Nature Geoscience
December 2012, Volume 5 No 12 pp835-917
Editorials
Scarce resource
少ない資源
利用できる淡水は多くの地域で変化しつつある。人間が利用できる陸上の水資源のほとんどは地下水の形で存在する。地下水は感染症などの被害に対して強いが、世界中の多くの地域で気候変動と過剰利用の結果、その資源量は減少している。また山岳氷河の水資源も減少しつつある地域がある。水は移動させるのに多くのエネルギーを要するため、バーチャルな水を輸送することは難しい。人間は適応するか、移動しなければならない。
Rare Earth scientists
珍しい地球科学者
地球科学を目指す若い科学者の数は十分でない。当該分野に対する情熱に火をつける必要がある。
Correspondence
Tree rings and volcanic cooling
木の年輪と火山噴火による寒冷化
Kevin J. Anchukaitis et al.
Mann et al. (2012, Ngeo)では気候モデルによる予測結果と木の年輪幅に基づいた過去800年間の気候復元とが必ずしも一致しない原因として、「火山噴火に伴う温度低下によって木の成長が阻害され、年輪の年代モデルが狂っている可能性」を指摘しているが、それらの知見は火山噴火によるフォーシングが北半球でも違う場所では違って現れることを見落としており、年代モデルの間違いに対する指摘にも証拠が欠けていることを指摘する。
Reply to 'Tree rings and volcanic cooling'
’木の年輪と火山噴火による寒冷化’に対する返答
Michael E. Mann, Jose D. Fuentes & Scott Rutherford
彼らの指摘は観察されている現象の説明にはならない。木の年輪幅に基づいた気候復元は大きなスケールでの気候変動を記録しているものの、火山噴火に伴う寒冷化などの短期的なイベントについてはプロキシそのものに問題があることを指摘する。
Hydroelectric carbon sequestration
水力発電の炭素貯留
Raquel Mendonça, Sarian Kosten, Sebastian Sobek, Nathan Barros, Jonathan J. Cole, Lars Tranvik & Fábio Roland
水力発電用のダムはメタンの重要な放出源となっており、温暖化にかなり寄与していると考えられているが、一方でダムの底に溜まる大量の有機物は大気のCO2の吸収源としても寄与している。
Commentary
Asia's water balance
アジアの水バランス
W. W. Immerzeel & M. F. P. Bierkens
アジアにおいては様々な要因が河川流域の水の利用性(現在+将来)を決定している。ホットスポットを特定し、適応へと導くためにも、これらの要因は流域スケールで同時に評価されなければならない。
Heat and death
熱と死
Mark Schrope
P/T境界後のSmithian危機では長く続く温暖化が大量絶滅後の生物種の多様性の回復を数百万年間も遅らせていた可能性が指摘されている。中国南部のコノドントのδ18Oから過去の温度を復元した研究(Sun et al., 2012, Science)では、ペルム紀末には熱帯域の海水温が40℃近く上昇していたことが分かっており、温暖化により海洋生物が多く死滅した可能性が高い。また陸上でも植物の種数が減少し、また小型化しており、石炭層が形成されている。海と陸の植物がいなくなったことで炭素吸収力が低下し、大気中にCO2が滞留したことでより温暖化が長引いた可能性がある。必ずしも現在の温暖化のアナログとはならないことに注意が必要。
Research Highlights
Unatmospheric dwarf
大気のない小惑星
Nature http://dx.doi.org/10.1038/ nature11597 (2012)
氷でできた小惑星”Makemake”は冥王星とErisの間を周回しているが、従来考えられていたようなはっきりとした大気を持っていないらしい。しかし局地的にはメタンや窒素などの大気が存在するらしい。
Nutrient-driven anoxia
栄養塩によって引き起こされる貧酸素
Paleoceanography http://doi.org/jsk (2012)
白亜紀の93.5MaにはOAE2には海洋表層の栄養塩利用の変化が貧酸素の状態を招いた可能性がモデルシミュレーションから指摘されている。温暖化そのものでは貧酸素を説明することができず、「温暖化による大陸風化の促進が河川を通じてより多くの栄養塩を海洋へと供給し、生物一次生産を増加させたことが有機物分解に伴う酸素消費を促進したこと」が原因と考えられる。さらに貧酸素によって堆積物からリン酸が溶出し、うまくリサイクルされていたらしい。
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Research
News and Views
A sea butterfly flaps its wings
海の蝶がその羽をバタバタ動かす
Justin B. Ries
海洋酸性化は海洋の殻を作る生物に害をなすと考えられている。海の蝶(翼足類)は北極海や南大洋に棲息する生態学的にも重要な軟体動物の一種であるが、すでに海洋酸性化の影響を被っているらしい。
A history of outbursts
アウトバーストの歴史
Patrick Lajeunesse
8.5kaのアガシ湖(氷河湖)の決壊は急激な気候変動を招いた。最終間氷期(MIS5)の堆積物記録はそうした氷河湖の決壊イベントは完新世だけに限らず、最終間氷期にも起きていたことを示している。
