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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年2月28日木曜日

新着論文(SR, Ncom)

◎Scientific Reports
Mediterranean megaturbidite triggered by the AD 365 Crete earthquake and tsunami
Alina Polonia, Enrico Bonatti, Angelo Camerlenghi, Renata Giulia Lucchi, Giuliana Panieri & Luca Gasperini
AD365 7月21日にエジプトのアレキサンドリアを津波が襲った。地中海の堆積物にはHomogenite/Augiasとして知られる厚さ20-25mものタービダイトが存在することが知られていたが、それはこれまでSantoriniカルデラの山体崩壊が原因と考えられていた。新たな研究からそれが津波性のものであることが示された。地中海では長い再来周期でもって大きな堆積イベントが起きているらしい。

La Nin ̃a forces unprecedented Leeuwin Current warming in 2011
Ming Feng, Michael J. McPhaden, Shang-Ping Xie & Jan Hafner
2011年2〜3月、西オーストラリアにて異常高水温が観測された。2週間にわたってSSTが5℃も例年よりも高かった。それにより大規模なサンゴの白化や魚の死を招いた。観測データから、それがLeeuwin海流が普段よりも極側に流れたことが原因であることが分かった。おそらく2010-11年のラニーニャのテレコネクションが原因と考えられる。

◎Nature Communications
Increased ventilation of Antarctic deep water during the warm mid-Pliocene
Zhongshi Zhang, Kerim H. Nisancioglu & Ulysses S. Ninnemann
鮮新世中期の温暖期にはAMOCが強化されていたことがδ13Cの南北傾度の弱化から示唆されている。しかしモデルシミュレーションではそうしたAMOCは再現されていなかった。δ13Cの記録は南大洋でよりガス交換が盛んに起こっていれば、AMOCに変化がなくても説明できる。さらにそうした現象はESMを用いて再現できた。

新着論文(Nature#7438)

Nature
Volume 494 Number 7438 pp401-512 (28 February 2013)

EDITORIALS
Gold on hold
保留中の金
先週、すべての研究論文をオープンアクセス化する化する動きが痛めつけられたが、長期的には流行るべきである。

WORLD VIEW
Nuclear safety lies in greater transparency
核の安全性はより大きな透明性の上に成り立つ
野心的な拡大計画とともに、中国は厳密で信頼のおける核の規制システムを構築すべきだ、とQiang Wangは言う。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Carbon cycles Down Under
オーストラリアの炭素循環
Biogeosciences 10, 851–869 (2013)
森林火災や土地利用の変化にも関わらず、オーストラリアの陸上生態系は化石燃料の燃焼由来の炭素の3分の1に当たる量を1990〜2011年の間に吸収していたことが、モデル研究から明らかに。ちなみにオーストラリアは石炭の輸出国で、自国で20年間に排出したCO2の1.5倍の量を海外に輸出している。

Healthier prehistoric plaque
より健康的な先史時代の歯垢
Nature Genet. http://dx.doi. org/10.1038/ng.2536 (2013)
古代人類が農業を発明してから、現在のようなでんぷんや糖分主体の食事へと変貌を遂げる過程で、口内の微生物は劇的に変化したことが、歯垢の微生物コミュニティーのDNA分析から明らかになった。初期の農業コミュニティーでは狩猟採集主体の時代に比べて、歯肉炎などの病気を引き起こす微生物が増加し、全体的に多様性は減少したことが示された。さらに現代ではさらに多様性が減少し、虫歯のもとになる微生物が増加した。筆者らは産業革命で砂糖や小麦がより手に入りやすくなったことと関連があると考えている。

Lonely teen rats choose drugs
孤独な十代のラットはドラッグを選択する
Neuron 77, 335–345 (2013)
集団から隔離されたマウスと集団のマウスとで薬(アンフェタミンなど)に対する依存性や効果が薄れるまでの時間を調べたところ、前者の方が薬の刺激をより好み、褒美をもらう行動に関係した神経が強く作用していることが分かった。さらに隔離されたマウスをその後集団に戻しても、神経の高揚は元に戻らなかった。人間における「子供時代の経験によって、大人になってからも薬物依存になりやすいこと」を一部説明できるかもしれない。

How monarchs know where to go
オオカバマダラはいかにして進むべき場所を知るのか
Curr. Biol. http://dx.doi. org/10.1016/j.cub.2013.01.052 (2013)
秋になるとオオカバマダラ(monarch butterflies; Danaus plexippus)は北米からメキシコまでの3,200kmの距離を飛び、冬を越す。太陽によって調整された体内時計によって時期を知ることは知られていたが、南の方角は温度を感じて判断していることが新たに分かった。蝶を秋の間冷蔵庫で飼育しておき、うすら寒い時期に外に放すと、春が来たと勘違いして北の方角を目指して飛んでいったという。気候変動で温度が変化すると、彼らはいつ帰ればいいのか分からなくなるかも?

SEVEN DAYS
Crackdown on illegal fishing launched
不法漁業の厳密な取り締まりが始まった
インターポールは不法漁業を取り締まるためのイニシアチブを2/26に立ち上げた。不法漁業のホットスポットとなっている西アフリカなどのケース・スタディーを発展させる予定。

BRAZIL’S GM-CROP SURGE
ブラジルの遺伝子組換え作物の高まり
アメリカでは遺伝子組換え作物の生産量は2012年には前年に比べてわずか0.7%しか増加しなかったのに対し、ブラジルでは21%も増加した。世界を先導している。

NEWS IN FOCUS
Tusk tracking will tackle illegal trade
牙の追跡が不法貿易問題に取り組む
Daniel Cressey
押収された象牙の科学的な検査が密輸業者を見つける。

US science to be open to all
すべての人に開示される予定のアメリカの科学
Richard Van Noorden
税金によって賄われているすべての研究は12ヶ月以内に自由にアクセスできるよう政府は義務づけた。

COMMENT
Games to do you good
いい子にするためのゲーム
神経科学者らは脳の機能を大きく向上し、振る舞いを改善するテレビゲームの開発に助けとなるべきだ、とDaphne BavelierとRichard J. Davidsonは言う。

CAREERS
Environmental puzzle solvers
環境パズルを解決する人
Amanda Mascarelli
持続可能性の教育が上り調子である。組織はそれをどうすれば仕事につかえる技能へと変換できるかに腐心している。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Black holes in a spin
回転するブラックホール
Christopher S. Reynolds
NuSTAR宇宙望遠鏡が大質量ブラックホールが存在する銀河からのX線放射パターンの謎を解決する糸口になるかもしれない。

The shape of nitrogen to come
窒素の来るべき形
Mark A. Sutton & Albert Bleeker
中国における調査から人間活動が窒素循環に大きな影響を及ぼしていることが示された。一人当たりの資源利用量が増加し続けていることを受けて、発展した社会での消費パターンに再考が迫られている。

LETTERS
A rapidly spinning supermassive black hole at the centre of NGC 1365
NGC 1365の中心で急速に回転する超巨大ブラックホール
G. Risaliti et al.

A sub-Mercury-sized exoplanet
準水星サイズの系外惑星
Thomas Barclay
ケプラー宇宙望遠鏡がこれまでで最も小さな系外惑星を発見した。それは水星ほどの大きさで、太陽に似た恒星の周りを公転している。

Enhanced nitrogen deposition over China
中国全体で高まる窒素の蓄積
Xuejun Liu, Ying Zhang, Wenxuan Han, Aohan Tang, Jianlin Shen, Zhenling Cui, Peter Vitousek, Jan Willem Erisman, Keith Goulding, Peter Christie, Andreas Fangmeier & Fusuo Zhang
1980年から2010年にかけて、中国における全体の窒素蓄積量、植物の葉や作物に取り込まれる窒素量が1ヘクタールあたり8kg増加したことが示された。中国の工業化した地域や農業が盛んな地域では1980年代にヨーロッパ北西部で見られたような窒素蓄積の高まりが見られる。

Evolutionary rescue from extinction is contingent on a lower rate of environmental change
進化することで絶滅を免れるには環境変化がゆっくり変化することが条件
Haley A. Lindsey, Jenna Gallie, Susan Taylor & Benjamin Kerr
E. coliに対して抗生物質を投与する実験から、環境の変化の早さで進化によって生存できるかが強く決定されることが示された。環境の変化がゆっくりであれば、変異によってより生き残れる。

Specialized appendages in fuxianhuiids and the head organization of early euarthropods
Jie Yang, Javier Ortega-Hernández, Nicholas J. Butterfield & Xi-guang Zhang
中国で発掘されたカンブリア初期の節足動物(euarthropod)の頭部の構造について。

2013年2月27日水曜日

「地球温暖化を防ぐ」(佐和隆光、1997年)

地球温暖化を防ぐ -20世紀型経済システムの転換-
佐和隆光 著
岩波新書1997年初版 2006年第13刷 発行
¥740-

書かれたのはやや古いが、改訂を繰り返す名著。
他の人のレビューで「地球温暖化問題の入門書」として高く評価されていたが、読んでみて納得。


気になった一文集(日本語 ver. No. 7)

地球温暖化を防ぐ -20世紀型経済システムの転換-
佐和隆光 著
岩波新書1997年初版 2006年第13刷 発行
¥740-

地球温暖化問題はきわめて多面的であるため、理解することも解決することも難しい極めつきの難問である。(pp. ⅷ)

時間的な視野の長短、空間的視野の広狭の次第によって、地球温暖化問題への関心と取り組みは大きく左右される。このことこそが、地球温暖化対策についての合意形成を難しくする最大の障害なのである。(pp. 5)

今ならほとんど自明とおぼしき「成長の限界」を、高度経済成長期のさなかに言明するのには、大変な勇気を要したに違いあるまい。(pp. 25)
「ローマ・クラブ」が『成長の限界』を公表したことを受けて

もともと日本人は、質実剛健、質素倹約を旨とする生活様式を尊んできたはずである。金持ちが金持ちであるがゆえに尊敬されるということは、この国の長い歴史の中でついぞなかったし、ぜいたくは軽蔑の対象になりこそすれ、憧憬の対象になることはなかった。(pp. 27)

持続可能性という価値規範を本能的に体得した消費者が、そうした宣伝に励む企業の製品をボイコットする自由もまた保証されていることを忘れてはならない。(pp. 29)

途上諸国に別のパス、すなわち持続可能な経済発展のパスをたどることを動機づけるために、先進国は何をすればよいのかを私たちは思案しなければなるまい。(pp. 32)

時間的視野と、将来のエネルギー環境関連技術の可能性について合意形成を図ることが、持続可能性という規範を意味あらしめるための必要な手続きなのである。(pp. 34-35)

ことエネルギー消費に関する限り、私たちが欧米として一括して捉える地域は、大西洋を境にして分断されているようである。(pp. 39)
ヨーロッパは倹約型、アメリカは大量生産・大量消費型

地球温暖化問題への各国の対応ぶりは、文化社会学的の観点から見ても興味は尽きないことであろう。過去の様々な事例を挙げて「日本人は環境にやさしい」と主張する向きもあるが、私の見るところ、戦後の日本における人々の振る舞いから推すと、日本人は環境にやさしいとはとうてい言い難い。環境にやさしいかどうかの証となるのは、たとえば環境と開発といった二つの相反する価値の緊張関係に遭遇したときの人々の振る舞い方の次第である。(pp. 40)

発展途上国の経済発展を促すのが「資本の論理」ならば、世界的な規模での資源、環境、食糧の問題を引き起こすのもまた「資本の論理」なのである。(中略)先進国政府は市場に適切に介入したり、途上国への援助を適正化することによって、危機回避に努めることを自らの責務と心得るべきなのである。(pp. 45-46)

地球温暖化防止のために求められる技術革新は、理工学的な技術革新には限られず、人文社会学的な洞察と政策措置、すなわち社会経済システムに適切な改編を施すための施策をも含む、広義の技術進歩であると理解されなければならない。省エネルギーや新エネルギーに供する工学技術と、社会経済システムの改編のための経済政策技術、そして新しい文明の構想と想像とが手を携え合ってはじめて、地球温暖化問題への有意義な取り組みが可能となるのではなかろうか。(pp. 57)

大量生産、大量消費の文明は、1910年代から20年代にかけてのアメリカにおいて形作られた。ところが、その後に大量廃棄の四文字をくっつけたのは、戦後の日本ではなかったろうか。(中略)地球温暖化問題の突如の浮上は、大量廃棄を組み込んだ戦後日本の高度成長の持続可能性に対して警鐘を打ち鳴らすに至ったのである。20世紀型工業文明を見直し、21世紀型の新しい文明を構想することを、大量廃棄を高度成長の基盤の一つに据えてきた私たち日本人に課せられた、重い課題と心得なければなるまい。(pp. 60-61)

もし大量生産、大量消費の下に大量廃棄の四文字を付け加えたのが戦後の日本なのだとするならば、この国の経済社会のありよう、そして人々の意識のありようは、まさしくアンチ・メタボリズムのそれに他ならない。そうした反省をよろしく肝に銘じた上で、メタボリズム文明の具体像を細密に構想し、それを支える哲学、科学技術、そして経済学を大胆に構想し、世界に向けてメタボリズム文明社会の構築を率先垂範すること。これに勝る国際貢献はあり得ない、と私は考えている。(pp. 62)

地球温暖化問題が発信する「大量廃棄を伴う工業文明は持続不可能である」との警告に、私たちは真摯に耳を傾けなければなるまい。もし今日ある文明が持続不可能であるとするならば、持続可能性という価値規範に照らして、今日ある文明の改編を企図するのが、当然の論理的帰結であると言わざるを得まい。(pp. 63)

文明の一大転換は様々な利害得失を伴う。総じて言えば、20世紀型工業文明の担い手であった産業、自動車、石油、鉄鋼、電力などの産業にとってみれば、少なくとも短期的には、文明の転換を快しとしないであろう。しかし、時間的視野を幾分長期化し、持続可能性という価値の座標軸をもう一本新たに追加しさえすれば、これらの産業界にとってすら、メタボリズム文明への転換が望ましいことに気づくはずである。(pp. 63)

世代間の公正という価値規範にのっとれば、私たちは、次世代、次次世代に負の遺産を残してはならない。(pp. 64)

省エネルギー技術の更なる開発と普及、新エネルギーの利用可能性の拡大、リサイクルの推進、製品寿命の長期化、公共交通機関の利便性の向上等に資する施策が望まれる。のみならず、技術革新を促し、機器の普及を促し、輸送のモーダル・シフトを促すためには、社会制度の改変による動機づけが欠かせまい。のみならず、市民一人一人の自主的な取り組みもまた欠かせないのである。その意味で、地球温暖化問題は、市民一人一人が等しく関与しなければならない、21世紀最大の難問の一つなのである。(pp. 64)

