[邦題] 気象を操作したいと願った人間の歴史
[原題] Fixing the Sky: The Checked History of Weather and Climate Control
ジェイムズ・ロジャー・フレミング 著
鬼澤忍 訳
2012年7月 第一版発行
紀伊国屋書店
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コルビー・カレッジ科学技術社会論教授で、「気象学と気候変動の歴史学」を専門とするジェイムズ・ロジャー・フレミングの著書。
「地球工学(geoengineering)」は最近登場した言葉だが、気象や気候を人間の思うままに制御したいという思想そのものは歴史とともに歩んできた。
かつてはペテン師が困窮した人々を騙して「雨を降らせる」という甘い文句で金儲けをするために利用され、
戦時中は軍主導で妄信的な科学者を抱き込んで、気候を支配しさらには兵器にするための開発が行われた。
「飛行場の霧を晴らす」「放射性物質の拡散をコントロールする」「戦地に大量の雨を降らせ戦況を有利にする」
そしてその流れはコンピューター・シミュレーションが登場した現代にも伝わっている。
「成層圏エアロゾル注入」「宇宙鏡」「鉄肥沃」「炭素捕獲・貯留」
あらゆる可能性が検討され、小規模に実験されているが、筆者は野外実験は「極めて危険であり、容認されるものではない」と一蹴する。
人類の愚かな歴史、妄信的な科学者、繰り返される失敗に詳しい筆者のとる姿勢は、あくまで「中道」
気象やその積み重ねである気候はカオス的な振る舞いをするため、無知な人類は(コンピューターを駆使したとしても)正確に予測することは不可能だと言う。
「気候、自然に対する謙虚さを忘れてはいけない」という主張には強く同意する。
ブロッカーが主張するように、「気候という野獣を怒らせてはいけない」
しかし、提案されている地球工学の中にも危険なもの/そうでないもの、不可逆的なもの/やめようと思えばすぐに止められるものがあり、すべての方法に利点/欠点がある。
「ただちに行動を開始しなければ、とりかえしのつかないことになる」という警告があふれかえる昨今。
われわれが歩むべき最善の道は果たして「炭素排出削減に焦点を当て、気候変動緩和と適応策を模索すること」だけなのだろうか。