Science
VOL 339, ISSUE 6119, PAGES 481-616 (1 FEBRUARY 2013)
Editors' Choice
Changes at the Core
コアにおける変化
Quat. Sci. Rev. 63, 59 (2013).
コロンビアの湖の堆積物に花粉として記録された過去2Maの植生は氷期-間氷期において軌道要素に支配されて変化したことを物語っている。堆積物は1980年代に採られていたが、最近になって年代モデルや古気候プロキシが再解釈された。完新世の植生は過去の間氷期には同じものが見られないという。
>問題の論文
Astronomical tuning of long pollen records reveals the dynamic history of montane biomes and lake levels in the tropical high Andes during the Quaternary
Vladimir Torres, Henry Hooghiemstra, Lucas Lourens, P. Chronis Tzedakis
Downstream Discharge
下流への流れ
Appl. Environ. Microbiol. 10.1128/AEM.03527-12 (2013).
汚水はエネルギー・栄養塩・浄水へと再利用できる可能性を秘めている。しかしほとんどの汚水は河川へと流出しており、河川が集まる下流ほど有機物や病原菌が集中している。アメリカ・シカゴにおける2つの河川水の調査では、汚染の程度は環境基準は満たしているものの、下流の生態系に影響が出ていることが示された。栄養塩濃度の変化などによって堆積物の微生物コミュニティーも多様性が減少し、硫黄還元バクテリアなどから窒素酸化バクテリアなどで構成されるコミュニティーに変化していた。2つの河川は上流では全く性質が異なるが、下流では同じような状態になっていた。
Runoff in the Arctic
北極海の表層流
Sci. Rep. 3, 1053 (2013).
北極は全球の温暖化の2倍の速度で温暖化しており、その結果海氷・永久凍土が融解し、降水量が増加することで海に流れ込む淡水量が増加している。淡水流入は海洋の成層化を招き、温度構造・生態系・炭素循環に影響する。人工衛星を用いて陸源の淡水流入を溶存有機炭素を用いてモニタリングしたところ、過去10年間に(AOやNAOに支配されて)大きく変化していることが示された。この手法は将来のモニタリングにも役に立つと考えられる。
>問題の論文(オープン・アクセス)
Pan-Arctic distributions of continental runoff in the Arctic Ocean
Cédric G. Fichot, Karl Kaiser, Stanford B. Hooker, Rainer M. W. Amon, Marcel Babin, Simon Bélanger, Sally A. Walker & Ronald Benner
News of the Week
※今回は省略
News & Analysis
The Psst That Pierced the Sky Is Now Churning the Sea
かつて空に穴を開けたものが今は海をかき混ぜている
Richard A. Kerr
かつてCFCsはオゾン層を破壊する物質として注目を集めた。オゾン層が破壊されると有害な紫外線が地表に降り注ぐだけでなく、下層の大気循環にも影響する。例えば、南極のオゾンホールの影響で南極を周回する偏西風が強化され(+極側にシフト)、さらに南極を取り巻く南大洋の海流にも影響が及んでいる。
Lee & Feldstein (2013, Science)はこうした偏西風の強化のうち、3分の2はオゾンホールが、残り3分の1は温暖化によって促進された熱帯を起源とする大気循環の強化が原因と推定している。さらにWaugh et al. (2013, Science)は海洋表層に溶け込んだCFCsがどのように循環しているのかを報告している。鉛直循環が強化された結果、亜熱帯方向への輸送(SAMW)が強化されていることが示された。早い子午面循環は南大洋における炭素吸収も抑えるため、温暖化に対しては悪い知らせだ。「この知見は将来の気候変動だけでなく、過去の炭素循環の理解にも貢献する」とR. Toggweilerは指摘する。何故なら、過去の氷期-間氷期サイクルにおける大気中CO2濃度の変動には南大洋の子午面循環の変化が重要だったと考えられているためである。モントリオール議定書の甲斐あってCFCsの大気中の濃度は低下しつつあるが、Lee & Feldsteinの計算では、温室効果ガスを出し続けることで、オゾンホールの偏西風への影響が今世紀半ばには解消することが示された。
「The lesson is that humans are not farsighted enough to be fooling with Mother Nature.