日本人の環境問題への関心は総じて低く、公共的なモラルの水準も高くはないし、発展途上地域に対する関心も総じて薄い。(中略)一つは、この国の一人当たりGDPは世界一であるにせよ、日本人の生活は「環境にやさしい経済活動ができる」ほど十分「豊か」ではないこと。(中略)もう一つは、この国に住む人々の学歴は高くとも、「環境問題に不安を抱いてきちんと発言できる」ほど、その知的水準は高くないことである。(pp. 66-67)

工業化のスピードが戦後の日本のように急であれば、工業化に伴う環境の汚染に気を配る「ゆとり」などあり得ない。1960年代までの日本はまさしくそうであったし、今日の東アジア諸国もまた然りなのである。(pp. 68)
※2013年2月現在、連日中国の大気汚染がニュースを賑わせていますね。

もし環境問題が産業公害や都市公害に限られるのなら、大気汚染や水質汚濁という目に見える環境汚染が、開発優先の施策に対して否も応もなく歯止めを掛けるだろう。しかし、地球環境問題に関しては、被害が及ぶのは数十年先のことである。のみならず、被害者と加害者の識別が曖昧なこともあって、工業化の途上にある国々に、地球環境の保全の必要性を納得してもらうのは至難の業だと言わざるを得ない。工業化を遂げた先進諸国に住む人々は、途上国の人々と地球環境問題について語り合うとき、かつて自分たちも地球環境問題への配慮を欠いていたことを、また傾斜の急な工業化が環境の汚染や破壊を見えにくくすることを決して忘れてはなるまい。(pp. 68-69)

地球温暖化問題は、南北問題という古くて新しい問題に対して、もう一つの座標軸を追加したのである。(pp. 69)

エネルギー多消費型ライフスタイルに慣れ親しみ、「もったいない」という言葉とは無縁な若者に、ライフスタイルの転換を促すには、息の長い地道な取り組みが必要とされる。(pp. 77)

1980年から82年にかけての3年間、私たちは「エネルギー消費の増加を伴わない経済成長」という摩訶不思議なことを経験したのだが、冷夏という天の恵みを割り引くにしても、今後の省エネルギーを考える上で、この3年間の経験から学ぶことが多々ある。なおこの間、CO2の排出量は7.5%も減少した。(pp. 82)

化石燃料の消費削減のためには、中小製造業の省エネルギー、そして近時、増勢を強めている運輸部門と民生(家庭と業務)部門のエネルギー消費の削減を主軸に据えていかねばなるまい。(pp. 91)

原子力発電所に限らず、ゴミ焼却所、高速道路等々、様々な施設の建設に当たり「ノット・イン・マイ・バックヤード」(そうした施設の必要性は認めるが、私の家のすぐそばには作って欲しくない)というのが、誰もが共有する心理なのである。(pp. 107)

電力の消費地と生産地が距離的に隔たっているところに、アメリカでは見られない日本の電源立地の複雑さが潜んでいる。(pp. 108)

夏の暑い日に出力の高くなる太陽光発電は、電力の負荷曲線のピークカットのために有効であると評価して差し支えあるまい。(pp. 115)

電力供給設備の効率向上のためには、負荷曲線のピークを下げる(ピークカットする)こと、言い換えれば、負荷曲線をできるだけ平坦化することが望まれる。(pp. 116)

企業や消費者の倫理と自主に委ねておくだけで地球温暖化が防げるのなら、そんなありがたいことはない。しかし、既述のとおり、自由化と国際化が限りなく進む中、倫理と自主に頼る在来型手法の有効性はもはや失われたと言わざるを得まい。だとすれば、残りの手法である経済的措置と規制的措置との組み合わせに頼るしか、他に手だてがないのである。(pp. 142)

ヒトも企業も、短期の経済的な利得に視野を限れば、炭素税の導入はパレートの意味で望ましい(すべての社会構成員を現状維持または現状よりもベターオフにする)政策とは言えない。しかし、ヒトも企業も、短期の経済的利得の極大化のみを追求する近視的な主体ばかりではあるまい。時間的視野をいくぶん長期化するだけでも、短期の極大化行動とは違う行動が帰結するはずである。(pp. 165)

気になった一文集(English ver. No. 10)

When Landsat 5 fell silent on 6 January, scientists across the globe mourned its passing but gave thanks for its fortitude.

“Landsat really is a global resource.”

“I do not think it hyperbole to suggest that all seven billion of us will benefit from the Landsat continuity mission.”


Landsat 8 to the rescue
地球の環境変動などのモニタリングに活躍する人工衛星ランドサット・シリーズ

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If CO2 emissions continue as projected over the rest of this century, the resulting changes in the marine carbonate system would mean that many coral reef systems in the Pacific would no longer be able to sustain a sufficiently high rate of calcification to maintain the viability of these ecosystems as a whole, and these changes perhaps could seriously impact the thousands of marine species that depend on them for survival.
もし今世紀の残りにおいてCO2排出が予想通り継続すると、結果として生じる海洋炭酸系の変化は、太平洋の多くのサンゴ礁システムが生態系全体としての機能を維持するための高い石灰化速度を十分に維持できなくなることを意味する。そしてそうした変化はサンゴ礁に生活を依存する幾多の海洋生物にも重大な影響を与える可能性がある。

Decadal changes in the aragonite and calcite saturation state of the Pacific Ocean
Feely et al. (2012, GBC)
太平洋全体での近年の海洋酸性化

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The manufacture of portland cement accounts for roughly 5% of all human-generated greenhouse-gas emissions.
ポートランド・セメントの製造はすべての人為起源の温室効果ガス排出のおおよそ5%を担っている。

There is reason enough to get going. In the eight minutes or so that it took to read this article, cement-makers dumped another 30,000 tonnes of carbon dioxide into the atmosphere.
急ぐに足る理由がある。この記事を読むために要する8分間の間に、セメント製造者は3万トンの二酸化炭素を大気へと捨てているのである。

Green cement: Concrete solutions」Nature News
セメント生産もCO2排出の原因の一つ

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Since the 1980s, the use of nitrogen fertilizers and the number of livestock have doubled, whereas coal consumption has increased more than 3-fold and the number of motor vehicles more than 20-fold.
1980年代以来、窒素肥料と家畜の数は2倍になった。その一方で石炭消費量は3倍以上になり、自動車の数は20倍以上になった。

Chinese farmers use an average of around 600 kilograms of nitrogen fertilizers per hectare per year, but that could be cut by up to two-thirds without affecting crop yields.
中国の農家は1年間に1ヘクタールの農地に平均600kgもの窒素肥料を用いているが、作物生産量に影響を与えずに肥料の3分の2は削減可能である。

Higher consumption of meat and diary products, especially in developed countries, has substantially increased global nitrogen pollution.
特に先進国における肉や乳製品の高い消費量が全球の窒素汚染を大きく増加させた。

Nitrogen pollution soars in China」Nature News
中国の急速な発展と農業における過剰な窒素系肥料の使用が環境汚染だけでなく気候変動の原因ともなっている。

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While the majority of the economic losses from weather-related disasters are in developed world, the overwhelming majority of deaths are in developing countries.
天気に関連した災害によって起きる経済的な損失の多くは先進国におけるものである一方、人々の死の大多数は途上国で起きる。
気候変動の結果起きる気象災害

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mountain species can experience lower rates of extinction during climatic changes because they need to move considerably shorter distances to track their optimal temperature range as compared with lowland species.

From its formation about 10.5 million years ago, the Amazon River opened up entirely new habitats both on land and at sea.

Geological and biological sciences must be integrated to understand the distribution and evolution of biodiversity across the globe, on different spatial, temporal and taxonomic scales.

We must now work out which geological processes are most relevant, and how geology and climate together influence the evolutionary process.

Biodiversity from mountain building」Nature Geoscience 6, 154 (2013)
山脈形成が生物多様性に大きく寄与している

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Much of the Earth system is arranged in layers. It is often at the interface between these layers that geoscience becomes interesting.

A human ‘fingerprint’ in the stratosphere is nothing new. The discovery of the ozone hole in 1985 firmly demonstrated that human-made substances that are released at the Earth’s surface can make their way up into the stratosphere, and wreak havoc with fundamental processes of the planet.

Already, rising carbon dioxide concentrations — ultimately attributable to emissions on the ground — have been detected in the thermosphere, two atmospheric layers above the stratosphere, at an altitude of about 100 km.

A change in atmospheric composition so high up may seem of little consequence, except perhaps for uppermost air density, and hence the lifespan of satellites. From today’s point of view, this may be true. But influences from above can take time to discover.

But we now know that the ozone hole and climate warming are also closely intertwined, as are the relevant atmospheric layers.

Up and down」Nature Geoscience 6, 153 (2013)
成層圏における化学反応・循環が地表面やはるか海洋深層循環にまで影響を与えている。

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Unfortunately, the real world is more complicated still: rising concentrations of carbon dioxide are expected to fertilize tropical ecosystems, therefore offsetting potential carbon losses, and other factors (such as aerosols and non-CO greenhouse gases) also play a role.

Tropical carbon constraint」Nature Geoscience 6, 163 (2013)
温暖化によって熱帯雨林からどれだけの炭素が放出されるかの予測は難しい

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Although plenty of open questions remain, clearly this work has important lessons for the science community. We need to do a much better job of considering the full range of biodiversity in natural populations of marine species than we have done in the past, with our too-narrow focus on a few model culture isolates. 

The unexpected diversity of plastic responses to ocean acidification within this single species suggests the possibility that, in many phytoplankton populations, there may be enough existing genetic variation to allow them to cope with the profound environmental challenges they will be faced with in the future.

Plastic plankton prosper」Nature Climate Change 3, 183-184 (2013)
ピコプランクトンは海洋酸性化にもかなり適応できるかもしれない。

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Heavier pollutant loads reaching Himalayan peaks and the Tibetan Plateau beyond “could increase glacier melt,  pollute  streams, and change monsoon patterns,” threatening  the  livelihoods  of 
millions of people, warns Arnico Panday
ヒマラヤの頂とチベット高原に到達する大量の汚染物質は”氷河の融解を増加させ、河川を汚染し、モンスーンのパターンを変える可能性があり”、数百万人もの人々の生活を脅かしている、とArnico Pandayは警告する。

South Asia is a black-carbon hotspot; more than half of the estimated 8 million tons of black carbon  released  into  the air each year across the globe originates in the Indo-Gangetic Plain mostly from the burning of wood, dung, and crop residues. 
南アジアはブラック・カーボンのホットスポットである。推定800万トンのブラックカーボンのうち、半分以上が木・糞・作物の残りを燃やすことが主たる原因でヒンドスタン平野から大気へと毎年放出され、全球にまき散らされている。

At higher altitudes, greenhouse gases and particulates play an outsized role in climate, Bonasoni says. “The air is very thin and clean,” he says, “so the pollutants have a much longer  lifetime and can accumulate.” That, in turn, could influence climate by decreasing solar radiation reaching the surface and by interfering with cloud formation and precipitation, Marinoni  says.

They tell us what happened, but cannot tell us why or what will happen  in  the future.
それらは私たちに過去に起きたことを教えてくれるが、未来に起きることは教えてくれない。

Pollutants Capture the High Ground in the Himalayas」Science 339, 1030-1031 (2013)
ヒマラヤ周辺の高地にも汚染物質が届いていることが分かり、科学者を驚かせている。

2013年2月26日火曜日

新着論文(GBC, GRL, JGR)

◎GBC
Decadal changes in the aragonite and calcite saturation state of the Pacific Ocean
Richard A. Feely, Christopher L. Sabine, Robert H. Byrne, Frank J. Millero, Andrew G. Dickson, Rik Wanninkhof, Akihiko Murata, Lisa A. Miller, Dana Greeley
太平洋全体の最近の炭酸塩飽和度の変化をWOCE、JGOFS、CLIVARなどのデータセットから評価。人為CO2取り込みと海洋循環・生物活動の変化の結果、Ωは年間0.34%の早さで減少しており、Ω=1面の深さも年間1〜2mで上昇している。それらには地域性があり、南太平洋が最も多くの炭素を吸収している。一方北太平洋は10年規模の変動が支配的。このままの早さで酸性化が進行すると太平洋のサンゴ礁をはじめとするあらゆる生態系に悪影響が及ぶと考えられる。
" If CO2 emissions continue as projected over the rest of this century, the resulting changes in the marine carbonate system would mean that many coral reef systems in the Pacific would no longer be able to sustain a sufficiently high rate of calcification to maintain the viability of these ecosystems as a whole, and these changes perhaps could seriously impact the thousands of marine species that depend on them for survival."

