〜気候変動は世界をどう変えるか〜
[原題]THE WEATHER OF THE FUTURE
Heat Waves, Extreme Storms, and Other Scenes from a Climate Changed Planet
ハイディー・カレン 著
ハイディー・カレン 著
熊谷玲美 訳
大河内直彦 解説
大河内直彦 解説
2011年9月 初版
シーエムシー出版
柏の図書館でいつものように読書用の本を探していたときに、たまたま目に入った本。
同じ古気候・古海洋学に携わる大河内さんは現実に何度もお会いしているが、
著者と訳者にも関係があることが調べてみて分かった。
まず訳者は東京大学 理学系研究科 地球惑星科学専攻の卒業生であった。
さらに著者がかつてコロンビア大学にいたころに書いた論文を僕も知っていた。その内容は4.2ka頃の中東の干ばつを堆積物コアから復元したものであったが、僕自身も同時代のインド北西部の気候変動を卒業論文で扱っていたからだ。
著者はその後研究者ではなく、むしろ科学ジャーナリストとして歩む道を選んだらしい。
本書の特徴は、「天気」と「気候」の類似点、相違点を浮き彫りにし、「人の目を天気だけでなく、気候にも向けること」を念頭に置いている点にある。
さらに天気予報のように、具体的な記述でもって10年先や、40年先の地域の’気候予測’を小説風に紹介しているところが非常にユニーク。こうすることで人々に実感を持って気候変動問題を考えて欲しいという意図が含まれている。
少し気になるのは、あまりに気候変動予測モデルを過信しすぎていることか。あとこれは訳者の問題だが、誤訳が多い。
後半の章では、選別された世界でもっとも脆弱な地域7つについて
- 何が起きているのか、
- 誰が問題に取り組んでいるのか、
- 将来どのような危険性が考えられるか
- それを回避する策があるのか
などについて、現地に暮らす人々や、科学者・政策決定者の取材を通して生き生きと描かれる。
- アフリカ・サヘル地域
- オーストラリア・グレートバリアリーフ
- カリフォルニア州・セントラルバレー
- カナダ・イヌイット・ヌナート
- グリーンランド
- バングラデッシュ・ダッカ
- ニューヨーク州・ニューヨーク市
あらゆる地域には特有の問題が隠れている。海水準上昇が問題になる地域もあれば、水蒸気量の変化による干ばつや巨大台風が問題になる地域もある。
興味がある人には是非一読を勧める。大河内氏による解説も秀逸。
非常に多くのものを学ばせてもらったが、枚挙にいとまがないので詳細な記述は割愛させていただく。ピックアップした名言集はこちら。
ここでは大河内氏の解説から一文だけ引用したい。
温暖化で生じる悪影響は、気温が上がってお年寄りの熱中症が増えることや、エアコンの使用増で夏の電力不足が起きることだけではない。
それは海水準の上昇や、水蒸気分配、海氷・氷河などの変化が、これまで準安定状態だった完新世の気候の上に発展してきた我々の文明社会(特に農業やインフラ)に大きな影響をもたらすことであり、ヒト以外の自然生態系を圧迫することにある。
生物多様性の減少が巡り巡ってヒトにも多大な影響を与えることは考えてみれば想像がつくだろう。
これまでに排出された5,000億トンのCO2は、その大部分が現在先進国となっている国々(アメリカ・ヨーロッパ・日本)によって排出されたものだ。しかしこれから排出されるCO2の大半は脱炭素化に考えを巡らせる暇もなく急速に発展する途上国(いわゆるBRICs)から出てくるものだ。
日本がいくら将来の化石燃料の使用を減らし、低炭素社会への道を辿ったところで全球のCO2濃度にはほんのわずかしか影響をもたらさない。
だからといって日本の取り組みを否定するわけではないが、物事の本質をしっかり押さえる必要があることをここに記しておく。
もちろん日本は貿易や投資、その他のサービスを通して間接的には依然として莫大な炭素放出者であり、環境破壊者であることに変わりはない。
さらに日本のもつ優れたエネルギー技術、省エネ技術を海外へと(特に途上国に)輸出する義務を負っていることは言うまでもない。
さらに日本のもつ優れたエネルギー技術、省エネ技術を海外へと(特に途上国に)輸出する義務を負っていることは言うまでもない。
地球温暖化問題はつまるところ、科学というよりはむしろ心理学や外交上の問題であると最近感じている。哲学にも通じるかもしれない。
将来であれ、過去であれ、地球の気候システムの研究に携わるものたちの共通認識は、「一般の人にいかにして気候変動問題の重要性を理解してもらうかが大切だ」ということかもしれない。
僕のように悲観的にばかり考えてしまう人もいるが、逆に人が変われば危険は回避できると楽観的に考えている研究者もいる。
僕のように悲観的にばかり考えてしまう人もいるが、逆に人が変われば危険は回避できると楽観的に考えている研究者もいる。
気候学者はこれまでに幾度となく人間が歩むであろう未来の道筋を提示してきた。不確実性は依然としてあるが、気候変動が人間の振る舞い次第でさらに危険なものになるのか、或いは安定状態に落ち着くのかが決まる。まさに未来は私たちの手の中にあるのだ。
しかしその私たちのうち、日本人が占める割合は次第に低下しているのもまた事実である。
最後に、もう一文だけ引用させてもらう。