Science
VOL 339, ISSUE 6120, PAGES 617-728 (8 FEBRUARY 2013)
Editors' Choice
Sweet Potatoes Get Around
サツマイモが広がる
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, 10.1073/pnas.1211049110 (2013).
サツマイモは南米原産だとされるが、それがヒトとともに世界中にどのように広がったかについてはよく分かっていない。ポリネシアのサツマイモについてDNA分析を行ったところ、2つの遺伝子プールが見つかった。これはほとんどのサツマイモは南米からもたらされたものの、一部は北部地域から何らかの手段でもたらされ、原産種と交配され複雑化したと考えられる。
Getting a Big Head
大きな頭になる
Curr. Biol. 23, 168 (2013).
脳のサイズはおおまかには知能と比例する。知能が高いほど有利であるとすれば、何が脳の巨大化を防いでいるのだろうか?グッピーを用いた研究から、脳が大きいものほど(エネルギーの大半が脳によって消費されるため)消化器官が小さくなり、生殖機能も低下することが示された。この結果は、人間やクジラ、イルカのような高い知能をもったほ乳類ほど多産でない事実とも整合的である。
Pulsing with History
歴史とともに脈打つ
Mon. Not. R. Astron. Soc. 429, 423 (2013).
我々の住む銀河の歴史を理解するには個々の星の特性を詳細に分析することが重要であるが、それは300光年以内に存在する星にのみ可能だと考えられていた。しかし、宇宙地震学(astroseismology)と呼ばれる、星の脈動を利用して内部構造を推定する方法を用いることで、より遠くの星についてもよく分かるようになるという。
News of the Week
※今回は省略
News & Analysis
BP Research Dollars Yield Signs of Cautious Hope
BPの研究費が注意深い希望の兆しを見せる
Erik Stokstad
石油会社のBPが5億ドルを支出して創設された非営利団体による最初の学術横断的な公の会議がニューオーリンズで開催された。
Forecasting Regional Climate Change Flunks Its First Test
地域的な気候変動予測が最初の実験に失敗した
Richard A. Kerr
研究者は尋ねる「もし地域的な気候モデルがうまく気候を再現することができれば、気候変動を予測するのにも役に立つだろうか?」答えはノーだ。
News Focus
Giant Marine Reserves Pose Vast Challenges
巨大な海洋保護区が大きな課題をもたらす
Christopher Pala
広大な禁漁区は回遊性のマグロや他の種を保護するかもしれないが、それらの効果をモニタリングし、漁業規制を行うには新たなアプローチが必要とされている。
Archaeologist Hammers Away At 'Modern' Behavior
考古学者は’現代の’振る舞いについてコツコツ勉強する
Michael Balter
初期人類は我々と同程度に賢かったことを石器は物語っている。彼らはただ解決すべき問題が現代人と違っただけだ、と考古学者は主張する。
Losing Arable Land, China Faces Stark Choice: Adapt or Go Hungry
耕地を失い、中国は厳しい選択を迫られている:適応か飢えか
Christina Larson
食料安全を確保するために、中国は温暖化した世界でも生き残れるような新品種の作物栽培の開発を急いでいる。
Letters
Biodiversity Despite Selective Logging
選択的な伐採にも負けない生物多様性
David P. Edwards and William F. Laurance
熱帯雨林は生物多様性を育む場所であるが、急速にその範囲が縮小しつつある。それに伴って生じる切り開かれた森林(logged forest)は短期的には手つかずの熱帯雨林と同程度の炭素保有力や生物多様性があるため、保護政策の対象として認識すべきである。ただし、それらは砂漠化や森林火災の誘因にもなるため、さらなる拡大は当然ながら防ぐべきである。
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Research
Perspectives
Pollution, Politics, and Vultures
汚染、政治、そしてコンドル
Andrew Balmford
獣医が薬を投与することが禁止されているせいで、南アジアのコンドルの個体数の壊滅的な減少はそれが絶滅するまで続くだろう。
Impact and Extinction
衝突と絶滅
Heiko Pälike
チチュルブ・クレーターの高精度の年代決定から、それが白亜紀・古第三紀境界(K/Pg boundary)と一致していることが示された(66Ma)。
Fossils Versus Clocks
化石 v.s. 時計
Anne D. Yoder
集中的な形態分析から、「胎盤を持ったほ乳類の祖先は新生代に急速に進化した」という結論が支持されている。
Carl R. Woese (1928–2012)
Nigel Goldenfeld and Norman R. Pace
進化に焦点を当てた先見の明のある微生物学者で、第三の界である古細菌(archaea)の発見者。
Research Article
The Placental Mammal Ancestor and the Post–K-Pg Radiation of Placentals
胎盤を持つほ乳類の祖先とK/Pg境界後の発散
Maureen A. O'Leary et al.