Short-term and seasonal pH, pCO2 and saturation state variability in a coral-reef ecosystem
Sarah E. C. Gray, Michael D. DeGrandpre, Chris Langdon, Jorge E. Corredor
サンゴ礁は海洋酸性化に最も脆弱な環境の一つと考えられている。プエルトリコのMedia Luna reefにおいて2007年から2008年にかけて行われた長期的なpHとpCO2のデータを用いてサンゴ礁の炭酸系の自然変動を評価。例えば、pHは7.89 - 8.17まで変動。温度変化が変動の半分ほどを説明。残りはマングローブから運搬される有機物の分解などによる生物活動が担っている。全体としてはサンゴ礁はCO2のソースとして働いている(年間0.73 ± 1.7 mol/m2)。長期間低いΩが持続するとサンゴ礁全体の石灰化量も減少すると考えられる。

◎GRL
High emission of carbon dioxide and methane during ice-thaw in high latitude lakes
Jan Karlsson, Reiner Giesler, Jenny Persson, Erik Lundin
高緯度域の冬の炭素交換を見積もった研究は少ない。北極圏の湖において3年間に渡ってCO2とCH4のフラックスを測定。氷から解放されている期間がフラックスに大きく影響していることが示された。

Natural iron fertilisation by the Eyjafjallajökull volcanic eruption
Eric P. Achterberg, C. Mark Moore, Stephanie A. Henson, Sebastian Steigenberger, Andreas Stohl, Sabine Eckhardt, Lizeth C. Avendano, Michael Cassidy, Debbie Hembury, Jessica K. Klar, Michael I. Lucas, Anna I. Macey, Chris M. Marsay, Thomas J. Ryan-Keogh
2010年のアイスランドのEyjafjallajökull火山の噴火は北大西洋のアイスランド海盆に大量の溶存Feを供給した。採取された火山灰を用いて植物プランクトンの成長とそれに伴う栄養塩利用も強化されることが示された。人工衛星からは顕著に植物プランクトンの成長が増加した傾向は見られなかったものの、海水の栄養塩濃度は例年に比べて減少していた。従って、噴火が周辺海域の生物地球化学に大きな影響をもたらしたと推測される。

◎JGR-atm
Future change of the global monsoon revealed from 19 CMIP5 models
Pang-chi Hsu, Tim Li, Hiroyuki Murakami, Akio Kitoh
CMIP5のモデル19を用いて将来RCP4.5の排出シナリオに沿った温暖化が起きた際のモンスーンの範囲・降水量・強度がどのように変化するかを評価したところ、ほとんどのモデルがモンスーンが強化することを示した。またモンスーンとENSOの関係性もより強化されることが示された。

2013年2月22日金曜日

プレゼンのコツ

先日の「第5回 東京大学大気海洋研究所 博士論文公開発表会 所長賞」の先輩方のプレゼンを見て思ったこと、某Y先輩が常々後輩に言っていることのメモ。

Natureに載っていたプレゼンのポイントも併せて
Pressure to perform
義務を果たすことのプレッシャー

Karen Kaplan
Nature 494 (21 February 2013)


新着論文(Science#6122)

Science
VOL 339, ISSUE 6122, PAGES 873-1000 (22 FEBRUARY 2013)

Editors' Choice
Modern Warming by Proxy
プロキシによる現在の温暖化
Geophys. Res. Lett. 40, 189 (2013).
全球のあらゆる地域の気温の間接指標(木の年輪、サンゴ、アイスコア、鍾乳石、海洋堆積物)は、過去100年間に地球が温暖化していることを明らかに、そして何度も示している。新たに170の間接指標をまとめた研究では、観測がある期間については非常に良い一致を見せており、過去130年間の気温の変化を明らかにしている。気温上昇は1960年代には一度停止したが、その後現在にかけて温暖化が継続している
>問題の論文
Global warming in an independent record of the last 130 years
Anderson, D. M., E. M. Mauk, E. R. Wahl, C. Morrill, A. Wagner, D. R. Easterling, and T. Rutishauser

Risky Fishing
リスクの高い漁業
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, 2076 (2013).
牧場主などと違い漁業に従事する人には保険や価格援助などがなく、金銭的なリスクが大きい。

News of the Week
Drying Out the Cradle of Civilization
文明のゆりかごを渇かせる
チグリス・ユーフラテス沿いはもともと長く乾燥しているが、人工衛星GRACEの重力観測データから周辺に住む人々が危険な早さで水を引いていることが分かった。

Looking for Life on Mars? Dig Deeper
火星の生命探し?より深く掘れ
12,000年前に地球に落ちた火星の隕石は火星に生命が存在した証拠をより強めている。隕石には硝酸塩や過塩素酸塩が多く含まれ、それは地球に落下後に付加したものというよりは、もともと火星の地殻に含まれていたものであることを示している。地球でもあらゆる場所に生命は存在しているため、火星でもより深い場所に生命が見つかる可能性もあるという。

New Whale Species Unearthed in California
カリフォルニアで鯨の新種が発掘された
カリフォルニアの高速道路の建設現場から、新種のクジラ(歯のあるヒゲクジラ;toothed baleen whales)の化石が複数発掘された。おおよそ19-17Maのもので、5Maより以前に絶滅したと考えられている。4種のクジラは歯があるクジラとしてはこれまで見つかっている中では最古のもので、歯の摩耗が激しいことから、サメなどを好んで食べていた可能性が指摘されている。

Economics Dims Coal’s Power
経済が石炭の発電力を翳らせる
天然ガスへのシフトによって石炭の発電資源としての価値が下がっている。アメリカにおいては過去6年間に石炭の発電量は50%から38%へと低下した。石炭は船や鉄道を使って運ぶのにも莫大な費用がかかり、明らかに経済的なメリットが翳りつつある。

Ancient Pee Provides Clues To Africa’s Past
古代のおしっこがアメリカの過去についてのヒントを与える
湖や泥炭地の堆積物に残された花粉などが得られないため、アフリカの乾燥地域では古環境を復元することが難しい。ケープハイラックス(rock hyrax; Procavia capensis)は地面に穴を掘り、世代を通して同じ穴におしっこをする。そうしたおしっこの中には花粉や炭などが残っているため、そこから古環境を推定することができる。フランスの研究グループは長さ2mほどにもなるおしっこの化石を用いて12kaの古環境を推定したところ、「より湿潤な環境」であったことが示唆され、モデルなどから示唆されている「より乾燥した環境」と食い違う結果となった。

News & Analysis
North Korea's Blast Poses Riddles and Challenges
北朝鮮の核爆発が謎と課題を浮き彫りに
Richard Stone
北朝鮮の3度目の地下核実験について。用いられたのはプルトニウム型?ウラン型?

Congress Tries Again to Head Off Looming Helium Crisis
議会が次第に迫ってくるヘリウム危機を回避する試みを再び
Adrian Cho
今年末に迫るヘリウムの深刻な不足を回避するために、議会で予算が配分された。

Warning Issued for Looming Data Gap From Fleet of Weather Satellites
気象観測衛星の軍団からのデータのギャップに対する危機的な問題
David Malakoff
アメリカの政策決定者たちは、必要不可欠な天気予報データの欠損や目下簡単な解決策がないことに対して危機感を抱きつつある。

How Sweet It Is: Genes Show How Bacteria Colonized Human Teeth
なんと甘いことか:遺伝子が「バクテリアがどのようにしてヒトの歯に巣食ったか」を示す
Ann Gibbons
人類が農業を発明してから、虫歯菌がヒトの歯に大きく繁殖し、多様性に乏しい生態系が口内に形成されたことが遺伝学研究から新たに明らかになった。

International Arbiter of Animal Names Faces Financial Woes
動物の名前の国際的な権威が財政難に苦しむ
Elizabeth Pennisi


Letters
Old Trees: Extraction, Conservation Can Coexist
Raf Aerts

Old Trees: Cultural Value
Malgorzata Blicharska and Grzegorz Mikusinski

Old Trees: Large and Small
Jacob Cecile, Lucas R. Silva, and Madhur Anand

Old Trees: Large and Small—Response
David B. Lindenmayer, William F. Laurance, and Jerry F. Franklin

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Research
Perspectives
The Aerosol Nucleation Puzzle
エアロゾル凝結のパズル
Meinrat O. Andreae
北半球の森林における野外実験と室内実験から、どのようにしてガス分子から大気中のエアロゾルが形成されるのかが示された。

Research Article
Using the Earth as a Polarized Electron Source to Search for Long-Range Spin-Spin Interactions
Larry Hunter, Joel Gordon, Stephen Peck, Daniel Ang, and Jung-Fu Lin

Reports
Global Patterns of Groundwater Table Depth
地下水面の深さの全球的なパターン
Y. Fan, H. Li, and G. Miguez-Macho
浅い地下水は陸の生態系を支えているが、地下水面の全球的な分布についてはよく分かっていない。モデルを用いて、パターンやプロセスを補完。地下水面の深さで全球スケールでの湿地の分布や植生などをうまく説明することができることが示された。全球の陸の22 - 32%に浅い地下水が影響を及ぼしていると考えられる。

Direct Observations of Atmospheric Aerosol Nucleation
大気中のエアロゾル凝結の直接観測
Markku Kulmala et al.
大気中のエアロゾルは放射強制力・雲形成・気候などにも大きな影響を及ぼしている。エアロゾル形成プロセスは2nmほどの微小なサイズで起きているため、直接的な観測はこれまで不可能だった。直径1nmまで観察できる大気中の微粒子観測から、3つのフェーズが重要であることが分かった。大気中のエアロゾル形成に有機物が重要であることが示された。

Little Emperors: Behavioral Impacts of China's One-Child Policy
小さな皇帝:中国の一人っ子政策が振る舞いに与える影響
L. Cameron, N. Erkal, L. Gangadharan, and X. Meng
中国の都市部で過去30年間に行われてきた一人っ子政策は抜本的な人口抑制策の一つである。政策が開始される1979年の前後に生まれた421人に対して調査を行ったところ、一人っ子政策が「他人を信用せず、信頼できず、リスクを嫌い、競争力が小さく、より悲観的で、より不誠実」な個人を産み出してきたことが示された。中国の社会にも影響を及ぼしていると考えられる。

Technical Comments
Comment on "Bilaterian Burrows and Grazing Behavior at >585 Million Years Ago"
"585Maよりも前の左右相称動物の巣穴とすり行動"に対するコメント
Claudio Gaucher, Daniel G. Poiré, Jorge Bossi, Leda Sánchez Bettucci, and Ángeles Beri

Response to Comment on "Bilaterian Burrows and Grazing Behavior at >585 Million Years Ago"
"585Maよりも前の左右相称動物の巣穴とすり行動"に対するコメントに対する返答
Ernesto Pecoits, Kurt O. Konhauser, Natalie R. Aubet, Larry M. Heaman, Gerardo Veroslavsky, Richard Stern, and Murray K. Gingras

2013年2月21日木曜日

新着論文(Nature#7437)

Nature
Volume 494 Number 7437 pp281-396 (21 February 2013)

EDITORIALS
Net gains
総漁獲
問題のスケールを推定することで、危険なレベルの過剰漁業を食い止めることができるかもしれない。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Harder rains in a hotter climate
より暖かい気候におけるより激しい雨
Nature Geosci. http://dx.doi.org/10.1038/ ngeo1731 (2013)
温暖化が進むことで激しい雨が増えることが予想されているが、どのような種類の雨が降りやすくなるかについてはよく分かっていない。ドイツにおける数ヶ月間の雨と雲の観測記録から、これまでの予想通り、暖かくなればなるほど雨が強くなることが示された。しかし「大気が保有できると考えられる水の量の増加の早さ」以上に「急に降る雨の量が早く増加している」ことも示された。従って温暖化した世界では気まぐれな降水のパターンが支配的になるかもしれない。
>問題の論文
Strong increase in convective precipitation in response to higher temperatures
Peter Berg, Christopher Moseley & Jan O. Haerter
ドイツにおける雲と降水の観測から、前線型の降水はクラウジウス・クラペイロンの理論に基づいた降水をしているが、一方対流型の降水の量は理論を超えた速度で増加していることが分かった。従って、温暖化によって後者のタイプの降水がより敏感に応答すると考えられ、異常な降水において支配的になると考えられる。

Bright nights speed birds’ lives
明るい夜は鳥の生活を早くする
Proc. R. Soc. B 280, 20123017 (2013)
都市部の夜間の明るさを想定して、クロウタドリ(European blackbirds)を明るい状態(街灯の20倍低い光量)と暗い状態とで飼育し比較したところ、明るい環境で生活している鳥ほど繁殖に向けた生理学的な発達が1ヶ月も早まっていることが分かった。

Microbes make melamine toxic
微生物がメラミンを毒にする
Sci. Transl. Med. 5, 172ra22 (2013)
メラミンは2008年に中国でその毒性が子供のミルクにて発見されたことで話題になったが、腸内細菌によってその毒性の一部を獲得しているらしい。バクテリアの一種がメラミンをシアヌル酸に変換し、腎臓疾患を引き起こすことがマウスを用いた実験で示された。

Tough life in the tropics
熱帯の大変な生活
熱帯域は温帯域に比べると、外来種が少ないが、それは熱帯では補食がより厳しいことが原因であることがホヤを用いた野外実験から示された。より複雑な生態系が外来種が根付くことを防いでいるらしい。

SEVEN DAYS
Chernobyl collapse
チェルノブイリの崩壊
ウクライナのチェルノブイリ原発4号機の屋根と外壁が雪の重みで落下した。幸い放射線の漏れは検出されていない。1986年の事故後、周囲をコンクリートで固める工事が行われており、2016年に完成予定とのこと。

MORE POWER FROM THE WIND
風からより多くの電力を
アメリカと中国は昨年13GWクラスの風力発電所を新たに設置した。現在世界の風力発電(282.4 GW)のうち、中国が75.6 GWで4分の1以上を占めている(2位がアメリカ)。世界的には5.4 GWが北ヨーロッパなどの洋上風力発電によって賄われている。

NEWS IN FOCUS
Dark-matter hunt gets deep
ダークマター探しがより深く
Eugenie Samuel Reich
中国は世界で最も深い量子物理学の実験を始める。

China slow to tap shale-gas bonanza
Jeff Tollefson

Oil money takes US academy into uncharted waters
Helen Shen

FEATURES
Concrete solutions
解決策を固める
Ivan Amato
セメント生産は温室効果ガスの排出の大きな部分を占めている。しかしその削減は知られている中で最も複雑な物質の一つを制御することを意味する。

COMMENT
Does catch reflect abundance?
漁獲は豊富さを反映する?
毎年の漁獲量から漁業の健康度を推し量ることについては研究者でも意見が分かれている。

A reality check on the shale revolution
シェール革命に対する現実度のチェック
「アメリカにおいてはシェールガス・オイルの生産が加熱しており、そのコストは低く見積もられている」とJ. David Hughesは言う。

CORRESPONDENCE
Inertia is speeding fish-stock declines
慣性が漁業資源の減少を加速させている
Kelly Swing

CAREERS
Pressure to perform
義務を果たすことのプレッシャー
Karen Kaplan
話すことで科学者は自分の仕事を示す機会を得るが、インパクトを与えることは難しい。

Ticket to everywhere
どこにでも行けるチケット
Peter Fiske
「PhDの化石化(The fossilization of the PhD)は学生、雇用主、科学全般を害する」と、Peter Fiskeは主張する。PhDでも分野を超えて広く学ぶ必要性があり、それがPhDを獲得してからの雇用へと繋がるということ。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Of humans, dogs and tiny tools
人類の所有物としての犬と小さな道具
Peter Brown
遺伝子データは4,230年前にインドからオーストラリアへとヒトが渡ったことを物語っているが、その時にヒトが連れて行った犬や持っていった道具が与えた影響は先行研究との間に食い違いが見られる。

Global warming and tropical carbon
地球温暖化と熱帯の炭素
James T. Randerson
大気中のCO2測定の画期的な使用法によって、20世紀の炭素循環の気候変動に対する応答範囲が制約され、熱帯雨林が枯れてしまう可能性が低くなった。

Killers of the winners
勝利者の殺し屋
David L. Kirchman
SAR11に属する海洋微生物に感染するウイルスがついに発見され、遺伝子が解読された。SAR11はどこにでもいるため、これらのウイルスは海において最も豊富に存在し、生物圏全体に影響を及ぼしているかもしれない。