教訓は人類には母なる自然をいじって遊べるほどの先見の明はないということである。」
「What the future holds depends on future human actions.
未来がどうなるかは人類が未来にどう行動するかによる。」
News Focus
Tight Budgets Squeeze European Earth Observation
きつい予算がヨーロッパの地球観測を搾り取る
Daniel Clery
ヨーロッパ全体での財政悪化を受けて、地球観測や惑星探査などに当てられる予算は削減される見込み。
Letters
Eco-Compensation for Giant Panda Habitat
Biao Yang, Jonah Busch, Li Zhang, Jianghong Ran, Xiaodong Gu, Wen Zhang, Beibei Du, and Russell A. Mittermeier
Environmental Health Crucial to Food Safety
食の安全に必要不可欠な環境の健康度
Philip E. Hulme
Policy Forum
Hurdles and Opportunities for Landscape-Scale Restoration
土地スケールの保全に対する困難と機会
Myles H. M. Menz, Kingsley W. Dixon, and Richard J. Hobbs
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Research
Perspectives
Carbon Cycle Makeover
炭素循環の改修
Donald E. Canfield and Lee R. Kump
堆積物中の微生物による嫌気呼吸が促進されることが、地質時代の炭素循環の変動を一部説明するかもしれない。
Research Articles
Authigenic Carbonate and the History of the Global Carbon Cycle
自生炭酸塩と地球の炭素循環の歴史
Daniel P. Schrag, John. A. Higgins, Francis A. Macdonald, and David T. Johnston
堆積物中の間隙水において初期続成過程で形成される自生炭酸塩が地質学時代の炭素循環において大きな役割を負っていることが明らかに。現在の酸素濃度が高い環境下では小さい役割だが、過去に酸素濃度が低かったか無酸素であった環境下ではその役割がはるかに大きかったことを示す。原生代・古生代・三畳紀において確認されている堆積物のδ13Cの極端な変動を一部説明するかもしれない。地球史における炭素循環や酸化還元収支を再解釈する必要がある。
>Podcastのインタビュー(John. A. Higgins)
Reports
Detecting Ozone- and Greenhouse Gas–Driven Wind Trends with Observational Data
観測記録からオゾンと温室効果ガスによって駆動される風の傾向を検出する
Sukyoung Lee and Steven B. Feldstein
モデル研究から南極のオゾン濃度が低下し、温室効果ガス濃度が増加すると、南半球の夏における偏西風が極側へわずかにシフトすることが示されている。しかし観測からそれら2つの効果を分けて見積もることは従来難しいと考えられていた。観測記録の解析から7日、11日の風のクラスターが見つかり、それぞれモデル研究で示されているオゾンと温室効果ガスの影響と類似している。さらにクラスターの周期解析から、オゾンの影響が温室効果ガスの影響に比べて2倍程度であることが示された。さらに温室効果ガスの影響には熱帯域の対流が大きく寄与している可能性が示された。
Recent Changes in the Ventilation of the Southern Oceans
南大洋のガス交換の近年の変化
Darryn W. Waugh, Francois Primeau, Tim DeVries, and Mark Holzer
ここ数十年間に南半球の偏西風は強化されつつあり、それは南極のオゾンホールの形成が原因と考えられている。しかし大気循環の変化が南大洋の海洋循環や大気とのガス交換に与える影響についてはよく分かっていない。海水中のCFC-2の分布から、SAMWが若くなっており、CDWが逆に古くなっていることが分かった。これは南極オゾンホールが南大洋のガス交換に影響を与えている結果と解釈される。
Emergent Sensing of Complex Environments by Mobile Animal Groups
流動的な動物の集団によって複雑な環境を迅速に感知できる
Andrew Berdahl, Colin J. Torney, Christos C. Ioannou, Jolyon J. Faria, and Iain D. Couzin
単独よりも集団で行動することで、環境の変化に対してより敏感に対応できるようになる。