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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年2月2日土曜日

新着論文(Ngeo#Feb2013)

Nature Geoscience
February 2013, Volume 6 No 2 pp77-152

Editorials
Communication at risk
コミュニケーションが危機に
地球科学教育にはリスク・コミュニケーションが重要であることがラクイラの地震裁判から浮き彫りに。

Expanding spheres of interest
興味の範囲が広がる
系外惑星の研究がブームにのっている。地球以外の惑星の研究もまた地球で起きる現象を理解するのに役に立つため、繋がりがある論文投稿を歓迎する。


Commentary
Strange news from other stars
他の星からの変な知らせ
Raymond T. Pierrehumbert
系外惑星の発見は太陽系の惑星とは似ても似つかない惑星が宇宙に無数に存在することを次々に明らかにしている。地球科学者もまた宇宙に飛び出して研究を行うことが出来るし、先陣を切るべきである。


Correspondence
Caprock corrosion
キャップロックの腐食
P. J. Armitage, D. R. Faulkner & R. H. Worden
炭素貯留を成功させるためには安定したキャップロック(帽岩)の存在が要である。しかしながら、モデル研究から、世界最大の貯蔵庫として有望な地下から採取された泥岩が水-岩石反応によって浸透性になる(流体が漏れだす)可能性が示された。

In the press
Soil or sea for ancient fossils?
古代の化石は土壌それとも海?
Nicola Jones
エディアカラ動物群が発掘されたカンブリア爆発時の地層が海で堆積したものか、陸で出来た土壌かの問題について。

Research Highlights
Dense mountain roots
密な山脈の根
Earth Planet. Sci. Lett. 361, 195–207 (2013)
山脈の下には下部地殻やリソスフェア・マントルが存在しないことがあるが、数値モデリングからそうした山脈の根がマントルまで突き抜けて沈み込んでいる可能性が示された。

Sea level trigger
海水準のトリガー
Geol. Soc. Am. Bull. http://doi.org/j7p (2012)
メッシニアン塩分危機(~6Ma)の際の地中海の古気候復元から、海水準の低下が最終的なイベントの引き金となっていたことが示された。それより前にテクトニック的にジブラルタル海峡が既に閉じつつあり、そこに急速な海水準の低下が起きたことで地中海と大西洋の海水交換が完全に封鎖されたと考えられる。
>問題の論文
Vegetation, sea-level, and climate changes during the Messinian salinity crisis
Gonzalo Jiménez-Moreno, José Noel Pérez-Asensio, Juan Cruz Larrasoaña, Julio Aguirre, Jorge Civis, María Rosario Rivas-Carballo, María F. Valle-Hernández and José Angel González-Delgado

Ridged terrain
隆起した平原
Geophys. Res. Lett. http://dx.doi.org/10.1002/ grl.50106 (2013)
火星の初期の地殻が地下水と反応して変質したことが火星の表層で観察されている粘土鉱物の説明として提案されている。火星のクレーターの高解像度の撮影から、クレーターの底に広がる隆起帯はかつてそこを地下水が流れていたことの名残であることが示唆されている。

Shifting storm tracks
嵐の軌跡がシフトする
J. Climate http://doi.org /j7q (2013)
来る100年間は熱帯低気圧の強度が増すと予想されている。モデルシミュレーションから、大西洋の熱帯低気圧の軌跡が変化することで、カリブ海の沿岸部やメキシコ湾に近づく熱帯低気圧が5.5%減少する一方、大西洋の中央部やアメリカ東海岸に到来するものが増加することが示された。
※'太平洋'でも同様の予測が(Yokoi et al., 2012, JC)。

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Research
News and Views
Weathering away warmth
暖かさを風化で取り去る
Brian A. Haley
始新世の終わりには南極に永年氷が発達し始め、地球は温室効果による温暖期から寒冷化へと向かった。南極周辺の堆積物コアから、寒冷化の始まりとともに風化速度がスパイク的に増加していたことが示され、効果的にCO2を大気から取り去る役割を担っていたことが示唆される。

The heat is on in Antarctica
南極において温暖化のスイッチが入る
Eric J. Steig & Anais J. Orsi
南極半島のみが近年温暖化をしていると考えられていたが、西南極も同様に温暖化していることが注意深い研究から明らかに。

Core–mantle boundary landscapes
コア-マントル境界の景観
Sebastian Rost
コア-マントル境界ではコアの鉄に富んだ物質とマントルの珪質岩とが交わるが、地震波を用いた撮像から境界の上部に鉄に富んだ小丘が存在することが明らかに。マントルの不均質性を示している。