LETTERS
Sensitivity of tropical carbon to climate change constrained by carbon dioxide variability
二酸化炭素変動から制約される気候変動に対する熱帯雨林の炭素の感度
Peter M. Cox, David Pearson, Ben B. Booth, Pierre Friedlingstein, Chris Huntingford, Chris D. Jones & Catherine M. Luke
熱帯雨林地域からの炭素放出は将来の温暖化を加速させる可能性がある。しかしその程度についてはモデル間でも食い違いが見られ、不確かなままである。水循環の変化に伴うバイオマス量・土壌呼吸量・光合成量などの種々の変化のバランスについてもモデル間で食い違うという問題がある。
 熱帯雨林における温度とCO2濃度の変化の観測データやモデル間比較から、「温暖化に対する炭素保存量の変化の感度」と「熱帯の温度偏差と大気中CO2濃度の年間変化率の感度」との間に線形関係があることが示され、それに基づき将来予測を行うと、熱帯地域で(30ºN - 30ºS)1℃の温暖化ごとに「53 ± 17 Gt」の炭素放出を担うことが示された。これはCO2による施肥効果により、アマゾンの熱帯雨林が劣化してしまうリスクが大幅に低くなることを意味する。しかしながら、温暖化がエアロゾル量の低下やCO2以外の温室効果ガスによって引き起こされた場合には、より確実に炭素が熱帯から失われてしまうことがモデルからは示されている。

Ecosystem resilience despite large-scale altered hydroclimatic conditions
大規模に変化した水気候状態にも関わらず生態系は耐える
Guillermo E. Ponce Campos et al.
 近年、北米、アフリカ、ヨーロッパ、アマゾン地方、オーストラリアにおいて、高温を伴う大規模な干ばつが発生し、陸上生態系、炭素収支および食糧確保に大きな影響を与えている。
 20世紀後半と21世紀前半(高温を伴う大規模な干ばつが頻発)のデータを比較することで、生態系の干ばつに対する耐性を評価。「降水量の低下」や「暑い干ばつ時の強い雨」に対して生態系全体では耐えることが示された。しかしながら、暑い干ばつが長く続くことへの耐性には閾値があることも示された。

Abundant SAR11 viruses in the ocean
海に豊富に存在するSAR11のウイルス
Yanlin Zhao et al.
海洋で最も豊富に存在するバクテリアであるSAR11の微生物群からウイルスが単離された。この微生物群はウイルス感染に耐性があると考えられていたため、SAR11だけでなくウイルスもまた海洋の生物地球化学的循環・炭素循環に大きな役割を果たしていると考えられる。

新着論文(PLoS one, Geology, EPSL, QSR, MM, DSR2, CG)

◎PLoS one
Coverage, Diversity, and Functionality of a High-Latitude Coral Community (Tatsukushi, Shikoku Island, Japan)
Vianney Denis, Takuma Mezaki, Kouki Tanaka, Chao-Yang Kuo, Stéphane De Palmas, Shashank Keshavmurthy, Chaolun Allen Chen
温暖化とともに低緯度域の造礁サンゴは自らに適した温度を求めて北上すると考えられているが、将来の変化を予測するには高緯度のサンゴコミュニティーの構造を理解する必要がある。四国の竜串においてはAcropora hyacinthusやA. Solitaryensisが多くを占めているものの、それらの種は近年もたらされたものであることが分かった。また底には大型藻類が少なく、代わりにウニ類が多い。こうした底性コミュニティーはサンゴの発展(新たな種の定着)に重要な役割を果たしている可能性がある。

◎Geology
☆1 February 2013; Vol. 41, No. 2
Recurrent Early Triassic ocean anoxia
S.E. Grasby, B. Beauchamp, A. Embry, and H. Sanei
ジュラ紀初期のOAEについて。δ13Cと貧酸素のプロキシとの相関が良いが、回復の過程で再度火山が噴いたことでOAEが再来した可能性?

An extensive and dynamic ice sheet on the West Greenland shelf during the last glacial cycle
C. Ó Cofaigh, J.A. Dowdeswell, A.E. Jennings, K.A. Hogan, A. Kilfeather, J.F. Hiemstra, R. Noormets, J. Evans, D.J. McCarthy, J.T. Andrews, J.M. Lloyd, and M. Moros
氷期-間氷期サイクルのグリーンランド氷床の前進・後退を堆積物コアや海底地形から考察。およそ20kaにはJakobshavn Isbræなどの大きな氷河は数100km海側に前進していた。氷河の後退はおおよそ14.88kaに起きていた。またYDには再度前進し、その後の急速な後退が確認された。

☆1 March 2013; Vol. 41, No. 3 
Evidence for large-scale methane venting due to rapid drawdown of sea level during the Messinian Salinity Crisis
Claudia Bertoni, Joseph Cartwright, and Christian Hermanrud
地中海南東部4,000m深にあばた状の穴(直径2km, 深さ200m)が存在することが地震波探査から明らかになった。メッシニアン塩分危機の際の蒸発岩で埋められており、海水準低下時に、圧力低下によって細粒の堆積物が流体や気体(メタン)とともに吹き出したことでできたと考えられる。

◎EPSL
Calibration of the boron isotope proxy in the planktonic foraminifera Globigerinoides ruber for use in palaeo-CO2 reconstruction 
Michael J. Henehan, James W.B. Rae, Gavin L. Foster, Jonathan Erez, Katherine C. Prentice, Michal Kucera, Helen C. Bostock, Miguel A. Martínez-Botí, J. Andy Milton, Paul A. Wilson, Brittney J. Marshall, Tim Elliott
過去のCO2濃度と地球システムの応答を調べることは重要である。CO2のプロキシになるδ11Bは溶液ベースのδ11B-pH理論と浮遊性有孔虫殻δ11B-周囲海水pHとの間に食い違いが見られる。G. ruberをpH7.5〜8.2の海水で飼育し、先行研究やコアトップと比較。褐虫藻を持つものほど理論からずれ、また殻サイズ依存性も確認された。さらに得られた主依存の換算式を用いて最終退氷期のCO2の変化を復元。

◎QSR
Ages of 24 widespread tephras erupted since 30,000 years ago in New Zealand, with re-evaluation of the timing and palaeoclimatic implications of the Lateglacial cool episode recorded at Kaipo bog
David J. Lowe, Maarten Blaauw, Alan G. Hogg, Rewi M. Newnham
古気候プロキシの時間断面を正確に決定する上でテフラは重要である。ニュージーランド周辺の古気候記録から24のテフラの年代を決定。INTCALや火山噴火で倒れた木の14C年代などをもとに構築している。またニュージーランド北部の泥炭から得られた堆積物コアの記録を再解釈したところ、寒冷化が13.74 - 12.55 kaに見られ、ACRやYDの前半部と一致している。周辺の記録や南米の記録とも整合的な結果が得られた。

Climatic records over the past 30 ka from temperate Australia – a synthesis from the Oz-INTIMATE workgroup
L. Petherick, H. Bostock, T.J. Cohen, K. Fitzsimmons, J. Tibby, M.-S. Fletcher, P. Moss, J. Reeves, S. Mooney, T. Barrows, J. Kemp, J. Jansen, G. Nanson, A. Dosseto
過去30kaのオーストラリアの温帯域の古気候学レビュー。氷期には南極周辺の海氷の張り出しが強化していた。最終退氷期にはACRの寒の戻りを挟みつつ温暖化が陸と海から復元されている。6ka以降はENSOによる大規模な気候変動が見られる。

◎Marine Micropaleontology
Indonesian Throughflow and monsoon activity records in the Timor Sea since the last glacial maximum
X. Ding, F. Bassinot, F. Guichard, N.Q. Fang
Timor海から得られた堆積物コアからLGMから現在にかけてのITFとモンスーンの進化史を復元。ITFが強いとき、風も強化されて湧昇が卓越することで生物生産が強化。温度躍層の深さは湧昇と言うよりはむしろITFによってコントロールされている。海水準低下期にはITFはより暖かい水をインド洋へと運搬している。

◎Deep Sea Research Part II
Anthropogenic biogeochemical impacts on coral reefs in the pacific islands – an overview   Original Research Article 
R.J. Morrison, G.R.W. Denton, U. Bale Tamata, J. Grignon
太平洋のサンゴ礁はここ30年の間に人間が多く移動してきたことに伴い人為起源の環境変動を被っている。American Samoa, Fiji, French Polynesia, Guam, Saipan, New Caledonia, Tongaについて人為影響(都市化・鉱業・汚水・富栄養化など)をレビュー。

◎Chemical Geology
No discernible effect of Mg2 + ions on the equilibrium oxygen isotope fractionation in the CO2–H2O system
Joji Uchikawa, Richard E. Zeebe
Mg2+がCaCO3-H2Oシステムのδ18Oに影響するかをBaCO3の沈殿実験から評価。あまり影響がないらしい。

2013年2月19日火曜日

新着論文(GRL, JGR, PO, CP, BG)

○G3
Investigating δ13C and ∆14C within Mytilus californianus shells as proxies of upwelling intensity
J. E. Ferguson, K. R. Johnson, G. Santos, L. Meyer, A. Tripati
カリフォルニア沿岸部に生息するイガイ(Mytilus californianus)の殻のδ13CとΔ14Cが湧昇の指標になるかを評価。Δ14Cは使えそうだが、δ13Cは代謝起源の炭素が入ってくるため解釈が難しそう。

Early Aptian paleoenvironmental evolution of the Bab Basin at the southern Neo-Tethys margin: Response to global carbon-cycle perturbations across Ocean Anoxic Event 1a
Kazuyuki Yamamoto, Masatoshi Ishibashi, Hideko Takayanagi, Yoshihiro Asahara, Tokiyuki Sato, Hiroshi Nishi, Yasufumi Iryu
カタールのBab Basinから得られたOAE-1aの地層のδ13C・δ18O・87/86Sr測定などからOAEのメカニズムを推定。OAEの開始時にδ13C・δ18Oが低下するのは「火山性のCO2が長期的にもたらされ、温暖化が起きた」とする仮説と整合的。同時に起きた温暖化が風化を促進し、Sr同位体比にも影響した。

○GRL
Variability in the Surface Temperature and Melt Extent of the Greenland Ice Sheet from MODIS
Dorothy K. Hall, Josefino C. Comiso, Nicolo E. DiGirolamo, Christopher A. Shuman, Jason E. Box, Lora S. Koenig
近年のグリーンランド氷床の表面温度と氷床量の変化について。南西部がもっとも融解しており、季節を通じて気温の上昇(~0.55℃/10年)が起きている。2000年以降では2002年と2012年の融解が顕著であった。

Terrestrial effects of possible astrophysical sources of an AD 774-775 increase in 14C production
Brian C. Thomas, Adrian L. Melott, Keith R. Arkenberg, Brock R. Snyder
木の年輪に記録されているAD774-775の14C生成率のスパイクの原因を考察。solar proton events (SPEs)も考えられるかも?

The role of land use change in the recent warming of daily extreme temperatures
Nikolaos Christidis, Peter A. Stott, Gabriele C. Hegerl, Richard A. Betts
モデルを用いて近年の異常な暑さの原因を推定。産業革命以降の土地利用変化(森林が減少し、草原が増加)は’寒冷化’の効果があることが示された。

The gravitationally consistent sea-level fingerprint of future terrestrial ice loss
G. Spada, J. L. Bamber, R. T. W. L. Hurkmans
質量収支のバランスを考えることで、各要因の海水準上昇への寄与率を推定。海水準上昇の予測は地域性が大きい。熱帯域の海水準上昇には氷河・氷帽・氷床の融解が大きく寄与する可能性がある。赤道太平洋は熱膨張が、大西洋は海洋表層循環の変化が大きく影響すると考えられる。

Estimating the effect of Earth elasticity and variable water density on tsunami speeds
Victor C. Tsai, Jean-Paul Ampuero, Hiroo Kanamori, David J. Stevenson
津波の到達時刻の予測には通常浅水近似が用いられるが、2011.3.11の東北沖地震では予測に1%もの誤差が伴っていた。原因としてはモデルで考慮されていない地球の弾性変形が考えられる。そうした効果を津波の速度予測にどのように取り入れるべきかを新たに提案。

Equatorial Upwelling Enhances Nitrogen Fixation in the Atlantic Ocean
Ajit Subramaniam, Claire Mahaffey, William Johns, Natalie Mahowald
これまで栄養に富んだ表層水は窒素固定を抑制すると考えられてきた。東赤道大西洋で湧昇と窒素固定の関係を評価したところ、湧昇時に通常時の2〜7倍もの窒素固定が起きていることが確認された。

Anthropogenic Impact on Agulhas Leakage
Arne Biastoch, Claus W. Böning
近年南半球の風の場が変化したことでAgulhas leakageが増加し、大西洋により塩分の濃い海水が流入していることが示されている。モデルを用いて風の場の変化がもたらす影響を評価したところ、「偏西風が7%増加し、軸が2°極側にシフトすることで、現在の流量(4.5Sv)の3分の1ほどの変化が起きる可能性」が示された。ただしAMOCへの影響は小さいらしい。

Triggering of El Niño Onset Through Trade-wind Induced Charging of the Equatorial Pacific
Bruce T. Anderson, Renellys C. Perez, Alicia Karspeck
観測からENSOのメカニズムを推定。熱容量の増加が北大西洋に海面高度の偏差をもたらし、貿易風に影響するという仮説を提唱。モデルでも整合的な結果が得られた。

○JGR-Oceans
On the response of Southern Hemisphere subpolar 1 gyres to climate change in coupled climate models
Zhaomin Wang
CMIP3と5のモデルを用いて21世紀の南半球の亜寒帯流(subporlar gyre)がどのように変化するかを評価。すべてのモデルで偏西風が強化されることが予想されたが、渦の変化は食い違いが見られた。特に南極周回流地域の渦によって駆動される循環を表現することが難しい。現行のモデルでは再現は難しいかもしれない。

Water Column Iron Dynamics in the Subarctic North Pacific Ocean and the Bering Sea
Ren Uchida, Kenshi Kuma, Aya Omata, Satoko Ishikawa, Nanako Hioki, Hiromichi Ueno, Yutaka Isoda, Keiichiro Sakaoka, Yoshihiko Kamei, Shohgo Takagi
47ºN線に沿って北太平洋のFeの水柱分布を調査。西部の深層で溶存Fe濃度が高く、人為起源の鉄が大気と水平輸送でもたらされた結果と考えられる。ベーリング海では中層水(1.5 - 2.25 km)に濃度の極大が見られ、生物生産で生じた有機物が活発に中層で分解されていることが原因と考えられる。また大陸棚の堆積物からもかなりFeが供給されているかも?

