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2013年2月2日土曜日

アイスコアの年代モデルとpCO2上昇のタイミング

以前軽く触れましたが、アイスコアの年代決定というのは非常に難しい課題です。

例えば、南極やグリーンランドで掘削されたアイスコアに年代を与えるにはどうすればいいでしょうか?
>以前書いた論文概説「ハインリッヒイベント時の大気中CO2上昇の謎〜アイスコアからのアプローチAhn et al., 2012, GRL)」



最も手っ取り早い方法は、グリーンランド氷床の特徴である’年縞’を利用する方法。
これはアイスコアに1年に1枚の縞があるので、簡単に言うとグリーンランド氷床の最下部まで(~120 - 150 ka)数えて行けば絶対年代が求まるというもの。
本当はそう簡単なことではないわけですが、「GICC05」と呼ばれる統一された年代モデルが構築され、広く用いられています。

年縞が存在しない他のアイスコア(例えば南極Dome Cアイスコアなど)に年代を与える場合、雪の堆積速度や、雪がフィルン(Firn; 万年雪)として氷状になるまでの時間などを考慮して求める方法があります。

或いは
「アイスコアに捕獲されたメタン(CH4)の濃度が全球でほぼ一定であること」

「酸素・水素同位体のシグナルの間に時間的なラグがないこと」
などを仮定して、アイスコア同士を繋ぎ、GICC05の時間尺度を他のアイスコアに与える手段も広く取られています。

ただし、ここで問題になるのが、
「アイスコアの気泡中に捕獲されたガス成分が持っている年代(gas age model)はいつか?」
という疑問。雪が降ってからある一定時間が経ってから大気とのガス交換が遮断されるため、必ずしも隣接する氷が持っている年代(雪が降った年代)と気体が持っている年代とが一致しないわけです。

しかも面倒なことに、気候変動とともに気温・降雪量などが変化するとgas age modelも変化してしまいます。
例えば氷期-間氷期の気候変動で数百年〜数千年の差が生じてしまいます。

下の図はアメリカ大気海洋庁(NOAA)の古気候研究グループが管理している古気候記録(アイスコア・サンゴ・木の年輪など)のデータベースをもとに作成した、南極のアイスコア(Dome C, Taylor Dome)から復元された大気中のCO2濃度の最終退氷期に相当する部分を抜き出したもの。


「EDC1」や「GICC05」というのが用いられているgas age年代モデルを指します。
pCO2の測定の確度の問題はさておくと、年代モデルにどれを採用するかでpCO2の変動のタイミング・規模が大きく変わることが分かります。

実はこの年代モデル(+どのアイスコアを引用するか)については研究者ごとに(残念ながら恣意的に)使い分けられているのが実情です。まだ完全には統一されていないんですね。



上の図をもう少し細かく見てみますと、急激な海水準上昇が起きたとされるMWP-1aは「14.6 ka」に起きたとDechamps et al. (2012, Nature)では報告されています。
またこのタイミングはBølling/Allerød (B/A)やAntacrtic Cold Reversal (ACR)と名付けられた重要な気候変動の開始時期に相当します。

(過去の海水準を復元する方法については以前書いたコラム「タヒチの埋没サンゴ礁から過去の海水準変動を復元する」などを参照ください)

このとき大気中のCO2濃度はどう変動していたのでしょうか?

Taylor DomeアイスコアやDome Cアイスコア(GICC05)ではちょうどpCO2が急増するタイミングと一致しています。
一方で同じDome Cアイスコアでも、他の年代モデルの場合ではpCO2は特に変化していません

ここで興味深いのは、pCO2-MWP1a-B/Aの因果関係ですが、

例えば、Köhler et al. (2011, CP)では海水準上昇がpCO2の上昇を招いたと考察されています。
Köhler et al. (2011)を改変。
B/Aに相当する時期の急激なCO2濃度の上昇。
EDC (EPICA Dome C), TD (Taylor Dome), SD (Siple Dome) 

以下はアブストラクトからの引用です。

B/A was accompanied by a rapid sea level rise of about 20 m during meltwater pulse (MWP) 1A, whose exact timing is a matter of current debate.

We therefore hypothesise that most of the carbon might have been activated as a consequence of continental shelf flooding during MWP-1A.

つまり、海水準上昇がpCO2の上昇の原因だったと主張しています。

逆にpCO2の上昇が海水準上昇よりも’先’だったと証明できれば、
「pCO2上昇→温暖化→氷床の崩壊→海水準上昇」という説明も可能なはずです。



このように、アイスコアの年代モデルはとても重要です。


アイスコアは古気候研究において非常に重要なツールの一つですが、
例えば論文などでアイスコアのデータが出てきた場合や、
自分の研究結果を解釈する際には、
’どの年代モデルに基づいているのか’
に注意する必要があります。

自分自身の研究でもアイスコアの年代モデルが自ら得たデータの解釈に大きく影響するため、まだまだ勉強する必要がありそうです。



◎他に参考になりそうな日本語の文献
極域アイスコアに記録された地球環境変動(藤井理行、2005、地学雑誌)
氷床の安定性と海水準(横山祐典、2012、JGL)
アイスコア―地球環境のタイムカプセル(藤井&本山、2011、極地研ライブラリー)