Interglacial ice sheet survival
間氷期の氷床の生き残り
Alicia Newton
グリーンランド氷床の最下部にはおよそ12万年前に降り積もった雪が残されており、それは一つ前の間氷期(Eemian)に相当する。先日Natureにて公表されたNEEMによるアイスコア掘削の結果は、Eemianの最温暖期は現在よりも8℃暖かかったが、予想に反して400mほどしか高度が下がっていなかった(あまり氷床が融解していなかった)ことを示していた。グリーンランド氷床の融解は2mほど海水準を上昇させたと推定されているが、当時の海水準は4〜8m高かったことが知られているため、これは南極氷床がより融けていたことを示唆している(山岳氷河などの寄与は小さいため)我々が想像しているよりも南極氷床は温暖化に対して敏感かもしれない

Asian connections
アジアの繋がり
Carrie Morrill
8.2kaにAMOCが弱化し、北半球が寒冷化したことが知られているが、中国の鍾乳石記録もまたグリーンランド氷床アイスコアに記録されている寒冷化のタイミングと同時に乾燥化を経験していたことが示された。

Letters
Solid-state plastic deformation in the dynamic interior of a differentiated asteroid
B. J. Tkalcec, G. J. Golabek & F. E. Brenker
Vestaをはじめとする小惑星の地下深部について。

Enhanced seasonal forecast skill following stratospheric sudden warmings
M. Sigmond, J. F. Scinocca, V. V. Kharin & T. G. Shepherd
成層圏の急激な温暖化でイニシャライズを行うことで、対流圏の予測性能が増すことが示された。

Hotspots of anaerobic ammonium oxidation at land–freshwater interfaces
陸と淡水の境界面における嫌気的アンモニア酸化のホットスポット
Guibing Zhu, Shanyun Wang, Weidong Wang, Yu Wang, Leiliu Zhou, Bo Jiang, Huub J. M. Op den Camp, Nils Risgaard-Petersen, Lorenz Schwark, Yongzhen Peng, Mariet M. Hefting, Mike S. M. Jetten & Chengqing Yin
中国北部の調査からアンモニア酸化菌の活動が陸と湖の境界部分の土壌で最大となっていることが示された。

Atmospheric iodine levels influenced by sea surface emissions of inorganic iodine
海洋表層における無機ヨウ素放出に影響される大気中のヨウ素レベル
Lucy J. Carpenter, Samantha M. MacDonald, Marvin D. Shaw, Ravi Kumar, Russell W. Saunders, Rajendran Parthipan, Julie Wilson & John M. C. Plane
臭素やヨウ素は対流圏においてオゾンと反応し、有害なオゾン濃度を減少させる。赤道大西洋の海洋表から放出されるヨウ素酸化物(iodine oxide)のおよそ75%がオゾンと反応するヨウ素を構成していることが示された。

Sea surface temperature in the north tropical Atlantic as a trigger for El Niño/Southern Oscillation events
エルニーニョ・南方振動イベントの引き金としての赤道大西洋北部の海洋表層水温
Yoo-Geun Ham, Jong-Seong Kug, Jong-Yeon Park & Fei-Fei Jin
赤道太平洋におけるENSOは世界の他の熱帯域の水温にも影響を与える。観測記録の再解析とモデルシミュレーションから、赤道大西洋北部の春の温度偏差が、ラニーニャの発達のトリガーとして寄与していることが示された。赤道大西洋の春の温暖化が赤道東太平洋に時計回りの大気循環を発生させ、それが赤道西太平洋に反時計回りの循環を発生させることで、次の冬にラニーニャが発生するらしい。

Links between the East Asian monsoon and North Atlantic climate during the 8,200 year event
8,200年イベントの間の東アジアモンスーンと北大西洋の気候のリンク
Y-H. Liu, G. M. Henderson, C-Y. Hu, A. J. Mason, N. Charnley, K. R. Johnson & S-C. Xie
 8,200年前に北半球の寒冷化イベント(8.2ka event)が起きていたことがグリーンランド氷床アイスコアをはじめとする様々な古気候記録から明らかにされているが、数年スケールで年代決定が可能な試料がほとんどないことから、それが他の地域にどのようにテレコネクションしたはよく分かっていない。
 中国中央部から採取された鍾乳石のδ18OとMg/Caから当時の気候変動を数年スケールで復元したところ、8.2kaに乾燥化が起きていたことが示された。乾燥化は150年間持続していた(うち70年間が特に乾燥化)。時間のラグは北大西洋と比べてほとんどなく、大気循環を介して気候変動が急速にアジアモンスーンに伝播したと考えられる。