Sea level and heat content changes in the western North Pacific
Jae-Hong Moon, Y. Tony Song
1993-2010年にかけて、西太平洋北部(東シナ海や日本沿岸を含む)の海水準は年間5mmの速度で上昇していることが海面高度観測から分かっている(全球平均の1.5倍)。複数の観測データ(熱・重力・海洋物理など)を組み合わせて、モデルでうまく再現することができた。北東貿易風の強化に伴って熱と水塊の分布が変化していることが過去20年間の変化の原因と考えられる。

Increased CO2 outgassing in February-May 2010 in the tropical Atlantic following the 2009 Pacific El Niño
Nathalie Lefèvre, Guy Caniaux, Serge Janicot, Abdou Karim Gueye
2010年春に赤道大西洋でfCO2の大きな増加が確認された。表層水温が上昇し、ITCZがより北に変化し、降水量の変化に伴い塩分が減少したことが原因と考えられ、2009年の太平洋のエルニーニョ強く影響したと考えられる。またNAOの寄与は小さいが、AMOも大きく寄与していたと考えられる。

○Paleoceanography
Late Quaternary climatic and oceanographic changes in the Northeast Pacific as recorded by dinoflagellate cysts from Guaymas Basin, Gulf of California (Mexico)
Andrea M. Price, Kenneth N. Mertens, Vera Pospelova, Thomas F. Pedersen, Raja S. Ganeshram
カリフォルニア湾から採取された堆積物コア中のdinoflagellate cystから過去30kaの生物生産を復元。YDには暖かい環境を好む種が確認された。

Seasonal patterns of shell flux, δ18O and δ13C of small and large N. pachyderma(s) and G. bulloides in the subpolar North Atlantic
Lukas Jonkers, Steven Heuven, Rainer Zahn, Frank J.C. Peeters
北大西洋のセジメント・トラップから、N. pacydermaG. bulloidesのδ18O・δ13Cの差の原因を考察。深度よりはむしろ成長する季節が大きく影響しているかも。δ13CはDICのδ13C変動とも差が見られるため、温度(代謝)も大きく影響していると考えられる。

○Climate of the Past
Greenland ice sheet contribution to sea level rise during the last interglacial period: a modelling study driven and constrained by ice core data
A. Quiquet, C. Ritz, H. J. Punge, and D. Salas y Mélia
氷床モデルを用いて最終間氷期の温暖期のグリーンランド氷床の応答を調査。グリーンランド氷床はあまり融けておらず、0.7 - 1.5 m程度の寄与であったと考えられる。従って、南極氷床がもっと融解していたということになる。

A new global reconstruction of temperature changes at the Last Glacial Maximum
J. D. Annan and J. C. Hargreaves
MARGOなどを初めとする間接指標に基づいたLGMの全球の表層温度推定と、PMIP2のモデル予測結果とを比較。全球平均気温は「4.0 ± 0.8 ℃」低かったと考えられる。

○Biogeosciences
Glacial-interglacial variability in ocean oxygen and phosphorus in a global biogeochemical model
V Palastanga, C. P. Slomp, and C. Heinze
生物地球化学モデルを用いて、LGMに大陸棚から海へ供給された粒子状有機物が生物地球化学に与えた影響を評価。間氷期と比べて氷期にはリンの埋没量が増加し、深層の酸素濃度は低下する傾向が見られた。ただし酸素濃度の低下は堆積物のリンのサイクルに影響を及ぼすほどのものではなかったと考えられる。

2013年2月16日土曜日

新着論文(DSR, QSR)

◎Deep Sea Research
Changes in deep-water CO2 concentrations over the last several decades determined from discrete pCO2measurements
Rik Wanninkhof, Geun-Ha Park, Taro Takahashi, Richard A. Feely, John L. Bullister, Scott C. Doney
変化があまりに小さいため、人為起源の深層水炭酸系への擾乱を検出することは難しい。しかし2,000mより深い海は全体の50%を占め、今後人為起源CO2が深海・陸・大気へと分配するのを予測する上でも深層水炭酸系の研究は非常に重要である。WOCE、WHP、CLIVARの際に得られた記録から、太平洋と大西洋の1980年代から最近までの変化を評価。pCO2は増加傾向にあるが、DICはまだ検出できるほどに増加していない。

Retrospective satellite ocean color analysis of purposeful and natural ocean iron fertilization
Toby K. Westberry, Michael J. Behrenfeld, Allen J. Milligan, Scott C. Doney
鉄肥沃実験の問題点は、鉄散布後の生物応答のラグである。生物応答を調べるために人工衛星観測が用いられるが、クロロフィルⅡの濃度を測定するに留まっている。もともと鉄が多い海域において多数の測定を組み合わせることで、より詳細に鉄がバイオマスに与える影響を評価。

Reviewing the circulation and mixing of Antarctic Intermediate Water in the South Pacific using evidence from geochemical tracers and Argo float trajectories
Helen C. Bostock, Phil J. Sutton, Michael J.M. Williams, Bradley N. Opdyke
WOCEの際に測定された種々のトレーサーや最新のArgoフロートの観測記録などをもとに南太平洋のAAIWの形成をレビュー。

◎Quaternary Science Reviews
☆Volume 63, Pages 1-150 (1 March 2013)
Interglacial climates and the Atlantic meridional overturning circulation: is there an Arctic controversy?
Henning A. Bauch
完新世以前の間氷期のAMOCと北極海の関わりについてはよく分かっていない。さらに陸と海から得られている古気候記録は食い違いが見られる。

☆Volume 64, Pages 1-152 (15 March 2013)
Southern Hemisphere westerly wind changes during the Last Glacial Maximum: model-data comparison
Louise C. Sime, Karen E. Kohfeld, Corinne Le Quéré, Eric W. Wolff, Agatha M. de Boer, Robert M. Graham, Laurent Bopp
南半球の偏西風が海洋循環や炭素循環に影響したことが氷期に大気中CO2濃度が低かったことの説明として挙げられている。モデルシミュレーションから、LGMには偏西風は1m/s強化されており、南極側に2°シフトしていたことが示された。海氷の張り出しはそれほど影響しなかったと考えられる。データから言われているような赤道側への偏西風のシフトといったものは見られなかった。プロキシの解釈がおかしい?

Geochemical signatures of sediments documenting Arctic sea-ice and water mass export through Fram Strait since the Last Glacial Maximum Original
Jenny Maccali, Claude Hillaire-Marcel, Jean Carignan, Laurie C. Reisberg
Fram Straitの中央部で得られた堆積物コアの地球化学的分析からLGM以降の北大西洋の古海洋を復元。YDを境に堆積環境が激変。

2013年2月15日金曜日

「ウェザー・オブ・ザ・フューチャー」(ハイディー・カレン、2011年)

[邦題] ウェザー・オブ・ザ・フューチャー
〜気候変動は世界をどう変えるか〜

[原題]THE WEATHER OF THE FUTURE
Heat Waves, Extreme Storms, and Other Scenes from a Climate Changed Planet
ハイディー・カレン 著
熊谷玲美 訳
大河内直彦 解説
2011年9月 初版
シーエムシー出版

気になった一文集(日本語 ver. No.6)

ウェザー・オブ・ザ・フューチャー
〜気候変動は世界をどう変えるか〜

ハイディー・カレン 著
大河内直彦 解説

気象学者は主に大気のことを考えているが、気候学者は大気に影響するすべてのことに夢中になっているといえるという言い方もできるだろう。しかし結局のところ、気象学者も気候学者も、未来を予測することに一生懸命である。(pp. 3)

天気予報は大気の短期的な変動に焦点を当てるものだが、気候予測は、海、陸地、氷まで含めた気候システム全体の長期的変動を中心にしている。(pp. 5)

「多くの人々は、不動産などの長期的投資を通してしか、気候変動の問題と自分とを結びつけられない」(pp. 7)

地球温暖化は、「完全な問題」と呼ばれている。「完全」というのは、地球温暖化が気付きにくく、解決するのが困難な問題であるという意味だ。(pp. 15)

脳を使って慎重な分析を行えば、当然ながら、長期にわたる干ばつや大量絶滅、海面の上昇は深刻な問題だということになる。しかし直感的にはそうは思えない。地球温暖化はあまりに遠く、個人には関係ない話に思えるのだ。(pp. 18)

人間の脳は、緊急性が一番高い脅威を認識するようになっているのと同時に、気候より、天気の心配のほうにエネルギーを多く注ぐようにできている。(pp. 20)

気候予測を「逆予報」だと言うのは、私たちは予報された事態を回避できるからだ。気候予測は、私たちが現状レベルの化石燃料使用を続けた場合に行き着く可能性がある、一つの未来の姿に過ぎない。結局、未来は私たちの手の中にあるのだ。そして事態は急を要する。(pp. 22)

炭素循環は、ある種の輪廻転生にも例えられる。この循環は、炭素原子を相手にする、自然界の偉大なリサイクル業者なのだ。(pp. 38)

最初の天気予報は結果的には、大失敗として歴史に刻まれることになった。しかし、この失敗と引き換えに、「予測の精度はデータによって決まる」という、天気予報と気候予測の鉄則が得られたのである。(pp. 51)
世界で初めて数値解析を用いて気象予測を行ったルイス・フライ・リチャードソンの失敗

ハインドキャスト実験に成功すれば、過去の出来事を表せる気候モデルには、未来を指し示す役割も果たせるという確証が高まってくる。(pp. 60)

モデルが示す予測は不吉なものだ。たとえ地元のニュースで毎晩取り上げられなくても、それを無視することはできない。(pp. 70)

2003年の夏の熱波は、ヨーロッパで観測史上最悪の自然災害だと言われている。(pp. 73)

こうした予測がありながら、人々がその警告を聞く耳を持っていないらしいのは、悲劇の種であり、ギリシャ神話の逸話を思い起こさせる。気候学者は、まるでカサンドラになったかのようだ。(pp. 78)

数学やモデル、物理学の知識などが、さまざまなことを教えてくれるのは確かだ。しかしその土地に関連した具体的なリスクを理解するためには、その地域の気候を研究する科学者たちこそがもっとも価値あるツールだと言える。(pp. 79)

正確に見積もることのできない、本当の意味での変数は、私たち自身の行動だ。(pp. 81)

多くの科学者は、乾燥化の問題を、これまで世界で起こった気候変動の中で、もっとも顕著な例に数えている。(pp. 91)

「…もちろん、ただ何もせず、何が起こるのかを見守り、予測が正しいのかを確かめることもできる。しかし、それは恥ずべきことです。」(pp. 147)
海洋生物学者 ジョーニー・クレイパスの言葉。世界のサンゴ礁が気候変動の結果、激減していることをうけて。

現在の状況を、気候モデルによる未来予測と比較している間に、気候変動は急速に進んでいるのである。イヌイットが言う通り、地球の動きは早くなっている。(pp. 229)
北極圏の海氷が急速に失われていることを受けて。

「かつて自然の力で気候変動が起こったことがあるにしても、私たち自身が気候システムを蹴飛ばすような立場になるべきではありません。」(pp. 242)

「気候モデルを使う時には、モデルには自分の知らない物事は含まれていないことに気をつけなくてはいけないんだ。気候システムでは起こっているのに、気候モデルでは今のところ捉えられていない現象もある。」(pp. 242-243)
氷床・気候学者 J. P. Stephansen

氷床コアが一冊の本だとしたら、今回の本は「戦争と平和」くらいに分厚く、約2.6キロメートルもある。(pp. 244)
2007年から開始されたNEEMによるグリーンランド氷床掘削

「私たちが進む先にあるのは、氷床コアにも示せないようなところにある気候なんです。」(pp. 250)
コロラド大学 ヴァシリー・ペトレンコ

未来に関して、そしてこれから書かれる気候の歴史のページに関して、過去のデータから分かることは限られている。(pp. 250)
完全な温暖化のアナログは過去には実在しない

「地球というシステムを実験対象にするべきではない。母なる自然自身が過去に行った実験を見て、その結果を調べるほうがいいんです。」(pp. 250)
コロラド大学 ヴァシリー・ペトレンコ

「私たちはこの『変化』という言葉に慣れなければならないんだ。変化があるからこそ、私たちには過去があり、未来があるのだよ。過去を蘇らせようともがくのは良くない。不可能だ。変わらないものはないのだから。」(pp. 250-251)
氷床・気候学者 J. P. Stephansen

非常に進歩的な国でさえ、長期的な脅威に理性的に対応するより、短期的なチャンスをつかみ取るほうが得だと考えているということである。(pp. 254)
海氷後退によって北極圏の地下・海底資源の領有権をめぐる議論が激化する

彼らにとって、気候変動は自由への道だといえる。新しいグリーンランドは富を生む。問題は、その富を手にするのが誰かということだけだ。(pp. 254)
グリーンランド氷床が融解したほうがいいという人たちもいる

世界中で発生しうる「気候難民」(政治的かつ道義的な意味合いが強い用語だ)の人数としてもっとも広く言われているのは、2050年までに2億人という概算だ。pp. 274)

国家安全保障の専門家から見れば、移住というのは、気候変動の一つの側面としては本当に恐怖を感じるものだと言える。世界レベルで考えれば理由は簡単である。(pp. 277)
気候変動によって大量の環境難民が生まれる

気候変動は限られた分野だけで解決できる問題ではない。(pp. 289)

「気温だけでなく、海面の上昇や、北極の海氷の衰退、世界中の氷河の後退、水蒸気の増加などは、それぞれ独立に観測されています。その観測結果はすべて、温暖化が進む地球ではこうなるはずだ、という私たちの知識と一致します。だからこそ、『疑う余地がない』という言葉を使うことができたのです。」(pp. 356)
IPCC AR4の共同議長も務めたNOAAのスーザン・ソロモン

「この話をややこしくしているのは、酸性雨とか、スモッグ、DDTといったほかの公害はだいたいどれも、影響のしかたが単純で、排出をやめれば問題は解決する点です。ここで本当に大変なのは、地球温暖化はそう単純にはいかないのが既に分かっていることです。私たちは、まるで家電のサーモスタットのように、地球の気温のダイアルを回しています。でもそれは決まった方向にしか回らない。ダイヤルを戻したりはできないんです。」(pp. 356)
同じくスーザン・ソロモン
気候のヒステレシスについて。ある閾値を超えると気候は異なる安定状態へとジャンプする。

