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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年12月29日土曜日

「CO2と温暖化の正体」(ウォレス・S・ブロッカー&ロバート・クンジグ、2009年)

邦題:CO2と温暖化の正体
原題:FIXING CLIMATE 〜WHAT PAST CLIMATE CHANGE REVEAL THE CURRENT THREAT- AND HOW TO COUNTER IT〜
ウォレス・S・ブロッカー/ロバート・クンジグ 著
内田昌男 監訳/東郷えりか 訳
河出書房新社
2009年9月初版(¥2,400-)

>ピックアップした気になる文言集はこちら

新着論文(EPSL, CG, QG)

※論文アラートより

Millennial-scale climate variability during the last 12.5 ka recorded in a Caribbean speleothem  
Claudia Fensterer, Denis Scholz, Dirk L. Hoffmann, Christoph Spötl, Andrea Schröder-Ritzrau, Christian Horn, Jesus M. Pajón, Augusto Mangini
Earth and Planetary Science Letters, Volume 361, 1 January 2013, Pages 143-151 
キューバ西部で得られた2本の石筍から過去12.5kaの水循環を復元。10 - 6 kaにδ18Oが負に変化し、Haitiで得られた浮遊性有孔虫δ18O(海水のδ118O)とも整合的。また数千年スケールではBondサイクルと類似した変動が確認された。北大西洋とITCZのテレコネクションが原因と考えられる。

Changes in sea-surface conditions in the Equatorial Pacific during the middle Miocene–Pliocene as inferred from coccolith geochemistry
Gabrielle Rousselle, Catherine Beltran, Marie-Alexandrine Sicre, Isabella Raffi, Marc De Rafélis
Earth and Planetary Science Letters, Available online 20 December 2012, Pages 
東赤道太平洋で得られた堆積物コアのアルケノンと円石藻δ18Oを用いて過去16Maの表層水温と塩分を復元。他の海域のデータと併せて考えると、冷舌は4.4 - 3.6 Ma頃から出現し始めたと考えられる。

Constraining calcium isotope fractionation (δ44/40Ca) in modern and fossil scleractinian coral skeleton
Chloé Pretet, Elias Samankassou, Thomas Felis, Stéphanie Reynaud, Florian Böhm, Anton Eisenhauer, Christine Ferrier-Pagès, Jean-Pierre Gattuso, Gilbert Camoin
Chemical Geology, Available online 19 December 2012, Pages
様々な種類のモルジブの現生サンゴ、タヒチの化石サンゴ、飼育サンゴのδ44/40Caを測定。種によらず、0.6 - 0.1‰の同位体分別が確認され、成長量との相関は見られなかった。またS/Caやδ18Oとも相関が見られないことから、温度以外にも分別を支配している変数があると考えられる。’生体効果’がうまく判別できれば、δ44/40Caから過去の海水のカルシウムの濃度や収支を探ることが可能かもしれない。

Age models for long lacustrine sediment records using multiple dating approaches – an example from Lake Bosumtwi, Ghana
Timothy M. Shanahan, John A. Peck, Nicholas McKay, Clifford W. Heil, John King, Steven L. Forman, Dirk L. Hoffmann, David A. Richards, Jonathan T. Overpeck, Christopher Scholz
Quaternary Geochronology, Available online 19 December 2012, Pages 
ガーナのBosumtwi湖から得られた全長300mもの良質な堆積物コアの上部150ka分の年代モデル構築について。14C、U/Th、OSL、古地磁気を用いた年代モデルを比較したところ、よい一致を見せた。古地磁気と南極のダストの記録との良い相関関係を利用し、今後は年代モデルをより延長する予定。

2012年12月27日木曜日

新着論文(Geology)

Geology
1 January 2013; Vol. 41, No. 1

Articles
Symbiont ‘bleaching’ in planktic foraminifera during the Middle Eocene Climatic Optimum
K.M. Edgar, S.M. Bohaty, S.J. Gibbs, P.F. Sexton, R.D. Norris, and P.A. Wilson
Middle Eocene Climatic Optimum (MECO)の際には全球的な温暖化が起きたことが知られている。その際に浮遊性有孔虫の一種(Acarinina)が白化現象(共生する褐虫藻が抜け落ちること)を経験していたことが分かった。δ13Cの負の変化とともに、殻サイズの減少も見られ、温暖化(とおそらく酸性化と栄養塩濃度の変化)がストレスとなったものと考えられる。

Late Pleistocene tropical Pacific temperature sensitivity to radiative greenhouse gas forcing
Kelsey A. Dyez and A. Christina Ravelo
堆積物コアの浮遊性有孔虫(G. ruber)Mg/Caから過去500kaの赤道西太平洋のSSTを復元。過去のCO2変化に対しての気候感度を推定したところ、「0.94 - 1.06 ℃/(W/m2)」という数値が得られた。この値は従来考えられていたものよりも高く、モデルでは熱帯域の気候感度を低く見積もっている可能性があるという。ダストや雲などのフィードバック過程が含まれていないのが原因?

Grounding-line retreat of the West Antarctic Ice Sheet from inner Pine Island Bay
Claus-Dieter Hillenbrand, Gerhard Kuhn, James A. Smith, Karsten Gohl, Alastair G.C. Graham, Robert D. Larter, Johann P. Klages, Rachel Downey, Steven G. Moreton, Matthias Forwick, and David G. Vaughan
南極のAmundsen Seaにおける最終退氷期以降の西南極氷床の後退史を堆積物コアから復元。年代モデルは放射性炭素を用いている。10kaにはほぼ現在の位置まで後退しており、Ross Seaなどよりも早く終結していたことが分かった。つまり現在の後退の早さは非常に例外的である

Coral record of reduced El Niño activity in the early 15th to middle 17th centuries
Kelly A. Hereid, Terrence M. Quinn, Frederick W. Taylor, Chuan-Chou Shen, R. Lawrence Edwards, and Hai Cheng
パプアニューギニアで得られた化石ハマサンゴのSr/Ca・δ18Oを用いてAD1411 - 1644の表層水温・塩分を復元。AD1525 - 1625の間には表層水温・塩分ともに変動が小さい期間が見られ、ENSOが無活動状態だったことが示唆される。ただし太陽活動のプロキシとENSOの相関は見られなかったという。

2012年12月24日月曜日

新着論文(Ncc#Jan2013)

Nature Climate Change
Volume 3 Number 1 (January 2013)

Correspondence
Lifting livestock's long shadow
家畜の長い影を増やす
Robert Goodland
発展途上国における家畜の肉製品の需要は増えつづけるかもしれない。我々の試算では人為起源のCO2排出の51%は家畜製品の製造が原因となっている。家畜の飼育と餌用の作物生産は全体でCO2を多く排出している。気候変動を打ち消すための新たなインフラ整備には20年間で18兆・米ドルが少なくとも必要であると試算されており、IPCCやIEAによれば「手遅れになる前に気候変動を打ち消すにはゆく5年間がカギ」ということらしい。そうした事情のもと、我々は現在の家畜生産の25%ほどを別のものに置き換える必要性を主張する。

Climate warming and Mediterranean seagrass
気候の温暖化と地中海の海草
Cristian R. Altaba
将来の温暖化で地中海の海草が失われ、生態系が根本から破壊されるとするJorda et al. (2012, Ncc)の統計的・実験的な誤りの指摘。

Climate warming and Mediterranean seagrass
気候の温暖化と地中海の海草
Gabriel Jordà, Núria Marbà & Carlos M. Duarte
Altabaに対する応答。

Commentary
The challenge to keep global warming below 2 °C
温暖化を2℃以下に抑える課題
Glen P. Peters, Robbie M. Andrew, Tom Boden, Josep G. Canadell, Philippe Ciais, Corinne Le Quéré, Gregg Marland, Michael R. Raupach & Charlie Wilson
最新のCO2排出量は排出シナリオのうち最も高いものの道筋をなぞっており、温暖化がもはや2℃以内には納まらない様相を呈している。2℃の温暖化という道に進むには世界的な迅速かつ持続した取り組みが必要であり、長期的に全体で排出が負になること(CO2大気捕獲技術の進展や海・陸による吸収を指す?)を信頼する必要がある。

News Feature
The muddled progressive
混乱した進歩主義者
Anna Petherick
ブラジルはこれまで発展途上国に対して影響力を示してきたが、それは今後も続くのだろうか?

Research Highlights
北極圏のメタンのコントロール
Glob. Change Biol. http://doi.org/jw8 (2012)
北極圏に眠るメタンは温暖化を倍加するほどの可能性を秘めているものの、その排出を支配する物理・環境要因はよく分かっていない。David Olefeldtらはこれまで北極圏で得られたデータをもとに要因を評価したところ、「湿度」「土壌温度」「植生」により関係があることが分かった。

Climate–conflict nexus
気候と紛争のつながり
Proc. Natl Acad. Sci. 109, 18344–18349 (2012)
気候変動(特に温度)がサハラ地域の紛争リスクに与える影響が示唆されたが、従来の研究は地理的な違いを完全に考慮できていなかった。John O’Loughlinらは1990 - 2009年までに起きた16,359回もの暴力沙汰のデータベースを用いて、社会経済・地理・政治などの要因を考慮して原因を探ったところ、降水がふんだんにある時には暴力沙汰は30.3%減少することが分かった。一方、乾燥・通常状態では何も影響がないことが分かった。さらに温度上昇は暴力リスクを29.6%も高めることも分かった。

Aragonite shell damage
アラゴナイトの殻のダメージ
Nature Geosci. 5, 881–885 (2012)
南大洋の表層水においては自然・人為起源の要因で2050年までにアラゴナイトに対する不飽和状態に陥ると推定されており、それは極域の生態系を支えるアラゴナイトの殻を作る生物に影響すると予想されている。Nina Bednaršekらは不飽和・未飽和の海域で翼足類を採取し、それらの殻をSEMで観察したところ、不飽和のものが既に重大な溶解を経験していることが分かった。従来考えられていたよりも、翼足類の個体数の減少は早く訪れるかもしれない

Reconstructing temperature
温度を復元する
Geophys. Res. Lett. http://doi.org/jw9 (2012)
温度計による過去の気温の記録は時空間的に極めて限られたものである。NOAAのDavid Morrill Andersonらはサンゴ・アイスコア・石筍・海洋底堆積物・湖底堆積物・歴史文書などの温度に敏感な173個のプロキシを用いてAD1730年以降の気温を復元した。指標は「1880 - 1995年における有為な上昇傾向」と「1980年以降の温暖化の加速」を示している。
>問題の論文
Global warming in an independent record of the last 130 years
Anderson, D. M., E. M. Mauk, E. R. Wahl, C. Morrill, A. Wagner, D. R. Easterling, and T. Rutishauser

Stilling air
大気をかき混ぜる
Environ. Res. Lett. 7, 044034 (2012)
オゾンや粒子状物質は淀んだ空気には蓄積しやすく、健康被害をもたらすもととなる。気候変動は大気循環や降水にも影響し、それらは空気の淀みの頻度にも影響すると考えられる。Daniel Hortonらはモデルシミュレーションを通して今世紀末における大気の淀み指数(air-stagnation index)を求めたところ、人口密度が高く、工業化が進んだ地域(アメリカ東海岸・地中海周辺・中国東部など)で淀みが増すことが示された。

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Research
News and Views
Wetting the Arctic
北極を湿潤にする
Tara J. Troy
ユーラシア大陸北部から北極海に注ぐ川の流量は1930年代以降増加している。研究によって極域への水蒸気輸送量が増加していることが原因であることが分かった。

Perspectives
Interpreting trade-related CO2 emission transfers
貿易に関連したCO2排出の移動を解釈する
Michael Jakob & Robert Marschinski
ほとんどの工業国は自国製品を輸出するよりも他国から製品を輸入する際に炭素を放出している。そうした排出赤字(carbon trade-deficits)は全球的なCO2排出と炭素の貿易政策の点で何を暗示しているのだろう?