Antarctic weathering and carbonate compensation at the Eocene–Oligocene transition
始新世-漸新世境界における南極の風化と炭酸塩補償
Chandranath Basak & Ellen E. Martin
 始新世-漸新世境界(E/O boundary; 34Ma)以降、南極に永年氷が発達し始めた。それと同時に海洋の炭酸塩補償深度と大気中CO2濃度が変化したことが知られている。それらは南極の風化速度の変化と関係がある可能性があるが、「どういった岩石が風化したのか」「どれほどの強さで風化したのか」などを復元することは難しいという問題がある。
 南大洋で得られた堆積物コア中の炭酸塩以外の堆積物から鉛の同位体を測定したところ、始新世の後期に風化が促進しており、大気中のCO2を吸収する役割を負っていたことが示唆される。また海水の鉛の同位体も変化しているため、他の供給源が存在することが示唆される。南極の基盤岩である炭酸塩が風化することで海水にアルカリ度がもたらされた結果、炭酸塩補償深度がより深くなった可能性がある。

Bioavailability of zinc in marine systems through time
海洋生態系内の亜鉛の生物利用度の時間変化
Clint Scott, Noah J. Planavsky, Chris L. Dupont, Brian Kendall, Benjamin C. Gill, Leslie J. Robbins, Kathryn F. Husband, Gail L. Arnold, Boswell A. Wing, Simon W. Poulton, Andrey Bekker, Ariel D. Anbar, Kurt O. Konhauser & Timothy W. Lyons
地球史の初期には海洋の栄養塩の一種である亜鉛は不足していた。海洋生物の亜鉛利用の推定から、原生代には現在と同程度の値になっていたことが示唆される。

Highly vesicular pumice generated by buoyant detachment of magma in subaqueous volcanism
Melissa D. Rotella, Colin J. N. Wilson, Simon J. Barker & Ian C. Wright
極めて気泡が少ないパミス(highly vesicular pumice)の成因について。

Articles
Groundwater activity on Mars and implications for a deep biosphere
火星の地下水の活動度と深部生命圏の暗示
Joseph R. Michalski, Javier Cuadros, Paul B. Niles, John Parnell, A. Deanne Rogers & Shawn P. Wright
火星の地下にはかつて微生物による広大な生命圏が広がっていた可能性がある。(地下に生命がいたことのヒントを与えてくれる)地下水が湧昇していた可能性を評価したところ、McLaughlinクレーター深部で発見された粘土と炭酸塩は、地下水によって支えられる湖的な環境で形成されたことが明らかになった。

Central West Antarctica among the most rapidly warming regions on Earth
地球上で最も急速に温暖化している地域としての西南極の中央部
David H. Bromwich, Julien P. Nicolas, Andrew J. Monaghan, Matthew A. Lazzara, Linda M. Keller, George A. Weidner & Aaron B. Wilson
西南極中央部に位置するByrd基地における記録は、1958年から2010年にかけて同地の気温が「2.4 ± 1.2 ℃」上昇したことを示している。南半球の夏にも有意に温暖化している(特に12月から1月にかけて)ことが初めて示され、融解が起きる季節と一致している。西南極氷床の融解は海水準上昇に大きく寄与すると考えられているため、しっかりと監視しなければならず、観測をより強化する必要がある

Atlantic Ocean CO2 uptake reduced by weakening of the meridional overturning circulation
子午面循環の弱化によって減少した大西洋のCO2吸収
Fiz F. Pérez, Herlé Mercier, Marcos Vázquez-Rodríguez, Pascale Lherminier, Anton Velo, Paula C. Pardo, Gabriel Rosón & Aida F. Ríos
 北大西洋におけるCO2吸収は1990-2006年の間に急速に減少している。その原因は北大西洋の子午面循環の弱化や表層水の温暖化であると考えられているものの、依然として不確かなままである。
 過去20年間の海水の熱・体積・CO2(人為起源と自然起源の炭素を分けて)の輸送の観測結果をもとに炭素吸収量の評価を行ったところ、人為起源のCO2吸収が亜熱帯渦で活発に起きていることが示された。一方で、亜寒帯渦では自然のCO2吸収が支配的であることが示された。CO2吸収が減少していることは子午面循環の弱化が主たる要因であることを示す。