今では、イースター島は、歴史上もっとも極端な森林破壊の例の一つとされている。(pp. 357)

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大河内直彦 氏による解説〜真に恐れるべきもの

こういった話は、いろんな書物や雑誌に書かれてきたし、あらゆるメディアを通して飽き飽きするほど報道されてきた。それでも、どこか遠い国で起きる話のように感じていないだろうか?それとも、誰かがそのうちに何とかしてくれるだろうと漠然と考えていないだろうか?(pp. 365)

一線を超えてしまった気候は、救い様がないくらいお手上げなのである。(pp. 367)

詳しいメカニズムはいまだ不明なものの、こういった過去の履歴が将来を予測する科学者の心を曇らせ、気候変動の脅威を社会に訴える重要な動機となっている。(pp. 368)
急激な気候変動は過去に何度も繰り返され、モデルでも未だに再現できていない。

幸か不幸か科学者たちは、人類の歩みの先に潜む危険を知ってしまった。危険なシグナルを察知しながら警告を発しないのは、それ自体が罪である。温暖化懐疑派が糾弾する科学の詳細における不正確な一面は、この際そもそも問題ではない。(pp. 368)

地球温暖化の真の怖さは、実は「地球温暖化」という言葉の中には含まれないところにこそ潜んでいる。(pp. 370)

化石エネルギーというパンドラの箱を開けてしまった人類は、もはやこれなしに暮らすことは不可能になってしまった。(pp. 371)

2011年3月11日の昼下がりに起きたマグニチュード9.0の大地震と、それに続く津波、そして福島の原子力発電所の事故は、そういった思考回路が、ある種の問題に対してきわめて無力であることを改めて示した。それと同時に、少なくとも私にとって、気候変動という問題について考え直す契機になった。(pp. 372)

地球温暖化問題の真の怖さは、「地球温暖化」という言葉が直接的にもつ意味の外にこそある。私たちは、うんざりするほどやっかいな問題を、子供や孫の世代に残しつつある。(pp. 374)

新着論文(Science#6121)

Science
VOL 339, ISSUE 6121, PAGES 729-872 (15 FEBRUARY 2013)

Editors' Choice
特になし

News of the Week
High Cost of Scientific Whaling
科学的な捕鯨の高いコスト
1987年以来、日本は3億7800万円もの税金を科学目的の捕鯨に費やしている。国際動物福祉基金(International Fund for Animal Welfare)が2/5に公表した報告書によると、「鯨の肉の需要は減少しつつあり、研究にはあまり価値がない」とされている。国際捕鯨委員会の代表者会議では、「1986年以降商業目的での捕鯨は禁止されているものの、科学目的であれば認められ、さらに研究資金を捻出する目的であればその肉を売ることができる」と決定されている。科学プログラムの後援者は科学目的の捕鯨の価値を主張しているものの、それに反対するLeah Gerberは「鯨の生態を研究する方法は多々あり、必ずしも殺す必要はない」と批判している。
>より詳細な記事
Japan's Scientific Whaling: An Expensive Proposition
Dennis Normile

Landsat’s Lucky Number Is Eight
ランドサットのラッキーナンバーは8
1972年以降、地球の環境や気候変動を継続してモニタリングし続けているランドサットの8代目が2/11に打ち上げられた。少なくとも5年間は運用される見込みだが、予算の逼迫を受けて、次の世代はまだ打ち上げられる見込みはないという。5代目は28年間継続して観測をし続け、地球観測衛星としては世界記録であり、ギネスに登録申請がなされている。

Diamonds Are a Sperm’s Best Friend
ダイヤモンドは精子の親友
ガラス製のペトリ皿は精子や卵にとってはあまり適した素材ではない。というのも、水がペトリ皿の表面と化学反応を起こして有害な活性酸素が発生するためである。ドイツの研究者がダイヤモンドで薄くコーティングしたペトリ皿を新たに開発し、これを用いることで精子の生存が42時間で20%改善することが示された。不妊治療の一環として行われている人工授精の成功率を上げることに期待が寄せられている。

First Evidence of Life Under Antarctic Ice
南極の氷の下の生命の最初の証拠
アメリカの研究グループが西南極のWhillans氷底湖(~1,000m)の掘削に成功し、さらに生命の存在を確認したことを公表した。先月にはロシアの研究チームが東南極のVostok氷底湖(~4,000m)の掘削に成功している。数百万年間にわたって閉ざされたVostok湖と違い、Whillans湖はときおり表層水と接触しているらしい。氷床プロセスへの微生物の影響の理解に期待が寄せられている。

News & Analysis
Cash-Strapped NASA Gets Many Ideas for 'Free' Telescopes
資金に乏しいNASAが無料の望遠鏡に対して多くのアイデアを探っている
Yudhijit Bhattacharjee
2つの望遠鏡の贈り物によって大きなことを考える機会がNASAに与えられたが、それらのアイデアを実行に移すためにはやはりお金が必要である。

Letters
Give Shark Sanctuaries a Chance
サメの聖域にチャンスを
Demian D. Chapman et al.
“Shark sanctuaries: Substance or spin?”(Science 21 Dec 2012)の中で、L. N. K. Davidsonは「サメの禁漁域の設定は途上国の漁獲に対する知識が乏しいので、実行してもあまり効果がない」と指摘しているが、強い力で管理されたサメの聖域がサメの保護に重要であることを示す。

Policy Forum
Beyond Arms-Control Monitoring
軍備管理モニタリングを超えて
Raymond Jeanloz, Inez Fung, Theodore W. Bowyer, and Steven C. Wofsy
環境モニタリングが軍備管理条約の長期目標を確認するために役に立つかもしれない。

Perspectives
The Animal Tree of Life
動物の生命の木
Maximilian J. Telford
25年前に発表された動物の分子系統発生学は現在広く受け入れられている動物門の系統発生学の前身である。

A Unique Piece of Mars
ユニークな火星の一部
Munir Humayun
火星のGusevクレーターの化学組成に類似した隕石が同定された。

Research Articles
Unique Meteorite from Early Amazonian Mars: Water-Rich Basaltic Breccia Northwest Africa 7034
アマゾニアン初期の火星から来た独特な隕石:水に富んだ玄武岩質角礫岩(Northwest Africa 7034)
Carl B. Agee et al.
火星の隕石であるNWA7034は他の火星の隕石との類似点も見られるが、際立った特徴を持っている。約21億年前に形成され、Gusevクレーターの化学組成と非常に類似している。また水を多く含むのも重要な特徴である。さらに酸素の同位体から、火星に酸素のリザーバーが複数存在したことが示唆される。

Reports
Detection of the Characteristic Pion-Decay Signature in Supernova Remnants
M. Ackermann et al.
天の川銀河の2つのスーパーノバの残骸から得られたガンマ線のスペクトル解析から、陽子加速の特徴が見られた。

2013年2月14日木曜日

新着論文(SR, PNAS)

◎Scienctific Reports
Sensitivity of the South Asian monsoon to elevated and non-elevated heating
William R. Boos & Zhiming Kuang
南アジアの夏モンスーンはチベット高原における上昇気流が大きな役割を持っていると一般に考えられているが、モデルシミュレーションでチベット高原をなくして実験を行ったところ、むしろインド亜大陸が加熱および上昇気流(低気圧の形成)に寄与していることが示された。

◎Proceedings of the National Academy of Sciences
☆29 January 2013; Vol. 110, No. 5
Commentaries
Coral calcification feels the acid
Alexander C. Gagnon

☆5 February 2013; Vol. 110, No. 6
Environmental Sciences
Using data to attribute episodes of warming and cooling in instrumental records
Ka-Kit Tung and Jiansong Zhou
最新の全球データ(HadCRUT4)とイギリス中部における最長の観測記録(353年間)から、最近の気候変動史における数十年スケールの寒冷・温暖化を再評価し、さらに近年の温暖化傾向を見積もった。温度はAMOによって強く支配されていることが示され、温暖化傾向は2倍程度に大きく見積もられていることが分かった。太陽活動の寄与は20世紀末では10%程度と小さいことも示された。

☆12 February 2013; Vol. 110, No. 7
Letters (Online Only)
Frequent summer temperature extremes reflect changes in the mean, not the variance
Andrew Rhines and Peter Huybers

Reply to Rhines and Huybers: Changes in the frequency of extreme summer heat
James Hansen, Makiko Sato, and Reto Ruedy

Commentaries
When an ecological regime shift is really just stochastic noise
Scott C. Doney and Sevrine F. Sailley

Environmental Sciences
Nonspecific uptake and homeostasis drive the oceanic cadmium cycle
Tristan J. Horner, Renee B. Y. Lee, Gideon M. Henderson, and Rosalind E. M. Rickaby
海水中のCd濃度とリン酸濃度との相関は非常に良いため、生命に対する毒性よりも微栄養(micro-nutrient)として重要であると考えられている。しかしながら生物のCd利用についてはよく分かっていない。最近可能になったCd同位体を用いて生理学的なプロセスを考察。Cd/Zn炭酸塩脱水酵素(carbonic anhydrase)は同位体に影響しないが、細胞の脂質膜で大きく同位体分別を受けることが分かった。

新着論文(Nature#7436)

Nature
Volume 494 Number 7436 pp147-276 (14 February 2013)

EDITORIALS
Damage control
損害のコントロール
極端な出来事に備えるにはインフラだけでなく、社会の準備度も考慮しなければならない。ハリケーン・Sandyで大きな被害が出たNYの例。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Bats as disease reservoirs
病気の温床としてのコウモリ
Proc. R. Soc. B 280, 20122753 (2013)
げっ歯類よりもコウモリがヒトを含むほ乳類に病原菌を運んでいるかもしれない。寿命が長く、より多くの糞をし、仲間同士くっついているようなコウモリほど多くのウイルスを運んでいる。コウモリ間でも頻繁にウイルスの交換が起きているらしい。

Fish oils turn on cellular recycling
魚油が細胞のリサイクルのスイッチを入れる
Genes Dev. http://dx.doi. org/10.1101/gad.205294.112 (2013)
線形動物(C. elegans)に対して、魚の脂に含まれる多価不飽和脂肪酸がオートファジー(栄養が足りない際に余った細胞がリサイクルされること)を刺激することで寿命を伸ばす効果があることが示された。この事実は魚を多く食べる人ほどより健康であることを説明するかもしれない。

Symbiosis leads to diversity
共生が多様化に繋がる
Proc. R. Soc. B http://dx.doi. org/10.1098/rspb.2012.2820 (2013)
種の競合や補食といった生物の相互作用が生物の多様化を招くように、共生関係が生物の多様化に繋がることが植物を食べる昆虫の研究から分かった。タマバエ(gall midges; Cecidomyiidae)は真菌類と共生することで植物の細胞を破壊してもらう一方、真菌の胞子を運ぶ役割を担っている。より共生を行っているタマバエはそうでないものに比べ、17倍も多様であることが示された。

SEVEN DAYS
Subglacial lake life
氷底湖の生命
南極氷床の800m地下に存在するWhillans氷底湖から得られた水と堆積物の中に生きた微生物が確認された。アメリカの研究グループが世界初の快挙。
>より詳細な記事
Lake-drilling team discovers life under the ice
Quirin Schiermeier

Landsat 8 lifts off
ランドサット8の打ち上げ
NASAは2/11にランドサット8を打ち上げた。40年間にわたる地球の環境変動のモニタリングを引き継ぎ、森林火災や氷河の後退などを監視する。
>より詳細な記事
NASA launches Landsat 8 into orbit
Jeff Tollefson

Nuclear test
核実験
北朝鮮が3度目となる地下核実験を行った。3-10キロトン規模のものであろうと推測されている。2006年と2009年のものよりもうまくいった模様。大きな疑問はどういった核爆弾が実験されたかで、これまで北朝鮮はプルトニウム型の爆弾を実験していたが、ウラン型の爆弾を使用できるところまで技術が進展していると考える人もいる。
>より詳細な記事
North Korea tests “smaller and lighter” bomb
Geoffrey Brumfiel

NEWS IN FOCUS
特になし

FEATURES
New York vs the sea
ニューヨーク v.s. 海
Jeff Tollefson
ハリケーン・Sandyの例に倣って、科学者と職員は未来の洪水からアメリカ最大の都市を守ろうと努力している。

COMMENT
Classify plastic waste as hazardous
プラスチックゴミを「危険を及ぼすもの」に分類せよ
「プラスチックゴミを管理する政策は時代遅れであり、人と野生生物の健康を危険にさらしている」とChelsea M. Rochman、Mark Anthony Browneなどは言う。

CORRESPONDENCE
特になし

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
All rise for the case of the missing magma
John Maclennan
インド洋の海嶺の詳細な分析から、マントルの組成変動が海嶺に沿った海底の膨らみの隆起に驚くほど重要な役割を負っていることが示された。

ARTICLES
Thin crust as evidence for depleted mantle supporting the Marion Rise
Huaiyang Zhou & Henry J. B. Dick
インド洋南西部のMarion Riseにおける試料採取から、地殻が不連続で薄く、隆起が地下の低密度のマントルによって支えられていることが示された。

LETTERS
The structure of the asteroid 4 Vesta as revealed by models of planet-scale collisions
惑星規模の衝突モデルから明らかになる小惑星ベスタの構造
M. Jutzi, E. Asphaug, P. Gillet, J.-A. Barrat & W. Benz
3次元モデルを用いて惑星同士の天体衝突からベスタ状の小惑星ができるかどうかを再現。

Insolation-induced mid-Brunhes transition in Southern Ocean ventilation and deep-ocean temperature
日射量によって引き起こされる南大洋の気体交換と深層水の温度のmid-Brunhesにおける変化
Qiuzhen Yin
430ka以降の間氷期(MIS11〜)はよりCO2濃度が高く、より暖かい間氷期として知られているが、その変化は'mid-Brunhes event (MBE)'と呼ばれている。日射量の変動を与えるだけで、海氷・温度・蒸発・塩分のフィードバックで南大洋の気体交換やAABW形成を再現できることがモデルシミュレーションから分かった。MBE以前の間氷期はよりAABWの形成が強く、深層水はより冷たかったことが示された。MBEを挟んで軌道要素に大きな変化は見られないため、日射の変動がAAIWの形成や深層水の温度に影響するというのはこれまで予想されていなかった。

Biodiversity decreases disease through predictable changes in host community competence
宿主のコミュニティーの能力の予測可能な変化を通して生物多様性が病気を減らす
Pieter T. J. Johnson, Daniel L. Preston, Jason T. Hoverman & Katherine L. D. Richgels
両生類の感染症に関する調査と実験から、多様性が高いほど感染症の広がりが抑えられることが示された。種が多いほど種全体として感染に耐える能力が高まることが原因だろう。

2013年2月10日日曜日

新着論文(EPSL, QSR, GPC, Ncom)

◎EPSL
Seasonally resolved diatom δ18O records from the West Antarctica Peninsula over the last deglaciation
George E.A. Swann, Jennifer Pike, Andrea M. Snelling, Melanie J. Leng, Maria C. Williams
南極半島の近くから得られた堆積物コア中の個々の珪藻δ18Oから季節ごと(特に夏と春)の環境復元。最終退氷期に季節差が大きくなる時期があることが分かり、氷河からの融水の流出増大と関連?