化石とDNAの系統発生学は、胎盤をもつほ乳類は新生代に多様化したことを支持しており、彼らの祖先の姿を復元している。
Reports
Gravity Field of the Moon from the Gravity Recovery and Interior Laboratory (GRAIL) Mission
GRAILミッションから得られた月の重力場
Maria T. Zuber et al.
月の重力場は、隕石衝突が地殻の密度を均質にし、割れ目を多く作ったことを物語っている。
The Crust of the Moon as Seen by GRAIL
GRAILによって見られる月の地殻
Mark A. Wieczorek et al.
月の重力場の分析から、従来考えられていたよりも地殻が密でなく、多孔質であることが明らかに。
Ancient Igneous Intrusions and Early Expansion of the Moon Revealed by GRAIL Gravity Gradiometry
GRAILの重力勾配から明らかになった古代の火成緩急と初期の拡大
Jeffrey C. Andrews-Hanna et al.
月の重力場のマッピングから、地殻が多くのマグマ的なダイクによって切られており、おそらく初期の拡大の歴史を暗示していると思われる。
Time Scales of Critical Events Around the Cretaceous-Paleogene Boundary
白亜紀-顕世代境界周辺の重大イベントの時間スケール
Paul R. Renne, Alan L. Deino, Frederik J. Hilgen, Klaudia F. Kuiper, Darren F. Mark, William S. Mitchell III, Leah E. Morgan, Roland Mundil, and Jan Smit
40Ar/39Ar法による年代測定から、K/Pg境界(白亜紀-古第三紀境界)の大量絶滅を招いたと考えられているチチュルブ・クレーターの形成年代が66Maであり、大量絶滅が隕石衝突後32,000年以内に起きていたことが示された。大気中の炭素循環への擾乱は少なくとも5000年間は起きていたと考えられ、回復にかかった時間は大気の方が海洋に比べて2〜3倍早かったと考えられる。チチュルブへの巨大隕石衝突は、ほとんど限界に近いストレスを既に受けていた生態系にシフトを促したものと思われる。
Stress State in the Largest Displacement Area of the 2011 Tohoku-Oki Earthquake
2011年東北沖地震の際に最も大きく破壊された領域の応力状態
Weiren Lin, Marianne Conin, J. Casey Moore, Frederick M. Chester, Yasuyuki Nakamura, James J. Mori, Louise Anderson, Emily E. Brodsky, Nobuhisa Eguchi, and Expedition 343 Scientists
2011年に起きたM9.0の東北沖地震では最大で50mに及ぶ滑りが発生し、それによって完全に応力ストレスが解消されたと考えられている。地震の1年後に行われたIODPによる断層掘削の掘削孔の圧力測定から、最大の断層滑りが起きた場所ではほとんどすべてのストレスが失われたことを支持する結果が得られた。
Technical Comments
Comment on "Large Volcanic Aerosol Load in the Stratosphere Linked to Asian Monsoon Transport"
”成層圏への大きな火山性エアロゾルの注入はアジアモンスーンによる輸送と関連している”に対するコメント
Michael Fromm, Gerald Nedoluha, and Zdenek Charvát
「2011年6月13日に発生したNabro火山のエアロゾルがアジアモンスーンを介して対流圏から成層圏まで注入された」とするBourassa et al. (2012, Science)の主張について。確かに成層圏で火山性のガスやエアロゾルが観測されているが、それはアジアモンスーンを必要とせずにそこに到達したものである可能性がある。
Comment on "Large Volcanic Aerosol Load in the Stratosphere Linked to Asian Monsoon Transport"
”成層圏への大きな火山性エアロゾルの注入はアジアモンスーンによる輸送と関連している”に対するコメント
J.-P. Vernier, L. W. Thomason, T. D. Fairlie, P. Minnis, R. Palikonda, and K. M. Bedka
CALIPSOのリモートセンシングによるデータは、成層圏下部にもたらされたエアロゾルの大半は火山の初期噴火で直接もたらされたものであり、’アジアモンスーンによる深い対流’が到達するのよりもはるかに前であった。
Response to Comments on "Large Volcanic Aerosol Load in the Stratosphere Linked to Asian Monsoon Transport"
”成層圏への大きな火山性エアロゾルの注入はアジアモンスーンによる輸送と関連している”に対するコメントへの返答
Adam E. Bourassa, Alan Robock, William J. Randel, Terry Deshler, Landon A. Rieger, Nicholas D. Lloyd, E. J. Llewellyn, and Douglas A. Degenstein
対流圏における二酸化硫黄の高度分布は確かにアジアモンスーンによる深い対流が成層圏への火山性ガスの輸送に関わっていることを示している。