Nature Climate Change
Volume 2 Number 12 (December 2012)
Research Highlights
Heat distribution
熱の分布
J.Clim. http://doi.org/jqb (2012)
温暖化によって海流も変化すると考えられる。海洋は熱容量が大きく、さらに炭素を吸収するため温暖化を抑制する効果がある。モデルシミュレーションによって海洋循環の変化がある場合とない場合とで比較を行ったところ、熱の吸収により大きな影響が現れることが示された。海洋循環が変化することで温度上昇が全球に分配され、極域の温暖化が軽減される一方で、熱帯域の温暖化が促進されるらしい。
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Research
News and Views
Shifts in fishing grounds
漁業基盤のシフト
Bonnie J. McCay
漁業の分野では気候変動に対する適応が急速に起きている。それは複雑なプロセスであり、魚の個体数に対する影響を緩和することも、悪化させることもあり得る。
Squeezing the Arctic carbon balloon
北極の炭素の風船を絞る
Evan S. Kane
北極圏のツンドラに木が拡大することで陸上の炭素貯蔵域が増加するが、植物の生育が活発になるほど、土壌中の有機物分解も促進されるため、生態系全体としては炭素が失われることが示唆されている。
Review
Aquatic biochronologies and climate change
水圏の生物時計と気候変動
John R. Morrongiello, Ronald E. Thresher & David C. Smith
将来気候変動が生態系に影響を与えることが予測されているが、長期的な気候変動の記録は陸域ではふんだんに生物(特に木)に記録されているものの、水圏にはあまり記録がない。魚の硬骨格や軟体動物、サンゴ骨格などの記録の、長期的な生態系の指標としての可能性をレビューする。
Letters
Parental environment mediates impacts of increased carbon dioxide on a coral reef fish
サンゴ礁の魚に対しては親の環境が上昇する二酸化炭素の影響を緩和する
Gabrielle M. Miller, Sue-Ann Watson, Jennifer M. Donelson, Mark I. McCormick & Philip L. Munday
二酸化炭素濃度の上昇は多くの海洋生物の生理学的なプロセスに悪影響をもたらすと考えられている。しかし数世代にわたって環境の変化に生物がどのように適応できるかどうかについてはよく分かっていない。
今世紀末に訪れるかもしれない状態(CO2濃度1,000ppm, 1.5-3.0℃上昇)では魚の代謝率・体長・重量・生存率などが減少することが分かった。しかし、温暖化と海洋酸性化とを親の魚が経験していた場合、そこから産まれる子供は温暖化と海洋酸性化の影響を被らないか、逆に打ち消す効果があるらしい。従って、ある種の魚は従来考えられていたよりも環境変化に適応できる可能性がある。
Orbital forcing of tree-ring data
木の年輪データに対する軌道フォーシング
Jan Esper, David C. Frank, Mauri Timonen, Eduardo Zorita, Rob J. S. Wilson, Jürg Luterbacher, Steffen Holzkämper, Nils Fischer, Sebastian Wagner, Daniel Nievergelt, Anne Verstege & Ulf Büntgen
完新世においては太陽のフォーシングが気候を大きく左右していたことが知られているが、特に1750年以降の太陽フォーシングは人為起源のフォーシングと比較しても4倍ほど大きい。
スカンジナビア北部の木の秋材の密度に基づいた研究は、木の年輪幅に基づいた従来の研究は中世の気候温暖期などを含む産業革命以前の気温を低く見積もっている可能性を指摘している。それはここ2,000年間(common era)の軌道フォーシングの低下を見積もれていないことが原因と考えられる。
Long-term sea-level rise implied by 1.5 °C and 2 °C warming levels
1.5℃と2.0℃の温暖化レベルから暗示される長期的な海水準上昇
Michiel Schaeffer, William Hare, Stefan Rahmstorf & Martin Vermeer
海水準上昇は重要かつ不確かな気候変動の一つである。カンクン同意で得られた「温度上昇を産業革命以前に比べて1.5-2.0℃以内に抑える」というシナリオに基づいてモデルシミュレーションを行ったところ、2100年までに「75 - 80 cm」海水準が上昇することが示された。さらに2300年までには「1.5 - 2.7 m」と上昇率が温暖化予測の間で大きく異なることも分かった。海水準上昇を最低限に抑えるにはCO2を大気から取り除くための技術(バイオ燃料とCCSなど)をただちに開始しなければならない。
Impact of climate change on the Baltic Sea ecosystem over the past 1,000 years
過去1,000年間の気候変動がバルト海の生態系に与えた影響
Karoline Kabel, Matthias Moros, Christian Porsche, Thomas Neumann, Florian Adolphi, Thorbjørn Joest Andersen, Herbert Siegel, Monika Gerth, Thomas Leipe, Eystein Jansen & Jaap S. Sinninghe Damsté
バルト海から得られた堆積物(表層250m深以内)から過去1,000年間の高解像度の気候変動を復元し、さらに生態系モデルと併せて自然と人為起源の気候変動が生態系に与えた影響を評価。TEX86温度計に基づくと、小氷期と現在の温度差はおよそ2℃であったことが示された。また1950年頃以降、堆積物のラミナが発達しており、底層水の酸素濃度が低下したことで底性生物がいなくなったことが示唆される。モデルシミュレーションの結果、表層の栄養塩と温暖化が深層水の酸素濃度を大きく決定していることが示された。将来のさらなる温暖化で貧酸素水塊が大きく広がることが示唆される。
A potential loss of carbon associated with greater plant growth in the European Arctic
ヨーロッパの北極圏における植物の成長量の増加に伴う炭素放出の可能性
Iain P. Hartley, Mark H. Garnett, Martin Sommerkorn, David W. Hopkins, Benjamin J. Fletcher, Victoria L. Sloan, Gareth K. Phoenix & Philip A. Wookey
急速な温暖化は北極圏の植物の生育を促進すると考えられる。モデル予測では植物によるCO2の取り込みが気候変動を緩和する働きを持つとされているが、植物による一次生産は土壌中の有機物分解も同時に促進するため、土壌からはCO2が放出されることとなる。
スウェーデン北部においては植物による一次生産の強化が土壌中の古い有機物の分解を促進することが分かった。こうした応答はなぜツンドラと比べて森林の土壌炭素量が少ないのかを一部説明してくれるかもしれない。今後ツンドラへ森林が拡大することで土壌中のCO2はより多く大気へと放出され、気候変動を加速化させる可能性がある。
Hotspot of accelerated sea-level rise on the Atlantic coast of North America
北米の大西洋沿岸における加速的な海水準上昇のホットスポット
Asbury H. Sallenger, Kara S. Doran & Peter A. Howd
海水準上昇は世界中の様々な地域で同様に起きるのではなく、地域性が大きい。それらは主に水温・塩分の変化に伴う海洋循環の変化(熱膨張および海面高度の変化)や地球の重力場の変化によってもたらされる。しかし地域的な海水準上昇の観測は不足しているのが現状である。
アメリカ東海岸(Hatteras岬の北)は海水準上昇のホットスポットであり、近年になって海水準上昇速度が加速していることが分かった(世界平均の3〜4倍)。2100年までにニューヨーク周辺の海水準は「36 - 51 cm」ほど上昇すると予測されている。高潮や波の打ち上げ・砕破などの作用が海水準上昇とともに沿岸部の浸水のリスクを高め、湿地帯や砂浜を浸食すると考えられる。