The impacts of climate change on terrestrial Earth surface systems
気候変動が陸域の地球表層システムに与える影響
Jasper Knight & Stephan Harrison
気候変動が地球の表層システム(氷河・河川・山岳・沿岸部など)に与える影響は国家的な・国際的な政策イニシアチブに無視されがちである。地球表層システムは水資源・土壌資源を提供し、生態系を支え、生物地球化学的な物質循環に影響するため、非常に重要である。

Review
Consequences of widespread tree mortality triggered by drought and temperature stress
干ばつと温度ストレスによって引き起こされる広範囲にわたる木の大量死の結果
William R. L. Anderegg, Jeffrey M. Kane & Leander D. L. Anderegg
ここ数十年間、森林が死に絶える出来事が頻発し、そうした現象が全球的な規模で起きていることが示唆される。しかし気候が「陸上の生態系」や「気候-生態系の相互作用」、「炭素循環フィードバック」などに与える影響についてはよく分かっていない。このレビュー論文では、森林が死ぬことで社会的・生態学的にどういった結果になるかについて考察を行う。

Letters
Summer-time climate impacts of projected megapolitan expansion in Arizona
アリゾナにおける予想される巨大都市の広がりが夏の気候に与える影響
M. Georgescu, M. Moustaoui, A. Mahalov & J. Dudhia
地域的な都市化は放射や水収支に影響するため気候にも影響を与える。アリゾナにおける巨大都市の広がりが気候に与える影響をモデルを通して評価したところ、都市化の発展の道筋にも依存するが、最大で4℃もの地域的な温暖化が予想される。大気を冷やす効果のある屋根の設置で50%の温暖化削減になることも分かったが、夏の蒸発散量の低下が温暖化に与える効果は依然として大きい。

All flavours of El Niño have similar early subsurface origins
すべてのエルニーニョの気配は同じ初期の水中の起源を持つ
Nandini Ramesh & Raghu Murtugudde
ENSOは2 - 7年ごとに赤道太平洋で起きるSSTと風の変化によって特徴付けられる現象であるが、最近の研究によってビヤクネス・フィードバック(赤道湧昇の強弱と風の変化を伴う大気海洋のカップリング)だけではエルニーニョの発展に不十分であることが指摘されている。さらにENSO自体が数十年で変化するレジームを持つことも分かってきた。いずれのレジームでもエルニーニョの始まる前の夏・秋(18ヶ月前以内)に水中の(subsurface)暖水の注入がエルニーニョの始まりを告げていることが再解析データの解析から明らかになった。気候変動に対してENSOがどのように応答するかを正しく予想するにはこうしたプロセスを正しく理解することが重要である。

Enhanced poleward moisture transport and amplified northern high-latitude wetting trend
強化される極向きの水蒸気輸送と増幅される北部高緯度地域の湿潤化の傾向
Xiangdong Zhang, Juanxiong He, Jing Zhang, Igor Polyakov, Rüdiger Gerdes, Jun Inoue & Peili Wu
気候変動ともに北極圏が湿潤化することはモデルと観測の両方によって示されている。例えば2007年の河川流量は前例にないほどのものであり、同時に北極海の海氷も多く失われた。しかし大量の淡水をもたらした原因についてはコンセンサスが得られていなかった。極に運ばれる大気の水蒸気輸送が河川流量の98%を担っていることを示す。水蒸気輸送量は10年間に2.6%の割合で増加しており、河川流量の10年間に1.8%の増加とも整合的である。

Increasing drought under global warming in observations and models
観測とモデルで再現される温暖化のもとで増加する干ばつ
Aiguo Dai
1950年以降様々な記録が干ばつの増加を示しているが、観測事実とモデルによる再現との間には大きな食い違いが見られる。特に大きな問題点は干ばつの原因とされる表層水温がモデルにうまく取り入られていないことにある。ENSOが陸の干ばつに与える影響だけでなく、観察される全球的な乾燥化の傾向もモデルがうまく再現できていることを示す。「今後30 - 90年はひどい干ばつが広い範囲で起きる」と予想するモデルは、2010年までの全球的な乾燥化の観測記録ともよく合っているため、予想結果は信頼に足るものである。

Anthropogenic influence on multidecadal changes in reconstructed global evapotranspiration
復元された全球の水蒸気輸送の数十年変動に対する人為的な影響
H. Douville, A. Ribes, B. Decharme, R. Alkama & J. Sheffield
温暖化によって全球の水循環(干ばつや降水など)は大きく影響を受けることが予想されるが、その規模や空間分布についてはよく分かっていない。既に起きつつある水蒸気輸送の変化も人為起源かどうかをはっきりさせることがこれまで困難であったが、モデルシミュレーションから人為起源の放射強制力(温室効果ガスとエアロゾル)を含めなければ近年の水蒸気輸送の変化を再現できないことを示す。特に水蒸気輸送が強化されることが期待される中緯度地域においては、ここ数十年間の楽観できる時代は終わり、変わりつつある気候(例えば干ばつの頻度の上昇)の中で水資源や食料確保の管理をしっかりとすることの重要性が浮き彫りになっている。

Global diversity of drought tolerance and grassland climate-change resilience
干ばつに対する耐性の全球的な多様性と草原の気候変動に対する強さ
Joseph M. Craine, Troy W. Ocheltree, Jesse B. Nippert, E. Gene Towne, Adam M. Skibbe, Steven W. Kembel & Joseph E. Fargione
草原地域はこれまで干ばつを常に経験する地域であったが、温暖化した世界では干ばつの頻度と規模がよりいっそう厳しいものになることが予想される。そうした中、植物の干ばつに対する耐性を評価することは草原の生態系の機能と気候変動に対する耐性を予想する上で重要である。その土地に昔から根付く植物種ほど耐性が強く、将来も大規模に移動することなしに生態系の機能を維持する可能性があることを示す。世界中で、干ばつに耐性のある種が草原に広がり、生態系としての機能を維持することが予想される。

Adaptation of US maize to temperature variations
温度変化に対するアメリカのトウモロコシの適応
Ethan E. Butler & Peter Huybers
温暖化した世界における食料確保が関心を集めている。しかし適応策が温暖化が原因で起きる作物の不作を打ち消すかどうかは不確かなままである。アメリカにおけるトウモロコシ生産は、2℃の温暖化が起きた場合でも、適切な管理政策が取られれば生産量の減少は半分に抑えることが可能であることが示された。

Emerging Vibrio risk at high latitudes in response to ocean warming
海の温暖化に応答する高緯度域のビブリオ感染リスクの出現
Craig Baker-Austin, Joaquin A. Trinanes, Nick G. H. Taylor, Rachel Hartnell, Anja Siitonen & Jaime Martinez-Urtaza
気候変動とともに病原菌が新たな地に蔓延する可能性が関心を集めている。バルト海は前例にないほどの速度で温暖化しつつあり、その結果ヨーロッパ北部におけるビブリオ病原菌の感染が、特にバルト海沿岸部を中心に広がっている。これは人為起源の気候変動が温帯域のビブリオ感染を引き起こした初めての証拠であり、全球的な規模で伝染病の分布が変化しつつあることを暗示している。

An extreme climatic event alters marine ecosystem structure in a global biodiversity hotspot
異常な気候イベントが世界的な生物多様性のホットスポットの海洋生態系の構造を変える
Thomas Wernberg, Dan A. Smale, Fernando Tuya, Mads S. Thomsen, Timothy J. Langlois, Thibaut de Bettignies, Scott Bennett & Cecile S. Rousseaux
2011年に世界的な生物多様性のホットスポットである西オーストラリア沿岸部の広い地域において、10週間以上も持続する海水温の異常昇温(2 - 4 ℃)が確認された。この温暖化イベントの後、海草に支えられていた温帯の生態系が熱帯型の生態系へと激変したことが分かった。現在の生態系モデルでは徐々に上昇する水温に基づいて生態系の応答の予測がなされているが、それ以上に急激な気候イベントが生物多様性のパターンを決定することを考慮し、モデルに組み込む必要がある。

Article
Climate-change impact assessment for inlet-interrupted coastlines
入り江に塞がれた沿岸部に対する気候変動の影響評価
Roshanka Ranasinghe, Trang Minh Duong, Stefan Uhlenbrook, Dano Roelvink & Marcel Stive
気候変動の結果生じる沿岸部の変化は「海岸線が内陸へと移動する効果(Brunn効果)」だけがこれまで評価されてきたものの、実際には「堆積物の埋没」や「降水量・河川流量の変化」もまた重要である。そうしたプロセスをすべて組み込んだモデルで4つの代表地域に対して海水準上昇の影響を評価したところ、Brunn効果は沿岸部の変化のうち25 - 50 %程度しか寄与していないことが示された。

2012年12月23日日曜日

新着論文(Ngeo#Jan2012)

Nature Geoscience
January 2013, Volume 6 No 1 pp1-76

Correspondence
Overestimated water storage
過大評価された水貯蔵量
Leonard F. Konikow
Pokhrel et al. (2012, Ngeo)は海水準上昇に対する陸域の水リザーバーの寄与率を見積もっているが、彼らの用いているモデルは非現実的であり、過大評価をしていることを指摘する。

Reply to 'Overestimated water storage'
’過大評価された水貯蔵量’に対する返答
Yadu N. Pokhrel, Naota Hanasaki, Pat J.-F. Yeh, Tomohito J. Yamada, Shinjiro Kanae & Taikan Oki

Water vapour affects both rain and aerosol optical depth
水蒸気は雨とエアロゾルの光学的深さの両方に影響する
Olivier Boucher & Johannes Quaas
Koren et al. (2012, Ngeo)はエアロゾル量と降水量との高い相関があることを確認した。しかし彼らも指摘するように、相関関係は因果関係を表しているわけではない。

Reply to 'Water vapour affects both rain and aerosol optical depth'
’水蒸気は雨とエアロゾルの光学的深さの両方に影響する’に対する返答
Ilan Koren, Orit Altaratz, Lorraine A. Remer, Graham Feingold, J. Vanderlei Martins & Reuven Heiblum

Research Highlights
Toxic sediments
有毒な堆積物
Glob. Biogeochem. Cycles http://doi.org/jzh (2012)
長江は大量の土砂と汚染物質を東シナ海に運搬しているが、河口付近の堆積物には多環の芳香族炭化水素(発がん性がある)が蓄積していることが分かった。毎年152トンもの量が海へと運ばれ、全体の38%は長江が担っているらしい。分子量が小さいことから、多くは石油が起源と推定されている。モンスーンの風などによって再懸濁することで東シナ海を二次汚染する可能性があるという。

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Research
News and Views
Canadian climate aberration
カナダの気候の異常
Gordon Bonan
気候変動によって生態系の大規模な擾乱が予想されているが、気候の擾乱を検出することは難しい。カナダのブリティッシュ・コロンビアの森における分析から、パインビートルの大量発生によって木が死に、蒸発・蒸散量が低下したことで地域的に夏の温暖化(約1℃)が生じたことが明らかになった。

Tropical Atlantic warm events
赤道太平洋の温暖化イベント
Joke F. Lübbecke
赤道東大西洋の表層水温は年々変動する。データの再解析とモデルシミュレーションから、赤道大西洋で確認されている温暖化イベントのいくつかは、赤道の北から暖水がもたらされることで起きていることが示唆される。

Letters
The impact of polar mesoscale storms on northeast Atlantic Ocean circulation
北極の中規模嵐が北東大西洋の海洋循環に与える影響
Alan Condron & Ian A. Renfrew
毎年、幾多の北極の中規模嵐(極低気圧)が気候的に敏感な北大西洋を通過する。高解像度のモデルシミュレーションから、極低気圧が全球の海洋循環にかなり影響していることが示唆される。極低気圧は短期間予測用の気候モデルに組み込む必要がある。また将来極低気圧の数が減少することが予想されており、深い対流とAMOCが弱化する可能性がある。

Increased water storage in North America and Scandinavia from GRACE gravity data
GRACEの重力データが明らかにする北米とスカンディナビアの水貯蔵量の増加
Hansheng Wang, Lulu Jia, Holger Steffen, Patrick Wu, Liming Jiang, Houtse Hsu, Longwei Xiang, Zhiyong Wang & Bo Hu
氷河の融解と氷床解放後の地殻変動の両方が起きているような地域においては、人工衛星の重力観測データから陸上の水貯蔵量の変化を推定することは難しいとされていた。それらをうまく分けることで、北米とスカンディナビアの両方で過去数十年間に水貯蔵量が増加していることが分かった。陸上の水位の観測とも整合的であるという。陸上の水貯蔵量の変化もまた全球の海水準予測に組み込む必要がある。

Multiple causes of interannual sea surface temperature variability in the equatorial Atlantic Ocean
赤道大西洋の表層水温の数年変動の複合要因
Ingo Richter, Swadhin K. Behera, Yukio Masumoto, Bunmei Taguchi, Hideharu Sasaki & Toshio Yamagata
赤道大西洋で確認されている表層水温の数年規模の変動はENSOに類似したものと考えられている。観測記録と再解析データとモデルシミュレーションから、そうした数年規模の変動をもたらす原因を評価したところ、いくつかの現象は風のストレスやENSOのような力学では説明できないことが分かった。赤道の北の亜熱帯から暖水がもたらされるような長期間持続する現象が確認された。

Routes to energy dissipation for geostrophic flows in the Southern Ocean
南大洋の地溝流に対するエネルギー消失のルート
Maxim Nikurashin, Geoffrey K. Vallis & Alistair Adcroft

Two pulses of extinction during the Permian–Triassic crisis
P/T危機の間の2つのパルスの絶滅
Haijun Song, Paul B. Wignall, Jinnan Tong & Hongfu Yin
P/T境界においてはシベリアにおける火山噴火か天体衝突がきっかけとなって海洋生物の90%が絶滅した。中国の地層中の化石記録は間に18万年間の回復期が存在する2度のパルス上のイベントであったことを物語っている。537種の生物についてP/T境界を挟む45万年間について調査を行ったところ、第一段階(ペルム紀の終わり)で57%が絶滅し、第二段階(三畳紀の始まり)で残った種の71%が絶滅していたことが分かった。2回の絶滅は異なる選択性をもっていたことから、異なる原因が背後にある可能性がある

Climatic and biotic upheavals following the end-Permian mass extinction
ペルム紀末の大量絶滅に続く気候と生物の大激変
Carlo Romano, Nicolas Goudemand, Torsten W. Vennemann, David Ware, Elke Schneebeli-Hermann, Peter A. Hochuli, Thomas Brühwiler, Winand Brinkmann & Hugo Bucher
ペルム紀の終わりの大量絶滅後の回復は非常に遅れ、三畳紀の中頃まで複雑な生物が現れなかったことが化石から明らかになっている。しかし三畳紀初期には海洋生物種の多様性が変動しており、それは炭素同位体の激減の最中に起きている(シベリアからの火山性ガスの注入)。パキスタンの地層から発掘されたコノドントのδ18Oから温度を復元したところ、三畳紀初期のSmithianははじめ寒冷で、その後温暖化し、Spathianには再び寒冷であったことが分かった。Smithian後期の温暖期に最も陸上植物の生態系と海洋生物の種が激変していた

