「CO2 in seawater by Zeebe & Wolf-Gradrow」
と「Chemical Oceanography and the Marine Ocean Cycle by Emerson & Hedges」
をもとに簡単にまとめてみたい。
海水の全アルカリ度(TA)とは海水中に溶存しているイオンの電荷のバランスを保つための過剰の塩基のことを表す。つまり
TA + [強電解質の陰イオン(Cl-, SO42-, Br-, F- etc)]
= [強電解質の陽イオン(Na+, Mg2+, Ca2+, K+, Sr2+, Li+, etc)] (1)
= [強電解質の陽イオン(Na+, Mg2+, Ca2+, K+, Sr2+, Li+, etc)] (1)
電荷バランスを維持するために強電解質の陽・陰イオン以外に役割を負っているのが、炭酸系で重要になる
HCO3-, CO32-,
B(OH)4-, OH-, H+
などであるが、現実の海水にはこれら以外にも
HPO42-, PO43-,
H3SiO4-, NH3, HS-, HSO4-,
HF, H3PO4
などがわずかに含まれる。
従って以上のことをまとめると、TAは以下の式で表される。
TA (Total Alkalinity) = [HCO3-] + 2*[CO32-] + [B(OH)4-] + [OH-] + [HPO42-] + 2*[PO43-] + [H3SiO4-] + [NH3] + [HS-] - [H+]free - [HSO4-] - [HF] - [H3PO4] (2)
表層水は栄養塩が枯渇しているが、深層水には栄養塩が豊富に含まれるため、深層水の炭酸系の記述には(2)式のようにケイ酸やショウ酸の濃度までも考慮する必要がある。
しかしながら通常の炭酸系の記述においては近似的に(量的にわずかな構成要素は無視し)、
PA (Practical Alkalinity) = [HCO3-] + 2*[CO32-] + [B(OH)4-] + [OH-] - [H+]free (3)
が用いられ、通常TAと書く時にはPAのことを指す場合が多い。
※P. Tansは[NO3-]もTAに含めている。
pH = ~8.2においては、
HCO3- 75%
CO32- 21%
B(OH)4- 4%
OH- 0.2%
アルカリ度のコンセプトの重要な点は
- 滴定実験によって測定可能な量であること(一つ一つのイオン濃度は測定できないが、全体のH+消費量を求めることは可能)
- 温度・圧力に依存しないこと(塩分には依存)
- 強電解質の陽イオンは主に大陸風化によって海に供給され、地質時代では常に風化速度や大陸面積は変化してきたため、アルカリ度も変化してきた
- 緩衝作用があり、海水のpHを安定化させる役割がある
- 数千年以下といった短い時間スケールでは強電解質のイオン濃度はあまり変化しないため、現在の海ではアルカリ度は準保存量となる(主に塩分の関数となる)
などである。
では海洋においてアルカリ度を変化させる過程をまとめてみたい。
- 塩分変化による濃縮・希釈効果
- 生物の石灰化⇄炭酸塩の溶解
(1)の効果は塩分でノーマライズすることで(nTA)、基本的には保存されていることが分かる。
(2)においては石灰化で[Ca2+]が消費されるので、結果的にアルカリ度は変化する。
石灰化においては[CO2]、[HCO3-]、[CO32-]を使う場合が考えられるが、いずれのモデルの場合も石灰化によってDICは1モル減少し、TAは2モル減少する。
逆に炭酸塩が溶解する場合、DICは1モル増加し、TAは2モル増加する。
また藻類などが栄養塩の一種である[NO3-]を取り込む過程において、TAは1モル減少する。
光合成などによる有機物生産においてはDICが減少し、TAは増加するらしい(何故?※詳細要確認)。
※呼吸(O2→CO2)や光合成(CO2→O2)、大気と海洋間のCO2交換など、CO2が関与するだけの反応では、TAは保存される。
逆に炭酸塩が溶解する場合、DICは1モル増加し、TAは2モル増加する。
また藻類などが栄養塩の一種である[NO3-]を取り込む過程において、TAは1モル減少する。
光合成などによる有機物生産においてはDICが減少し、TAは増加するらしい(何故?※詳細要確認)。
※呼吸(O2→CO2)や光合成(CO2→O2)、大気と海洋間のCO2交換など、CO2が関与するだけの反応では、TAは保存される。
Zeebe & Wolf-Gladrow (2001)を改変。 様々なプロセスがDICやTAをどのように変えるかを表した模式図。実線が[CO2]、破線がpHの変化を表す。 |