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2012年6月8日金曜日

全球の海洋表層水のpCO2のここ20年間の傾向〜大規模データベースからの計算〜

The observed evolution of oceanic pCO2 and its drivers over the last two decades
Lenton, A., N. Metzl, T. Takahashi, M. Kuchinke, R. J. Matear, T. Roy, S. C. Sutherland, C. Sweeney, and B. Tilbrook
Global Biogeochem. Cycles, 26, GB2021, doi:10.1029/2011GB004095.


より。海洋表層のpCO2のデータベースの1つである、LDEO_v2009をもとに、全球の各海域におけるpCO2のここ20年の変化の傾向を計算。


海洋は基本的には人為起源のCO2放出の吸収源(シンク)として機能している。
有名なSabine et al. (2004, science)では30%が海洋によって吸収されたと見積もられている。

当時のデータでは特に南大洋周辺の南半球のデータが大幅に不足しており、これらの海域の見積もりは大きな不確実性を持っていた。

LDEO_v2009のデータベースはこれまでの海洋観測で得られたpCO2を集めた大規模なデータベースになっている(既にv2010が公開されており、1957年から2010年にかけての520万データ!)。
中には外洋のものや沿岸部に近いものも含まれている。不確実性は±2.5μatmと計算されている。
pCO2は強い温度依存性があるため、測定の際には本来は平衡器内の温度や他にも気圧などの補正が必要であるが、それぞれの研究観測船のそれぞれの測定方法で統一されてこなかったのが現状である。そのため必ずしも同一の測定方法によるデータではないことに注意が必要である。

Lenton et al. (2012) Fig.1を改変。
今回の解析で使用されたデータの分布。特に赤道域でのデータの不足が著しい。色は赤がアルカリ度が高く、緑が低い海域を表す。

高緯度域の海洋表層のpCO2は大気中のpCO2の増加よりも早く増加している。
これは海洋の吸収能が徐々に低下していることを意味する。

一方で低緯度〜中緯度はほとんど増加の速度は一緒であることが知られているが、ハワイのHOTのデータは例外で、海洋表層のpCO2が大気よりも’やや早く’増加している。これは限られた海域でのみの測定のため、バイアスがかかっているせいだとの指摘もある(Takahashi et al. 2006, JGR)。




以下は論文中の手法と結果。


まずデータベースからpCO2、SST、SSSを含んでいるものだけを抽出し、さらに沿岸部のデータは除いた。
SSTとSSSからLee et al. (2005)の式に従ってTAを計算した。
このTAとpCO2データを組み合わせることでさらにDICを計算した。
これらのデータは空間的な変動の影響を軽減するために、1ºのグリッドごとの各月のデータに直している。
またTable. 1に従って独自の判断基準で各海域を定義している。

Lenton et al. (2012) Table.1を改変。
独自の基準で海域を定義している。STSPのレンジはミスプリントか。

次にCIDIACとCARINAのデータベースから海洋表層のDIC、TAを抽出し、上記のDIC、TAと比較したところ、よい一致を見せた。

食い違いが大きいのは赤道と10ºSで囲まれた海域で、赤道・沿岸湧昇の時間変動が大きいため、データにバイアスがかかっていることが原因として考えられる。
他にも赤道大西洋アラビア海の湧昇帯、北太平洋などはデータそのものが少なく、一致が悪い。

様々な海域について計算した1980年以降のpCO2の変化傾向は様々な変動を示した(次図)。

Lenton et al. (2012) Fig. 3を改変。
様々な海域の海洋表層水のpCO2の変化。赤い線は大気中のpCO2の変化を表す。
海のpCO2が赤のpCO2よりも上にあればCO2の放出源、下にあればCO2の吸収源として働く。

続いて、pCO2の変化を線形近似することで、それぞれのpCO2増加のメカニズムの検討を行った(特に夏と冬の塩分・生物生産・海洋物理の変化に着目)。
大気中の二酸化炭素濃度の変動はGlobalviewの月・緯度ごとに平均されたデータを用い、地域ごとの均質性を仮定した。
またRevelle facterはSarmiento & Gruber (2006)の教科書による近似を参考にした。

こうした考察は以下の3点で重要だという。
  1. 海洋の炭素循環のうち、生物源の変動と物理的な変動を区別する
  2. 主な変動要因を特定し、将来の海洋の炭素吸収の予想に役立てる
  3. モデルの予測精度を向上させる(これまでの記録を正しく理解できているかの評価、どのプロセスが将来予測において重要か)
A. 亜寒帯北西太平洋の例
※省略

B. 亜赤道北太平洋の例
pCO2の増加率は大気のpCO2の増加率に類似している。増加の主たる要因は温度上昇によるものである。一方でDICの減少、TAの増加はpCO2の増加を抑制する働きを持っている。
冬はややpCO2の増加が小さく、シンクとして機能しているが、原因は生物生産と鉛直混合が複雑に関与していると考えられる。
夏は年間平均と同様に大気の増加率に一致している。

C. 南大洋の例
南大洋は「インド洋・太平洋セクター」とより成層した「大西洋セクター」に分けて考えることができる。

インド洋・太平洋セクターのpCO2は大気中のpCO2増加よりも早く増加していて、原因としては主に湧昇強化によるDICの増加による。
これはSAM(Southern Annular Mode)の正のモードに対応する。
特に夏は冬に比べてDICとTAの増加が比較的小さいことから、生物生産による修正が考えられる。南大洋においては生物生産が活発化している可能性がある。

一方大西洋セクターはほとんどpCO2が増加しておらず、近年CO2に関するシンクとなっていることが示唆される。成層化と生物生産の強化が原因として考えられる。
冬のpCO2は増加傾向にあるが、夏は減少傾向にある。


※最後に
海洋表層のpCO2の変化は海洋物理と生物生産によって支配されている。
また海洋物理は主に温度と塩分(温度変化、水循環の変化による塩分変化)によってコントロールされており、それらは生物生産や成層化にも大きく影響するなど、複雑に絡み合っている。
温度は観測が充実しているし、塩分も衛星から精度良く求められるようになってきたが、世界の海にはまだ炭酸系に関する観測が十分でない海域が多数あり、将来の海洋のシンクとしての機能を予測するためにも、観測を継続して行いモニタリングする必要がある。
pCO2だけでは傾向しか分からないが、DICやTAを併せて測定することで変化のメカニズムを解明する手がかりとなる。