Articles
Summertime climate response to mountain pine beetle disturbance in British Columbia
ブリティッシュ・コロンビアにおける山岳のパインビートルの擾乱に対する夏の気候の応答
H. Maness, P. J. Kushner & I. Fung
最近起きたカナダのブリティッシュ・コロンビアにおけるパインビートルの大増殖はカナダにおけるこれまでの生態系の擾乱のなかでは最大のものの一つであり、大規模な気候状態のシフトによってもたらされた可能性が高く、将来北米全体で起きることが予感される。大増殖に伴って木々が死滅しており、その結果蒸発散やアルベドに影響し、それらは地域的なエネルギーバランスにも影響するため、気温や気候にまで影響すると考えられる。影響を被った森林について調査を行ったところ、夏の蒸発散量が19%低下しており、夏の気温が1℃上昇していることが分かった。この規模は森林火災と同程度のものであり、虫がきっかけとして起きる生態系の擾乱が、気候に対する二次的な効果を持っていることが分かった。

新着論文(Ngeo#Jan2012特集)

Nature Geoscience
January 2013, Volume 6 No 1 pp1-76

Features 'Five years of Earth science'
特集’地球科学の5年間’

Adapting the assessments
評価に適応する
Thomas F. Stocker
「気候変動に対する評価はもう既に済んでおり、これからは複雑な気候の情報を政策決定者に示す最善の方法を模索するときがきた」とThomas F. Stockerは示唆する。IPCCのこれまでとこれからの役割について。

The epoch of humans
人間の時代
Jan Zalasiewicz
人間は取り返せないほどに世界を変えた。「人間の時代(Anthropocene)」という地質時代の定義を正式に導入することで地球史上の我々の位置づけについて理解することの助けとなるかどうか、Jan Zalasiewiczが議論を行う。

The mystery of atmospheric oxygen
大気中の酸素の謎
James Kasting
酸素は生命にとって必要不可欠なものである。James Kastingがいつ・どのように最初の酸素が地球の大気にもたらされたのかを概観する。

The great sea-ice dwindle
大きな海氷縮小
Marika Holland
北極海の海氷量の最低値は年々記録を更新している。Marika Hollandが将来の北極の海氷の運命について熟考する。

Megathrust surprises
メガスラストの驚き
Kelin Wang
ここ5年間に多くの地震が起こり、そのうちのいくつかは破壊的なものであった。Kelin Wangが浅部の地震について我々が学んだことを記述する。

A steep learning curve
急な学習曲線
Ulf Riebesell
人為起源のCO2の吸収によって生じる海洋酸性化は海洋生物を圧迫している。「海洋酸性化の悪影響の発見」から「その政治的な認識」まで、Ulf Riebesellが海洋酸性化研究の急速な発展を図示する。

Freshwater in flux
流れのなかの淡水
Jonathan Cole
地球の物質循環のうち、驚くべきものは内陸の水循環である。Jonathan Coleは水と陸域との相互作用が従来考えられていたよりも激しく、そして興味深いことを示唆する。

A crowded Solar System
混雑した太陽系
Barbara Cohen
この5年間は太陽系探査の年であった。Barbara Cohenが最も大きな利益が地球にあることを説明する。

Sensitivity from history
歴史から学ぶ感度
Matthew Huber
温室効果ガスのフォーシングに対する地球の気候感度の謎は我々が気候変動を理解する上での問題となっている。Matthew Huberが過去の温室時代から何を学べるかを概観する。

Commentary
Built for stability
安定のために構築された
Paul Valdes
最新の気候モデルでも現実に起こっている急激な気候変動についてはほとんど検証がなされていない。そうしたモデルを用いてなされた来る数世紀の気候変動シミュレーションが、急激で破壊的な気候変動に対して「信頼に足る警告を発している」と想定するのは盲信である。

Feature
How a century of ammonia synthesis changed the world
アンモニア合成の世紀がどれほど世界を変えたか
Jan Willem Erisman, Mark A. Sutton, James Galloway, Zbigniew Klimont & Wilfried Winiwarter
1908年10月13日、Fritz Haberが「元素からアンモニアを合成する」という特許を得て、のちの1918年のノーベル化学賞を受賞することとなった。それから100年間、我々はハーバー・ボッシュ法(Haber-Bosch)によって改変され、そしてそれに強く依存した世界に生きている。

'Ten favourite papers'
編集部が選んだ10編のお気に入りの論文
以下は既に別の号に公表された論文。一部だけ紹介します。

Review
Palaeozoic landscapes shaped by plant evolution
植物の進化によって形作られる中生代の地形
Martin R. Gibling & Neil S. Davies
中生代(540 - 250 Ma)を通して植物は土地を支配し、多様化してきた。そうした植物の多様化が最終的に河川システムの形を変化させてきたことが記録から分かってきた。

Letter
Slight mass gain of Karakoram glaciers in the early twenty-first century
21世紀初頭のカラコラム氷河のわずかな質量増加
Julie Gardelle, Etienne Berthier & Yves Arnaud
1999〜2008年にかけてカラコラム氷河は質量を増加させていることが分かった。

Hydrogen isotope ratios in lunar rocks indicate delivery of cometary water to the Moon
月の石の水素同位体が示唆する月に届けられた隕石の水
James P. Greenwood, Shoichi Itoh, Naoya Sakamoto, Paul Warren, Lawrence Taylor & Hisayoshi Yurimoto
月の水の起源は明らかになっていない。アポロ計画の際に得られた月の石の水素同位体の分析から、ジャイアント・インパクト後すぐの隕石衝突によってかなりの量がもたらされた可能性が示唆される。

Deforestation driven by urban population growth and agricultural trade in the twenty-first century
21世紀の都市部の人口増加と農業貿易によって駆動される森林破壊
Ruth S. DeFries, Thomas Rudel, Maria Uriarte & Matthew Hansen
熱帯雨林の森林破壊を防ぐことは、気候変動緩和という点においても安価な方法の一つである。人工衛星を用いた観測から、都市部の人口増加と農業製品の需要の高まりが森林破壊の主な原因であることが示唆される。

Articles
Climate and human influences on global biomass burning over the past two millennia
過去2000年間に気候と人間が全球の森林火災に与えた影響
J. R. Marlon, P. J. Bartlein, C. Carcaillet, D. G. Gavin, S. P. Harrison, P. E. Higuera, F. Joos, M. J. Power & I. C. Prentice
過去2000年間の森林火災の記録を6つの大陸についてまとめたところ、「気候」「人口」「土地利用」が森林火災のパターンと関係があることが分かった。150年前以降は森林火災の頻度が減るが、これは「過放牧」「農業」「火の管理」などと関係がありそうである。

2012年12月21日金曜日

気になった一文集(日本語 ver. No. 3)

邦題:CO2と温暖化の正体
原題:FIXING CLIMATE 〜WHAT PAST CLIMATE CHANGE REVEAL THE CURRENT THREAT- AND HOW TO COUNTER IT〜
ウォレス・S・ブロッカー/ロバート・クンジグ 著
内田昌男 監訳/東郷えりか 訳


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科学は一つの体系であり、考えて行動する一つの方法であり、それはまた最も幸運な日には、その喜びを味あわせてくれる世界でもある。科学は世の中を注意深く観察し、自分たちの考えを懐疑的に試し、正直に対話をすれば、物事は解明できるとする信念なのだ。1952年のその夏、ブロッカーは科学に改宗した。そうこうするうちに、彼は科学を神聖なものとして考えるようになった。(pp. 51 - 52)

「合理主義者は、目を閉じたときに最もよく考えられるが、経験主義者はいつも目を見開いていなければならない」(pp. 66)
ミランコビッチが地球軌道要素説を論じた小論文の初めの言葉。

こうして人類はいま、過去には起こりえず、将来にも再現されないだろう大規模な地球物理学の実験を行っているのだ。われわれは、何億年もかけて堆積岩の中に蓄積され、濃縮された有機炭素を、わずか数世紀のうちに大気と海洋に戻しているのだ。この実験は、適切に記録されれば、気象と気候を決定するプロセスについて、広範囲にわたる知見を生み出すかもしれない。(pp. 114)
RevelleとSuessの先見の明。有名な文言。

それはよいものだったのだ。実験は、世界の仕組みを科学者が理解するためのものだ。そして1950年当時、彼らすべてを駆り立てていたものは、雑念よりは好奇心だった。(pp. 114)
人間活動の結果環境にばらまかれた様々な物質(放射性物質、環境汚染物質、自然には決して存在しない物質など)が自然環境の理解に役立っている。

一人の人間でも、それが寡黙な科学者であっても、世の中に影響をおよぼすことはできる。(pp. 124)

「海はわれわれが当てにできる最大の自然の吸収源だ」とラルフ・キーリングは語る。「しかし、この吸収源はこの問題に影響を及ぼす程度の役割をはたしているに過ぎない。その影響はかなりあるが、海洋がわれわれを救ってくれることはない」(pp. 139)

つまるところ、陸地も海洋と同様、化石燃料を使用する習慣がもたらす影響から、人類を救ってくれはしないのだ。(pp. 147)
化石燃料を起源とする二酸化炭素は海をはじめとする自然の様々な吸収源(sink)に吸収されているが、それにもいずれ限界が訪れる。

だが、宇宙時代と、過去数十年間の環境研究からわれわれが学んだことは、自然が均衡を保っているのは、われわれにはあまり関係のない長期の時間の尺度においてのみであり、そのころには人類もわれわれの文明も消滅しているということなのだ。(pp. 151)

過去の気候が年月のなかでどう変動し、空間のなかでどのようなパターンを描いたかを追跡する作業は、その根底にあるメカニズムを理解する最良の方法なのだ。(pp. 172)
古気候・古海洋学の意義。

科学はそれにかかわる人びとのあいだの会話であり、考え方とそれがひどく不完全なかたちで表わす現実の世界とのあいだの、尽きることのない会話なのだ。(pp. 186)
ブロッカーの科学者としてのスタイルについて。彼はメールや手紙が嫌いで、電話や会話を好むらしい。

だが、科学ではそれは当たり前なのだ。重要なことは、自分自身の理論を盲信しないことであり、それにあまり執着しないことだ。だが、自分の大切なものを濁流に捨ててしまわないことも重要だ。(pp. 189 - 190)

われわれの考えでは、地球温暖化に対して行動を起こすうえで最も有益な主張は、温暖化に何よりも明らかに直結していて、[放置すれば]経済的に莫大なツケをこうむり、他の方法では容易に防ぎようのない影響にかかわるものだ。(pp. 202)

大気中のCO2濃度が二倍になっただけでも、重大な惨事—西南極の退氷によって海水準が急速に五メートル上昇する事態—が間近に迫るか、進行中になるかもしれないと、私は強く主張する。CO2のこの濃度は、化石燃料が近年の加速度的な割合で消費されつづければ、五十年もしないうちに達するだろう。(pp. 216)
オハイオ州立大学のジョン・マーサーが1980年にNature誌に論文を出した時の文言。

非常に恐ろしいのは、いまでは人為的な地球温暖化がそのプロセスをある種の最終的な限界にまで押しやっているかもしれないということだ。つまり、西南極氷床が崩壊の瀬戸際にあるということだ。(pp. 230)
西南極の棚氷は他の氷床に比べて大規模に・急速に崩壊する可能性が広く指摘されている。

太陽やミランコビッチ周期によってほんの一押しされるだけで、地球の気候が過去に、大干ばつをはじめとする極端で唐突な気候を起こしうることをわれわれは学んだ。気候を大きく押しやるようなことは避けたほうが賢明と思われる。(pp. 266)
'abrupt climate change(急激な気候変動)'が近年になって学会でも広く認識され、完新世の気候すら穏やかではなかったことが次第に明らかになってきている。

欧米諸国がどうなろうと、世界のエネルギー消費は今世紀中は急激に増加するのであって、減ることはないのである。そしてそのエネルギーの多くは、おそらく化石燃料から、それもとくに石炭から得られつづけるだろう。石炭は安く、簡単に手に入り、驚くほど手軽に利用できるのだ。(pp. 272)

明らかに、先進工業国が三十年間で自分たちの炭素排出量をゼロに減らすことはない。多くの国は、京都議定書に定められたはるかに容易な義務をはたすつもりすらない。(pp. 274)
温暖化問題が認識された今になっても未だに人類は加速度的に大気中のCO2濃度を増加させており、既に過去数百万年間に地球が経験したことのないレベルへと達している。

CO2問題を解決するために、無償で手に入るものなどない。あるのは過去二世紀にわたって、環境へのツケを考慮せずに大気中にますます多くのCO2を投棄することで、われわれが楽しんできた’ただ’飯という幻想ばかりだ。(pp. 320)

実際、CO2が560 ppm になったときの気候は、われわれにとって好ましくない可能性も充分にある。それは将来の世代に残したくない気候ではないかもしれない。われわれは化石燃料を燃やすことで混乱させた状態を、ただ安定化させるだけでなく、収拾をつけたいと思うかもしれないのだ。(pp. 321)
だからこそ、地球工学という最終手段に踏み出す可能性がある。

いま何が危機に瀕しているのか認識することだ。人類の未来にとって最大の難題は、世界の人口を貧困から救い出すのに必要なエネルギーを、人間にとっても、地球に棲息する他の生物にとっても堪えがたいほどの代償を地球におよぼさずに、供給することなのだ。その難題にたいする答えは、政治的なものもあれば、科学技術的なものもあるが、可能な技術ですぐに利用できるものはない。(pp. 328)