◎QSR
The Last Glacial Maximum at 44 S documented by a 10Be moraine chronology at Lake Ohau, Southern Alps of New Zealand
Aaron E. Putnam, Joerg M. Schaefer, George H. Denton, David J.A. Barrell, Sean D. Birkel, Bjørn G. Andersen, Michael R. Kaplan, Robert C. Finkel, Roseanne Schwartz, Alice M. Doughty
ニュージーランドのLGMにおける氷河の位置を10Beを用いて決定。また雪線高度から気温も推定。LGMには雪線高度は920m下がっており、気温は6.25℃低かったと推定される。また18-13kaの間に雪線高度/気温が520m/3.6℃上昇したと考えられる。

Extensive recession of Cordillera Darwin glaciers in southernmost South America during Heinrich Stadial 1
Brenda L. Hall, Charles T. Porter, George H. Denton, Thomas V. Lowell, Gordon R.M. Bromley
南米パタゴニアのCordillera Darwin氷河の後退のタイミングについて。HS1には南米の南部とニュージーランドで同時に氷河の後退が起きており、南大洋の海洋物理や大気中CO2の上昇とリンクしていると考えられる。

◎GPC
When did modern rates of sea-level rise start?
W. Roland Gehrels, Philip L. Woodworth
潮位計からだけでは人為起源の海水準の上昇を特定することは難しい。北米・オーストラリア・ニュージーランドの潮位計の記録とプロキシを用いたより長い時間(〜完新世)の記録との比較から、人為起源の海水準上昇率とその開始時期を推定。おおよそ「1925年」から影響が出始めていた。地域ごとに見られるわずかな違いはどこの氷が融けたかに依存するため、グリーンランドと北極周辺の氷が特に融けていることが示唆される。

The phase relation between atmospheric carbon dioxide and global temperature
Ole Humlum, Kjell Stordahl, Jan-Erik Solheim
アイスコアの記録によると、千年〜百年スケールでは大気中CO2濃度は気温の上昇に遅れて上昇していたことが知られているが、もし現在の温暖化が人為起源のCO2であれば逆にCO2が先に上昇しているはずである。8つのデータセットを使って評価を行ったところ、「CO2の変化が気温の変化に9.5-12ヶ月遅れていること」が示された。1980年以降、大気中のCO2濃度の変動は人間活動と言うよりもむしろ南半球の温度が主に支配していると考えられる。

◎Nature Communications
Climate change patterns in Amazonia and biodiversity
Hai Cheng, Ashish Sinha, Francisco W. Cruz, Xianfeng Wang, R. Lawrence Edwards, Fernando M. d’Horta, Camila C. Ribas, Mathias Vuille, Lowell D. Stott and Augusto S. Auler
アマゾンで得られた鍾乳石δ18Oから過去250kaの降水を復元。軌道スケールではアマゾンの東西で準ダイポール状の降水の変動が見られる。最終氷期には西は降水量が比較的増加するが、一方で東は極端に減少していた。そのため、水気候が大きく変化したことで東側の生物多様性も減少していたと考えられる。

Caribbean-wide decline in carbonate production threatens coral reef growth
Chris T. Perry, Gary N. Murphy, Paul S. Kench, Scott G. Smithers, Evan N. Edinger, Robert S. Steneck and Peter J. Mumby
全球規模でサンゴ礁の健康悪化が報告されており、サンゴの石灰化量の低下は生態系の悪化だけでなく最終的には礁そのものの浸食につながると考えられる。カリブ海の19のサンゴ礁について石灰化量や浸食を調査したところ、完新世に比べて近年は大きく石灰化量が低下していることが示された。サンゴ被覆が10%を下回れば石灰化量が浸食に打ち負けると考えられる。

2013年2月8日金曜日

新着論文(Science#6120)

Science
VOL 339, ISSUE 6120, PAGES 617-728 (8 FEBRUARY 2013)

Editors' Choice
Sweet Potatoes Get Around
サツマイモが広がる
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, 10.1073/pnas.1211049110 (2013).
サツマイモは南米原産だとされるが、それがヒトとともに世界中にどのように広がったかについてはよく分かっていない。ポリネシアのサツマイモについてDNA分析を行ったところ、2つの遺伝子プールが見つかった。これはほとんどのサツマイモは南米からもたらされたものの、一部は北部地域から何らかの手段でもたらされ、原産種と交配され複雑化したと考えられる。

Getting a Big Head
大きな頭になる
Curr. Biol. 23, 168 (2013).
脳のサイズはおおまかには知能と比例する。知能が高いほど有利であるとすれば、何が脳の巨大化を防いでいるのだろうか?グッピーを用いた研究から、脳が大きいものほど(エネルギーの大半が脳によって消費されるため)消化器官が小さくなり、生殖機能も低下することが示された。この結果は、人間やクジラ、イルカのような高い知能をもったほ乳類ほど多産でない事実とも整合的である。

Pulsing with History
歴史とともに脈打つ
Mon. Not. R. Astron. Soc. 429, 423 (2013).
我々の住む銀河の歴史を理解するには個々の星の特性を詳細に分析することが重要であるが、それは300光年以内に存在する星にのみ可能だと考えられていた。しかし、宇宙地震学(astroseismology)と呼ばれる、星の脈動を利用して内部構造を推定する方法を用いることで、より遠くの星についてもよく分かるようになるという。

News of the Week
※今回は省略

News & Analysis
BP Research Dollars Yield Signs of Cautious Hope
BPの研究費が注意深い希望の兆しを見せる
Erik Stokstad
石油会社のBPが5億ドルを支出して創設された非営利団体による最初の学術横断的な公の会議がニューオーリンズで開催された。

Forecasting Regional Climate Change Flunks Its First Test
地域的な気候変動予測が最初の実験に失敗した
Richard A. Kerr
研究者は尋ねる「もし地域的な気候モデルがうまく気候を再現することができれば、気候変動を予測するのにも役に立つだろうか?」答えはノーだ。

News Focus
Giant Marine Reserves Pose Vast Challenges
巨大な海洋保護区が大きな課題をもたらす
Christopher Pala
広大な禁漁区は回遊性のマグロや他の種を保護するかもしれないが、それらの効果をモニタリングし、漁業規制を行うには新たなアプローチが必要とされている。

Archaeologist Hammers Away At 'Modern' Behavior
考古学者は’現代の’振る舞いについてコツコツ勉強する
Michael Balter
初期人類は我々と同程度に賢かったことを石器は物語っている。彼らはただ解決すべき問題が現代人と違っただけだ、と考古学者は主張する。

Losing Arable Land, China Faces Stark Choice: Adapt or Go Hungry
耕地を失い、中国は厳しい選択を迫られている:適応か飢えか
Christina Larson
食料安全を確保するために、中国は温暖化した世界でも生き残れるような新品種の作物栽培の開発を急いでいる。

Letters
Biodiversity Despite Selective Logging
選択的な伐採にも負けない生物多様性
David P. Edwards and William F. Laurance
熱帯雨林は生物多様性を育む場所であるが、急速にその範囲が縮小しつつある。それに伴って生じる切り開かれた森林(logged forest)は短期的には手つかずの熱帯雨林と同程度の炭素保有力や生物多様性があるため、保護政策の対象として認識すべきである。ただし、それらは砂漠化や森林火災の誘因にもなるため、さらなる拡大は当然ながら防ぐべきである。

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Research
Perspectives
Pollution, Politics, and Vultures
汚染、政治、そしてコンドル
Andrew Balmford
獣医が薬を投与することが禁止されているせいで、南アジアのコンドルの個体数の壊滅的な減少はそれが絶滅するまで続くだろう。

Impact and Extinction
衝突と絶滅
Heiko Pälike
チチュルブ・クレーターの高精度の年代決定から、それが白亜紀・古第三紀境界(K/Pg boundary)と一致していることが示された(66Ma)。

Fossils Versus Clocks
化石 v.s. 時計
Anne D. Yoder
集中的な形態分析から、「胎盤を持ったほ乳類の祖先は新生代に急速に進化した」という結論が支持されている。

Carl R. Woese (1928–2012)
Nigel Goldenfeld and Norman R. Pace
進化に焦点を当てた先見の明のある微生物学者で、第三の界である古細菌(archaea)の発見者。

Research Article
The Placental Mammal Ancestor and the Post–K-Pg Radiation of Placentals
胎盤を持つほ乳類の祖先とK/Pg境界後の発散
Maureen A. O'Leary et al.
化石とDNAの系統発生学は、胎盤をもつほ乳類は新生代に多様化したことを支持しており、彼らの祖先の姿を復元している。

Reports
Gravity Field of the Moon from the Gravity Recovery and Interior Laboratory (GRAIL) Mission
GRAILミッションから得られた月の重力場
Maria T. Zuber et al.
月の重力場は、隕石衝突が地殻の密度を均質にし、割れ目を多く作ったことを物語っている。

The Crust of the Moon as Seen by GRAIL
GRAILによって見られる月の地殻
Mark A. Wieczorek et al.
月の重力場の分析から、従来考えられていたよりも地殻が密でなく、多孔質であることが明らかに。

Ancient Igneous Intrusions and Early Expansion of the Moon Revealed by GRAIL Gravity Gradiometry
GRAILの重力勾配から明らかになった古代の火成緩急と初期の拡大
Jeffrey C. Andrews-Hanna et al.
月の重力場のマッピングから、地殻が多くのマグマ的なダイクによって切られており、おそらく初期の拡大の歴史を暗示していると思われる。

Time Scales of Critical Events Around the Cretaceous-Paleogene Boundary
白亜紀-顕世代境界周辺の重大イベントの時間スケール
Paul R. Renne, Alan L. Deino, Frederik J. Hilgen, Klaudia F. Kuiper, Darren F. Mark, William S. Mitchell III, Leah E. Morgan, Roland Mundil, and Jan Smit
40Ar/39Ar法による年代測定から、K/Pg境界(白亜紀-古第三紀境界)の大量絶滅を招いたと考えられているチチュルブ・クレーターの形成年代が66Maであり、大量絶滅が隕石衝突後32,000年以内に起きていたことが示された。大気中の炭素循環への擾乱は少なくとも5000年間は起きていたと考えられ、回復にかかった時間は大気の方が海洋に比べて2〜3倍早かったと考えられる。チチュルブへの巨大隕石衝突は、ほとんど限界に近いストレスを既に受けていた生態系にシフトを促したものと思われる。

Stress State in the Largest Displacement Area of the 2011 Tohoku-Oki Earthquake
2011年東北沖地震の際に最も大きく破壊された領域の応力状態
Weiren Lin, Marianne Conin, J. Casey Moore, Frederick M. Chester, Yasuyuki Nakamura, James J. Mori, Louise Anderson, Emily E. Brodsky, Nobuhisa Eguchi, and Expedition 343 Scientists
2011年に起きたM9.0の東北沖地震では最大で50mに及ぶ滑りが発生し、それによって完全に応力ストレスが解消されたと考えられている。地震の1年後に行われたIODPによる断層掘削の掘削孔の圧力測定から、最大の断層滑りが起きた場所ではほとんどすべてのストレスが失われたことを支持する結果が得られた。

Technical Comments
Comment on "Large Volcanic Aerosol Load in the Stratosphere Linked to Asian Monsoon Transport"
”成層圏への大きな火山性エアロゾルの注入はアジアモンスーンによる輸送と関連している”に対するコメント
Michael Fromm, Gerald Nedoluha, and Zdenek Charvát
「2011年6月13日に発生したNabro火山のエアロゾルがアジアモンスーンを介して対流圏から成層圏まで注入された」とするBourassa et al. (2012, Science)の主張について。確かに成層圏で火山性のガスやエアロゾルが観測されているが、それはアジアモンスーンを必要とせずにそこに到達したものである可能性がある。

Comment on "Large Volcanic Aerosol Load in the Stratosphere Linked to Asian Monsoon Transport"
”成層圏への大きな火山性エアロゾルの注入はアジアモンスーンによる輸送と関連している”に対するコメント
J.-P. Vernier, L. W. Thomason, T. D. Fairlie, P. Minnis, R. Palikonda, and K. M. Bedka
CALIPSOのリモートセンシングによるデータは、成層圏下部にもたらされたエアロゾルの大半は火山の初期噴火で直接もたらされたものであり、’アジアモンスーンによる深い対流’が到達するのよりもはるかに前であった。

Response to Comments on "Large Volcanic Aerosol Load in the Stratosphere Linked to Asian Monsoon Transport"
”成層圏への大きな火山性エアロゾルの注入はアジアモンスーンによる輸送と関連している”に対するコメントへの返答
Adam E. Bourassa, Alan Robock, William J. Randel, Terry Deshler, Landon A. Rieger, Nicholas D. Lloyd, E. J. Llewellyn, and Douglas A. Degenstein
対流圏における二酸化硫黄の高度分布は確かにアジアモンスーンによる深い対流が成層圏への火山性ガスの輸送に関わっていることを示している。

「気象を操作したいと願った人間の歴史」(ジェイムズ・ロジャー・フレミング、2012年)

[邦題] 気象を操作したいと願った人間の歴史
[原題] Fixing the Sky: The Checked History of Weather and Climate Control
ジェイムズ・ロジャー・フレミング 著
鬼澤忍 訳
2012年7月 第一版発行
紀伊国屋書店

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気になった一文集(日本語 ver. No.5)

気象を操作したいと願った人間の歴史
Fixing the Sky: The Checked History of Weather and Climate Control
ジェイムズ・ロジャー・フレミング 著
鬼澤忍 訳

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一世紀以上にわたり、科学者、軍人、ペテン師たちが、天気や気候を操作しようともくろんできた。(pp. 19)