Rise in upper-atmospheric carbon
大気上層の二酸化炭素の上昇
Stefan Noël
大気上層の二酸化炭素は寒冷化の作用があるが、過去10年間でその濃度が上昇していることが分かり、大気上層のエネルギーバランスに影響していることが考えられる。
Complex water future
複雑な水の未来
Heike Langenberg
アフリカ南西部のOkavango川は海に流れ込むのではなく、湿地に流れ込んでいる。そこは生物を多く養うオアシスとして機能しており、重要な観光資源でもある。そこでの水収支は1年〜数十年の周期で変動しており、蒸発よりは降水によって支配されており、海-陸-大気の相互作用の結果と考えられている。変動が大きいため、人々の暮らしや生態系・観光資源を管理するためにも、飲料水の貯蔵などのより長期的な適応戦略が必要である。
The enigmatic 1,500-year cycle
不可解な1,500年周期
Raimund Muscheler
完新世の千年スケールが卓越した気候変動は太陽のフォーシングによって説明されているが、2つの気候復元(海氷ドリフトと北大西洋の嵐の頻度)からこのリンクに対して疑問が投げかけられている。
Reviews
Regional strategies for the accelerating global problem of groundwater depletion
加速的に増加する全球的な地下水の減少問題に対する地域的な戦略
Werner Aeschbach-Hertig & Tom Gleeson
世界で最も大きな淡水資源は地下水である。地下水資源減少の問題をレビューしたところ、問題そのものは全球的だが、解決策は集水域スケールの極めて地域的なものであることが分かった。
Letters
Observations of increasing carbon dioxide concentration in Earth’s thermosphere
地球の熱圏における二酸化炭素濃度上昇の観測
J. T. Emmert, M. H. Stevens, P. F. Bernath, D. P. Drob & C. D. Boone
地表から50km上層においてはCO2は放射的に寒冷化の効果を持っている。大気上層が冷却し収縮することで地球軌道を周回するスペースデブリの軌道が不安定化することが予想される。しかしながら、我々の理解は地表から35kmほどまでに限定されており、理解は不足している。
人工衛星からCO2とCOの混合比を求めたところ、全球的なCOxの濃度は101kmの高度で10年間に23.5 ± 6.3 ppmの上昇率で増加していることが分かった。
Wind-driven trends in Antarctic sea-ice drift
風によって駆動される南極の海氷漂流の傾向
Paul R. Holland & Ron Kwok
北極海とは対照的に、南極周辺の海氷範囲は過去数十年間でわずかに拡大している。地域的には異なるが総括すると拡大しており、その変化は気温・風応力・降水・海水温・大気海洋のフィードバックなどによって説明されてきた。しかしモデルシミュレーションでは海氷の拡大を再現できていないという問題がある。
1992-2010年にわたって人工衛星で海氷の移動を追跡したところ、南極の海氷の漂流は主に地域的な風によって支配されていることが分かった。特に西南極では風による氷の移流が、その他の地域では風による熱力学的な変化が、海氷の移動を駆動していることが分かった。さらに海氷の漂流は渦の形成や熱塩のフラックスにも変化をもたらしていることが示唆される。
Persistent inflow of warm water onto the central Amundsen shelf
Amunden大陸棚中央部に定常的に流れ込む暖水
L. Arneborg, A. K. Wåhlin, G. Björk, B. Liljebladh & A. H. Orsi
西南極の棚氷は海水面よりも下で地面に接しているために温暖化に対して不安定であると考えられており、それが融解することで海水準を数メートル上昇させる可能性を秘めている。Amunden海に流入する海氷の厚さは加速的に減少しており、棚氷の下から暖水がもたらされている可能性が示唆されているものの、海洋学的なデータは不足している。
係留測器と船舶による観測によって2010年の海水温・塩分・海流を求めたところ、1年を通して暖かく塩分濃度の高い水が下部からもたらされていることが示された。モデルシミュレーションの予測結果に反して、暖水供給の季節性はほとんどないことが分かった。
Extensive dissolution of live pteropods in the Southern Ocean
南大洋の生きた翼足類の大規模な溶解
N. Bednaršek, G. A. Tarling, D. C. E. Bakker, S. Fielding, E. M. Jones, H. J. Venables, P. Ward, A. Kuzirian, B. Lézé, R. A. Feely & E. J. Murphy
海洋酸性化によって海洋表層の炭酸系が急速に変化している。2050年までに南大洋の表層水はアラゴナイトに関して不飽和になると考えられている。極域の表層水中にはアラゴナイトの殻を形成する生物種がコミュニティーを成しており、生態系の基盤を支えているが、アラゴナイトの不飽和がそうした生態系に悪影響をもたらすと考えられている。