道徳上、反省すべき点があるとすれば、それはわれわれが化石燃料を燃やすことでなしとげた成果にあるのではない。むしろ、その成果にたいする責任を取っていない点にある。(pp. 330)

気候がダイヤル一つをいじるだけでコントロールできるようになると考えるのも、おそらく正気の沙汰ではない。(pp. 331)
地球工学で人はどこまで気候を人類の繁栄に(より発展した民族の文化の維持に)都合の良いほうへ調整したいと考えるだろうか。

新着論文(Science#6114)

Science
VOL 338, ISSUE 6114, PAGES 1497-1676 (21 DECEMBER 2012)

Editors' Choice
A Productively Repellant Aura
利益をもたらす防虫オーラ
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 109, 20124 (2012).
トマトは害虫に弱いが、トマトの野生種のなかにはジューシーな実はならさないが害虫には強いものがいる。そうした種と交配することでケジラミやハダニなどに強いトマトを作ることができるらしい。

A Map of Earth’s Rocks
地球の岩の地図
Geochem. Geophys. Geosys. 13, Q12004 (2012).
地質図や文献調査をもとに、大陸上の地質図をより詳細に描いたところ、大陸は炭酸塩が20%、変成岩が13%ずつ、火成岩が13%を占めている計算となった。また10%は水や氷で覆われている。各大陸に岩石タイプは不均質に分布しており、例えばアフリカには変成岩が、北米やヨーロッパ北部には堆積岩が広く分布している。

News of the Week
The Top 10 ScienceNOWs of 2012
2012年のScienceNOWsのトップ10
交尾中に死んだ亀の化石、防衛のために爆発する老いたシロアリ、次の超大陸、数100万年間放射性廃棄物を保管するための施設など。

News & Analysis
Sutter's Mill Meteorite Produces Mother Lode of Research
Sutter's Mill隕石が研究の主脈を作る
Emily Underwood
Sutter's Mill隕石は始源的な惑星がもとになった珍しい炭酸塩質のコンドライトである。そのうちNASAはこの天体に宇宙飛行士を送り込むかもしれない。

No Lake Mud for Curiosity Rover to Investigate?
キュリオシティーが探査すべき泥は湖にはない?
Richard Kerr
火星のGaleクレーターは初期生命の痕跡を残しているかもしれない湖の堆積物を採取するのに非常に魅力的な地域であるが、AGU'12 Fall Meetingにて発表された研究によると、その望みは薄いかもしれない

Tying Megaeruptions to a Mass Extinction Long After the Fact
巨大噴火とそれより遥か後の大量絶滅を結ぶ
Richard Kerr
放射性核種を用いた詳細な年代決定から、201Maに始まる大西洋の拡大とそれに伴う大規模な火山噴火によって、大量絶滅が起こり、恐竜が繁栄するための環境が整ったことが分かった。

Buildup to Quakes Spied in Both Model And Real World
モデルと現実世界に潜む地震を構築する
Richard A. Kerr
どのようにして地震が起きるのかを知りたい地震学者は、一歩だけ問題解決へと近づいた。

Drying out Mars.
火星を乾燥させる
Richard A. Kerr
火星表面の渓谷は年々変化することが分かっており、「固体の氷が夏の日射が強い時期に融けて流れることで形成されているのではないか」と考えられていた。しかし、アメリカ地質調査所のColin Dundasによれば、その原因は霜になったCO2であるという。Mars Reconnaissance Orbiterによる詳細な観測によると、冬の時期に渓谷の活動は集中しており、CO2の霜が融けたり凍ったりを繰り返すことが原因ではないかと考えられている。冬には水は固体のままなので候補から外れる。ただし、過去においては水が渓谷を作っていた可能性があるとも指摘されている。

Making a bigger Big One.
より大きい大きなものを作る
Richard A. Kerr
いわゆる’fracking’技術によってニューメキシコ、アラスカ、オハイオにおいてかなり大きな地震が引き起こされた。2011年11月にオクラホマで起きたM5.7の地震もまた掘削坑への流体注入がきっかけとなって起きた可能性が指摘されているが、Katie Keranenらによる調査によると、破壊された断層は掘削坑から200mしか離れておらず、掘削坑の最新部まで破壊が及んでいたという。注入された流体は地質構造によって再分配されるため、破壊はすぐには起きない。しかしながら、人間の手によって数世紀は起きないはずの大規模な地震が引き起こされる可能性が示された。

Letters
Dam Threatens Mekong Ecology
ダムがメコン川の生態系を脅かす
Guy R. Lanza
メコン川に建設される予定の水力発電用のXayaburi Damは建設を中止すべきだ。仏教の教えが環境保全に有用だとする指摘があるが、おそらく役に立たない。ダム建設による環境・社会影響の評価は歪められている。

Shark Sanctuaries: Substance or Spin?
サメの楽園:内容か姿勢か?
Lindsay N. K. Davidson
サメの個体数が主に過漁獲が原因で減少していることを受けてポリネシア・ベネズエラ・モルディブなどはサメ漁を禁止する地域を設けるなどの措置をとっているが、果たしてこれは本当に効果があるのだろうか?これは一時的な、しかも空間的にも限られたものでしかなく、実質的な保全にはより厳密なモニタリングや長期的な金銭援助が必要となる。

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Research
Perspectives
Modeling the Formation of Porphyry-Copper Ores
斑岩銅鉱の形成のモデリング
Steven E. Ingebritsen
マグマ流体から斑岩銅鉱(porphyry-copper ore)が形成されるには地殻の透水性がダイナミックに変化する必要がある。

Research Articles
Radar-Enabled Recovery of the Sutter’s Mill Meteorite, a Carbonaceous Chondrite Regolith Breccia
Peter Jenniskens et al.
珍しい炭酸塩質の隕石(Sutter’s Mill meteorite)の分析から、C-classの小惑星の表面は従来考えられていたよりも複雑であることが分かった。この隕石は歴史上最速(28.6km/s)でシエラネバダの丘陵地帯に激突したらしい。

Reports
Porphyry-Copper Ore Shells Form at Stable Pressure-Temperature Fronts Within Dynamic Fluid Plumes
P. Weis, T. Driesner, and C. A. Heinrich
数値モデルから、斑岩中の金属の蓄積物は大きなマグマチャンバーを起源とする流体がもとになっていることが示された。

Apatite 4He/3He and (U-Th)/He Evidence for an Ancient Grand Canyon
R. M. Flowers and K. A. Farley
コロラド川がグランドキャニオンを下刻した年代についてはよく分かっていない。グランドキャニオンの地層から発掘された燐灰石の4He/3He分析などから、70Maまでにはほぼ現在の深さまで(残り数百メートル)下刻していたことが分かった。「5 - 6Ma以降に下刻された」とする従来の考えと全く一致しない結果となった。

2012年12月20日木曜日

新着論文(Nature#7429)

Nature
Volume 492 Number 7429 pp311-462 (20 December 2012)

RESEARCH HIGHLIGHTS
From the Kuiper Belt to comets
カイパー・ベルトから隕石に
Astrophys. J. 761, 150 (2012)
9年間に及ぶハッブル宇宙望遠鏡によるカイパー・ベルトの観測から、530mほどの大きさの新たな天体が見つかった。ふんだんに存在する氷の小天体が太陽系内部で観測される隕石の起源になりうることが分かった。

Teeth speak of dietary change
食事の変化を物語る歯
Biol. Lett. http://dx.doi.org/ 10.1098/rsbl.2012.0890 (2012)
エチオピアで発掘されたアンテロープ(Tragelaphus nakuae)や豚の一種(Kolpochoerus limnetes)の歯の化石のδ13C分析から、2.8Maにそれらが食べていた植物がC3植物からC4植物へと変化したことが分かった。この時期にアフリカにおいて気候が大きく変化していた可能性があるという。

Rivers’ antibiotic resistance threat
河川の抗生物質耐性の脅威
Environ. Sci. Technol. http:// dx.doi.org/10.1021/es302760s (2012)
中国の6つの河川水から、生物工学分野で使用されているプラスミド・ベクターの遺伝子を持った生物が見つかった。実験施設などの廃液が動物や人間の抗生物質耐性を作り出す原因となっていると考えられる。

When plants run the food chain
植物が食物連鎖を運営するとき
Ecol. Lett. http://dx.doi. org/10.1111/ele.12032 (2012)
植物の中には肉食昆虫に餌を与えることで自らを守ってもらうものがいる。一方、カリフォルニアの一年草(Madia elegans)は小型の昆虫を捕らえることでより大型の昆虫の餌とし、用心棒として有害な小型昆虫から守ってもらうという戦略をとっているらしい。

Scarce cetaceans catalogued
わずかしかいない鯨類が分類された
Curr. Biol. 22, R905–R906 (2012)
”世界で最も珍しい鯨類(The world’s rarest whale)”というタイトルで、ニュージーランドに打ち上げられた2頭の新種のクジラ(Mesoplodon traversii)が分類された。

Counting geoneutrinos
ジオ・ニュートリノを数える
Earth Planet. Sci. Lett. http://dx.doi.org/10.1016/ j.epsl.2012.11.001 (2012)
マントル内部における放射改変によって放出されるジオニュートリノ(geoneutrinos — electron antineutrino)を利用してマントルの温度推定ができる可能性がある。太平洋の2つ以上の地点で測定が試みられるという。

SEVEN DAYS
Moon smash
月の衝突事故
GRAILによる観測から、これまでにない精度で月の重力場のマッピングが行われた。

Ice plunge halted
氷への突進が一時中止
南極の氷床の下に存在するEllsworth湖を対象にした掘削が掘削機器の故障で中断した。12/10に温水ドリルのパワーを上げたところ、回路がショートしてしまったらしい。バーナーを使って一時温水を持ちこたえることはできたが、それも4〜5日後には機能しなくなった。12/21まで作業が再開する見込みは薄いらしい。

Ancient ice
古代の氷
オーストラリアは来年の夏から、過去2,000年間の気候復元に焦点を当てた南極の掘削をスタートさせることを12/15に公表した。Aurora Basin Northと呼ばれる降雪量が大きい地点で400mのアイスコアが得られる予定で、1年ごとの高解像度の記録が期待されている。

Safety for sharks
サメのための避難場所
Cook諸島は近隣のフレンチ・ポリネシア諸島などとともに世界最大のサメの保護区(オーストラリア大陸と同じ大きさ)を設けた。保護区内ではサメ漁、サメ製品の保有・販売などがすべて禁止されている

Troubled rocket
トラブルに遭っているロケット
北朝鮮は1998年以来5度目となる、地球を周回する軌道への物体の投入を成功させた。しかし投入された人工衛星はバランスを失い回転しており、電波も発していないことから、全く機能していないことがアメリカとカナダの防衛レーダーによる観測から明らかになっている。

NEWS IN FOCUS
366 days: Images of the year
366日;今年の画像
北極海の海氷、太陽コロナ質量放出、小型カメレオンなど。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Go with the lows
低気圧とともに進む
極低気圧(Polar low)は小さくかつ持続時間も1〜2日と短いため、天気予報に用いられるモデルに組み込むことが難しい。しかしながら、Condron and Renfrew(2012, Ngeo)はそうした極域の観測記録を気象モデルに組み込む必要があることを指摘している。極の循環は北大西洋の深層水形成場の海洋循環にも影響する

2012 Editors' choice
COLLISION COURSE
衝突への道
R. Brent Tully (Nature 488, 600–601; 2012)
今から40億年後、天の川銀河とアンドロメダ銀河は衝突することになるだろう。その時にもし人類の子孫が敏感な目を持っていれば、壮大な衝突の瞬間を目撃するだろう。

AEROSOLS AND ATLANTIC ABERRATIONS
エアロゾルと大西洋の異常
Amato Evan (Nature 484, 170–171; 2012)
北大西洋における数十年の時間スケールの変動(AMO)が大西洋の気候を支配している。大西洋のハリケーンの頻度が近年高いことや、1980年代のサハラ地域における干ばつはAMOが原因と考えられている。Booth et al.は最新の気候モデルから、エアロゾルがAMOに影響を与えていることを明らかにした。他のモデルなどを用いてさらに検証する必要があるが、人間活動が北大西洋の温度の数十年変動をもたらしている可能性が浮き彫りになった。

REMOTE RESPONSIBILITY
遠くの責任
Edgar Hertwich (Nature 486, 36-37; 2012)
象牙でできたチェスの駒を買えば象を殺したことを実感するかもしれないが、ソーセージを買って象の生息地が奪われたことを実感することはほとんどない(豚の餌となる大豆栽培用の土地開発などを通して)。Lenzen et al.は国際貿易が生物多様性に与える影響を評価したところ、アメリカ・日本・ヨーロッパは輸入によって、東南アジア諸国は輸出によって、レッドリストに載っている生物の絶滅の危険性の原因の30%を担っていることが示された。

ARTICLES
特になし

LETTERS
Laboratory measurements of the viscous anisotropy of olivine aggregates
カンラン石集合体の粘性異方性の室内測定
L. N. Hansen, M. E. Zimmerman & D. L. Kohlstedt
[Natureによる日本語要約]