十七世紀以降、増大する知識が「公益のための」新たなテクノロジーに結びつくというベーコン的な予想は、科学のあらゆる分野に広く当てはめられてきたが、とりわけ気象学と気候学でその傾向が強かった。(pp. 21)

スコットランドの科学者のジョセフ・ブラックが、こんにち二酸化炭素と言われているものを発見したとき、「fixed air(固定空気)」と呼んだのは、その安定した特性のためだった - 今では皮肉なことに、この複合語は環境をめぐるあらゆる議論の不安定な中心となっている。(pp. 29)

一部の人にとって、デジタル・コンピューティング、宇宙からの地球観察、大気中の化学種の極めて正確な測定が実現したこの時代に、天気や気候を支配することは、ただ観察したり、予測したりすることよりも望ましいことだ。現代ではそれが可能であり、科学技術のおかげでわれわれは、地球を動かすアルキメデスの梯子を手にしているのだと考える人もいる。(pp. 33)

昔の似非科学的なレインメーカーと同じように、こんにちの意欲あふれる気候エンジニアは、何が可能かをひどく誇張し、世界の気候を管理しようとすることの政治的・倫理的含意を - また、彼らの先輩が直面したものよりもはるかに重大な潜在的帰結を - ほとんど考慮していない。(pp. 38)

人類にとって、この世界と次の世界のあいだでとりうる最善策は、「みずからの集団的無知」を認め、謙虚さを失わず、太陽神とその親分をともに怒らせるのを避けることである。(pp. 46)

環境汚染の抑止や炭素排出の削減は、それ自体がわくわくするような目標ではないが、自分自身や世界について新たな視点で考えることは、まさにそうした目標なのだ。環境保護主義者は、地球への影響を最小限に抑えようとする点で、残す者の文化の価値観にしたがっている。ところが気候エンジニアは、気候変動の抑止という名を借りて、正真正銘の奪う者となるのである。(pp. 55 - 56)

ひょっとしたら、正確な長期予測と気象制御こそが、天気にまつわる本物の迷信と誤信なのかもしれない。(pp. 242)

気象システムに干渉する際には、どんな気象であれ重大な倫理的配慮が必要である。道徳上の落とし穴の一つは、ある場所で気象を改変しようとすると別の場所で大災害が起こる可能性があることだ。(pp. 288)

天気や気候は本質的にきわめて無秩序なシステムであり、短期間の予測はある程度可能だが、たいていは非線形の相互作用から驚くべき事態が生じるものだ。わかっていないことがあまりにも多い。(pp. 288)

歴史的に、気象と気候の制御は敵に知られることなく- そして、下っ端の戦闘員や一般市民にも知らされずに - 使える武器とされてきたことも、われわれはよく知っている。(pp. 292)

軍はときに、自然と技術の知識のたゆみない進歩をねじまげる力として働きかねない。とくに、国の安全保障という大義名分のもとに、新たな発見を秘密にし、どれほど新奇であろうと推測の域を出ないものであろうと、あらゆる新技術を武器化しようとする場合がそうだ。(pp. 295 - 296)

気象学者は、毒ガス攻撃の仕掛け方と、毒ガス攻撃を受けても生き延びる方法について助言するうちに、戦場の気候学の基礎を固めていった。(pp. 297)

気象改変を武器として使用しても、それを否定するのはたやすいし、どれほど被害が出ようと自然のせいにできるからだ。(pp. 299)

「気象改変に関心をもつ科学者にとって、ハリケーンは大気圏内で最大かつ最も手強い獲物だ。そのうえ、それらを『狩り』、手なずけなければならない差し迫った理由がある」(pp. 310)
ハリケーンに人間の手を加え、進路を変えたり嵐を弱めたりする「ストームフューリー計画」の責任者の発言。

「人間の幸福のため、公衆衛生の保護と農業生産性」の強化のため、激しい暴風雨による自然災害を減らすために発達した科学の知識と技術の力が歪曲されたあげく、戦争兵器になるとは、醜悪なまでに不道徳な事態です。」(pp. 317 - 318)
ベトナム戦争で気象兵器が使用されたことに対する米国科学アカデミー会長フィリップ・ハンドラーの書簡より。

現在の地球温暖化との戦いは、軍事的な比喩が比喩にとどまらなくなった長い歴史的過程の帰結と見るべきだ。それらの比喩は比喩どころか厳しい現実であり、科学的研究の道筋にも軍事政策にも、そして、何よりも自然に対するわれわれの姿勢にも、影響を及ぼしている。(pp. 323)

「今後、大規模な気象改変が真剣に提案されるのはおそらく避けられないだろう。その場合、大循環に関する知識とコンピューターによる数値気象学の資源をすべて注いで結果を予測し、病気よりも治療のほうが悪かったという不幸な事態に陥らないようにすべきである」(pp. 371)
気象学者ハリー・ウェクスラーが地球工学に関する論文を1958年にサイエンスに公表したときの締めの言葉。

大規模な大気現象に無理やり介入するとどんな結果を引き起こすか、前もって予測できるようになるまでは、[気候制御は]「興味深い仮定の課題」としておくに限る。これまでに提案されたそうした計画の大半は、大変な技術的偉業を必要とするし、短期間の利益を生む可能性と引き換えに、われわれの住む地球に修復不能な害や副作用を及ぼす危険をはらんでいる。(pp. 383 - 384)
ウェクスラーの気候制御に対する警告。

「人類は意図せずして、地球全体におよぶ制御不能の実験をしている。その結果の重大性をしのぐものがあるとすれば、世界的核戦争だけだろう」(pp. 386)
1988年にカナダ政府が行った国際会議の声明。

地球工学がまずい考えであることは枚挙にいとまがないが、地球工学理論の研究にいささかの投資をすれば、まずい考えかどうか科学者が判断する際に役立つかもしれない。知らされている悪影響の回避が確実にできないうちは、小規模な実施ですら論外だ。(pp. 397)
気候モデラー アラン・ロボック

気候制御は、もし複数の国家がそれを保有し、最適な気候バランスをめぐって合意できなければ、核兵器と同じく「安心材料ではなく、むしろ国際紛争の種」になりうる(pp. 415)
経済学者 トマス・シェリング

なぜ、鉄肥沃化論がこれほどの注目を集めているのだろうか?地球の気候を制御できるという考えをわれわれが楽しんでいるのではないかと勘ぐりたくなる。(pp. 426)

「地球のシステムについてのわれわれの無知はひどいものだ……世界規模の地球工学は地球温暖化に対抗できるかもしれないが、十九世紀の医学の場合と同じく、最前の治療法は優しい言葉と、自然のなすがままに任せることかもしれない」(pp. 440)
ジェイムズ・ラヴロック

科学者はたいがい、歴史、倫理、公共政策についての勉強が乏しいか欠如しているものだが、世界的気候変動は人間の問題であり、科学だけの問題ではない。(pp. 441)

われわれは化石燃料を使わずに経済の繁栄を存続させ、発展を続けられることをまだ実証していないが、長期にわたる持続可能性のためには、それを実証しなくてはいけないだろう。(pp. 449)

気象・気候制御が明暗入り混じる歴史を持つことをわれわれは知っている。傲慢さから生まれ、ペテン師と、誠実だが道を誤った科学者たちを育んできた歴史である。(pp. 454)

自然の複雑さ(と人間の性質)を前にして、十分な謙虚さと、畏怖さえ培うべきだ。複雑な社会的・経済的問題に対し、単純化しすぎた技術的解決策を提案してはいけない。単純化しすぎた社会的・経済的解決策を提案するのもいけない。検証不能な結果について功績を主張してはいけない。(pp. 455)

2013年2月7日木曜日

新着論文(Nature#7435)

Nature
Volume 494 Number 7435 pp5-142 (7 February 2013)

EDITORIALS
Unknown territory
よく分からない領域
日本は遅ればせながら幹細胞を使用した治療に対する規制を設ける試みを実施している。患者を守るためにもよく定義された枠組みが必要である。

In a hole
穴の中
イギリスが最も関心を寄せているのは、地下深部の核廃棄物貯蔵場所を監視し続けることである。先週、廃棄施設建設が地方自治体の反対を受けて停止したことを受けて。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Jet-stream shifts linked to ozone
オゾンに関連したジェット気流のシフト
Science 339, 563–567 (2013)
南半球のジェット気流の位置が南に変化しているのは温暖化よりもオゾンホールの影響が大きいことが、風の観測記録から明らかになった。風の変化は降水パターンや嵐の位置にも影響している。
>問題の論文
Detecting Ozone- and Greenhouse Gas–Driven Wind Trends with Observational Data
観測記録からオゾンと温室効果ガスによって駆動される風の傾向を検出する
Sukyoung Lee and Steven B. Feldstein
モデル研究から南極のオゾン濃度が低下し、温室効果ガス濃度が増加すると、南半球の夏における偏西風が極側へわずかにシフトすることが示されている。しかし観測からそれら2つの効果を分けて見積もることは従来難しいと考えられていた。観測記録の解析から7日、11日の風のクラスターが見つかり、それぞれモデル研究で示されているオゾンと温室効果ガスの影響と類似している。さらにクラスターの周期解析から、オゾンの影響が温室効果ガスの影響に比べて2倍程度であることが示された。さらに温室効果ガスの影響には熱帯域の対流が大きく寄与している可能性が示された。

Cats are enemy number one
猫が社会ナンバーワンの敵
Nature Commun. 4, 1396 (2013)
外を自由にある行き回る家猫がアメリカの野生動物を従来考えられているよりも殺していることが分かり、人為起源の野生生物(鳥やほ乳類)の殺しとしてはリストのトップになる可能性があることが示された。人が生息地を破壊したり、乗り物や建物と衝突したりすることによる死亡よりも多いらしい。
>問題の論文
The impact of free-ranging domestic cats on wildlife of the United States
自由に歩き回る家猫がアメリカの野生生物に与える影響
Scott R. Loss, Tom Will, Peter P. Marra
アメリカにおいては、自由に外を歩き回る家猫が年間に14-37兆羽の鳥と69-207兆匹のほ乳類を殺していると試算され、従来の推定値よりもはるかに多いことが分かった。所有されている猫よりは、野生の猫の方が殺しに関与している。その影響を減らすためにも適切な保護策と政策介入が必要とされている。

Bird behaviour spurs evolution
鳥の振る舞いが進化に拍車をかける
Proc. R. Soc. B http://dx.doi. org/10.1098/rspb.2012.2893 (2013)
156種のハトがどのように進化したかを調べるために、ふるまいや物理的な特徴の変化の繋がりを調査。そのうちの数種類が陸から木へと移ったことが「短い後脚の骨」と「長い尾」の進化を加速させたことが示された。

SEVEN DAYS
※今回は省略

NEWS IN FOCUS
Landsat 8 to the rescue
救済のためのランドサット8
Jeff Tollefson
今年1月に28年もの長期間にわたって活動し続けてきたLandsat 5からの連絡が途絶えた。地球の気候変動の歴史を測定し続けるために、NASAは来週後継機であるLandsat 8の打ち上げを予定している。新たな波長領域の検出器が搭載され、エアロゾルや短波放射などが観測されるという。Landsat 8は軌道に入ってから90日後に運用され出す予定。

Quake fears rise at Japan’s reactors
日本の原子炉に地震の恐怖が持ち上がる
David Cyranoski
委員によると、断層がいくつかの原子炉を危機にさらしており、再稼働を不可能にしているという。

Alert over South Korea toxic leaks
韓国の毒漏れに対する警告
Soo Bin Park
フッ化水素の事故の後、韓国政府は監視を強化する方向に動いている。

FEATURES
Survival of the flexible
柔軟性の生き残り
Hillary Rosner
多くの熱帯生物は極端な暑さ/寒さを経験したことがない。そのため温暖化は彼らをだめにするかもしれない。

COMMENT
Ten things we need to know about ice and snow
氷と雪について知る必要のある10のこと
「凍った水が分子的にどう振る舞うかを理解することは地球の未来を予測する上でも必要不可欠である」とThorsten Bartels-Rauschは言う。

Build a biomass energy market
バイオエネルギー市場を作る
「政府はバイオ燃料や他の再生可能エネルギーへの変換を促すようなインセンティブを提供しなければならない」と、Heinz Kopetzは主張する。

CORRESPONDENCE
Species splitting puts conservation at risk
種を分けることが保全を危機に
Frank E. Zachos

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
The life beneath our feet
我々の足の下の生命
Janet K. Jansson & James I. Prosser
作物生産から炭素固定まで様々なプロセスが土壌中の微生物によって進行している。分子分析は微生物コミュニティーの特徴付けに大きく貢献してきたが、彼らの生態学的な機能をよりよく理解するにはどうすればいいだろうか?

Going supernova
スーパーノバへと向かう
Alexander Heger
スーパーノバ(星の死)の直前の星の観測について。

LETTERS
An outburst from a massive star 40 days before a supernova explosion
E. O. Ofek et al.
タイプIInスーパーノバの40日前の星の姿が検出された。

Northern Hemisphere forcing of Southern Hemisphere climate during the last deglaciation
最終退氷期の南半球の気候に対する北半球のフォーシング
Feng He, Jeremy D. Shakun, Peter U. Clark, Anders E. Carlson, Zhengyu Liu, Bette L. Otto-Bliesner & John E. Kutzbach
 ミランコビッチ理論によると北半球の日射量のフォーシングが氷期-間氷期サイクルを生み出すとされているが、南半球が北半球と同時に応答したのか、或いは北半球のフォーシングに対して応答したのかを知ることは難しい。
 AOGCMを用いて軌道要素・CO2・氷床・AMOCのフォーシングが最終退氷期前半の温暖化に与える影響を評価したところ、すべてのフォーシングを考慮した場合、最も良く間接指標によって得られている記録と合った。軌道要素の変化に伴う北半球氷床の後退とAMOCの変化が、観察されている「南半球の温暖化が北半球の温暖化よりも先行している」事実を最もうまく説明してくれる。さらに、南半球の温暖化に伴う大気中CO2濃度の上昇が全球の退氷に必要不可欠なフィードバックであったことを物語っている。

Diversity loss with persistent human disturbance increases vulnerability to ecosystem collapse
持続的な人類の擾乱に伴う多様性の消失が生態系の崩壊に対する脆弱性を増加させる
A. S. MacDougall, K. S. McCann, G. Gellner & R. Turkington
持続的に人類の擾乱が加えられることで、植物の種数が減少し、生態系機能の一部を安定化させることが示された。これは生産量が多く、多様性の少ない農業システムのアナログになる。しかし、急激な気候変動が起きることで、不可逆的な崩壊が起きる可能性が増加することも示された。