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2012年12月29日土曜日

「CO2と温暖化の正体」(ウォレス・S・ブロッカー&ロバート・クンジグ、2009年)

邦題:CO2と温暖化の正体
原題:FIXING CLIMATE 〜WHAT PAST CLIMATE CHANGE REVEAL THE CURRENT THREAT- AND HOW TO COUNTER IT〜
ウォレス・S・ブロッカー/ロバート・クンジグ 著
内田昌男 監訳/東郷えりか 訳
河出書房新社
2009年9月初版(¥2,400-)

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地球化学の巨人・Wallace Broeckerと科学ジャーナリストの共著による、「温暖化問題に対する危機感の喚起」と、「それに対抗し得る科学的な手段の提示」という体の本。


前半部はBroeckerの生い立ちや、周辺の科学者(学会の著名人だらけ)との関わりが生き生きと描かれる。

シカゴ生まれの彼はもとは地質学を目指していたわけではなかったが、妙な縁から始まった「放射性炭素年代測定」が彼を地球化学の魅力へと引きずり込み、現在の地位を築くに至った。
彼なしではいまの地球科学の進展はなかったように思われる。
80歳となった今でも彼は未だに現役で、論文も筆頭著者で年に1本以上は書くほどの聡明さである。



途中から話は「古気候」と「気候と二酸化炭素との関わり」にシフトしてゆく。
彼が有名となった所謂「ブロッカーのコンベヤー・ベルト」と呼ばれる深層水循環の概念図から、過去に起きた急激な気候変動と現在の大気中CO2濃度の異常性まで、幅広く触れられる。

PETMの原因は火山性ガスと記述されているが、最新の知見ではメタンハイドレートの崩壊とする説が有力視されている。



気候にとって重要なのは地表面積でも7割を占める「」。



なぜなら海の貯蔵する炭素量は大気のそれに比べて数十倍と大きく、海がほんの少し変化するだけで大気中のCO2濃度を劇的に変えるためである。
現在では氷期・間氷期の気候変動は、所謂ミランコビッチ周期だけでなく、大気中のCO2濃度もまた一躍買っていると考えられている。


後半部では現実にCO2を大気から海または地下に貯留するにはどうすればよいのかの具体例が挙げられる。

特に述べられているのが、玄武岩・かんらん岩・蛇紋岩などの風化を利用した、CO2の固定である。
ウィルソン・サイクルとして知られる自然のCO2安定化作用を人工的に作り出すわけである。CO2をHCO3-に変換すれば生物にも無害だと述べているが、一部の海洋石灰化生物はHCO3-による施肥効果が確認されているため、そう言い切るのは早計かもしれない。

もう一つは、大気中のCO2の直接捕獲である。
彼が主張するようにどの地球工学よりも無害で、しかもあらゆる場所に設置することができる。
問題は費用と捕獲したCO2をどこに保管するかの選択。
深海や地下の圧力を利用することでわりと安定した流体にCO2を変えるか、或いは完全に固体の炭酸塩の形へと変えてしまうことで、半永久的に固定できると主張する。



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僕自身は炭素循環を中心に勉強しているところであり、地球工学はそれほど馴染みはないが、最後にここ1年くらいで聞き知った事実をもとに僕の意見も交えてみようと思う。


さまざまな地球工学の手段が提案されている昨今において、環境保護論者などの反対をほとんど受けずに一定の成功を納めているのは

「大気捕獲(Capturing CO2 from air; Geoengineering: The good, the MAD, and the sensible)」

「地下への炭素捕獲・貯留(CCS)」

だけだと個人的には認識している。

Broeckerも指摘するように、地下は感覚的に安心感を助長するのかもしれない。また石油が掘られる地層は何百万年もの間安定に石油を貯蔵し続けた有望な保管庫であるという説明にも納得がいく。

深海への投棄や成層圏にエアロゾル(または水蒸気)を注入する手段は一般に同意を得るのが難しいようである(A charter for geoengineering)。
Broeckerが指摘するように、せめて深海は手つかずのまま残したいという心理の現れかもしれない。
成層圏へのエアロゾル注入も現実に行われたものはなく、モデルシミュレーションを通して行われている。中には安全に地球全体を冷やすことが可能であると指摘するものもある(Management of trade-offs in geoengineering through optimal choice of non-uniform radiative forcing)。

生物ポンプを利用した所謂’鉄肥沃’も効果があることが先日国際研究チームによってNatureにて公表され話題を呼んだ(Deep carbon export from a Southern Ocean iron-fertilized diatom bloom)。
しかし一方でカナダ沖で企業主体で行われた鉄肥沃が国際問題として取沙汰された(Ocean-fertilization project off Canada sparks furore; これは元々はサケの漁獲量を上げるための試みだったわけだが)。

またサンゴの石灰化メカニズムを利用して人工的にCO2を炭酸塩へと作り替える工学的な手法も提示された(Save Pave the World)。この方法も今後の進展が待たれる。


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大気中CO2濃度の上昇率が留まることを知らず(The challenge to keep global warming below 2 °C)、京都議定書の削減目標も効力を失ったいま(The heat is on)、真剣に地球工学の手段を実行へと移す時が来ているのかもしれない。

ただし、本書の中で述べられているように、「気候がダイヤル一つでコントロールできるわけではなく」、もしやるとしても手段によってはかなりの覚悟で臨まなければならないことを述べておく。

人類はまさに地球史上、類を見ない速度で大気中のCO2濃度を上昇させているのであり、その結果はコンピュータで一部予測することはできても、正確には誰にも分からない
過去にそのアナログとなる時代は存在しないのである。