Flickering gives early warning signals of a critical transition to a eutrophic lake state
フリッカー現象は湖沼の富栄養状態への臨界遷移の早期警告シグナルとなる
Rong Wang, John A. Dearing, Peter G. Langdon, Enlou Zhang, Xiangdong Yang, Vasilis Dakos & Marten Scheffer
[Natureによる日本語要約]

2012年12月18日火曜日

新着論文(PNAS)

Proceedings of the National Academy of Sciences
☆20 November 2012; Vol. 109, No. 47
Commentaries
Climate change and marine ecosystems
気候変動と海洋生態系
Francisco P. Chavez
Taylor et al. (2012, PNAS)の紹介記事。ITCZの変化に伴う沿岸湧昇の変化とそれに対する生態系の応答、および炭素循環に与える影響について。
小氷期にはITCZは’南下’しており、それによって生態系が激変したことが確認されている。さらに温暖化した世界では逆にITCZが’北上’すると予想されており、そうした変化は既に起きつつある。

Environmental Sciences
Deep-sea record of impact apparently unrelated to mass extinction in the Late Triassic
Tetsuji Onoue, Honami Sato, Tomoki Nakamura, Takaaki Noguchi, Yoshihiro Hidaka, Naoki Shirai, Mitsuru Ebihara, Takahito Osawa, Yuichi Hatsukawa, Yosuke Toh, Mitsuo Koizumi, Hideo Harada, Michael J. Orchard, and Munetomo Nedachi
日本近辺の深海底に存在する三畳紀後期の堆積物には隕石衝突を思わせるイリジウムの濃集層が存在する。これはカナダのManicouagan衝突孔の形成年代とも一致している。全球的な放散虫の絶滅は確認されていないが、北米の一部の生物では確認されているため、衝突によって地域的な絶滅が起きたものと思われる。

Ecosystem responses in the southern Caribbean Sea to global climate change
Gordon T. Taylor, Frank E. Muller-Karger, Robert C. Thunell, Mary I. Scranton, Yrene Astor, Ramon Varela, Luis Troccoli Ghinaglia, Laura Lorenzoni, Kent A. Fanning, Sultan Hameed, and Owen Doherty
温暖化によってハドレー循環が変化しつつあり、ITCZやNAOに影響している。カリアコ海盆のCARIACO Ocean Time-Seriesによる1996 - 2010年の定点観測の結果は近年の様々な変化を示している。

  • 温度上昇:~ 1.0 ± 0.14 ℃
  • 成層化と湧昇による栄養塩供給量の低下
  • クロロフィル量の低下
  • 総一次生産量の低下

その結果、それまで珪藻・渦鞭毛藻・円石藻で占められていた群集組成はより小さなプランクトンへと変化し、現地のイワシ漁は崩壊している。Azores高気圧の北上とITCZの北(東)上が原因として考えられる(3月の位置が800km北上)。

☆27 November 2012; Vol. 109, No. 48
Commentaries
Hurricanes and rising global temperatures
ハリケーンと上昇する全球気温
Greg J. Holland
Grinsted et al. (2012, PNAS)の紹介記事。
大西洋においては温暖化とともにハリケーンの強度及び頻度が上昇することが予測されている(1℃の上昇ごとに年間の到来回数が50%増加するという予測も)。しかしながら、近年起きている巨大なハリケーンが温暖化によるものかどうかも未だに判断がついておらず、将来予測に対する不信感を生む源にもなっている。ハリケーンに関する観測記録は限られているが、Grinsted et al. は高潮による地滑り等の記録をもとに過去のハリケーンの強度などを間接的に再現し、それらは観測ともよく合うものであるらしい。彼らの作った高潮指数(surge index)は観測される近年の通う表層水温の温暖化ともよく合っている。この指数が本当にハリケーンの強度・頻度・被害を代表するものとして見なせるかどうかは今後議論がなされるだろう。

Environmental Sciences
Homogeneous record of Atlantic hurricane surge threat since 1923
Aslak Grinsted, John C. Moore, and Svetlana Jevrejeva
高潮指数(surge index)をもとにバイアスがかかっていない1923年以降のハリケーンの強度を復元。暖かい年には寒い年に比べて有意にハリケーンのサイズが増していることが示された(カトリーナ級のハリケーンは2倍程度)。

☆4 December 2012; Vol. 109, No. 49
Commentaries
Importance of freshwater injections into the Arctic Ocean in triggering the Younger Dryas cooling
ヤンガー・ドリアスを引き起こす上で大西洋に淡水を注入することの重要性
James T. Teller
Condron and Winsor (2012, PNAS)の紹介記事。
ヤンガー・ドリアスが北大西洋への淡水注入に伴う子午面循環の弱化であったとして、疑問点はいくつか挙げられる。

  • ローレンタイド氷床を起源とする融水はGreat LakesとSt. Lawrenceを通過したかどうか?
  • アガシ湖から流れ出た融水は1,000年間もの間子午面循環を弱化させるほどのインパクトがあったかどうか?
  • ローレンタイド氷床はもとから融解しつつあるという状況下で、その融水量の急激な増加が閾値を超すほどのものだったのか?

彼らは高解像度のモデルを採用し、異なる融水の流出を仮定して、現在の気候の背景場で1年間にわたって5 Sv の融水を流してAMOCの変化を観察した。すると、Mackenzie Valleyを経由した実験のみがAMOCに擾乱をきたすことができた。その原因としては、St. Lawrence Valleyを経由した淡水は北大西洋で南下する流れに乗り、うまく淡水キャップとして広範囲を覆わないためであるという。

Earth, Atmospheric, and Planetary Sciences
Meltwater routing and the Younger Dryas
Alan Condron and Peter Winsor
高解像度の海洋循環・海氷モデルを用いてヤンガー・ドリアスが北大西洋への淡水注入であるという仮説を検証。St. Lawrence Valley経由だとAMOCを15%以下しか弱化させることができなかったが、Mackenzie Valley経由だと狭い沿岸境界流が淡水を効果的に北大西洋にもたらし、30%以上の弱化をもたらすことができた。北極海経由での融水の注入がヤンガー・ドリアスのきっかけとなったと考えられる。

Mapping Greenland’s mass loss in space and time
Christopher Harig and Frederik J. Simons
GRACEの重力観測記録から2002年から2011年にかけてのグリーンランド氷床の質量収支を計算。特に南東部と北西部の沿岸部における融解が顕著。中央部は徐々に質量を増している。全体としてはほぼ線形に質量は減少しつつある。

☆11 December 2012; Vol. 109, No. 50
特になし

2012年12月17日月曜日

新着論文(QSR)

Quaternary Science Reviews
☆Volume 56, Pages 1-172 (21 November 2012) Rapid sea-level rise
Thomas M. Cronin
海水準変動はそれぞれの海岸ごとに様々な全球的な/ローカルな要因で起きる。
◎全球的な要因
  1. 海洋の質量変化(氷床融水の流入)(glacio-eustasy)
  2. 海の体積変化(steric effect)
  3. マントルの流動に起因する大陸移動(glacioisostatic adjustment)
  4. 陸上の水資源量の変化
◎地域的な要因
  1. 海洋循環の変化
  2. 地域的な氷河の融解
  3. 地域的な大陸移動
  4. 沈降
それらの影響が相互作用し、年間 3 mmを超える速度で海水準が上昇することが古気候学的な記録から知られている。特にアメリカ東海岸を例にとって古気候記録を頼りにしながら、完新世後期の海水準の安定性、数千年スケールの海水準変動パターンを評価することの難しさについてレビューする。

Simulating atmospheric CO2, 13C and the marine carbon cycle during the Last Glacial–Interglacial cycle: possible role for a deepening of the mean remineralization depth and an increase in the oceanic nutrient inventory
L. Menviel, F. Joos, S.P. Ritz
EMICs(Bern3D)を用いて氷期-間氷期スケールの大気中CO2濃度の変動をシミュレーション。80-100ppmの変動の3分の1(30ppm)は「温度」「塩分」「AMOCの変動」「鉄肥沃」「陸域炭素リザーバーの変化」で説明ができる。海洋のリン酸の保存量が10%変化するだけで間氷期から氷期にかけて50ppmほどCO2濃度を低下させることが可能だが、逆に氷期から間氷期にかけては5ppmしか寄与しない。このメカニズムは氷期のexport productionやδ13CO2をうまく説明できる。有機物粒子が酸化分解される深度が深くなると深層水の[CO32-]が大きく増加、またexport productionが変化してしまい、間接指標とは符合しなくなる。氷期には堆積物との相互作用がpCO2の低下には重要だったと考えられる。

Evaluating Southern Ocean sea-ice for the Last Glacial Maximum and pre-industrial climates: PMIP-2 models and data evidence
D.M. Roche, X. Crosta, H. Renssen
南大洋の現在とLGMの海氷範囲について、PMIP-2のモデル間比較を行った。モデルは現在とLGMの両方において海氷の量を小さく見積もっており、南大洋の海-氷の力学がまだうまく再現できていないことを示唆している。

☆Volume 57, Pages 1-156 (4 December 2012) 
How did the hydrologic cycle respond to the two-phase mystery interval?
Wally Broecker, Aaron E. Putnam
Estancia湖の堆積物コアが物語っている、Mystery Interval(18.0 - 14.6ka)における乾燥→湿潤化は、全球的な気候変動と一致している。一連の気候変動の原因は北大西洋における海氷の張り出しが深層水の形成を遮断したことにあるが、MIのきっかけとなったHS1の際にもITCZの南下があったはずだというジレンマが存在する。

☆Volume 58, Pages 1-164 (14 December 2012) 
Younger Dryas and early Holocene age glacier advances in Patagonia
Neil F. Glasser, Stephan Harrison, Christoph Schnabel, Derek Fabel, Krister N. Jansson
10Beを用いて最終退氷期におけるパタゴニア氷床の範囲をマッピング、前進・後退の時間を決定。LGM以降、YD(12.9 - 11.7 ka)に最も拡大していたと考えられる。南半球の偏西風によって支配される気温と降水量の変動が原因?

Sahel megadrought during Heinrich Stadial 1: evidence for a three-phase evolution of the low- and mid-level West African wind system 
Ilham Bouimetarhan, Matthias Prange, Enno Schefuß, Lydie Dupont, Jörg Lippold, Stefan Mulitza, Karin Zonneveld
氷期におけるハインリッヒイベントの際には広くITCZが南下・AMOCが弱化・北東貿易風が強化していたことが知られている。アフリカ西海岸(セネガル)沖の堆積物コア中の花粉記録から、過去20kaの花粉の給源を推定し、そこから過去の風系の変化を試みた(特にHS1を3つの期間に分離)。サハラにおける干ばつは北東貿易風というよりはむしろアフリカ偏東風(African Easterly Jet; AEJ)にも影響されていると考えられる。モデルシミュレーションでAMOCを弱化させたところ、西アフリカにおいて湿気が散らされることが再現された。

Atmospheric changes in North America during the last deglaciation from dune-wetland records in the Midwestern United States
Hong Wang, Andrew J. Stumpf, Xiaodong Miao, Thomas V. Lowell
アメリカ中部のローレンタイド氷床がかつて存在し、後退した場所における古環境復元(堆積物の構成粒子の色や地球化学分析)から、過去の湿度状態を推定。HS1とYDにおいて北部は乾燥化する一方で南部は湿潤化していた。B/Aの時には全く逆のことが起きていた。HS1もさらに2つの期間に分けて考えることができるらしい。

☆Volume 59, Pages 1-116 (3 January 2013) 
Holocene temperature history at the western Greenland Ice Sheet margin reconstructed from lake sediments
Yarrow Axford, Shanna Losee, Jason P. Briner, Donna R. Francis, Peter G. Langdon, Ian R. Walker
グリーンランドの西部から得られた湖の堆積物コアから完新世における気候変動を復元。昆虫の群集組成は6 - 4 kaの間に夏の気温が最も高かった(2 - 3 ℃)ことを示している。またそのときに氷床量も最も小さくなっていた。いくつかの急激な気候変動も確認される(4.2kaイベントも?)。

2012年12月15日土曜日

新着論文(CP, BG)

Marine productivity response to Heinrich events: a model-data comparison
V. Mariotti, L. Bopp, A. Tagliabue, M. Kageyama, and D. Swingedouw
Climate of the Past, 8, 1581-1598, 2012
ハインリッヒ・イベント(YD, HS1 - 6)における海洋の一次生産の変化を明らかにするために、これまでに得られている様々な地域の様々なプロキシを用いて復元された一次生産の記録をまとめ、モデルシミュレーションを組み合わせて考察を行った。一般にハインリッヒ・イベント時には海洋の一次生産が16%低下していた。北大西洋は主に減少、南大洋は増加した。赤道太平洋は有機物の輸送量の増加を示したが、一方で生物源シリカの輸送量は低下し、珪藻による炭素・ケイ酸の取り込みの比が変化した結果と考えられる。

Stable isotope and trace element investigation of two contemporaneous annually-laminated stalagmites from northeastern China surrounding the "8.2 ka event"
J. Y. Wu, Y. J. Wang, H. Cheng, X. G. Kong, and D. B. Liu
Climate of the Past, 8, 1497-1507, 2012
中国北東部から得られた鍾乳石のδ18O、δ13C、Ba/Caを測定。8.2kaに対応した夏モンスーンの指標として考えられるδ18OのシグナルはQunfやDongge洞窟のものと違い、顕著には見られない。しかしδ13CとBa/Caには変化が見られ、北大西洋の気候変動のシグナルが中緯度にも冬モンスーンの変化を介して伝播したと考えられる。
Wu et al. (2012)を改変。
鍾乳石から復元された8.2ka前後の様々なプロキシ。

