位置を決める。

3、南大洋の偏西風の位置の変化
寒い時期(例えば氷期)には偏西風の位置はより赤道側にシフトしていたらしい(10ºもの大きな位置の変化)。その結果、偏西風がDrake Passageの上を通らなくなり、ACCにも大きく影響した。
逆に暖かい時期(例えば間氷期)には現在の位置にあった。

4、水収支をきっかけとする密度バランス
一般に氷期は寒冷で乾燥していたと考えられているが、南大洋の表層水の温度・密度の変化も水平・鉛直循環に影響したと考えられる。
また海氷が形成/融解するときには高塩分濃度の水が増加/減少するというbrineの形成メカニズムも海水の密度バランスにおいて重要である。

※コメント
やはり海洋物理の知識は重要。今回はレビュー論文のうち海洋物理の項目はすっ飛ばして読んでしまったが、いずれきちんと読み直してみたいと思う。
特に湧昇の物理は赤道湧昇の理解にも繋がるハズ。