南大洋に棲息する翼足類(Limacina helicina antarctica)を湧昇が卓越する飽和度がほとんど1の海域とそうでない海域とで採取し殻の構造を比較したところ、前者は破壊的に溶解していることが分かった。また8日間にわたって飽和度が0.94 - 1.12の海水に生きた翼足類を暴露したところ、同等の溶解が見られた。従って、海洋酸性化によって溶解は既に進行しており、その範囲は拡大しつつあることが示唆される。
Significant silicon accumulation by marine picocyanobacteria
海洋のピコ・シアノバクテリアによる有意なケイ素の取り込み
Stephen B. Baines, Benjamin S. Twining, Mark A. Brzezinski, Jeffrey W. Krause, Stefan Vogt, Dylan Assael & Hannah McDaniel
海洋のケイ素(Si)循環は炭素循環とも密接に関連している。冷たく栄養塩に富んだ海水における珪藻のブルーミングは深層へのケイ素(及び栄養塩+炭素)輸送に寄与していると考えられている。海洋表層水は一般にケイ酸の濃度が低下しているが、それは生物が溶存態のケイ素(ケイ酸)を固体状態(生物源シリカ)で深層へと輸送していることが原因と考えられる。
東赤道太平洋とサルガッソ海から得られたシアノバクテリアに対してシンクロトロンXRFを用いて元素組成を分析したところ、ピコ・シアノバクテリア(Synechococcus)がかなりの量のケイ素を蓄積してることが分かった。場合によっては珪藻のケイ素量も凌いでおり、さらに飼育実験によってもケイ素の蓄積が確認されている。ピコ・シアノバクテリアによるケイ素循環への寄与は特に栄養塩が乏しい海域において見落とされている可能性がある。
Persistent non-solar forcing of Holocene storm dynamics in coastal sedimentary archives
沿岸部の堆積物から明らかになる繰り返し起こる太陽フォーシング起源でない完新世の嵐の力学
Philippe Sorrel, Maxime Debret, Isabelle Billeaud, Samuel L. Jaccard, Jerry F. McManus & Bernadette Tessier
完新世においては数十年〜数千年の時間スケールでの気候変動があったことが知られている。そうした気候変動は’1,500年’の周期を持った北大西洋の寒冷化と関連していると言われているが、2,500-1,000年のサイクルの集合体であるとする証拠が蓄積しつつある。
イギリス海峡における沿岸性の堆積物記録から過去6.5kaにおける嵐の頻度を復元したところ、5つの期間に増加が確認された。その周期は1,500年の周期性を持っており、北大西洋の気候変動とも一致しているが、太陽の変動周期とは位相が一致していないことが分かった。
1,500-year cycle in the Arctic Oscillation identified in Holocene Arctic sea-ice drift
完新世の北極の海氷ドリフトから明らかになる1,500年周期の北極振動
Dennis A. Darby, Joseph D. Ortiz, Chester E. Grosch & Steven P. Lund
北極の気象および気候は北極振動によって強く支配されている。北極振動は数年〜数千年の時間スケールで変動していることが知られているが、過去の北極振動の復元結果は時折食い違うことがある。
Alaska沖から得られた堆積物中の氷河性砕屑物(IRD)の過去8kaにわたる記録から、北極振動が正のときにKara海を起源とする海氷がAlaska沖まで到達していることが分かった。それに基づいて過去の北極振動を復元したところ、北大西洋のIRDにも顕著に見られる1,500年周期が見つかった。この1,500年周期の変動は「気候システムの内部振動」か「太陽放射の低緯度域へのフォーシングに対する間接的な応答」の結果と考えられる。
A Laurentide outburst flooding event during the last interglacial period
最終間氷期におけるローレンタイド氷床の洪水アウトバースト・イベント
Joseph A. L. Nicholl, David A. Hodell, B. David A. Naafs, Claude Hillaire-Marcel, James E. T. Channell & Oscar E. Romero
氷期-間氷期サイクルにおいて、Labrador海ではローレンタイド氷床の不安定化に伴って氷山のアウトバースト(IRDの運搬を伴う)が起きていたことが知られ、そうしたイベントはハインリッヒ・イベント(Heinrich event)と呼ばれる。
最終間氷期(MIS5)初期のHudson湾の赤い堆積物記録には一部炭酸塩の層が含まれるが、バイオマーカー・Ca/Sr比・δ18Oの分析から、そうした堆積層はハドソン海峡を起源とする氷山のアウトバーストが原因であり、8.5kaのアガシ湖の決壊と類似したイベントであることが分かった。第四紀を通して間氷期の初期にはそうしたローレンタイド氷床の不安定化が一般的であったことが示唆される。
Articles
Importance of density-compensated temperature change for deep North Atlantic Ocean heat uptake
北大西洋の深層水の熱の取り込みにおける密度で補償される温度変化の重要性
C. Mauritzen, A. Melsom & R. T. Sutton
海洋による熱の取り込みは温暖化の速度を大きく決定している。北大西洋の深層水の熱の取り込みの観測結果は、密度によって補償される温度偏差が熱の取り込みプロセスにおいて重要であり、亜寒帯渦の高塩分に依存していることを示している。