On the gas-ice depth difference (Δdepth) along the EPICA Dome C ice core
F. Parrenin, S. Barker, T. Blunier, J. Chappellaz, J. Jouzel, A. Landais, V. Masson-Delmotte, J. Schwander, and D. Veres
Climate of the Past, 8, 1239-1255, 2012
EPICA Dome C(EDC)アイスコアの過去140kaにわたる気体-氷年代モデルの構築に関して。

Enrichment in 13C of atmospheric CH4 during the Younger Dryas termination
J. R. Melton, H. Schaefer, and M. J. Whiticar
Climate of the Past, 8, 1177-1197, 2012
ヤンガー・ドリアス時には大気中のメタン濃度の大幅な変動が確認されているが、その放出源(湿地・ガスハイドレート・サーモカルストなど)は明らかになっていない。これまでに得られたアイスコアとPa ̊kitsoq(グリーンランド)メタンの濃度とδ13CH4、さらに14CとδDも併せて質量収支計算を行ったところ、森林火災(42 - 66 %)とサーモカルスト湖からの放出(27 - 59 %)が大半を担っていることが示された。
Melton et al. (2012)を改変。
アイスコアに含まれている気泡から復元された様々なメタンの同位体。YDに焦点が当てられている。

Melton et al. (2012)を改変。
同位体によってメタンの放出源を分けることができるが、メタンには様々な放出源が存在する。
例えば、サーモカルスト・シロアリ・湿地・森林火災・ガスハイドレートなど。

Influence of changing carbonate chemistry on morphology and weight of coccoliths formed by Emiliania huxleyi
 L. T. Bach, C. Bauke, K. J. S. Meier, U. Riebesell, and K. G. Schulz
Biogeosciences, 9, 3449-3463, 2012
円石藻(Emiliania huxleyi)の殻重量は海水の炭酸塩の変化によって変化し、それを利用して過去の炭酸系の推定がなされているが、それがどの変数によって引き起こされているかの詳細は明らかになっていない。奇形の円石藻は主に[H+]によって引き起こされていることが分かった。サイズの変化は[HCO3-]、[H+]、[CO32-]のいずれか(或いはすべて)によってもたらされている。

Spatial linkages between coral proxies of terrestrial runoff across a large embayment in Madagascar
C. A. Grove, J. Zinke, T. Scheufen, J. Maina, E. Epping, W. Boer, B. Randriamanantsoa, and G.-J. A. Brummer
Biogeosciences, 9, 3063-3081, 2012
マダガスカルの河口付近で得られた3つのハマサンゴのδ18O、δ13C、Ba/Ca、ルミネ(G/B)を測定し、広域の河川流出量のプロキシとなるものがどれかを検討。フミン酸は保存量として振る舞うため、ルミネが最も使えるらしい。次いでBa/Caも有用
Grove et al. (2012)を改変。
3つのハマサンゴのG/BとBa/Caの変動の比較。明瞭な季節変動が見られる。

2012年12月14日金曜日

新着論文(GCA, CG, PO, GRL, G3)

Sr/Ca Sensitivity to Aragonite Saturation State in Cultured Subsamples from a Single Colony of Coral: Mechanism of Biomineralization During Ocean Acidification
Alexander C. Gagnon, Jess F. Adkins, Jonathan Erez, John M. Eiler, Yunbin Guan
Geochimica et Cosmochimica Acta, Available online 10 December 2012, Pages 
温度一定でpHを変化(7.9 - 8.5)させて飼育したショウガサンゴ(Stylophora pistillata)のSr/CaをNanoSIMA測定したところ、明瞭な違いは得られなかった。従ってΩargの変化はSr/Ca温度計にはそれほど大きく影響しないと考えられる。しかしながら、Ωarg=1.0〜2.4あたりにサンゴが石灰化流体にアルカリ度をポンピングできない閾値が存在し、その閾値を超えると石灰化流体のpHも次第に低下すると考えられる。

Boron, carbon, and oxygen isotopic composition of brachiopod shells: intra-shell variability, controls, and potential as a paleo-pH recorder
Donald E. Penman, Bärbel Hönisch, E. Troy Rasbury, N. Gary Hemming, Howard J. Spero
Chemical Geology, Available online 7 December 2012, Pages
炭酸塩のホウ素同位体は海水のpH復元のツールになることが知られているが、腕足動物の殻はカンブリア紀まで遡ることが可能な有用な試料の一つである。現生腕足動物(Terebratulid brachiopod)の殻のδ11B、δ18O、δ13Cの測定から、殻の外側と内部とでそれぞれの同位体の相関が変化することが分かった。また種ごとにもどの殻の部分が海水の指標として有用かどうかが異なるため、過去の復元には単一の種を用いるか、種間の較正をさらに進める必要がある。

Oceanic carbon and water masses during the Mystery Interval: A model-data comparison study
Huiskamp, WN; Meissner, KJ
PALEOCEANOGRAPHY, 27 10.1029/2012PA002368 NOV 14 2012
ミステリー・インターバルには大気中のCO2濃度が50ppm上昇し、一方で大気中のΔ14Cが大きく低下したことが知られている。この現象は長く隔離されていた海の’古い’炭素が大気へと移動した結果と考えられている。地球システムモデル(UVic Earth System Climate Model)を用いてハインリッヒ・イベントを再現したところ、「そこそこのNADWの形成」「南半球の偏西風は現在の位置」で17.5kaの境界条件でシミュレーションを行うことで現象をうまく再現できることが分かった。シミュレーションの中ではAMOCが大気-海洋の炭素フラックスを大きく決定しており、南半球の偏西風の南北移動は大西洋と太平洋の溶存炭素の分配に寄与していることが分かった。観測に近い結果が得られたが、大気との炭素交換は現実よりも長くは継続しなかった。

Monsoonal influence on Southern Hemisphere 14CO2
Quan Hua, Mike Barbetti, Vladimir A. Levchenko, Rosanne D. D'Arrigo, Brendan M. Buckley and Andrew M. Smith
GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, VOL. 39, L19806, 5 PP., 2012
インドネシアで得られた木の1951–1979年に相当する部分のΔ14Cを測定。1965年の始めに最大値に達していた(ボムピーク)。南半球の他の地域に比べると高いΔ14Cを持っているため、ITCZがインドネシアよりも南に位置する際に北半球起源の気団の影響が増していたことが原因と考えられる。

Cenozoic seawater Sr/Ca evolution
Sindia M. Sosdian, Caroline H. Lear, Kai Tao, Ethan L. Grossman, Aaron O'Dea and Yair Rosenthal
Geochem. Geophys. Geosyst., 13, Q10014, doi:10.1029/2012GC004240.
化石のイモガイと腹足類の殻のSr/Caから新生代を通しての海水のSr/Caを復元。Eoceneには高かったが、全体を通して一定していたことが分かった。また蒸発岩から得られている過去のCa濃度の記録を用いると、Sr濃度は新生代を通して減少していることが分かった。Miocene中期には大陸棚に沈殿するaragonite/calcite比が変化していたことが示唆され、サンゴ礁形成が急増していた記録とも整合的である。Mg濃度や大気中のCO2濃度とも関連?

新着論文(Science#6113)

Science
VOL 338, ISSUE 6113, PAGES 1385-1496 (14 DECEMBER 2012)
Editors' Choice
Unlucky in Love
愛の不幸
J. Nat. Hist. 10.1080/00222933.2012.724720 (2012).
カエルの中には(anurans)オスが集団でメスにのしかかり、繁殖の機会を増やす戦略を取るものがいるが、時折メスが圧死してしまう。そのため逆に繁殖に不利に働くかと思いきや、実はオスは死んだメスから卵を取り出すことが可能で、その卵から子供が産まれることが分かった。

Recording the Doldrums
無風地帯を記録する
Geology 10.1130/G33688.1 (2012).
熱帯域はほとんど風がなく、嵐も起きないが、それは地質学時代にもそうであったらしい。6,000kmにもまたがるオルドビス紀の地層(北米〜北ヨーロッパ)の生痕化石や腕足動物の殻を用いた研究から、当時の赤道域(地磁気で緯度を決定)の浅海域もまた穏やかな環境であったことが示唆されている。

News of the Week
※今回は省略

News & Analysis
特になし

News Focus
How to Build a Smarter Rock
スマート・ロックの作り方
Emily Underwood
岩や砂が川によっていつ・どこへ運ばれるかを予測することは難しい。岩(正確には岩を模した金属)の内部に電子機器を埋め込み、追跡することで問題が解決するかもしれない。

Letters
Cloudy Forecast for Weather Satellite Data
気象衛星観測データに対する曇った予報
D. James Baker
Weather forecasts slowly clearing up (Science 9 Nov, pp. 734)”の中で、人工衛星による観測網のさらなる整備によって天気予報の予測精度が向上すると強調されていたが、実際には極域の人工衛星の問題を解決しなければ実現しない。極域の観測データもまた世界各国の天気予報の素データに組み込まれているからである。現在、アメリカの所有する観測システム(National Polar-orbiting Operational Environmental Satellite System)は運用を停止しており、NOAAによる新たなシステムがスタートし始める状態にある。さらにヨーロッパによる極域の観測システムにも欠陥があることが指摘されている。

Pushing the Planetary Boundaries
惑星の限界を押し上げる
Karl-Heinz Erb, Helmut Haberl, Ruth DeFries, Erle C. Ellis, Fridolin Krausmann, and Peter H. Verburg
A measurable planetary boundary for the biosphere (Science 21 Sep, pp. 1458)”の中で、著者らは総一次生産(NPP)に基づいて’惑星の限界’の定義を導入した。しかし総一次生産は必ずしも人間活動の指標としては機能しないことを指摘する。

Pushing the Planetary Boundaries—Response
惑星の限界を押し上げる—返答
Steven W. Running and W. Kolby Smith
Erb et al.に対する返答。

Policy Forum
The Greening of Insurance
保険の環境問題意識の高まり
Evan Mills
保険業界のトレンドは市場原理がどれほど気候変動の緩和と適応を支持しているかを示している。

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Research
Perspectives
Who Speaks with a Forked Tongue?
誰が二股の舌でしゃべる?
Jonathan B. Losos, David M. Hillis, and Harry W. Greene
トカゲに対する最新の分子系統学と形態系統学とは根本的に異なっている。

Reports
Arthropod Diversity in a Tropical Forest
熱帯雨林の節足動物の多様性
Yves Basset
ほとんどの真核生物は昆虫であるものの、陸上の昆虫類の多様性は未だに明らかになっていない。パナマの熱帯雨林において0.48ヘクタールの土地から6144種の昆虫を採取し(土壌から木の枝まで)、それを全体の6,000ヘクタールに外挿したところ、おおよそ25,000種がいると推定される。1へクタールだけでも6割以上の多様性があるらしい。

2012年12月13日木曜日

新着論文(Nature#7428)

Nature
Volume 492 Number 7428 pp153-304 (13 December 2012)

EDITORIALS
Life on land
陸上の生命
オーストラリア南部のプレカンブリアンに相当する地層には初期の生物群の化石(エディアカラ生物群)が産出することが知られているが、これらは従来すべて海の堆積物中の化石と考えられていたが、新たな記録によってそれが陸上で堆積したものが含まれる可能性が指摘されている。つまり初期の生物がすでに陸上に進出していたことを物語っている。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Rain shifts bear human fingerprint
雨の変化は人間の指紋を持つ
Geophys. Res. Lett. http://dx.doi. org/10.1029/2012GL054199 (2012)
南半球の降水は近年変化しつつあるが、観測記録とモデルシミュレーションからそれが人為起源の温暖化とオゾン層の破壊によって引き起こされていることが示された。自然変動では説明できないという。

Surprises beneath Moon’s surface
月の表面の下の驚き
Science (2012)
http://dx.doi. org/10.1126/science.1231507
http://dx.doi.org/10.1126/ science.1231530
http://dx.doi. org/10.1126/science.1231753
GRAILによる月の重力場の観測から、月の地殻が従来考えられていたよりも薄いこと(34 - 43 km)が明らかになった。隕石衝突による亀裂は地殻を貫通してマントルまで及んでいたと考えられ、それは地球と火星についても同じであったかもしれない。それによって生じた多孔質の構造は暖かい地下水を保持し、初期生命のゆりかごになっていたかもしれない。

SEVEN DAYS
※今回は省略

NEWS IN FOCUS
Ancient fungi found in deep-sea mud
深海底の泥から古代の菌類が見つかる
Richard Monastersky
深海底の泥から古代の菌類が発見されたことで、深海底に未知の抗生物質がある希望が見いだされている。

Trouble bares its claws
トラブルがそのはさみを見せる
Douglas Fox
海流の変化に伴い南極周辺の大陸棚に侵攻しているカニ(Neolithodes yaldwyni)は貴重な生態系の大きな脅威となりえる。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
A pas de trois birth for wide binary stars
離れた連星系は当初は3つの星として生まれた
Keivan Guadalupe Stassun
[Natureの日本語訳]

Clearing up the dust
塵を取り除く
Amy Barger
[Natureの日本語訳]

LETTERS
Formation of the widest binary stars from dynamical unfolding of triple systems
三重連星系の力学的な進化による最も離れた連星系の形成
Bo Reipurth & Seppo Mikkola
[Natureの日本語訳]

Increased future ice discharge from Antarctica owing to higher snowfall
降雪の増加に伴う将来の南極からの氷の流出量の増加
R. Winkelmann, A. Levermann, M. A. Martin & K. Frieler
 温暖化によって極域の氷床は融解すると考えられるが、一方で気候変動の結果降雪が増加して南極の氷床量は増加すると考えられている。しかしながら、それによって氷河の力学がどのように変化するかの予測については不確実性が非常に大きい。
 モデルシミュレーションによる予測から、温暖化によって降雪が増加し、それが氷河の流出量を最大で3倍ほど増加させる可能性があることを指摘する。その影響は温暖化による氷床表面の融解や基底部の融解などの効果よりも大きい。降雪の結果として得られた氷はその30 - 65 %が氷河を通して海へと流出すると推定される。従って南極の海水準上昇を抑える効果を打ち消す働きがある。
[Natureの日本語訳]

Deep penetration of molten iron into the mantle caused by a morphological instability
形態不安定性によって引き起こされる融解した鉄のマントルへの深部への貫入
Kazuhiko Otsuka & Shun-ichiro Karato
[Natureの日本語訳]

新着論文(NCC#Dec2012)

Nature Climate Change
Volume 2 Number 12 (December 2012)

Research Highlights
Heat distribution
熱の分布
J.Clim. http://doi.org/jqb (2012)
温暖化によって海流も変化すると考えられる。海洋は熱容量が大きく、さらに炭素を吸収するため温暖化を抑制する効果がある。モデルシミュレーションによって海洋循環の変化がある場合とない場合とで比較を行ったところ、熱の吸収により大きな影響が現れることが示された。海洋循環が変化することで温度上昇が全球に分配され、極域の温暖化が軽減される一方で、熱帯域の温暖化が促進されるらしい。

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Research
News and Views
Shifts in fishing grounds
漁業基盤のシフト
Bonnie J. McCay
漁業の分野では気候変動に対する適応が急速に起きている。それは複雑なプロセスであり、魚の個体数に対する影響を緩和することも、悪化させることもあり得る。

Squeezing the Arctic carbon balloon
北極の炭素の風船を絞る
Evan S. Kane
北極圏のツンドラに木が拡大することで陸上の炭素貯蔵域が増加するが、植物の生育が活発になるほど、土壌中の有機物分解も促進されるため、生態系全体としては炭素が失われることが示唆されている。

Review
Aquatic biochronologies and climate change
水圏の生物時計と気候変動
John R. Morrongiello, Ronald E. Thresher & David C. Smith
将来気候変動が生態系に影響を与えることが予測されているが、長期的な気候変動の記録は陸域ではふんだんに生物(特に木)に記録されているものの、水圏にはあまり記録がない。魚の硬骨格や軟体動物、サンゴ骨格などの記録の、長期的な生態系の指標としての可能性をレビューする。

Letters
Parental environment mediates impacts of increased carbon dioxide on a coral reef fish
サンゴ礁の魚に対しては親の環境が上昇する二酸化炭素の影響を緩和する
Gabrielle M. Miller, Sue-Ann Watson, Jennifer M. Donelson, Mark I. McCormick & Philip L. Munday
 二酸化炭素濃度の上昇は多くの海洋生物の生理学的なプロセスに悪影響をもたらすと考えられている。しかし数世代にわたって環境の変化に生物がどのように適応できるかどうかについてはよく分かっていない。
 今世紀末に訪れるかもしれない状態(CO2濃度1,000ppm, 1.5-3.0℃上昇)では魚の代謝率・体長・重量・生存率などが減少することが分かった。しかし、温暖化と海洋酸性化とを親の魚が経験していた場合、そこから産まれる子供は温暖化と海洋酸性化の影響を被らないか、逆に打ち消す効果があるらしい。従って、ある種の魚は従来考えられていたよりも環境変化に適応できる可能性がある。

Orbital forcing of tree-ring data
木の年輪データに対する軌道フォーシング
Jan Esper, David C. Frank, Mauri Timonen, Eduardo Zorita, Rob J. S. Wilson, Jürg Luterbacher, Steffen Holzkämper, Nils Fischer, Sebastian Wagner, Daniel Nievergelt, Anne Verstege & Ulf Büntgen
 完新世においては太陽のフォーシングが気候を大きく左右していたことが知られているが、特に1750年以降の太陽フォーシングは人為起源のフォーシングと比較しても4倍ほど大きい。
 スカンジナビア北部の木の秋材の密度に基づいた研究は、木の年輪幅に基づいた従来の研究は中世の気候温暖期などを含む産業革命以前の気温を低く見積もっている可能性を指摘している。それはここ2,000年間(common era)の軌道フォーシングの低下を見積もれていないことが原因と考えられる。

Long-term sea-level rise implied by 1.5 °C and 2 °C warming levels
1.5℃と2.0℃の温暖化レベルから暗示される長期的な海水準上昇
Michiel Schaeffer, William Hare, Stefan Rahmstorf & Martin Vermeer
 海水準上昇は重要かつ不確かな気候変動の一つである。カンクン同意で得られた「温度上昇を産業革命以前に比べて1.5-2.0℃以内に抑える」というシナリオに基づいてモデルシミュレーションを行ったところ、2100年までに「75 - 80 cm」海水準が上昇することが示された。さらに2300年までには「1.5 - 2.7 m」と上昇率が温暖化予測の間で大きく異なることも分かった。海水準上昇を最低限に抑えるにはCO2を大気から取り除くための技術(バイオ燃料とCCSなど)をただちに開始しなければならない。

Impact of climate change on the Baltic Sea ecosystem over the past 1,000 years
過去1,000年間の気候変動がバルト海の生態系に与えた影響
Karoline Kabel, Matthias Moros, Christian Porsche, Thomas Neumann, Florian Adolphi, Thorbjørn Joest Andersen, Herbert Siegel, Monika Gerth, Thomas Leipe, Eystein Jansen & Jaap S. Sinninghe Damsté
 バルト海から得られた堆積物(表層250m深以内)から過去1,000年間の高解像度の気候変動を復元し、さらに生態系モデルと併せて自然と人為起源の気候変動が生態系に与えた影響を評価。TEX86温度計に基づくと、小氷期と現在の温度差はおよそ2℃であったことが示された。また1950年頃以降、堆積物のラミナが発達しており、底層水の酸素濃度が低下したことで底性生物がいなくなったことが示唆される。モデルシミュレーションの結果、表層の栄養塩と温暖化が深層水の酸素濃度を大きく決定していることが示された。将来のさらなる温暖化で貧酸素水塊が大きく広がることが示唆される。

A potential loss of carbon associated with greater plant growth in the European Arctic
ヨーロッパの北極圏における植物の成長量の増加に伴う炭素放出の可能性
Iain P. Hartley, Mark H. Garnett, Martin Sommerkorn, David W. Hopkins, Benjamin J. Fletcher, Victoria L. Sloan, Gareth K. Phoenix & Philip A. Wookey
 急速な温暖化は北極圏の植物の生育を促進すると考えられる。モデル予測では植物によるCO2の取り込みが気候変動を緩和する働きを持つとされているが、植物による一次生産は土壌中の有機物分解も同時に促進するため、土壌からはCO2が放出されることとなる。
 スウェーデン北部においては植物による一次生産の強化が土壌中の古い有機物の分解を促進することが分かった。こうした応答はなぜツンドラと比べて森林の土壌炭素量が少ないのかを一部説明してくれるかもしれない。今後ツンドラへ森林が拡大することで土壌中のCO2はより多く大気へと放出され、気候変動を加速化させる可能性がある。

Hotspot of accelerated sea-level rise on the Atlantic coast of North America
北米の大西洋沿岸における加速的な海水準上昇のホットスポット
Asbury H. Sallenger, Kara S. Doran & Peter A. Howd
 海水準上昇は世界中の様々な地域で同様に起きるのではなく、地域性が大きい。それらは主に水温・塩分の変化に伴う海洋循環の変化(熱膨張および海面高度の変化)や地球の重力場の変化によってもたらされる。しかし地域的な海水準上昇の観測は不足しているのが現状である。
 アメリカ東海岸(Hatteras岬の北)は海水準上昇のホットスポットであり、近年になって海水準上昇速度が加速していることが分かった(世界平均の3〜4倍)。2100年までにニューヨーク周辺の海水準は「36 - 51 cm」ほど上昇すると予測されている。高潮や波の打ち上げ・砕破などの作用が海水準上昇とともに沿岸部の浸水のリスクを高め、湿地帯や砂浜を浸食すると考えられる。

2012年12月12日水曜日

気になった一文集(English ver. No. 6)

Yet its availability, or its distribution around the globe, may well change as the planet becomes warmer, more crowded and increasingly developed.

With rising pressures on extraction both from an expanding population and rising per-head consumption, groundwater depletion is spreading.

Crucially, water is difficult to transfer across catchment basins and aquifers: transporting worthwhile quantities of water usually requires large amounts of energy.


Nature Geoscience 編集部「Scarce resource」Dec 2012, pp. 835
地下水資源の減少を受けて

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But all indicators from the work suggest that the authors have uncovered one of the most miserable and deadly time periods the planet has ever seen.

Some accused the authors of being part of a conspiracy to create more fear about modern global warming. These commenters apparently missed the irony that a description of events 250 million years old with effectively no similarities with the present day would be poor propaganda indeed for modern climate discussions.


Nature Geoscience記事「Heat and death」Dec 2012, pp. 843
P/T境界における温暖化と大量絶滅を受けて

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"What happens in the Arctic doesn’t stay in the Arctic"

To understand the threat hidden within permafrost, it’s time for more scientists to get their boots dirty.

Sciencemag 「Ticking Arctic Carbon Bomb May Be Bigger Than Thought」7 Dec, 2012
ツンドラの融解と大規模な炭素放出の可能性について

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We have been making instrumental measurements for less than 0.1 millionth of Earth’s history; so in order to gain a better perspective on the rates and amplitudes of change, we need to look further back in the past using geologic records.

Palaeoceanography has the potential to underpin our understanding of how the Earth system works. 
pp. 5540:古気候・古海洋学をやる意義について

Publications should include the complete radiocarbon dataset, with the calibration curve used, the reservoir age and any other relevant metadata so that the ages and associated age model can be readily reassessed when further information as to the history of radiocarbon is acquired. The uncertainty should be fully quantified and include proper documentation of the reservoir ages.
pp. 5552 - 53:放射性炭素の年代を正しく論文に記述する必要性

…given that perfect archives of the past do not exist. Obviously, we must be more selective in our efforts, and choose the targets of our research wisely.
pp. 5554:古気候研究の戦略

Whatever happens, the mutual interactions between theory, modelling and palaeo-proxy data look set to continue to play a key role in future developments. 
pp. 5559:モデルと古気候研究

Robinson & Siddal, 2012, Philosophical Transactions (A)

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If you buy a set of chess figures carved from ivory, you can suspect that you have contributed to killing an elephant. But if you buy a sausage, you cannot know whether the pig that was turned into the sausage was fed soy meal sourced from a farm that had just expanded into elephant habitat.

2012 Editors' choice「REMOTE RESPONSIBILITY」Edgar Hertwich (Nature 486, 36-37; 2012)

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... since the IPCC started in 1988, climate science has grown into a wide, multidisciplinary field. The number of studies and their level of complexity have all increased by orders of magnitude, as a natural consequence of scientific progress.

Climate services have the task of preparing information on climate-related issues for local communities, regional policymakers, practitioners and the public, but that information will need to reflect the context of continuing global climate change.


Adapting the assessments」 (Nature Geoscience, Jan 2012) Thomas F. Stocker
IPCCの役割のこれまでと今後。

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Today we know that its adverse effects are not restricted to shell-forming organisms.

Even though many uncertainties about the impacts of ocean acidification on marine life remain, we now know enough to predict with reasonable confidence that significant changes in marine ecosystems and biodiversity will occur within our lifetimes, if the oceans continue to acidify at the current rate.


A steep learning curve」 (Nature Geoscience, Jan 2012) Ulf Riebesell
海洋酸性化研究の現状

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… the Intergovernmental Panel on Climate Change and the International Energy Agency have both warned that the next five years may be the last real chance to reverse climate change before it’s too late.

Lifting livestock’s long shadow」 (Nature Climate Change, Jan 2012, pp. 3)
気候変動緩和に向けて、カギになるのは今後5年間。

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新着論文(Ngeo#Dec2012)

Nature Geoscience
December 2012, Volume 5 No 12 pp835-917

Editorials
Scarce resource
少ない資源
利用できる淡水は多くの地域で変化しつつある。人間が利用できる陸上の水資源のほとんどは地下水の形で存在する。地下水は感染症などの被害に対して強いが、世界中の多くの地域で気候変動と過剰利用の結果、その資源量は減少している。また山岳氷河の水資源も減少しつつある地域がある。水は移動させるのに多くのエネルギーを要するため、バーチャルな水を輸送することは難しい。人間は適応するか、移動しなければならない。

Rare Earth scientists
珍しい地球科学者
地球科学を目指す若い科学者の数は十分でない。当該分野に対する情熱に火をつける必要がある。

Correspondence
Tree rings and volcanic cooling
木の年輪と火山噴火による寒冷化
Kevin J. Anchukaitis et al.
Mann et al. (2012, Ngeo)では気候モデルによる予測結果と木の年輪幅に基づいた過去800年間の気候復元とが必ずしも一致しない原因として、「火山噴火に伴う温度低下によって木の成長が阻害され、年輪の年代モデルが狂っている可能性」を指摘しているが、それらの知見は火山噴火によるフォーシングが北半球でも違う場所では違って現れることを見落としており、年代モデルの間違いに対する指摘にも証拠が欠けていることを指摘する。

Reply to 'Tree rings and volcanic cooling'
’木の年輪と火山噴火による寒冷化’に対する返答
Michael E. Mann, Jose D. Fuentes & Scott Rutherford
彼らの指摘は観察されている現象の説明にはならない。木の年輪幅に基づいた気候復元は大きなスケールでの気候変動を記録しているものの、火山噴火に伴う寒冷化などの短期的なイベントについてはプロキシそのものに問題があることを指摘する。

Hydroelectric carbon sequestration
水力発電の炭素貯留
Raquel Mendonça, Sarian Kosten, Sebastian Sobek, Nathan Barros, Jonathan J. Cole, Lars Tranvik & Fábio Roland
水力発電用のダムはメタンの重要な放出源となっており、温暖化にかなり寄与していると考えられているが、一方でダムの底に溜まる大量の有機物は大気のCO2の吸収源としても寄与している。

Commentary
Asia's water balance
アジアの水バランス
W. W. Immerzeel & M. F. P. Bierkens
アジアにおいては様々な要因が河川流域の水の利用性(現在+将来)を決定している。ホットスポットを特定し、適応へと導くためにも、これらの要因は流域スケールで同時に評価されなければならない。

Heat and death
熱と死
Mark Schrope
P/T境界後のSmithian危機では長く続く温暖化が大量絶滅後の生物種の多様性の回復を数百万年間も遅らせていた可能性が指摘されている。中国南部のコノドントのδ18Oから過去の温度を復元した研究(Sun et al., 2012, Science)では、ペルム紀末には熱帯域の海水温が40℃近く上昇していたことが分かっており、温暖化により海洋生物が多く死滅した可能性が高い。また陸上でも植物の種数が減少し、また小型化しており、石炭層が形成されている。海と陸の植物がいなくなったことで炭素吸収力が低下し、大気中にCO2が滞留したことでより温暖化が長引いた可能性がある。必ずしも現在の温暖化のアナログとはならないことに注意が必要。

Research Highlights
Unatmospheric dwarf
大気のない小惑星
Nature http://dx.doi.org/10.1038/ nature11597 (2012)
氷でできた小惑星”Makemake”は冥王星とErisの間を周回しているが、従来考えられていたようなはっきりとした大気を持っていないらしい。しかし局地的にはメタンや窒素などの大気が存在するらしい。

Nutrient-driven anoxia
栄養塩によって引き起こされる貧酸素
Paleoceanography http://doi.org/jsk (2012)
白亜紀の93.5MaにはOAE2には海洋表層の栄養塩利用の変化が貧酸素の状態を招いた可能性がモデルシミュレーションから指摘されている。温暖化そのものでは貧酸素を説明することができず、「温暖化による大陸風化の促進が河川を通じてより多くの栄養塩を海洋へと供給し、生物一次生産を増加させたことが有機物分解に伴う酸素消費を促進したこと」が原因と考えられる。さらに貧酸素によって堆積物からリン酸が溶出し、うまくリサイクルされていたらしい。

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Research
News and Views
A sea butterfly flaps its wings
海の蝶がその羽をバタバタ動かす
Justin B. Ries
海洋酸性化は海洋の殻を作る生物に害をなすと考えられている。海の蝶(翼足類)は北極海や南大洋に棲息する生態学的にも重要な軟体動物の一種であるが、すでに海洋酸性化の影響を被っているらしい。

A history of outbursts
アウトバーストの歴史
Patrick Lajeunesse
8.5kaのアガシ湖(氷河湖)の決壊は急激な気候変動を招いた。最終間氷期(MIS5)の堆積物記録はそうした氷河湖の決壊イベントは完新世だけに限らず、最終間氷期にも起きていたことを示している。

Rise in upper-atmospheric carbon
大気上層の二酸化炭素の上昇
Stefan Noël
大気上層の二酸化炭素は寒冷化の作用があるが、過去10年間でその濃度が上昇していることが分かり、大気上層のエネルギーバランスに影響していることが考えられる。

Complex water future
複雑な水の未来
Heike Langenberg
アフリカ南西部のOkavango川は海に流れ込むのではなく、湿地に流れ込んでいる。そこは生物を多く養うオアシスとして機能しており、重要な観光資源でもある。そこでの水収支は1年〜数十年の周期で変動しており、蒸発よりは降水によって支配されており、海-陸-大気の相互作用の結果と考えられている。変動が大きいため、人々の暮らしや生態系・観光資源を管理するためにも、飲料水の貯蔵などのより長期的な適応戦略が必要である。

The enigmatic 1,500-year cycle
不可解な1,500年周期
Raimund Muscheler
完新世の千年スケールが卓越した気候変動は太陽のフォーシングによって説明されているが、2つの気候復元(海氷ドリフトと北大西洋の嵐の頻度)からこのリンクに対して疑問が投げかけられている。

Reviews
Regional strategies for the accelerating global problem of groundwater depletion
加速的に増加する全球的な地下水の減少問題に対する地域的な戦略
Werner Aeschbach-Hertig & Tom Gleeson
世界で最も大きな淡水資源は地下水である。地下水資源減少の問題をレビューしたところ、問題そのものは全球的だが、解決策は集水域スケールの極めて地域的なものであることが分かった。

Letters
Observations of increasing carbon dioxide concentration in Earth’s thermosphere
地球の熱圏における二酸化炭素濃度上昇の観測
J. T. Emmert, M. H. Stevens, P. F. Bernath, D. P. Drob & C. D. Boone
 地表から50km上層においてはCO2は放射的に寒冷化の効果を持っている。大気上層が冷却し収縮することで地球軌道を周回するスペースデブリの軌道が不安定化することが予想される。しかしながら、我々の理解は地表から35kmほどまでに限定されており、理解は不足している。
 人工衛星からCO2とCOの混合比を求めたところ、全球的なCOxの濃度は101kmの高度で10年間に23.5 ± 6.3 ppmの上昇率で増加していることが分かった。

Wind-driven trends in Antarctic sea-ice drift
風によって駆動される南極の海氷漂流の傾向
Paul R. Holland & Ron Kwok
 北極海とは対照的に、南極周辺の海氷範囲は過去数十年間でわずかに拡大している。地域的には異なるが総括すると拡大しており、その変化は気温・風応力・降水・海水温・大気海洋のフィードバックなどによって説明されてきた。しかしモデルシミュレーションでは海氷の拡大を再現できていないという問題がある。
 1992-2010年にわたって人工衛星で海氷の移動を追跡したところ、南極の海氷の漂流は主に地域的な風によって支配されていることが分かった。特に西南極では風による氷の移流が、その他の地域では風による熱力学的な変化が、海氷の移動を駆動していることが分かった。さらに海氷の漂流は渦の形成や熱塩のフラックスにも変化をもたらしていることが示唆される。

Persistent inflow of warm water onto the central Amundsen shelf
Amunden大陸棚中央部に定常的に流れ込む暖水
L. Arneborg, A. K. Wåhlin, G. Björk, B. Liljebladh & A. H. Orsi
 西南極の棚氷は海水面よりも下で地面に接しているために温暖化に対して不安定であると考えられており、それが融解することで海水準を数メートル上昇させる可能性を秘めている。Amunden海に流入する海氷の厚さは加速的に減少しており、棚氷の下から暖水がもたらされている可能性が示唆されているものの、海洋学的なデータは不足している。
 係留測器と船舶による観測によって2010年の海水温・塩分・海流を求めたところ、1年を通して暖かく塩分濃度の高い水が下部からもたらされていることが示された。モデルシミュレーションの予測結果に反して、暖水供給の季節性はほとんどないことが分かった。

Extensive dissolution of live pteropods in the Southern Ocean
南大洋の生きた翼足類の大規模な溶解
N. Bednaršek, G. A. Tarling, D. C. E. Bakker, S. Fielding, E. M. Jones, H. J. Venables, P. Ward, A. Kuzirian, B. Lézé, R. A. Feely & E. J. Murphy
 海洋酸性化によって海洋表層の炭酸系が急速に変化している。2050年までに南大洋の表層水はアラゴナイトに関して不飽和になると考えられている。極域の表層水中にはアラゴナイトの殻を形成する生物種がコミュニティーを成しており、生態系の基盤を支えているが、アラゴナイトの不飽和がそうした生態系に悪影響をもたらすと考えられている。
 南大洋に棲息する翼足類(Limacina helicina antarctica)を湧昇が卓越する飽和度がほとんど1の海域とそうでない海域とで採取し殻の構造を比較したところ、前者は破壊的に溶解していることが分かった。また8日間にわたって飽和度が0.94 - 1.12の海水に生きた翼足類を暴露したところ、同等の溶解が見られた。従って、海洋酸性化によって溶解は既に進行しており、その範囲は拡大しつつあることが示唆される。

Significant silicon accumulation by marine picocyanobacteria
海洋のピコ・シアノバクテリアによる有意なケイ素の取り込み
Stephen B. Baines, Benjamin S. Twining, Mark A. Brzezinski, Jeffrey W. Krause, Stefan Vogt, Dylan Assael & Hannah McDaniel
 海洋のケイ素(Si)循環は炭素循環とも密接に関連している。冷たく栄養塩に富んだ海水における珪藻のブルーミングは深層へのケイ素(及び栄養塩+炭素)輸送に寄与していると考えられている。海洋表層水は一般にケイ酸の濃度が低下しているが、それは生物が溶存態のケイ素(ケイ酸)を固体状態(生物源シリカ)で深層へと輸送していることが原因と考えられる。
 東赤道太平洋とサルガッソ海から得られたシアノバクテリアに対してシンクロトロンXRFを用いて元素組成を分析したところ、ピコ・シアノバクテリア(Synechococcus)がかなりの量のケイ素を蓄積してることが分かった。場合によっては珪藻のケイ素量も凌いでおり、さらに飼育実験によってもケイ素の蓄積が確認されている。ピコ・シアノバクテリアによるケイ素循環への寄与は特に栄養塩が乏しい海域において見落とされている可能性がある。

Persistent non-solar forcing of Holocene storm dynamics in coastal sedimentary archives
沿岸部の堆積物から明らかになる繰り返し起こる太陽フォーシング起源でない完新世の嵐の力学
Philippe Sorrel, Maxime Debret, Isabelle Billeaud, Samuel L. Jaccard, Jerry F. McManus & Bernadette Tessier
 完新世においては数十年〜数千年の時間スケールでの気候変動があったことが知られている。そうした気候変動は’1,500年’の周期を持った北大西洋の寒冷化と関連していると言われているが、2,500-1,000年のサイクルの集合体であるとする証拠が蓄積しつつある。
 イギリス海峡における沿岸性の堆積物記録から過去6.5kaにおける嵐の頻度を復元したところ、5つの期間に増加が確認された。その周期は1,500年の周期性を持っており、北大西洋の気候変動とも一致しているが、太陽の変動周期とは位相が一致していないことが分かった。

1,500-year cycle in the Arctic Oscillation identified in Holocene Arctic sea-ice drift
完新世の北極の海氷ドリフトから明らかになる1,500年周期の北極振動
Dennis A. Darby, Joseph D. Ortiz, Chester E. Grosch & Steven P. Lund
北極の気象および気候は北極振動によって強く支配されている。北極振動は数年〜数千年の時間スケールで変動していることが知られているが、過去の北極振動の復元結果は時折食い違うことがある。
 Alaska沖から得られた堆積物中の氷河性砕屑物(IRD)の過去8kaにわたる記録から、北極振動が正のときにKara海を起源とする海氷がAlaska沖まで到達していることが分かった。それに基づいて過去の北極振動を復元したところ、北大西洋のIRDにも顕著に見られる1,500年周期が見つかった。この1,500年周期の変動は「気候システムの内部振動」か「太陽放射の低緯度域へのフォーシングに対する間接的な応答」の結果と考えられる。

A Laurentide outburst flooding event during the last interglacial period
最終間氷期におけるローレンタイド氷床の洪水アウトバースト・イベント
Joseph A. L. Nicholl, David A. Hodell, B. David A. Naafs, Claude Hillaire-Marcel, James E. T. Channell & Oscar E. Romero
 氷期-間氷期サイクルにおいて、Labrador海ではローレンタイド氷床の不安定化に伴って氷山のアウトバースト(IRDの運搬を伴う)が起きていたことが知られ、そうしたイベントはハインリッヒ・イベント(Heinrich event)と呼ばれる。
 最終間氷期(MIS5)初期のHudson湾の赤い堆積物記録には一部炭酸塩の層が含まれるが、バイオマーカー・Ca/Sr比・δ18Oの分析から、そうした堆積層はハドソン海峡を起源とする氷山のアウトバーストが原因であり、8.5kaのアガシ湖の決壊と類似したイベントであることが分かった。第四紀を通して間氷期の初期にはそうしたローレンタイド氷床の不安定化が一般的であったことが示唆される。

Articles
Importance of density-compensated temperature change for deep North Atlantic Ocean heat uptake
北大西洋の深層水の熱の取り込みにおける密度で補償される温度変化の重要性
C. Mauritzen, A. Melsom & R. T. Sutton
海洋による熱の取り込みは温暖化の速度を大きく決定している。北大西洋の深層水の熱の取り込みの観測結果は、密度によって補償される温度偏差が熱の取り込みプロセスにおいて重要であり、亜寒帯渦の高塩分に依存していることを示している。